DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ()   作:佐伯 裕一

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ランダ・ギウ様、ひね様様、麦茶太郎様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。

前回の粗筋
マルカルス攻略の影響をブレに説明された結果、リフトの砦で詰めた計画はほぼ完遂していたことが判明(オリ主視点)(ビックリ仰天)
リフトでの計画が済んだなら、今度はウィンターホールド首長邸で話した計画を進めるため、みんな揃ってデスマーチ。


四三、お出迎え準備

 ガツン、ガツン、と鶴嘴を叩く音がする。

 

「ブレックスさんの言うことにゃ。ヤッハッハー、ヤッハッハーのハ」

 

 ブレックスの言う首長の砦と迎賓館は、余裕を持って完成した。人足と応援に来た魔術師で役割分担したのが良かったのだろう。

 魔術師達はとにかく氷の精霊を呼び出し岩肌を削り、人足達は削った岩をどんどん運んだ。

 人足達の作業は言うまでもなく重労働であるのだが、私が監督している現場で顔色を悪くしながらも氷の精霊を召喚し続けていた魔術師達を見て、手を抜くことなく働いてくれた。

 十分な空間が岩肌に掘れたら、そこに埋め込む形で館を建てた。このとき、館のおよその寸法が決まった時点で、周りの空間も装飾を付けながら削るという一手間が加わっている。担当したのは、盗賊連中に指示された私だ。

 

 砦のほとんどは魔術で建てた。

 連中、いつの間にか『岩石脆化』どころか『岩石形質・形状変化』魔術まで編み出していた。『私』という異分子から得られる視点でこれまでの魔術を見直すと、新しい発見があるのだそうだ。アグス師が楽しそうで何よりである。

 普通、石造りで建てようとすれば、表面は凸凹する。当たり前だ。いくつもの岩石を組み上げているのだから。

 それを連中は、掘り出した岩石の形質を一定の物と変え、更にそれを一枚岩へと変化させることに成功した。

 巨大な一枚岩の壁は恐ろしく値が張る。そして下手をすれば攻城戦の常識を変える魔術であるが、それを魔術で意図も容易く成してしまうなど、驚くほかない。おかげでウィンターホールド首長砦は、漆喰とは違う、随分と見栄えの良い出来になっている。

 おそらく、これから建てられる権威の求められる石造りの建造物は、この様式が基準になるのではないかと思われる。大学の良い収入源になるだろう。

 

 概ね建造物としての体を成したところで、内装や装飾にも取り掛かっていた。誰も彼も、魔術師達の手腕に興奮して、砦自体を更に素晴らしい出来にしようと意気込んでいた。

 手透きになった魔術師は、また穴掘りだ。次は迎賓館が控えている。

 とはいえ砦で勘所を掴んだ面々である。迎賓館の作業は砦に比べて然程のことも無かった。まぁ、砦と違って防衛機構も縮小されているうえに、モノの寸法が砦より小さいのだから、当然と言えば当然であるが。

 こちらも、内装や細々とした装飾は砦が練習台になったおかげで迅速にことが進んだ。砦に比べて『武』の色を抑えて『奢』の色を強めれば良いだけのことだ。

 

 ただ、こちらには砦に無い工夫が一つしてある。

 友好的か敵対的かで一々揉められても困るので、ある程度勢力別になるよう分けて、出入り口が別になるよう作ってあるのだ。

 「何故?」と問われれれば、「人数が多いので速やかに入退出できるよう」と言い訳できる。それ以上は相手の邪推というものだ。それが真実だろうがそうなのだ。

 

「アグス師の言うことにゃ。ヨッホッホー、ヨッホッホーのホ」

 

 こちらの建築物は完成したのだが、参加者のほうで少し問題があるようだ。

 まずいの一番に参加表明したのはマルカルスだ。

 こちらはそもそも政府上層部がまだ混乱状態である。誰かがどこかをつつけば、思いもよらぬところが爆発しかねない、という恐ろしさがある。

 首長側もマダナック側も迂闊には動けず、こちらからの指令を唯々諾々をこなすだけだ。一人だけ上機嫌なのは、マルカルスで私に協力し、現在も両者の監視を行う代わりに魂石の供給量が増えてほくほく顔のカルセルモ師くらいだろう。

 参加者は首長にするかマダナックにするか両方にするかで揉めているらしい。連中のごたごたは盗賊達がうまくまとめるから良しとして。

 マルカルスが表明した意義は、先日ブレックスが説明したとおり銀だろう。ここが北の僻地(へきち)とはいえ、交易と貨幣経済が成り立っている以上、銀の最大供給地の動向は無視できない。

 

 だからこそ、二番目に素早く表明を出したのはリフテンだ。マルカルスからの銀がウィンターホールドに入り、それが交易の形でリフテンにまで運ばれる。

 ちなみに、これを取り仕切っているのはスノー・ショッド家だ。計画の当初から融資をしてくれた返礼がやっとできたことで、こちらとしてもホッとしている。

 そして町の中で発言力が大きくなったスノー・ショッド家の後押しを受けて、つまりは「この復興速度は只事ではありませんぞ!」との進言を受けて、首長自らが足を運ぶことになっている。

 従うのは私兵と衛兵隊、それにこの縁をつないだスノー・ショッド家だ。ここで会談を穏便に済ませ、また一つ町の中での発言力を増そうというのであろう。こちらとしても、弱くも強くもない出資者が存在感を増してくれるなら、色々とやりやすくなる。

 

 地理的に両都市に挟まれるドーンスターとファルクリースには、それぞれの都市から誘いをかけさせた。

 誘い、というか実質『徴集状』である。いくら小なりとも一都市として威を張っているとはいえ、近隣の大都市の動向は死活問題になりかねない。それが西と東の双方から来るのだ。拒絶すれば今後の付き合いが難しいものになるだろう。

 あまりいじめてもなんだが、この二つの都市からの参加表明は割りとすぐに来た。こちらも首長と私兵と衛兵隊である。

 

 その状態でソリチュード、ウィンドヘルム、ホワイトランへ可否を尋ねる使者を送った。ソリチュードは駄目元だ。期待していない。

 ウィンドヘルムからは色良い返事が来た。距離も近いことであるし、私が首長と顔見知りでもある。首長から上層部一同、見学がてら皆で来るらしい。友好関係の誇示であろうが、それはこちらとしても望むところ。道が分かれるまでは存分に後ろ盾になっていただきたい。

 問題はホワイトランだ。バルグルーフが絶対に行かないと駄々をこねだしたのだ。

 いや、本来であればバルグルーフが正しい。ムートでも何でもないわけのわからん集まりにほいほい出かけていては、首長の威厳が霞む。

 ただしそれは政治的力学を一切無視すれば、の話だ。マルカルスの銀が切っ掛けだとしても、九都市の内、三分の二が参加する会議。これに参加しないとなれば、何か含むところがあるのではないかと言われても仕様がない。

 探られたくもない腹を穏やかにさせておくには、せめて形式くらいは整えなくてはならない。

 そういうことで、執政と私兵を送り出すことにしたらしい。「腹心二人を送っているのだから使者としては十分」と言えなくもないし、首長本人は参加していないのだから「わけのわからない会議など知らない」と言い張れなくもない。

 多分この発案はあの執政の翁だろう。それなりの(とし)だろうに。遠方への旅と会議。バルグルーフへの最後の奉公と思っているのかも知れない。この家臣の献身を汲み取れないようでは、バルグルーフに二つ名はつかないだろう。

 

 そんなこんなで、首長自らが来たり、使者で済ませたりと対応は様々だ。

 私は当初、呑気にどの町も首長が来るものだと考えていたのだが、思い直してみればそんなはずがないのは自明の理であった。ブレックスに指摘される前に気が付いて良かった。

 

「その妙に陽気な掛け声はなんなんだ。ついでに何を掘ってやがる。もう作業は終わったろう?」

 

「掛け声については陽気者ばかりだというお国柄なカタリナ式だ。掛けながら鶴嘴を振るうと疲れが吹き飛ぶ。

 作業は終わったと思ったんだがな。首長の砦なのだから、裏手に非常口を設けなければならんと思い直し、こうして掘っているのだ。敵の追撃を鈍くするためにも広くするわけにもいかん。そういうわけで、私一人で作業している」

 

「……非常口の必要性について見落としていたのは俺の落ち度だ。ただその役は召喚術師に代われ。お前には厄介な客の相手をしてもらう」

 

 ブレックスは言うやいなや踵を返してしまう。この否やを言わせない感じは、大人しくついて行ったほうがいいだろう。

 

 

 

 

 

「だから離せと言うのに。暴れもせずただ話がしたいというだけの私を捕える必要がどこにある」

 

「そう言われてもアンタ。暴れはせずとも好き勝手歩き回ろうとするでしょうに。大人しくしてもらう必要くらいありますわな」

 

 一人の男と衛兵が揉めている。

 

「アレだ」

 

 ブレックスが耳打ちで言う。

 

「いきなり上街入り口で『自分は上級王サファルの子、トリグである。首長と話がしたい』と宣いやがってな。ホラでも面倒臭えが、事実ならもっと面倒臭え。というわけで政事の相談役様としては『否』だ。どうにか武官の範疇に回すから、適当に嬲って追い返せ」

 

 耳打ちを終えたブレックスが自称トリグへ近づいていく。

 

「ようこそおいでなさいましたトリグ様。生憎と首長は体調が優れず()せっております。要件は執政か相談役の私ブレックスが承りましょう」

 

「おぉ! ようやく話のできる者が来たか。ならお前でいい。聞いてくれ。私は此度開催される会議に、非公式で参加したいのだ。我がソリチュードとの関係を考えれば、納得できぬ話ではあるまい?」

 

 なるほど。ブレックスの、虚実どちらでも面倒臭いという勘はあたっていたようだ。

 

「申し訳ございませんが、ご期待には添えません」

 

 自称トリグが「何故だ!」と詰め寄るが、さもありなん。世間を知らなすぎる。私に思われるのだから相当だ。

 

「まず、トリグ様はお忍びでいらしたご様子。そしてトリグ様と面識のある者がこちらにはおりません。つまり、あなたが本当にトリグ様であるのかすら、こちらには計りかねるのです」

 

「身元を証明しろと? 面倒だな。それなら暫く宿に泊めてくれ。そうすれば各地の首長がやってくるであろう。特にウィンドヘルムのウルフリック殿とは面識がある。彼の御仁に確認してもらえばすぐわかることだ」

 

 すぐって……。

 

「ウルフリック様がこの町へおいでになるのはひと月以上先の話です。そのあいだ、身元不明の貴方を町に置いておくことは、防犯上見過ごせません。どうか、お引取りを」

 

 なるほど。トリグなりに勝算があって突撃訪問をかましたわけか。

 しかし、勝手に入ってくる各地の斥候ならいざしらず、堂々と「次期上級王である」と名乗られてしまうと、こちらも形式張った対応を取らざるを得なくなるわけで。

 なんなら、完全に身分を隠して、ウルフリックの到着と共に事を起こしてくれれば良かったのだ。そうすればこちらとて折れざるを得ない。面白くはないが、面倒は減った。

 

 私が明後日のほうを向いて欠伸をしているあいだにも、トリグの舌戦は止まらない。身分証代わりの剣だとか、帝国軍の誰と知り合いだとか。 

 少々飽きるのが早いのではないかと思うが、ブレックスがこちらに目配せを寄越す。あとは私がなんとかしろ、ということなのだろう。

 

「どうしても、と仰るなら。音に聞くトリグ様は武芸に熱心なご様子。であれば、我が町の私兵と手合わせをして、その腕前で身の証を立てる、というのは如何でしょう?」

 

「なんだ、そんなことでいいのか! 意外に話がわかる口じゃないか!」

 

 で、あとは私がひたすら痛めつけて「帰りたい」と言わせればいいわけだ。

 しかしなぁ。相手は次期上級王だぞ。ラーナルクとの鍛錬とは違い、力加減が難しい。下手に恨まれても困る。禍根を残さない程度で心を折る。我が友はなかなか無茶を行ってくれる。

 

「では、私が相手をしましょう。得物は鍛錬用の木剣でよろしいですね。何処からでもどうぞ」

 

「あぁ、それでは……参る!」

 

 馬鹿正直に真正面から大上段に構えて来たのだが……遅い。額をひと打ちして気絶させる。

 気絶させたことで衛兵隊が騒ぎ出すが、全力でこれなら、これ以上の手加減は無理だぞ?

 幸い回復薬を嚥下することはできるようなので、上等なヤツを飲ませてやる。最近は我が弟子の腕もそれなりのものになってきているのだ。

 

「……ハッ! 今、雷撃が起きなかったか? いや魔術ではない。剣撃自体が雷のような不思議な感覚で。白昼に紫電を見たのだ」

 

「……ご感想はよろしいのですが、まだやりますか?」

 

「も、勿論だとも。ここで腕前を認められなければ、私は私と認められないのだ。そんな馬鹿な話があってたまるか。次、行くぞ!」

 

 今度は正眼の構えのまま向かってくる。額を打つには木剣が邪魔なので、手首のあたりにひと当てしてどかしてから、がら空きになった額を再び打つ。

 先程同様気絶したので、これまた同様回復薬を飲ませる。

 

「……ハッ! 今、火焔が手首に走らなかったか? ぐるりと巻き付くような火焔。そして気付けば再びあの紫電が。い、いや、次だ!」

 

 

 

 その後もトリグは何度も気絶させられては妙に詩的な表現で私の剣を表し、そうしてまたかかってくる。

 私はその様子を見て、この男のことを『面倒臭い男』から『面倒だが面白い男』と認識するようになっていた。

 

 私が呼ばれたのが丁度昼頃。今はもう日が山の稜線に沈もうかというところだ。

 ブレックスが確認にでも来たのだろう。であるのにまだ追い返していないことに怪訝な顔をした。

 文句大有りという態度で詰め寄ってくる。

 

「どういうつもりだ」

 

「いやな。この男、妙に頑丈なのだ。すぐ伸びるのだがな。帰りたがるそぶりも見せん。それで……すまん。有体に言って気に入った。鍛えてみたい」

 

 ブレックスが不機嫌顔で脛を蹴ってくる。この蹴り方はだいぶお冠なヤツだな。あとで詫びの酒を持って行かねばなるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 散々っぱら気絶させられたトリグは、己の未熟を痛感したのか、我がウィンターホールド衛兵隊の訓練に参加させても特に文句は言わなかった。というか、どちらかと言えば模範生だ。

 朝は誰より早く来て、軽い運動から素振りを。夕は整理体操を誰よりも丁寧に行い、翌日、万全の体調で訓練に挑めるように気をつけている。

 初めのうちは付いていくのもやっと、という有様だったのが、今では隊員に少し劣る程度にまでなった。ちなみに我が衛兵隊員の実力は、イーストマーチ衛兵隊の上澄みと同程度である。鍛えたかいがあった。

 

 訓練の項目として、隊員は私との戦闘と隊員同士での戦闘がある。トリグもそれに参加させた。

 隊員同士の戦闘では、なかなかどうして我が衛兵隊を圧倒する場面も見受けられる。元々筋が良かったのだろう。

 

 私との戦闘では……めげない精神は大したものだと思う。隊員達は慣れているが、新参者が何度もくってかかれるほど温い扱きはしていない。

 とはいえ、初めて会ったときのような遠慮ない一撃、というわけでもない。訓練での戦闘はあくまで訓練。教え導けるよう私も腕前をそれなりに落とす。

 するとどうなるか。会ったときよりも酷いことになるのだ。

 初めて会ったときはとにかく気絶させ続けた。頭に障害が残りはしないかと心配になるほどさせ続けた。

 しかし訓練では、骨折程度の怪我が頻発する具合に腕前を合わせてやってる。そして腐るほど有る薬で傷痍隊員を出さないようにしている。訓練は永遠に終わらない。

 

 半月もすれば、隊員との戦闘では互角かそれ以上だ。

 真正面から攻めても強い。変則的な虚実を交えさせても戦える。逆に、力押しで来られても冷静に対処できるし、虚実を交えられても巌のように耐え反撃に転じる。最も不足していたのは戦闘経験だろうな。

 

 私が教えたのは一つだけ。「相手にされて嫌なことをしろ」だ。短い訓練期間にならざるを得ないトリグに、アレもコレも教えることは不可能である。だから一つだけ。

 訓練でのトリグを見るに、その教えを見事に体得したようだ。最初は面白い玩具くらいに思っていたのに、何とも逸材であったな。

 私は特に成績の良い隊員を館に招いて食事を振る舞うようにしている。トリグにもそれをしてやろうと思った。

 

 

 

********************

 

 

 

 トリグは、師と仰ぐ男に晩餐へ誘われた。

 今ならわかる。人目のある場所で名乗り出た自分は、相当な厄介者だったのだろう。であるのに自分の蒙を啓き、鍛錬までつけてくれる。これが師でなくてなんであろう。

 晩餐自体は厄介者の新参者がと恐れ多くて断っていたのだが、隊内では度々あることのようで、素直に受けるようすすめられた。ついでにいうと、隊舎や宿屋で出る食事より、ずっと美味しいのだとか。

 そこまで言われては、断る理由も無い。日も落ちた頃、喜び勇んで師の館の扉を叩いた。

 

「来たか、トリグよ。入ってくれ。丁度、夕餉の支度もできたところだ。さあ、冷めてしまう前に早く」

 

 男の勧めに従って扉をくぐると、涎と腹の音を誘う臭いがしてきた。たまらん。

 テーブルに並べられている料理を見るに、別に豪盛なわけでもない。どちらかと言えば庶民的だ。だというのにこの香り。ブルーパレスではお目にかかれないだろう。

 部屋にはもう一人、男がいた。

 

「そう待ちきれないという顔をされると、作ったかいがありますな」

 

「紹介しよう。私の錬金術の弟子でな。コランドという。この料理も、七割方此奴が作ったのだ」

 

 トリグは驚いた。男は錬金術まで修めているのか。すると自分が飲んでいた回復薬は男とコランドの作った物か。

 味や効能に差があったのを思い出す。上等な物が男の作成した回復薬だろう。

 

「そうだ。折角だから、ここ最近、此奴の回復薬をしょっちゅう飲んでいる上客に意見を聞いてみようじゃあないか。どうだ、感じた不満や注文は無いか?」

 

 正直に言ってもいいのだろうか、とトリグは返答に迷った。

 トリグは回復薬の使用頻度が高い。それだけ金銭的にも世話になっているということで……。コランドをちらりとみると、紙の切れ端とペンを持っている。これは多分、失礼には当たらないのだろう。

 

「何度も助けていただいておいて申し訳有りませんが、その、独特の甘みと苦味が合わさって苦手な味になっています。少し覚悟を決めないと飲みづらいというか。そんな具合です」

 

「味ですか……」とペンを顎に当てて考えるコランドだが、そこに男が「味は大事だぞ」と割って入る。

 

「戦闘の僅かな隙に回復薬を飲もうとする。大概の場合は興奮からどんな味でも飲めないことはない。ただ、普段から苦手意識を持っていると、一瞬躊躇するかもしれん。その一瞬が勝敗をわけるかもしれん。『たかが味』と侮ってはならん」

 

 男の言葉にコランドは恐縮して、急ぎメモを取っている。

 

「と、折角招いたのに弟子の紹介で時間を取るのもなんだな。早速食事にしよう。今日は肉料理だ。味は保証しよう」

 

 男に(いざな)われて食卓に着き、メインの肉からがぶりと頬張る。うまい。

 やや辛味を強調する味付けだが、やり過ぎではない。何より焼き加減が絶妙だ。肉の旨味を引き出しながら、歯ごたえでも満足できる。確かに、これは期待させられるだけのことはある。

 シチューにも手を出す。これもうまい。こちらにも肉は入っているが、主役は野菜だ。いくつもの野菜が深みのある味を作り出している。うまい。

 酒にも手を出す。やや酸味の強い蜂蜜酒だ。食事が進むように、との気遣いだろう。これもうまい。

 

「どうかな? 我が家の夕餉は」

 

「どれもこれも美味しいです。宮殿の料理にだって負けていません」

 

 トリグが正直に答えると、男は大笑いしてコランド殿の背をバンバンと叩く。「良かったな。これで錬金術以外にも食い扶持ができたぞ。稼げる腕は、多ければ多いほうがいい」

 コランドは錬金術以外の職に触れられたことで微妙な顔をしているが、悪い気分ではないようだった。

 それに対して男は、打って変わって組んだ手の指を遊ばせて、何かはっきりしない様子を見せた。コランドへの態度も、気まずさを紛らわせるためのものに思えてくる。

 

「さてトリグ。今日お前を呼んだのは労いの他にも事情があってな」

 

 来た、と思った。いくら自分が衛兵隊を相手に健闘できるようになったとて、全体の中で一二を争う、というわけでもない。何か別の話がしたくて夕餉に誘われたのだと見当はついていた。

 

「じきにこの町でムートに近い会議が催される。知っているな。お前もそれを目当てに来たのだろうから。

 そこで一つ、口裏を合わせてほしいのだ」

 

 口裏。何を言わされるのだろう。あまり我がソリチュードに不利益を為すのならば、性根を据えてお断りしなければならない。

 

「お前は衛兵隊と一緒に訓練に精を出して充実した日々を送っているかもしれんが、このままでは会議への参加はちと難しい。……座れ。聞いてくれ。

 お前は町へ来たその日に名乗りを上げた。このままだとウィンドヘルム一行の到着を待って正式に『ソリチュードのトリグ』として扱うわけだが、それまで、ひと月以上も不適切な扱いをしていたことになる。お前の存在をどれだけ隠しても、名乗りを覚えている者はいるだろうし、訝しむ者も出てくるだろう。それは非常に不味いのだ。

 そこで、お前は私の勇名を聞いて弟子入りしにきたことにしてくれないだろうか。自慢ではないが、ウルフリック閣下の前で腕前を披露したこともあるからな。無理のある話ではない。

 私はお前の名乗りを半信半疑に思いながらも、弟子入り志願を無碍にするのも忍びない、と思いそれを承諾した。そしてウィンドヘルム一行が到着してみれば、疑っていた人物は本当にソリチュードのトリグであったのだ、と明らかになるのだ。つまり私達のあいだに師弟の関係はあっても、はっきりとした身分は知らないまま接していたことにするわけだな。……どうだ?」

 

 正直拍子抜けした。自分の失態を覆い隠すために、男が悩んでいる。こちらこそ詫びねばならないところ。トリグは男に謝意を告げ、喜んでその案に乗ることを伝えた。

 それに男の提案は、一部に目を瞑ればほぼ事実を開示しているだけにすぎないのだ。口裏を合わせるも何もない。トリグは堂々と公言すればいい。

 自分が解決しなくてはならない話であったというのに、男はホッとした顔で「よくぞ言ってくれた」と喜んでいる。後ろめたさが尋常ではない。

 酒を(あお)りながら「これで心配事は無くなった。あとは飲んで食って、楽しむだけだ」と機嫌良く料理に手を伸ばしている。自分も、後ろめたいのはそのままではあるが、男が笑ってくれている。それだけで、残りの料理を美味しくいただくことができた。

 

 

 

 

 

 訓練後に余裕が出てきてから、トリグはこのウィンターホールドの町を散策するようにしている。なにせ前知識と全く違うからだ。

 たしかに、驚異的な速度で復興が進んでいるとは聞いていた。しかし、それが始まる前は村と呼ぶのが相応しい有様であったとも聞いている。九都市ではなく『八都市』ではないか。そのような言葉を聞いたこともある。

 それがどうだ。廃墟など何処にも無く、海岸沿いの崖には転落防止の石壁がずらりとならんでいる。そして元々町があった高台を上街として町の有力者が住むように整備し、現在も拡張中の下街と言われる山肌を削って作られている町には、移民がこれでもかと住み着いている。

 下街にはウィンターホールド大学の聴講生も多く住んでいるようで、あちらこちらで魔術談義がなされている。

 そして、それとは別に目を引くのがカジートとアルゴニアンである。どうやら商売で来たようだが、人足達は下街の宿屋で羽根を伸ばしている。

 

 衝撃的だった。

 この閉鎖的なスカイリムの地で、あらゆる人種が(レッドガードを除く)差別なく一つの町の住民として過ごしているのだ。

 スカイリムの町では、何処へ行ってもどうしたってノルド優先の気風は取り除けない。当たり前といえば当たり前だ。誰が好き好んで先祖代々受け継いできた土地を余所者にくれてやりたいものか。

 ただ、一度全てを無くしたこのウィンターホールドであれば、唯一例外的に可能であったのかもしれない。

 それだけ多種多様な人種が集まっていればいざこざの一つや二つもありそうなものだが、起きてもすぐに精鋭たる衛兵隊が群れを成して駆けつけて来る。それをわかっていて騒ぎを起こす者もいないのだろう。

 ここは他種族にとっての楽園だ。トリグはそう思った。

 トリグも自然とノルドを優先させる考えを持っている。しかし現実的にスカイリムを治めるとなれば、他種族との付き合いも考えていかなければならない。

 であるならば、ここはスカイリムのあるべき姿の縮図だ、と感じた。

 あぁ、父上。ウィンターホールドを知らずは、スカイリムを知らず、です。トリグは選択を間違えませんでした。この町は直に見なければわかりません。




いつぶりかの感想乞食です。
公私にわたり環境が怒涛の勢いで変わり続けまして、疲れました。モチベーションが地の底を這っております。ご協力いただければ幸いです。
感想は、以前の話のものでも構いません。

というか今回もそうとうヤバいです。多分誤字が多数あり、内容もギリギリじゃないかと。
すみません、今はこれが限界です。
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