DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
また、言い出しっぺの他力本願寺様、Cran様、とらんざむせっちゃん様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
なお、章分けについてのアンケートを設置しました。ご協力していただけると助かります。
前回の粗筋。
オリ主の手記。
ハーフィンガルからリーチまでの散策行。
マルカルスでのいざこざ。
ガチギレ。
既に陽は上り、澄んだ空気の漂う早朝。見張り塔の上からマルカルスの町を見下ろす。
この町に限った話ではないのだが、スカイリムの人間は動き出すのがやや遅いように思う。私がまだ只の人であった頃など、夜明けと同時か、夜明け前には起きて活動を初めていた。しかしここいらでは、夜が明けてから朝食を取り、日が地平線からそれなりに離れた時分に店を開け、町を出歩く者が多い。
郷に入っては、とも言うので否やはないのだが、こちらに来てすぐの頃は多少戸惑った。
とはいえ寒い地域の夜を越そうと思えば、そういった生活習慣になるのかもしれない。いくらスカイリムの住民が寒さに強いとはいえ、限度はある。下手をすれば眠っている間に凍え死ぬような土地では、無理をせず、日の光が世を温めてから動き始めたとしてもおかしくはない。
「やっ、やべで……」
襟と腰のベルトをしっかり握って、投げる。
断崖に沿うよう作られたドワーフ達の町。馬車の御者は、マルカルスをそのように紹介しながらも、噂程度に考えていたようだった。だが、おそらくは真実であろう。他にもドワーフの遺跡をいくつか見て回ったが、同じ意匠のものばかりであったのだ。
それに、足を滑らせれば真っ逆さまに落ちていく町は、「
ドゥーマー達の遺跡をいくつか見て思うが、地中の居住空間がやたらと充実している。そもそもの話として、地表に出て活動すること自体、私達に比べればずっと少なかったのではないかと思われる。
「いやだ、だすけ……」
次も投げる。
ついでに言えば、彼等は自律機動の絡繰兵を多数擁している。『足を滑らせる』などという間抜けをやらかさない優秀な衛兵が表を守っているのなら、高低差だの安全性だのといった話は、文字通り『問題にすらならない』ものであったはずだ。
寧ろ、攻め手は斜面を登りながら狭い通路へ集まらざるを得ない。そこに矢や魔術を
だとすれば、私達が現在『町』と認識している区域は、滅多に来ない
あとでカルセルモ師に話してみようと思うが、おそらく否定はされないのではないかという予想が浮かぶ。
麻痺毒が薄れてきたのか、若干程度には口の利ける者が出てきた。耳障りなだけなので、残り全員の喉を潰して黙らせる。
黙ったところで、その次も投げる。歩哨が騒ぎ立て、
マルカルスの町は、正面の門を潜って比較的近い場所に宿屋がある。門のすぐ側には市警隊が歩哨に立っているため(落ち着き無く、随分と注意散漫だが)、篝火が焚かれている。
その、宿屋と門付近の明かりのおかげで、朝は城壁の陰になっている
別に私のために行っているわけではないのはわかっているが、有難いことだ。
喉は潰れても息はある。我ながら素晴らしい加減だ。まあここまで来れば、生きてようが死んでようが些事ではある。
投げる。
そういえば、今の私は投げられている連中と揃いの、市警隊の鎧を身に着けている。隠密用の指輪を装備しているため、あくまでも万が一目撃されたときのための用心だ。
仮にそんなことが起きたとしても、市警隊の
尤も、
そのあたりは、非常時における非合理的な人の心理、とでも考えてくれることを願おう。繰り返すが、これは用心であり、まず必要のないものなのだ。
首飾りを見落としていたことに気付き、回収する。
全員、投げる前に懐は漁っているものの、こうした見えにくい装飾品は最後に確認しなければわからないものだ。折角の美術品、血で汚れ、衝撃で潰れては勿体ない。
無価値になったそれを投げる。
マルカルスの景観から、断崖繋がりでソリチュードの町を思い出した。
「ソリチュード」には、『
離れた山から遠目に見た街並みは見事なものであったが、その立地はやはり最悪に近い。今にも崩れそうな崖の上に町が造られているのだから。あれが現地基準でも『辺鄙』扱いであることに、小さな満足感を抱く。
まあ、それを言えば繋がり元のマルカルスとて辺鄙ではあるのだが。
何せ位置がスカイリムの西端だ。ここへ来るまでに、山や谷をいくつも越えさせられた。そのうえ、着いてみれば町は山肌どころか崖に沿った造りをしている。趣深くはあるが、辺鄙なのは間違いないだろう。
最後の一人を投げて、ひとまず終了である。
いやあ、今日もよく飛び、よく落ちたものだ。
投げて手から離れた直後に何故か視線が合うことが多いのだが、皆、怯えや恨みを
ともあれ、あまり浸ってもいられない。市警隊の中でも多少は気骨のあるものが残っている。近頃は機能不全もいいところだとはいえ、甘く見て発見されても馬鹿らしい。
隠密用の指輪が作動していることを確認しつつ、すっかり騒がしくなった町の入り口を避けて、銀山へと移動する。
私の大して丈夫でもない堪忍袋の緒が切れてからというもの、日に一度、市警隊か傭兵達を捕えて高所から投げ捨てる、という作業を繰り返している。数は、一日あたり市警隊の小隊程度。
余計に捕まえられたときは、翌日以降に投げる分としてとってある。こういうのは、一日でも途切れると格好が悪いのだ。
あまり貯蓄が増えても困るため、そのときは投げる数を増やすか、いつだったかの傭兵達のように細切れにして川へ流している。全部そうしないのには、一応、きちんとした理由がある。
それから、連中は可能な限り生かしたまま高所へ連れ込むことにしている。
実利的な話をすれば、私が登る高所まで血痕が残っては面倒である。気分的な話をするなら、落下地点が派手に血で汚れると胸がすく思いを味わえるからだ。落下後もまだ息があるようなら、踏まれた虫のようで面白いしな。
そのための麻痺毒も作成した。『持続性と毒性に優れていながら対象を死なせはしない』という、大変、調整の難しい物だ。売りに出せば高値がつくことは間違いない。
これがあれば、捕えてから投げるまで保管しておくのにも、高所へ運び込むのにも、投げる際にも暴れられないためにも、役立つ。
それに、投げ方も少し工夫してみた。比較的近くに落とすときは、そのまま投げればいい。私の膂力はなかなかのものだ。しかし離れた場所へ投げ落とすときには、大きな布を用い、投石の要領で連中を投げる。このとき高く投げれば、落下地点へどちらの方向から投げられたのかわかりづらくなる。
地面が水平である箇所など、マルカルスには稀有である。元より、真上から落下させたところで、傾斜や凹凸により、血も腑も一様な飛び散り方はしない。投げ方のひと工夫で誤魔化せてしまうのだから、便利な町である。
投擲術や錬金術など技の使い所に物申されそうではあるが、良し悪しはこの際、二の次だ。私の気分が優れる。それだけで十分である。
ただなあ……。既に日課を続けて三十日近くは経過しているはずなのだが、今のところ途絶えた日はない。本当に、連中の練度はどうなっているのかと訪ねたい。
これが我がウィンターホールド衛兵隊であったのなら、殺してくれと嘆願が上がるまで扱いてやるくらいには酷い。
初日は流石に騒がしくなった。
三日続ければ、連中の自尊心が傷ついたのか、血眼になって下手人である私を探し始めた。尤も、私がそうであるとは見当もついていないらしかった。これはおそらく、今でもそうだ。
つい先日揉め事を起こした相手がいるのにそこへ思い至らないというのは、度し難い無能なのか、それとも心当たりが多すぎるのか。おそらくは後者寄りの両方だろう。救い難い。
町に度々怒号が響いた。「マルカルスの平穏を脅かす不届者へ鉄槌を!」「市警隊の威信にかけて!」「野郎、ぶっ殺してやる!」等々。
この頃は私も、見つかっては不味いと慎重に行動していた。日課を断念しようとは露ほども思わなかったが。
五日経つ頃が盛り上がりの山であったろうか。町を歩いて絡まれても面倒だと思い日中は宿屋で酒浸りになっていると、連中、宿屋まで押し入って「怪しい者はいないか!」と喚き散らすではないか。
不味いと思ったものの、マルカルスの人間なら一度や二度は市警隊と揉めたことはあるようで、私だけが特別に怪しまれることもなかった。
この頃、体感的にはマルカルス全体が賑わっているように思えたが、あとから思えば、市警隊達のものと市民達のそれは全く別の色を帯びていた。
良くも悪くも『死』がそれなりに身近なスカイリムである。その中でもこのマルカルスはフォースウォーンのせいで襲撃事件が相次いでいる。
流石に、市内での連続殺人は未経験とはいえ、マルカルス事件も記憶に新しい。これが他の大都市であれば話は違ったかもしれないが。
要するにマルカルス市民が慣れるのに、然程、時間はかからなかったというわけだ。少なくとも恐慌状態に陥った市民を、私は知らない。
それに、私は市警隊と傭兵達しか的にかけてはいない。「特定の人間だけを狙った事件だ」と見当がつけば、自分に関係の無い話であるとし、安心できる。
「物騒な事件が早く片付けば」くらいは思いはするかもしれなくとも、横柄な連中へ溜まった鬱憤から、「いい気味だ」と考える者は少なくなかった。
気炎を上げて盛り上がるのは市警隊達だけで、市民の視線は冷ややかだったのだ。
そして十日経つ頃には、マルカルスから逃亡する市警隊員まで現れた。己の職責を放棄するとは、許し難い怠惰である。
勿論、きちんと捕まえて投げてやったし、極少数、私の手を逃れた者達は、城門付近に潜んでいたフォースウォーンに襲撃されて死んだ。
何故それがわかるかと言えば、逃亡の翌日には首の刺された木槍が城門前に立てられるからだ。
流石に城門付近とは言っても、衛兵隊の目が届くほど近くでの襲撃は難しい。そこで、町からやや離れた場所まで追跡してから襲うのだ。首については、戦果を誇る意味もあるのだろうが。欠かさず報せてくれるとは、存外、律儀な蛮族である。
市警隊の凡蔵共も、私に投げられればまだ町中での死亡な分、葬儀くらいは行われるというのに。連中がソブンガルデへ赴くのはまず無理だろうが、人らしいけじめはつけてもらえる。
しかしフォースウォーンの手にかかれば、身包みを剥がれるどころか、心臓や肉を錬金術材料として持っていかれることもある。どちらが人道的かなど言うまでもない。
それを理解したのか、二十日経った頃からは自宅や知人の家に引き籠もる者が多くなった。
連中に算盤を弾くだけの頭があったことは僥倖であるが、情けないことには変わりない。連中は衛兵隊の中でも、首長府を擁する砦の守備兵なのだ。時と所が変われば近衛などと呼ばれることもある精鋭……のはずだ。
それが、自分達が弱い者いじめをするのは構わないのに、牙を剥かれた途端にこれとは。尚武の気風強いスカイリムにあって、よくもこれだけ腐ることができたものだ。
やや信じ難く、頭の隅では「罠なのでは?」という気もするが、有り得まい。
私は既に、市警隊の半数以上を手にかけている。いや、私が知らされた人員がたしかであるなら、残りは既に四半を切っているような……。
それだけの犠牲を出して私一人を罠にかけるというのは、あまりに非効率が過ぎる。であれば、信じ難くとも連中の無能は事実ということだ。
そんな無能は、衛兵を勤めているだけでも罪である。
私も市の財政に関わる立場になってわかったが、財源とは有限なのだ。能が無いのなら、せめて畑でも耕しているか、鉱山で銀でも掘っているほうが余程建設的というもの。
本人とて能力に見合わない危険に晒されることもないのだから、誰も損はしないはずだ。「危険な目には遭いたくないが高給取りなうえ役得も味わいたい」などといった都合のいい話は無いのである。
「……よく飽きもせず、何度もこんな陰気臭いところへ来る。無理はしなくてよいのだぞ、遠き王よ」
「約束したからな、
シドナ鉱山の最奥。粗末な机と椅子の置かれた小部屋に、その男は居た。
粗末といっても、他の者達は己の陣地など毛ほども持ってはいないのだ。十二分に、男が特別な扱いを受けていることが理解できる。
男、マダナックは処置なし、とでも言いたげに首を振る。ついでに溜め息も。
マダナックのするこの少し気取った態度は、あまり好きではない。どこかで、もう少し心を折っておく必要があるな。
「あんなものは約束とは言わんだろう。誓紙を交わしたわけでもなく、私に力を見せる、と言ってお前が勝手に始めたことだ」
「しかし、お前はこうも言ったな? 『できるものなら見せてくれ。そのときは言うことを聞いてやるぞ』とも。嘲笑しながらであっても口にしたのだ。そして私はそれを実行中だ。ならばこれは約束だ。違うか?」
今度は、ただ視線を逸らして黙った。眉を潜めているあたり、迂闊な自分の口を苦々しく思っているのだろう。
まあ、あのときは此奴も半ば自棄になっていたからな。注意力が落ちていても仕方ないというもの。
その原因はと言えば私が何度も目の前で死んで見せたことなのだが、更にその原因はと言えば此奴が私の話を聞こうとしなかったからだ。
私が不死人であるとどう言って聞かせても信じないのだ。ならば死んで見せるしかあるまい。つまりは作戦上の不可抗力であり、よって私は悪くない。
私が此奴にした話は四つ。
一つ。私がシルバー・ブラッド家の勢力を一掃するので、その後釜に納まること。
二つ。一の前半条件の達成が十分見込めると判断した場合、それに協力すること。
三つ。町の実権を首長と二分する形で握ったあかつきには、我が町ウィンターホールドへ懸命に助力すること。
四つ。配下の手綱をしかと握ること。それを違えた場合は、自らが責を負うこと。
五つ。先述の一の前半条件が達成されたなら、一から四までを必ず守り、履行すること。
五は別に無くとも良かったのだが、マダナックが私の力を信じなかったため、ならばお前に伝わる形でやってみせようじゃあないか、という話になった。
当初の予定では、ブレックス達と初めて出会ったときの如く隠密行動に徹し、シルバー・ブラッド家の勢力を素早く無力化しようと考えていた。
しかし、彼の家が損害を隠蔽することは十分考えられる。暴力で人を支配してきた人間は特にその傾向があるが、効果的な反撃ができない場合、影響力が陰るのを恐れて、『無かったこと』にしようとするのだ。
もしそれが現実に起きれば、私の戦果がこの男の耳にまで届くか甚だ疑問である。そこで、派手な演出を用いることにしたのだ。高所から連中を投げ落としているのは、これが理由だ。
やってみてわかったことだが、てきぱきと熟していくよりも、ずっと大きな充実感を覚えることができた。私は憂さ晴らしを十分に果たせて、非常に有意義な作戦行動だと活力が湧いている。
そして更に重要なこととして、町全体に「今、現在は非常事態である」という空気が流れている。良い兆候だと感じる。
体制が変わるとき、一度に劇的な変化が起きると反発も大きくなる。しかし、受け入れる側に「もういい加減、誰かどうにか収めてくれ」と嫌気が差していれば、疲労感からある程度は障り無く意向できるものだ。
尤も、その程度は人によりけりなため、注意する必要はあるが。
ちなみにこのあたりの話は、スカイリムへ来る以前に友等から聞いた。騎士であった者等は、人の上に立つうえでの苦労を色々と聞かせてくれたのだ。
町の外へ逃げ出した市警隊云々は、この二の約のためだ。眼前の男は何のかんの言って、マルカルス首長府や仇敵一族の力を削げるうちに削いでおく腹積もりなのだ。
「で? 今日の報せはもう来たのか?」
私が問えば、マダナックは是と答えた。囚人の身でありながらどうやって外部と連絡を取っているのか、全く見当がつかない。それをそのまま伝えると、「ここ数日は素通りも同然。毎日の定時連絡だって可能だ」だそうな。
たしかに市警隊は身を隠す者が多い。多いが、それを補うようにシルバー・ブラッド家は傭兵達を数多く雇い入れている。
雇われれば殺される、との噂が広まっているため相場より高くなっているらしいが、この非常事態を収拾するためと考えているのか、金に糸目はつけない姿勢である。流石は富豪一族。
とはいえ、どうせ私が投げる前に懐を探るくらいはしているので、間接的に彼の一族から私へ支払われる迷惑料が増えているだけのような状態なのだが……。
それにしても、市警隊が減った分……には大分足りなくとも、傭兵が増えているのは事実だ。監視の目を掻い潜る苦労は変わらないのではなかろうか。
それをそのまま訪ねてみれば、腐りきっていようが市内の事情には精通している市警隊に比べ、余所者が大半を占める傭兵の目など、簡単に誤魔化せる程度でしかない、のだとか。流石というべきか。
噂をすれば、という話だろうか。入り口のあたりが騒がしい。
「おい、手前が囚人だってことを理解できねえ野蛮人を出しな! 誰か引き摺ってでも連れて来いってんだよ!」
二の約に従いフォースウォーンを動かした場合、当然、マダナックはシルバー・ブラッド家から報復を受ける。そのため、こういった襲撃は可能な限りは私が対応している。
といっても、そう頻繁に起こるわけではない。私が対処しているということは、彼の一族が命令を下した相手が近日中に落下死する、という帰結を既に何度も見ているわけだ。
頭の中身が糞団子でもない限り、いたずらに戦力を送っても無駄だ、と判断するはずである。現にしばらく、この手の訪問は途絶えていた。今日になって来たのは、こちらの油断を期待したのか、仲間が殺されて傭兵自身が動いたか。
それに、此奴が私に協力し始めたのは、市警隊の逃亡が始まる少し前からだ。曰く、そろそろ臆病風に吹かれる者達が出る頃だ。ただで逃してやる謂れもあるまい? だそうな。
そのため、彼の一族からの報復行動も、実質的な私兵組織が半壊してから始まったことになる。散発的にならざるを得ないのも無理はない。
ついでに言えば、マダナックの下へ連中が辿り着くまでに、可能であれば市中のフォースウォーンが始末してしまう。
折角の潜伏を棒に振る真似はマダナックが控えさせたので、『確実に人知れず始末できる』という確信が有って初めて為される話なので、そう起こるわけでもないのが。
それら諸々を含めれば、この襤褸を纏った王は敵の手中にあるとは思えないほど、安全を確保されているのである。いいご身分である。
まあ何でもいい。私は連中の事情に興味が無い。さっさと処理してしまおう。
入り口へ向かい、敵の姿が見える物陰で止まる。距離はかなり近い。何せ狭い鉱山の中なのだ。どう警戒しても接近せざるを得ない。
数は……七か。一小隊分。丁度いいな。明日投げる分がもう手に入った。楽ができて何より。
マダナックと話すために外していた指輪を再度装着し、無強化のショートボウを構える。この場で射殺すのは不味いのだ。矢はスカイリムのどこでも手に入る『鉄の矢』。
最も手前には、如何にも
すぐにざわめきが起きるが、それさえも耳障りである。大体、こちらの姿が見えないにせよ、敵襲があったことは確かなのだ。防御姿勢を取るなり、物陰に隠れるなり、何かしらの反応があって然るべきであろう。
なのに、ただ狼狽えているだけとは……。金に糸目をつけずに人を雇っても、その出来がこれでは、彼の富豪一族が少々気の毒であるな。まあ同情くらいはしてやっても、潰すものは潰すのだが。
余所事に思考をやりながらのいい加減な速射でも、残り全員を素早く黙らせることに成功した。何とも呆気ない。
呆れはしたが、楽ができたと思えば悪くもない。今日は早めに夕餉をとり、酒を飲もう。
最近の私は、土地によって微妙な違いを見せる酒の味がわかるようになってきたのだ。ここいらは『ジュニパーベリー』が多く手に入るためか、酒の香り付けに使われることが多い。それがまた肉料理と合うのだ。
おっと。美食もよいが、今は人を訪ねていたのだった。別れの挨拶をしなくては。
「獲物も手に入った。私はこいつらを運ばねばならんのでな。失礼する。また数日後には顔を出すから息災でな」
麻痺させた連中を布袋に詰めるのも慣れたものだ。
……が、この日課の何が一番面倒かと言えば、これからの作業、仕留めて袋詰めした市警隊達を運ぶのが面倒なのだ。
いや、市警隊はまだいい。
だが最近は傭兵達を手にかけることが増えてきた。
市警隊と違い、此度のように妙なところでも
「面倒ならやめてしまえ」と言われそうだが、一度始めたことを途中で投げ出すのは格好がつかないし、高いところから此奴等を投げるのは楽しいし……。仕方ないのだ。
それにこれも、市警隊がほとんど出歩いていない今となっては、そこまでの苦労でもなくなっている。気にすべき視線の数自体が減っているのだから、楽になったものだ。
今日は鉱山から運び出すのだから、銀鉱石の運搬用荷車に紛れさせれば良かろう。
しかし……。多少は私情を盛り込んではいるが、本命は市警隊ではなくシルバー・ブラッド家なのだ。一連の行動は、彼奴等の戦力を消し去り、丸裸にするためのもの。更には、「お前たちに逃げ場は無い」と知らしめて、逃亡を抑制するためのもの。
今少し日課を楽しんでいたいとも思うが、疾く本命に取りかかりたいとも思う。悩ましい我が胸中である。
相変わらず精神ゲキヤバです。前回投稿時より悪くなったまであります。
ので、鬱陶しいかもしれませんが感想お願いします。助けると思って、何卒。
感想返しや活報で便宜上ではありますが「マルカルス編」という言葉を使いました。そこで思ったのですが、そろそろ章分けしたほうがいいのかな、と。それなりに話数もあるので、そのほうが目次が見やすくなるのかな、と。無いほうが好みの方もおられるとは思うので、アンケートです。例によってアンケ結果は絶対、ではありませんが、ご意見をいただければ幸いです。
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絶対ほしい。今のままじゃ見づらい。
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有ってもいいけど、好きにしたら?
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無いほうが好みだけど、好きにしたら?
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調子乗んなゼッテー章分けなんかすんなよ?