アインクラッドany%攻略RTA 【暗黒剣】チャート    作:塩なめこ

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大変お待たせ致しました。
あと数話で終わりなのに思いのほか時間を食ってしまいました。
これも19年ぶりの新作を出したメトロイドが悪いです。
それまではモンハンしてました。許してください。



part7

 あのすぐ後のことは覚えていない。

 あの時ガイが消えて、キリトと共に帰還して、別れて、宿屋であれこれ考えて思い浮かんだ言葉はひとつだった。

 

 絶対に見逃してやるものか、と。

 

 結局、私はガイとのフレンド登録を続けることにした。そして、アイツと生きて帰ってそのリアルの面を拝んでやろうと思ったのだ。

 

 好きにしてくれて構わないと言われたあの時は失意のうちにいたものだが、落ち着いて振り返っててみればそれは怒りに変わった。

 

 奴は裁かれなければならないとか言って、結局は自分も死んで罪から逃げてやろうと思っていることに気づいたからだ。

 

 本当に罪の意識があるのなら、殺したプレイヤーを調べて、遺族に会って面と向かって立ち向かわなければならないのだ。

 それをアイツは自分が死ぬ事で逃れようとしている。

 それはダメだ。ゲームをクリアして、皆を救って、その後に必ずアイツは自分がしてきたことと向き合わなければならない。

 

 だから、私がそうさせてやる。

 

 現実世界でまた会って、これまでのことを愚痴ってから殺してきた人の親族を調べあげてぶつけてやろうと誓った。

 これまでのことはそうやって清算させる。

 

「……こんなことに付き合う必要はないんだぞ」

 

「オレっちがどうしようがオレっちの自由ダロ? 」

 

 そしてこれからは絶対に人を殺させない。少なくとも私が見ている間は。

 

「アンタの活躍を知らしめることでこのアインクラッド全体の犯罪行為を抑止する。そのためにはアンタは下の層の事件も片付けなけりゃならないのサ」

 

「俺には攻略という目的も」

 

「オイラにはアンタをこき使える権利があるんじゃなかったカ?」

 

「……」

 

 ケケケ、と笑ってやる。私を遠ざけるために最初に出会った時のことを持ち出すのが悪いのだ。そっちがその気ならこっちも存分に使わせてもらう。

 

「そのためにはオイラの渡す情報が必要ダ。違うカ?」

 

「その情報とやらはお前たち情報屋連合に入ってきたものなんだろう? そんなものを流せば信用問題になるぞ」

 

「オレっちが勝手にやってる事ダ。組織の方にも界隈の方にも影響はないサ。発覚したとしても逆にオレっちの名前を公表して連合からも抜けてやる……って話を何回もしたはずだゾ」

 

「……」

 

「本音は隠さなくてもいい。アンタはオレっちの情報を『要らない』って一言言えばそれで終わりダ。なのにそうしないのはそれが欲しいから」

 

 こいつは変なところで不器用だ。やると決めたことはやり通すからこそ、曲げられない意地がある。自分から他のオレンジを見逃そうとしない。だから私に諦めて欲しい。そう思っている。

 

「オイラだってそれを利用してアンタの粛清とやらを止めてもらってる。まァ、当のご本人様はオレっちの知らないところではバンバン殺ってるみたいだがナ」

 

「……約束は約束だ。お前のくれた情報を頼りに探し出したヤツらは殺さない。それ以外は別だ」

 

「ふーん、そうカイ」

 

 

 それでもいい。分かっている。コイツはきっとこのゲームにおいて殺しをやめない。そうしなければ抑止力にはなり得ないし、そうすることでしか止められない輩もまたいるからだ。

 

 

 だが、必要以上に罪を背負う必要は無い。29層でのあの事件では、人を殺すことに慣れてしまって、別にその必要も無い者まで斬っていたように思えた。

 そんなものには慣れさせない。殺すべきではない人を作り出すことで、殺害手順を機械的に実行させなくする。それでいい。今はそれでいいのだ。

 

 

「……それで、今回は何故直に会おうと?」

 

「あぁ、本題がまだだったナ。なんでも血盟騎士団団長様がアンタを引き込みたいんだとサ。嫌なら果し合いの末に強引に縛り付けようって思惑のようだゼ?」

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「な……に……?」

「がぁ……!」

 

 

 複数の足音を感知した直後、二人の男の消えるような悲鳴が聞こえてきた。瞬間、ドサッと地面に倒れ込む音が鳴る。

 

「ラフィン・コフィン!」

 

 キリトが叫ぶ先には、血盟騎士団のメンバー二人を踏みつけているのは黒い頭陀袋のようなものを被った男とドクロのような仮面を付けた男の2人。そして、私たちを囲うように配置された黒フードのプレイヤーたちは、正に極悪ギルド《ラフィン・コフィン》のメンバーだった。

 

 襲われたのはヒースクリフの護衛として付いていた二人の騎士。副団長の護衛メンバーがアーちゃんと一緒にこっちにいたがために、孤立した彼らが最初の標的にされたのだろう。

 

 この場にいた全員が武器を取り出して構える。

 囲まれたと言っても人数はそう多くはない。最前線で活躍する歴戦のプレイヤーたちなら難なく突破することができるだろう。

 だが、踏み込めない。いくらステータスが高かろうが彼らにはデュエル以外で対人戦闘を行える覚悟はない。

 そして何より、最初にやられた2人の人質の存在が彼らから戦意を奪う。

 いざ手を出せばあの2人は殺されるかもしれない。だが動かなければ自分たちが死ぬ。そんな迷いが私たちに二の足を踏ませていた。

 そんな様子を見て下卑た笑いが響く。

 

 

「ツーダウーン! こんなところで決闘なんかやって頭お花畑かよ」

「《閃光》のアスナ様に《黒の剣士》、そして血盟騎士団の幹部方。ヘヘッこんだけ上玉の獲物が」

 

 だが、こんな時でもやはりガイだけは迷わない。完全に狩る側だと思っていたその男は彼の一刀によっていとも容易く首をはねられた。

 続けて二の刃を頭陀袋のようなものをかぶった男に向けるが、それは届かなかった。

 

「馬鹿野郎が。ここにはムカつく《粛清者》がいることを忘れたのか」

「 ジョニー・ブラック」

「こうするとアンタでも切れないんだよなぁ?」

 

 その理由は下敷きにしていた人質を持ちあげ肉壁として用いたからだ。流石のガイもこれをされるとどうしようもないのか、漆黒の剣は人質の目の前スレスレのところで静止していた。

 

「……」

 

 敵には返答せず、すぐさま彼は後ろに飛んで距離をとると、そのままステップを繰り返してこちらに合流した。そこにはいつの間にか血盟騎士団団長ヒースクリフの姿もある。

 

「これは面倒なことになったね」

「……後は俺が何とかする。お前たちは転移しろ」

 

 その言葉を聞いて私は予め腰に用意しておいた袋を取り出した。中身はこの場にいる人数分の転移結晶だ。もしものためとガイから渡されたものである。

 

「この事態を予想していたようだね。随分と準備がいい」

「……言いたいことは分かる。だが奴らと結託しているわけではない」

「それを信用できると? それにそういう問題ではないのだよ。私の部下があのような状態にあっておめおめと逃げられる立場ではないのでね」

「……」

 

 だが、そういう備えができていることが今回は裏目に出てしまった。私やキリトならともかく、他の血盟騎士団員がすんなりと信用できるわけもない。

 

 

「ならばどうする。言っておくがあの二人は易々と助けられる状況にない。あの頭陀袋の野郎は奴らの中でも特に抜け目がない」

「だが直ぐに殺せるという訳でもない。彼らにとって君に対抗できる唯一の手段だ。君が裏切っていなければ、だがね」

「……俺を囮に使いたい。そういうことだな」

 

 

 そう呟くと、直ぐにガイは駆け出した。標的は頭陀袋の方ではなく、周りを取り囲むラフコフメンバーの一人のようだ。

 

「残念ながら彼との連携は期待できない。だが、我々だけならば可能だ。彼が好きに動いてくれている間に我々であの二人を助け出す」

「……ッ、了解!」

「常にツーマンセルで行動を。アスナくんは私と。血盟騎士団員では無いキリトくんとアルゴくんはここで待機。機を見てこれを投げるんだ」

 

 

 ヒースクリフの指示も早かった。敢えてガイを無視することで連携を取る。その手法に思うところがなかった訳では無いが、ガイはその意図を汲んでいたようにも思えたため、従うことにした。

 

 

「キー坊、残念ながらオレっちは《投擲》スキルに振ってない。外したらカバー、頼めるカ?」

「それは構わないが、3個も投げたら俺たちが使う分が無くなるぞ」

「その辺は大丈夫サ。ガイに死ぬ気で守ってもらう」

「……了解」

 

 ヒースクリフに頼まれたのは単純な作業。今手に持っている転移結晶を人質にされている奴らに届けることだ。正確に、手を狙って。

 SAOの麻痺毒もそこまで万能ではない。確かに体はほとんど使えなくなるが、全く動けないというわけでも無いのだ。時間をかければ腕も足も動かせるし、口や指などの部位は割と自由に動く。

 問題なのはインベントリから取り出すという動作ができないこと。だがそれも他のプレイヤーが渡せばどうということは無い。

 つまり、手元に結晶さえ届ければたとえ麻痺状態でも使うことができるのだ。

 

 ガイが独断で場を荒らしているように振る舞い、私たちは人質のせいで迂闊に動けないように見せる。ガイが暴れれば暴れるほど注意は奴に向く。その隙を見逃さずに突貫をかけ、下のやつらがアイテムを使う時間を少しでも稼ぐ。

 

 あの二人が脱出したらこちらも即撤退だ。ラフコフメンバーの討伐や逮捕を鼻から切り捨てた作戦立案だ。この状況下で冷静さを失っていないのは流石と言えるだろう。

 

 こちらの準備は整った。この後の状況がどう動くかはガイと奴らの対応次第と言ったところか。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 思い通り! 思い通り!! 思い通り!!! なRTA、もう始まってる! 

 

 ラフコフのイカれたメンバーがエントリーしてくれたおかげでヒースクリフとの決闘が有耶無耶になりました。しかも無事GM特権を行使したのでフラグ管理もバッチリです。

 

 まぁ、たまたまラフコフの奴らが潜伏してそうな階層を決戦場に選んで、たまたまそれが《血盟騎士団》のスパイから漏れて、たまたま奇襲できただけなんですけどね初見さん。よって俺は悪くねぇ! Q.E.D.証明終了。

 

 

 さて、血盟騎士団員が麻痺でダウンした辺りですかさず威嚇攻撃。ネームドラフコフメンバーのジョニーくんは肉壁戦法を躊躇いなく使うので近づき過ぎないように注意しましょう。

 終わったら距離を取ってヒースクリフに声掛けします。こうなった原因を色々と聞いてきますが無視だ無視! 今ははやく動けや! おめぇも頑張んだよ!! 

 

 ARG姉貴には事前にこうなるかもしれないことを話した上で、全員分の転移結晶が入った袋を渡しております。今回は彼らがそれを使って撤退するまでの時間を稼げばOKです。

 

 とはいえ注意点が一つ。ガイ以外のプレイヤーに殺人を行わせてはなりません。茅場晶彦であろうとラフコフであろうと、です。

 

 ラフコフ側の理由はわかりやすいですね。単純に彼らにここにいる誰かを殺されると記録に直に響きます。前にも言ったと思いますが、このゲームは攻略組の生存者が多ければ多いほど攻略速度が上がります。逆に言えば主要プレイヤーの損害が大きいとどうしても速度ダウンしてしまうのです。

 

 んでプレイヤー側。まずヒースクリフですが、これは彼のカリスマ性のひとつに清廉潔白さがあるからですね。全然清廉潔白じゃないけど。

 少なくとも彼個人や《血盟騎士団》から後ろめたい噂があんまり流れてこないのは事実です。これを損なわせると《血盟騎士団》に入団しようとする人が若干減ってしまい、プレイヤーの強化に繋がりません。自発的にNPCの強化が行えないプレイスタイルですのでこれが結構痛いんですよね。

 

 次にヒースクリフ以外の奴らですが、彼らに殺しを覚えられるとラフコフの新規メンバー候補になりかねないからですね。これは原作主人公のキリトも例外ではありません。

 PoHとかいうクレイジ○サイコホモの籠絡技術がずば抜けており、殺人で精神重症に陥ったプレイヤーを片っぱしから引き抜いていきます。育ちきった攻略組がそっくりそのまま寝返るとかマジ? 

 これをやられると粛清も攻略も面倒くさくなるんですよね。キリトに関してはアスナとくっつけば放置でも構わないんですが、今はまだ食事の誘いすら受けていない状態です。ここで下手に殺させると確実にPoHに付け込まれるでしょう。そもそも彼、キリトのこと好きですし。

 

 てなわけで俺は俺の責務を全うする!! ここにいる者は誰も死なせない!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ死ね! (無慈悲)

 

 

 

 

 敵は殺していいってそれ一番言われてるから。

 別に殺人現場見せても味方は精神重症になりませんよ? 血盟騎士団はヒースクリフのカリスマ性に依存してるので、彼がいれば裏切らない限りどんな惨状を見せつけても問題ありません! やっぱりダメじゃないか

 

 今回は彼らに人質の解放を任せる方針です。こっちが大立ち回りして注目を集める必要があるので、容赦なく殺ってやりましょう。

 最低限、人質持ちからは絶対にタゲを取りましょう。じゃないと救出組がやられちゃうので。さて、今回の肉壁利用者は……げっ、ジョニーくんと構ってザザちゃんじゃん。

 

 ちょっと屑運が発動してますねこれは……。タゲを取る分には楽なんですけど、あんまりスキを見せないせいで結構撤退失敗したりするんですよね。

 ちょっとフォローしなきゃダメかもしれません。まぁ投擲高いキリトくんは外すことは少ないし、次点で選ばれる人もそこそこの腕前なのでそこまで心配は……ってアルゴじゃん? なんで? 

 は? え? このパターン初めてなんですけど大丈夫ですか? 

 

 あ、ヒースクリフたちが動いた。怖いんでやっぱりフォローに入りましょう。できればアルゴはヒースクリフとアスナのペアのほうに投げてくれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ」

 

 

 ▼しかし アルゴ の 転移結晶 は 当たらなかった ! 

 

 

 だからこっちじゃなくてあっちに投げろって言ってんだろぉ!!! 

 とはいえ流石アルゴ、キリトに2つ転移結晶を渡していたようです。すかさず彼がこちらに向かって構えているのが分かります。

 

 それでもちょっと遅いんですけどねッッッ!! 

 

 ジョニーくんが既に肉壁を殺しにきてます。ヒースクリフたちの狙いが分かったからですね。やめろォ! (建前)やめろォ! (本音)

 

 すかさず盾をシュート! オラそこからどけっ……って、肉壁を失ったザザくんがキリトくんたちの方に行ってるんですけど!? なんでこっち来ないんすか??? 

 

 ジョニーくんの方を確認する暇もありません。RTA的にはキリト&アルゴ>モブプレイヤーなので全力で二人を守りに行きます。ダメじゃないか、チャートにない行動をしちゃあ! 

 

「ちっ、クソがぁ!」

 

 

 こっちのセリフじゃい!!

 

 何とか間に入ることが出来ました。多分モブくんは死んでると思うので即撤退です。実際血盟騎士団の人達は何人か消えてます。ほら君たちもはやくするんだよあくしろよ! 

 

「すまんガイ、オイラの分の転移結晶は使っちまっタ! 今から取り出すから時間を稼いでクレ!」

 

 ゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑ!!!???

 

 

 んな事言っても他のラフコフメンバーがこっち来てるんですけどぉ! 無いよォ、無敵の盾無いよォ! さすがにこの状態でオワタ式のまま30秒以上稼ぐのは無理だって! 

 

 

「オイオイオイオイ、忘れもんだぜ黒騎士さんよぉ!」

 

 

 あ、ジョニーくんナイスフォロー! なんか知らんけど盾を投げてくれました。これで無事キャッチできればまだ続行できます。

 

 

「死ね! 死ねよ!!」

 

 

 ギャアアアアアアア!!! モブ殺人鬼くん!? 急に目の前に現れるんじゃねぇ! 喰らえやソードスキ────あ。

 

 

「ヒヒッ、使っちまったなぁ! 受け止められるかなぁ??」

 

 

え? マジ? やっちまった、硬直が。ここまで来てリセット? 再走? あと二十数層なのに??? 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。助けてええええええええええええええ!!!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無茶をするね、君も」

 

 

 

 ────ヒースクリフすき♡

 

 

 

 

 




ゆっくりゆっくり完走するのでもう少しお待ちいただけると助かります。
あと多くて3話です。本当です。

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