DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
……はい、まぁ言い訳はまた活報で。
また、麦茶太郎様、誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
前回の粗筋。
ムートもどきには案外人が集まった。
主要人物のウルフリックとトリグが結構ガチに火花を散らすもんだから、オリ主はほくほく。
じっさまが『スカイリム軍』とか言い出して、オリ主困惑。
「……後ろの兄ちゃんを見るに、今のは『秘中の秘』ってヤツみてえだな。
しかしそこまでして隠すようなもんかい? 要するに、『スカイリムの同胞はこれからも仲良く集まって動きましょう』ってな話だろう? 今までと何が違う?」
「ふむ。いまいち伝わらぬか。儂もこの考えを誤解なく伝えるにはどうしたものか、言葉を選んでおるところよ」
「頼りないわね。こんな会議まで開いてもったいぶるんだから、今までとは違う形を欲しているのはそうなんでしょうけれど……。それが見えてこないのよ。
だって私達、先の大戦でだってスカイリムの戦士として帝国軍に加わって、あの耳長共を何人も血祭りに上げてやったわ。それは帝国軍所属スカイリム軍、ということではないの? それとあなたの求めるものの、どこに相違点があると言うの?」
「そう、そこじゃよ。我々はスカイリムの戦士として帝国軍に加わった。ここまでは良い。だが、それではスカイリム軍とは呼べぬ。せいぜい帝国軍スカイリム閥、スカイリム勢……。呼び方はまだあるやもしれんが、まあこんなところか。あくまで、帝国軍内部の一派一党に過ぎぬわな。それではいかん。そこに甘んじたままでは、この状況を打破することができんのじゃ。
実際に我々は、このスカイリムを割ってでも己が信念を貫かんがため、戦おうとしておる。誰も彼もが『ノルドらしい生き方』を望みながら、それができぬ現実に怒り、猛り、争いが起きようとしておる。それではいかんのだ。耳長共の思う壺よ」
「とはいえ、スカイリムが帝国の一部であることは事実。帝国の長たる皇帝がサルモールと約定を結び、それを発布したのならば、従わねばなりますまいか? 無論、我が主バルグルーフとて、唯々諾々と従うつもりではありませぬ。帝国寄りと見られがちな我等ですが、町の中央にそびえ立つタロス像は今なお健在なり。面従腹背。それが我らにできる精々なのでは?」
「それはホワイトランが古来より交易の拠点として力を持ち、かつサルモールの監視が行き届かない町だからだろう? 我がマルカルスなどどうだ。あまりに礼を失したため無礼討ちにしてしまったが、終戦直後から司法高官が派遣されてくる始末だぞ。そんな状態で、どうしてノルドの誇りを主張できる」
あぁ、私がマダナックを操った話はそういうことにしたのか。それはまぁ、「極々最近部下にした怪しげな男が錯乱して司法高官を殺すのを止められなかった」などと馬鹿正直に公言するよりは、王としての体面を守るために首を刎ねたと主張して強硬派を演じたほうが、まだ格好がつく。
「だがそれを言い出しては、結局はそこのストームクロークが正しい、という話にならんか? 何のために我等は耐えているのだ? 誇りを汚されようとも、これ以上の血を流さないよう、泥をすする覚悟を決めたのではないのか? それが嫌だというのなら、そも最初から白金協定など受け入れるべきではなかった、という話になる。仮に受け入れたとしても、我々には関係ないと突っぱねるか、だ。北の蛮族も極まったな」
一人が皮肉気に言うと、背もたれに倒れ、天を仰いでしまった。一瞬、場の空気が冷えたかと思ったが、我等が閣下は「それよ!」と身を乗り出す。
「儂が言いたかったスカイリム軍の真髄はそこじゃ。我々も、もっとスカイリムの『色』を出しても良いのではないか、と言うことが言いたかったのよ。スカイリムはタイバー・セプティムを生んだ。そしてタイバー・セプティムは帝国を作った。その認識から、スカイリム内外の者が帝国とスカイリムは不可分であると認識しておる。儂も、それが
しかし、しかしじゃ。どうしても許せるものと許せぬものはあろう? 此度のタロス崇拝禁止が正にそれよ。ならばどうするか。スカイリムの民へ発布される前に、止める必要がある。最低でも上級王のあたりで、根気強く交渉を行い撤回させる必要がある。……まぁこの度は遅きに失しておるわけだが。……話を戻すぞ。そしてそれを成すには力がいる。スカイリム閥に収まらぬ、『我等、信念のためなら一個の災いとなりて襲いかからん』という決死の戦士団が必要なのだ。儂はそう考えた。
というか、そうさな。口にして思うたが、これが言いたくて皆に集まってもらったようなものよ」
「しかし翁よ。貴方の話を聞く限り、それは軍権の範疇を超え、スカイリムの統治について帝国と袂を分かつ、という話ではあるまいか?」
「いやいや、そこまでは。あくまでスカイリムは帝国を構成する一国家である、という扱いが望ましいと考えておる。ただ、何でもかんでも素直に従うと思われては迷惑である、と主張すべきではないか。そういう話よ。
ハンマーフェルを見よ。帝国のやり口に怒髪天を衝き、自らその繋がりを断ち切った。それに対し、帝国が何ぞ措置を取ったかの? いいや取れはしまい。非は帝国にあり。そしてハンマーフェルは独立独歩を選んだとしても、サルモールと戦い続けておる。小気味良いことよ。
そこにいくと、我等はどうじゃ? 帝国に、はっきり言ってしまえば舐められておらんか? その歴史が故に。その古き
否よ。断じて否よ。我等、極寒の地に生まれ、強靭な肉体と戦士の魂を持つ益荒男のはず。そこに男も女も関係はあるまい。譲れぬものは譲れぬ」
「爺さんの言いたいことはわかった。気持ちのうえでは皆同じだろう。痛いほどな。だけど結局、そのスカイリム軍ってのを作ってどう動くのかって話が肝心だろう? 思いはわかったから、そのあたりの腹案を聞きてえのよ」
「うむ、少々熱くなってしもうたな。だがお主もやや勇み足であるぞ。スカイリム軍を創ってどう、ではない。『創ること』にまず意味がある」
「それはつまり、創設が叶った段階で上級王はスカイリム軍の指導者であるか、認知している状態であると考えられる。それはそのまま、帝国軍への意思表明になる。圧力と言い換えてもいいかもしれませんね。だからこそ、動かずとも意味がある、と?」
「そのとおりよ。現状はソリチュードの御仁にその役を願いたいと考えておるが、仮に他の誰かが上級王を引き継いだとすれば、スカイリムにおける帝国軍の拠点たるドール城との物理的心理的距離も開き、動きやすくもなろう。その状態で、帝国軍は今までどおりの態度を示せるだろうか?
これは『どう動く』にかかってくるが、一度確固たる軍ができてしまったのなら、独立も選択肢に入れた交渉が可能となる。ただでさえスカイリムの支援で大戦を五分まで持っていった帝国ぞ? 我等に離反されては、この先の防衛など語るべくもないじゃろうて」
「その流れはわかる。だからこそ、その作られることさえ困るスカイリム軍を、芽の内に詰んでしまおうと動くのではないかな? あるいは、多少夢を見せたところで徹底的に叩き潰してしまおう、などか?」
「どうやって成すのだ?」
「どう、どうとは? 帝国がその気になれば、大軍を派兵して一挙に方を付けることは容易だろう?」
「本当にそうかの? 大戦の傷がまだ癒えぬ帝国。ウルフリック殿の軍拡を止めることのできぬ帝国。まぁ、ここまでなら、いくらか時間をかけさえすれば、主の言うとおり制圧は可能であろう。……そう怖い顔をせんでくれ、ウルフリック殿。事実として、少なくとも今はまだ兵力差がありすぎる。
しかし、じゃ。ここにスカイリム軍という新たな火種を起こしたとする。一つなら対処可能であったやもしれんものが、二つになった。いいや、違うな。儂はウルフリック殿の元に集まった戦士団も含めてスカイリム軍を名乗りたいと考えておる。ウルフリック殿は大義名分を得て行動できる。スカイリム軍は心強い戦力を取り込むことができる。
さあて。帝国の腰抜け共はどんな顔をするかのう。楽しみになってこんか?」
私は閣下の後ろに立っているのでその表情は伺えないのだが、見なくてもわかる。口角を吊り上げ、愉快で仕方がない、とでもいうような顔をしているに決まっているのだ。
もし仮にスカイリム軍なるものができたなら、それでことが収まる、などということはあり得ないだろう。よしんば帝国がスカイリム軍を認めたとしても、サルモールがそれを許さない。白金協定はどうした。タロス崇拝禁止はどうした。必ず嘴を挟んでくる。すると今度は内政干渉である、とスカイリム軍という軍事力を背後に持つ上級王が立ちはだかるわけだ。帝国中枢はさぞ困ってしまうだろうなあ。板挟みとはまさにこのことだ。聞いてて少々不憫に思えてくる。
だが、上級王がごね続ける限り、話は解決しない。そうなれば、帝国軍か、あるいはサルモールが直接、スカイリム軍を叩きにくるはずだ。この老人はあらゆるものを壊したいのだ。獲物がわざわざやってきてくれるのだから、楽しくないわけがない。
そして、帝国中枢がいくら青色吐息をつこうが、「ていこくの人たちがこまってしまうので、われわれのほこりりがけがされるのは仕方ないこととして、がまんしてあげましょう」などと宣う輩は、この場に一人としていない。ウルフリックを糾弾し、帝国やソリチュードに味方しようという者達も、腹の中ではタロス崇拝禁止の令には腸が煮えくり返っているのだ。
「要は、これまでなあなあだったスカイリムと帝国の関係を『不義理を働いたのはそっちが先だ』っつって見直そう、ってことか。なるほど『スカイリムの今後』ねえ……。そりゃあたしかに、スカイリムの有り様も、帝国との関係も変わるだろうさ。
で、爺さん。この与太話、どの程度通ると見込んでやがる」
「現時点では一九。最初の難関を超えれば三七といったところかの」
「ガッハッハ! これで『勝算は十分にある』なんてほざきやがったら、今すぐ出ていくところだったぜ。そしたらよ、その分の悪い賭けに勝つためには、何ぞ手を打たなきゃならねえわけだ。何も考えてねえわけじゃねえよな」
「喧嘩よ」
「……は?」
「我等、北限のノルド。力でこそ己の正義と信念を証明すべし。格好つけて言えばそんなところかの。これこそが、最初の難関でもある。
……トリグや。ちと聞きたいのだが、ソリチュード衛兵隊の練度とはどの程度のものなのかの?」
「『大地の守護者にして海の守り手』……だとかそんな話が聞きたいわけではありませんよね。
はい、閣下の見込んでいるとおり、ソリチュード衛兵隊は帝国軍と度々合同訓練を行っており、その練度は帝国軍本隊と遜色ないかと。基本的な動きも同じですから、装備さえ取り替えてしまえば、帝国軍として振る舞うこともできるはずです」
「それほどとはな。驚いたわ。だが、だからこそ好都合。
主等は思うだろう。『標的を変えたところで、相手にされないのが落ちだろう? 現に今回の会議にだって、上級王は参席していない』と。しかしこれが違うのよ。
例えば仮に、主等の町へ突然、軍隊が押し寄せてきたとする。すると当然、首長は防衛の義務を持つため、戦闘が発生するな。ならそうやって、無理矢理にでも力比べに持っていってしまえばいいのよ」
「待て待て。スカイリム軍としてまとまりを持ちたいのだろう? そのような騙し討ちでは、それこそムートが開かれ、裁きがくだされるぞ」
「実態はそのように動くとしてもじゃ、何事にも
例えば、突然襲いかかってきたと思っていた軍団は、実は事前に書面でその旨を通達しており、責任者のサインを以て返書が認めてあった、だとかの」
「今、サラッと黒いことを言ったのは聞き流してやるよ。そんで、どう言い繕っても騙し討ちで襲われちゃあ、ソリチュードの連中も黙っちゃいねえだろ。それにモーサルはどうする? 奴等としても拙速の進軍は面倒だろうが、挟撃に遭うぞ」
「その点は問題ない。こちらの港もようよう完成を見るところでな。モーサルとソリチュード、それぞれに船を送り牽制する」
「ただでさえ復興の最中だというのに、分散させられるだけの戦力があると? 下手をすれば、それこそ鎧袖一触。いや、もっと悪ければ一人残らず擦り潰されるぞ」
「問題ないと言うとろうに。そこな我が私兵は人を鍛えるのも得手としておってな。頼りになる衛兵隊が、日々規模を増しておるところよ」
「それにしたって寡兵には違いあるまい? どこからそんな自信が出てくるんだか……」
「それは、ほれ。まだ秘密じゃ」
ほうぼうから「このジジイ」と聞こえてくる。とは言え、大方は目星が着いているのだろう。魔法でここまで復興した町だ。軍備にそれが全く関与していないと考えるほうが不自然である。
「そうしてソリチュードの衛兵隊との合同訓練を終えたとする。するとどうじゃ? 誰もがソリチュードの勝利を疑っておらなんだのに、数年前まで寒村であったウィンターホールドがまさかまさか勝ってしまった。このままでいいのか。これまで以上に情勢が揺れるとなると、やはり一つのまとまった力が必要なのではないか。いいやそれ以前に、上級王はソリチュードに預けたままで良いのか。
等々、全土から声が聞こえてくるであろうよ。もし担がれるなら、儂が上級王になり、歳を理由に倅に譲っても良いと考えておる。その後の上級王は、またそなた等で決めれば良い。
それに、よ。先程聞いたとおり、ソリチュード衛兵隊は帝国軍と遜色ない練度を保っておるという。ならばこれは帝国軍を打ち破ったも同じ。ドール城にしても、今までのような大きな顔はさせずにすむだろうて。
そうして町同士で相互軍事協定でも結ぶ形を取り、ある程度煮詰まったところで晴れてスカイリム軍発足、という筋書きを考えておるが、どうじゃ?」
各々、閣下の提案がどの程度うまく運ぶのか、思案しているようだった。何せ、私が聞いてもむちゃくちゃだと思うのだ。これを大真面目に考えたうえで「さて成功率を答えなさい」と出題された面々には同情する。
時折、「三七、いや四六か? いやいや、とんとんとうまく転べば五五……」などとも聞こえる。分が悪いとは思われていても、『あり得ない』とまでは思われていないようだ。
「全てはウィンターホールドが帝国軍、もしくはソリチュード衛兵隊に勝利することが大前提なわけだが、翁の私兵がいるのでその点については心配はしていない。
私の懸念はもっと別にある。もし、私と、我がウィンドヘルムの理想がそのスカイリム軍とやらと異なった場合、どうなるのか?」
「できれば話し合いで解決したいとは考えておるが、一番わかりやすいのは、力比べであろうな。発足当初だからこそ、まずは確固たる力にて、という風潮を作っておきたい」
「……我が戦士団が、ソリチュードの腰抜け共と同程度だと?」
「トリグの前でそのような物言い自体避けてもらいたいものだが……。無論、ストームクローク殿の戦士団を見下しておるわけではない。だが、勝つべくして勝つ。それくらいのことを成せずして、そもスカイリム軍構想なぞ語るべきではないと考えておる。そういうことよ」
覚悟の問題だ、と言われてしまえば、それ以上噛みつくのも難しい。ウルフリックは一度矛を収めるようだ。
「先程、上級王の譲位について触れられましたが、ウィンターホールド軍が上級王を戴けず、各地の王ともそのまま対立し、スカイリム軍として成立しなかった場合、それでも先のウルフリック殿のように力で解決しますか? スカイリム軍という大義名分も得られぬただのウィンターホールド軍のままで、ソリチュードや帝国軍と争いますか?」
「そうさな。心苦しい限りではあるが、そうせざるを得んと考えておるよ」
「……孤立しますよ。無理です。勝てません。折角の復興も、ここまで大変だったのではありませんか? それが全て無駄になるかもしれないんですよ!」
「それだけの思いがなければ、わざわざ各地で王を名乗っておる人間を呼びつけたりはせぬよ。それに、ここでこうして面と向かって話ができたお主等だからの。儂が下手を打って何もかも台無しになったとしても、町や民に非道な真似はすまい?
老い先短い
閣下が深々と頭を下げる。それを見た面々も、どこかやりきれない顔をしている。仮に腹の内でどう思っていようが、ここまでの献身を見せつけられて、それを非難して悪者になりたい者はいないのだろう。
その後は細々とした質疑が続き、明確な賛同者も反対者も出ないまま、「考える時間がほしい」ということで今回のムートもどきはお開きとなった。時間的猶予を与えられて最も恩恵が大きいのは我々ウィンターホールドなので、各首長達には、存分に考え込んでほしい。
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「ようやく戻ったか、馬鹿息子が」
「ハッ、父上。ソリチュードのトリグ、只今帰還いたしました。五体満足でございます」
「当たり前だ。お前の髪一本にいたるまで、そのあたりの庶民とは価値が違うのだ。それを独断で供も付けずに敵地へ乗り込みおって」
「お言葉ですが敵地とは……」
「ストームクロークと懇意にしておるのならば敵であろう!? 彼奴は上級王たる私の座すソリチュードを灰燼に帰すべく、今も牙を研いでおるのだぞ!」
「全くの誤解とは言い切れませんが、ウィンターホールドはまだ親ストームクロークの反ソリチュードではありません。寧ろ強硬な姿勢を見せることで、かえってあちらでの団結を強めてしまうこともありましょう。彼の町には融和策を以てあたるべきかと」
「手緩い。甘いわ。ウィンターホールド復興の異常な速度。多くの者が驚く程度で済ませておる。トリグ、お前もだ。私に言わせれば危機感が足りない。今すぐにでも軍議を開いて、あの目障りな町を更地にしてしまいたいと言うのに」
「父上、以前も申し上げましたが、それは良い手とは思えません。彼の町は多くを受け入れます。その反面、復興の妨げになるものに対しては、厳しく対処してきました。このソリチュードでも、無理に利権にからもうとして凋落した貴族を覚えておりましょう? 怒りを買う真似は、どうか謹んでください」
「だからこそだ! ウィンターホールドなぞ、町と呼ぶのも烏滸がましい有様だったのだ。それが何だ! いつの間にソリチュード貴族があしらわれるような力関係になってしまったのだ。あの馬鹿者が不用意であったことは認めるが、それでもだ。大なれば小に無理を聞かすことはできるのだ。それが叶わなくなったということは、彼奴等は既に小ではない、ということだ。忌々しいがな!」
トリグは父を心配させてしまったという思いから、旅装を改めただけで、しっかりと旅の垢を落としたわけではない。まずは詫びを入れ、ウィンターホールドで見聞きしたことは夕餉の席ででも話そうと考えていたのだ。
それが、帰還の挨拶の場で叱責を受けるとは……。トリグはまだ、
しかし、ノルドの男である。矜持がある。誇りがある。自尊心がある。そして何より、ウィンターホールドについては何度も話し合って、それでも埒が明かなかったため、強硬手段に出た、という背景がある。その自分の意見を聞こうともせず、父親は危うい道を進もうとしている。
「そうだ。こうして息子も戻り、こちらの弱点が丁度消えたところ。攻めるには好期ではないか。誰ぞ、貴族達や衛兵隊長を呼び出せ。ドール城にも使いを送るように!」
あぁ。トリグは父の言葉を聞いた瞬間、「駄目だ」と思った。
ウィンターホールド首長の言葉にあった合同訓練。そこでウィンターホールド側が勝利する、というのはおそらく確定事項なのだろう。自分は衛兵隊の厳しい訓練に揉まれたし、何より師である男が、単体でありながら一軍に匹敵する戦力だと実感したからだ。
人外の膂力。風の如き身のこなし。休息を必要としない無尽蔵の体力。トリグが師に勝とうとしたのなら、彼の男を防衛戦に押し込め、常に先手を取るしか無い、と考えている。自分が防衛側に回ったのなら、男からすれば一対一、ないしは一体少数を何千回か繰り返すだけで勝てるのだ。合同訓練も、各地に見せつける意味がある以上そのような勝ち方はしないだろうが、トリグにはウィンターホールド衛兵隊が負ける様子も想像できなかった。
そして何が『駄目』なのか。
師は、男は敵対者に容赦しない。一時同僚となった衛兵隊から聞いた話では、自らの線引を侵そうとする者には、死でも優しい苦しみを味わわせるのだとか。つまり、男と男のいるウィンターホールドを攻撃した場合、報復は苛烈なものになるだろう。
そしてそれは、神速を以て攻め滅ぼせば良いのかという話でもない。神速の実態は、無理を押した強行軍ということ。そんな状態では、進軍途中を男に襲われて壊滅するのが目に見えている。よしんばウィンターホールドまで辿り着けたとしても、籠城戦は選ばないだろう。会戦になり、男の力が存分に発揮される。どうにか籠城させられたとしても、相手は魔法の援護がある。定説からすれば、それこそ望む所だ。そして港まで持っている。兵糧攻めもできなければ、応援を呼ばれもするだろう。どうあっても勝てない。
では巧遅なら良いのか。それも違う。今も尋常ではない速度で復興を続けるあの町に、防衛力をつけさせるだけだ。
つまりは、やはり攻めようと考えること自体が最初から間違っている。
父親は止まらない。口の端に泡を飛ばしながら、矢継ぎ早に指示を喚いている。
トリグの胸に、幼き日の父との思い出が蘇る。大きく、温かく、優しかった父。もうそんな父とも会えなくなるのだと思うと、涙が一筋、零れ落ちた。
しかし、ノルドの男である。矜持がある。誇りがある。自尊心がある。一度覚悟を決めたのなら、やり遂げなければならない。
「……シビル。たしか『スカイリム上級王は、スカイリムに住むノルドからその地位を賭けて正々堂々かつ尋常な勝負を挑まれた場合、これを拒むことはできない』だったよね?」
トリグは、自らの教育係でもある王宮魔術師に問いかけた。上級王の側に控えて親子の言い争いをはらはらと見守っていた彼女は、若者の問いに訝しがる。
「間違ってはいませんが、えっと、何故今それを?」
「いや、君の教育の賜物さ。ここで口上を違えたら、吟遊詩人が間抜けな唄にしてしまうだろう?」
トリグは剣を抜き放ち、まっすぐ前に切っ先を向けた。その先には、自分の父親がいる。
「スカイリム上級王! 汝、その王冠に相応しからず! 故に、我がこの剣に誓い、汝に代わってこの地に立つ! 九大神のご照覧されるこの決闘の行く末にこそ、互いの正義が示されん。潔く受けられたし! タロスの加護ぞあれ!」
その後、スカイリム全土に上級王の代替わりが伝わった。しかしその方法は禅位ではなく、かといって簒奪でもなかった。ただ、伝統的な決闘によって起きた代替わりを行ったのが、前上級王の息子だった、というだけの話だ。それだけのことが、あまりに珍しく、唄にまでなってしまった。名は、『親殺しのトリグ』。
ギリギリのギリギリ、間に合って良かったです。昨日まで挨拶回りしてたんで、本当にギリ。
今回の話もそうですけど、ちょいと決意表明みたいなものもしたいので、そのあたりも活報に上げます。
ではでは、今年もお付き合いいただきました皆様、良いお年を。