DARK SOULS → SKYRIM でまったり()スローライフ() 作:佐伯 裕一
「昼間にウチの大間抜けから、酒を買いに町へ出たと聞いてな。
本人は誰にも見られてはいない、怪しまれてもいない、なんて自慢気に吹いてやがったが。俺にはどうにも嫌な予感がした。
お前達が昼も夜も血眼になって俺達を探していることは知っていた。そんなお前達が、本当に何も気付かないままでいるだろうかと。
……この状況を見れば、案の定だった、ということだな」
それはそうだろう。聞けばフラゴン一派は内外にその存在を示すため、離反派閥撲滅に随分と注力していたようだ。「血眼」とは大袈裟ではあるまい。
しかし、優秀な元盗賊ギルド員であっても、長く続く抑圧された生活に耐えられない者が出てしまった。それが此奴等の運の尽きだった、と。
隠し通路の奥の部屋に、男が立っている。他には、男の後ろに三人、おそらく死角になっている手前左右に一人から二人ずつ。全部で六人から八人。制圧は可能だな。
目の前の男がヴェケル、ブリニョルフが話していた友か。なるほど、なかなか油断ならない良い雰囲気だ。
「ガマシンの奴はどうした。お前たちの頭目はここには居ないのか」
「あの卑怯者ならもう居ない。俺が殺した。
奴もここは危ないと判断したんだろうな。だが皆で逃げようとはしなかった。俺がこの部屋で奴を見つけた時、他の連中を置いて一人で逃げる支度をしていた。元はと言えば、メルセルを認められない連中を奴が焚き付けたって言うのにだ。僅かでも自分が生き残る可能性を高めだったんだろうが、俺は許せなかったよ。
だから問い質したんだ。そうしたらあのクズ、なんて言ったと思う? 『そうだなヴェケル、お前なら役に立ってくれるだろう。二人で逃げよう』だとよ。
あまりの有難さに、涙が出ちまったよ。それで気が付けば奴を斬り殺してた。
だからもう、ここに奴は居ない。死体も片付けた。悪かったな、手柄を減らしてしまって」
「ヴェケル、あぁ俺の友よ。寂しいことを言ってくれるなよ。
俺が、メルセルにお前達の首を喜んで差し出す男だと思うのか? メルセルに尻尾を振る犬だと? 馬鹿を言うな」
「だがお前達は奴を担ぎ上げた。違うか? あの酷薄を絵に描いたような人間をだ。あんな奴をガルスの後継だなんて認められるか」
「頼むよ、わかってくれ。ギルドの状況はお前だって理解しているだろう?
現状を耐え忍ぶには、腕が立ち、何より頭の切れる人物が頂点に立つべきだと思ったんだ。
例え酷薄だろうと人望が無かろうと、力で面倒事を抑えつけ、外部と交渉し、外敵から皆を守り、確実な仕事でギルドの信用を取り戻す。
それを最も
不満は理解できる。だがそれを飲み込んででも奴を担ぎ上げ、その上で俺達は結束するべきだったんだ」
「見解の相違だな、ブリニョルフ。
お前は、俺達や他の連中がメルセルから離反したことが窮状の原因だと思っているかもしれないが、俺達から言わせれば、メルセルがギルドの頂点に立ったことがそもそもの間違いだったんだ。
メルセルでさえなければ、例えばリフテンの外に居を構えたブレックスの野郎のほうがまだマシだった。
フラゴンのお前達の中で言えば、デルビンでも、何ならお前だって良かった。
デルビンに比べればまだ若く貫目は足らないかもしれないが、お前の腕はギルドの誰もが一目置いている。
新しいギルドの出発に、若く勢いのあるマスター。どうだ、悪くないだろう?」
「……お前だから話すが、実を言えば考えなかったわけじゃない。でも、やっぱり俺じゃあ駄目だ。
結局はなにかにと不満が噴出して、大なり小なり離反者が続出しただろうさ。
本当の意味でガルスの跡目が務まる人間なんて、ギルドには居なかったんだ。心から残念なことだがな。
ガルスが殺されたのは大きな痛手だった。痛恨と言っていい。だがその直後なら、まだ立て直しはできたかもしれなかった。それもこうなっては無理だ。
ギルドはこれから、坂を転げ落ちるように衰退していく。
だからこそ俺は、この苦境を乗り越えるために一人でも多くギルドに戻ってほしいんだ。そしてまた力を合わせて、輝かしい日々を取り戻したい。そう願っている」
……………………我が友ブリニョルフと、ヴェケルなる男の言葉の応酬が続く。
部外者の私としては、やれることが他のギルド構成員と同じく警戒くらいしか無くて困る。
一応話は聞いていたため、連中の頭目は目の前の男が殺した、ということだけは把握できたが。
それにしてもメルセル・フレイ、嫌われ過ぎではないだろうか。
離反した者が掲げる理由がたった一つということはないだろうが、しかし多数の者が『新ギルドマスター憎し』の動機を持っているようだ。
友の言うこともわかるのだが、理屈で全てが回るのなら誰も苦労はしない。
まぁそれだけ、ガルスなる前ギルドマスターが偉大な男だったということの裏返しなのかもしれない。
友の言葉を正しいとするならば、デルビンやブリニョルフがギルドマスターに就任したとしても、一時は凌げても能力的な問題からギルドの衰退には歯止めをかけられない。
その状況を憂いて見切りをつけ、離反する者が出る。
言い方は悪いが、『ギルドを守る』という命題以外を全て雑事と切り捨てられない膿を一度に出し切るか、後にまで尾を引かせるか。その二択でフラゴンの面々は前者を選択しメルセル・フレイをマスターと定めた、という話なのだろう。
何が正解かは私にはわかりかねる。ただまぁ、純粋な感想として、彼のギルドマスターはもう少し人の心を繋ぎ止める努力をすべきだと思うのだが。
「なぁヴェケル、俺は本音で話した。だからお前も本音で話してくれ。
お前がメルセルの下を離れたのは、何も奴さんが気に食わなかったからだけじゃないだろう?
お前は仲間思いな奴だ。大方、メルセルは気に食わないのにリフテンを離れる踏ん切りもつかない連中が心配で、共に行動したんじゃあないのか?
まだ間に合う。少なくとも俺達が会敵した連中は全員生きてる。
ガマシンが居ないのなら、お前さえ投降してくれれば、俺が一党まるごと許しを得られるようにメルセルに話をつける。必ずだ。
だからヴェケル、頼むから投降してくれ。それでことは全て丸っとうまく収まるんだ」
そもギルドの方針として『可能であれば生け捕り』とされているのだから、投降したのなら一応は助命されるだろう。
しかしメルセル・フレイに不信感を覚えている人間にそれを言ったとしても逆効果になりかねない。
我が友は自らの手柄を水増しするために小賢しい知恵を働かせる人間ではないはずだ。真にヴェケルが受け入れやすい言葉を選んでいるのだろう。
だが当のヴェケルは「全員?」と訝しんでいる。
それはまぁ、どうにか物音を立てずにここまで突破してきたとしても、まさか全員生け捕りとは思うまい。
迅速かつ密やかに鏖殺してきたと思うほうが自然だ。
ブリニョルフもそう考えたらしい。こちらへ目配せしてくる。
「お前が俺に嘘を言うとは思いたくないが、にわかに信じ難い。寧ろ、蒸し返すようで悪いが、メルセルへの手柄とするために、俺達を謀ろうって考えのほうがしっくり来る」
「ヴェケル、悪いが俺も急いでいるんだ。
少し痛むだろうが、我慢してくれ。そうすりゃ、『全員生きてる』手品の種が割れるってもんだ」
ブリニョルフが後ろに回した手で吶喊の指示を出す。
それを見て彼の脇を滑るように駆けるが、私が動き出す直前、「口と足は傷つけるな」と追加の指示が入った。
お安い御用だ。
私はヴェケルの懐まで一足で詰め寄ると、立てた掌底で鳩尾を軽く撫でる。十分に勢いが乗っているため、力を込めずとも息は止まるだろう。
私の姿を鮮明には視認できずとも、何者かが副頭目に危害を加えたことは察知したのだろう。矢と
私以外の誰にも当たらない射線であるため避けてもいいのだが、相手に予想外の動きをされて同士討ちになっても悪い気がする。
味方ばかりのこの狭い室内で毒は使うまい。矢もナイフもそのまま受けた。
薄れた姿に得物が突き立っている様は強烈な違和感を呼び起こすようで、それを放った者等は一瞬動きが止まる。
そこに、今日、何度目かわからない金貨の投擲を行う。
ヴェケルの姿が陰になって状況の把握に数瞬遅れた後ろの三人が動き出す。しかしそれだけあれば十分。全員の顎を拳で揺らし、失神させた。
私がこれまで仕留めた賊の中で、実際に顎が砕けている者は少数だった。だと言うのに、縛り上げるギルド構成員達はやたら痛ましげで、少々据わりが悪かったのだ。
しかしこの部屋の人間は間違い無く全員無事だ。
私が投擲の力加減に慣れたこともあるし、何より距離が近かった。然程威力は要らない。うまく金貨が面で当たるよう調節も出来た。
拳で撫でた三人に至っては、直接この手を用いたのだ。言うまでもあるまい。
私は私の仕事に満足していた。
唯一気絶させなかったヴェケルは、何が起きたのか、とでも言いたげに目を見開いて驚愕の表情だ。
……いや、目に関しては、四つん這いになって派手に嘔吐しているのが原因かもしれないが。見た目は悪くとも、生きているのだから許してほしい。
「ありがとう、兄弟。見事に全員無事だな。注文に応えてくれて助かるよ。
さてヴェケル、まずは呼吸を落ち着けてくれ。それで、真実は見てのとおりだ。俺達は
「あぁ認めるよブリニョルフ。俺の負けだ。なんというか、エラい助っ人を連れてきたみたいだな。とてもじゃないが敵いそうにない。
……俺も、考えなしの馬鹿共とは言え、皆を死なせたくない。降伏する。
俺からも呼びかけよう。そのために俺の意識は保たれているんだろうしな」
ブリニョルフはヴェケルから言質を引き出した。一安心、といった樣子だ。
だが、ヴェケルが一言だけ付け加える。
「投降はするがブリニョルフ、覚えておけよ。俺はメルセルを認めたわけじゃない。それは他の連中も同じだろう。
それを忘れると、いつか二の舞になりかねんぞ」
ブリニョルフの表情は一転して苦み走り、ただ黙っていた。
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ブリニョルフ一行がヴェケルを降伏させた後、ヴェケルは残党となった仲間へ投降を呼びかけた。
頭目は死に、実質的な頭目となったヴェケルも降った。
中には攻め込まれたこと自体が信じられずに抵抗する者もいたが、概ねはヴェケルに従い投降した(抵抗した者は
そうして急ぎ残党を無力化すると、ブリニョルフはすぐにラットウェイを北側へと移動し、メルセルとの合流を図った。
ブリニョルフは、メルセルがヴェケル以外の離反者達に対しても『可能であれば生け捕り』の基準を高く見積もっているのではないかと懸念していた。そしてそれはどうやら
会敵した頻度も人数もブリニョルフ達のほうが多いはずだが、メルセル一行の面々は、ギルド構成員の証である革鎧を血で汚している。
ブリニョルフ一行が本隊であるメルセル一行と合流したのは、メルセルが今まさに会敵し、奇襲に打って出ようとしたときだった。
奇襲を止める猶予は無かったが、ブリニョルフが言葉を発せずとも以心伝心とばかりに男が飛び出す。
男はメルセルの短刀を小盾で防ぎ、自分がまさに今、死にかけていたことにやっと気付いた賊が反応するより先に、後ろ手の肘打ちで黙らせる。
他の本隊の者が弓や投擲で狙い定めていた賊も、全て金貨の投擲で意識を奪った。
メルセルは何事かと身構えたが、ブリニョルフが出てきて事情を説明する。
敵の頭目は既に死んでいること。副頭目以下残党は投降したこと。会敵した者は全て生け捕りにしたこと。
メルセルはヴェケル同様「生け捕り」の
「面白くはない」といった面持ちではあったが。
その後、手分けしてラットウェイ内の敵対派閥一党を全て無力化したことを確認すると、盗賊ギルドの面々はフラゴンへ帰還した。
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現在、私はブリニョルフの自宅で一人、寛いでいる。少々思案していることはあるが、人目につかない場所で心身共に弛緩しているのは確かだ。
彼に言わせれば「ギルドこそ我が家」らしいので、この家についてはどうも、世を忍ぶ仮の拠点、という意識が強いようだ。
まぁわからないでもない。彼のギルドへの献身を見ていれば、陰と日向のどちらに重きを置いているかは自明である。
ちなみに、もう日は昇っている。やはり日の出の光景は良いものであった。
急な訪問があっても怪しまれないようにか、家の中にもそれなりの物資がある。
彼を待つ間はどうせ暇なのだから、食事でも作って時間を潰そうと思う。
遠い記憶を頼りに、根菜の皮を向き、適当な大きさに切り鍋で炒め、次に葉菜を投入する。
火が通った気がするあたりで水を入れて茹でる。大の男が野菜だけでは足らんだろうと、干し肉も入れる。
あとは火を弱めて灰汁をとりながらダラダラと過ごす。
美味しいか不味いかは知らん。私は長く料理などしていなかったのだし、彼も私に料理の腕を期待してはいないだろう。
そもそも私は、食べられはしてもその必要は無い。
あれこれ忙しい友人の手間が多少減れば、それでいいのだ。
いい具合に根菜が柔くなった頃、家の主が帰宅した。
「遅かったな、友よ。上司殿に絞られたか?」
「ただいま、兄弟。それはもうこってりとね。君にも話しておくべきだな。
それはそうと、飯の支度をしてくれていたのかい? 意外だな。君が料理とは。まるで上さんでも貰ったみたいだ。」
私は「そっちの趣味は無いぞ」と釘を刺し、続けて「丁度出来上がったが、味は保証しない」と言って配膳を進める。
初めて敷居を跨いだ家だが、気安さだけは勝手知ったる、といった具合だ。
それに男二人、別段、気取る必要もあるまい。鍋ごと机の中央に鎮座した汁物に、パンとチーズを添えて、朝餉と相成った。
「……ちと塩気が足らなくないかい、兄弟よ」
「干し肉だけでは不足であったか」
ブリニョルフは、それなら丁度いい物がある、と別の干し肉を取り出した。こちらはかなり塩気が強いそうだ。
追加の干し肉をナイフで削りながら直接鍋へ投入し、食事が再開されたところで切り出した。
「それで、どうなんだ君の処罰は。私は組織運営に関わった経験が無いから憶測だが、全くの不問、とはいかないのだろう?」
「あぁ兄弟。『半年間のフラゴンへの立入禁止』、それが俺に下された裁定ってヤツさ。案外軽くすんでほっとしているよ。ただ、デルビンが
彼の話を聞くに、ギルドの構成員は、基本的にフラゴンで仕事を割り振られるらしい。
勿論、自ら培った伝手で仕事を得ても良いが、いつ、誰から、誰を(若しくは何を)対象とした、どんな内容の依頼なのかは、必ず実行前に報告する義務があるようだ。
万一、密かにギルドが友好関係を築いている個人や勢力を害することがあってはいけない、という理屈だとか。道理である。
そしてその報告義務が存在するために、フラゴンを一切介さずに盗賊稼業を行うことはできない。
つまり我が友の実質的な処罰内容としては『半年間の盗賊稼業禁止』、ということになる。
これを破ればギルドを追われるため、ギルド復興を目指す彼に従わない道は無い。
「実は、この裁定になったのは、兄弟とヴェケルの件もあったのさ」
どういうことだろうかと思っていると、ブリニョルフの裁定と共にヴェケルへの裁定も同時に行われたことが原因らしい。
「予想どおりというか、メルセルがヴェケルを殺そうとしたんだ。平の構成員ならまだしも、幹部でありながらギルドを裏切った事実は看過し難い、とね。
しかし理屈はわかっても、それじゃあ今回投降した連中が収まらない。
すると奴さん、『ヴェケルは自らの命と引換えに他全員の助命嘆願を行った』なんて話をでっち上げようとすらしてね。流石にそれは信義に
一応、話の筋としては通らなくも無いあたり、タチが悪い。
それで俺が兄弟の言葉を思い出して提案したんだ。盗賊としての命を絶つことで決着としてはどうか、と。
ヴェケルは今後、フラゴンの管理を任される。しかし盗賊としてではなく、一雇われ人としてだ。当然、稼業は一切認められない。
奴は一流の盗賊だが、ギルドに所属している限り、仲間が稼業に精を出すところを眺めることはできても、自らその腕を振るうことはできなくなる。だがギルドを抜ければ、今度こそ裏切り者として確実に処分される。
俺は奴の命を助けることだけはできたが、同時に酷な人生を押し付けてしまったかもしれない」
寂しげというか自罰的というか、沈んだ表情の友に問うてみた。「ヴェケル自身は何と言っていたのだ」と。
すると友は答えた。
「二、三、短くな。『一度は捨てたと思った命だ』『感謝する』。それだけだ。
俺は、この裁定が実際にどれほど辛いか、案外受け入れられる程度のものなのか、それがわかるのはもう少し時間が経ってからじゃあないかと思ってる」
「君は友の命を助け、今の所、彼奴はそれを受け入れている。ならば良いのではないか?
人は生きていてこそ為せることもある。死んでしまえばそれまでだ」
少し据わりが悪く、「不死人の私が言うのも何だがね」と付け加えた。
ブリニョルフの面持ちは少し上向いたように見えた。
「そんな具合にヴェケルの処罰が決まったところで俺の番さ。親愛なるギルドマスターは初め、俺には幹部からの降格と、昇格資格の永久剥奪、他にも色々と考えていたらしい。
だがそれはデルビンが止めた。俺を平に落としてもどうせ手柄を上げる。それなのに長く昇格させない事態が続けば、組織として健全とは言い難く、何より他の構成員へ悪影響を与える、ってね。
ついでにこうも続けていたな。今回の件で俺に恩を感じる構成員の割合が増えた。そんな状況で俺に厳罰を下すのは、折角、敵対派閥を処理したってのに、組織の盤石化を阻害することになる。本末転倒だ。『けじめ』を付けるための形式的なものであれば十分だと。
色々思うとおりにいかないメルセルは面白くなかったろうな。
そこで奴さんはヴェケルの件から着想を得たのか、そんなに盗賊としての命を失うことが辛いのならお前もそうしてやろう、と言ってね。なかなか得意気だったよ。
経緯としちゃあそんな具合に、俺の処罰は決まったわけさ」
ヴェケルの件では友を慰めただけに、同じ裁定を下されたことについて重いとは言い辛い。
しかし裁定を下した側には人の嫌がることを率先して行おうという捻じ曲がった性根が見え隠れする。メルセル・フレイ、やはり好きにはなれんな。
「心配するな兄弟。言ったろう『案外軽くすんだ』って。
別に俺は地位に拘る趣味は無いが、それにしたって平と幹部ではやはり権限が違う。仕事をする上での『やりやすさ』ってもんが天と地なのさ。
そして、ギルド復興には長い時間がかかると覚悟している。それを考えれば半年程度の謹慎ならどうってことは無いしな。
ついでに、『世間一般常識』ってものを教えて差し上げないといけない、手のかかる友人もいることだからね。……真面目な話、字の読み書きくらいはできないと色々と不便だぜ、兄弟」
それを言われるとちと辛いのだが……。
何にせよは、メルセル・フレイに対して友は欠片も含むところが無いわけではないだろうに、それを口にしてはいない。表にも極力出さないようにしている。私があれこれ言うのは野暮だな。
いや待てよ、この処罰内容であれば、私が寛いでいる間に考えた『思いつき』を聞いて貰っても良いのではないだろうか。
「友よ、君の処罰については了解した。そこで話は変わるのだがな。少し考えたことがある。聞いてくれ。
繰り返し言うが、私に組織運営の経験は無い。素人考えの域を出ないだろうから、見当違いであれば指摘してくれ」
ブリニョルフは「はて何事であろうか」という顔をしている。
私が目下最優先で行うべきことは、スカイリムで生きる上での常識を知ることだ。どこか見知らぬ土地に辿り着いたとしても、問題無く生活を営んでいけるような。
しかしそれには時間がかかる。座学もいいが、実体験を得なければ身につかないこともあるだろうからだ。
そこで私としては、最優先課題は何か別のことに着手しつつ進めるべきだと判断した。
「ブリニョルフ、まず確認だが、他に離反派閥と言えるものはいくつある?」
「大きく分ければ三つ、正確に言えば一つだ。
現状で既に所在が判明しているのは、ここから北ににある砦を根城に定めた連中がいる。頭目はブレックスという男だ。
こいつはメルセルを認められなかったこともあるだろうが、何よりガルスの信奉者だった。奴の中では、盗賊ギルドという組織とガルスという存在が等分で結びついていた。
ガルス亡き今、ギルドは盗賊ギルドであって盗賊ギルドにあらず、といったところなんだろう。似たような考えの連中と、あとは度々仕事を割り当てて子飼いのようになっていた連中を連れて、さっき言った砦に籠もった。
なかなか思い込みの激しい男だが、腕は確かだ。なんなら、今日相手にしたガマシン一派よりもな。
尤も、報告では盗賊というより大規模な山賊、という状況らしい。盗賊
普通であれば討伐の触れが出されるが、奴はまだリフテンの支援者とのつながりを切ってはいないだろう。その辺りは、まったく嫌になるが強かと認めざるを得ないよ。流石は元幹部、と言ったところかな。
とはいえ、今日の襲撃作戦でリフテン内の離反者はあらかた片付き町の中は落ち着いたから、その支援も細くなっていくとは思うが。
もう一つは派閥と呼んでいいのか微妙だ。理由は様々だが、ギルドを離反し、広くスカイリムに散った連中だ。シロディールに流れた連中もいるとかどうとか。
特徴としては、散った後も相互に連絡を取り合っている、ということだな。縦のつながりを切って、横のつながりだけを維持している、広く浅い集団だ。
まぁ、時間の経過と共にそのつながりも薄くなるとは考えているが、正確なところはわからない。
そして面倒なのは、こいつらはいつどこで障害になるか、はっきり言って読めないところだ。
小蝿の如く実に鬱陶しいことだが、まとまって動かれなければ、こちらには情報も入ってこないし、手出しも困難だ。
散々気を揉んだ挙げ句、何事も起きず何の支障も無かった、なんてこともあり得るだろうが、一応悪いほうに想定はしておくべきだろう。
最後に、他にも幾らか『正統後継』に名乗りを上げている連中はいるんだがね。こいつらははっきり言って木っ端だ。どうとでもなるから考えなくていい。
どうも最初は二つ三つにまとまっていたようだが、阿呆なことにすぐに仲間割れを起こしたようだ。細分化した結果、脅威でもなんでもないゴロツキ集団にまで転落した、というわけさ」
まともに『派閥』と言えるものは案外少ない、ということか。
「ありがとう。よくわかった。では、折角説明して貰ったのに悪いが、今の話は脇に置いて本題に入りたい。
ブリニョルフ、君は現在の盗賊ギルドに、新しいシノギとやらを齎すつもりは無いか? ……私が何を言いたいのか訝しげだな。聞いてくれ。
君たちは今、支援者とやらの援助を受けている。しかし組織だろうと個人だろうと『貸し』のある者が強い立場に、『借り』のある者が弱い立場になるのはどこも変わらんだろう。
そして君はギルド復興には長い時間がかかると見ている。つまり長い期間、支援を受け続けることになるな。立場の強弱はより顕著になり、無視できないものになるだろう。
悪くすれば、その支援者の胸先三寸でギルドを潰されかねず、それを回避するためにギルドが支援者の走狗となりかねん。
ならばその支援者に勘付かれないよう、別口で恒常的な稼ぎを用意するべきだ。……ここまでに何か大きな間違いはあるだろうか」
ブリニョルフは険のある表情で考えている。そして「続けてくれ」と促してきた。
「そこで私は考えたのだ。何処かリフテンではない町で、その運営に深く食い込むことはできないだろうかと。
五大都市は難しいだろうな。大きな町で新参者が力を持つのは現実的ではない。
私の古い記憶を辿っても、町の運営を担っていたのは、血を遡ればその土地での豪族だの、町が興ってすぐにやってきた貴族や豪商だの、といったところだった。
では五大都市以外ではどうだろうか。勿論、似たような存在はいるだろう。
しかし中には都市運営に問題を抱えている場所もあるのではないだろうか。そこへ接触して、少しずつ食い込んでいく。
どうせギルド復興に長い時間がかかるのなら、こちらも長い時間をかけて町に根を張るのだよ。
そして計画が順調に推移したのなら、現支援者の影響力は相対的に小さくなる」
「兄弟、君がこうした暗躍というべき話を持ちかけてきたことに、強く驚いている。
君個人の力にはもう感覚が麻痺しつつあるが、これはまた毛色が違う。
……一先ず話を戻そう。兄弟の言うそれだが、問題もあるぞ。
町に介入するとなれば、それこそ個人の力では難しい。無理と言い切ってもいい。
だからこそ、資金と人員を揃えた貴族や豪商でなければ難しいわけだ。その点はどうする?」
「君が先程話してくれただろう? ブレックスだったか? その一派を私の傘下におく。
頭目が前ギルドマスターの信奉者というのだから、そう簡単ではないと理解している。
最悪、連中を鏖殺する羽目になったとしても、ギルドとしては敵対派閥が消えただけで不都合は無い。
私としては、別に人員はその一派でなくとも構わんからな。行き場の無い連中を移住させてもいいし、近隣の賊共を従え押し込めてもいい。
とにかく、人員を揃えて、それを以て継続的な利益を出し、更にそれを町での地盤固めに利用する。
それに『外部協力者』だったか。君が道々話してくれたが、本来であれば表の顔として確固たる地位のある人物が望ましいのだろう。
ならば『町の有力者』はそれに相応しいはずだ。そして、ギルド側の担当窓口が君、という具合だな。
……なぁブリニョルフ、二人で町を牛耳ってみないか?」
ブリニョルフの顔が一層険しいものになる。話題が話題だから理解できんでもないのだが、そんなに穴だらけな計画だろうか。
私としては、大筋だけ示して、仔細は知恵者たる彼が詰めてくれれば、くらいの思いだったのだが。
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ブリニョルフは自省せねばならなかった。
目の前で呑気に「あぁ、そういえば丁度、討伐の触れが出にくい状況にあるのだろう? ならば頭目を討ってしまった後も、うまくすればそれを継続させられないかな」などと提案している男を侮っていたことをだ。
確かに個人的戦闘力で言えば、タムリエル中を探しても並ぶ者はいないだろう。古き英雄ですら怪しい。
だが、どこか
男の語った来歴を疑うわけではないが、纏うその緩い印象から軽く考えてはいなかっただろうか。
男は、殺し殺され奪い奪われる殺伐とした環境に長く身をおいていた異常者である。だというのに、自分と違和感無く会話をし、常識は通じずとも道義的には善性を保っていたために誤解した。
いや寧ろ、それこそが
尚武の気風が強いスカイリムでは、流血沙汰など日常茶飯事だ。だから男が戦闘を躊躇しなくても不思議には思わなかった。
しかしそうではなかったのだ。男は、敵であろうとも無かろうとも、人を傷つけ、奪うことに躊躇いが無い。
男がそうしないのは、単に面倒事を嫌ってのこと。真に危害を加えない相手など、友とそれに連なる者だけなのだろう。
男は言った。殺伐とした場所に馴染み過ぎていた、その常識を引きずっていた、と。我が身を省みているあたり、血で血を洗う地獄の流儀を止めるつもりはあるのだろう。
しかし人間の根底はそう簡単には変わらない。
自分は男を『良い奴』だと言った。それは間違っていないと今も思う。しかし『善人』ではけしてなかった。
ブリニョルフとて盗賊である。標的であれば奪うし、時には傷つけることもある。闇に生きる人間が、今更、道徳的かどうかなど気にしない。男との友情も変わらないだろう。
だが町を牛耳る? いったいどれ程の血を流すつもりでいるのか。
ブリニョルフは、つい先程口にした「驚き」など可愛いものであったのだと、現在の衝撃を以て実感した。
(※あくまで参考にさせていただくまでで、必ずしもアンケートの結果に沿うかはお約束できません) 文字数について質問です。拙作において一話あたりの平均が8000字強くらいらしいのですが、この文字数が長いのか短いのか、読者の皆様がどうお感じになっているのか気になりまして。私としては深く考えず、キリのいいところまで、くらいの意識だったのですが。一つ、ご協力よろしくお願いいたします。
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最低文字数(1000)で十分。
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~5000くらいはいるくない?
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今よりちょい短めで(~8000弱)
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Don't worry.
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もっと長くしろよ読み応えがねえだろハゲ