IS インフィニットストラトス 〜The beginning of the end〜 作:クローサー
破壊、破壊、破壊、破壊、破壊!!!!
「ッ──!!」
UFTシステムを起動しているセレンは間髪を入れず、次々と飛来する弾幕を超低空で全力で回避し続ける。
超低空で行われている機動戦闘は、圧倒的にJが有利な状況となっていた。
N-OGⅧ/Jのレールライフルから放たれる弾丸の威力は、対物ライフルどころの火力ではなく、戦車の砲撃と同等かそれ以上。
弾丸の直径は約20cm。弾速は毎秒1037m。時速に直すと、3863km/h。
20cmの弾丸が約マッハ3で飛来する時の火力は、最早装甲など通用しない。
事実、外れた弾丸の先にあった木々やコンクリートはいとも容易く貫通。地面やアスファルトは砂埃を上げながら停止するまで地中に抉りこみ。死体は、被弾部が爆発したように木っ端微塵になる。
たった1発でも直撃すれば、死は免れない。
今もセレンが避け続けられているのは、集弾率の悪さ故か、別の何かか。最も、それを考える余裕は一切無いのだが。
セレンも、負けじと反撃を仕掛けているのだが、その一切が通用していない。
063ANARの弾丸も、ER-O705のレーザーも、SALINE05のミサイルも。
その全てがクイック・ブーストによって回避、もしくはN-OGⅧ/Jの周囲に展開する、うっすらと可視化出来る程の濃度のプライマル・アーマーらしき物に弾かれ、銃弾はあらぬ方向に跳弾、ミサイルは膜より内側にその威力が通用する事が出来ない。
「クッ…!!!!」
セレンの攻撃は全く効かず、対してJの攻撃は一撃必殺。
一方的なワンサイドゲームの状況だが、一つの打開策に成り得る代物を、セレンは持っている。
それは、"60×120mm 威力特化型徹甲弾"。
051ANNR及び063ANAR専用弾であるそれは、威力のみを追求した結果、アーマードコアの携行弾としては最高の火力を持つ代物となった。しかし初速、命中精度、発砲時の反動、その他の性能が全て犠牲となったピーキーな代物でもある。
これを使用出来れば、Jの周囲の緑色の膜を貫通し、有効なダメージを与えられる。そうセレンは考えている。
しかし、60×120mm 威力特化型徹甲弾を使えるようにするには、063ANARに装填されているマガジンの交換をしなければならない。
マガジン交換をしている間は、嫌でも僅かな隙が出来てしまうのは免れない。
その最中に、一撃必殺の弾丸がセレンの身体に命中すれば、死ぬ。
相手は巨体にも限らず、ホワイト・グリントに劣らない機動性を持つ。ならばオーバード・ブーストで振り切ろうにも、エネルギーの収束中、もしくは離脱中にブースターを破壊されればそれまで。しかも相手はオーバード・ブーストらしき機構も持っている。それで追撃されれば意味も無い。
かといって下手に高度を取れば、障害物は無くなる。今のセレンは、超低空で木々や建物などを利用する事でギリギリ避け続けられている。障害物が無くなれば、あっという間に肉片になるのはほぼ間違い無いだろう。
(よく見なさい、私…!!)
だからこそ、セレンはJの隙を窺っている。
(一瞬でも、刹那でも良い…)
この状況ではいずれ集中が切れ、自身が死ぬのは明白。
(退避の隙を、見つけられれば…!!)
だからこそ、探る。一時退避し、仕切り直す為の隙を。
そして、それは訪れる。
突然、Jは攻撃を停止。地面に着地した瞬間、N-OGⅧ/Jを中心に青白い光が発生する。
「──ッ!!」
それを見たセレンは、自身の直感に従い、後方へとアクセル・クイック・ブースト。距離を700mまで離すと同時に、N-OGⅧ/J周辺の発光が収まり、緑色の膜の表面に複数本の雷が走る。
次の瞬間。
一瞬で700mもの距離を移動し、セレンの目の前へとその距離を詰めていた。
「──え?」
一瞬の出来事に驚愕し、固まるセレンを余所に、緑色の膜が大きく広がる。
それを認識し、意識を取り戻して武器を格納し、防御行動に入ろうとしたその瞬間。
N-OGⅧ/Jの直上を中心とした、大爆発が発生した。
碌な防御行動も取れなかったセレンは、呆気なくその身を吹き飛ばされ、本校舎に激突。
ガラスとコンクリート製の壁を幾つか破壊した後にようやく止まり、その身体が仰向けになる。
セレンはUFTシステムの異常な神経速度を保ったまま、爆発の威力と衝撃によって意識を失ってしまっていた。
そして、爆発の張本人の機体であるN-OGⅧ/Jは、その場で静かに左右の脚部から多量の緑色の粒子を放出している。
『…この程度で死ぬならば…だが…』
その言葉は、誰にも聞こえることなく、消えた。
どのくらいの時間が、経ったのだろうか。
「う、────っあ゛!!?」
セレンが意識を取り戻した瞬間、脳に今まで感じた事の無い程に、強烈な痛みが走る。
「ッ──!!」
その原因をすぐに理解すると同時に、起動状態のままだったUFTシステムを停止。すると、徐々に頭痛は引いていき、やがて無くなった。
身体をゆっくりと起き上がらせて、自身の状況を見る為に目を開けた。
「………?」
そして、一つの事に気付く。
(目が…)
セレンの視界が全て、陰影の濃い
(…当たり前、か。気絶していた間も、ずっとUFTシステムを起動していたんだから)
UFTシステムは、セレンに人外的な神経速度を与えるシステムであるが、当然、脳の負担は極めて大きい。
数分の起動でさえ、何かしらの弊害が出る可能性がゼロでもないのに、気絶している間もずっと起動していた為に、意識を失っている間も脳には強力な負荷が掛かっていた。
その結果。セレンの視覚を司る視覚野に異常が発生し、色覚異常が発生してしまった。
幸い、色が黒褐色基準に染まっているだけの為、戦闘自体には問題は無い。
(けど…あの爆発をまともに食らったのは良くなかったわね…)
近くの壁に寄り掛かって身を隠し、取り出した063ANARに装填されているマガジンを取り出しながら、ホワイト・グリントの状態を確認していると、如何にあの爆発の威力の中、生き残ったと自身で感心する。
ホワイト・グリントの各所装甲は大破。各ブースターも破損し、2段クイック・ブーストの発動は絶望的。通常のクイック・ブーストも、10数回発動すれば、2度と動かなくなる可能性もある。
──063ANARに新たなマガジン、60×120mm 威力特化型徹甲弾が入ったマガジンを装填。初弾を装填し、同時に薬室内にあった通常弾を放棄。
──同時に、ホワイト・グリントを解除。アーマードコアという鎧を脱ぎ、隠密を優先させる。
(…どうするか…ね)
セレンが今いるのは、階層までは分からないがどうやらIS学園の教室の中らしく、最先端技術を取り入れている机が散乱している。
そして右隅にいるセレンのすぐ横には、セレンが吹き飛ばされた時に空いたであろう大穴が開いており、更に反対側の天井は崩落。大量の瓦礫の山があった。
更に遠くからN-OGⅧ/Jの駆動音が聞こえる。恐らく、索敵をしているのだろうか。
(ホワイト・グリントは大破。対してJは無傷。更にこっちの攻撃は全く効かず、60mm弾が効く保証も無い。逆にJの攻撃は一撃必殺同然の火力…)
(…参ったわね。真改に大口叩いといてこんなザマなんて、笑い話にもならないわよ)
セレンが切れる手札は、ゼロ。対して、
(…だけど…こんな所で死ぬつもりは無いわよ)
軽く身体を動かすと、幾つかの骨が軋む感覚が走るが、幸いにもギリギリ折れてはいなさそうだ。
慎重に、大穴から外の様子を見ようと覗いた瞬間。
ガラリ、と。瓦礫の山から音が鳴った。
「ッ!!」
反射的にその方向を向き、事態に備えてホルスターからサバイバルナイフを抜き取って構える。
そして、ガラガラと瓦礫が少しずつ崩れていき。
瓦礫の中から、紅色の機械の左手が現れる。
そして、左手の指先が地面に突き刺さり、身体が徐々に現れる。
「ッ……グッ…ウゥ…………!!」
それに従うように瓦礫から上半身が現れ、初めてその人物の正体が、分かる。
「…篠ノ之、箒?」
「ッ…!?」
セレンの漏らした声が聞こえたのかその顔を上げ、敵意の視線を向け、左手に空裂を握る。その顔には、決して少なくない量の血が付いていた。
そして、セレンは構えていたサバイバルナイフをしまう。
「…誰だ?」
「少なくとも、貴女の敵じゃないわ」
「信じられないな」
「…状況も状況だからそう思うのも仕方ないわね」
そう言って、セレンは瓦礫に下半身と左腕を埋めたままの箒の目の前まで近付き、しゃがんで目線を合わせる。
「だけど、私が貴女の敵なら、今頃貴女は死んでいるんじゃないかしら?」
「…」
「それに今ここで私を殺しても、状況は何も好転しないわよ。あいつを倒さない限りは」
「…ッ…」
その言葉に、箒の表情が僅かに動く。
「…………………本当、なんだな」
「ええ」
「…」
箒は、無言で空裂を拡張領域に格納した。
「…とりあえず、そこから出れる?」
「多分だが、何とかなる──ッ!!!?」
その時、箒が何かを感じ取ったように外を見る。それを見てセレンも同じ方向を見る。
「…!」
そして、気付く。
遠くから聞こえていた駆動音が、徐々に大きくなっている事に。
「…来るぞ、こっちに隠れろ」
「…」
セレンは頷き、瓦礫の山の左側に隠れて背中を合わせ、箒は気絶したふりをする。
駆動音が大きくなるのと比例して、2人の緊張も高まり、心音が大きくなるのを感じる。
そして。
一際大きい駆動音と足音を響かせながら、窓の向こうにN-OGⅧ/Jの腰と腕が映る。
気付かれないように徹している2人には見える事が無いが、そのまま2人の居る教室を通り過ぎ、徐々に遠くなっていった。
「…気付かれなかったわね」
「ああ………ッ!!」
セレンの言葉に応えた箒は、右手の指先を床にめり込ませ、埋まっていた下半身と左手を瓦礫の山から這い出した。
──箒のIS、紅椿の装甲は所々に入ったヒビから内部構造が見える程ボロボロとなっており、箒の身体も傷だらけになっていた。
そして、その場で仰向けになる。
「お前の名前は?」
「セレンよ。前に会った時は、ガルーダって名乗りだったわね」
「…まさか、臨海学校の?」
「ええ」
「一夏は…?」
「…」
その質問に、セレンは軽く息を吐いた。
「今、その話をする時間はないわ」
「…そうだな」
「損傷は?」
「シールドエネルギーは無いも同然だ。武器に関しては、雨月がこの通りだ」
そう言って上半身を起き上がらせ、刃がボロボロになった雨月を取り出した。
「雨月はもう使えそうにない。無事なのは、空裂だけだ」
「…本当に参るわね。この状況には」
セピア色に染められた視界の中、窓から見える景色を見る。
同然、黒褐色の曇り空が見えるだけ。
「それで、どうするつもりだ?奴の周囲には強力なバリアがある。生半可な火力じゃとても…」
「…一応、考えはあるにはあるけど、確証は無いわ。もし間違ってたら、私達の死は確定よ」
「ゼロじゃないのなら、十分だ」
それを聞いたセレンは、小さく笑った。
「貴女って、もしかして脳筋?」
「そうかも、な。私に出来る事は、寄って、斬る。これだけだ」
「…そういうの、私は嫌いじゃないわ。それじゃ、今から作戦を説明するわね。とは言っても、ごく単純なものだけど」
「何だ?」
その瞬間、セレンはホワイト・グリントを展開。全武装の安全装置を解除して、引き金に指を掛ける。
「あの死神をブチ殺す。それだけよ」
「…成る程。確かに、単純な作戦だな」
── I was selfish ideals for ──