DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
……いや、すみません。またしてもお待たせしました。でも、活報でさえ封印してた新年の挨拶がやっとできて嬉しいです。もう、八月も終わろうとしてますけどね。
前回更新から今日までのあいだ、感想や評価コメ、Twitterでの応援など、本当にありがとうございました。返信はまだですが、拝読はさせていただいておりました。心身ともにヒビだらけのガラス細工みたいになってますが(そのあたりは活報で)、モチベをかき集めて更新できたのは皆さんのおかげです。多少は持ち直したので、次話はそんなにあいだは空かない……はず。
また、麦茶太郎様、黒蜘蛛様、ランダ・ギウ様、鵬仙様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
前回の粗筋。
主に住民視点でのこれまでの振り返り。
大災害で落ち込んでたら、胡散臭い錬金術師が来た。
それから大学とも関係を改善して、聴講生も増えた。
町も広がって、ムートもどき開催まで漕ぎ着けた。やったぜ。
「……これが今のウィンターホールドか」
目的地の門前に立ったウルフリックが、思わず、といったふうに呟く。
見上げれば、仮設らしい大手門の少し奥に、大災害で削られた古い大城壁の再建と改築まで始まっている。
視線を南側へ移せば、東西に伸びる街道をアーチ状の橋で跨ぎ、そこから下町が広がっている。ウルフリックの記憶が確かなら、ここには、硬い山肌と、それを覆う寒々とした積雪しか無かったはずだ。
ウィンターホールドはウルフリックの本拠であるウィンドヘルムからほど近く、ここが親帝国派として異なる旗色を掲げるとなれば、防衛戦略を根本から見直さなければならなくなる。
それ故、東の首長としては可能な限りの支援や援助を行い、友好関係を築いておきたいという事情がある。
幸い、ウィンターホールドより西に位置するドーンスターを味方につけることには成功している。
ドーンスターはウィンターホールドの後背を突ける位置にはあり、圧をかけることは可能だ。しかし東西をつなぐ街道からはやや距離があり、また町周辺の隆起した地形や雪に覆われた大地が行軍を阻害することが予想され、いざというとき迅速に援軍を求められるものではない。
港を持つので兵の輸送ができないわけではないが、地理的な優位性を捨てさせるくらいなら、その場から動かず、ウィンターホールドに軽挙を控えさせることに重点を置くほうが有意義な戦力の配置と言えるだろう。
そういった事情からストームクローク軍としては、ウィンターホールドは否が応でも意識せざるを得ない町となっている。
そして数年前。偶然、それも部下の起こしたアクシデントが原因でもたらされた縁ではあったが、ウルフリックにはウィンターホールド復興を夢見る一人の男との繋がりがあった。
それを利用すれば、最小限の労で必要な利益は得られるだろう。そのような思いが、首長のみならず陣営の主だった意見としてあった。
しかし当のウィンターホールドはといえば、ウルフリックが何か手を差し伸べる前に、独自路線をとり順調な復興を遂げようとしているではないか。
ウルフリックも度々偵察隊を送り報告は受けていたものの、何処か「寒村にまで落ちぶれた、たかがウィンターホールド」「縁の出来た男は目立った戦士だったとはいえ、所詮は個人の力」という意識が抜けておらず、その事実を軽視していた。
これはウルフリックの認識能力の問題というより、彼の町の後背にあるソリチュードの上級王と帝国軍という巨大な存在を常に警戒しつつ、更にはサルモールとも丁々発止のやり取りを繰り広げ、そのうえで各地の有力者達を味方に付ける交渉を行うという超人的な課題を日々こなしていたため、どうしても隣に位置する弱小勢力(のはず)で比較的友好的な町に対する優先度が低くなってしまっていたのだった。
しかし現状を見れば、それが己の失態であったことを嫌でも理解させられる。
供の従者達も、ウルフリックの胸中を代弁するかのように「これほどとは……」と口々に感嘆の声を漏らす。
「あれから数年。やはり奴を手中から零れ落としたのは、我が人生における痛恨事であったようだな。言うまでもないが、各々気を引き締めよ。何が出て来るかわからんぞ」
一行は衛兵の案内に従って、既に未知と化した町へ足を踏み入れた。
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ウルフリックは参加者の中で、最も遅い到着であった。そのため、奴の到着から数日の休息期間を経て、会議の開催と相成った。
……わけだが、当然、早めに到着した首長達からすれば面白くはない。何せ最も近場の首長が最も遅く、まるで会議の主賓であるかのように登場をしたのだから。
一応の事情を汲むならば、恐らく奴が参加を決心したのは、私がマルカルスを落とした報告が届いたあとのことだろう。
そこから裏取りを行い、彼の地での暴動と政変を知り、「何故、歴史あるウィンドヘルムの首長がムートでもないにも拘わらず、ウィンターホールドなんぞへ赴かなくてはならんのか」という気位の高いうるさがたを説き伏せ、同時に各種調整を配下へ指示し、やっと叶った来訪であるはずなのだ。
つまりは最後に到着したとしてもそれは結果論であり、ウィンドヘルム首長の到着時期としては妥当か、私個人としては、まぁがんばったほうなのではないかと思える。ブレックスも概ね同意見であった。
とはいえ、それを他の参加者達が察してくれるかは別の話なのだ。
私が奴の敵対派閥であれば、とりあえず難癖くらいはつけるだろう。口上で斬りつけるだけならタダだ。仮に関係が更に悪化したとしても、いざとなれば寝返ればいい。厄介な相手ほど、寝返り後はそれなりに遇される。
尤も、これも危険が無いわけではない。寝返りは敵味方に不信感をばら撒き、最悪の場合は排除の対象となる。
だがそれも、力があれば思い留まらせることができる。それだけの力が無いのならば、寝返りなどそもそも選択肢に入れるべきではない。
一時的に議事堂と化した謁見の間に、参加者達が入場して来た。トリグも共に居るあたり、小芝居なり茶番なりは済んだというとこだろう。一応、私も驚いたような、訝し気なような、そんな顔を作っておく。
会議のあとで私もその小芝居に参加せねばならんわけだが、トリグがこの場に参加することが認められている時点で、面倒なやり取りの大半は省略できるはずだ。いくら私でも、ボロを出すことはあるまい。
皆の着席を見届け、我等がウィンターホールド首長閣下が立ち上がり、参加者へゆっくりと視線をやって笑顔を作る。
「さて、大変喜ばしいことに、この老いぼれの頼みに対して多くの町から首長やそれに準ずる代理人が足を運んでくれた。まずは礼を述べたい。恩に着るぞ。残念ながらソリチュードとモーサルからの参加は叶わなかったが、これ以上は高望みというものとして、話を進めようと思う」
「モーサルの首長府には私から話を付けておきましょう。おそらくはソリチュードに倣ったはずでしょうに、結果として騙し討ちのような形で除け者にしてしまいましたので」
「トリグや、申し出を有り難く思う。それでは、そちらは頼むとするかの。おぉ、そうだ。各々、そこな若者の名はトリグと言うが、この場では
開催の挨拶が穏やかに済まされた。我等が閣下も、なかなか堂々としたものだ。
たしかに五大都市と他四都市、開催地であるウィンターホールドとの友好度などでこの場の力関係は複雑なものとなっているが、これは正式なムートではない。ある程度崩した態度を取ることで、上下関係は無いものとする旨を示したわけだ。
しかしまぁ、よくもこれだけ集まったものだ。
私はもっと欠けていても不思議とは思わなかっただろう。しかしハン曰く、マルカルスとウィンドヘルムの参加表明が大きかったとのこと。私は言われたことをこなしただけなので実感がわかないが、ブレックスの頭の中では何処までの先が見えているのだろうか。
ちなみに、ホワイトランにはちょっかいをかけた挙げ句、何年も大きな干渉はせず、此度も首長ではなく代理人での参加を認めたわけだが……。
聞けばそれも、計算の内、らしい。バルグルーフ個人には、まだ、蚊帳の外でいてもらう腹積りなのだとか。煽られるだけ煽られて放置されているバルグルーフが、若干不憫に思える。
「しからば話を戻そう。まず皆に伝えた議題である『スカイリムの今後』についてであるが……」
このまま、存外穏やかに会議が進むのかと思っていたところで、それを遮るように声が上がる。
「ねぇ、そんなおためごかしは止めにしない? 誰もそんな取り繕った建前を信じてここに来たわけではないのよ。
要するに、貴方はそこのストームクロークと組んで帝国軍と戦いたいがために、私達を陣営に加えたい、と言うのでしょう? そして、仮にそれが叶わなくとも、敵と味方の判別はできる。……中立や保留を選んだ者を、貴方達がどう判断するかまではわからないけどね」
「待ってくれんかのう。儂は確かにそこなウルフリック殿とは親しくさせてもらっておる。しかし主の言うようなつもりはない、とはっきり断言するぞ」
「個人的にはウィンドヘルムよりソリチュードへ味方していただきたいですね。隣人が、それも右肩上がりに力を増す者が敵に回るとはゾッとしない」
「……トリグや。儂の今の言葉、聞いておったかの? それにウルフリック殿を敵扱いとは、少々乱暴である」
「おおい、待て待て。全部とは言わんが、俺は割と議題に関心を持ってここまで来た口だぜ。ウィンターホールドの町は、巷に聞こえるストームクローク軍……」
「各々、待たれよ。私は、衛兵や、我が下に集ってくれた心有る戦士達を『ストームクローク軍』などと称したことは無いはずだ。
議長殿の言うとおり、私が何か騒乱を望んでいるような、そういった類の誤解を招く物言いは謹んでほしいものだな」
「本気で言ってんのかウルフリック? もう今更そんな建前が通用する段階じゃねえだろ。市民達は知らんが、首長達の中で、お前の野心を知らないヤツはいないはずだ。尤も、ついでに俺も誤解の無いように言っておくが、俺はお前の動きに対して別に反対はしていない。が、それとは別に、人が話しているときに割って入るんじゃねえよ。
……でも俺も、ウィンターホールドとウィンドヘルムが手を組むって話は性急に過ぎると思うぞ。たしかに両者の主張に似通っているところはあるが、相違点もかなりある。だからその手のきな臭い話じゃなくてよ、老い先短い爺さんが最後に世の先を憂いて各地へ呼びかけた、って線だっておかしくはないだろう?」
「まぁそうかも知れんし、そうでないかも知れん。私としては、折角非公式にこれだけの面子が集まれたのだ。滅多にある機会ではない故、ある程度は腹を割って話したい。皆、暇な身分でもあるまいし。書記官もおらぬのなら、最悪『知らぬ存ぜぬ』済ませれば良い。
そこで、だ。私としては、皆の最も注目する核心部へ切り込みたいと思う。ウィンターホールドは、何を以てここまでの権勢を取り戻せたのだ? それがわかれば、ウィンドヘルムとの付き合いや、『スカイリムの今後』などという漠然とした議題を一首長が何故打ち出したのか、そのあたりも見えてくるだろう」
「それはたしかに。それによって、この場で発言する内容も考えなくてはならないかも知れんのでな」
「これ、主等。この年寄りを置いてあまり話を進めんでくれ」
会議が始まった途端、各々が怒涛の勢いで主張を繰り広げる。空気感を探り探り、などということはしないようだ。
というか、トリグまでちゃっかり発言している。どういう考えを持っているかまではわからんが、言うことは言う肚を決めて来たようだ。
私はといえば元より発言する立場には無く、閣下の後ろに立って多少の威圧感を出すのが仕事なのだが……。ブレックスにはいつ話を振られてもいいように、会議の流れを把握しておくよう言われている。
すまん、友よ。既に私のおつむでは怪しくなりつつある。なるべく要点のみ覚えるようにして、言葉尻は無視しよう。どうせ天井裏にでも潜んだ一味の者が、詳細を報告するはずなのだ。私にお鉢が回ってきたときはそのとき。出たとこ勝負で行くしかないな。
その後も我が町への追求は続く。
このままでは埒が明かないと判断したのか、閣下が手を上げて一時場を鎮める。
「仕方ない。議題からは逸れるが、皆の疑問に思うところを話して行こう。当然、話せる範囲なのは心得てくれよ。
我が町の復興。それがここまでの進捗を見せたのは、主に二つ。まず第一は、間違いなくソブンガルデへ導かれるであろう、稀代の英雄たるそこな我が私兵を配下に迎え入れられたことだな。ある意味これが全てと言っても過言ではない」
過言である。
閣下が後ろの私を見て参加者達へ自慢するので、私は目線を落として恐縮するしかない。実際、私の行ったことなどブレックス一味の尽力に比べれば如何程のこともないのだ。
いやまぁ。対外的に一味や盗賊ギルドとの関係を明かせないため、功績の多くが私のものとして説明されるのは仕方ないのは理解できる。とはいえ、座りが悪いのには違いない。
「たしかに中々の偉丈夫だが、そのまでの男なのか?」
「それについては私が保証しよう。知勇に優れ、義理堅く、情けを知る稀有な戦士だ。以前、故あってしばらくイーストマーチに留め置き、配下へと勧誘したのだが、振られてしまってな。もし万金を積んで其奴を我が陣営に加えられるのだとすれば、ウィンドヘルムは喜んでそれを支払おう。……念の為聞くが
「却下だな」
取り付く島もない。いや、ここで差し出されても困るのだが。
しかし知勇は武力と錬金術を含めた魔法の知識だとして、義理だの情けだのとは一体誰の話だ? 『そう』振る舞った覚えはあるが、ここまで印象操作が通っていると気色が悪い。盗賊連中は一体何をしたのだろう?
いや、アーチルという線もあるな。奴は妙なほど真面目だから。
「第二には、これもこの男が儂にくれたものであるが、魔法大学との関係改善である。新開発の魔法や、既存の魔法を組み合わせた技術の恩恵は、広く伝えて各々の知るところであろう?」
『岩石脆化』の魔術が発表され、各地の首長達が慌てふためいたことを思い出す。
大学には基本的には我が町の復興や例の研究を最優先にしてもらっているが、連中の知的好奇心は留まることを知らないらしい。最近では、街の清掃など、単純かつ人が嫌がる作業に低級の精霊や死霊を用いることができないか、研究中らしい。私が氷の精霊を土木工事に用いたことで思いついたのだとか。
この研究が実を結べば、大学の新たな収入源となり、彼等はより力を増すだろう。いずれは偏見や差別も薄れるやもしれん。
大学の力をウィンターホールドのものとしておきたい我々悪巧み一味としては、味方が強力になって嬉しい反面、彼等にとって我々の必要性が薄れるのではないかと、痛し痒しの面持ちで見守っている。
場合によっては何らかの
私個人ならなんとかなるだろうが、苦労して育ててきた衛兵隊を全滅にでもさせられたら、たまったものではない。
それに、サイジック会とかいう連中もいる。私の知らない魔法を使うだけでなく、この世の理にも精通しているらしい彼奴等とでは、単純な殴り合いに持ち込めない可能性が高く、分が悪いどころの話ではない。やはり、痛し痒しである。
「とはいえ魔法だろう? 強力なのも便利なのも頭では理解できるが……。大災害のこともあるしな。我々がそちらのように手放しで受け入れるのは難しい」
「大災害については、被害を受けた儂等自身が『大学は無関係である』との認識を持っておる。その事実こそが、何よりもの安心できる要素ではないかの?」
「それは、言っては悪いが他に縋るものが無かったからでは? 今では驚くほど活気のある町だが、あの寂れた様子を私はよく覚えている。そんな状態では、大学が原因と確信しながらでも、泥を啜る思いで魔法に頼る道を選びたくなることもあるだろう」
「第一、この町の復興の要因が、本当に今話した二つだけとは限らないと思うのだけれど?」
「お前等、それを言い出したらきりが無いだろう。腹の探り合いなんかは当然皆がしていることだ。そのうえで、吐かれた言葉はあえて『真である』とせにゃあ話が進まねえ」
「あら? 誰だったかが『腹を割って』と言っていたじゃない。私はそれに倣っただけのつもりだけど? 寧ろ馬鹿正直に言われたことを鵜呑みにして形式だけ整えた会議なんて、それこそブルーパレスででもしていれば良い話だわ」
魔法がどう、というより、我が町そのものへの不信感……。いや、そこまでは言うまい。得体の知れないものへの用心がどうしても頭から離れない、といったところか。
「すまんのぅ。儂の口からはこれ以上の説明はできん。隠し立てをという意味ではなく、そうさな。主等とて己の町の万象を把握し、詳らかにすることはできまい? そういうことよ。
もしどうしても納得がいかぬなら、これも先に伝えた憩いのときを使い、納得がいくまで自らの耳目でこの町を見聞きしてほしい。特に見られて困る物も無いのでな。儂から言えるのはそのくらいだわい」
閣下は心底困り果てた哀れな老人の体をとっているが、その実、魔法の機密の大部分は大学にあり、あそこは部外者の出入りを禁じている。
そして復興やその後の計画の全容を管理しているのは首長の砦ですらなく、地下の『ブレックス本邸』である。
見つかるはずもないものを求めて探し回れ、とは。やはりこの老人、なかなかいい性格をしている。
参加者達はこれ以上詰め寄っても益は無いと思ったのか、閣下への追求は止んだ。
「さて、気を取り直して議題に入りたいと思う。そしてそれに際し、最も参加してほしいと願い、それが幸運にも叶った人物が一人と
……ストームクローク殿? 貴殿は白金協定についてどう考えておる?」
突然水を向けられたウルフリックであるが、泰然として議場を見回すと、力強い口調で語った。
「言うまでもないだろう。あんなものに従える者を、私はスカイリムの民とは認めん。そしてそれを容認する腰抜けの帝国にも、最早尊崇の念を抱くこと
「貴方の言う『相応の対処』というのは?」
「この口が言わずとも、周知の事実なのだろう? ならばこの場での私からの明言は避けさせてもらう。尤も、何か私にとって有益な話を寄越してくれる友人に対しては、常に門戸を開いている。遠慮なく声をかけて欲しく思うし、何か困り事があれば、必ず私が力になろう」
私自身がアーチルの部下から奇妙な勧誘を受けた苦い経験があるだけに、この男は『やる』のだと思える。
サルモールも帝国も、それに歩調を合わせる上級王も、帝国派首長も中立派首長も、それら全てを敵に回してこのスカイリムで内乱を起こす覚悟がある。質が悪いのは、この男にそれだけの実力があることと、少なからぬ賛同者がいることだ。実際、会議が始まってからウルフリックの様子を見て、奴に対しての態度が軟化した者もいる。
この男が戦を始めれば、誰もが望む望まざるに拘らず、その渦に巻き込まれることだろう。
「『スカイリムの民』ってのはノルドのことだよな?」
「当たり前だ。……と言いたいところだが、それは私個人の思想であり、他の者、特に他の地の指導者にまで強要する話ではないと心得ている」
少し意外に思った。「一軍の首魁が日和ったものだな」との声が聞こえるが、実際私は、この場で此奴がノルド至上主義を掲げてもおかしくはない、どころか十分にあり得ると思っていた。それがこの物言いということは、議長を務めるウィンターホールドを余程敵に回したくないのだろう。
何せ我が町は人種の坩堝だ。今更ノルド至上主義など打ち出そうものなら、民衆の暴動を招きかねない。絶対に受け入れられない思想だ。そこに理解を示した、ということは、ウルフリックなりに多少の軌道修正は已む無し、と判断したのだろう。
こちらとしてはウィンドヘルムも仮想敵ではあるので、その親玉が忍耐や狡猾さを身に着け手強くなるのは、正直面倒である。これはブレックスへの報告案件だな。
「ふむ、ウルフリック殿の主張はわかった。その言の葉も、儂の目には偽り無く映った。有り難く思う。
……では次に、トリグや。お主はどう思っているかの。
「そうですね。私としては、ウルフリック殿と概ね同じ意見でしょうか。サルモールの求めるタロス崇拝禁止。これはノルドにとって余りに受け入れ難い。今の不安定な情勢は、半分以上これが原因と言っても良いでしょう。大戦で本拠まで一度は奪われた帝国にとって、問題の文言を撥ね除けることが難しかったことは察せられますが……。スカイリムの多くの戦士達が帝国軍への編入を受け入れ、戦い、最終的には皇帝をあるべき玉座へと戻しました。その見返りが裏切りとは、あまりに酷い」
これには、この場の参加者全員が渋い顔で頷く。親帝国だろうが反帝国だろうが、タロス崇拝を禁じられて面白いノルドの為政者はいない、ということだろう。
仮に個人的にはどうでも良かろうとも、住民感情を考慮すれば、タロス崇拝問題を軽々に扱うわけにもいかない。これは全員が共有する問題の根だろう。
場の反応を確かめるように一泊置いたトリグが、「ただ」と続ける。
「首長ならぬ身でこの場に席をいただいた恩に報いるため、今一つ踏み込んで語るのであれば。おそらく上級王は帝国と共に歩むことを止めないでしょう。そもそもドール城を始め、帝国とのパイプが太過ぎるため、離反すること自体至難の業でしょうし」
「そりゃそうだ。上級王が帝国との共同路線を止めるとは誰も思ってねえよ。そんな気があるなら、爺さんのムート開催要請を断らんだろうし、お忍びで参加するのもお前じゃなくて上級王本人が来ているはずだ」
「そのとおりです。まぁ、今のは認識の確認のようなものです。
そして、『仮に私が上級王になったのならば』、という『もし』の話をしますが……。個人的心情と政治的判断により、難しい選択を迫られることは想像に難くありません。どちらに天秤が傾いても、全く不思議ではないのです。その場合は寧ろ外的要因、つまりは皆様やスカイリム全体の情勢によって、切る舵の行く先を決めるやもしれません。そうなれば、あるいは最も平和的解決が望めるのではないかと、一市民として愚考する次第です」
……ウルフリックに続き、トリグにも驚かされた。それも、こちらのほうが遥かに大きい。
現上級王の立場と個人の考えを曝け出し、そのうえで「自分を味方に付けたければ、お前達でお膳立てをしろ」と来た。
これが現上級王や皇帝の言葉であったなら、頼りなし、と受け取られ、各地での反対運動を助長させていたかもしれん。しかしトリグは若いなりに、単身で敵地とも言える場に乗り込み、堂々と言ってのけたのだ。これには皆も『漢』を見ざるを得んだろう。
そして、この発言でほぼ確定したのは、二つ。
おそらくトリグの上級王就任に首長達は反対しないだろう、ということ。
もう一つは、ウルフリックが上級王の地位を狙う場合、伝統的な決闘以外に手段は無く、更には誰もが納得する正々堂々とした非の打ちようがない形でなければならない、ということだ。
トリグの言葉は一見ウルフリックに味方したように見えて、その実、何よりも痛い一撃を放ったのではないかと思われる。
……散々訓練で転がして、どこか世間知らずのお坊ちゃんと思っていたが、誤りであったな。自らに必要な教養と力量を
「うむ、トリグよ。よく語ってくれた。礼を言うぞ。
さて、儂としてはこの場に居る全員がスカイリムに無くてはならん人物だと信じ、その口が紡ぐ言葉も同様であると疑わぬ。しかし、昨今の情勢を鑑みるに、今の二人の意見は特別に重要な意味を持つものであると考える。如何かな?」
閣下が一拍置いて皆を見渡すも、特に誰からも異論は出なかった。
ウルフリックが野心とそれに相応しい実力を備えていることは事実だ。また現上級王は閣下と然程歳は変わらないため、代替わりはいつ起きてもおかしくはない。
するとトリグという男は、ウルフリックという男を止められる、おそらく唯一と言っていい人物になる。
もしくは、万一トリグがウルフリックに懐柔されたならば、それはスカイリム全土を巻き込んでの帝国からの事実上離脱、更にいえば反乱が確定事項になるということ。
そんな話を聞かされれば、誰もが多少は考え込んでしまうというもの。
この場でどう発言すべきか。どちらかを、もしくは両方を思い留まらせるべきか。それとも、信用を得るためにこの場で自らの旗色を鮮明にして、どちらの陣営につくかはっきりさせるか。いや、やはりそれはまだ水面下であるほうが望ましいのか。素早く、しかし様々な判断材料に思いを巡らせては、思考を回している。そんな様子である。
「さて、異論は無いようだな。儂も大変に驚いておるよ。会議を主催しておいてなんだと思われるかもしれんが、ここまで肚を割った話ができるとは思わなんでの。僥倖よ」
しかし、多くの者がことの重大さに口が重くなる中、議長閣下は動じず微笑を浮かべる始末。
参加者達に比べて、トリグという人間を先に見ていたことが大きいかったのかと思えた。
私は色々と驚いているが、為政者の目から見れば、トリグという若者の思うところはある程度察しがついたのかもしれない。あるいはブレックスの知恵が働いているのだろう。
参加者達も、各々の思うところよりこの流れで会議の主催者が何を語るのか、それを聞き届けたい。そんな雰囲気が場を支配していた。
「この老ぼれなりに何かできはせぬかと考え、この会議を呼びかけたわけだが、今の発言を聞いてよりその思いを強くした。本来、今日この日に告げるつもりはなかったのだがな。儂の秘めた考えを披露しても良いと思えた。
……儂はここに、スカイリム軍の設立を提言する!」
……………………うん? それについては私、初耳だったはず? 閣下? いやブレックス?