二〇一六年、七月三十日。星が落ちてきた日から一年後。独りの少女がバケモノから逃げていた。
 これは、この世界のほとんどの人間が歩む末路のひとつ。ある一般人の最期を、どうか見届けて欲しい。

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一葉落ちて天下の秋を知る

 二〇一五年、七月三十日────。

 

 

 それは、この世界に残された人々がよく知る日。天から星が落ちてきた日だった。……一言で星と言っても、惑星や衛星、隕石の類ではない。丸みのある身体は白い外皮に覆われ、巨大な口のような器官を持つ、浮遊するモノ。生物とは思いたくないソレは、ある日突然落ちてきて、建物もろとも人々を食い殺し、ただただ破壊を繰り返していった。

 

 

(あれからちょうど一年……いまだに誰とも会わないか……)

 

 

 少女が独り、山で見つけた小屋に身を潜めていた。

 久葉千里(くば ちさと)、星落の日からずっと一人で逃げ続けている一般人だ。年齢は……今日で十七歳。

 

 

「この世界ももう終わりか……てか、夢すら追えずに死ぬなんて未練残りすぎて地縛霊になりそう」

 

 

 今や独り言がクセになってしまった千里は、小屋で体育座りになりながら耳を澄ませる。

 風が木々の間を吹き抜ける音、それで草木が揺れる音、パキッパキッという枝が折れる音……この音は動物、鹿か何かだろう。あのバケモノ共は浮遊している。木にぶつかって直接枝を折ったのなら、もっと大きな音が聞こえるはずだ。

 

 

「さて……どう来るか」

 

 

 自分の鼓動、呼吸。それが荒くなってくるのがわかる。焦りは死を招く。千里は一呼吸吐いて、身体を落ち着かせる。

 この山小屋を見つけたのは本当に運が良かった。猟師の人が拠点か何かに使っていたのだろう。非常食が沢山あって、山ではあるが結構見通しが良い。見通しが良いから相手からもわかってしまうというデメリットはあるが、山小屋は古くてボロボロ……何度かバケモノが近くを彷徨いたりしたことがあったが、素通りして行った。

 

 

(……いつまでもここに居る訳にはいかない。比較的安全な場所が必ずあるはず……そこを目指さないと。この小屋もいつか壊されるかもしれないし……)

 

 

 落ちていたリュックに、非常食をありったけ詰め込んでいる。逃亡経路も確認済み。そして何より……。

 

 

(私は耳と勘だけは良い……)

 

 

 刹那、風向きが変わったのがわかった。いや、掻き乱されたと言った方がいいだろう。つまりは何かが猛スピードで通り過ぎたのだ。自衛隊がヘリで救助に……なんてことは、プロペラの音が無いのだからすぐに有り得ないと理解出来る。ああ……バケモノ共のお出ましだ。

 

 

『───────』

 

 

 壁の隙間から覗いて見えた。白いバケモノは三匹。一匹は音に反応して鹿の方を確認しに行った。もう一匹は木々の間をすり抜け、隈無く捜索している。そして、最後の一匹。真っ直ぐこちらに向かって来ている。

 

 

(そりゃそうだ、隠れられそうな場所はここしかないからね)

 

 

 千里は汗を垂らし、ゆっくりと立ち上がる。無音を維持する。

 

 

(眼という部位が見当たらない……耳も鼻もわからないけど、少なくとも音は聞こえている)

 

 

 その見た目で迫られ、悲鳴をあげてしまう者も多かった。そういうバカな人間がバケモノを引き寄せてくれたおかげで私は生き延びたのだが。今は独りだ。何も囮には出来ない。

 

 

(しっかし……鹿に危害を加えてないあたり、やっぱり人間を殺すことが目的なのか……鹿だけに)

 

 

 ……っと、自分で言って笑うところだった。しかしいい感じに緊張はほぐれた。さてバケモノ。お前達に銃なんて効かないだろうからちょっと罠に掛かってもらう。

 ──千里は山小屋にあった狩猟用の狙撃銃をあらかじめ床に固定し、引き金に紐を括りつけていた。その紐を握って、静かに脱出口で待機する。タイミングは、鹿との戯れを終えた一匹と、周囲を探してこちらに向かってくる二匹目が合流したタイミング。……つまり、今だ。

 

 

「フッ────!」

 

 

 千里は思いっきり紐を引っ張り、固定された狙撃銃の引き金を引く。銃のメンテナンスなんて女子高校生が出来るはずもない。予想通り弾は暴発し、爆発音が周囲に響く。それで良かった。

 狙い通りバケモノ共は一気に小屋へ突進してくる。その瞬間、千里は脱出口から飛び出て、山を下る。バケモノ共はまだ千里が逃げたことに気づかず、三匹で小屋を食い荒らしている。

 

 

(……よし、よしよしよしッ! 予想通り狙い通り計画通り! 逃げ切ってやる! あんなバケモノ共に襲われてたまるか!)

 

 

 ……今の今まで、何もかも上手くいっていた。だから生き残れた。そこにあるものを利用して……そこにあったのが、人だとしても利用して……利用して、利用して、利用して……そうやって、屍を踏んでいった。

 私は、勘がいい。あの日も何か起こると予感していたし、この方角……四国の方へ進めば助かるかもしれないと感じていた。昔からそういう、生存本能的な勘が良かったのだ。だからこそ、“終わり”もよくわかった。

 

 

「っ!? あっ──!?」

 

 

 先に見える一本の木から葉が落ちるのが見えた瞬間、何かに躓いた私はそのまま体勢を崩して坂を転げ回る。その音でバケモノが気づいてこちらに接近していてしまった。

 

 

「猟師さん……そこに居たのか……」

 

 

 太い木にぶつかって、私は止まる。傷だらけの身体を起こして坂の上を見ると、武装した男の人が倒れていた。その先からは三匹のバケモノが迫ってくる。

 

 

「チッ! ……痛ッッ!? ……え、足? 骨折したの、私……?」

 

 

 逃げようとして右足で踏み込むと鋭い痛みが走る。その瞬間に力が抜け、また倒れてしまう。転んだ時か、ぶつかった時かわからないが、完全に折れている。膝が腫れ上がっていた。

 

 

「……ここで、終わりか」

 

 

 これは罰なのだろう。きっとそうだ。人を踏みにじって生き延びてきたから、人に転ばされて落ちていく。なんとも滑稽で、なんとも無様だ。せめてカッコよく死んでいきたかった。

 

 

『─────』

 

 

 バケモノ共がすぐそばまで来ているが、身動きひとつ取れない。骨折したこともそうだが、何より恐怖で身体が震えて動かない。花屋を営む夢もここで潰えるか。

 

 

「……いや……嫌だ……誰かっ、誰でもいい……誰か……助け────」

 

 

 三匹のバケモノ……星屑は、同時に少女へ食らいつく。山に甲高い、泣き叫ぶ声が響き、鹿や動物達が逃げていく。少女が逃げられなかった星屑からあっさりと。

 ───しばらくして、寂寞とした山から星屑は去った。少女はまだ息がある。中途半端に殺されて、痛みが全身を包み込む中、ジワジワと死んでいく。何も見えないし何も聞こえない。やがて何も感じなくなり、自分が涙を流していることすら忘れ、何もかも忘れ…………久葉千里は死んでいった。

 

 

 

 

 これが、ただの少女の最期。この世界のほとんどの人間が歩む末路のひとつ。そして、勇者がこの少女の遺体を見つけることはないだろう─────。




 はい! ありがとうございました! 書いてくれと言われたので勇者であるシリーズ、一般人の最期を書いてみやした。タイトルはこれに合いそうなことわざくんを引っ張ってきました。※激しい妄想です。こんなんか奈?と思って書いてみたやつデス。

 あと久葉千里ちゃんはオリジナルな子。勇者であるシリーズの一般人……時代がのわゆだからまぁオリジナルになってしまいますよね☆ 裏設定で友達を見捨ててしまっています。7月30日がお誕生日。神樹がロリコンなら……もしこの日、15歳以下だったら……勇者として目覚めていたかもしれない……そんな設定の子です。



 さて、話は変わりますがゆゆゆいユーザーの皆様。酒呑童子高嶋さん……お迎え出来ましたか? ゆーしゃはこの日のために恵みを2万貯めておりまして……70連目でお迎えすることが出来ました。はい、ただの自慢でs((((勇者パンチ



 ─────ぐんたかはいいぞ(遺言)

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