DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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四、友とは

 ブリニョルフと二人、朝日が顔を出すと共に開拓村を後にした。

 出発の合図は「さぁ兄弟。今日も俺達の素直な性根のように、東南東へただただ真っ直ぐ進もう! 具体的には、森と川と谷と川を越えれば、あとは街道沿いに進むだけだ」だった。

 山中行軍は相変わらずのようだ。

 寧ろ、彼が異様に街道以外の移動手段へ通じていることに驚く。

 訝しげな私の視線に気付いたのか、彼は不敵に笑って言った。「知らないのか兄弟。衛兵隊を巻くには森が一番なんだぜ?」と。

 ただ、「連中に追われている内は半人前なんだがね」とも続けた。

 この手慣れた道無き道を征く行軍は、彼の盗賊としての苦労と成長の証のようだ。

 

 村を出る際、勤労な村人達が既にそれぞれの作業に取り掛かっていた。

 昨日、真似事程度でも手伝ったためか、近くを通った者は皆、挨拶をしてくれる。

 十分な休息を取りつつも飛び起きられるよう、一晩中心構えだけは解かずにいたが、徒労に終わったようだ。

 しかし、このような無駄は嫌いではない。

 

「俺もあの村に立ち寄ったのは初めてだったんだが、ここまで牧歌的だと毒気を抜かれるな」

 

 夜明け前から天幕を片付け、村長宅へ返却に行ったブリニョルフは、その手に土産を持っていた。村長の奥方曰く、「道中、摘んでくれ」とのことだ。

 苦笑しながらも、彼は土産の中にあった蕪を齧っている。

 同感だ、と私も蕪を齧る。うん、うまい。

 実際、ここまでの高待遇を受けられるとは思っていなかった。

 交渉事は全てブリニョルフに任せてしまったが、それだけの対価を支払わせてしまったのだろうか。

 彼は私の手出しを拒んだが、やはり気になる。

 

「君も心配性だな。墳墓ではそれなりの戦利品を得たからな。その中から少々融通しただけだから問題無いさ。それも、ペンダントに比べればたかが知れている。本当に大丈夫だから、この話はこれでおしまいだ」

 

 隣を行く彼は私の背を軽くはたいた。

 昨日より気安い態度がくすぐったい。

 そう、昨日とは違い、私達は横並びで移動している。

 別段、そのように打ち合わせたわけではないが、自然とそうなった。

 目的地たるリフテンは「ひたすら真っ直ぐ」とのことなので迷いようが無く、移動に問題はない。

 今日はいい日になりそうだ。

 

 

 

********************

 

 

 

 ブリニョルフは、隣を小走りに移動する男の顔を盗み見る。

 少々距離を詰めてみたが、問題ないようだ。

 というか、丸一日悪路を走り続けることをさも当然のように了解してみせるあたり、この男の体力に底はあるのだろうかと疑問を持つ。

 悪いが自分に合わせてもらおう。ブリニョルフは、速度の主導権は必ず手放さずにいようと決めた。

 

 ……昨日は男と踏み込んだ話をした。うまくことが運ぶかはブリニョルフにとって多少賭けでもあったが、腹を割って向き合ったのは正解だったようだ。

 俺は、俺達はうまくやっていける。改めてそう実感した。

 方角的に概ね朝日に向かって走っているが、それも明るい前途を示しているようで心地良い。

 闇夜に紛れて暗躍する盗賊が何を馬鹿なことを、と思わないでもない。

 しかし今だけは、この感慨に酔いしれていたいと思い、『ノクターナル』には少々のお目溢しを願う。

 何せ自分だけの話ではない。聞けば隣の男は太陽信仰だと口にした。

 我らが女神様とは水と油である。何卒、何卒と重ねて願った。

 

 男との雑談も弾み、何にせよ良い旅路だ、順調だと気分良く移動を続けていると、ふと男が尋ねてきた。

 

「なぁブリニョルフ。()()()()()『巨人』は存在するのか?」

 

 その口振りでは()()()()()巨人はいたのだろう。ブリニョルフは雑談の内、常識を教える()()()()()()()の一環程度に考え、気軽に答えた。

 

「忌々しいことにね。どうやら連中は何処にでもいる厄介者のようだな。鼠か黒い油虫のように小さくすばしっこくないのがまだ救いだが。

 生態はと語れるほど俺は巨人専門家じゃあないが、大体は少数個体で集落を作り、狩猟生活を送っているな。

 あぁ、唯一『マンモス』だけは家畜として扱っているから、あのウスノロ共にも畜産を行う程度の知恵はあるようだがね。

 ちなみに、マンモスというのは家屋くらいにデカイ、毛むくじゃらの獣だ。

 肉食ではないはずなんだが、やたらと凶暴でね。肉も別段うまいわけではないから、はっきり言ってこいつも厄介者だ。

 例外的に、乳から作るチーズは珍味として人気がある。作ると言っても、巨人が勝手に作ったものが出回っているだけで、人間がマンモスを飼育しているわけではないが。

 あと、これは更に例外中の例外だが、魔術師共がデカイ『魂石』に収める魂がどうのと追いかけ回しているのを……」

 

「ブリニョルフ、ならアレがそうなのだろう。森を抜けたところに、遠近感が狂った人影と、同程度に大きい獣が見える。()()と四頭だ」

 

 ブリニョルフは緩んでいた気を一瞬で引き締め、止まれ! と男に発した。

 即座に身を伏せ、男に手招きをして巨人の正確な居場所を聞く。男も空気を読んで、自分と同じ姿勢になっている。

 

「言ったとおり森を抜けた……川か? 沿って歩いているようだ。進行方向やや右手の川下から、左手の川上に向かって。このまま進めば丁度かち合うかもしれん」

 

 ブリニョルフ自身、遠距離視力は悪くないほうだが、どちらかと言えば動体視力や、宝物の目利きに使う近距離視力に重きを置いている。

 そもそも森の中というのは、当然だが、視界が悪い。木々やその葉で数間先とて満足に見通せるものではない。

 不思議に思い尋ねれば「指輪の……こちらでは付呪、だったか? 遠目と遠射を助けてくれる効果がある」と返された。

 狩人など世の弓を得物とする人間にとっては垂涎の逸品だなと呆れるばかりだ。ブリニョルフは男に対して、もう驚くのはやめた。

 

「よし、なら迂回だ。川上に向かっているなら、俺達は川下側。右側へ回り道しよう。いや、まったく君の遠目があって助かったよ。きっと俺の日頃の行いの良さを神がご覧になっていたのだな」

 

 強がってはいても、巨人やマンモスは直接戦闘において脅威である。避けられるなら避けるに越したことはない。

 そう考えてブリニョルフが移動を再開しようとすると、不思議がった声が投げかけられる。

 

「倒して真っ直ぐ進むのではないのか?」

 

 ──── ブリニョルフは何を言われたのか一瞬わからなかった。

 だが、男が尋常ならざる戦士であることを思い出した。そして判断する。これは冗談の類ではないなと。

 しかし繰り返すが、巨人の脅威は、基本的に人の敵う範疇ではない。

 人間の最高位まで武を引き上げた同胞団でさえ、()()の巨人を複数人で囲んで倒す。

 仮に一対一で倒し切ることがあれば、それは伝説として語り継がれる偉業となるだろう。

 それをこの男は先程何と言ったか。「二人と四頭」と言った。

 男は戦闘に自信があるかもしれない。だが自分の本業は盗み働きであり、戦闘は門外漢。それは男も承知のはずだ。

 つまり男は一人で六体をまとめて相手取るつもりなのだ。いくらなんでも無謀が過ぎる。

 ブリニョルフは男へ巨人の脅威を伝えるが、どうも聞こえてはいても反対側の耳から抜けて行っているような手応えの無さを感じる。

 その内、男は焦れたように「見せたほうが早いな」と呟いて駆け出した。

 信じられない。ブリニョルフは自分が対巨人戦において何の役に立つのかと疑問符を浮かべながら、しかし()を一人で戦いに赴かせないため、気配を消しつつもその背を追いかけた。

 

 

 

********************

 

 

 

 ブリニョルフは私を「心配性だ」と言った。

 まるで話題が違うのは承知の上だが、今の私にとっては彼のほうが余程心配性に思える。幼い私を叱る母のようだった。

 

 この世界の巨人がどの程度の力を持つのか、私は知らない。

 しかし彼の口ぶりから、倒せないこともない、ということはわかった。

 相手が死ぬ存在であれば、神であろうと殺してきた。自らを近い高みへと無理やりに押し上げてだ。その矜持はある。

 それに、私は私の能力がどの程度この世界に通じるのかが、まだ理解できていない。

 ブリニョルフ曰く、墳墓での戦闘でも()()()()()と言わざるを得ない激闘だったらしい。

 あれが? 私に言わせれば、あんなものはぬるいの一言だった。揉んでやっただけ、とも。

 何処からか迷い込んだ『黒騎士』と、『墓王』の眷属たる『車輪骸骨』共の群れを同時に相手取ったときのほうが余程堪えた。

 私がアレに何度殺されたと思っているのだ。

 それらを鑑みた上で結論付けるなら、慢心するわけではないが、おそらく問題はないだろう。

 

 しかし()を心配させるのは本意ではない。危なげ無く完勝してみせる必要がある。

 ならばまずは如何なる攻撃にも耐えうる防備を固めるべきだ。

 私は駆け続けながら兜、鎧、手甲、足甲、指輪と順に『ハベル』の戦士の物へと変えていく。

 そして左手には大岩の様な盾を取り出し、右手にはハルバードを握る。

 瞬く間に重装の戦士が出来上がった。

 

 そこでふと思いついた。どうせなら()()でやってみようと。

 一度出した盾をしまい、友より譲り受けた『太陽のタリスマン』を取り出す。

 そして祈念する。太陽よ、我が戦をご照覧あれ。願わくば、勝利を得、御身に捧げん。

 森の木々が徐々にまばらとなり、もう『鷹の指輪』が無くとも十分、川が視界に入る地点で、一人の巨人の上体が見えた。こちらからはやや崖になっているようだ。

 タリスマンを通じてハルバードへ太陽の光を付与する。

 次に、タリスマンが太陽の光を圧縮したかのような、極太の雷を纏う。呼吸をおかず、轟音と共に巨人へ投げつける。

 さぁここからが本番だと盾を戻し勇んで飛びかかると ──── そこには呆けた様子の巨人が一人、音に怯えたらしい獣が四頭、そして上体が消し飛び、炭と化した断面を見せる()()()があるだけだった。

 …………我が祈りを返せ、畜生共め。

 八つ当たり気味に、残りの巨人の下肢を薙ぎ、頭が下がったところで首を刎ねた。獣はおざなりに突いて逃した。ブリニョルフが慌てて駆けつけてくるまでに、全ての()()を排除した。

 今の私は、不貞腐れている自覚がある。

 

 

 

 武装を解いて川原の岩に腰掛けていると、ブリニョルフが巨人の懐を漁っていた。

 あんなものでも、それなりに値のある貴石や宝剣などを所持していることがあるらしい。

 どうやら当たりを引いたらしく、「臨時収入だ」と喜んでいる。

 しかし私は不機嫌だ。今の私はとても不機嫌なので、不機嫌であるということを隠そうという気も起きない。なにせ不機嫌だからだ。

 ブリニョルフが苦笑しながら近寄ってくる。

 

「なぁ兄弟。いつかスカイリム学専門家の異名をとるかもしれないこのブリニョルフ様が一つためになることを教えてあげよう。有り難がって聞くといい。

 巨人は、普通、ああやって、殺す、ものでは、ないんだ。理解できるかな?」

 

「ブリニョルフ……、見てわからないか? 今の私は腹の虫の居所が悪い。幼子に言い聞かせるような揶揄はやめろ」

 

「そいつは悪かったがね、兄弟。心臓が縮み上がった俺の身にもなってくれ。スカイリムで最も貴重な俺の寿命が、多分何年分かは短くなったぞ。

 しかも必死に駆けつけ、どう立ち回れば戦闘の役に立てるかと脳漿を絞った健気な俺が到着してみれば、だ。二体のデカイ屍と、怯えて逃げていくマンモス、やりたいようにやったにも拘らず憮然とした君が見えたんだ。

 この気持が理解できるかな、えぇ、兄弟?」

 

 繰り返すが、今の私は不機嫌である。

 しかし目の前のこの男、出会ってから初めて怒っている。なるほど、怒ると嫌味っぽくなる性質(たち)なのだなと思考がそれたが、段々と悪いことをした気になってきた。

 

「心配をかけたことは、謝る。私自身が腕試しをしたかったこともあるが、君に私の力を見せれば、この先、色々と話が早くなるかと考えたんだ」

 

 

 ブリニョルフは一度ため息をつき、「本当に君は随分、殺伐とした場所に長くいたようだな」と零した。

 

「一先ず、君の戦闘力については理解が深まったと思われる。相手が多勢だろうが強大な()だろうが関係なく蹂躙できるとね。

 目論見は成功だ。良かったな。

 しかしそれとは関係なしに、友達が単騎で強大な相手に挑んで行くのを目の当たりにしたら、普通は過程も結果も関係なく心配するもんだ。

 昨日は一般常識の触りと、俺の事情について少し話しただけだったな。今日は移動がてら、相互理解のために君の話を聞かせてくれ。

 そうすれば、英雄と呼ぶべき優秀な戦士の君に対して、もっと最適な手助けができるようになるだろう。

 …………本当は、そのあたりの話は腰を据えて、つまりリフテンの俺の家で聞こうと思っていたんだ。まぁ、色々と、あるかと思ったからな。

 でももう今は、そういう様式美はどうでもいい気がしてる。あと、君の事情は極力早く把握しておくのが俺の心臓にとって吉だと思うんだ。

 つくづく君は俺の予定を前倒しにしてくれる。我が兄弟の親切心に感動の涙が溢れそうだよ」

 

 一旦は矛先を収めてくれるようだが、怒りは治まらないらしい。まだ少し嫌味っぽい。

 とはいえ怒り続けるのにも体力がいる。少々気怠げに彼は続けた。

 

「せめて『大丈夫だ』ということをもう少し説明するなりなんなりしてから突撃してくれれば良かったのさ。そうすれば俺もこんなにやきもきせずに済んだんだ。

 俺が兄弟と呼ぶことを許し、俺を友だと思ってくれるのなら、それくらいは期待しても罰は当たらないだろう?」

 

 今の私は不機嫌、で、あった、はずだ。

 しかし、どうもそれより彼に悪いことをした、という罪悪感が胸の深い部分から音を立てて迫り上がって来ている。

 

「すまない、友よ。言い訳だが、確かに私は殺伐とした場所に馴染みすぎていたようだ。客観的に認識していても、正しい理解が追いついていなかったと言うべきか。

 昨日触れる程度に話したが、殺し、奪うことが当然の場所だった。

 肩を並べて強敵に立ち向かったその相手が、少しあとには暗がりから襲いかかってくることも珍しくない、そういう場所だった。

 会話が通じる相手にも、亡き友のような者がいたにはいたが、多くは「くたばるなら勝手にしろ」とでも言わんばかりの態度だった。それが普通だったんだ。

 ……その()()を引きずったままでいたがために、結果として君を軽んじてしまった。すまない」

 

 私の言葉は一応、ブリニョルフに届いたようだ。

 彼は痛ましげな顔や、苛立った顔、悲しげな顔など他にもころころ表情を変えて、最後にもう一度ため息をついて言った。

 

「常識云々は土地が変われば違ってくるもんだ。そこに言及はしないでおくよ。

 ただ、圧倒的強者である君が俺の小言を聞き入れ、反省し、許しを請うている。君の気持ちはそれで十分に伝わったよ。もう怒っていない。

 今は、俺が君の癒やしの一助になれればと、そんなふうに思う。

 ……何なら兄弟、リフテンについたら早速癒やしを求めて宿で女でも買うかい? なかなか綺麗どころが揃ってるぜ?」

 

 最後の一言は彼なりに空気を変えようとしてくれたのだろう。有り難かった。だからこそ、正面から向き合いたいと思った。

 

「いや、兄弟。今日のことは忘れたくない。女も、酒もよしておくよ」

 

 彼は「そうかい」と肩を竦め、荷物をまとめた。

 そして、折角迂回せずに済んだのだから時間を浪費すべきではない、と移動を再開した。道理である。

 私は彼に遅れないよう、隣を走り、思案する。

 友になる、友を作るとは、これほどまでに難題であっただろうかと。

 『友』について巡礼者や灰であった時期を除いて考えれば、私がまっとうな生者であった頃まで(さかのぼ)る。

 しかしどうやっても、友となったきっかけが思い出せない。友がいたことも、どのような人間であったのかも思い出せる。だがその始まりは?

 やたら長く生きたせいか、記憶の薄れではない、欠落を実感する。まるで思い出せないのだ。

 遠くへ来たなと、今更ながら改めて思った。

 

 

 

********************

 

 

 

「それで、そんな場合ではないのに我慢できずつい叫んでしまったんだ。『お前は倒したはずだろう!? 何で!!』とな。正直半狂乱だったよ」

 

「傑作だ! なるほど()()()()は不死院に一体だけじゃあなかったわけだ。慌てふためいている君の(さま)、是非とも見てみたかったな」

 

 男が叙事詩の一節に相違ない英雄譚を、さも近所で起こった()()()のように話すものだから、ブリニョルフは堪えきれず笑ってしまう。

 男が自身の話をする際、「長くなるから」と言って、まず生まれてから今までのことを、ごく簡単に語った。

 愛を甘受できない人間であったこと。不死人と呼ばれる存在になったこと。永い時をかけて人間性が摩耗していったこと。神や化け物を相手に死闘に次ぐ死闘を繰り返したこと。

 世界の礎になったこと。

 再び呼び戻され、一度は……継世(けいせい)とでも言うのだろうか、儀式を行ったが、最終的には時代を終わらせたこと。気がつけばあの墳墓にいたこと。

 巡礼者であったときも、灰であったときも、碌でもない連中ばかりの場所で、かけがえのない友情を育んだこと。

 

「さっきの遠目遠射の指輪、あれは鍛冶師の巨人の友から譲り受けたと言ってたな? しかし元の持ち主である、竜狩りの巨人の友にも会ったと。もし君が竜狩りの彼から指輪を直接譲り受けていたのなら、鍛冶師の彼が持っていた指輪はどうなっていたのだろうね」

 

「それは考えたことが無かったな。……どうなのだろう?」

 

 男以外の人間が語ったのなら、「面白かったよ、お代は金貨1枚でいいか? 気が済んだらとっとと失せろ」とでも言って追い払うところだ。

 しかし、荒唐無稽な大冒険が、全て真実だとブリニョルフには理解できた。

 男は語りながらその当時を思い出していたのだろう。

 寂寥、葛藤、憤怒、憧憬、懐古、それに野営時の篝火の如き温もり。それらが男の目に浮かんでは消えていったからだ。

 

「そうか、悪党ほどのうのうと生きて、良い奴ほど死んでいくのは何処でも変わらないのかもな」

 

「あぁ、『闇霊』(ダークレイス)なぞ捻り潰してやるがな。亡者と化した友を見るのは、やはり辛かったよ。 しかし彼らは矜持をもって己の人生を生きた。やり尽くした結果だと思った。だから引導を渡すのは私の役目だ、逃げてはならぬと思った。

 それに亡者とならずとも、私のためにと無理をして、力尽きた者もいた。これは昨日にも一人話したな。彼等の亡骸を弔うのもまた、私の役目だった」

 

 男の話は壮絶の一言であった。

 それでも、男が同情を求めているようには見えなかった。寧ろ、悲劇的な場面ほど冗談めかして語った。

 そして、自分の築いた友情をこそ君に伝えたい、と最も熱く語った。一度は軽く触れた場面を前後しながら、一人一人、順を追って。

 男にとって、自身が英雄や神の化身に成ったことなど、友と過ごした時間に比べれば些細なことなのだろう。

 突然の閃きを得たかのように、男は言った。「あぁ、だから私は旅の中でも心折れず、亡者にもならずにいられたのか。友に生かされていたのだ。今になって気がつくとは、なんと友達甲斐の無い人間だろうか」と。

 話しながら、男の頬に涙が伝った。

 夜明けの朝日を目にして流したのと同じ、真の涙であったとブリニョルフは思った。

 男にとって最も琴線に触れるのは、耐え難い地獄の中で育んだ友情なのだと、このとき理解できた。

 男は先程、ブリニョルフを友と呼んだ。そのことが、言い表しようもなく誇らしかった。

 

 

 

 男は自らの体験を話すことが苦ではなく、ブリニョルフは話を聞き出すのが達者であった。

 気がつけばリフテンを囲う壁と門が見えていた。

 ブリニョルフは男に歩を緩めるよう伝えると、素早く衛兵に近づき鼻薬を嗅がせた。

 ブリニョルフはリフテンでは馴染みの顔である。門から出ていく姿を見ていなくとも、門から帰るくらいは常のこととして問われない。

 しかし衛兵にとっても初めて目にする見慣れない男を連れているとなれば、多少の融通を利かせてもらわなければ町に入れない。

 逆に言えば多少のことでそれらの問題は全て解決してしまうわけで……男はこれで大丈夫なのか? と怪訝そうにしている。

 リフテンとは、良くも悪くも()()()()町なのだ。

 『ソリチュード』や『ホワイトラン』ではこうはいかないだろう。解放的な町では、役人に堂々といかがわしい取引を持ちかける者など問答無用で投獄される(『ウィンドヘルム』はリフテンと同じく閉鎖的ではあるが、軍の規律を重んじるという異なる方向性の特色があるために、同じく融通は利かない)。

 ブリニョルフはこのなんとも言えぬ()()()()()を備えたリフテンという町を気に入っていた。

 

「さぁ兄弟。実時間では大したことはないんだろうが、今まで色々なことがありすぎたように思う。しかし俺達は辿り着いた。安息の地へと。ようこそリフテンへ! 俺の家まで案内しよう」

 

 二人は連れ立って町へ入る。

 男にとって、このブリニョルフという盗賊と出会いリフテンの門を潜ることが、スカイリムでのとある事情に深く関わることになる一つの()()であるのだが、それをまだ知ることはない。




ロードランもロスリックも倫理観はかっ飛んでますからね。

(※あくまで参考にさせていただくまでで、必ずしもアンケートの結果に沿うかはお約束できません) 文字数について質問です。拙作において一話あたりの平均が8000字強くらいらしいのですが、この文字数が長いのか短いのか、読者の皆様がどうお感じになっているのか気になりまして。私としては深く考えず、キリのいいところまで、くらいの意識だったのですが。一つ、ご協力よろしくお願いいたします。

  • 最低文字数(1000)で十分。
  • ~5000くらいはいるくない?
  • 今よりちょい短めで(~8000弱)
  • Don't worry.
  • もっと長くしろよ読み応えがねえだろハゲ
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