「おやおや、これは」
私が校舎を歩いているとたまたま青色のハンカチを見つけた。しかも、私はこのハンカチの持主を運良く知っていた。
「届けてあげよ〜」
私は床に落ちているハンカチを拾い、持ち主の元に向かった。
私はトレーナー室に向かった。今日持ち主がトレーナーと打ち合わせがあると言っていたのを覚えていたからだ。
トレーナー室の扉を少し開け隙間から覗く。すると持ち主…ニシノフラワーが彼女のトレーナーと話していた。
「あはは、トレーナーさんってば〜そうじゃありませんよ」
フラワーとトレーナーが仲睦まじく、肩を触れ合わせ話していた。
私は、胸がキュッと締め付けられるように痛くなった。
「べ、別に何もないのに…おかしいなぁ……」
私は、フラワーとトレーナーが話しているのを見るのが耐えられず、その場から走って逃げだした。
何も考えず逃げ出したものだから、雨が降っていたことをすっかり忘れ、お昼寝スポットに逃げ出していた。私は濡れた体のまま雨に降られながら、お昼寝スポットの原っぱに座る。雨はどんどん降る、けれど雨が降っていることなんてどうだって良くなるほど、今の私は心が荒れていた。
雨が降っている、空を見る、灰色の雲で、まるで私の心を、天気が再現してくれているよう。
「フラワー…」
フラワーは何も悪くない、悪くないのなんてわかっている。けど、けど、けど、けど!!フラワーのあんな楽しそうに笑う顔を私以外の誰かに見せていると思うと、胸が苦しくなる。
胸が苦しくなって、痛みを止めるために胸を思いっきり掴むけれど痛みは消えてくれない、増すばかりだった。
「フラワー…フラワー…フラワー!!」
フラワーのハンカチを握りしめフラワーを呼び続ける。彼女が来ないことなんて知っているのに。呼びつづけた。バカみたいに。
フラワーへの気持ちが一向に収まることはなかった。収まらないまま、私は寮に帰ってきた。
「ふぅー濡れちゃったなぁー」
私は誰かに見つかった時に!自分の気持ちを悟られないよう、いつものように振舞った。
「セイちゃん!すごい濡れてるじゃないデスか!!大丈夫ですか!!」
「大変、すぐタオル取ってくるね」
偶然、エルコンドルパサーとグラスワンダーが入口の前を通りがかった。グラスはそのままタオルを取りに行ってくれた。
「いやいや〜雨がすごいのに傘忘れちゃって〜」
「おぉ、それは災難ですね、傘はちゃんと持っておくべきデース!」
「あはは、そうだね〜」
「はい、タオル」
「ありがとう〜グラス」
エルと他愛もない話をしながら、グラスからタオルを受け取る。
エルにはああ言ってしまったが、本物のことは誰にも言えるわけがない。私のフラワーへの感情は自分がよくわかっている。この気持ちを誰かに伝えてしまったら、私はどう思われるのだろう。想像しただけで怖くなり、一瞬、その場から動けなくなった。
「どうしましたか、セイウンスカイ?」
グラスに呼ばれ、顔を上げる。
「ん〜?なんでもないよ、それよりお風呂入ってこなくちゃ〜」
「そうデスね!!私達も今から入るところなので、一緒にいきましょう〜!」
「お〜、グッとタイミング〜じゃあ着替えとかとってくるから先行ってて」
「わかりました〜!行きましょうグラス」
「え、えぇ」
私はエル達から離れ、部屋に戻ったのだった。
フラワーのハンカチを返すことができずに、数日が過ぎた。
フラワーに会いに行って返せばいいのに、あれ以来、フラワーに会うと辛くなってしまいそうで会うことができなかった。
私はフラワーのこと以外考えられず、なんとなく適当に校舎を歩いく。
「フラワー…」
名前を呼んでしまう。ここにいる訳では無いのに。
「どうしましたか?スカイさん」
後ろから声が聞こえ、振り向くとフラワーが目の前に立っていた。
「あ、えっと、やっほ〜、フラワー〜」
私は慌てて、いつもの私に戻る。
「こんにちは、スカイさん、それで私がどうかしましたか?」
フラワーに詰め寄られ、後ろに後退りをしてしまう。
「い、いや〜なんでもないよ、それじゃあ私急いでるから、ごめんね」
「あ、スカイさん…」
私はフラワーに呼び止められても、フラワーの顔を見ることができず、走り去った。
「あ、スカイさん〜!」
「ごめんね!急いでるから!」
「スカイさん、あの」
「ごめんね、いま、大事なことしてて〜」
「ス、」
「ごめん!」
私はフラワーに会うたびに逃げ続けた。フラワーに合わす顔がない。フラワーを感じていたいがために、ずっとハンカチも返せずにいた。
「はぁ…」
ため息が止まらない。フラワーに悪いことをしてしまっているのはわかっている。けれどやっぱり今は…
そんなことを考えながら歩いていると、トレーニング場に来ていた。トレーニング場の観客席から見ていると、フラワーが走っているのが目に入った。
「フラワー…」
私のこの気持ちは、きっと、嫉妬、独占欲が働いているんだ。
フラワーともっと一緒にいたい。
フラワーには私の事だけを見ていて欲しい。
そんな思いがズッシリと心を埋めているんだ。
「う…」
私は、トレーニング場から逃げたのだった。
あの日と同じ、私はまた、お昼寝スポットに逃げ出し座り込む。ポケットに入っているフラワーのハンカチを取り出す。
「フラワー」
フラワーの名前を呼んだと同時に、雨粒が手にあたる。雨粒がどんどん増していき、土砂降りになった。
「あぁ、またか…」
ハンカチが濡れないように、ポッケにしまう。意味は無いかもしれないが。
私はただただ、空をみつめている。灰色の雲と雨粒を見ていると、急に私の上だけ雨が降らなくなった。
「スカイさん」
優しい声で呼ばれ、声が聞こえる方を向くと、フラワーが私に傘をさしてくれていた。
「フラワー…」
フラワーは優しく微笑んで私を見ている。
「スカイさんがこっちに来るのが見えたので、来ちゃいました」
「そっか…」
「なにか、ありましたか」
私はしばらく沈黙が流れたあと、フラワーに今の想いを伝えた。
「私ね、フラワーが、他の人と話してるの見て、嫉妬してたんだ、フラワーが楽しそうにしてるのが嫌…フラワーが私の前から消えちゃうみたいなんだもん…私には、フラワーしかいないんだよ…」
私は、目から涙を流しフラワーを見る。雨で視界が悪いし、涙でフラワーの顔は上手く見えなかったが、フラワーは、傘を捨て、座り込んでいた私には抱きついてきた。
「フラワー…?」
私は訳が分からなかった。ただフラワーが濡れていくのがわかった。
フラワーはゆっくり話し始めた。
「スカイさん、大丈夫です、私はスカイさんの前から離れません、ずっと一緒にいますから」
フラワーは私の頭を撫でてくれている。頭を撫でられ、抱きつかれ、私は今までの気持ちが空気を抜くように抜けていった。抜けていくと同時にさらに泣き続けてしまった。
「フラワー…フラワー…フラワー」
私は何度もフラワーの名前を呼んで抱きつき返した。
フラワーは何も言わずにずっと、一緒に雨に濡れてくれていたのだった。
「あーえっと、恥ずかしいところ見られちゃったなぁ…」
雨の中泣き続けていたが、雨も止み、私も泣き止んだ。
「ふふ、大丈夫です、スカイさんはそういうところがあるのは知っていますから」
フラワーは私の隣に座って、私の肩に頭を預けていた。
「うぅ、見透かされてるみたい…あ、そうだ」
「どうかしましたか?」
私はポケットから、フラワーのハンカチを取り出す。
「これ、落としてたのを拾ったんだけど、フラワーのだよね」
フラワーは手に取り嬉しそうな顔になった。
「あぁ!これ、探してたんですよ〜!ありがとうございます、大事なものだったので…」
フラワーは握りしめ言った。
「ごめんね、そんなに大事なものならもっと早く返せばよかったよ…」
「いえ!これ、スカイさんがレースに出ていた時、物販でスカイさんをイメージしたハンカチが、売っていたので買ったんです、いつでもスカイさんを感じられるように…」
フラワーにそんなことを言われ、私は顔を真っ赤にした。恥ずかしいのと嬉しいのが入り乱れている。
「ああぁ、そうなんだ、そうなんだ…」
「あ!いやその…」
フラワーも自分が何を言ったのかわかったのか、顔を赤くしていた。
「ぷ、ふふ」
「あはは」
私たちはおかしくって笑ってしまった。
「帰ろっか、フラワー」
「はい、スカイさん」
私たちは立ち上がり、しっぽと手を絡ませながら、寮に向かったのだった。
〜END〜