IS インフィニットストラトス 〜The beginning of the end〜   作:クローサー

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第五十九話

「……………?」

 

 

身体が重い。彼女は、まず始めにそう感じた。

 

 

閉ざされていた瞼を開けたが、まだ意識がしっかりとしていないのか、五感が上手く働かない。

 

 

(確か……私は……)

 

 

「────ッ!!!?」

 

 

意識を失う直前の記憶を辿り、思い出したセレン(彼女)はその瞬間、意識が完全に覚醒。同時に身体全体に痛みが走り、状況が初めて分かる。

 

 

セレンの身体は、オッツダルヴァとの戦闘で破損した建物内に倒れていた。その近くの壁に巨大な穴がある事から、吹き飛ばされて来てしまったのだろう。

 

ホワイト・グリントも、一切の修復補給無しに度重なった連戦、爆発の超高温に晒された事により、各所の装甲は傷付き、右脚の破損部とオーバード・ブースターの幾つかは火花を散らしている。

 

そんな中、左手の063ANARを手放していなかったのは、生まれたその瞬間から戦い続けていた彼女の身体が、そうするように染み付いていたのだろうか。

 

 

しかし、今のセレンの思考には、そんな事は路道の石ころ以下な事だ。

 

 

痛む身体を起き上がらせながら、セレンは通信で呼びかける。

 

 

「オッツダルヴァッ!!!!」

 

 

応答は、無い。しかし、呼びかけを続けてながら、視界の限りに探す。

 

「応答しなさいよ、オッツダルヴァ!!!!」

 

 

そして、セレンは。

 

 

 

 

 

 

 

「──テルミドールッッッッ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

それを、見つけた。

 

「────」

 

セレンの視線の先。約200m先の、コンクリートの地面。

 

そこに、オッツダルヴァの愛機 ステイシス の武器、"ER-O705"と。

 

 

 

 

紅いナニカに染められた、青色の装甲の破片が、あった。

 

 

 

 

「…」

 

セレンは地面へと降り、ゆっくりと、ゆっくりとそこへと歩く。

 

そして辿り着き、右手でER-O705を拾う。あの爆発に巻き込まれたとは思えない位に、綺麗で、美しく残っていた。

 

「ッ──!!」

 

その瞬間、沸々と感情が沸き起こる。それを撒き散らしたい衝動を必死に抑えながら、全周波に通信を入れる。

 

 

「メルツェル………聞こえてるんでしょう………」

 

『ああ。通信良好だ』

 

 

セレンの耳に、感情を感じる事のない、独特な声が響く。

 

「何故、テルミドールを……!!」

 

『用済みとなった危険因子は排除すべきだ、と言えば満足か?』

 

「…」

 

 

 

──ブツン──

 

 

 

そう、限界だった。

 

──オーバード・ブースターが展開。

 

その瞬間、身体の痛みがまるで最初から無かったように引き、視界が今までより鮮明になる。

 

──エネルギーの、収束音が響く。

 

そして、再び光り始めた北の水平線を睨み。

 

 

 

「──メルツェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェルッ!!!!!!!!」

 

 

 

彼女は、怒りを。

 

──収束されたエネルギーを放出し、駆ける。

 

その感情を、爆発させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大爆音。

 

砲弾の通過と同時に、21の薬室内にある燃焼ガスが順次点火。

 

そうして超高初速を得た砲弾は、砲身から出て、水平線の先へと向かう。

 

そして21秒後、水平線の先から爆音が響く。

 

『…外したか』

 

最初の爆音を起こした張本人であるメルツェルは、右手に持つ巨大な砲の狙いを修正。

 

そして砲身に次弾が装填。愛機である"オープニング"の背中に背負われた巨大な砲の機構の一つ、円筒状のガスタービンジェネレーターが再始動。光を歪ませる程の高温が放たれ、機構と砲身から青い光が発生する。

 

16秒後。再び大爆音と共に、砲弾が発射される。

 

その射線上には、一つの障害しかない。

 

 

「──!!!!」

 

 

その障害であるセレンは、アクセル・クイック・ブーストを右方向に発動。その刹那、僅か1m左手を砲弾が通過した。

 

そして、アクセル・クイック・ブーストを前方に連発。オーバード・ブーストの速度も相まって、約マッハ2から約マッハ3を前後する速度でメルツェルへと向かう。

 

身体の負荷も。機体の負荷も。その一切を度外視して、水平線の先へと。メルツェルの元へと向かう。

 

その姿は、美しくも、恐ろしい。恐ろしくも、美しい。

 

そして。再度光が水平線──

 

 

否、水平線の手前から見え始める。

 

 

 

「!!」

 

その光の発生源は、オッツダルヴァと戦闘を繰り広げていた偽造施設の一つ、採掘プラント上から。

 

それを視認し、真っ直ぐと向かう。超音速の速度では、それはたった数秒で手前まで辿り着いた。

 

 

そして、その勢いのまま。

 

 

「ハッッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

『むっ…!!』

 

左脚で、メルツェルを蹴りつけた。

 

超音速で放たれた蹴りは、一切の容赦無く、固定砲台となっていたメルツェルを吹き飛ばし、エネルギーを充填していた砲は衝撃の過負荷によって腔発、大爆発した。

 

当然オープニングも巻き込まれ、その爆発の威力の前では、オープニングが持つ重装甲は何ら意味を持たなかった。

 

 

爆発が晴れた時、オープニングの姿は一切が消えて無くなっていた。

 

 

たった1発の蹴りで、文字通り決着(ケリ)を付けたセレンは、偽造採掘プラントの上で膝を付いていた。

 

 

「ゲホッ、ゲホッ…!!」

 

地面に、口から吐血した大量の血が流れる。

 

メガフロートから、一直線に向かい、オーバード・ブーストとアクセル・クイック・ブーストの連発による負荷は凄まじく、こうなるのも当然の話だ。

 

「フー…」

 

一度大きく深呼吸して呼吸を整え、立ち上がる。

 

 

現地時間は、夕方。西の水平線には、夕焼けを映す太陽がある。

 

 

カラードとORCAの、決着は付いた。

 

後は──

 

 

 

 

『へぇ、あの状況からこう切り返すんだ。中々やるじゃないの?ゴミ虫にしてはさ』

 

 

 

 

最悪の敵を、残すのみ。

 

 

 

 

「…死神かしら?」

 

『死神なんて大袈裟だけどね。ま、そっちからしたら死神の一人の認識で良いよ別に。どう呼ばれても知らないしね。あ、そうだ。声だけとはいえ始めましてかなぁ?試験体No.14621』

 

通信越しにでもハッキリと分かる、小馬鹿にするような声色。聞いているだけでも、収まっていた怒りが沸き起こりそうになっていく。

 

「…要件は何かしらクソ野郎」

 

『…仮にも君さぁ、女の子でしょ?んな言葉を使うなんて、どうかとは思うなーほら、ヤンキーとか言ったっけ?アレアレ。おじさん泣いちゃうよー』

 

「…それを言うだけなら物理的に通信切るわよ」

 

『あー待って待って。ちゃんと要件はあるから切らないで欲しいんだ。誰だってこんなどーでもいいこと伝える為だけに通信なんかしないだろ?』

 

 

ピキ。そんな音が、セレンのこめかみに走る。

 

 

「……………さっさと、話しなさい」

 

『んじゃ、お望み通りさっさと話してあげようか。と言ってもそっちに宣戦布告するだけだけど』

 

「宣戦布告…?」

 

『そう、宣戦布告』

 

その瞬間、相手の声色が変わり、その言葉を紡ぐ。

 

『第三次世界大戦、見させてもらった。お前たちは、今迄の候補者の中でも異常な資質がある。そしてそれは、あまりにも危険だ。

 

全力を用いて、お前達の命を、存在を刈り取らせて貰おう。

 

それが俺たちの使命なのだから』

 

 

 

「…やってみなさい、死神。貴方達キチガイなんかに殺られる程、私達は柔じゃないわよ」

 

 

そして、その言葉にセレンは応えた。否、応えない筈が無い。

 

 

『…ハハ、アッハハハハッハハハハハハハハ‼︎

 

 

さすが、最有力候補者の一人だなぁ‼︎

 

 

それじゃ、始めようか‼︎”再現”をさ!』

 

 

その言葉を最後に、通信が切れた。

 

 

 

──その後、第三次世界大戦勃発から"僅か14時間で"指揮系統が壊滅したカラードは各戦場で空中分解。国連軍や現地の各国家軍によって、戦線は崩壊。壊滅した。

 

──残されたカラードの残党は散り散りとなり、独自に抵抗を続ける事となるが、それは微々たる物。カラードの残党は、最早無意味な抵抗を続ける。否、続けるしか無かった。

 

 

──こうして、世界を巻き込んだ彼女達の戦いは終わった。だが、まだ全てが終わったのではない。

 

 

──残されたORCAと、死神達。

 

 

──その戦いの時は。

 

 

 

──終わりの始まり(The beginning of the end)の時は、近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まぁ、異常な素質なんて言っても…アレと比べると弱すぎるよねぇ。ゴミっつーかさぁ』

 

『主任、あの機体を投入するのですか?いかにあの機体と言えど、また調整段階ですが……』

 

『”彼”はそんなの待ってくれないよ。それはお前が良く分かっている筈だけどね、C』

 

『それもそうですね。分かりました、現時点での最善を尽くします』

 

『よろしくねー。それにしても、あんなの俺のキャラじゃないんだけどなぁ』

 

『威圧も兼ねているのでしょう?最善だと思われますが』

 

『まぁそんなもんだよね』




次章予告

カラードとORCAの戦争は、終結した。

かつての仲間達を殺し、自らの理想を突き通したORCAは。


最悪の敵、死神達へとその刃を交える。


第五章 The beginning of the end
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