これは死後鬼たちに立ち向かった皇帝、シンボリルドルフの戦いの記録である
トレセン学園に最も夢と情熱が満ち満ちていた時代から数十年後、1人のウマ娘がその生涯を走り切っていた。
皇帝、シンボリルドルフそのヒトである。
レースで圧倒的な走りを見せ、現役を退いた後もウマ娘の幸福に生涯を捧げた彼女は、黄泉に下って今まさに地獄での裁判を終えたところだった。
皇帝としての、そして会長としてのシンボリルドルフを知るものの中に、彼女が地獄にいるという事をすぐに納得できるものはいないだろう。
しかし、肉や魚を食べる、血を吸う蚊を叩く、歩くときに蟻を踏む……など、些細な殺生でも地獄では罪と見做され、その為に死後の地獄での裁きは極々一部の限られた聖者以外は逃れる事はできないのだ。
彼女に言い渡された刑罰は極寒地獄だった。
しかし案内人の鬼に連れられた先にはいくつかの卓士と椅子があるのみ、想像していた雪や氷の冷たさは微塵も感じられない奇妙なところだった。
鬼によって乱雑に椅子に座らされると、同じ卓士を囲う椅子に座っていた者たちが一様にシンボリルドルフを睨め付け、笑った。
「あぁ、あんたが新しく来たシンボリルドルフさんね。もっと
「八寒地獄によく来たね、わしら新しい子来るまで暇で暇で酒を
「わしらのことは気軽にお兄さんって呼んでええからね、鬼のお兄さんだから
彼女を囲う者……頭に禍々しい角を生やした鬼たち……が言葉を発するたび、その声は極寒の冷気となってシンボリルドルフに襲いかかった。
寒さに震え上がった彼女が周囲を見渡すと、他の卓士でも囚人を取り囲むように鬼のおやじ達が語りかけ、その一言毎に寒さに震え上がっている。
そう、ここは鬼のオヤジギャグによって身も心もやる気も凍てつく極寒の地獄だったのだ。
見てくれこそ変なものの身体を襲う冷たさはまさに全身が凍り付いてしまいそうで、今いる場が地獄だという事を何よりも何よりも強く知らしめていた。
……だが。
(フッ……この私にジョークで勝負を挑むとは、良いだろう。
……そのジョークは、シンボリルドルフを熱くした。
「このような場にお招き頂き感謝する。私はシンボリルドルフ。生前ではトレセン学園という教育機関にて会長を務めていた。
……会長が破った
「……!」
「……やるじゃないの!」
「カイ、チョーオモいってか!ダハハハハハ!」
シンボリルドルフからの思わぬ反撃、それを受けた鬼たちの反応は様々だ。
目を見開いて驚愕するもの、柔軟な対応を称賛するもの、ただ単にウケている者。
しかし、みな一様にシンボリルドルフを畏れている事のみは共通していた。
しかしまだだ。
まだ好調な走り出しをしたまで、ここで足を止めてはすぐに差し返されるだろう。
「私はすべてのウマ娘の幸福のため、一心不乱に邁進していた。
最もその夢は遠く儚いものだ。私は
地獄の刑期は長い。この勝負は今までのどんな走りよりもスタミナを削られるものだろう。
だが、シンボリルドルフは目の前のレース、さしずめ『G1地獄賞』に敗北するつもりなど更々ない。
「それでも私が勇猛果敢に走り抜けることができたのは、応援してくれる皆のお陰だった。
……汝、皇帝の
彼女の脳裏には、現役時代に幾度となく目と耳に刻み込んだゲートオープンの光景が勢い良く映し出されていた……!
シンボリルドルフが地獄に行ってから更に未来の話。
今度はトウカイテイオーが地獄にやって来た。
会長と同じく極寒地獄を閻魔に言い渡され、鬼に連れられた先で彼女が見たものは……。
「あははっ、はははははっ!!死ぬっ、死んじゃうっ!会長さん、ネイチャさんまた死んじゃうから……っ!!」
一足先に地獄を訪れていたナイスネイチャと、
……た。
「ネイチャと……あれは?」
……た。
……った。
……がった。
……下がった。
「え、エアグルーヴ……」
……エアグルーヴのやる気が下がった。
……エアグルーヴのやる気が下がった。
……エアグルーヴのやる気が下がった。
……エアグルーヴのやる気が下がった。
……エアグルーヴのやる気が下がった。
……エアグルーヴのやる気が下がった。
……エアグルーヴのやる気が下がった。
……エアグルーヴのやる気が下がった。
鬼のギャグじゃないから別に寒くないはずなのに、シンボリルドルフのギャグで無限にやる気を下げ続けているエアグルーヴの姿だった。
昔読んだ児童書にこんな話があったなと思いながら書きました
極寒地獄がこんなザマなので、灼熱地獄も元テニスプレイヤーの炎の妖精にもっと熱くなれよ!と言われ続けるくらいの事しかやってなさそうですね