DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
ブリニョルフは友である男と、ギルドの構成員と伴に、ラットウェイの出入り口にて準備を整えていた。
フラゴンでは喧嘩別れのようになってしまったが、お互い作戦決行前ということもあり、気が立っていたのだろう。特に自分は、丸一日走り通しだったのだ。疲労から気が短くなっていても不思議ではない。作戦後の話し合いでは、ある程度自分が折れてやる必要があるだろう。
というか、一度火がついたメルセルが自分に何かしらの処罰を言い渡しはしないだろうか。いや、独断行動を取ったのだからそれも甘んじて受けるべきだ。
長を尊重しない組織は脆い。現状を鑑みるに、組織の引き締めを図るためにも、「ギルドマスター、メルセル・フレイの権力は揺るがない」と示す必要があるとは自分も理解できる。間違いを犯したとは思わないが、やはり少々短慮だったかもしれない。
ブリニョルフがそう自省していると、男から声がかかる。
「友よ、少し馬鹿な質問をする。生け捕り、とはつまり『盗賊としての命』を保ったままで、という解釈であっているか?」
男の言わんとすることは理解できる。人間を生かして戦闘不能にするだけであれば、手段は案外多い。手足の腱を切る、膝や手足の甲を砕く、などだ。しかしそうした結果盗み働きに支障が出てしまっては本末転倒ではないのか。それを気にして、男は『生け捕り』の線引を明確にしたいのだろう。
「あぁ兄弟。言うとおり可能であれば、それでお願いしたい。だが正直なところ、逃亡されるくらいならその辺りはあまり気にしないでくれていいんだぜ?
逃亡するなら、そいつはいつ襲ってくるかわからない敵だ。仲間の命が脅かされるかもしれない。妨害工作に走られるかもしれない。
だが何かしらの障害を負ったとしても、そいつが降参してまた仲間になるのなら、そいつの培ってきた伝手は使えるし、後進への技術の継承を担当することもできる。
つまり兄弟の言う結果は最良のものではあるが、『比較的良い』程度でも十分に満足できるのさ」
男は納得し、頷いている。そして「盗賊の世界も厳しいのだな」と零した。
命が助かる道は広く用意してある。そう伝えたにも関わらず、厳しいと言う。普通は逆ではないかと思う。
そこでブリニョルフは、男が個々人の矜持に執着する傾向があることを思い出した。
そんな男からすれば、自ら盗み働きができなくなってまで生かされている状況というのは、生き地獄ではないかと想像したのだろう。
もし自分の足が、手指が、満足に動かなくなったならどうだろうか。本当のところはなってみなければわからない。今はせいぜい、そうならないために最大限の注意を払おう。
自分は東側から、メルセルが北側から、西と南は蓋をするように人海戦術で封鎖。フラゴンはデルビンが守る。穴は無いはずだ。
辺りが暗くなってきた。日没だ。リフテンに夜が、盗賊の時間がやってきた。
「決行時刻だな。行くぞ」
ブリニョルフは短く告げると、ラットウェイへと続く扉を開く。構成員達は臨戦態勢をとり、男はフラゴンで見せた気配を消す術を用いる。
先頭はブリニョルフ、次に男、その後ろに構成員達が続く。
男の離反を監視するためでもあり、最も危険な殿を、何処の馬の骨ともわからぬ人間に任せられないためでもある。
ブリニョルフは慎重に進む。これから相手取るのは自分達と然程変わらない技量を持つ盗賊だ。どのような罠があるかわからない。
襲撃決行時刻が深夜ではなく日没であるのは、一般市民からギルドの動きを隠しつつ、突入の際には多少時間をかけてでも細心の注意を払って進みたい、という事情があった。
案の定、入り口からしばらく行った場所に、罠が仕掛けてあった。それも三重の罠だ。
足元に見えづらく黒く塗られた細紐があり、これに触れると頭上の鳴子が作動する。
手を上に伸ばして鳴子を抑えてから解除しようとすれば、丁度腹を曝した位置に、おそらく矢が飛び出してくるのであろう穴が四方に空いている。穴の縁の欠け具合が特徴的だ。
かと言って始めの細紐を無視して進もうとすれば、それを阻むように細紐が至る所に仕掛けてある。これのせいで、鳴子を無効化しようと矢の罠にそれぞれ人員を配置する、などという真似が不可能になっている。
つまり、どの道、細紐の罠を解除するしかない。かといって、襲撃は迅速に行いたいため、こんな入口付近で足止めを食らうのは不本意甚だしい。
どうしたものかと思案していると、男が言った。
「この罠、面倒なのは矢の処理だけだと考えて良いか? 矢さえどうにかすれば、あとは鳴子を抑えて罠を解除するだけ、と」
そのとおりではあるのだが、どうするつもりなのだろうか。男は「考えがある」といって矢の罠の中央に位置どる。
そして左手にはいつの間にか革張りの円盾を持っている。男が解除を始めるよう、目配せをする。滅多なことは起きないだろうが、不安はある。しかし男が自ら言い出したのなら、信じるしかない。
構成員の一人が男の側で鳴子を抑えたその瞬間、四方の穴から矢が飛び出る。
それと同時に男の身体がぶれて、側の構成員を中心に三回転したように見えた。終わってみれば、大道芸のお手玉のように、盾の上に矢が十数本乗っている。
「一応、硬質な音が立たないよう『ラージレザーシールド』を使ったが……これは毒矢だな。なかなか、相手も張り切って殺しに来ている」
今しがた見せた妙技などなんでもないような物言いで、男は静かに笑う。
ブリニョルフは思った。やはり自分の選択は間違っていなかった。
メルセルとの話し合いには是非、今回同行している構成員にも味方になってもらいたいと考えるが、しかしそうすればメルセルは余計に臍を曲げそうな未来が見える。
能力はあるんだがなぁ、とブリニョルフは先程怒鳴りあったギルドマスター殿を思う。
が、すぐに意識を戻す。今は油断していい場合ではない。
その後も慎重に罠を解除しつつ進んでいくと、狭い通路を抜けたところに若干開けた場所が見える。一行は通路の脇にある窪みに身を隠す。
正面に独房のような居住空間が横並びに四つ、右手に二つ確認できた。
事前情報が確かなら、左手手前には登り階段がある。吹き抜けになっているために、通路を抜けたなら二階部分に相当する四方がよく見渡せるだろう。
おそらく、それぞれの地点に伏兵が潜んでいるはずだ。というか、これほどまでに待ち伏せが効果的な場所に人員を配置しないなど、そんな危機管理意識の欠如した者はかつての盗賊ギルドには一人もいなかった。
現に射手が一人、正面からこちらを警戒するように立っている。
さてどうしたものか。ブリニョルフが思案していると、再び男が言う。この男、実は楽しんでいないだろうか。
「正面に一人見えるな。おそらく他にも潜んでいるだろう。離れた仲間に知らせないためには、声すら上げさせない一瞬の制圧が不可欠。……友よ。今一度、私を信じてみる気はないか?」
類稀なる友人が、この手の物言いをするとき、それは何かしらの手立てを思いついているときだ。ブリニョルフはここ数日でそれを学んだ。
目線だけで肯定を示す。男も、頷きだけを返して一人進む。
男は「指輪の付呪だ」と話したが、本当に物音一つ立てないまま滑るように移動する。
そうしてもう一歩で通路の暗がりから出る、といったところで一度足を止め、気が付けば獣のように一瞬で飛び出し、正面の射手へ当身を食らわせた。
返す刀で左後方を向いて懐から取り出した何かを投げつけ、同じく二階正面、二階右手へと数回投擲を続ける。
正直に言えば、ブリニョルフにも全て見えていたわけではない。あまりの速さに、そんな動きをしたような気がする、程度のものだ。
そもそも、男の姿は
後続のギルド構成員など、何が起きたのかまるで認識できていないものも少なくない。
男が、ひとまず終わった、とでも言うように手招きをするので、ブリニョルフ達は通路を出た。
するとそこには、当て身を受けて気絶した射手が一人。階段を転げ落ちた賊が一人。
階段を登って確認すれば、一階部分と同じく計三人の気絶した賊が見える。
男が上機嫌に口を開く。
「どうだ私の投擲術は。ある程度の距離までなら、前に横に転げ回りながらでも標的へ向けて正確に投擲する自信があるぞ。これは射的術も同様だがね。全員顎に掠めさせただけだから、まぁ砕けていて多少殴り合いに弱くなったとしても、盗賊稼業に支障はあるまいて」
顎が砕ければ稼業以前に日常生活へ支障が出るのだが、一応は男の
見れば倒れている賊の側には、金貨が一枚ずつ落ちている。はて、この男は金貨なんぞ持ち合わせていただろうかと考えたが、そう言えば墳墓でペンダント以外の戦利品は彼の物になったのだった。おそらくはそれを使ったのだろう。
……一つの懸念がブリニョルフによぎったので、一応確認しておく。
「なぁ兄弟。君の故郷や、ロードラン、ロスリックでは、貨幣経済ってものは成り立っていたのかな?」
「妙なことを聞くじゃないか兄弟。勿論、そのようだったとも」
男があまりに当然の如く金貨を投擲物として用いたための心配であったのだが、一応は経済圏出身の民であったようだ。そういった常識までもが食い違っていないことに、ブリニョルフは安堵する。
そして男の言うとおり、自分達はすれ違いを起こさないためにも、常識や価値観を細かく擦り合わせていく必要があると思った。少なくとも、友人が物々交換しか知らない野蛮人なのではないかという懸念を抱かずにすむまでは。
男は金貨を片手に警戒を続け、ブリニョルフと構成員達は気絶した賊を縛り上げていく。と、ブリニョルフは気絶した面々を見てあることに気が付いた。
作戦決行までに時間が足りなかったために伝えられなかったが、現在襲撃中の派閥はブリニョルフにとって馴染み深い者達で構成されたものだったようだ。
「兄弟、連中を殺さずに無力化してくれたことに、礼を言わせてくれ。それから、もう一つ頼みができた。おそらくこの先にヴェケルという男がいる。こいつらの中ではおそらく第二席だろう。そいつは俺以上に方々へ顔が広くてね。その伝手は馬鹿にできない。これからのギルドに必要な人間と言えるだろう。……ついでに、俺と親しくもしていた。できれば、その男こそ生け捕りにしたい」
男は「君が言うのなら私に否やはない」とヴェケル生け捕りを了承した。
ブリニョルフの言葉には多分に私情が含まれていたが、元仲間を手に掛けるのは誰だって後ろめたい。ことさら問題視してメルセルに報告しよう、などと考える者はいなかった。
一行は更に進む。ブリニョルフ達盗賊ギルドの面々は順調に仕掛けられた罠を解除していき、男は配置された賊を素早く無力化していく。
男は密かに思った。いくら盗賊達の塒だとはいえ、罠の類が多過ぎやしないかと。そしてそれを解除する連中も、この手の作業に慣れ過ぎてはいないかと。
ギルドの面々は思った。ブリニョルフの連れてくる男が無能とは思わないが、それにしても戦闘力が常識外れではないかと。自分達盗賊の素早い反応と動きは、けして楽に捻られる赤子の手ではないはずだと。
お互いが腑に落ちない思いを抱えつつも、一行は先へ先へと進み続ける。この調子なら、北側から侵入しているはずのメルセルが鉢合わせる賊の数を減らせられそうである。
実のところブリニョルフは、メルセルとヴェケルを極力接触させたくないと考えていた。
メルセルは情に流される男ではない。用心深く、安全を優先し、損害を回避するためなら多少の利益は簡単に捨てられる。
だからこそ、メルセルは失敗しない。性根は盗賊らしく強欲ではあるが、その仕事ぶりは堅実の一言だ。
そんな人間が友と接触すれば、「一度裏切った幹部」という事実を重く見て、生け捕りではなく殺害を優先してもおかしくはない。
ブリニョルフは密かに焦っていた。
これまで同様、男が賊を無害化した後、ブリニョルフ達はその部屋を見渡した。
そこは今までに見てきた広間や部屋とは違い、多少なりとも清潔感を保ち、少数の調度品まで飾られている。如何にも、『仮宿の中では一等の部屋、
執務室を制圧した男が「ここで最後か?」と尋ねて来るが、ブリニョルフには何かが引っかかる。まだ全ての区画を調べたわけではないが、おかしい。しかし何がおかしい?
じっと部屋を睨みながら考え込むブリニョルフを他所に、男と構成員達は回答を待たず、手慣れた様子で賊を縛っていく。わかった、『如何にも』が
ブリニョルフは執務室の壁と床を念入りに探る。違う、ここは行き止まりだ。
次に通路まで戻り、同じように壁を探る。僅かな見落としも無いように、五感を最大まで活用し、神経を研ぎ澄ませる。
ふと、右手の指先が違和感を覚えた。そこから手繰って、ほんの僅かな切れ目を壁に見つける。更に周囲を探り、巧妙に隠蔽されたスイッチを足元に見つけた。
スイッチを踏みながら、切れ目を押す。
すると、一瞥しただけでは壁としか思えなかったものは、簡単に手前と奥に半回転した。回転扉である。
これだ、これを隠したかったのだ。
ブリニョルフは扉を潜った。後ろから自分の様子を眺めていた男が「流石だな」と感心している。おそらくこの先に……。
「来たか、ブリニョルフ」
ブリニョルフの友、ヴェケルがいた。
(※あくまで参考にさせていただくまでで、必ずしもアンケートの結果に沿うかはお約束できません) 文字数について質問です。拙作において一話あたりの平均が8000字強くらいらしいのですが、この文字数が長いのか短いのか、読者の皆様がどうお感じになっているのか気になりまして。私としては深く考えず、キリのいいところまで、くらいの意識だったのですが。一つ、ご協力よろしくお願いいたします。
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最低文字数(1000)で十分。
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~5000くらいはいるくない?
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今よりちょい短めで(~8000弱)
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Don't worry.
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もっと長くしろよ読み応えがねえだろハゲ