DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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Lucille Felix様、ひね様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。

前回の粗筋。
『こう』考えたらマルカルスの騒動はそんなに無理筋でもないんだよー、という作者の言い訳。
後々への布石を考えた、現在のブレの殺人的なスケジュール。


閑話、ボーイ・ミーツ・ガール・イン・フラゴン

 男がマルカルスで騒動を起こし、ブレックスが文字どおり忙殺されつつあるなか、盗賊ギルドでもひとつの騒動が起きていた。

 いや、騒動と呼ぶには少々面映ゆく、しかし呼ばぬには少々険が立っている。

 

 

 

 

 

 きっかけは鳴り物入りで加入したラーナルクの存在だ。

 

 ラーナルクは、自分の存在が何かしらの問題を引き起こすことを覚悟していた。

 それはそうだろう。ラーナルクの養父である男は、ギルドマスターであるメルセル・フレイと犬猿の仲であり、協力者となってからも書状でしかやり取りをしていない。上層部や事情通であれば、自然と耳に入ることだ。

 ギルド幹部のブリニョルフが件の男の友人であり、ギルドメンバーの少なくない者達が男の付き人として長いときを共に過ごしているため、ある程度は同情的である。しかしそれはそれ。気難しいマスターの怒りの炎にわざわざ薪を焚べたいかと言われれば、否である。

 

 だからラーナルクも、初めの頃は顔馴染と行動してなるべく目立たないよう気をつけるつもりでいたし、どうしても避けられない勝負事に巻き込まれたときには、舐められないためにも全力で相手をするつもりでいた。

 ここで新入りらしく殊勝な態度を見せるというのは、今まで稽古を付けてくれたブレックス一味の沽券に関わる話であるし、何より「お父さん」の顔に泥を塗ることになる。暫定(かたき)であるメルセル・フレイがいる場所で、そんな無様は見せられない。

 男やブレックスからは無闇に油断を誘う真似をしなくていい、と言われている。騙し合いにかけて右にでる者はいないギルドマスターである。ラーナルクが自らを『与し易し』と偽ったとて、かえって怪しまれるだけだ。

 それに、ラーナルク自身が快適な居場所を手に入れるためにも、ある程度の腕前は見せておく必要がある、と判断したのだ。個々人の腕前を頼りに生きている無頼の集団にあって、未熟者だと侮られることは、利より害のほうが圧倒的に大きい。

 

 そして、予想どおり挑戦者は現れた。想像していたような軽口を叩き、如何にもな安い挑発をし、煽る。

 だた予想と違っていたのは、それがメルセルの子飼らしき人物ではなく、ギルドに入って日が浅い女盗賊であったことであろうか。名を、ヴェックスと言った。

 

「坊っちゃん? 坊っちゃんだって? 嘘だろ冗談だって言ってくれ。ここは首長閣下やブラック・ブライアのご子息がいらっしゃる場所じゃございませんことよ。お、わ、か、り。ですかぁ?

 それともマジで良家のお坊っちゃまが社会見学に来たってんなら、身の程ってもんをわからせてやるからさ。ちょっと揉まれていきなよ。そうすりゃ二度と足を踏み入れようだなんて馬鹿な考えを抱かずにすむってもんさ」

 

「残念だけれど、この盗賊ギルドって場所は君が思っているより懐が深いみたいでね。僕みたいな育ちの人間でも受け入れてくれるみたいなんだ。

 僕の父は首長の下で私兵をしているから、僕は良家の子息で間違いではないと思う。でも、戦士じゃない盗賊の道ってのも体験してみたくってここにきたから、君の言う社会見学も満更間違いでもないんだ。

 それでもマスター・フレイは許可してくれたんだから、本当に感謝の念でいっぱいだよ」

 

 ギルドに着く前にブリニョルフがラーナルクに授けた教えの一つ。「売られた喧嘩は値切らず買え」。

 自分でも安い挑発だと理解していたヴェックスも、それをそのまま返されたとあったなら、今度は挑発されているのは自分のほうである。

 自ら吹っかけた喧嘩をそっくりそのまま返された。伊達で売っている盗賊が、衆目の前で恥をかかされて黙っていられるわけがない。

 

 すぐさま両の拳を顔の高さまで構えて「顔をパンパンに腫らせてやる!」と殴りかかった。

 牽制の左。右。左。不意の下段蹴りで意識を下に下げて、同じ足で上段。

 全て防がれたが、距離が近づいたところで、もつれ込むように肘を側頭部へ見舞う。躱されても組技に移行できる。

 

 …………ヴェックスに油断が無かったかと言われれば、あった。しかし、していなくとも、防げなかっただろう。

 ヴェックスの肘の内側を蛇のように腕がくねりうなじを掴む。そこを起点に、ラーナルクは両の脛をまとめて蹴り上げ、自らの体も宙に寝かせるような姿勢を取る。

 首を押さえられ、足を蹴手繰られ、上から重量物が落ちてくる少女はどうなるのか。俯せに潰れるしかないのだ。

 ヴェックスはあまりの速さに何が起こったのかわからなかった。それもそのはずだ。生半な速度ではそもそも成立しない技であるし、身につけるにも何度となく血に塗れる必要がある。

 

 腰の上に座ったラーナルクから「まだやる?」と問われて、ヴェックスは余計に頭へ血が登った。

 胸のベルトに差している短剣を抜きながら、体のバネでラーナルクを弾き落とす。

 しかし短剣での決闘は徒手でのそれより更に散々だった。『万が一』があってはいけないと集中力を高めたラーナルクにより、一合目から短剣を絡め取られ、そのまま手首を極められて床に押し倒される。

 

 悔しかった。自らを『ボンボン』だと認めるような少年に遅れを取ることが、どうしても許せなかった。

 自分はシロディールの地獄を、たった一人生き抜いて来たんだ。そんじょそこらの『甘ちゃん』とは違うんだ。

 そういった反骨心こそが、ヴェックスの活力や向上心の大部分を占めていた。それが今、一人の少年の出現により、揺らいでいる。

 実際には、この少年も世にも厳しい道を歩まざるを得ない星の下に生まれて来たのだが、それを少女が、今、知ることはない。

 

 

 

 怒りが収まらないヴェックスは、ラーナルクに片っ端から勝負を挑んだ。

 

「ここは盗賊ギルドだぜ。パパに鍛えられた腕自慢かもしれないけどな、格闘術だけでやっていけるほど甘くはないんだよ。手も足も出ない距離から投げナイフで仕留められりゃ、それで御の字なのさ」

 

「いいよ、投擲術も得意だ」

 

 飄々と勝負を受けるボンボンの言い草に再び激高しかけるが、今の自分は挑戦者だ。今に見てろとひとまず自らを抑える。

 結果は、的に刺さった短剣だけを見るなら引き分け。野次馬の反応を見るならヴェックスの惨敗であった。

 ラーナルクは始めヴェックスと同じように姿勢を正して投げていたが、遊び心が首をもたげたのか、素早く伏せて投げる、後転して投げる、宙で体を寝かせたまま回転しながら投げる、とバリエーション豊かに投擲を披露してみせた。

 それでいて的に刺さる短剣の位置はヴェックスと互角だと言うのだから、野次馬共が沸くのも無理はない。

 

 

 

「ざけんな! 投擲術なんて徒手格闘並みに緊急手段なんだよ。遠距離で敵を仕留めようとすれば、普通は弓を使うもんだ。戦士のパパは弓のお稽古もつけてくれたんだろう?」

 

「うん。ここ数年、食卓に上る肉の調達は僕の仕事だったから」

 

 この新入りはまだ小馬鹿にした態度を止めないのか、とヴェックスはひたすら腹が立つ。

 指先の繊細な力加減が必要な弓術は、ヴェックスにとっても得意分野である。なんなら、投擲術よりもずっと。今度こそ、生意気な『クソッタレ』の鼻をあかせてやれると弓を構える。

 

 ……だが残念ながら、少女の思い描くとおりにはならなかった。

 端的にいえば、投げナイフでの勝負を弓に置き換えただけ、という有様だったのだ。的に当たっている矢は概ね互角。しかしそれを射る姿勢が全く違った。

 数射ほど射って肩の調子を確かめたラーナルクは、一回転して射る。半回転して弓手を変えて射る。大きく跳ねて股下から覗き込むようにして射る。両足をしっかり踏ん張って、ひたすら速射でいる。その際には、先に的に刺さった矢を弾き飛ばす有様でさえあった。

 ちなみに、投げナイフでも弓でも見せた曲芸地味た動きは、全てウィンターホールドの地にて酔った盗賊共が秘蔵っ子の気を引きたいがために見せた、文字どおりの曲芸である。見ただけでものにしてしまったのは、皆にとっての誤算である。

 

 

 

「戦士のパパから戦う術を叩き込まれてんのはわかったさ。でもここは盗賊ギルド。闇に生きる連中の集まる場所だ。陰に潜み陰を往く。隠密術と、相手の持ち物をスる術が心許ないってんじゃあ、お話にならないぜ」

 

「陰働きは少し自信がないなあ。それはそうと君、めげないね」

 

 戦闘術ほど結果が目に見えてわかりやすくはないため、簡単にルールを決めることになった。

 まず野次馬共を適当な位置に立たせ、腰に布を巻かせる。その左側に墨で印を付けたら、ヴェックスに加点。右側に付けたら、ラーナルクに加点。

 そしてそのまま、スリを成功させれば更に加点。加点の度合いは品の価値による。失敗しても減点は無し。但し、周りに聞こえる声で十数えるあいだ手首を掴まれたままでいる。時間的なロスも生じるし、注意が向くため即座に隠密行為へ移ることも難しくなる。

 

 こればかりはラーナルクの独壇場とはいかなかった。

 ラーナルクとて隠術は得意だ。そのため腰の布に印を付けることはできる。また、腰のポケットに忍ばせた金貨を数枚スリ取ることはできた。しかし懐に忍ばせた金細工に手を伸ばした途端、勘付かれて手首を抑えられた。

 数回は成功させることもできたが、バツによる時間のロスは、元々短時間の勝負において痛手と言えるものであった。

 その点、ヴェックスは年季が違う。スリを成功させられる相手かを見極め、厳しいと思えば印をつけるだけに留めた。行ける、と判断しても無理をせず、高価な品には手を出さなかった。ここにいるのは腕利きの盗賊達なのだ。眠りこけているのならまだしも、後ろに立ったくらいで貴重品を盗めるのなら世話はない。

 結果は概ね引き分け。厳密に採点するならヴェックスの勝利であるが、今日ギルドへ来たばかりの新入りが相手だということを加味して引き分け、ということになった。

 

 

 

「あたしも女だ。泣いても笑っても次で最後にする。それでケリだ。文句はつけないよ。ギルドの修練場に、それ用の宝箱がある。そいつを難度の低い物から解錠していって、制限時間が終了した段階でより進めていたほうの勝ちだ。同程度の宝箱まで進めていたのなら、より解錠の勘所に近い場所を探れていたほうの勝ちにする。だから終わってもピックはそのまま動かすんじゃないよ」

 

「わかった。これに関しては本当に自信が無いから、素直に胸を借りるつもりでがんばるよ」

 

 結果は……ヴェックスの圧勝であった。

 

「ほら見たことかこのクソボンが!! アタシに楯突こうなんざ十年早いんだよ! わかったら『姐さん』と呼んでしばらくはアタシの使いっ走りをするんだね!!!」

 

「勝った途端、すごく元気になるね、姐さん」

 

 ラーナルクの手先は人並み外れて器用だ。素人でも空けられる錠など簡単に突破し、見習い級も同様。精鋭級で僅かに躓いたが解錠せしめた。問題は熟練者級の鍵だった。

 解錠にあたっての『当たり』の箇所の手応え自体が微細であることに併せて、ダミーの手応えが複数箇所用意されていたのだ。熟練者級の錠がそんなことになっているとはそもそもしらなかったラーナルクは、そこで躓き、数十本のピックを折った。

 そのあいだに、ヴェックスは熟練者級の鍵を突破し、多少時間をかけつつも達人級の鍵まで解錠してみせた。誰がどうみても、ヴェックスの勝利だった。

 

 再び野次馬が沸く。元々ギルドの面々は、ラーナルクの味方でもヴェックスの味方でもない。強いて言うなら、ギルドの次代の担う若い世代二人の味方だ。どちらが勝っても称賛する。

 格闘術ではいいところがなく、隠術やスリの勝負でも引き分けだったヴェックスが、持ち前の才能を活かした解錠の勝負では勝ちをもぎ取った。なかなか熱い展開である。

 ヴェックス! ヴェックス! とコールが響き盛り上がる。そこへ。

 

「その新入りには色々と経験を積ませようと思っている。『姐さん』呼びはまだしも、使いっ走りは我慢しろヴェックス」

 

 場の空気を冷めさせることに定評のあるメルセル・フレイが姿を現した。野次馬の幾人かは、騒ぎすぎた罰を与えられるのではないかと怯えている。

 

「ラーナルクと言ったな。君の父上には世話になっている。この場で礼を言わせてくれ。

 それに君の……。いや、ギルドの一員になったからには遠慮はかえって壁を作るだけだな。お前の腕試しはするつもりだったんだ。ヴェックスとの力比べになったのは予想外だったが、陰ながら見せてもらった。なかなかいい腕だ。やや戦闘術に技量が偏っているようだが、ここで過ごすうちに盗賊としての業も身につくだろう。それだけの下地はあるように見えた。

 そういうわけだ。よろしくな、有望な新人くん」

 

 場に安堵の空気が流れる。若人達の勝負と称していい大人達が囃し立て馬鹿騒ぎしたことは不問になるようだ。

 

「あぁ、言い忘れていた」

 

 再び空気が冷める。

 

「ラーナルクはただの新入りじゃない。長い付き合いの者もいるだろう。そして、先述のとおりギルドはお父君に大きな借りがある。

 というわけで、だ。誰か酒を買ってこい。蜂蜜酒でもワインでもエールでも構わん。飯もだ。材料も忘れるな。この人数で騒ぎ出したら、食べながら作らなければ足りなくなるぞ」

 

 それだけ言い残して、今度こそメルセルはその場をあとにする。

 お許しが出たことを理解してワッと場が盛り上がるが、「あのメルセルが?」と訝しむ者も少なくなくいる。

 とにもかくにも、こうしてラーナルクは盗賊ギルドに受け入れられた。狙ったわけではないが、一悶着起こしたことで受け入れやすい空気を作ったヴェックスの手柄とも言える。本人に言えば脛を蹴られることであろうが。

 

 

 

「そうだ。腕試しはさっきの解錠勝負で最後だけどね。アタシ等の勝負は終わっちゃいないよ」

 

 ラーナルクの顔には「嘘でしょ」と書いてるように見える。もしくは「しつこい」か。

 

「この世の何処かに、『バレンシアの王冠』って秘宝があるらしいんだ。でもこいつに嵌め込むための『珍しい石』がこのスカイリムの何処かに二十四もあるって話じゃないか。それを、アタシとアンタで完成させるんだよ。

 先に完成させたほうの勝ち。同着なら、石を多く集めたほうの勝ち。どうだい? これに勝てたなら、『姐さん』呼びも勘弁してやるよ」

 

「あ、それなら僕、一つ持ってるよ。ウィンターホールドにいたとき手に入れた」

 

「何だって!?」

 

 宴の準備を進めつつ若人を眺めていた構成員達は、幾分か賑やかな日々の到来を察知していた。

 

 

 

 

 

 

 

「それで。連中の手勢はどれほどになる?」

 

「ざっとギルドの四半ってところか。同様に、アンタに従おうって連中も同程度だ」

 

「相手方が俺の予想よりは多いな。だが心配するほどじゃあない。お前達のような腕利きがいれば連中なんて物の数じゃあ……」

 

「ああ、そういうのはいい。別に俺達のことだって信用してはいないんだろ? でも俺達ゃ『それでこそ』と思ってるぜ。

 多少のイレギュラーはあったにせよ、というかそんなもんはガルス時代にもあった。そのうえでギルドを素早く立て直したアンタの手腕は本物だ。俺たちゃそのお(こぼ)れにあずかれりゃあ十分。信用も信頼も無いもんだと思って過度な期待はしてねえよ。元々、湿っぽいのは苦手なんだ。ビジネスライクに行こうや」

 

「……随分、生意気な口を叩く。少々腹立たしいが、まぁいい。続けろ」

 

「あいよ。で、だ。残りの半分は中立ってことになるんだが、あんたはそうは見ねえんだろ?」

 

「当たり前だ。お前達の杜撰な調査では洗い出せなかっただけで、隠れた協力者がまだまだいても驚かん。

 それに、これだけ俺の排斥の気運があからさまになっておいて、日和っているヤツ、俺の指示に従わないヤツ、この期に及んで気付きもしないヤツ。そんな愚図は足を引っ張るだけだ。潜在的な敵として勘定したほうが傷を負いにくくなる」

 

「手厳しいことだな。そうしたら、次はどう動きゃいい? やっぱりあの坊主を見張るかい?

 ……いやしかし、嫌になっちまうな。あの坊主、トンデモ親父にひたすらしごかれた結果の腕前ってんなら同情物だけどよ。もし才能だけであそこまでになったとしたら、おじさんは世の不条理を嘆かずにはいられねえよ」

 

「鬱陶しい無駄口を叩くな。……基点になるのはそのとおり、あの小僧だろう。だがそれだけでは足りないな。小僧の意を受けて動く、周囲の者を探れ。おそらくブリニョルフが撹乱するために動くだろうが、そちらは無視しろ。

 目立たず、さり気なく、静かにシンパを増やそうとする奴等の動きに目を光らせろ。そうすれば、連中の準備段階に検討がついて決行の時期も察せられるし、焦りの有無が見えればより深く探れる。

 尤も、当分は大人しくして、極々目立たない動きしか見せないだろうがな。注意しておくに越したことはない。

 ……そちらから他に何かあるか? 無ければ行け」

 

「了解、マイマスター」

 

 

 

 音もなく盗賊の男が去ってから、マスターと呼ばれたメルセル・フレイは闇夜に一人思う。

 鳴り物入りで大型新人がギルドに加入。喜ばしい話だと皆が浮かれている。そしてそれは、『本命の策』の優秀な隠れ蓑になるだろう、と。

 

 現在、メルセルが用心すべき相手として、第一にブレックスがいる。同盟状態から互いの構成員同士を交流させ、魂石流通やウィンドヘルム暗躍などでギルド全体に一体感を齎した。

 自分を排除した後釜に座るのは、おそらくあの男だろう。そしてそれが、自分へ反感を抱く構成員を引き入れる有効な説得材料になるはずだ。

 だが、こちらは囮の策を担当しているはず。メルセルには件の手口に覚えがあったし、何より自由人の集まりであるギルドメンバー達の利害を調整して思う方向へ泳がせるなど、ブレックス以外にできることではない。とはいえ、それだけで手一杯になるのも事実なはず。間違いないだろう。

 

 そして、メルセルはかつてカーリアを取り逃がしたことを忘れてはいない。

 彼女の得意技は隠術と弓術だ。機を(うかが)い、派手な囮の陰から文字どおり一矢報いることは可能だろう。

 

 多少気になるところで件の『トンデモ親父』の顔が浮かぶが、アレはウィンターホールド復興に向けて、表舞台に立つことを選んだ様子だ。

 戦闘の腕前は確かであっても、頭がそれほど回るようには見えなかった。復興の舵取りで手一杯になる。気にすることはない。

 

 やはり、おそらく本命だろうカーリアの一矢さえ防ぎきれば、自分の勝ちだ。

 そのためなら、構成員を何人犠牲にしようが、ギルドそのものを捨て去ってしまおうが、構わない。自らが死なず、財宝を持ち逃げできるのなら、それは失敗ではなく成功。敗北ではなく勝利である。

 そうなればそうなったで、様々なしがらみから開放された晴れ晴れとした気分のまま、悠々自適な余生を送ってもいい。別組織を立ち上げてもいい。

 ひっそりと闇の一党へ加入するのも手だろう。連中はギルドと協力関係にある。自分が属してしまえば、たとえ居場所が割れても手出しができなくなる。そのときには身柄の引き渡しを防ぐだけの土産(財宝)もあるのだ。イカれた殺人鬼共を手懐けることなど容易い。

 

 つまるところ、策に感づかれた時点で敵に勝利は無く、自らに敗北は無い。用心は怠らないが、メルセル・フレイは状況を悲観してもいなかった。

 

 

 

 一方、メルセルの下から立ち去った盗賊の男はと言えば。月明かりを避けるように移動しつつ、懸念を抱え、いやどうでもいいことだ、と吐き出していた。

 

「随分と自信がおありのようだったが、そうそう読みどおりにいくもんかねえ。

 まぁ俺は実入りのいいほうへ着くだけのことだからな。精々俺達のマスターでいられるよう、がんばってくれよ。じゃなきゃアンタの心配どおり裏切っちまうかもしれねえからな」

 

 フラゴンへ、様々な思惑を持った者達が集う。

 いや、元々人の数だけそれらはあるのだろう。皆が皆、自らの望みが叶えばいいと思いながら、フラゴンを舞台に踊る。くるくる踊る。

 誰が最後まで立っていられるのか。それはまだ誰にもわからないことだった。

 

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