DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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また、ひね様様、ぽんぽぽ様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。

前回の粗筋。
高いところから市警隊達をぽいぽい。オリ主ご満悦。
マダナックと少し仲良くなった(オリ主主観(でも生意気だから心は折っておきたい


三九、マルカルスの協力者達(上)

 騒乱を通り越して怪奇の町と化したマルカルスの夜を、人目を避けつつ歩く男達がいた。数は七。一人が先導する形を取り、残りの六人が後に続く。

 

「では、ここでまた暫しお待ちを。()()()()は犬の鳴き声でございます」

 

「鹿だの鳥だの、よく考えつくものだ。……いや、私達はそのおかげで助かるのだから、感謝こそすれ貶める意図はないぞ。本当だ」

 

 連れられたうちの一人が呆れた様子を見せたが、仲間らしき者達が険のある視線で睨んだため、慌てて言い繕った。

 

「承知しております。では、くどいとは思いますが今一度確認を。

 まず私が向こうの角の先まで行き、安全を確認します。そこで鳴き声を一つ。聞こえましたら、三名だけ先においでください。……正門が近づいております故、発見される危険性の高い場所は固まって動かないほうが良いでしょう。

 そして三名も無事に辿りついたなら、鳴き声を三つ。あとは残りの皆様も合流し、更に先を目指します」

 

「このやり取りも三度目になるわけだが。これだけの用心を重ねるからこそ、今のマルカルスからの脱出が叶うのだろうな。イーザイル。この恩には必ず報いると、八大神に誓おう。この先も頼むぞ」

 

「いいえいいえ。手前こそ市警隊の皆様方に恩のある身。それをお返ししているだけで、何の徳になりましょうや。お気になさいませぬよう。

 ですがあえて欲を口にするのならば、皆様方がご帰還し、在りし日のマルカルスが戻ったあかつきには、銀細工師イーザイルをより一掃のご贔屓を以て取り立てていただければ幸いというもの」

 

 商売人らしい注文をつける先導役に苦笑する面々であったが、命と引き換えなのだから安い話だ。

 それに、この銀細工師は自分達のおかげで甘い汁を吸ってきた。その恩を忘れずこうして助力するというのだから、『善きマルカルス市民』である、と市警隊達は思った。尤も、ここで言う善きマルカルス市民とは『市警隊にとって従順で益をもたらす都合のいい人物』であることは言うまでもない。

 更に言えば、男の作る銀細工は一級品である。今回の働きと合わせて、自分達、市警隊が地位と安全を取り戻した際には、雇い主のシルバー・ブラッド家へお抱えの職人兼商人として推挙してやってもいいだろう。

 マルカルスにて大きな力を持つ彼の家に推挙するだけでも義理を果たしたことになり、市警隊の懐を痛めず借りを返せる。もし仮に銀細工師が彼の家で下手を打ったとしても、市警隊と直接関わりのある人物でもない。問題は無いはずだ。

 銀細工師の冗談めかした話ぶりにやや柔らかくなった空気を味わい、市警隊達は後の栄転を約束するのだった。

 

 浮かれ話を切り上げて緊張感を取り戻し、銀細工師は先導を続ける。

 角を曲がって少し待ったところで、犬の鳴き声が一つ。ここまで来れば町の正門まであと僅か。逸る気持ちを抑えつつ、まずは三人が行く。

 先程より多少長めに待たされたところで、何やら話し声が聞こえる。一方の声が妙に遠慮無く大きく、落ち着かないことから、顔見知りの酔っ払いにでも絡まれているのだろう、と見当が付いた。銀細工師が上手に追い払ったのか、それから今少し待って鳴き声が三つ。多少肝を冷やしたが、計画どおりにことが進んでいると安心して、残りの三人も行く。

 だが、あとから追いついた三人が最後に見たものは、先導役の銀細工師の姿でもなければ、自分達を待っているはずの仲間達でもない。そこには()()姿()()()()()()()()のだ。

 慌てて周囲を探るが、小さく抑えられた光源しか持たない身では、何も見つけられない。

 そうこうしているうちに、顎や側頭部に衝撃を受け、一瞬のうちに意識が途絶えた。

 自分達が何に襲われ、何処へ連れて行かれるのか、知らないまま昏倒させられたのは幸運なのか不運なのか。

 

 

 

 目にも止まらない速さで三人を昏倒させること二度。その度に市警隊を物音一つ立てないまま布袋に詰める男を見て、銀細工師は思う。理性を伴った暴力の、何と恐ろしいことか、と。狂戦士とは、ただの粗暴な者ではなく、このような人物を指すのではないか、とも。狂っているのにも拘わらず、戦士として成立している。それ自体が異常であるからだ。

 気安く「今日もご苦労だった」と肩に手を置かれる瞬間、協力者である自分にその矛先が向くことはないと理解していながらも、背中に冷たい汗が流れる。

 当たり障りの無い挨拶を交わして別れ、男が六つの布袋が引きずられていくのを皮肉げに見送り、銀細工師イーザイルも物陰から姿を現す。

 

「ええ、ええ。皆様方をご案内したのは、けして逃れ得ぬデイドラの腕の中。感謝をされる謂われなどございませんよ。今生の行いを振り返りながら、せいぜいお客様方をご満足させてくだされば幸いというもの。

 それにこのイーザイル、皆様方の性根はよっくご存知ですとも。この場での感謝に嘘はないでしょう。しかし、喉元過ぎれば恩も忘れる畜生以下であるのも事実。この卑賤の身に栄転など有りえません。

 ですから、恩など感じず、お気にもなさいませぬよう。成らぬ話ですから、私めは浮かれもしなければ落胆もしません。ただ、より強きお方につきますれば。

 それでは今後とも、銀細工師イーザイルをご贔屓に。毎度ありがとう存じます。

 …………なーんてな。このぞくぞくする感じ、結構楽しくて癖になりそうだ。どうしてくれんだ、あの旦那」

 

 数年前から羽振りの良くなった銀細工師は、意地悪く笑いながら、一人上機嫌で帰途に就く。

 

 

 

 

 

 

 

 『銀細工師イーザイルに頼めば、この地獄から逃してもらえる』

 そんな噂が、潜伏中のマルカルス市警隊達のあいだに流れて、もう幾日になるのか。

 因みに、騒動の下手人に自ら協力を申し出たのもイーザイルであれば、噂を流したのもイーザイル本人である。

 

 それは、多少の焦りを伴うものだった。自分と同じギルド協力者が何やら動いているようであるのに、その動き自体は訝しい、と感じたからだ。

 そこで、密かに錬金術師ボテラへ接触し、一件がギルドとは無関係かつ内密に行われていることを知った。ボテラ自身が口を割ったわけではないが、察し切るだけの頭をイーザイルは持っていた。

 この時点では、ギルドへ報告してギルド内での自らの価値を更に高めるか、黙するか、踏み込んで狂戦士に協力するか決めかねていた。

 だが男が日課を始めた初日の手際を見て、巨大な組織であるギルドよりたった一人である男に協力するほうが上策だと判断した。町の情勢が変わるなら、()()()側へ少しでも早く味方すべきだ、と。

 

 イーザイルは、男へ市警隊の誘導を買って出た。

 イーザイルは、銀細工師でありながら裏の顔を持っていることを、市警隊にもあえて知らせているのだ。市警隊とは持ちつ持たれつ、それなりの信頼関係を構築していた。

 盗品を扱ったり、押収された銀細工の横流しや加工を行い、別物として売りさばいたり。本人も、我ながら悪どいものだ、と自嘲する程度には励んでいた。

 そこで、その関係を利用し、自分の()()を以てすれば安全にマルカルスを脱出することができる、と隠れている市警隊員に甘言を吹き込んだ。日頃から後ろ暗いことをしてきた仲が言うなら、市警隊の警戒も緩む。

 それでも、始めは眉唾な話だと思われた。自分達を恐怖の底へ叩き込んだ下手人の、その魔手を、銀細工師如きの手引で掻い潜れるとは思えなかったからだ。

 しかし、実際にそれを敢行した者が空から降ってきて死体になることは無かった。また、門外に首を曝されることも無かった。潜伏しているとはいえ、勤務につく者達と完全に連絡を断ったわけではない。多少の情報は入ってくる。

 確実に助かったという保証は無い。しかし、失敗したと決めつけるには、あまりに状況が生存説に傾いていた。

 何より、いつ襲われるかもわからず震えて毎日を過ごす市警隊員にとって「生きて逃げられるかもしれない」という銀細工師の手引は、あまりに甘美な誘惑であった。そして、それを跳ね除けられるだけの精神力も残ってはいなかった。

 どの道、マルカルスに残っていれば、遅かれ早かれ見つかって死ぬのだ。なら、生き延びられる可能性が高い方へ賭けるしかない。掛け金が己の命であろうとも、だ。

 結果として、潜伏中の市警隊の多くが、銀細工師へ依頼を出した。

 

 しかし当の銀細工師は、すぐに事を起こすでもなく、誰をいつ逃亡させるのか、事細かに指示を出した。何日後、何処に、誰と誰が、いつ頃集まるのか、など。

 一刻も早くマルカルスを離れたい市警隊は剣を喉元に突きつけて脅した者もいるが、どうやらイーザイルは下手人の近くに間者を置くことに成功しているらしい。その伝手から、下手人が市警隊のうちの誰の潜伏先を暴き、いつ襲撃を企てているのか、見当をつけているのだという。順番を指定するのは、危険が迫っている者から順に、という話だ。

 市警隊達はもどかしく思いつつも、銀細工師の姿勢を「本心から自分達のために働こうとしている」と捉えた。銀細工師への逃亡依頼は更に増えていった。

 

 あとは、間抜けな獲物をおびき寄せて、人気の無い場所で男に引き渡して終わり。これを繰り返すだけでかなりの手間賃がその場で渡されるし、後日金銭以外にも顧客や流通経路を優遇してもらえるとのこと。至れり尽くせりであった。

 イーザイルの知る限り、既に十を超えた引き渡しの中で男が手間取ったことは一度も無い。市警隊如きは相手にならない、ということなのだろう。恐ろしいと思うと同時に、頼もしいとも思う。

 

 引き渡した市警隊の扱いについて、イーザイルは一つだけ注文をつけた。「自分が引き渡した市警隊は、市内に潜むデイドラ信者を紹介するので、その者達に身柄を預けてほしい」と。

 そのとき初めて男から剣呑な視線を向けられたが、ここで引いてはかえって不興を買うと考え、下っ腹に力を入れた。

 潜伏しているとはいえ、ある程度の情報交換はあるはず。その中で逃亡幇助を依頼したものが無惨に死亡することがあれば、二度とこの手口は使えなくなる。継続的に獲物を引き摺り出すためにも、呑んでほしい。そう訴えた。

 

 男は返事をするまでに多少の時間を要したが、結果としては頷いた。曰く、道理である、と。

 間があったのは自分で仕留められない状況への憤懣を抑えていたのだろう。イーザイルからみても、男はそこまで愚かではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「魔女様、いるかい?」

 

「私が魔女なら、あんたはデイドラの詐欺師だよ」

 

 イーザイルが軽口を叩きながら訪れたのは、マルカルスで錬金術店を営むボテラの下であった。

 彼女は町に帰化したフォースウォーンでもある。

 正確に言えば、『フォースウォーンを名乗る集団と同じ文化を持ちながら、その集団からは離反した存在』と評すのが適切なのだが、するとリーチ中で暴れまわっている連中を何と呼称すべきか考えるのが極めて面倒なので、イーザイルは連中を暫定的にフォースウォーンと一括りに据えた。

 

 閑話休題。

 ボテラは、裏稼業に精を出すイーザイルをして、胆の据わった女傑だと言わざるを得ない。

 盗賊ギルドは、彼女の協力があってスカイリム各地に散っていた離反派閥の一掃に成功したのだ。リーチ全土に及ぶ情報網と影響力は、並の人物ではないことがわかる。

 これはイーザイル自身が経験していることだが、ある程度の腕を持った職人には、表だけでなく裏の人間からも依頼が来る。ギルドとの関係が正にその一つである。

 長くマルカルスに根を下ろし、おそらくはフォースウォーンとも取引可能なボテラへ舞い込む依頼の広さは、想像することも難しい。その伝手を以て、影響力を強めているのだろう。

 一時は、この錬金術店も単なる隠れ蓑なのではないかと疑ったこともあるものの、彼女にとっては表裏一体。一方の顔がもう一方の顔を助けているのだろう。実際、錬金術師としての腕前は、宮廷魔道士のカルセルモや執政から直接の依頼を受けるほどである。

 

 彼女は、自分と同じくギルドの外部協力者ではあるが、マルカルスで暴れ回る狂戦士と取引をしたのだという。ギルドですら入手困難な錬金術材料の融通等で、というのが理由だとはいうが、普通なら危ない橋どころの話ではない。

 イーザイル自身はより利のあるほうへ付いたに過ぎない。しかしボテラの場合、『自分であれば簡単には切り捨てられない』という自負があった。

 実際、余程のことがなければギルドは彼女を許すであろうし、今回の一件については「ギルドに秘密だなんて知らなかった」と白を切るつもりらしい。

 たしかに、あの男もギルド外部協力者でもあるのだ。彼を通してのギルドからの依頼だという話は、十分にあり得る。嘘を嘘と証明できないのなら、ギルド側が言いがかりをつけることになり、協力関係に罅が入ってしまう。ギルドが折れる蓋然性は高い。

 更には、ボテラ自身はギルドとのつながりが切れても、それほど困窮しない。しかし、ギルドはまともに機能する協力者の糸がイーザイル一本になる。それは避けたい事態だろう。ギルドの思惑を把握したうえでの立ち回り。強かである。

 

「それで、今日もまた旦那への手引かい? あまり趣味がいいとはいえないねえ。

 それもわざわざ『薬を買いに来たことの無い者を』だなんて。何処の誰に渡るのか、聞きたくもないのに嫌でもわかるあたりが本当に嫌だよ」

 

「仕方ないだろう? 連中だって口にする物なのだから、『健康で鮮度の高い物のほうがいい』って言い分は尤もだ。

 それに、結局は死ぬにしても連中が引き取って死体が出ないおかげで、俺の逃亡幇助(ほうじょ)は成功しているって話が広まるんだから。必要経費さ。

 あんただって、旦那の力になるのは吝かじゃないんだろう? なら、これくらいは呑んでくれないとな」

 

 以前ボテラに、何故あの男に協力するのか、と訪ねたところ、隈取を見ても全く身構えなかったのは彼が初めてだったからだ、との回答があった。憎からず思っているのかもしれない。

 

「……私はそういう血生臭いのが嫌いで町に住んでるんだけどねえ」

 

 どの口がほざくのか、とイーザイルは呆れる。血生臭いのが嫌いなら、盗賊ギルドの離反派閥殲滅作戦なんかに加担したりしないし、今も潜伏中の市警隊員の居場所を自分や男に伝えたりはしない。

 

「まぁ、そう言いなさんなって。もう残っている市警隊も少ないんだ。旦那の目的はあくまでシルバー・ブラッド家。市警隊を片付けたあとは、傭兵を蹴散らしながら彼の名家に相応しい麗しき作法で殴り込みをかけるだろうさ」

 

 ボテラは「だといいんだけれどね」と一つ溜息をつき、潜伏先が判明している市警隊のリストをイーザイルに渡した。

 イーザイルの知る限り、男は自らこの店に足を運んでもいる。リストの名前が分けられたものなのか幾らかは重複しているのかはわからないが、きっと自分が知らされていない市警隊が、明日も空から降ってくるのだろう、と思った。

 好奇心が抑えられず見物に出たことがあるが、運良く、いや運悪く目撃してしまい、それきり現場を見ることは止めた。

 後ろ暗い手引程度なら問題のない腹黒さを持つイーザイルではあるが、鎧兜がマンモスに踏まれでもしたかのようにぺたんと潰れ、血や臓物が地面で弾ける様子を楽しんで作り出している異常者がすぐ側に存在するという事実は、あまり正面から見つめたいものではないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 順調にことが運んだせいで気が緩んだのか、イーザイルは()()()()()()()に頭を回すことになる。

 男は優れた、どころか異常極まりない戦士で、その精神性も異常だ。それでも、会話を重ねる分には、どこか抜けた印象を持つのも事実。

 いざというときは彼の上役を頼り、男を切り捨てられるよう、ウィンターホールドにいるという盗賊ブレックスへ手紙を出した。ブレックスのことは、イーザイル独自の伝手で仕入れた情報だ。

 男の頭越しにやり取りすることに不安を覚えないでもなかったが、身の安全を守るため、破滅につながる可能性は一つでも潰しておくべきだと考えたからだ。

 そして返信にはこう記されていた。

 

『銀細工師イーザイル殿

 表には出ていない私の下へ手紙を寄越せたことを、素直に評価しよう。君は優秀な人材のようだ。これからも頼りにしている。

 ただ、一つだけ重大な思い違いをしているようなので、それを指摘しておこう。

 たしかに私は一党を率いてはいるが、マルカルスで()()()()()いるその男は私の部下ではない。

 友人であり、私の稼業に関わらない件であれば、彼が主で私が従なのだ。それを履き違えてはいけない。

 もし、万が一、有り得ないことだが、聡明な君がこの忠告を軽んじた場合、()()はきっと、君と君の大切なもの全てを地の果てまで追い詰めるだろう。

 

 要するに手前はそこのトンマにひたすら尽くせや。手前から関わったんだから足抜けは許さねえ。そこのトンマを陥れる真似も許さねえ。分かったらこの手紙をトンマに見せろ』

 

 最後の行は殴り書きのように筆跡が乱れていた。まるで、それまでこらえていた怒りが吹き出したかのようだった。

 イーザイルは致命的な失態を犯したことに気付いた。不安要素を潰そうと手を回し、かえって不安要素を作ってしまったのだ。それも特大の。

 というか、自分がブレックスを頼ったことをあの狂戦士に見せろとはどういう了見なのだろうか? その場で殺されることは無いだろう。でなければ理屈に合わない。

 だが相手は異常殺人者だぞ? 気分次第で、ということも考えられる。

 ギルドを頼るか? 今更? ギルドよりあの絶対的な力を見込んで頼ったのだ。信用もできず失態をおかした協力者など、切り捨てられるだけだろう。ボテラという協力者が存在する以上、その可能性は有る。

 逃げるか? 何処へ? イーザイルの掴んだ情報によれば、ブレックスなる盗賊は極めて切れる男だとか。おめおめと逃げ遂せるとは思えない。

 どうする、どうする……。

 

 と、考え込んでいたところでばったり、件の狂戦士と出会ってしまった。

 実際には全くの偶然であったのだが、イーザイルには自分の動きを何もかも把握されているように感じられた。

 彼は溢れる涙を堪えきれず、謝罪の言葉を口にしながら手紙を男に渡した。

 

 男は腑に落ちない顔で手紙を受け取り、読み終える頃にはカラカラと笑っている。

 イーザイルにはこの反応が、快を表すのか不快を表すのかの判断もつかない。自分の命が、市警隊のように一瞬で刈り取られるのかもしれないのだ。気がつけば、多少、股が湿っぽい。

 だが、男は銀細工師の予想を裏切り、「飯でも食わんか?」と誘う。様子から見ても、人生最後の食事、というわけでもなさそうだ。

 

 宿屋に併設された酒場で飲み食いしながら、男はイーザイルの緊張を解いていった。

 曰く、自分が抜けている自覚はあるため、お前がそう考えても仕方ない、と。

 曰く、笑ったのは悪人面のくせに心配性な友がどんな顔でこの手紙を書いたのか想像したらおかしかったから。

 曰く、手紙にもあるとおり、私もブレックスもお前を頼りにしている。これからもよろしく。

 など。イーザイルは自分が失態を犯しながらも最悪の出目を引かなかったことに安堵した。そうして口で忠誠を誓いながら、首が繋がっている幸せを美味しい料理と共に噛み締めた。

 

 だが一つ。世間話の一環として、男の愛息の話題が出た。

 男曰く、ラーナルクという名で、現在はギルドに属している、とのこと。

 

 男はなんでもないように話してはいた。愛息とやらを思い出す、遠くへやる眼差しも温かいものだった。

 しかしイーザイルにその視線を向けたとき、一瞬ではあるが眼力を強く見つめてくるではないか。

 イーザイルは、男の言いたいことを正しく理解し、(しか)と頷いた。

 仮に男を裏切ってギルドに助けを求めた場合。ギルドが男を処断するのと、男の愛息がそれをもみ消し、そのうえで男にイーザイルの離反を知らせ、結果銀細工師の首が跳ぶのと、どちらが早いか。考えが及ばない愚図はいない。うまい話だと食いついておいてその実、触れてはならないものへ安易に手を出した自分を呪った。

 おそらく、権益としては今までどおりのものが確保されるだろう。しかし、ギルドは頼れないうえに、ブレックス派……いや、手紙が正しければ狂戦士一派からの信用は地に落ちた。自分自身が重用されることはないだろう。

 イーザイルは、息子を鍛えることにした。代替わりを早めようと考えたのだ。彼は、自分の分を知り、信用の回復は次代に託すことにしたのだった。




Twitterでもちと弱音を吐きましたが、なんで生きてんだろうってくらいにはヤバタニエンです(もう古い?
生きてる理由に「これを書き終えるまでは」ってのもガチにあるんで、人助けだと思って、感想、応援、お願いします。
あ、章立ては気が向いたらやります。
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