DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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Lucille Felix様、麦茶太郎様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
また、lightacenoah様、遡っての大量の誤字報告ありがとうございます。同時に、そのような状態で放置していたこと、お詫びいたします。

前回の粗筋。
銀血家を文字通り血祭りに上げた。市民達にも罪悪感を植え付けた。
マダナックは首長府入りして早々に(操られて)サルモール司法高官を殺害。リーチ独立の夢は潰える。
首長の側には、オリ主の言う事を聞かざるを得ないマダナックとオリ主研究仲間(?)のカルセルモがいるから、首長は迂闊に動けない。
これでマルカルスの仕置がある程度修了。




閑話、ブレックスの憂鬱

「と、以上がマルカルスからの手紙です。いやぁ、あの大将。随分と派手にやらかしたもんですね。『スマートさ』の欠片も無いあたり、()()()っちゃらしいですが」

 

 ウィンターホールド相談役の屋敷にて、マルカルスより届いた手紙を、主の右腕が読み上げていた。

 少々ひょうげた様子のハンに対し、ブレックスは真面目ぶった表情で返す。

 

「そうでもねえだろ。言ってみりゃ、今回の件は『どう政変を起こすか』っつー話だったわけだ。

 俺の想定じゃあ、シルバー・ブラッド家を利で釣り引き入れ、市警隊を排除するために一芝居打つって算段だった。どうしたってあの業突張り共に舵取りを任せられねえ以上、どっかで(てこ)入れは必要だ。

 そして市警隊は市民の恨みを買いすぎた。だから全部の責を市警隊におっ被せて切り捨て、入れ替わるようにこっちの手の者を入れる。シルバー・ブラッド家からすりゃあ多少窮屈になるだろうが、それ以上の利を示してやればいい。ギルド経由の裏取引は銀細工師と錬金術師が引き受けてるしな。俺達が密かに別ルートを用意してやれば、ある程度は目を瞑るはずだ。

 が、奴は大々的にことを起こして別の輩にその任を押し付けた。排除するのが市警隊のみならずその元締めまでっつーんだから、()()()の規模はそらデカくなるわな。

 だが結果だけ見てみりゃあ、上は首長から下は市民まで脅しつけた形になってるからな。相当好き勝手できるぜ。偉大なりは非常識の賜物ってな」

 

 ハン自身、今回の顛末が悪いものだとは考えていなかったが、それ以上に頭目であるブレックスの機嫌は悪くない。

 実状とは違っていても何故か問題ばかり起こすという印象の拭えない男が、多少騒ぎを大きくしながらも当初の目的を完遂してみせた。それ自体は素晴らしい。

 特に、一人でことを成した、という点が最も素晴らしい。

 これまでは自分達の指示の下でしかその非常識極まりない力を振るえなかった。言ってみれば、男は極めて使い勝手の悪い呪いの武器のような扱いであったのだ。それが、自ら考え協力者をうまく使い、ことを治めて見せた。

 これはつまり、『ことを成すのに使える駒』という意味での戦力に換算する際、その多寡があやふやであった男のそれに、ある程度の目星をつけられたことを意味する。

 これまでは『荒事(あらごと)以外では使い所と使い道を吟味しなくてはならなかった』ものが、『()()()()程度の人員に非常識な戦闘力を丸々加算したもの』だと勘定できるようになったという話だ。

 駒は駒でも、紛れもない大駒である。仕事を任せる際の男への信用が高まっただけでなく、計画を練るうえでの戦力配分に格段の余裕ができた。

 ブレックス一味の戦力はけして潤沢ではない。

 ウィンターホールド復興の陰でダークエルフを中心に脛に傷を持つ者を集めては鍛えているが、それでもギルドと比べれば、絶対数に雲泥の差がある。

 だからこそ、頭目も副頭目もスカイリム各地へ飛ばす戦力配置については常に頭を悩ませていた。だが、これからは一味の者の動かし方に大きな自由度が加わることになる。何せ単体最大戦力である件の男は、転移までできるのだ。笑いが止まらないとはこのこと。

 

 それにしても、()()()()ではないか、という懸念はつきまとう。

 

「とはいえ、大将のやり方で大丈夫なんでしょうか。市民には罪悪感を植え付け、首長やまともな衛兵隊はその圧倒的な力で黙らせる。フォースウォーンの親玉は今は腑抜けているようですが。

 市民はまだしも、首長や衛兵隊がいつまでも大人しくしとるとは思えません。帝国軍の介入を望み、フォースウォーンと大将の排斥を狙うんじゃありませんか?

 フォースウォーンにしたって、親玉もいつまでも腑抜けてるいるわけじゃないでしょう。寧ろ立ち直ったとき、その目には復讐の炎が轟々と燃え盛っていても不思議じゃありません。それは禍根になるのでは?」

 

「だからこその『司法高官殺し』だろうな。首長達が帝国軍を頼ろうとしても、既に現地入りしたウチの連中が『マルカルスは親ウィンターホールドである』と喧伝している頃だろうよ。それを聞いてサルモールのお歴々はどう思うかね。

 被害者を装って二枚舌外交を仕掛けて来ていると考えるか。それとも真実、首長は被害者だと考えるか。俺なら前者の想定で動くな。後者だとしたら、外から見た場合、あまりに間抜け過ぎる。実状にゃ多分に同情の余地があっても、な。

 間抜けや馬鹿と外交をするのは単純に疲れるんだよ。だからサルモールの連中は自然と自分達の土俵で考えたがる。つまり、どっち道、リーチ首長に未来はねえ。

 首長が動かねえなら、衛兵隊も動けねえ。勝手に動いちまえば、それは反乱(クーデター)扱いだろうが。折角あの野郎が正義正義と喧しく吹いたんだ。どんな大義を掲げても、反乱じゃあ市民はついてこねえよ。自分達の行いが悪だったことになるからな。大体、勝手をすればそれこそ市警隊と同じ穴の狢だ。真面目な奴ほど身動きが取れなくなるだろうぜ。

 ついでに、ギルド協力者の爺様も取り込んだんだろ? なおのこと動けねえよ。

 仮に邪魔に思って排除したくなってもよ、爺様が市警隊討伐に助力したことは喧伝するよう言ってあるからな。これを取り除くことは、あの非常識野郎と、自分が守るべき市民をいっぺんに相手取るってことだ。あり得ねえな。寧ろトントン拍子にどん詰まりまで追い込まれた首長閣下の、精神的手当てが必要かもしれん」

 

 なるほど、とハンは相槌を打つ。では、フォースウォーンについては?

 

「あの蛮族どもには、目溢しが必要かもしれねえな。それこそ、西や南の国境近くにある山岳地帯はフォースウォーンのものとして割譲してもいいかもしれん。それを広く知らしめられるかは、そのときの状況次第だがな。

 場合によっては『事実上の』ってことになるかもしれん。 

 なんにせよそのくらいの飴が無けりゃ、話を聞く限りマダナックとかいう親玉は抑えるのは厳しいかもしれんな。腐っても王様ってことだろう」

 

 それはつまり、マルカルスに放ったあの非常識人が下手を打った、ということなのでは?

 顔にも口にも出して尋ねてみると、弁護の言が返される。

 

「あんまアレを庇うのも(しゃく)に障るがな。報告を聞く限り、親玉があの野郎を出し抜いて要らんことを画策していた可能性は高い。それを掣肘しておくのは正しい。

 やり方が遺恨を残しそうなのは……。多分、経験則からだろうな。奴の場合、殺して終い、って場合がほとんどだったはずだ。心を折るのは憂さ晴らし程度の余興だな。つまりはどうせ殺す。絶望の中で息絶えるもんのことなんざ考える必要はねえんだから、そのあとへの配慮だなんてあるわきゃねえわな。

 あったとしても……俺達がいればなんとかなる、くらいに考えてたかもな。奴は俺達のことを素で『できないことは無い』と考えている節があるからな」

 

「それはまた光栄な評価ですな。便利屋扱いされている気もしますが、あの大将のこと、裏表無しに本気でそう思ってそうなのが憎めなくて嫌でさあ」

 

 愚痴を吐くハンに対し、ブレックスは「あれで存外『たらし』だからな」と苦笑した表情をみせる。

 そうだ。自分を含めて一味全員、あの非常識人を仲間として受け入れつつある。

 まだ完全とは言えない。ブレックス一味同士の結束をあの男に感じているかと言えばそうではない。致命的な失態を犯した場合、頭目が救助を言い渡さなければ見捨てるだろう。

 それでも、既に十年近い付き合いがあるのだ。それだけのあいだ同じ陣営として苦楽を共にすれば、人として当然の同族意識くらいは芽生えるというもの。今はギルドに身をおいている若者のこともあることだし。

 なるほど。「たらし」とは悔しいが事実なのかもしれない。何のかんの不満を漏らしながらも、自分達はあの非常識人が好きなのだ。

 

 

 

 副頭目ハンが複雑な内心に思いを馳せていると、頭目ブレックスが話題を帰るように別の報告書を取り出す。

 

「『日課』だのほざきやがったときはどうなることかと思ったがよ、マルカルスの一件が長引かなくて助かったぜ。おかげで相談役様のお仕事に集中できるってもんだ」

 

 ウィンターホールド相談役。つまりは()()()()外交問題ということだろう。

 ハン自身の耳にも入っているのは主に四つ。

 一つ目は、最も近い都市であるウィンドヘルムとの折衝。

 二つ目は、二番目に近いソリチュード、またはそこに駐留する帝国軍からの()()()()()()反サルモール姿勢についての抗議。

 三つ目は、スカイリム北西部にあるサルモール大使館から送られてくる同様の抗議。並びに魔法大学特派員駐留拒否への抗議。

 四つ目は、カジート商隊、アルゴニアン船団との交易交渉。

 町の復興の指揮を取るだけでも手が足らないというのに、首長や執政がお飾りである以上、その舵取りは相談役たるブレックスが行わなくてはならない。無法者である盗賊一味が町の上層部を乗っ取ったのだから、ある意味、自ら背負い込んだ苦労である。

 

「ウルフリックには今までどおりの具合でいいだろう。のらりくらり。『仲良くやっていきましょう』だ。

 マルカルスの件が耳に入れば矢のような催促が雨霰と飛んで来るだろうが、それまでは意識させないためにも放置でいい。()()()()も効いてるようだしな」

 

「サルモール大使館襲撃未遂偽装作戦。我ながら上首尾に指揮を取れたと自負しとります」

 

「仕方ねえから褒めてやるよ。見事だった。

 おかげでブルーパレスもドール城も大使館も、みんな揃ってウルフリックに釘付けだし、当のウルフリックもそれを回避しようと躍起になってら。おまけに奴は足元を見直す手間まで増えた。

 勿論俺達も疑われてるだろうが、時間稼ぎには丁度いい塩梅だぜ」

 

「真犯人が上がらん状態での無実の証明ってのは、まず不可能ですからね。弱小ウィンターホールドとしては、強豪ストームクロークにゃ暫く足踏みしていてほしいもんです」

 

 ブレックスとハンが画策して行ったのは、ある一点を除いて何から何まで作られた芝居だ。唯一本物なのは、死んだサルモール警備隊だけである。

 まず、ウィンターホールド衛兵隊が捕縛した山賊の中からノルドを選び、裏ルートで入手したイーストマーチ衛兵隊の鎧を着せ、その状態で拘束しておく。

 そして同じく鎧を着込んだ盗賊たちが、さも『襲撃を計画していたところを警備隊に発見されてしまった』という体を装い戦闘に入る。このとき、見つかる場所は、警備隊の巡回ルートのうち最も大使館から遠くに設定する。そして、詰問から戦闘に移れば、不自然でない程度に大使館から離れるよう動く。

 最終的には潜んでいた人員も合わせて警備隊を素早く鏖殺したのち、隠していた山賊達に戦傷(いくさきず)を負わせて殺害し、現場に放置する。この工作のため応援が駆け付けるまでの時間が必要であり、そのための大使館からの距離だ。

 残るのは、両者共倒れになったのであろうサルモール大使館警備隊と、『イーストマーチ衛兵隊の鎧を来たノルド』だけだ。

 

 この件で真っ先に疑われるのは、言うまでもなくストームクローク軍である。

 まだ戦力が整わず世論も成熟していないこの時期に動くほどウルフリック・ストームクロークという男は馬鹿ではないが、『血気に逸った末端が先走ってしまった』という話なら、ウルフリック自身、無いとは言い切れない。

 そのことが事の真偽を余計不確かなものにしてしまう上に、これも当然の如く考えられる事態として、『サルモールに打撃を与えつつ、その罪はストームクロークに被せたい何者か』や『今以上にサルモールや帝国軍とストームクロークの仲を険悪したい何者か』の存在も考えられる。

 寧ろ、馬鹿正直にイーストマーチ衛兵隊の鎧を着込んでいる実行犯を見せられて、陰謀めいたものを考えないもののほうが少ないだろう。

 

 しかし先述のとおり、ウルフリックでさえ身の潔白を証明するのが困難と来ている。

 ストームクローク軍は、まだ帝国軍やサルモールと戦うには戦力が足りないが、しかし組織としては一地方の警備隊の枠に収まらない勢力であることも確かなのだ。

 そうなれば、「政治的立場から思うように動けない敬愛する主君の代わりに、『真の忠義』を示すために独断専行が必要だ」、と考える()()()が出ないとも限らないのだ。そしてその大馬鹿者に賛同者が居た場合、事件が解明されることはないだろう。

 数は力、とは心理ではあるが、己個人の力が及ばないほど大きくなった軍に対し、ウルフリックは歯痒い思いをしていた。

 

 更に言えば、誰もがウルフリックを真犯人とは疑わないであろう状況を見越し、裏をかいて真にウルフリックが指示した可能性も否定できない。

 その場合、サルモール大使館への襲撃そのものという政治的衝撃より、何らかの情報を得ようと企むなどの秘密工作であった線が濃厚になる。

 もしくは、何者かに罪を被せる自信があるが故にことを起こし、サルモールへの打撃よりほかの者の足を引っ張ることを優先した、という話も無くはない。

 考え始めればいくつも可能性は浮かんで来るため、決定的な物証が無ければ、真犯人を特定することはまず不可能である。そしてそのような物証を残すハンではない。

 

 盗賊二人の言う「目眩まし」によって、誰も彼もが疑心暗鬼に陥っている。

 わざわざ「疑ってください」と言わんばかりの仕掛け(イーストマーチの鎧)を施し実行に移したことは、ウィンターホールドに何より必要な『時間』という黄金に勝る宝を齎していた。

 

 

 

 更に言えば、この芝居は二つ目三つ目の外交問題にも関わってくる。

 どれだけ陰謀の存在を考えようが、これらは「先に疑った者が負け」という側面がある。外交の席で証拠も無く陰謀を指摘するなど、相手に追求の口実を与えるだけの下策も下策だからである。

 もしそれが成り立つ場合があるのなら、始めから不仲であることをお互いが承知しており、相手を怒らせることで隙を見出そうとするか、あえて隙を曝して油断を誘おうとするか、などであるが……。

 いずれにせよ、サルモール以外とは基本的に友好関係を築く方針のウィンターホールドにとっては、なかなか起こり得ない駆け引きだということだ。

 そして、ブルーパレスに居を構える上級王は、基本的にスカイリムの融和を考えている。ウィンターホールドの復興を面白くないものと考え、ウィンドヘルム勢力を蛇蝎の如く嫌ってはいても、だ。自らの中の一線を超えない限り、こらえようと努力する程度の思いはある。

 同じくソリチュードのドール城に本部を置く帝国軍も、北の地での無用な騒動は避けたいとの考えだ。だからこそ、上級王と帝国軍は協調して動くことができている。

 そんな両者が、確証も無しにウルフリック率いるストームクローク軍を非難したり、ウィンターホールドに難癖をつけることはまずない。

 

 

 

 が、少々事情がことなるのがサルモールという勢力だ。

 サマーセット諸島に本拠を置き、先の大戦では帝国と痛み分けにまで持っていった、ハイエルフを中心とした者達。

 気が早い者などは、タイバー・セプティム以来続いてきたタムリエルでの帝国の覇権に終わりを告げた、と喧伝して憚らない。

 それは完全に間違いではない。事実、名目上とはいえ比べ物にならない国力差の帝国に真正面から喧嘩を売り、引き分けたのだ。帝国からすれば、敗北と言っても過言ではない。

 しかしその代償は、サルモール側もそれなりに払う必要があった。

 戦力の大半を失う羽目になってしまったし、ハンマーフェルのレッドガード達による根強い抵抗は予想外であった。

 それ以外は概ねサルモールの思うとおりに推移しているが、無視していい損害ではない。

 

 そんなサルモールであるから、帝国内にある不和の種は多ければ多いほうが望ましい。

 タロス崇拝に関しては己等の沽券に関わる問題であるから譲れないとしても、それ以外で北の果てであるスカイリムで(いさか)いを起こす利点は、本来、無い。

 しかしこれが、先の大戦時における帝国軍の主力一派となれば大きく話は変わる。

 タムリエル東部ではアルゴニアンが勢力を伸ばしている。南はサルモールが手懐けた。だからこそ、帝国何するものぞ、と兵を挙げたのだ。

 だが実際にはどうだ。雪と砂漠。二つの厳しい環境に身を置く戦士達によって、サルモールは苦戦を強いられた。その結果の白金協定。忌々しいどころの騒ぎではない。

 サルモールからすれば、両者の士気の高さも計算外であった。前者であるスカイリム戦士の奮戦は特に。

 ただでさえ南からの侵攻であったのだ。北部の人間からすれば手伝い戦もいいところ。士気など上がりようもない。皇帝を排出したこととて、タイバー・セプティムからほど近い時期での話なのだ。既にスカイリムと帝国は別個、という意識ができ上がっていても不思議とも思わない。

 それがどういうわけか。一時的に帝国軍に編入されることも受け入れ、自らの故郷を踏み荒らされている帝国軍本隊と戦列を競うように前進し、屈強な肉体を以てハイエルフの戦士達を次々に屠っていくではないか。

 ある意味、白金協定はスカイリム、ハンマーフェル戦士団の成した偉業だとも言える。だからこそ、ハンマーフェルと違い帝国に比較的従順な姿勢を見せ付け入る隙のあるスカイリムには、干渉を強めなければならない。

 サルモール首脳部はそのように判断したのだ。

 

 尤も、スカイリム住民の奮戦が愛国心のみにあらず、ただ単純に大規模戦闘に飢えていただけ、という側面があるとはサルモールも知らない。北の住民がそこまで蛮族めいているとは、文明的なサマーセットのハイエルフには、少々信じ難い話であるのだ。

 

 閑話休題。

 いずれにせよ、スカイリムへの工作活動に余念の無いサルモールとしては、今回の一件を内々に済ませてやるつもりはない。

 最低でも大使館へ駐在させる兵の増員は認めさせねばならないし、スカイリム政財界への更なる進出もこれを機に進めたい。

 シロディールに比べれば粗野だとはいえ、スカイリムとて帝国の経済圏の内にある。経済的に依存させることが叶えば、戦闘馬鹿共を戦場へ来させないまま下すことも可能であろう。

 更に、今は『反サルモール派』筆頭としてストームクローク軍という存在がいるのだ。これと対立する姿勢を維持するだけでも帝国は双方へ気を配らねばならず、その分だけ帝国の国力は落ちる。サルモールに損は何一つ無い。

 ウィンターホールド大学への特派員の件としてねじ込めないか、という意見も出たが、ある意味()()()()とも言える復興中の古豪を叩くより、東の首長を叩いたほうが効果は大きいと判断された。

 

 

 

 そう。サルモールからしてみれば、大学への件もあるのだ。

 帝国やソリチュードにも働きかけて、かの魔術師ギルドへは通達を出している。しかしウィンターホールド相談役は大学のアークメイジと結託し、「大学は独立独歩を征くもの。帝国の下部組織でもなければ上級王の子飼でもない」との声明が出された。

 それほどまでに見せたくない何かを研究しているのか、ただサルモールの人員を受け入れたくないだけなのか。

 件の大学に人種的偏見は見られないとか。ならば頭ごなしに攻めるよりは、業腹でも教えを請う姿勢を見せれば存外簡単に受け入れられるのではないだろうか。

 サルモール首脳部がそう考えるあいだ、件のアークメイジは一人の男に魔法の実践を強請っていた。「ソウル系魔術による結晶化事故など起こさんと言うとろうに。そも、あの結晶化はソウル系魔術の粋とも呼べる技術と意志を以て意図的に引き起こされる現象じゃろう? ならば儂等がそれをする理由は無い。主はとっとと実演して見せれば良いのだ。それとも何か。儂等がそんな馬鹿な失敗をしでかしそうな阿呆に見えると? いや確かに結晶化の経緯を辿るのは興味深いとは思うぞ。おそらくは人の身に耐えられぬというだけであって、もっと強力な肉体と精神を持つ生物であれば、その結晶は身を守る盾となり敵を討つ矛となるのだろう。研究してみたいというのは悔しいが認めよう。だがそれをしては主が魔術を見せぬと言うのであれば、流石に我慢する程度の分別は持ち合わせておる。大体お主な。儂が杖の制作とサルモール相手の折衝にどれだけ骨を折っておると思うのだ。主の魔術見たさにだぞ。これでうま味がないともなれば、儂はお主よりサルモールに付くからの。連中とて魔術は得意なんじゃ。儂の知らぬ秘術の一つや二つ持ち合わせが……。おぉ、そうか見せてくれるか。それならば最初からけちけちせずに頷いておれば良いのだ。では早う早う……何と! 光線が触れた箇所から結晶化が! 武器に付呪することもできるのか!? これは霧!? いやしかし本質的には結晶塊と同じ生命を変質させ死に至らしめる力が……………………」

 

 配下の者から受けた報告は次のようである。「大学はいつもどおり平和そうでした」。それを聞いたブレックスは、まだしばらく駐在員の件は後回しにできると判断した。

 

 

 

 となればブレックスが頭を悩ませるのは、寧ろ好意的と言っても過言ではないカジートとアルゴニアンの商隊について、である。

 

 アルゴニアンの無茶振りはまだいい。整備中の港を大規模化してほしいだの、大学の魔術の力でどうにか密貿易ができるよう取り計らってほしいだの。

 ブレックスはこれを文化の違いからくる齟齬だとは考えていない。アルゴニアンとてスカイリムにいないわけではないのだ。そして、自分達と同じようにものを考える。そのうえで言うのであれば、それは言葉どおり以外の意味を考えるべきである。

 例えば、ウィンターホールドがどの程度、難しい要求に応えることができるのか、という試しの儀であったり。

 無い話ではない。魂石の発掘隊が組織されたときも、アルゴニアン達はそのような要求をブレックス達に突きつけた。魂縛の術を極めた男がいたため事なきを得たが、これはそれと似たような話であろう。

 相手がどの程度の力を持っているか。多少の信用を落とすことになったとしても、確かめずにはいられないのだ。

 普通、信用こそが商取引には最も大切だと考えるノルドやインペリアルとはやや相容れない考え方であるが、船を用いた商いは損害が馬鹿にならないため、やむを得ないところもある。

 とはいえ相手の腹積もりがある程度把握できているのであれば、あとは熟すだけである。ウィンターホールドが侮られないため、またこの先の取引が滞り無く行われるためにも、やってやらなければならないだろう。

 

 カジートからも同様の要求が為されているが、こちらは純粋に石橋を叩くつもりなのだろう。

 カジートはスカイリムにおいて、常に迫害されてきた。余所者が受け入れられること自体が稀なのはどこも同じであるが、スカイリムの悪い意味で変わらない思想や思考は、カジート達にとって害悪でしかなかった。

 だから試す。臆病さ故に。身を守る必要があるために。目の前の相手がどの程度信用できるのか、慎重に慎重に、推し量るのだ。

 アルゴニアンの試しとは違い、こちらは極論、相手の気が済むまで付き合ってやらねばならない。文化的側面と心情的側面が双方存在している。だが、やるしかないのだろう。

 男の掲げる『サルモール撲滅』に際しては、エルスウェーアからの侵攻も予定されている。アルゴニアンと手切れになっても最悪収益が減るだけで済むが、カジート達の信用、いや信頼を得ることは必須条件なのだ。

 

 だからこそ、ブレックスはカジート達の言う無理難題に可能な限り付き合う。

 たとえそれが『拡張した町の一部に、カジート街を用意してほしい。居住区であると同時にスカイリムでの隊商取引の拠点にしたいので、倉庫や道の整備などにも気を配ってほしい』などという町の復興計画を洗い直さなくてはならないようなことであっても、ブレックスは向き合う。

 男からはそっと、胃薬と滋養強壮に効果のある薬を差し入れられている。気遣いは有り難いものだったが、自分がそこまで疲れているように見えるのか、と悔しくもあったので、男の脛に蹴りを入れることは忘れなかった。

 ここへ、住民からの嘆願。首長会議(ムート)擬きの調整。衛兵隊の組織改革、杖を含めた装備一新。それに男の手伝いではなく自らの本懐である復讐への布石などが重なり、ブレックスの毎日は殺人的に予定が詰め込まれている。

 しかしこれを片付けていかなくては、自分の望みも友人の望みも叶わない。友人は信頼に応えてくれた。ならば今度は己の番だ。やるしかない。

 ブレックスは今日も滋養強壮の薬瓶を空け、政務に挑む。




この閑話でマルカルス編終了かな、と。次回も閑話から入るかそのまま本編進めるか、悩み中です。
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