アインクラッドany%攻略RTA 【暗黒剣】チャート 作:塩なめこ
「……眠れないのカ?」
それは第1層が攻略される前の日の夜のことだった。
もうみんな寝静まって、システム音声で再現された虫の音がよく聞こえてくるそんな夜に、アイツは一人でちびちびと酒のようなものを飲んでいた。
「まぁ、な……」
思いつめたような、煮え切らない顔で彼はそう答えた。昼間の威勢の良さは何処へやら。私も初めて見る顔だった。
「緊張してるのカ? ガイの旦那とあろうものが珍しい。いつも自信満々にプレイしてきたじゃないカ」
「これまでは自信があったからな」
「ふーん」
ここまでは、か。
なんだか意味深に感じる。その時はそんなふうにしか思わなかった。しかし興味は沸いた。情報屋故の性なのか、はたまたただの好奇心からか。私は特に何も考えずに少し突っついてみることにした。
「悩みならオネーサンが聞いてやろうカ? 吐き出すだけでも楽になるって言うゾ」
「そうかもしれん。……誰にも喋らないでくれよ。俺は──」
そう。一種のからかいのようなものだった。少なくとも私はそのつもりだったのに、彼は特大級の爆弾発言をかましやがったのだ。
「───この第1層の生みの親、その一人なんだ」
「ハ?」
そこで気づくべきだったのかもしれない。彼のクリアへの底知れない執着と、その危うさに。
「俺はこのゲームを速く、ただ疾くクリアしなきゃならない。それは俺の義務だ。沢山の人を巻き込んでしまった俺たち会社のな」
♦♦♦
第5層のボス攻略が近づく中、ある噂がアインクラッド中を賑わせていた。
それはズバリ、『ダンジョンに現れる謎の黒い騎士』というものである。
「黒騎士の調査をせよ、カ。藪から棒にどうしたんダキー坊?」
「……実は、攻略組メンバーが何回かソイツと合ってるらしいんだ。みんななにかのイベントなんじゃないか、って騒いでる」
「フーン。それが本当ならベータ版には無かったイベントになるナ。調査の必要があるのは認めるガ、わざわざキー坊が頼みに来たってことハそんな単純なことじゃないんダロ?」
「あぁ。実は俺もその黒騎士って奴を見たんだ。遠目からだったから自信は無いんだが……。アレはモンスターやNPCじゃない。プレイヤーだ」
キリトは言う。あの黒騎士の身のこなしは、とてもNPCに再現できるようなものと思えないと。そう根拠を述べた後、彼は辺りを見渡し、誰も見ていないことを確認すると招くように手を振る。耳を貸せ、という合図だ。
どうやらこの件にはあまり大っぴらには言えない何かがあるようだ。
フードを脱いで顔を近づけると、キリトは手で口元を覆って言った。
「しかも奴はオレンジだ」
「……なんだト?」
オレンジプレイヤー。
このゲームにはNPC、プレイヤー、モブ全ての頭上にカーソルが存在する。これにはそれぞれ色があり、プレイヤーやそれに友好もしくは中立的な者は緑色。敵MOBには赤色といったように、敵味方を識別する物として機能している。
その中でもオレンジというのは、グリーンカーソルの他プレイヤーを【デュエル】以外で攻撃したプレイヤーのみがなる色だ。このゲームを攻略する同士ではあるが、自身のために他を圧倒する盗賊紛いのことをするような奴がなる事が多い。
そういう奴はこれまで何人かいた。ログアウトスポットの噂を利用して強奪を繰り返した奴らなどが記憶に新しいだろう。
しかし、オレンジだからと言うだけでは問題にならない。ゲームも既に第5層。情報の出回らなかった最初期に比べて彼らに対する警戒心は強くなった。騙し討ちともとれる事件が多発し、美味しい話には裏があるということをプレイヤー全員が理解したためだ。
徒党を組んでいるのならまだしも、黒騎士はソロだ。ソロのオレンジなど今まで生き残ったSAOプレイヤーにとっては敵ではない。
彼の場合問題なのはその出現場所にある。
「キー坊が黒騎士を見たダンジョン。それはこの前オレっちが紹介した奴じゃないカ?」
「そうだ。3日前アルゴに特別に教えてもらった、俺たちだけしか知らないダンジョン。その先に奴はいた」
攻略組でも一線級のプレイヤーキリト。その彼が初めて入ったダンジョンにオレンジの先駆者がいた。このことから導ける事実はただ一つ。
そのオレンジの実力は
「……厄介ダナ」
「もしかしたらその日、たまたま一人でダンジョンを見つけて、皆に知らせる前に独占しようとしていたって可能性もゼロじゃない。だが奴はこの5層にあるダンジョンのいたる所で目撃されてる。ついでにもう一つ。アイツの噂を言いふらしてるのは攻略組メンバーだ」
「今回のことだけじゃないナ。その黒騎士とやらはオイラ達情報屋や攻略組よりも速くダンジョンに潜って稼いでる。稼げるレベルのプレイヤーダ」
オレンジかもしれないという情報の根拠はキリトの目撃証言のみ。もしかしたら間違ってオレンジになった哀れなプレイヤーかもしれない。
が、これがもしも凶悪な正真正銘のオレンジなら。
「ワカッタ。調査を引き受けるヨ。そんな腕前のオレンジなら、たとえ攻略組であってもヤラれるかもしれナイ。最悪このゲーム初の討伐対象者にもなりかねナイ」
情報は速さだ。脅威が速く知れ渡れば警戒は強まり被害は少なくなる。無意味に終わるかもしれないが、まぁその時被害を被るのはキリトだけだ。
「助かるよ」
「これがガセだったらただじゃおかないからナ? 通常レートの2倍は払ってもらうゾ」
「……分かった。呑もう」
「決まりダ」
では動くとしよう。目撃証言をまとめて出現場所をまとめたり、そこから時系列順に奴の行動を追ったりとやることは多い。
(だが先ずハ……)
この目で黒騎士を見る。キリトが1日でクリア出来なかったダンジョンに、3日前にはいた。それはつまり、最低でも4日前からオレンジとして潜っていたということになる。
もし誤ってオレンジになった奴ならそろそろグリーンに戻っていてもおかしくはない。そこでグリーンだと分かれば危険度はいくらか下がる。
(奴はどうやってかは知らないが、誰よりもはやく未発見のダンジョンに潜ってる。出現場所を割り出すのは難しいガ……)
どんなに進行速度が速くても、オンラインゲームでは一人ではそれ以上先に進めない状況というものに陥ることがある。このゲームにおいては特にそうだ。
黒騎士なる者の目的は分からないが、これまでの行動から考えるに最速で効率的な育成場所を独占し、稼いでいることはまず間違いない。そういう原理でいくなら、奴と必ず出会える場所が一か所だけ存在する。
そこでピロリン、とシステムサウンドが鳴る。誰かが自分にメールを送って来た時の音だ。差出人は滅多に会うことのない相棒。
(グッドタイミングだぜ、ガイの旦那)
そのメールにはある場所のマップデータと一言のみが記されていた。
『迷宮区を見つけた。場所と道のりを文字で添付する』
迷宮区。
そこはフロアボスを倒さない限り変わることのない最前線。そして、その層で最も効率よくレベルアップできる場所。
フロアボスは一人では倒せない。たとえ黒騎士が自分よりも素早くても、絶対そこで立ち止まらなければならない。奴が自分の予測した通りの人物なら。
(奴は絶対そこにいる)
常にオワタ式のRTA、はっじまっるよー!
前回は4層を攻略し、このRTAで最後まで使うことになる全ての装備をゲットした所まででしたね。
それでは早速この武器防具たちを装備していきましょう。うーんいい火力だぁ、惚れ惚れするぜ。
ではこれらの装備について、後回しにしてきた解説を入れるとしましょう。
第1層から第5層までの特定のクエストで入手できる兜、鎧、ブーツ、片手剣、盾の5つの装備は全て【呪われし】と名のついたシリーズ装備です。
不穏な響きの装備ですね。これらは視聴者兄貴たちが思った通りの性能をしています。ドラ〇エなんかに登場する『みな〇ろしのけん』なんかと同じく、装備すると常駐の状態異常、【呪い】が発動します。
この【呪い】の効果は様々です。例えば『呪われし剣』ならば防御力が0に。『呪われしブーツ』なら最大HPが減少。『呪われし盾』ならHP1になるまでのスリップダメージなどなど。扱いを間違えれば死に直結するような効果ばかりです。
しかし、大きなリスクにはリターンが付き物。このSAOにおいては特にそうです。理不尽なデメリットばかりのアイテムやイベントは存在しません。そうしておかなければならない凶悪な性能がこの【呪われし】シリーズにはあるのです。
剣はこの時点では全武器の中でも最高の火力を誇ります。片手剣でありながら、この層で第一線級の両手武器よりも攻撃力が高いです。
盾は盾防御による防御力が高く、SAO特有の貫通ダメージも最小に抑えられます。
ブーツは防御力こそ無いもののその素早さ補正は圧倒的で、RTAもびっくりなスピードを出すことができます。
鎧と兜はブーツと同じく最大HPの減少というデメリットに加えバトルヒーリングスキルの無効化というものがありますが、防御力の向上や状態異常を無効化できます。こうしてガチガチに固めた剣士になることが出来るのです。
しかし、安定を狙うならわざわざこんな装備使う必要はありません。SAOというゲームの性質上、ソロでどんなに強くなってもフロアボスに勝てるようにはなりません。それをこのRTAで採用しているのは、全ての【呪われし】装備を装備した時に発動する効果に意味があるからです。
【呪われし】装備のシリーズ効果は3つ。
一つ、呪いの効力と装備品の強化。
二つ、解呪クエストイベント以外での装備の着脱が不可能になる。
三つ、この装備をつけている限り自分はオレンジプレイヤーになる。
です。
……。
やべぇよ……やべぇよ……。
これまでグリーンプレイヤーを擁するオレンジギルドを潰すことで継続していたオレンジ状態を、この装備を使うだけで常駐にすることができるようになりました! イエーイ! KNDDISK! KNDDISK見てるか!? フラッシュ!!
じゃねぇんだよ。(豹変)
そう。その3の効果で【暗黒剣】取得のための条件のひとつをクリアできるようになりましたが、その1の効果でかすり傷でも死ぬようになりました。草。
詳しく説明すると、装備品の強化によって先程述べた以上の性能を発揮するようになりましたが、呪いの強化が凶悪です。なんと最大HPが1になります。笑い事じゃねぇな。
一応盾と鎧の能力アップにより、盾防御からの貫通ダメージは一切通りません。これにはクリティカル防御とかも必要無くなるので、どうにかして盾で受けられればダメージは0じゃ。
が、奇襲や不意打ちと言った意識外からの攻撃にはめっぽう弱いです。オレンジになるので街も利用できず、絶対的な安置も無くなりました。しかもソロなので、居眠りしたら殺されてたなんてこともあります。(20敗)
なのでこれからは奇襲を仕掛けてくるような悪い奴らを片っ端から潰しに行きます。ラフコフも潰します。ついでに攻略組からの信用度も勝ち取ります。好感度は下がります。
そうして奇襲イベントの発生を未然に防ぎ、【呪われし】装備関連のイベントをこなしていく。これが今後の行動方針になります。もちろん今まで行っていたアルゴにマップ情報やモンスター情報をメールに書き記して渡す仕事も続けます。
やることは多いですが、攻略メンバーの育成が終わらないと次の層にいけないので結構時間は余ります。オレンジ故にキャライベントを踏むことがなく、余程のことをしなければロスにならないので余裕をもって行動しましょう。
注意点として、ここからはアルゴに会ってはいけません。変に面会するとキャライベント進行フラグが建ちますし、今まで文通で済んでいた情報交換ができなくなります。ついでにオレンジなので信用も下がってしまいます。
グリーンの間もメールで情報をやり取りしていたのは今の状況を作り出すためでした。
こういうやり方で働く奴なんだと思わせられればオレンジとなってもアルゴと協力することができるのです。こうやってアリバイ作りもしなきゃいけないとか、このゲームのAIは化け物か?
閑話休題。
さて、そうなればまずは5層の攻略から。ダンジョンに潜ってレベル上げをひたすら繰り返します。
目安は魔物から転移結晶が落ちるまで、です。アイテムの購入は出来ないのでドロップで補充していきましょう。最大HPが1なので回復アイテムはフヨウラ!
転移門が使えないので必要なのは食料と転移結晶だけです。野生生物も狩って行きましょう。サバイバルの始まりです。戦わなければ生き残れないってそれ一番言われてるから。
オレンジプレイヤー、【黒騎士】。
その話は情報屋を介して瞬く間に広まった。
最前線で戦い続けるオレンジ。下層では珍しいフルフェイスの兜に、漆黒の甲冑という名前通りの姿をしている彼。
そのような印象深い姿をしているのにもかかわらず、彼の被害にあったと報告するプレイヤーがこれまでいなかった。オレンジなら誰かしらを襲っているはずなのにだ。だからこそ、彼を見た人々は何かしらのイベント用NPCだと誤解したのだ。
彼の目的は不明だ。しかし、目撃証言が第一線級のプレイヤーからしかないこと、今現在彼が徘徊していると思われる場所が迷宮区であることから、このゲームの早期攻略のために動いているのではないかと言われていた。
「……」
フロアボスは固有の部屋を迷宮区内に持っている。そしてその部屋には、必ず大きな扉が存在する。
その扉の前に彼はいた。
漆黒の鎧を身にまとった黒騎士は、同色の剣を床に突き刺し、手を置いて佇んでいた。
黒い兜のさらに向こうの眼光が開く。一瞬、それに強く射抜かれたような感覚がキリトを襲った。
「……待っていたぞ」
「───ッ、な、なんやお前! ワイら待っとったやって? 何が目的やこのオレンジが!!」
沈黙を黒騎士が破る。それに真っ先に反応したのはキバオウだった。彼は問う。この危険な雰囲気を醸し出す男の目的を。
「お前たちとやることなどひとつしかないだろう。俺はこの先にいる奴と戦う。それだけだ」
意味するところはボスの攻略。自分たち攻略メンバーと共に戦おうという宣言。だがそれは到底受け入れられるようなものでは無い。
「ふざけんなや! お前の目的はそんなんやない。ボスと戦うワイらを奇襲して儲けようって魂胆なんやろ? 死んだらボスのせいにするつもりなんやろ!!」
キバオウが声を荒らげて言う。それに続いて他の攻略メンバーも彼を責めたてる。
「それをしてどうなる」
しかし、彼はそんなもの意に介さない。極めて冷淡。しかし大きく響いた声は、騒ぎ立てるプレイヤー達を圧倒した。辺りがシンとすると続けて彼は言う。
「俺の目的は攻略だけだ。信じられないならそれでもいい。だが俺はこの先に行くぞ。何を言われようとな」
そうして黒騎士は背後の門を開く。大扉の先には今まで幾度となく見てきたボスフロアが広がっていた。
「俺が聞きたいのはやるのかやらないのか。それだけだ」
そう宣言した彼は一人歩いてボスフロアへと入っていった。
残された攻略組も、ディアベルに指揮されてしぶしぶといった様子で中に入っていく。
攻略前の士気としては最悪と言って良かった。
しかし、終わってみれば呆気ない勝利。
黒騎士は戦うプレイヤーに目もくれず、ただただボスに張り付いて攻撃を仕掛けていった。
奴がフロントを張っていたおかげで攻略メンバーにタゲが回って来ることはなく、士気に反して余力を残した状態で簡単にボスを倒すことが出来た。できてしまった。
「…………」
だからこそ、素直に喜べない。戦勝ムードとは言い難い沈黙がボスフロアを覆っていた。
黒騎士がいなければこの圧勝はなかっただろう。だが、ただ強いからと言ってオレンジプレイヤーの存在を認めてしまっていいものなのか? このアインクラッドにおける最高戦力である俺たちが。そんな迷いと、彼への畏怖がこの場を支配していた。
「…………ふん」
当の黒騎士は疲れた様子も見せずに階段を上っていく。彼は激闘を終えても休むことは無かった。あれだけボスとタイマンを張っていたのにも関わらず。
(……回復する暇もなかったのにあの余裕。やっぱり秘密はあの装備にあるのか?)
黒騎士が身に纏っているものの記憶はない。あれだけ黒一色の装備品。黒色が好きな自分なら嫌でも目に付くはずなのに。
(いやかっこいいとかそういう話じゃないけどさ)
思い返してみると、あれほど深い黒ではなかったが、気になった装備はあった。【呪われし】という名前と、危ない匂いがするという装備説明欄を見て直ぐに売ってしまったあの剣。
第一層のLAボーナス以外で目に付いた黒系のものと言えばあれだけだったはず……。
(どこで手に入れたんだろうな、アレ)
疑問に思いながらも、次の階層に上がることにした。ボスを倒したあとは俺も嫌われ者だ。黒騎士の後を追う形で階段をかける。
こうして、第五層で初めてボス戦に参加した黒騎士は、その次の層からも続けて攻略組と共に戦った。幾度も幾度も幾度も。
その強烈な存在感からだろうか。俺は見落としていた。第四層まで共に戦った仲間の存在を。黒騎士と入れ替わるように消えていたその存在を。その戦い方からみんなに慕われていたガイと言うプレイヤーを。
その事に俺が気づいたのはあの事件で奴と対面した時だった。
いや、もしかしたら気づいていたのに気づかなかったフリをしていたのかもしれない。
それが明らかになった時にはもう、遅かった。
次から攻略は飛び飛びでいきます。
既にだいぶ飛んでますけど。、