IS インフィニットストラトス 〜The beginning of the end〜 作:クローサー
シークレットアイランド地下施設の一室。
そこに、ソファーに座って、テーブルに広げられている世界地図を睨んでいるセレンがいた。
世界地図には幾つもの線や数字が書き込まれている。
「…これも駄目か」
そう言って、一つの数字に×印を上書きした。
「……セレン……」
そこに、第三次世界大戦の生き残りである真改が呼び掛ける。その手には、コーヒーが入ったカップが2つある。
「何?」
「……休憩……」
「…そうね、ありがと」
差し出されたカップを受け取り、一口飲み込む。程良い酸味と甘みが口内に広がり、しっかりとした旨みを獲得している。
そして真改はセレンの横に座り、広げられた世界地図を見る。
「……メルツェルか……」
「ええ…どのルートをどうやっても、たった"1時間"の間に、ヨーロッパから太平洋へと辿り着けない。一体どんなトリックを使ったのかしら」
そう言ってセレンはリモコンを手に取ってテレビの電源を入れてチャンネルを回し、日本のチャンネルに固定する。
「「………」」
沈黙。
ただテレビからの音声が流れ、2人から喋る事なく、時間が過ぎてゆく。
「…真改」
「…………?」
2人のカップに入っているコーヒーが半分近くに減った所で、不意にセレンが話し始める。
「何か、方法は無かったのかしら。ORCAとカラード…いえ、私達とオッツダルヴァ達。両方の理想が分かり合える、そんな方法が」
「…………」
その問いかけに、真改は答えない。その意味を察したのか、セレンは小さく笑った。
「…いえ、何でもないわ。今のは忘れて頂戴」
「……ああ……」
『速報が入りました』
その時、テレビのニュースアナウンサーが普段より大きな声で話し始めた。
『今から約1時間前、IS学園が襲撃を受けたとの情報が入りました』
「「──!」」
それを聞いた2人の雰囲気が変わり、テレビを注視する。
『現在情報が大変錯綜しており、詳しい事は分かっておりませんが、IS学園を守備してした自衛隊は全滅、IS学園も壊滅的な被害を負っているとの情報がこちらに入っております。他にも、IS学園周辺では緑色の粒子のような物が舞っているとの──』
「…まさか、カラードの残党が?でも、一体どうやってそれ程の戦力を──」
「……死神だ……」
セレンの言葉を真改が遮り、その言葉を口にした。
「……これは、奴等の仕業だ……」
「…幾ら何でも、推測だけで動く訳に行かないわ。カラードの残党の可能性だってある。そう言える根拠はあるのかしら?」
「……ある。だが、言えない……」
その言葉に、セレンは大きく溜め息を付いた。
「…なら、今は動かないわ」
「……だが──」
「真改」
その瞬間、セレンの鋭い視線が真改を見る。
「今は私と貴方は協力し合っている関係だけど、私は貴方を信頼し切れていない。その理由が分かるかしら?」
「…………」
「貴方の行動に、不可解な所が多過ぎるのよ」
そう言って、カップに残っていたコーヒーを一気に飲み込む。
「一つ目は、貴方がフリーランスになった経緯。まあ、これは其々の考えがあるだろうから私からも強く言えないわ。だけど残りの点が余りにも不自然なのよ」
そして、セレンは右手を横に座る真改に向け、人差し指を立たせる。
「一つ、情報収集力。ORCAに入る以前から、貴方は多くの事を知り過ぎている。私の方向から幾ら調べても分からないような機密情報を、貴方は何故か知っていた」
次に、中指。
「二つ、一夏の
次に、親指。
「そして、私が一番不可解に思っている事…9年前の、研究所襲撃よ。あの夜、死神達があの研究所を強襲した時、貴方の姿は全く見えなかった。あの時、全ての試験体に緊急出撃が掛かっていたにも関わらずに」
「ここまで不可解な点があって、私が怪しんでいないとでも思ったら御門違いよ、真改」
「……」
右手を下ろし、腕を組む。
「貴方は一体何を知っていて、何を隠しているの?それを話さない限り、私は此処から動く気は無いわ」
それは、明確な不信を言語化した、言の葉。
「…………っ」
無表情を貫く真改の表情が、僅かに歪む。
「…話して、真改」
そして、セレンと真改の視線が交差する。
「……それは……」
その時。テレビの画面に砂嵐が走り、大音量でノイズ音が走る。
「…?」
2人の視線が、テレビに集中する。砂嵐が走った時間は、約10秒近くだろうか。
刹那、砂嵐が晴れる。
そこに映ったのは、巨大な鴉。
そして再び砂嵐が走り、再度晴れると、元のニュース番組を映し出した。
沈黙。
それを破ったのは、セレンだった。
「…真改、貴方は此処で待機してて」
「…………!」
「どうやら今のが、貴方の根拠の裏付けらしいわね…この感覚、間違える筈も無いわ」
そう言うセレンの右腕が、僅かに震えていた。
「…あいつは私が殺す。貴方は、此処を守りなさい」
「……分かった……」
ソファーから立ち上がり、出入り口のドアを開けて立ち去ろうとした時。
「……セレン……」
「何?」
「……すまないな……」
「…」
それに応える事なく、ドアを閉ざした。
2時間後。
セレンは超低空飛行によるオーバード・ブーストで、IS学園へと向かっていた。
IS学園周辺に展開されていた筈の自衛隊の艦隊は全て消えており、IS学園の建物からは黒煙が出ており、周辺には緑色の粒子が舞っている。曇った空が、それらを良く映し出していた。
進路上に何の妨害も無く、あっさりとIS学園へとたどり着き、敷地内に着地。そして、そのまま歩き始める。
「…」
死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体、死体。
そこら一帯には多数の死体が転がっている。
第三次世界大戦から逃れる為に逃れた難民、第三次世界大戦によって家を失った難民。治安維持の為に駐留していた自衛隊。IS学園の生徒。IS学園の教員。
そんな人々が、着陸地点から見ても、ざっと100人…いや、200人以上の死体があった。
血の匂いが、IS学園全体に広がっている。
その殆どが身体の欠如が激しく、歩く度にグシャリ、グシャリと、大量の血と内蔵を踏み付ける。
寮付近に辿り着くと、そこには大量の食事が溢されており、やはり血と内蔵が混ざり合って違った異臭を作り出していた。隣接し、多量の黒煙を上げる校内も、似たような光景が広がっているのだろう。
「…」
そして、グラウンドとその他の敷地を分ける、盛り山の一歩前に立つ。
地上に立つセレンからの視界から、グラウンドの内部は見る事は出来ない。だが、その上空には他と比べると圧倒的に多量の緑色の粒子が舞っていた。
「…」
063ANARとER-O705を両手に展開。盛り山の頂点へと歩き出す。
一歩、また一歩。ゆっくりと、しかし、確実に。
26歩目で盛り山の頂点に辿り着き、グラウンドを見下ろす。
そして、見付ける。
『…遅かったな』
それは、グラウンドの中心にいた。
それは、ISとして見ても、ACとして見ても、異端中の異端だった。
全長は約18m程度。約10mの身長を持つ、巨大な人型の兵器。
全身に黒き装甲。
紅色に輝く複眼。
巨大なX字型ブースター。
両肩部から飛び出る複数本の巨大なケーブル。
両手に持つ、レールガンの銃身を持つライフル。
その周囲を覆う、緑色の膜。
そして、周囲に漂う多量の緑色の粒子。
一歩、右足を踏み出す。その巨体らしい大音量の駆動音と足跡を、グラウンドに作り出す。
「…J」
セレンは両手の武器を向け、ブースターを始動し、足が僅かに浮く。
『…言葉は不要か』
巨大人型兵器を駆るJも、ブースターを作動。凄まじいブースター炎が吹き出し、上昇。セレンと、高度が合わさる。
背面のX字型ブースターにエネルギーが収縮。放出し、凄まじい速度で、セレンへと向かう。
そして、両者の銃口から弾丸が放たれた。
──巨大人型兵器の右脚の一枚の装甲に、小さく名前が書かれていた。
──その悪魔の名前は、"N-OGVIII/J"。
──遥か深淵の底、古き時代より這い出し、"死を告げる黒い天使"。