カリスマ()モデルひまりさん 作:くまねこ
子猫さん、マカロニパスタさん、ベルスニカさん、7 キルさん、token_sageさん、しーずさん、もぐもぐ星人さん、ありまりまさん
評価ありがとうございます。
346プロダクションに所属していると内部施設を無料で利用できる、というのをご存知だろうか?
本来アイドル達が自己研鑽に取り組むための設備、今これを最も利用しているのはこの女ーっ!
──オレだ。
「……いっちに、いっちに、右、左、ぴーすっ!」
今までは満席で予約できなかったダンスルームと防音室。
増設されたことで仕事の合間でも自主練が可能になり、大変ありがたい。
トレーナーの青木さんは時間に余裕があるみたいでよくレッスンを見てくれるし、……やっぱりアイドル部門は、最高やな!
「──表情が固いが、相変わらず筋は良いな」
「動きながら笑顔ってムズくない?髪も張り付くし……」
「止まる度に笑顔を作ろうとするから、どこかぎこちなく見えるんだ。自然体で通していけ」
「……ぐぬぬ」
自分の長所を聞かれたら、迷わず顔と髪と答えるだろう。
肌荒れや日焼け対策を6歳から行うことで作った白スベ肌から放つこのスマイル!
鏡が割れるんじゃないかと不安になるほど練習したことで、止まった瞬間に癖で微笑が出ちゃうんだよ。
極めつけは『女は髪が命』ということで腰より長く伸ばしたこの白金の髪。
乾かすだけでも30分近くかかり、普段から時間効率の悪さに涙を飲みながら育ててきた一品なのだ。
これが激しいダンスだと鬱陶しいことこの上ない。
──まさかここにきて育ててきた武器がオレに牙を向くことになるとは。
髪とか正直すごく邪魔だし切りたいけど、ヘアメイクのモデルは座ってるだけで良い楽な仕事だからなあ……。
アイドルになる時に髪は切るとして、自然体の笑顔は要練習だな。
「では他のアイドルを見てくるから、ここの片付けと鍵は頼んだぞ」
「えっ、誰だれ!?オレも見たいが!なんなら無理矢理でも──」
「元モデルの子だ。来ない方が良いだろう」
「あっ、はい。帰る準備しますね」
冷静に考えれば、アイドル部門はまだオーディションを始めたくらいだし、移籍した子くらいしかいないじゃん。
誰と会っても嫌味にしかならないし、いくら穴場とはいえちょっと来づらくなった。
朝はここで練習するとしても、夕方と夜は諦めるか。
やっぱり私には夜の公園で自主練が似合いますよっと。
さて、退散。
トレーニングルームを出た瞬間、眼の前に人がいることに気づく。
私よりも少しだけ背が高い。
「……姫白さん」
「いえ、人違いです」
「私、高垣楓と言います──」
澄んだ青のオッドアイに、妖艶さとミステリアスを纏う女性。
会いたくなかったランキング1位は、ダジャレなんて欠片も言いそうには見えない。
「少し……お話しませんか?」
「……はい」
いつになく真剣な表情なのに、不安で泣き出しそうで──頷くしか選択肢は残されていなかった。
高垣楓はモデルという職業が好き、だったと思う。
だが、雰囲気が良いからと無表情な写真ばかり撮られて、本来の自分が分からなくなっていく。
憧れ色褪せる中で、不安ばかりの毎日。
そうしてアイドル部門へと移籍して……、小さなライブ会場で大切なことを思い出す。
ファンと一緒に、笑顔で輝くこと、アイドル高垣楓はこうして始まるものなのだ。
そう信じて、助言だって言うこともできた立場だったのに黙って、物語通りにここまで漕ぎ着けたんだ。
その大切なスタートを、オレ自身が躓かせるわけにはいかない。
楓さんはレッスン前のはず、10分乗り切れば勝ちだ。
「……えっと……」
自信なさげに視線を飛ばすその姿は、オレが知っている高垣楓とかけ離れていた。
それもその筈、彼女は今自信を失って新たな道を志したばかり。
ここは精神年齢が先輩である自分が、話をリードすることが正解だろう。
「アイドル、応援してます!不安はあると思いますけど全部大丈夫です……!たぶん……」
「……あら、ありがとうございます」
こっちから話を振ったことが意外だったのか、びっくりして目が丸くなってる。
うーん、可愛い。
「すみません、てっきり知ってると思わなくて……」
「モデルぶ……達の間でも話題になってました!あと歌が凄く上手なんだって!」
危ない……モデル部門って言いかけた。
今更話題に上がってたと言われても良い気はしないだろうし、気づけてよかった。
もし下手に傷つけて歯車を狂わせてしまったら、楓さんの引退、ひいてはシンデレラプロジェクト解散まであり得る。
そんな私をおいて、曖昧そうに瞳が揺れる。
「──あの、モデルのお仕事は楽しいですか……?」
爆弾きた、それもでかい奴。
なんて返すべきか全く分かんない。
「オレ……こほん。……私は楽しくやらせてもらってます……。ほら、プロデューサーのお陰とかで!──モデル部門としては、もっとやりようがあると思いますけど……はい」
楽しい時もあれば大変な時もある。
一概にどうとは言えない。
楓さんの欲しい答えも分からないし、何言っても不正解まである。
だから素直に答えた。
──楓さんの目が少しだけ細まる。
口の中が、乾く。
「ふふっ、良かった……」
「はい?」
「昔の私が目指したことも間違いじゃなかったんだなって、そう思えたんです……」
微笑えむ顔は、雑誌なんかで見た時よりもずっと綺麗に見えた。
これは間違いない──パーフェクトコミュニケーションだ!
モデルis良い仕事!モデル最高!
生で最高の笑顔見れたし、我が生涯に一片の悔い無し!
「もう少しモデルで頑張りますっ!」
「……?頑張ってくださいね」
ちょうどトレーナーが楓さんを呼びに来たので解散。
我ながらかなり上手いこと立ち回れていたんじゃないか。
『よし、楽しく話せたな!』という言葉が頭をよぎっていく。
楓さんの中では、モデルに対しての思いに既に区切りをつけていたのかもしれない。
だからこそオレにとってモデルがどうか聞きたかったのかも。
この返事の直後にアイドルに移籍するのは印象が良くないし、楓さんも納得行く形でアイドル部門から移籍しないといけなくなったけど、もはやそれくらい誤差の範囲。
楓さんの初ライブ後……大体4ヶ月後くらいなら、オレがモデルを辞めたとしても、アイドルとして確立された楓さんが変に傷つくこともない。
そしてそれまでに、選択が間違ってなかった、モデルも割と良い職業なんだってことをちゃんと態度で示そう。
なんならモデル部門とアイドル部門の架け橋を目指すくらいの気持ちでも良いかもしれない。
となると午後の仕事にも熱が入るってもんだ。
輝かしきアイドル生活と未来のシンデレラ達、待っていてくれ!
オレ、頑張ります!
「そういえば、どうしてひまりさんはダンスレッスンルームに居たんでしょう……?」
ひま虐したい