IS インフィニットストラトス 〜The beginning of the end〜 作:クローサー
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推奨BGM:アーマードコアVD「Mechanized Memories」
3人の戦いは、佳境に入った。
「────ッ!!!!」
(ッチ…!!)
3人の戦法は奇しくも、と言うべきか否か、近接武器による至近距離戦闘。しかし、状況は依然変わらない。
圧倒的な
それに対するは、第三次世界大戦を引き起こしたカラードの指揮系統を14時間で破壊、空中分解に追い込ませた反IS組織 ORCAリーダー、セレン。そして一体何の因果か、一度Jの攻撃から生き残り、セレンと共闘を組んだIS開発者の妹、篠ノ之箒。
2人の武器は、刀。それだけの為に、Jのレーザーブレードと比べるとその攻撃力は凄まじく劣る。
「ハァァァァァァァァァァ!!!!!!」
「オォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
しかし、それが何だ?高が超高難度の難題が幾つか立ちはだかるだけで諦める道理など、2人には無い。立ちはだかるならば、真正面からぶつかって打ち砕き、その上を行くまで。
それを証明する為に、2人は刀を振るう。
『…』
そして主導権を握るJは、接近する2人を迎撃せんと加速。右手に握るレーザーブレードをその速度に乗せ、振るう。そして、発振器から刀身が離れ、光波として2人に迫る。
至極単純な攻撃でありながら、20m強の刀身長と超高密度のレーザー波によって、一撃必殺の火力へと昇華されたそれは、正に極限にまで洗練され、一種の芸術と化した"暴力"。
2人は刃が届く範囲を刹那で見極め、瞬時に回避。神懸かり的な反射能力で強引に躱しながらも、その速度が緩む事はない。
しかし、左手のレーザーブレードが近接迎撃。それに堪らず、狙われたセレンはバック・クイック・ブースト。ギリギリ射程外に留まり、目の前数センチをレーザーブレードが通過する。
その隙を突き、箒が懐に入る事に成功。瞬間、N-OGVIII/Jの周囲に放電する電流が箒を襲う。しかし、過剰に分泌されたアドレナリンがその痛みを無理矢理消し去り、一切の怯みを見せない。同時に電流によって身体が震えるが、それを力ずくで極限に抑える。
そして、絶妙なタイミングで光波を纏った空裂を振るう。が、N-OGVIII/Jは左へクイック・ブーストすることでそれを回避。その代償に、肩から飛び出ていた一本の巨大ケーブルを中央から切断。大質量が地面に落ち、土に僅かながら埋め込む。
攻撃の隙を見せてしまった箒に、出力が回復した右手のレーザーブレードが迫る。
「ッ!!!!」
その前にセレンが躍り出て、オーバード・ブースターが展開されると同時に、葵の刀身に左手を添える。刹那、オーバード・ブースト起動と同時にクイック・ブースト。瞬間的にマッハ2を越え、N-OGVIII/Jの右腕に直撃。葵の刀身が罅が入るがギリギリ折れる事なく、振るわれていた右腕の勢いが一瞬だけ落ち、箒が回避する時間を稼いだ。
しかし大質量の勢いを完全に殺せる筈も無く、右腕の勢いによってセレンは吹き飛ばされ、押さえていた 葵の刀身は遂に折れる。
吹き飛ばされたセレンは、体勢を取り直す為にオーバード・ブーストを解除。オーバード・ブースターが折りたたまれると同時、残った葵の柄を捨て、クイック・ブーストで急減速。残った速度を地面に足を付けて殺して行き、所々に転がる死体を巻き込む。
そして追撃せんと、通常推力にも関わらず、その巨体からは想像を絶する速度で迫るJ。が、背後から音速で追う箒が武器を失ったセレンの援護に回る。
「クッ…!!」
だが、両手のレーザーブレードによって高速で行われる乱れ斬りを躱すので精一杯で、攻撃を行う隙が無い。ならば背後と行きたいが、N-OGVIII/Jの背面はX字型ブースターが占有し、そこから4つの超高出力のブースター炎が噴出しており、近付けば紅椿ごと身体が融解するのは目に見えている。それはセレンも同義であり、背後からの攻撃は不可能。
「ッ!!」
次の瞬間、箒の後方から一本のナイフが回転しながら飛来。その刃は正確無比にN-OGVIII/Jのカメラアイへと向かっており、即座に左手のレーザーブレードによって融解させられた。
刹那、新たな葵を握るセレンが突撃。クイック・ブーストによってブースターが悲鳴を上げているのを感じながらも、電流が帯びる懐へと突入。そして右手のレーザーブレードを紙一重で躱し、ガラ空きの胸部装甲に一太刀。
が、葵の刀身は胸部装甲の前に通用せずに弾かれる結果で終わる。
(ッ…!!)
そのまま留まるのは危険と判断し、バック・クイック・ブーストで後退。400m距離を取り、着地する。そして、静寂が訪れた。
Jから見て正面に葵を構えるセレン。その右後方に右手のみで空裂を構え、あらゆる事態に備える箒が立つ。
『「「…」」』
誰も動かない。誰も動かない故に、誰も動けない。この絶妙な拮抗は、いつ何処で崩れ、再び戦闘が再開するかは、分からない。
が、その拮抗は、存外早く崩壊した。
──ッッッバァァン!!!!!!
「「──ッ!!!?」」
先手を打ったのは、J。
その一瞬が、大きかった。箒は回避し、致命傷は避ける事が出来た。
しかし、箒の右腕は。紅椿の腕と共に、肉体の肘から先である二の腕ごとレーザーブレードに焼き切られ、空裂が握られた紅椿の右手のみが宙に浮いていた。
「グ──ア゛ァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!?」
アドレナリンによる脳内麻酔を超える痛みが箒の神経に走り、片膝を付き、反射的に左手で切断面を押さえる。そして、紅椿の右手が地面にボトリと落ちた。レーザーの超高温によって焼き切られた為に出血は無いのがせめてもの幸か、それとも否か。
「逃げて!!!!!」
追撃を掛けようとしたJを全力で阻止するセレンだが、箒が動かなければいずれ突破されかねない。その為に大声で退避を呼び掛ける。
「ッ、グ…ゥ…!!」
その声で何とか状況を把握し、激痛を無理矢理意識下から追いやり、空裂を右手ごと回収。そして本校舎内へと退避した。
「フーッ…フーッ」
(…このままじゃ、マズイ…)
外を見れば、既にセレンが劣勢。Jの猛攻に押されて全く反撃出来ず、逃げるので精一杯。そもそも箒とセレン、2対1でJとギリギリ対等以下だったのだ。その内の片方が戦闘不能となれば、パワーバランスは崩れるのは明白だった。
つまり。
(このままじゃ、負ける…あいつが殺られれば、私も同じ運命を辿るだけだ)
(だが…このまま私が戻っても何も変わらない。それにあの時の一撃は恐らくもう出来ない…火力が違い過ぎる)
(もっと…)
(もっと──力を)
箒は周囲を見渡し、そして一点に視線が集中した。
(…あれだ)
即座に左腕の中破した展開装甲を確認。展開し、準備をする。そして。
「ハァッ!!!!」
倒壊し、倒れかけている長さ4mもの鉄筋コンクリートの先端に左腕を突っ込み、絢爛舞踏が起動。全身の展開装甲が展開し、紅色の粒子が溢れ始める。だが、補給されてゆくエネルギーは全て左腕へと走って行き、エネルギーは鉄筋を伝って行く。
次の瞬間。
「オォォォォォォォォォォォ!!!!!!」
一際大きいエネルギーが鉄筋を伝わり、反対側の先端で"爆発"。その衝撃によって鉄筋コンクリートは完全に分離し、先端部が燃え始める。そして、絢爛舞踏によって僅かに補給されたシールドエネルギーを全て注ぎ込んだイグニッション・ブーストによるロケットスタート。音速突破によって生まれる
『「ッ!?」』
その箒の姿に、セレンはすぐさま退避し、Jも脅威と判断し、クイック・ブーストで回避。
そして、鉄筋コンクリートが地面を叩いた瞬間、その大質量とエネルギーによって"爆発"した。
『…貴様…』
「箒…!?」
「…セレン、背中を任せたぞ!!」
二者二様な反応を示したが、箒はすぐさま突撃。Jも光波を振るうが、大質量を左腕に付けているにも関わらず、異常な回避機動で躱し、今度は左から右へと振るう。Jは右腕で防御するが、鉄筋コンクリートが衝突した瞬間、再度爆発。その威力は規格外で、N-OGVIII/Jの右腕を破壊した。
『な、に…っ!!!?』
破壊といっても、機能不全にしただけ。だが、右腕の使用不能だけでも十二分。そのまま着地し、裏拳のように振り切った左腕を左に振るうが、流石に避けられる。しかしその後を全速で追い、鉄筋コンクリートを何度も振りかぶる。Jもそれを全力で回避しつつ、残された左手で近接攻撃と光波で箒に攻撃を行う。
そして、何回目かの光波を放った時。事態は大きく動いた。
「ハァァァァァァァァァ!!!!!!」
箒が注意を引いている間に接近していたセレンが、葵を左手に構えて突撃。光波を放った事により、一時的にレーザーブレードの出力を大きく削ぎ、腕を振り切った左腕はセレンを迎撃し切れず、懐に入り込み、葵を突く。その狙いは、N-OGVIII/Jのカメラアイ。如何に装甲が強固だろうと、カメラアイは精密機器。そこを突かれれば、少なくないダメージを与えられるだろう。
その思惑通り、葵の刀身は、カメラアイを突き破り、内部へと侵入。そして後頭部の装甲にそれ以上の侵入を阻まれ、止まる。
「箒ィ!!!!!!」
その名を叫び、胸部装甲を蹴って方向転換と同時にバック・クイック・ブースト。その瞬間、全てのバック・ブースターが小さな爆発を起こし、沈黙。しかし退避するべき距離は稼いだ。それで、十分。
右を見れば、視界の大半を失ったN-OGVIII/Jの懐に入り込み、予備動作を完了させた箒の姿が見える。
「終われぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!」
その叫びと共に、一段と強く燃え盛る鉄腕コンクリートが左から右へ全力で振りかぶられ、N-OGVIII/Jに直撃。大爆発を起こし。
鉄腕コンクリートが砕けると共に。18mもの巨体が浮き、大きく、吹き飛んだ。
□□□□□
推力を突然失い、爆音を上げて地面に着地する、黒い天使。
紅い輝きが点滅し、右膝が下がって行く。それでも尚、左腕を振るおうとしたその時、左腕が爆発。その巨体が大きく揺れ、左腕が大破する。そして、各所から爆発が始まる。
『…なるほど。それが、人の中の可能性…"黒い鳥"』
Jの声が、通信越しから聞こえる。その声は、何処か感情が入り、達観かのように思わせる。
『所詮、模造品は模造品。何処まで行っても本物には勝てないか』
僅かながら頭部が動き、視界の中に2人の姿を捉える。既に意識を半ば失い、限界を超えた運用で機体が強制解除された箒を抱き上げ、ゆっくりと宙に浮き始め、起こるであろう大爆発から退避するセレンが見える。
『これで、証明は完了した。これで俺の役目は終わる…生き延びてみせろ。貴様には、その権利と義務がある』
既にセレンの姿は米粒程度にまで離れている。そして、機体が青白く発光し、光が機体を包む。
『…お前は、折れるなよ』
そして、光が収束。次の瞬間、全てを吹き飛ばすような威力の大爆発が発生。その数瞬後、青白い光が周囲を包み、IS学園全体に凄まじい量の緑色の粒子が散布された。
──こうして、セレン、箒、Jの3人によって繰り広げられた戦争は、終わった。
──世界の人々はこの出来事を知らず、何が起こったのか、憶測を繰り広げる事となる。
──そして、誰が呼んだか。この出来事は、"死神事変"と名付けられた。
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戦いは、終わった。
私達の争いは、終わった。
あの人の仇を、一つ討った。
世界は、平穏を取り戻した。
後は、死神を打ち倒す。それだけだと、あの時の私は思っていた。
けれど、そうはならなかった。
死神事変から3年後の、2023年。
────世界は、崩壊した。
次回、最終話。