異世界帰りの魔王様   作:大倉 雪之丞

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皆さん、お久しぶりです。

大倉雪之丞です。

就活やらレポートやら卒業論文やら卒業研究やらで今まで時間が取れていなかったのですが、何とか新しい話を書くことができました。これから引っ越しなどもあり、本当に微々たる速度での執筆となりますが、ご容赦願います。

今後とも『異世界帰りの魔王様』をよろしくお願いします。

では、異世界帰りの魔王様の第四話、どうぞお楽しみください。


一方、その頃

「さぁ、神殺し______我が愛する勇士よ、殺し合い(愛し合い)ましょう?」

 

 フレイヤの美しい顔に浮かぶのは、艶を含んだ恍惚の表情。あらゆる男を誘い、惑わし、(かどわ)かす美の女神としての表情だ。

 

 ______さて、どうしたもんかなぁ。出せるには出せたけど、正直使い方なんてよくわかんないし。というか、何出たの?あれ。聖剣と同じって言ってたじゃん!嘘じゃん!!!僕の知ってる聖剣、あんなの出ないよ!!!???聖剣(あれ)はあくまでも、勇者の証であり、不死の魔王に《死》っていう結果を与えるためだけのものだよ!?

 

 美の女神のような(こういった)手合いにはあまり隙を見せてはならない。かつての旅路の中で出会った魔族軍四天王の一人である《邪淫》のグリゼルダは、フレイヤほど魂を握られるような、惹き込まれるような美しさは持っていなかった。しかし、彼女はこちらがつい零してしまった表情や言葉、動揺などに敏感で、少しでも隙を見せればあっという間に隙を作りだしてはこちらにとって非常に嫌なことを仕掛けてきた。正直、今思い出すのすら嫌なくらい、彼女には多大な迷惑と気苦労などを掛けられてきた。

 

 彼女に対抗するためには、兎にも角にもまずは表情を取り繕うことが必要だった。彼女は相手の表情のわずかな強張り、視線の動き方、呼吸の頻度、大きさなどなど表情から多くの情報を抜き取り、そこから相手の次の行動を予測するというとんでもない戦い方をしていたからだ。

 

 その経験から、何とか表情を取り繕っているが、僕の内心は焦りまくりである。

 

 対して、フレイヤは相も変わらず恍惚の表情を浮かべている。ただ、こっちが内心焦っていることは読まれている気がする。

 

 ついと、手元に現れた《勝利の剣》を見る。

 

 黄金に輝いている、バイキングたちが持つ剣______確か、ウルフバートだったか______に似ており、色を除けば本当に聖剣に似ていた。

 

 ______須佐之男は、聖剣を思い出せと言っていた。媛は、聖剣と僕は今も繋がっているはずだと言っていた。

 

 聖剣を、否、この剣を振るうためには何が必要だ?

 

 自分の内側へとそう問いかける。聖剣は、基本的には物言わぬただの武器である。だが、正当なる所有者である勇者が何か大きな困難に直面していたり、悩んでいた時には声なき声を、イメージとして伝えてくれた。意思の疎通ができていたのだ。聖剣の意思によって励まされたことも多く、聖剣の導きによって解決できたこともあった。

 

 だからこそ、この剣も問いかければ、応えてくれるのではないか。何となくだが、そんな気がしたのだ。

 

 ______万物切り裂くには、目の前の障碍を敵と認めよ。

 ______陽光照らすには、敵が強大である必要がある。

______勝利得るには、神に対する十分な知識が必要である。

 

 応えてくれた。

 

 ふっと、笑みがこぼれる。幸い、難しい条件はなさそうだ。僕はすでにフレイヤを敵と認識しているし、相手は神だ。十分強大な敵といえるだろう。フレイヤに関する知識も、この領域にいる限りは問題ない、と思う。

 

「フレイヤ、お前を僕の敵と認める!」

 

「あぁ、そうだとも。私はもとより、あなたの敵だ」

 

 宣言することにより、剣の性質が変わったように感じられた。おそらく、先ほどまでは陽光照らす、という状態だったのだろう。だが、改めて宣言したことにより、剣の性質が万物を切り裂くものに変わった。

 

 ______もう一押し、ほしいな。

 

 おそらく、この状態でも十分フレイヤとは渡り合えるだろう。だが、若干の不安はある。

 

 彼女はメソポタミアのイシュタルに起源をもつ戦の女神であり、美の女神、豊穣の女神だ。そして、魂を操るセイズの使い手なのだ。備えておいて、損はない。

 

「勝利の剣よ、万物を切り裂き、太陽の陽光が如き我が剣よ。我が勝利のために光り輝け!」

 

 イメージは鍛えなおす感じだ。もっと鋭く、もっと重く、もっと硬く、もっともっともっと!

 

 勝利の剣の輝きがより強まっていく。より強固な、よりフレイヤの命を脅かせるような輝きを放ち始める。

 

「...我が従者たちよ、我が敵を滅ぼせ!」

 

 再び、戦乙女たちが現れ、僕に対して敵意を向けてくる。多勢に無勢、かつての僕だったならばこの絶体絶命の危機に冷や汗の一つでも流していただろう。

 

 だが、どうしても僕は戦乙女たちを敵として、否脅威として認識することができなかった。確かに数は多いし、当たれば痛いのだろう。だが、その程度(・・・・)だ。

 

「邪魔っ!」

 

 剣を一薙ぎ。上空に浮かぶ戦乙女を、フレイヤを捉えられるように斬撃が弧を描くように周囲のすべてを切り裂くのをイメージする。

 

 斬っ。

 

 刹那、上空に浮かぶすべての戦乙女が見えない刃によって切り裂かれたかのように両断されていく。

 

 ある者は首が、ある者は胴体から、ある者は腰から、またある者は頭が切り裂かれ、そして灰となって消えていく。

 

 まあ、肝心のフレイヤは余裕綽綽、という表情を崩さない。艶の含まれた恍惚の表情はそのままに。然も、何もありませんでしたという風体だ。

 

 足りない、足りない。万物を切り裂くだけではフレイヤを殺すことはできない。太陽も対して効果はないだろう。ならば...。

 

「剣よ、輝け。我が勝利のために!」

 

 作り変えよう、剣を。呼び起こそう、勝利の剣を!

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 一方、その頃。幽世のどこか。

 

「ふむ。フレイヤ殿と神殺しの戦いが始まったか...」

 

 巨大な木の下で休んでいる隻腕の戦士がいた。

 

 そして、その目の前には大きな泉があり、その一部にはまつろわぬフレイヤと周が対峙している姿が映っていた。

 

 さて、読者諸君に紹介しよう。

 

 彼の名はまつろわぬテュール。北欧神話が誇る隻腕の軍神である。

 

 元々は今は亡きまつろわぬフレイ、まつろわぬフレイヤがアールヴヘイムの王権を争っていた所に乱入したのが彼だ。その後、三つ巴の争いを繰り広げている彼らのもとに現れたのが聖霊ローランに体を乗っ取られた周である。ただ、乗っ取った割にはほぼ消えかけだったローランの魂はフレイヤの一喝によって消え去り、その後乗っ取られた周も気を失っていたため、彼らは再び争い始めたのだが...気が付けば、ローランが残した剣を用いてまつろわぬフレイは打ち取られ、あれよあれよという間に神殺し生誕の儀式が執り行われた。

 

 そして、フレイヤとテュールは互いに自身の獲物であったフレイを奪った神殺しへの再戦を誓い、どちらが先に戦うか、という舌戦を繰り広げ、見事まつろわぬフレイヤが"元々、私と兄上が戦っていた時に乱入してきたのが貴方なのだから、ここは私に譲るべき"という主張が通り、現在に至る。

 

「うぅむ、やはり我も向かうべきか...いやいや、フレイヤ殿との約束もある。堪えねば...しかしなぁ、やはり我ら《鋼》と神殺しめは有史以前より争いあってきた宿敵。あの場はフレイヤ殿の主張が正しいと思ったがやはり参加するべきではないか?いや、しかし...」

 

 むむむむむ...と、唸るように悩んでいる。

 

 それに、何より非常にソワソワしていて落ち着きがない。まあ、それもそうだろう。彼は軍神、それも《鋼》の聖性を秘めた軍神だ。血沸き肉躍る闘争こそ、本望。それを前にして浮つかない軍神はいない、ということだろう。

 

 落ち着かないように泉に移る戦場を見ながら、ソワソワしていたテュールがピタリ、と止まった。

 

「・・・いや、悩む必要がなくなったようだな」

 

 そういって、今まで背を向けていた大樹の方向へと向き直る。

 

 大樹に体を預けるようにして立っていたのは、金髪の美丈夫だった。

 

「ふむ、さすがは北欧の軍神、テュール殿...といったところでしょうか」

 

「斯く言う貴様は、どこぞの《鋼》だな。それも、最後の王に連なるものだ。違うか?」

 

「ふふふ、わかりますか?えぇ、その通りです」

 

「して、その《鋼》の勇者が何用か。それも、気配も神気も隠して、背後に立つとは...穏やかではあるまい」

 

 互いに剣の柄に手を掛ける。まさに一触即発。

 

 どちらかが動けば、すぐさまこの場は戦場へと変わるだろう。それゆえに動けない。互いに互いの隙を伺っている。

 

 しかし、どうやら一歩上手だったのは、美丈夫のようだった。

 

「...がっ!?一体、何が...」

 

 テュールの背後には、巌のような益荒男が立っていた。その手に握られているこん棒がテュールの頭の半分を削り取ったのだ。

 

「ふふふ、さすがだな。わが友よ。如何に《鋼》と言えども、君の一撃を食らえばひとたまりもないか。ふふふ、さて。悪く思わないでほしい、軍神テュールよ。私も、かの異世界の勇者殿には興味があってね。神から勇者たれと生み出された我々と、勇者でありながら神々に弓引く魔王となった者。どちらが優れているのか興味があってね。まあ、我々が優れているのは明白だが、その結果にケチをつけられたくなかったのさ。ゆえに最初に始末させてもらった」

 

 気が付けば、美丈夫の周りには様々な人影が集まっていた。

 

「さあ、テュール殿。我が友の存在をより強固なものにするための贄となってくれたまえ!」

 

「きっ、貴様ぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁああ!!!!!!!!!!!」

 

 肉を貪るようなおぞましい音が辺りへと響く中、美丈夫は泉に移る岩戸周(宿敵) へと目を向けた。

 

「さぁ、我々■■■■■■■と貴様とで格を争うときはもうすぐだ」

 

 狂ったような哄笑を上げながら、美丈夫たちは姿を消した。

 

 

 




オリジナル用語集

・聖剣
 現在は女神聖教と聖女によって管理されている異世界の神器。勇者のみが扱うことができ、どんな不死・不滅の存在にも《死》という因果を押し付け、殺すことができる。元々は聖剣などではなかったようだが、異世界の女神によって改造され、聖剣となった。所有者にのみ感じ取ることのできる意思が存在するようだ。

・魔族軍
 異世界の魔王によって率いられていた軍団。ミノタウロスやオーガ、ゴブリン、ダークエルフ、悪魔、淫魔など魔族に分類される種族のみで構成されている。頂点に魔王、その下に四天王と呼ばれる幹部がおり、その幹部の特性によって軍団が編成されている。

・魔族軍四天王
 異世界の魔王によって率いられていた軍団、その四人の軍団長のこと。《邪淫》《暴食》《怠惰》《憤怒》の異名がそれぞれに与えられていた。主人公がまだ勇者だったころには、彼らによって大いに苦しめられたらしい。魔王がいなくなった現在は、彼らを中心に共和制の国家へと変わりつつあるらしい。

・淫魔族
 魔族の中でも女性しかいない部族。淫魔、と名にあるが地球でイメージされるような淫魔ではなく、どちらかと言えばアマゾネスに近い種族。自分よりも強い男、あるいは自分よりも賢い男を非常に好み、あの手この手で攫って自分の婿にしようとする部族としての特徴というか、本能から淫魔の名を与えられた。

・《邪淫》のグリゼルダ
 魔族軍四天王の一人。淫魔族。絡め手や罠などの姑息な手法を好んで扱う。退廃的な雰囲気を漂わせている美女。相手の表情や雰囲気などから相手の思考を読み、相手の手札を前もって封じる、または発動されても無効化するような非常に厄介な戦闘を得意としている。

・■■■■■■■
 《最後の王》に連なる英雄の集団。英雄たちは偉大なる旅路を経て、彼らの存在はより強大になっていく。

・聖霊ローラン
 まつろわぬ神にもなれず、ただ自身の剣に似た剣に憑りつきながらただ消滅を待っていた存在。本来ならば、そのまま消滅する運命だった。しかし、ちょうど目の前に依代としてふさわしい存在が現れたため、自身の存在を確固たるものとするために他のまつろわぬ神へとけんかを吹っ掛けた。が、すぐ吹き飛んでしまった根性なし。

・勝利の剣
 まつろわぬフレイから周が簒奪した権能。《万物を切り裂く剣》《陽光照らす剣》《勝利の剣》という三つの能力を秘めている。それぞれ使用に一応の条件はあるが、《勝利の剣》を除いてほぼ合って無いようなもの。何らかの意思を感じる。
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