DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
前回は多すぎましたね。限界だったとはいえ、申し訳ありません。
前回の粗筋。
お出迎えの準備は出来た。
お騒がせ御曹司トリグが来て、オリ主に気に入られ、鍛えられることに。
トリグの目から見て、ウィンターホールドいい感じに栄えているとのこと。
色々と言い訳が後書きに書いてあります。「読む前に変な情報を仕入れたくない」というかたはそのまま本文へ進んでください。
やや駆け足で物語を進めて来たように思う。少しこれまでのことを振り返りつつ、ここ最近の出来事をおさらいしてみよう。
首長がムートもどきの開催を宣言してからというもの、ウィンターホールドの住民達は皆、現実感の無い、どこか夢の中のような気分で過ごしていた。
会議をするのはいい。しかし主催国がウィンターホールドだって? 数年前まで何にも、それこそ宿屋と、粗末な首長の
自分達の親か、その更に上の代に起きた大災害。今となってはもうそれそのものを知る者はほぼいないが、大災害後の惨状は、住民なら誰でも知っている。
あったはずの町が、突然ケーキを切り取ったように無くなり、踏みしめていた地面は当然断崖となる。あまりの高さに見るものは目が眩むし、嘘だと思いたい者はそのまま何人か身を投げた。
ウィンターホールド自慢の大城壁も削り取られた。どんな敵が攻めてきても、この城壁さえあれば怖いなどは無いと頼りにしていた城壁は、陸地と一緒にいとも容易く削り取られた。それはそうだ。自分達の想像していた
家族を失った。友人を失った。顔見知りを失った。気に食わない者を失った。どうとも思わない者を失った。家を失った。馴染みの店を失った。首長の砦を失った。お気に入りの場所を失った。秘密の隠れ家を失った。
何より、誇りを失った。
生き残った住民から移住者が絶えなかったのは、責められることではない。
ただでさえ生活が成り立たないうえ、そも、この地に留まるだけでも辛いのだ。在りし日を思い出し、理不尽に怒り、無力感に苛まれ、無気力に全身を蝕まれる。その繰り返しなのだ。むしろ留まるほうがどうかしている。
それでも、少数のどうかしている面々はいた。
どうにか権威の象徴と憩いの場として、廃材を利用し首長の砦と酒場だけは取り繕った。
そこまでが限界だった。
一段落ついたところで、ずっと努めて目を逸らし続けてきた現状の
そうして『村』としか呼べない規模に落ち着いたウィンターホールドは、何十年と卑屈な思いを胸に暮らし、諦観だけを友に過ごしてきた。
それがどうだろうか。錬金術師を名乗る男が人足らしき男達を率いて村にやってきてからというもの、何もかも全てが変わっていった。
あとから振り返れば、魔法か何かに化かされたようだと思える。しかし男達の働きを直に見てきたウィンターホールドの面々は、着実に、一つ一つ、まるで設計図をなぞっているかのような、そんな堅実さを覚えたのだ。
頭目の男は錬金術師を名乗り、町中の人間を診察して回った。人足達は別口で、困っていることはないか、小さくてもいいから叶えたい望みはないか、と聞いて回った。
その後男達は、ウィンドヘルムからダークエルフを大勢引き連れて来た。この流れは今も細くはなったが無くなってはいない。ウィンターホールドの住民達は始め、ダークエルフ達を毛嫌いした。長くノルドだけで生活してきた、というかそもそも灰の肌をした耳長の種族なぞ、噂話か歌の中にしか存在しなかったのだ。勿論、お目にかかるのも初めてだ。すぐに受け入れろというほうに無理がある。
だが、ダークエルフ達は住民達が放置していた町の復興を、熱心に行っていた。タムリエル最北端であるスカイリムの中でも一際厳しい寒さの地域でしか目にしないスノーベリー。それが群生しているのがウィンターホールドという土地だ。だと言うのに、普請に従事するダークエルフ達の体からは熱気で湯気が立っているほどだ。
聞けば、ウィンドヘルムでは貧民街に押し込められて、町を歩けば罵倒され、何かあれば厄事の犯人に仕立て上げられ、とても人としての扱いを享受することが無かったのだという。
だから必死に働く。一日でも早く、ウィンターホールドの住民だと認めて貰えるように。この地のほかに、居場所なんて無いのだから。
住民達はダークエルフ、もといダンマー達の抱える閉塞感に共感を覚えた。それにダンマー達が建てているのは、錬金術師を名乗る男達の館だと言うではないか。
新参者とはいえ町のために奔走する男の家を、これまた必死になって働き作っているダンマー達。これを応援せねばウィンターホールドの人間ではない。
住民達は何くれダンマー達の世話を焼いた。酒や、夜中には温まるスープを差し入れたり、生活していて困っていることを聞き出したり。
住民達がダークエルフをダンマーと呼び始めたのもこれがきっかけだ。
ここでウィンターホールドにとって何が一番大きかったかと言えば、スカイリムでも保守的な性質を持つ町の住民に、
ダンマーを連れてきた当の本人は「知り合いの首長ですら厄介者扱いしている貧民街の連中なら連れ出しても構わんだろう」と東の首長に許可を取り、「さぁお前達の居場所はここにしか無いのだ働け」と扱き使っただけのつもりなのだが。
そこは裏で計算の内に入れているのが、人畜無害な人足の皮を被っていたブレックスの手腕である。
閑話休題。
ウィンターホールドの住民が、いやウィンターホールドという町がダンマーを受け入れたことによって何が変わったか。
ここで更に言い替えるなら、それはウィンターホールドという町に『
それを意識してかせずか、早速とばかりに男は単身、魔術大学へ乗り込んでいく。住民の心配を他所に、アークメイジやマスター・ウィザードと知古を得たらしい。
これより魔術大学は、男の客員研究員としての協力を引き換えに、町の復興に大きく貢献していくことになる。
ほかにも、何処から伝手を引っ張って来たのか、カジートとアルゴニアンの商隊が頻繁に訪れるようになった。
カジートは街道や町の復興具合に関心を示し、商売だけでなく移民の相談もしている。アルゴニアンも移民については相談しつつ、こちらは崖をつづら折りに削って造っている港の進捗に多大な関心を寄せていた。
陸を行くことの多いカジート商隊と海を行くことの多いアルゴニアン船団の違いが出た形だろう。
そうこうしているうちに、魔術大学が新しい魔術を開発した、とのことで多少騒ぎになった。住民達下々に難しい話はわからないが、どうも防衛上問題が有るとかなんとか。
だが大学側は各地の首長に対し、件の魔術の利点と欠点を含め詳細に弁明し、安全性に何ら問題の無いことを証建ててみせた。
ウィンターホールドの首長と大学のアークメイジが和解をしたとき、住民側の誰も、それが真なるものだとは思わなかった。
しかし大学が復興に深く関わっている今になってみると、大学の評判は、いつの間にか町のそれにも大きく関わるようになっていた。
この一件では、住民一同、胸を撫で下ろしたものであった。
大学が各地の首長から睨まれないかどうか。そんなことを気にしているあたりで、ほんの数年前のウィンターホールドとは全く異なる関係性を築いている、という事実に自覚的な住民がどれだけいるか。
町に人を受け入れる体制ができ、大学が名を挙げたことで体制が整ったとばかりに、大学はタムリエル全土へウィンターホールド魔術大学への奨学を発布した。
始めは半信半疑な者も多くいたが、それらの心配をよそに大学への聴講生は年々増えていった。ウィンターホールドの元々の住民達は、次の年には何人の聴講生が来るだろうか、と賭けの対象にまでしている。
大学には様々な聴講生が訪れた。というかむしろ、結果としてレッドガード以外の全ての種族が集まった。レッドガードがウィンターホールドを尋ねないのは、この町を復興させた男のせいだ。男は武具への付呪でも達人級であると高名である。
レッドガードの文化的にそういった魂を扱う術というのは、敬うべき御霊を汚す禁忌なのだ。ウィンターホールドとしはレッドガードとも友好関係を結びたいのだが、中心人物が蛇蝎の如く嫌われているとなれば、難しいだろう。
先述のとおり意地でも来ない種族もいれば、来て勝手に驚いた種族もいた。ハイエルフだ。彼等の初めは、二十人前後の小集団で現れた。
全員が魔術師見習いだというのに、エルフの軽装鎧を身に着け、簡素ながらも武装し、殺気立っている。外套には血痕も見える。ここに来るまでに、何度か襲撃にでも遭ったのだろう。
無理もない。大戦の記憶が新しいこの時分、ハイエルフがノルド主義の強い土地に姿を現せばどうなるか、火を見るよりも明らかだ。いくら自分達は非サルモールだと訴えても変わりないだろう。
先頭の、頭目の女が住民達の目を見やる。珍しいものを見た、という反応は伺える。全体的に敵対心は無いようだが、油断はできない。
というか視線を向ける住民の
そこに町の入口を固めていた門番の片方が女に近づく。未だ門を誂えられていないウィンターホールドにおいて、門番の役を担う衛兵は精鋭だ。
戦い慣れしていそうな厳しい男に近づかれ、女は咄嗟に自己防衛が働き剣に手をかけた。それは女にとって、致命的悪手だった。
治安維持を担う衛兵に近づかれて剣に手をかける。これでは「これからこの町に殴り込みをかけます」と宣言しているようなものだ。
普通はそんなことはありえないわけで。一般的な衛兵側の頭にもそうよぎって、もう少し穏便にことを済ませようとするものなのだが……。
女にとって残念なことに衛兵達にはそれをやりかねない男に心当たりがあった。ならば最悪を想定して行動しなければなるまい。
衛兵は即座に緊急事態の笛を鳴らし、人数を集める。
女は慌てて事情を説明しようとするが、集まった衛兵達の切っ先は突き付けられたままだ。
どうしてこんなことになったのだろう。女が剣に手をかけてしまったのは、完全に無意識からだった。
サマーセット諸島からシロディールを経由してウィンターホールドに辿り着くまで、何度も襲撃にあったし、ハイエルフだという理由で憎しみの刃を向けられもした。
本当なら船で大陸をぐるりと回りたかったのだが、サルモールは『反サルモール』どころか『非サルモール』すら裏切り者扱いして、絶対に逃さない。
そのため港の警備は厳重であり、船での移動は危険だと判断し、辛く険しい山越えの大陸縦断ルートを選択したのだった。
そのあいだに否応無く培われた警戒心と瞬時に戦闘態勢へ移行する癖、そして常にギリギリの体力も相まって、火にあぶられる糸のように切れそうな精神力。それらが噛み合った末の、最悪のタイミングのやらかしだった。
女は遅ればせながら、全員に武装解除を命じた。剣も鞘に収めて鞘ごと地に置き、外套まで脱ぎ、懐に暗器を隠し持ってないことを証明した。
こうなると困るのは衛兵のほうだ。自分は職務に従い行動しただけで、現状の『弱い者いじめ』のような絵面は望んでいない。気のせいか、仲間からの視線も痛い。
まぁそれでも、最初の緊張した状態よりは話ができるか、と一通り決まり文句での質疑応答を済ませてしまおうとしたそのとき、小走りで気の良さそうな男が駆け寄ってきた。
「やぁやぁ。随分大事になってしまったね。おおよその事情は聞いているし、彼女達に我々を害する意思は無いように思える。というか、諸君も知ってのとおり、彼女達の思惑がどうであれ、それを叩き潰せる男が我が町にはいるだろう? そう神経質になることはないよ」
遅れてきた男が声をかけた途端、場の雰囲気が一遍に和んだ。男の所作や立場などもあるのだろうが、一番は人徳だろうな、と何となく思わせる人柄だった。
しかしこれで困ってしまうのが門番の衛兵だ。穏やかに『何となく』な具合に場を収拾されてしまっては、自分の面目が立たないし、同じような事態が起きたとき、どう対処すればいいのかわからなくなる。
そこで遅れてた男(ハンというらしい)に詰め寄って何やら話しているが、ハンは言う。
「勿論君の対応に間違いなどないとも。彼の訓練の成果が良く現れているね。敵を過小評価せず、可能な限り迅速に味方の数を増やしてことにあたるべし。見事だ。私から彼にボーナスの支給をお願いしてもいいくらいだよ。対応に関しては、今回と同じでいいんじゃないかな。しっかりした門ができればまた違ってくるかもしれないけれど」
上役か同格なのかはわからないが、門番の仕事ぶりに関しては随分買っているように見える。だが門番のほうは、今なお仲間の視線が鋭いことを気にしてか(ボーナス云々が原因かもしれない)、まだハンに詰め寄っている。曰く、最終的には武装解除したが、それまでは此方の戦力を量っていただけで、それまでの言動で自分は危険域の殺気を感じた、など。
門番の弁明が鬱陶しくなったのか急ぐ理由があるのか、ハンは「殺気とはこういうものですか?」といって門番を睨みつけた。それだけで門番は何も言えなくなり、数拍後に絞り出した謝罪と共に定位置へと戻っていった。
これは移民の女には預かり知らぬことであるが、ウィンターホールド首長の私兵であり衛兵隊隊長である男の言葉として、衛兵隊に向けて「死にたくなければ、ブレックスとハンだけは敵に回すな」というものがある。
曰く、自分であれば敵に回ろうが適当に転がしてから理由を聞いて、許せなければ殺すし、そうでなければ罰として訓練の密度を上げてしごいてやるだけだ、という。
だがブレックスとハンは駄目だ、と。
ブレックスを敵に回した場合、ブレックスが邪魔だと判断した瞬間、口に出さなくともハンが殺す。ハンが殺さなくとも他の手下が殺る(あえて生かしておくときなどは、都度ブレックスから指示が出る)。だからブレックスは敵に回すな。
ではハンは? ハン自身が腕利きということもあるが、ハンの手に負えないほどの相手であればブレックスが殺す。そしてブレックスでも敵わない相手であれば、自分に御鉢が回る。自分は友人からのその頼みを断らない。だからハンも敵に回すな。
門番の男は、自分の足がハンという虎の尾の上に乗りかけていることを、遅まきながら気づいたのだ。ハンのほうにことを荒立てる意思が無かったため、許されはしたが。
閑話休題。
ハンが事の収拾を急いだのは、ごく単純な話。この女頭目、気丈に振る舞い弱みを見せまいとはしているものの、気力だけで立っているだけの体力極限状態なハイエルフ一党を、迅速に首長の下まで案内する必要があったからだ。気力の糸が切れて倒れられでもしたら色々と面倒なことになる。町の玄関口でぐだぐだと時間を食っている場合ではなかったのだ。
足早に移動しながら、簡単に町の案内と、これからの段取りを説明される。
女はそれらを聞き漏らすまいと集中して聞いてはいたが、どうしても尋ねたいことがあって遮ってしまった。
「私達はハイエルフの集団です。先程の一件に関してだってなんとも思っていません。むしろこれまでの道中に比べれば、随分と
もし何か理由があるなら、話していただけませんか? 私達に期待されている役目があるのなら、早めに知っておいたほうが上手く動けると思います。知らないほうが都合がいいということでしたら、これ以上の追求はしません。
私達はただ、静かに魔術を学びたいだけなのです」
「いやはや、随分核心に踏み込んで来ますね。流石というべきかなんというべきか。サマーセットからはるばるこの北限までやってこようと思うだけのことはある。肝が座っていらっしゃる。女傑というヤツですな?
心配事を抱えていていは神経を擦り減らしてしまいますから、一応こちらの意図はお話しますがね。
貴女方に特別何かしてもらおう、ってことは無いんですよ。正確に言えば貴女方が我が町に来た。ウィンターホールド魔術大学に入学した。その事実が欲しい、といったところでしょうか。
道中、この町の噂はどの程度?」
「まだ実際に目で見たものすら僅かなのではっきりとは言えませんが、真実もあれば、突拍子もないものまで。
私達は集団では目立ちますから、数人ずつの班に分かれて行動し、最終的にウィンドヘルムかソリチュードに集まり、このウィンターホールドを目指す進路を取ったのです。ですから広範囲で噂を耳にはできましたが、その分ホラ話も山程仕入れてしまいまして」
「なるほどなるほど。いや、ご苦労お察し致しますとも。ではもう少し補足説明をしたほうが良さそうですね。
現在我が町は復興の最中です。大災害は……ご存知ですね、失礼致しました。
村と呼べるかも怪しい少集落だったこの町を復興すること。これが我々の当面の目的です。そのために、大学との関係も改善しました。以前のような町と大学のいざこざはありませんから安心してください。
そして町の復興に無くてはならないほど大学が町に深く関わっているわけですから、我々としても大学の繁栄にひと肌脱がざるを得ません。というか、大学の利がそのまま町の利に直結しているんで、恩着せがましい言い方をするのも違うんですが。
魔術の才が僅かでもあれば誰でも分け隔てなく門戸を開いている大学。その噂を聞きつけてウィンターホールドを目指してくる貴女方のような方々。そして貴女方のような『ハイエルフですら偏見なく受け入れた』という評判を得る我々。それを聞きつけて更に集まる聴講生! あとはもう笑いの止まらない好循環!
どうです? 『貴女方が我が町に来た』云々という話については十分ご理解いただけたかと思いますが」
女はどう反応すべきか頭を高速で回転させていた。
客観的には腹を割って事情を話してくれたようにも思える。ただ、だからこそそれを邪魔するようなら容赦しない、という脅しにも聞こえる。そしてそれはおそらく間違いではない。
というかハンが言ったことが本当だったとして、何処かに自分達を貶める策が潜んでいるのではないか? いや、やはりハンが一部、ないしは全部に嘘をついていたとして、それにどう対処する? 相手はこの町でも顔役のようだ。そこにハイエルフで新参者の自分達。仮に自分達が正しくても不利な状況になれば、勝てる要素が一つも無い。
そもそも、女は馬鹿ではないが、女の頭脳は研究のためにあるのであって、権謀術数のためにあるのではない。化かし合い腹の探り合い裏のかき合いに使うものではない。
女は一度思考を止め、ハンの言葉を全面的に信じることにした。そしてそれは、後に女の小集団全員に通達される。用心しつつも、まずは信じる。受け入れてもらうには、自ら郷に従う他ないのだ。
その他あれこれと話ながら、女達は相談役だというブレックスという男に引き渡された。そこで旅の泥等を落として、首長への謁見に映るらしい。この頃には女の顔から迷いは消えていた。
それを見ながら、ハンは疲れた素振りを隠しもせず毒づく。
「フレイみたいな陰謀大好き変態野郎じゃあるまいし、こちとらそんな年がら年中言の葉に裏の意味を張り付かせていられるかっての。怪しむ事情は理解するが、毎度毎度その緊張を解くこっちの身にもなってくれ。なんで厄介事があったらみんな俺を呼ぶんだ? 『顔が優しそう』ってこりゃあ作ってんだっての。
でもなぁ。頭に回すなんて本末転倒だし、旦那には間違っても任せられねえし、誰か手の空いてるヤツ……なんて一人もいない台所事情だし。結局、俺が走り回るしかねえのか。はあ」
一党の副長を務める男の悲哀は、ウィンターホールドの空に解けていった。
それから少し立って。ウィンターホールド主催で
始めは誰もが鼻で笑った。そんな馬鹿な。ムートは上級王が招集するものだし、仮にこの町の首長が代理を務めるにしたって……ねぇ? そんなところだ。どうしても数年前までは寒村だの少集落だっただのという卑下が消えない。
だが首長の砦に勤める役人の一人が言うのだ。「本当なんだよ! 相談役と首長様が話しているのをこの耳で聞いたんだ。『じきに発表も行う』って言ってたんだよ!」
これが大ボラならデイドラも裸足で逃げ出す私兵のしごきが待っている。それを理解しているウィンターホールドの住民にそんな愚か者はいないだろう。
そして男は砦勤めである。けして又聞きの噂ではなく本人が確かに自分の耳で聞いたと。つまりは真実の可能性が高いと。
噂から数日間。住民達は眠れぬ夜を過ごした。それは先住民であれ、移民であれ、大学の聴講生であれ、町と大学の上層部を除いた皆がそうだった。
そうして皆のやきもきした気持ちが限界に達した天気の良い日、町の広場に首長と相談役に私兵、次にアークメイジとマスター・ウィザードが現れ、ムートもどきの開催が発表された。と同時に、スカイリム全土へ布告するとも宣言された。
宣言を聞いた市民はぽかんとした面持ちだった。先住民にその様子は多かっただろう。
聞き間違いじゃない? 本当に? この町で? やるの? 大丈夫? でもやるんでしょ? じゃあ準備とか……。 その前に……。 お祝いじゃない?
首長の代わりに声を張り上げたブレックスがあまりの静寂ぶりに眉をひそめていると、集まった住民達が爆発したような歓声を上げた。音だけなら達人級の火炎魔術並だとブレックスは思った。
だって。このウィンターホールドで。ムートやるって! 信じられない! 最初は「騙されたと思って」って言われて手伝ったり。渋々従っただけだったけれど。本当になった! この町でムートを! ウィンターホールド万歳! 復興万歳! おいまだ復興は続くんだぜ。あぁ、私兵の旦那は五大都市に並ぶデカイ町にするって言ってたぞ。マジかよ! やっぱぶっ飛んでるよあの人! 最高だ! 万歳!
なし崩しに始まったその日の宴は、丸一日続いた。多くの食料と酒が提供され、魔術大学からは色違いの火球が夜空に次々に打ち出されて皆を楽しませた。
更にそれから幾らかした頃、ウィンターホールドの広場ではまた人が集められ、マルカルスと相互友好条約を締結したと発表された。成し遂げたのは、首長の私兵が単独で、だとも。
住民達には色々とわけがわからなかった。
ウィンドヘルムやソリチュードなら理解できる。どちらもすぐ隣だから、安全保障のためにもどちらかと組むのはアリだ。そんなことは素人にもわかる。
だが何故スカイリム西端のマルカルス? あのあたりと組んで嬉しいのは、スカイリム中央に鎮座する交易都市のホワイトランなんかじゃないのか? というか、噂に聞く蛮族のフォースウォーンはどうするんだろう。大体、「成し遂げたのは、首長の私兵が単独で」ってなに???
確かに最近不在であることが多かったものの、自宅で寝起きして、錬金術で薬を作り、年寄りの診察回りをして、衛兵隊をしごいていたのは、住民達が見ている。それでなんでマルカルスに関われる? 意味がわからない。
あまりに意味がわからなかったので、住民達は大勢で私兵の下へ押しかけ質問攻めにすることにした。住民達は知っているのだ。この私兵、余程理不尽なことでなければ、大体
そうしたらあまりの鬱陶しさに辟易したのか、自棄になったように吠えた。「ええい、この私を誰と心得るか! 恐れ多くも日の出の勢いのウィンターホールド、その首長閣下に任ぜられし私兵であるぞ。朝にウィンターホールドに在りて、夕にマルカルスに在るなぞ造作も無いわ!」
誰もがそんな無茶なと思いはしたが、「いや、不可能と思われたことを幾つも可能にしてきたこの男なら」とも考え直す者もちらほらと見受けられた。
住民達からすれば、男は冗談でもなんでもなく、『なんだってできる男』なのだ。
何処からともなく手下を連れてふらりと現れ、自分達を導いてくれる、力強きノルドの男。それはまるで既に神話になったタロスの再現のような。そう、想像するだけで甘美な風に酔いしれられるような。
男は自覚していないが、住民達のなかで男と接触した時期が早い者ほど、こうした考えを持つ者が多い。そしてそれは、徐々に街全体に広がりつつある。ある種の同調圧力でもあるし、厳しい北の地で生きるための寄る辺でもあるのだ。
尚武の気風。独立独歩の精神が強いスカイリムとて、誰も彼もが強く生きられるわけではない。
そもそもスカイリムの別名が『神に見捨てられた地』なのだ。どれだけ厳しい環境なのか、その別名で想像できない者は口を閉ざしてスカイリム関係者とは関わらないほうがいい。
そんな土地では、どんな強い心を持つものとて何かに
ウィンターホールドの住民達にとっては、九番目のエイドラにあたる一柱の伝説の再現を見ているようで縋りたくなる、というだけの話だ。
それは住民達の心が弱いからでもなければ、男が住民達を上手く
そして物語は再び動き出す。
それは、熊の意匠を従えた王が外套を
これは、本当なら有り得なかった話。存在しないはずの町で行われる、存在しないはずの会議。
各地の首長達が思惑を馳せながら、この有り得なかったはずの町と人の正体を暴いてやろうとする、そういう会議。
対して主催者側は、何を以て首長達に対峙するのか。何を腹に抱えて何を語るのか。
あえて言うなら、ここが一つの転換点。
昨年に続き今年もメンヘラ全開で申し訳ありませんでした。
とまれ何とか年末に一話書き上げることができましたので、投稿いたします。
ただ、これあとで活報で書きますけれど、昨日26日の夕方から今までの空き時間使って書いた超超特急バージョンなんですよね。
ちょっと事情があって、今年は早めに実家に帰省することになりまして、今日27日の最終(17時発)には乗るんですよ。
そこで今回のお題は「どうしても外せない締め切りを前にして『どれだけのクオリティが出せるか』チキチキレース」です。
ぶっちゃけ校正どころか推敲もしてませんが、私史上最大級の集中力を発揮して書きました。ぶっちゃけ今何も考えられてません。頭が麻痺してます。全力で走ったあとの痙攣してる足みたいな。
まぁそんなこんなで、もしかしたら内容ぐちゃぐちゃかもしれませんが、めたくそがんばって書いたのは間違いないんで、勘弁してください。『縛り』がある中では『妥協』しなかったはずなんで!
と、おそらく大多数の皆さんとはこれが今年最後のやり取りになるんじゃないかと思われますので、定例の一言で〆たいと思います。これが書きたくて投稿したまであります。
拙作に付き合ってくださった皆々様、良いお年を。