ひなたはみやこの人付き合いのできなさをよく知っているのになぜ友達の間では「とにかくすごいみゃー姉さん」像が出来上がっているのか、ひなたはなぜ「花なら大丈夫かな」と思ったか、から想像して話を作りました。
「みゃー姉さんって本当にすごいよね~。スポーツ万能で有名な大学の学生で美人コンテストも優勝して、それにモデルもしてるんだもん!」
「ねぇ~、かっこいいよね!」
ともっちとゆめちゃんは3年生になってからの友達だ。あたしはクラスみんなと大好きだけど、休み時間に一緒に過ごすのはこの二人とが多い。あたしは「暴走特急」なんて呼ばれる事が有るけど、ともっちもゆめちゃんも突っ走り過ぎるあたしに辛抱強く付き合ってくれる大親友。
だけど実はいつも不思議に思ってることが有るんだ。二人に限ったことでは無いんだけど…
「なぁ、そのミャーネーさんって…」
「え?ヒナタちゃんがさん付けるのは変じゃない?」
「え?そうか?でもその人のこと良く知らないし…」
「またまた~。ヒナタちゃんが自慢してくるんじゃない、急にどうしたの?」
「え?あれ、え、うん…まあいいや。それより、今日の給食何かな?」
「ヒナタちゃん、まだ2時間目終わったばっかだよ…」
いつもこんな感じだ。美人で勉強ができてスポーツ万能で友達がいっぱいいてモデルもやってる「ミャーネー」さんについて詳しいことを教えてもらおうとすると、二人に限らず皆はぐらかしてしまう。クラスの皆が知ってる有名人みたいだけど、あたしだけはよく知らない。
まぁ別にいいや。あたしには大好きなみゃー姉がいるんだから。他にどんなカッコいい人がいても、あたしの一番はみゃー姉だ。
その日も楽しい一日だった。抜き打ちの算数の小テストは難しかったけど、給食は大好きなコロッケだったし、午後の体育はサッカーでシュートを2回も決めた。
「せんせ~、さよなら~!」
「はい、また明日。車に気を付けてね」
体育が終わったら帰りの会を済ませて、クラブに行く子や塾に行くために駅に行く子、あたしと一緒でまっすぐ家に帰る子など三々五々教室を出ていく。バスケ部のともっちの話を聞いているとクラブ活動も楽しそうだと思うけど、あたしは家に帰ってみゃー姉の顔を見たいから帰宅部だ。
帰り道、一人で帰るのがつまらないから道路の白い線だけを歩いて帰る遊びをした。半分くらいまで行けたけど、途中の交差点で全部黒くなってて残念賞。前も同じ事が有った気がする。
家の鉄柵の門を開けると、お母さんが玄関に鍵をかけていた。
「お母さん、出かけるの?」
「ん~、ひなたか。買い物行ってくるわ」
「お菓子買ってきてくれる?」
「今日はみやこが朝出る前におやつ作ってたぞ」
「みゃー姉のおやつ?やった~!何?クッキー?」
「知らね。冷凍庫に入れたって。鍵かけたいから早く入っちゃいな」
「は~い。ただいま~」
お母さんに急かされて玄関に入る。靴を脱ぎ捨ててまっすぐ台所へ。冷凍庫を開けると真ん中に紙コップがあって、ぺら紙が付いている。紙にはマジックでテキトーに「ひなたへ。ニンジンのスムージーだよ」と書かれていた。
「ニンジン…美味いのかなぁ?」
なんだか変な感じだけど、きっとみゃー姉の作ったおやつだから美味しいに決まってる。お菓子作りはみゃー姉の特技の一つだ。あたしも時々お手伝いするけど、みゃー姉が中学生になった頃にはもう、レシピも見ないしアレンジも自由自在で作っていた。スムージーっていうからジュースみたいなのかな?と思ったらもっと凍っててフラッペみたいな感じだ。シャクシャクしてて食べてて面白かったし、ちゃんと甘くて美味かった。野菜のお菓子なんて、やっぱりみゃー姉は天才だと思う。
急いで帰ってきたけど、みゃー姉は高校生だからまだ帰ってくるには時間がかかる。たまに学校で気持ち悪くなっちゃって早退してくれるけど、今日はちゃんと最後まで出席できるっぽい。でもあんなに学校休んでて大学生になれるのかな?あたしはみゃー姉は進学も就職もしないで、ずっと家にいてくれたら良いと思うけど。いつかあたしがすっごいOLになってみゃー姉を養ってあげるんだ。将来の夢を考えながら部屋でマンガでも読みながら待つことに決めた。
「ただいま~」
ちょっと飽きてきたなぁと思い始めた頃、玄関からいつもの優しい声が聞こえてきた。慌てて読みかけのマンガを閉じて出迎えに行く。階段を駆け下りれば腰に届く長い髪をなびかせた世界一の美女がそこに居る。
「みゃー姉、おっかえり~!」
「ひ、ひなた…ただいま。でも廊下を走っちゃダメ。それともうちょっと優しくお願い…」
「えへへ、ごめん、みゃー姉。会いたくてたまらなかったから」
「今朝も一緒にご飯食べたじゃない…おやつ食べた?」
「ああ!凄いなみゃー姉!野菜入りなのに甘くておいしかったぞ!」
「あれ、結構満足した感じ?」
「おう!お代わりあるのか?」
みゃー姉の言葉にちょっと期待して尋ねたが答えはNO。
「お代わりっていうか、今日お願いしたい衣装はちょっとタイトだから軽めにしちゃったし、後でお礼にもう一品、と思ってたんだけど…」
「おぉ、もう一品!みゃー姉のお菓子ならいくらでも食べられるぞ!」
「いや、いくらでもは…晩御飯の前にあんまり食べさせたら私がお母さんに怒られるし…小さめのホットケーキね。生クリームのホイップも
「わかった!それで今日着る奴はどこだ?」
「私のクローゼットだよ。それじゃ部屋で撮影会しよっか」
みゃー姉のもう一つの特技、そして趣味は
「んふふ~。じゃ~ん!」
みゃー姉の部屋に入ると、早速みゃー姉はクローゼットから今日のコスプレ衣装を取り出した。服っていうか、特撮のヒーローが来てるような、ピッチリした奴だ。
「なんか変な服だな、みゃー姉」
「そ、そうかな?この前昔のマンガを読んでたら、主人公の怪盗のお仕事着が凄いセクシーでちょっと作ってみたくなっちゃって…」
「怪盗!それはカッコいいな!」
「妹のツボが謎…カッコいいよりセクシーな感じでお願いしたいんだけど…」
「セクシーは無理だ!まだ小学生だからな!」
「圧倒的正論。まぁ今日は普通に着てくれるだけで良いよ。まだ手直ししたい所もあるし」
みゃー姉に促されてコスプレ衣装に袖を通そうとする。
「ん…結構キツイな。股もギリギリだし、うまく両腕通すの大変」
「ああ、やっぱり。どうしよっかな?いっそ左右はパーツ分けしちゃうってのも考えるか。頑張ればいけそう?」
「おう、任せろ!」
ちょっとキツイかな、と思ったけどみゃー姉の期待は裏切れない。何とか着てやろうと生地を引っ張っていると、無情なびりりっという音。
「「あ」」
悪戦苦闘むなしくコスプレ衣装は破れてしまった。
「ごめん、みゃー姉…」
「ううん、気にしないでいいよ、ひなた。もともと難しいのわかってたから。そんな顔しないで、ホットケーキ焼いてあげるから着替えて待ってて」
「うん…」
みゃー姉は許してくれたけど、せっかくみゃー姉が作った服を破いてしまった。今度はカッコよく着こなしてあげたい。
みゃー姉のホットケーキはとても美味しくて、添えられた生クリームをたっぷり付けていたら、帰ってきたお母さんに食べ過ぎ注意を言い渡されてしまった。
そんな楽しい毎日はあっという間に過ぎて、あたしも晴れて5年生になった。クラス替えでともっち達とばらばらになったのは残念だけど、新しいクラスでもたくさん友達を作ろうと思う。まずはお隣さんからだ!
「初めまして!あたしは星野ひなた、よろしくな!」
「え…?うん、よろしく…」
元気よく
「星野ひなただ!お前の名前は?」
「そんな大きな声出さなくてもちゃんと聞こえる。白咲花よ」
今度はちゃんと返事が返ってきたけどなんだか怒らせちゃったっぽい。静かな方が好きな奴なのかな?
「花か~。可愛い名前だな。お母さん花好きなのか?」
「さぁ…?それより本読みたいから静かにして」
そういうと花は本当に机から文庫本を取り出して読み始めた。なんか小さい字でいっぱい書いてあってあたしなら1ページ読んだら眠くなりそうなやつだ。
「なぁ、それどんなお話だ?」
そう聞くと花はキッとこちらを
花は長い綺麗な黒髪のなかなかの美少女だ。1週間くらいしてクラスの皆の顔と名前も覚えたけど、多分一番じゃないかな。ま、みゃー姉には敵わないけどな。
「花ってさ~。髪長いよな。手入れ?とか大変じゃないか?」
「お母さんがやってくれる」
「へぇ、優しいお母さんだな。みゃー姉も高校生の間は長くしてたけど、結構風呂上りとか大変そうだったぞ」
「ミャーネー?」
「お、興味あるか?みゃー姉はあたしのお姉ちゃんだ。名前がみやこでお姉ちゃんだからみゃー姉!」
「…ふーん…」
「それでな。みゃー姉は凄いんだぞ。なんてったって…」
「どうでもいい。それより本読むから静かにして」
なんだか花はあたしの話に割り込もうとしたけど、もうあたしのハートは止められない。みゃー姉がどれだけ凄いかをじっくり説明してやる。
「それで高校生までは髪長くしてたけど、今は切っちゃったんだ。でもどっちもすごい美人だぞ。そんで高校卒業してからはニートでいつも部屋にいるから、前と違っていつも遊んでくれるんだ」
「ちょっと。静かにしてってば」
「お、そうか?ちゃんと聞いてたか?」
「だから本読んでたの…お姉さんのこと、好きなのね」
「そうだぞ。何だ、ちゃんと聞いてたんじゃないか」
ひょっとしてみゃー姉の話を最後まで聞いてくれたのは花が最初なんじゃないだろうか。今まではあたしがみゃー姉の話をしようとしても、みんな名前の似ている美人で勉強ができてスポーツ万能で友達がいっぱいいてモデルもやってる「ミャーネー」さんの話を始めちゃうけど、花は本読みながらだけどちゃんとみゃー姉の話を最後まで聞いてくれた。
「へへへ…」
「なに、気持ち悪い」
「こっちの話~」
一方通行でもみゃー姉仲間ができたのがうれしくて、顔を
それからも時々花とはみゃー姉の話をした。他のクラスメイトにも話をしようとしたけど、正体不明の美人で勉強ができてスポーツ万能で友達がいっぱいいてモデルもやってる「ミャーネー」さんはもう人気者で、皆その人の話を始めてしまうのでなかなか上手くいかない。その点、花は本を読みながらだけど最後まであたしのみゃー姉の話を聞いてくれる。
折角だからもっと仲良くなって色んな話をしたいんだけど、正直みゃー姉以外の何を話せば花が楽しいのかさっぱりだ。もうすぐゴールデンウィークだから一緒に遊べるようになれたらと思うんだけど…
いろいろ考えてみたけど自分では何にも思いつかない。机に突っ伏して考えていると影が差した。
「ひなたちゃんどうしたの?」
声をかけてきたのは小依だ。小依は結構クラスの皆をよく見ていて、困っている感じのクラスメイトに積極的に話しかけて悩み相談をする。良い奴だし優しいのは間違いないけど、あまり頭がいい方じゃなく、変な事を思いついて余計な騒動を巻き起こすことも多い。そんな時に実際に解決するのは
「あぁ…花の事なんだけどさ」
「花?えっと…白咲さん?あんまり話さない子だよね」
「あたしとは結構話すぞ。もうすぐゴールデンウィークだし、もっと仲良くなるためにはどうしたらいいか考え中」
「仲良くなる…仲良くなる…うう、ううううぅぅぅぅ」
悩みって程ではないけど何となく口に出してどうしたいかを伝えると、なんだか頭から煙を吹きだしそうなほど考え込んでくれる。トラブルメイカーなのに嫌われないのはそれが善意100%だと皆判るからだ。
「ううぅぅぅ…かの~」
いつもの通りにと言うべきか、小依は夏音に助けを求める。
「どうしたの?よりちゃん」
すると呼ばれるのを察していたかのように夏音が現れる。まるで世界の全てが幸せの素のようにニコニコしている夏音にたどたどしく小依が説明すると、夏音はすぐさま何かをひらめいた様子で手を合わせる。
「そうだ!もうすぐゴールデンウィークだし、一緒にお出かけしてみたらどうかな?」
だがどうやら小依の説明が中途半端だったらしく、見当違いの答えが返ってきた。
「ごめん、夏音。そのゴールデンウィークを一緒に過ごす為に、仲良くなっておく方法を考えてるんだ」
「え?ごめんね、ひなたちゃん。勘違いしちゃったみたいで」
「気にしなくて良いぞ。それで改めて聞くけど、どうすれば良いと思う?」
「そうだねぇ…私は花ちゃんとお話ししたことあんまり無いんだけど、どんな事が好きなのかな?」
「ん?花の…好きな、事?そう言えばあんまり花の方から話してもらった事無いな…う~ん…わからん!」
「そ、それは難題だね…じゃあまずは何が好きなのか聞いたり、あとゴールデンウィークの予定とか聞いてみたら良いんじゃないかな?」
「さすが夏音、名案だな!そうしてみるぞ!ありがとな」
言われて初めて気付いたけど、あたしはいっぱいみゃー姉の話をするけど、花の話を聞いたことが無かったような気がする。今度は花からいろんな話を聞いて、ゴールデンウィークの相談もしてみようと思う。
「今年はお休みが長いから始めは3泊4日で家族旅行」
「う」
まずはゴールデンウィークの予定を調査、と思ったらいきなり出鼻を
「急に何?」
花は結構言葉足らずな話し方をする。あんまり優しくない感じに聞こえちゃうみたいで、小依も言ってたみたいに話しづらいと思う子も多い。だけどあたしとは何度も話しているから、話しかければ本を読んでてもすぐしまうし、意外と熱心に聞いて返事をしてくれる。今まであたしの周りにいなかったタイプで、あたしが仲良くしたいのはそれも理由かもしれない。
「いやぁ…ゴールデンウィークに遊べたらなぁと思ったんだけど。家族旅行かぁ」
「最初の4日って言った。わたしも遊ぶのはいいと思う。宿題とか出ると思うから4日か5日にうちで一緒にやろう」
「お、おう!」
「じゃぁ詳しいことは宿題が出てから決めよう」
「そうだな。それにしても宿題が最終日じゃないのって凄いな」
「…ひなたは確かに最終日にまとめてやりそうね」
「ほかの日はみゃー姉と遊ぶので忙しいからな!」
「お姉ちゃんっ子」
「そうだぞ。みゃー姉は凄いんだからな」
「まぁ、いいけど…」
そんな感じで思ったよりゴールデンウィークに遊ぶ約束はすんなり決まった。できれば花の家じゃなくてうちに呼んでみゃー姉と会わせてやりたいけど、みゃー姉は凄い人見知りだから、花が来ても部屋にずっと隠れてる気がする。花は初めてのみゃー姉友達だから、なんとか二人が話をできるようになったらいいんだけど…まずはあたしが花と仲良くなるところからだ。難しいことはあとで考えよう。
ゴールデンウィーク初日、休みという事でみゃー姉と毎日遊べる大事な一週間の始まりだ。目が醒めたら早速着替えてみゃー姉の部屋に。まだ眠っているみゃー姉に飛び乗って力一杯揺する。
「みゃー姉、起きろー!ゴールデンウィークの始まりだぞ。一瞬も無駄にするな!」
「ううううぅぅ…ひなた、まだ眠らせて…昨日遅くまで漫画読んでたから辛い…」
「しょーがないなー。とりあえず朝ごはん食べてくる!」
言い残して階段を駆け下りるとダイニングに飛び込む。
「お母さんおはよ~!」
「おう、おはよう。みやこは?」
「まだ寝てる。あの調子だとお昼まで起きてこないかも」
「ったくしょーがねーな~。ひなたご飯にする、パンにする?」
「ごはん!納豆乗せる!」
「ほいほい。卵は混ぜる?辛子は?」
「卵は入れる。辛子は要らない」
「はいよー、ちょっと待ってな」
お母さんが冷蔵庫から納豆と卵を出してくれるのを見ながら、ちょっと前から気になってたみゃー姉と花を仲良くさせる計画について相談する。
「なぁお母さん、今度家に連れてきたい友達がいるんだけど…」
「いいじゃないか。珍しいねぇ、ひなたが友達家に招きたいなんて」
「ん~…家族じゃない人が家に来るとみゃー姉が嫌がると思って」
「ひょっとして今までずっとそれで?気を
「うん…でも今度仲良くなった子はなんか違うって思うんだ。ひょっとしたらみゃー姉と仲良くなれるかもしれない」
「それは無い」
即座に否定するお母さんに、もしかして
「そんなこと無い!花は初めてのみゃー姉友達なんだ!」
「みゃー姉友達?何それ?」
「みゃー姉の話をする友達だ!」
「え?あんた学校でみやこの話してんの?恥
「ん~…それがさぁ、クラスの子にはなんか知らないけど美人で勉強ができてスポーツ万能で友達がいっぱいいてモデルもやってるミャーネーさんって人が有名で、皆その人の話始めちゃうから、ちゃんとみゃー姉の話聞いてくれた子って今までいなかったんだ」
「お前、それ…まぁいいや。それで、その花って子は違うのかい?」
「おう!最後まであたしの話を聞いて、お姉さんが好きなのね、って言ってくれた!」
「そ、そうかい…まぁわかってくれる友達ができて良かった。この休み中に連れてくるかい?」
「ゴールデンウィークはあたしが花んち行く!そんでもっと仲良くなったら家に誘ってみる!」
「よ~し、頑張んな。ほれご飯」
「ありがと~。いただきま~す」
お母さんがよそってくれたご飯に納豆と卵をかけると、ぐちゃぐちゃにかき混ぜて勢いよく
「ちゃんと
お母さんに注意されながら朝ご飯を済ませると、部屋に戻って自分でも宿題に出された算数ドリルに取り組んでみた。だけど早くみゃー姉が起きてこないかばかりが気になってなかなか進まない。花に頼りっきりじゃカッコ悪いから少しは自分で進めておきたいのだけど。
「おはよ~」
お昼ご飯を食べているとみゃー姉が二階から降りてくる。
「なにがおはようだい。もう昼だよ」
「ん~…ごめ~ん。ふぁぁ…まだ眠い…」
「しっかりしな。休みだからってあんまりぐうたらするんじゃないよ」
「みゃー姉に休みとか関係ないんじゃないのか?」
「ひなた酷いよ。私だってちゃんといつもは起きてるでしょ」
「どうかなぁ。へへへっ」
みゃー姉には悪いけど、直ぐに起きて遊んでくれなかったから今はお母さんの味方をする。口を尖らせたみゃー姉はまだ眠そうにしながらトースターに食パンを投入。あたしは朝がパンだとお昼まで我慢できないけど、みゃー姉は洋食派なんだと言っていた。その事についてのお母さんの意見は、若いくせに胃腸が弱いからご飯だと重いんだろ、とのこと。ご飯が重い、という言葉が未だによく判らないのだけど、お母さんは判らない方が良い、と説明してはくれなかった。
トースターが務めを果たすのを待っているうちに、ぼんやりしていたみゃー姉もだんだん目が
「そうだ、ひなた。また新しい服作ったから後で試着してみてくれる?」
「あんたまた変な服作ったんじゃないだろうねぇ」
「変な服なんかじゃないよ~。ねぇひなた~」
「おう!みゃー姉の服はカッコいいぞ。コスプレだけど」
「やれやれ…」
お母さんと話しながらあたしとみゃー姉はご飯を終えた。一緒に歯磨きをして、ついでにみゃー姉は顔も洗った後、一緒にみゃー姉の部屋に行く。
「じゃ~ん!今日はこれ~」
みゃー姉が出してきたのは、黒くてフリフリがいっぱい付いた短い上着と、真っ赤なズボンと緑のズボン吊りだ。
「あれ?この間のぴっちりスーツは?」
「あ~…う~ん、あれねぇ。やっぱり普通のお店で手に入る生地で作るのは難しそうかなって。とにかく着てみて。終わったらチョコクッキー焼いてあげるからね」
「おう!これシャツ着てると服からはみ出しちゃうな」
「あ、そうだ。これ下着の代わりに着て」
みゃー姉が差し出した下着とコスプレを着て、みゃー姉の前でくるっと一回りして見せる。
「どうだ、みゃー姉?」
「おお、いいよいいよ~。可愛いよ~。派手な色遣いを見事に調和させる素晴らしいデザイン、ばっちりハマってる!あ、もうちょっと
コスプレはよく解んないけど今回の衣装はみゃー姉的に大ヒットらしく、
「なぁみゃー姉、最近学校で仲良くなった友達の話なんだけど…」
「いいよ良いよ、可愛いよ~。ふひょ~…ん、何か言った
駄目だ、機嫌が悪くなるとかどうとか以前に全く聞いてない。まぁいいや、すぐに家に呼ぶわけじゃないし。取り敢えず今日は大人しくみゃー姉のお人形になる事にした。
チョコレートクッキーは相変わらずすっごく美味しかった。
そして迎えた5日、花が書いてくれた地図を頼りに初めての路地を歩く。花の地図は真っ直ぐのはずの道がグネグネとうねっていて
「は~い」
インターホンから返事が聞こえてきて直ぐ、優しそうな女の人が顔を出す。
「星野ひなたです。花ちゃん居ますか?」
「はいこんにちは。あなたがひなたちゃんね。いつも花ちゃんと仲良くしてくれてありがとう。それじゃ中にどうぞ」
花と違って優しそうでよく喋るお母さんだ。花も慣れると味のある性格だけど、やっぱりパッと見の人当たりの良さがだいぶ違う。楽しそうに話す花のお母さんに案内されて花の部屋に入る。
「花ちゃん、お友達のひなたちゃんよ」
「いらっしゃい。そっちに座って」
「それじゃ、お茶
「ありがとうございます」
お母さんが出て行った後、とりあえず花に言われた通り向かいに座る。テーブルにはもう教科書やノートが広げられていて、どうやら既に宿題は始まっていたようだ。
「何からやってる?」
「今は社会。教科書の52ページのところ」
花が言ったので社会の教科書を出して、練習問題に挑戦する。
「ん?こんなの授業でやったっけ?」
いきなり
「ひなた。いきなり問題見ないで面倒でも教科書読み返して。そうしたら思い出すから」
「わかった。えっと、どこだ?」
「49ページ」
「サンキューな。何々…?」
しばらくは黙々と問題を解く。花の言う通り教科書を読み返すと、先生の話していたことが
「は~い、花ちゃん、ひなたちゃん。おやつですよ~」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「ひなたちゃんはハキハキ喋れて偉いわねぇ。花ちゃんもそういう所は見習ってね」
「ん…頑張る」
そう言った花はお母さんをじっと見ている。
「ほら、花ちゃん」
「うん。今日のおやつは何?」
「良くできました。今日はバニラアイスクリームです」
「アイスクリーム!」
花ちゃんのお母さんがメニューを告げると、珍しく花が大きな声を出す。
「お?花はアイスクリーム好きなのか?」
「うん!」
驚いて尋ねると鼻息を荒くして花が答える。
お母さんは二人分のアイスクリームの皿と、紅茶と砂糖とミルクを置いて出て行った。花は紅茶にミルクと砂糖をたっぷり入れるとこっちを気にせず早速アイスクリームにスプーンを入れる。そしてちょっと多めに
「ん~♪」
そして今まで見たことの無い緩んだ顔で幸せそうな声を出す。
「おお…それじゃあたしもいただきます」
軽く手を合わせてあたしもアイスクリームに手を付ける。するとまず冷たさ、そしてミルクとバニラの甘さが広がり、最後に添えられたミントの爽やかな香りが鼻に抜ける。
「美味い!花、凄い美味いなこのアイスクリーム!」
思わず大きな声を出して花に話しかけたが、花は知らん顔でスプーンを皿と口の間で往復させている。そしてスプーンが口の中に入るたびに幸せそうな顔をする。そしてまるでほっぺたが落ちるのを防ぐように頬に手を当ててニコニコしている。あっという間に食べ切ると、物足りなそうに皿を眺めている。
「その…何ならあたしのも食べるか?」
「いいの?」
「そこまで食べたいなら。あたしはミルクティーだけでいいし」
そう言ってアイスクリームの皿を花の方へスライドさせると、花は再びスプーンの往復運動を再開する。そしてあっという間に皿を空にしてしまう。
「ああ…」
そして愛しいものが失われた
「ずずず…本当にアイスクリーム好きなんだなぁ」
ミルクティーを
「行儀悪いよ」
と返してくる。
「いや、あんまり言われたくないけど…」
「アイスだけじゃない。お菓子は何でも好き」
さらにいい情報を手に入れた。みゃー姉はレパートリーも豊富だ。
「それじゃあさ、今度うちに来ないか?」
「ひなたの家?」
「うちにはもっとすごいお菓子あるぞ」
「行く!」
ノータイムで返事が返ってきた。よっぽどお菓子が食べたいらしい。とにかく花の好物がわかったし、うちに招くこともできた。今回のお宅訪問は大成功だ。
「でもそんなにお菓子好きだったのか。給食にプリンが付く日が楽しみだな」
「そうね。それにゴールデンウィークの後に、多分こどもの日の分で何か出ると思う」
「いや…今年はこどもの日の後も土日とかで休みだから無理じゃないか?」
「そうかしら…」
一気にテンションが下がる。そんなに情熱を注いでるのか。なんだかみゃー姉のお菓子を食べてびっくりするのが楽しみだな。
「お菓子も食べたし、片づけたいから紅茶飲んじゃって」
ミルクティーはあっさりと飲み干して、あたしにも早く飲めと急かす。
「甘いだけじゃダメなのか…」
「紅茶はお菓子じゃない」
わかるようなわからないような理由でバッサリと切り捨て、さらに急かしてくる。別に異論があるわけじゃないのであたしもミルクティーを飲み干し、お盆にカップを返す。
「じゃぁ食器返してくる。終わったら次は算数やろう」
「おう、わかった~」
お盆を持ってると大変そうなので、扉を開けてやると軽く
「そうか、お菓子か~。いつもの無表情が嘘みたいな顔だったもんなぁ。みゃー姉、どんなお菓子を作ってくれるかな」
みゃー姉のお菓子はあたしも楽しみだ。いつ遊びに来てもらうかを考えながら、ドリルのページをめくった。少し待っていると花が戻ってきて、花に教えてもらいながら算数ドリルをクリアしていった。その後も時々休憩を挟んだけど、その時々で意外と話題が出てきて、うちに来てもらう話はどこかへ流れて行ってしまった。
ゴールデンウィークが終わってからも花とは何度もおしゃべりしたけど、花んちに行った時に最後に言い出し
みゃー姉には花の事を教えるかどうか悩んだけど、結局不意打ちすることにした。何しろみゃー姉の特技はお菓子作り、花の好物はお菓子、花はあたしの初めてのみゃー姉友達で相性はばっちりだ。先に中途半端に話してみゃー姉に構えさせるより、二人の見えない絆を信じたほうがいい、ってお母さんが言ってた。
そしてお招きの日の当日が来た。平日の放課後は1分たりとも無駄にできないので、学校帰りにそのままうちに連れてきた。ちょっと緊張してるのかランドセルの持ち手をぎゅっと握っているけど、たぶん緊張が解けるのを待っていたらいつまでも家に帰れない。だからさっさと玄関のドアを開けてしまう事にする。
「ここがうち。入って入って~」
ガチャッと音を立ててドアが開く。玄関に五月晴れの明るい日差しが射しこんでいく。先んじて入って廊下を見渡すと、ちょうどみゃー姉は階段を下りてきたところ。最高のタイミングだ。あたしに続いて花が入ってくるとみゃー姉の瞳が、まるで運命に出会ったかのように大きく見開かれて…
読んでいただいてありがとうございます。
ご意見ご感想、誤字報告など有りましたら指摘をお願いします。
別の小説投稿サイト「小説家になろう」「カクヨム」でも同じく嶺月名義で、オリジナル小説を投稿しています。