IS インフィニットストラトス 〜The beginning of the end〜 作:クローサー
今回からリード編です。それではどうぞ。
P.S.
間違えて今話を1度消去してしまいました。
時刻は夜。
場所は、カナダ某所に存在する島、通称”リード”。
表向きは民間軍事会社”ミラージュ”が独自に保有する、民間軍事基地である。
北西部には小さな山があり、何よりも目を引くのが西部にある滑走路付きの軍事基地。
その民間軍事基地のハンガーの影に、1人の少女の姿があった。
「ガルーダ、次は?」
『そのまま…は今は駄目だ。前方に警備兵2人』
「近付いて来てる?」
『いや、むしろ遠ざかっている』
「なら好都合。建物までのルートまで他に邪魔になるのは?」
『…無い。その警備兵をやり過ごしたら潜入可能だ』
「了解。そのまま頼むわよ」
その影の正体はセレン。
何故セレンがリードに潜入しているのか。
その理由は、数日前に遡る────
「少し私と付き合って貰うわよ。一夏」
「…は?」
突然の言葉に、一夏は生返事で返す。
「えっと…だな、セレン。一体何に付き合うんだ?」
「…ごめんなさい、いきなり言ったらそうなるわね。ほら、資料」
そう言って、いつの間にか右手に持っていた纏められている資料の紙束を一夏に手渡す。見た目だけでもかなりの量だ。
一夏はそれを受け取ると、資料を読み始める。
「…これは、リードとかいう島に関する調査資料か?」
「ええ」
(何でそんな島の調査資料を…)
そう思いながらも、一夏は資料を読み進めていく。
そして、一夏は資料の中にあった一つの単語が目に入った。
「…”カラード”? あの組織が一枚噛んでるのか?」
「ええ、その島の所有には、カラードが裏にいるわ」
カラード。
世界に革命を起こし、今までの世界のシステムを破壊する事を理念に活動しており、”亡国機業”を除いたら世界最大規模を誇る反IS組織。
数多くのコネクションを持っており、殆どが女尊男卑によって虐げられて来た者、女尊男卑を否定する女性だ。
その中には政治家や資産家のコネクションもあり、その気になれば国に対してある程度のコントロールも可能とも言われる。
これ等の事を統合すれば、カラードは反IS組織であると同時に、「ISの登場と女尊男卑の思想者によって形成された、世界規模の女尊男卑体制に反する人々の意思」を表した象徴でもある。
「カラード、か…」
一夏は更に資料を読み進める。
「なるほど、リードの所有権を持ってるのは民間軍事会社…カラードの隠れ蓑の一つか」
「その社名の名前を見てみなさい」
「社名…?
…”ミラージュ”って言ったら民間軍事会社の三強の一つじゃないか!!?」
「ええ。どうりで数年で三強の一つまで登れた訳よ…カラードが裏にいたんだから」
「リードはカナダ領海のギリギリに位置する孤島よ。カラードは其処の所有権を入手、軍備配備を整えて新たな根城の一つにしている。
そしてカラードの最新機密もそこに、ね」
それを聞いた一夏は、目線が資料からセレンへと変わる。
「…それじゃあ、俺の初仕事は」
その時、2人の横に一つの空間ウィンドウが現れる。画面にはリードの地形とカラードの軍備状況が詳しく移されている。
「ええ。リード西部にあるカラード施設の潜入、カラードの最新機密入手よ。ただ、潜入と機密入手は私がやるわ。貴方は施設潜入までの偵察支援をお願い」
「まず、最初に北西部から買収した奴等のボートを使って上陸する」
「…ん?そいつらはミラージュの奴等か?」
「ええそうよ。幾らカラード傘下の組織でも、下っ端は所詮傭兵。金をチラつかせたら食いついたわ。まあボートを貰ったら消えてもらうけど」
「北西部に上陸後、基地から1km地点のこの場所で一夏は偵察支援を。私はそのまま施設に潜入して、カラードの最新機密をコピーして抜き取る。その後ボートを使って脱出」
「以上が今回のプランよ。実行日は5日後だからしっかり準備しておきなさい。詳細なプランは出発時に説明するわ」
「俺の参加は決定なんだな」
「そうよ。もう貴方には教えられる全てを教えた。後は経験を積んで、貴方の戦い方に昇華させるだけ。とは言っても、今回は潜入だから戦闘は無いけど」
そして、現在。
(…妙ね)
リードの軍事基地に潜入したセレンは、サプレッサーを装着したグロック17を構えながら、通路を慎重に、かつ素早く移動してデータ室を目指しているが、何か違和感を感じていた。
(施設内の監視システムが甘い…単に偶然が重なったのか、それとも…)
そう、施設内の監視システムは外と比べるとかなり甘く感じている。それが単にそう感じるだけなのか、意図的なのかは分からない。
(…警戒するに越したことは無いわね)
通路の曲がり角で周囲を見渡した後、背中に掛けていた小型ショットガン”M26 MASS”のグリップを左手で持ち、安全装置を解除する。右手にはグロック17を持つ。
M26 MASSは全長350mmと、かなり小型のショットガンであり、M16、M4系統のアサルトライフルに装着する事を前提として開発されている。
単体使用も可能であり、装填方法はよくあるポンプアクション式ではなく、”ボルト”と呼ばれる機構を手動操作して装填を行うボルトアクション式。
単体使用、それも片手での発砲ならば反動の衝撃が問題になるが、肉体強化が施されているセレンならば何の問題も無い。
M26 MASSも構えたセレンは目的の場所を目指して再度歩き始めた。
(…やっぱり、匂うわね)
首に掛けてるルビーのネックレスがカチャン、と音を立てた。
その後。
警備兵や監視システムをやり過ごしながら、セレンは目的の部屋の前まで辿り着く。
周囲の安全を確認した後、ドアに耳を当てて聞き耳を立て、中の状況を調べる。
(人声などの特異音は無し…)
右手で、グロック17を握ったままドアノブに手を掛け、M26 MASSを構えながらゆっくりとドアを開ける。
そして、ある程度開けた所で足音を立てずに中に入り、同時に部屋の確認を行う。
部屋は無人。セレンから見て前方に、複数のデータサーバーと大型コンピューターがあるだけだ。
(…)
セレンはドアをゆっくりと閉め、警戒を怠らずに大型コンピューターへと向かい、辿り着く。
そして、グロック17をホルスターにしまい、通信機を取り出して通信を開いた。
「データ室に着いた。10分で終わらせるわ」
『了解』
通信機をしまって、次に取り出したのはUSBプラグが2つ付いた回線。
片方のUSBプラグを大型コンピューターのUSBプラグ接続口に差し込む。
そして、もう片方のUSBプラグは────
”自身の首元”にある、USBプラグ接続口に差し込んだ。
差し込みを完了させ、セレンは目を閉じて視覚を遮断。
(…接続)
次の瞬間、接続された回線を通じて、セレンの脳に凄まじい量の情報が無尽蔵に流れ出す。
(整理開始。無関係情報は全てリリース)
それと同時に、セレンの脳内に流れた膨大な情報の整理が始まる。整理され、全く関係無い情報は全てセレンの脳から削除されていく。
(早く…)
「当たり」の情報が中々見つからない事にセレンは焦る。
現在のセレンは、脳のほぼ全ての神経を流れ込んでいる情報の制御に回しており、接続状態では身体は動かす事が出来ない。
更に、身体を制御する時に重要な感覚である五感も効かなくなる。つまり、セレンが接続を切らない限り、周囲の状況を一切感知出来なくなってしまう。
例えば今、敵が部屋の中に入って来ても全く分からない。そして、身体に何かをされていてもセレンは全く感知出来ないのだ。
接続してる時間の1秒さえ、今のセレンにとってはハイリスクを伴っている。しかし最新機密が手に入ればハイリターンにもなる。
正にハイリスクハイリターンの勝負を、セレンは行っているのだ。
(…もう少し…)
整理開始から30秒。膨大な情報量を、たった30秒で整理を終えようとしている。
整理が終わったら、カラードの最新機密ファイルがその姿を現す筈。
そして、そのファイルを”セレンの脳”にコピーして抜き取り、一夏と合流してここを脱出する。
それがこの潜入作戦のプランだ。
(整理完了……!?)
が。
(…ファイルが見つからない!?どういう事…!!)
セレンが接続したデータサーバーには、カラードの最新機密は見つからなかった。セレンは慌てながらも整理した情報の中にある施設データを閲覧する。
(…間違いない、此処はサーバー室。ならカラードの機密ファイルは一個くらいはある筈…)
しかし現実は異なり、カラードの情報は一切ダウンロードされていない。
(…まさか!!!!!)
30秒前。
データサーバー室に、セレンにとっては招かれざる者が入って来た。
人数は2人。
1人は、外見から見れば17、8歳であろう、しかしその手の者から見たら”強者”と言える気配を持つ青年。
もう1人は、15、6歳の白髪のショートヘアの少女。
共通しているのは、拳銃を所持している事か。
2人の目線には、USBプラグの回線によってコンピューターと接続しているセレンがいる。
それを見た2人は、拳銃を構えながら素早くセレンの元に移動。
普段のセレンならばすぐに気付くだろうが、今のセレンは五感がシャットアウトされた状態の為、気づかない。
セレンの後ろに付いたら、すぐさま武装解除を試みる。
少女は左手にあるM26 MASSを取り外そうとするが、握力等の身体機能はシャットアウトしない為、難航している。
そして、青年は真っ先にセレンの首元にあるルビーのネックレスを取り外す。
ルビーのネックレスを取り外した青年は、次に2つのホルスターにある2丁のグロック17に手を伸ばして────
その瞬間、セレンの右足で繰り出されたキックが、青年の左太ももに正確にヒット。その衝撃で青年はバランスを崩し、地面へと倒れる。
「!?」
それと同時に左手が振られ、巻き込まれる形で少女がよろける。そして振り返ると同時にM26 MASSの照準を合わせ────
左からの銃撃音と共に、左手からM26 MASSが弾け飛ばされる。
「ぐぅ!?」
M26 MASSが宙を舞い、そしてその隙に立ち上がってた青年の手に渡り、照準。
「──ッ!!」
それを見たセレンはすぐに側転。その0.1秒後、M26 MASSから発射された散弾がコンピューターの画面を割る。
側転から流れるように両方のホルスターからグロック17を取り出して構える。
そして、青年と少女も手に持っている拳銃をセレンに照準。
状況は、完全な膠着状態になる。
「流石ですね。すぐに罠に気付くとは」
不意に、少女が口を開く。それに続くように青年も口を開いた。
「だが、一歩遅かったな。お前の愛機は奪わせてもらった」
青年の左手には、セレンの首元にあったルビーのネックレスが握られていた。
それを見たセレンは、一瞬眉を細めた。
「…私はまんまと貴方達の罠に引っかかったって訳ね。やってくれたわね…」
そしてセレンは、彼等の名を呼んだ。
かつて仲間だった、戦友の名を。
「──オッツダルヴァ、リリウム」