IS インフィニットストラトス 〜The beginning of the end〜 作:クローサー
「……………?」
身体が重い。彼女は、まず始めにそう感じた。
閉ざされていた瞼を開けたが、まだ意識がしっかりとしていないのか、五感が上手く働かない。
(確か……私は……)
「────ッ!!!?」
意識を失う直前の記憶を辿り、思い出した
セレンの身体は、オッツダルヴァとの戦闘で破損した建物内に倒れていた。その近くの壁に巨大な穴がある事から、吹き飛ばされて来てしまったのだろう。
ホワイト・グリントも、一切の修復補給無しに度重なった連戦、爆発の超高温に晒された事により、各所の装甲は傷付き、右脚の破損部とオーバード・ブースターの幾つかは火花を散らしている。
そんな中、左手の063ANARを手放していなかったのは、生まれたその瞬間から戦い続けていた彼女の身体が、そうするように染み付いていたのだろうか。
しかし、今のセレンの思考には、そんな事は路道の石ころ以下な事だ。
痛む身体を起き上がらせながら、セレンは通信で呼びかける。
「オッツダルヴァッ!!!!」
応答は、無い。しかし、呼びかけを続けてながら、視界の限りに探す。
「応答しなさいよ、オッツダルヴァ!!!!」
そして、セレンは。
「──テルミドールッッッッ!!!!!!!!」
それを、見つけた。
「────」
セレンの視線の先。約200m先の、コンクリートの地面。
そこに、オッツダルヴァの愛機 ステイシス の武器、"ER-O705"と。
紅いナニカに染められた、青色の装甲の破片が、あった。
「…」
セレンは地面へと降り、ゆっくりと、ゆっくりとそこへと歩く。
そして辿り着き、右手でER-O705を拾う。あの爆発に巻き込まれたとは思えない位に、綺麗で、美しく残っていた。
「ッ──!!」
その瞬間、沸々と感情が沸き起こる。それを撒き散らしたい衝動を必死に抑えながら、全周波に通信を入れる。
「メルツェル………聞こえてるんでしょう………」
『ああ。通信良好だ』
セレンの耳に、感情を感じる事のない、独特な声が響く。
「何故、テルミドールを……!!」
『用済みとなった危険因子は排除すべきだ、と言えば満足か?』
「…」
──ブツン──
そう、限界だった。
──オーバード・ブースターが展開。
その瞬間、身体の痛みがまるで最初から無かったように引き、視界が今までより鮮明になる。
──エネルギーの、収束音が響く。
そして、再び光り始めた北の水平線を睨み。
「──メルツェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェルッ!!!!!!!!」
彼女は、怒りを。
──収束されたエネルギーを放出し、駆ける。
その感情を、爆発させた。
大爆音。
砲弾の通過と同時に、21の薬室内にある燃焼ガスが順次点火。
そうして超高初速を得た砲弾は、砲身から出て、水平線の先へと向かう。
そして21秒後、水平線の先から爆音が響く。
『…外したか』
最初の爆音を起こした張本人であるメルツェルは、右手に持つ巨大な砲の狙いを修正。
そして砲身に次弾が装填。愛機である"オープニング"の背中に背負われた巨大な砲の機構の一つ、円筒状のガスタービンジェネレーターが再始動。光を歪ませる程の高温が放たれ、機構と砲身から青い光が発生する。
16秒後。再び大爆音と共に、砲弾が発射される。
その射線上には、一つの障害しかない。
「──!!!!」
その障害であるセレンは、アクセル・クイック・ブーストを右方向に発動。その刹那、僅か1m左手を砲弾が通過した。
そして、アクセル・クイック・ブーストを前方に連発。オーバード・ブーストの速度も相まって、約マッハ2から約マッハ3を前後する速度でメルツェルへと向かう。
身体の負荷も。機体の負荷も。その一切を度外視して、水平線の先へと。メルツェルの元へと向かう。
その姿は、美しくも、恐ろしい。恐ろしくも、美しい。
そして。再度光が水平線──
否、水平線の手前から見え始める。
「!!」
その光の発生源は、オッツダルヴァと戦闘を繰り広げていた偽造施設の一つ、採掘プラント上から。
それを視認し、真っ直ぐと向かう。超音速の速度では、それはたった数秒で手前まで辿り着いた。
そして、その勢いのまま。
「ハッッアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
『むっ…!!』
左脚で、メルツェルを蹴りつけた。
超音速で放たれた蹴りは、一切の容赦無く、固定砲台となっていたメルツェルを吹き飛ばし、エネルギーを充填していた砲は衝撃の過負荷によって腔発、大爆発した。
当然オープニングも巻き込まれ、その爆発の威力の前では、オープニングが持つ重装甲は何ら意味を持たなかった。
爆発が晴れた時、オープニングの姿は一切が消えて無くなっていた。
たった1発の蹴りで、文字通り
「ゲホッ、ゲホッ…!!」
地面に、口から吐血した大量の血が流れる。
メガフロートから、一直線に向かい、オーバード・ブーストとアクセル・クイック・ブーストの連発による負荷は凄まじく、こうなるのも当然の話だ。
「フー…」
一度大きく深呼吸して呼吸を整え、立ち上がる。
現地時間は、夕方。西の水平線には、夕焼けを映す太陽がある。
カラードとORCAの、決着は付いた。
後は──
『へぇ、あの状況からこう切り返すんだ。中々やるじゃないの?ゴミ虫にしてはさ』
最悪の敵を、残すのみ。
「…死神かしら?」
『死神なんて大袈裟だけどね。ま、そっちからしたら死神の一人の認識で良いよ別に。どう呼ばれても知らないしね。あ、そうだ。声だけとはいえ始めましてかなぁ?試験体No.14621』
通信越しにでもハッキリと分かる、小馬鹿にするような声色。聞いているだけでも、収まっていた怒りが沸き起こりそうになっていく。
「…要件は何かしらクソ野郎」
『…仮にも君さぁ、女の子でしょ?んな言葉を使うなんて、どうかとは思うなーほら、ヤンキーとか言ったっけ?アレアレ。おじさん泣いちゃうよー』
「…それを言うだけなら物理的に通信切るわよ」
『あー待って待って。ちゃんと要件はあるから切らないで欲しいんだ。誰だってこんなどーでもいいこと伝える為だけに通信なんかしないだろ?』
ピキ。そんな音が、セレンのこめかみに走る。
「……………さっさと、話しなさい」
『んじゃ、お望み通りさっさと話してあげようか。と言ってもそっちに宣戦布告するだけだけど』
「宣戦布告…?」
『そう、宣戦布告』
その瞬間、相手の声色が変わり、その言葉を紡ぐ。
『第三次世界大戦、見させてもらった。お前たちは、今迄の候補者の中でも異常な資質がある。そしてそれは、あまりにも危険だ。
全力を用いて、お前達の命を、存在を刈り取らせて貰おう。
それが俺たちの使命なのだから』
「…やってみなさい、死神。貴方達キチガイなんかに殺られる程、私達は柔じゃないわよ」
そして、その言葉にセレンは応えた。否、応えない筈が無い。
『…ハハ、アッハハハハッハハハハハハハハ‼︎
さすが、最有力候補者の一人だなぁ‼︎
それじゃ、始めようか‼︎”再現”をさ!』
その言葉を最後に、通信が切れた。
──その後、第三次世界大戦勃発から"僅か14時間で"指揮系統が壊滅したカラードは各戦場で空中分解。国連軍や現地の各国家軍によって、戦線は崩壊。壊滅した。
──残されたカラードの残党は散り散りとなり、独自に抵抗を続ける事となるが、それは微々たる物。カラードの残党は、最早無意味な抵抗を続ける。否、続けるしか無かった。
──こうして、世界を巻き込んだ彼女達の戦いは終わった。だが、まだ全てが終わったのではない。
──残されたORCAと、死神達。
──その戦いの時は。
──
『まぁ、異常な素質なんて言っても…アレと比べると弱すぎるよねぇ。ゴミっつーかさぁ』
『主任、あの機体を投入するのですか?いかにあの機体と言えど、また調整段階ですが……』
『”彼”はそんなの待ってくれないよ。それはお前が良く分かっている筈だけどね、C』
『それもそうですね。分かりました、現時点での最善を尽くします』
『よろしくねー。それにしても、あんなの俺のキャラじゃないんだけどなぁ』
『威圧も兼ねているのでしょう?最善だと思われますが』
『まぁそんなもんだよね』
次章予告
カラードとORCAの戦争は、終結した。
かつての仲間達を殺し、自らの理想を突き通したORCAは。
最悪の敵、死神達へとその刃を交える。
第五章 The beginning of the end