アインクラッドany%攻略RTA 【暗黒剣】チャート 作:塩なめこ
ちょっとリアルが忙しいとすぐこれです。次は早めに挙げられるといいな
二転三転。
ヒースクリフとガイの決闘が決まり、その結果を心待ちにしていた人々にとってこの報道は彼らの度肝を抜いた。
『ラフコフの襲撃により決闘中止。最強プレイヤー同士の戦い決着せず!』
『血盟騎士団員一名が殺害。戦力減か?』
『黒騎士とラフコフに繋がり? 生き延びた攻略組メンバーの証言』
情報ギルドを介して発せられる様々な記事。
これらの影響によるものなのか、黒騎士に対する信用が揺らいだアインクラッドでは、下層で収まってきていた犯罪行為がまた活発化し始めた。
それだけでは無い。黒騎士程ではなくともそれなりの抑止力を発揮していた攻略メンバーが、オレンジに殺されて、最前線でもオレンジの絡む事件が発生するようになった。
事態を重く見た最前線のギルド達は共同で宣言を出し、オレンジや犯罪ギルドに対する対応を厳しくしていく。
しかし彼らは巧妙に隠れ、人と戦う覚悟を持たない攻略メンバーは摘発にも乗りだせず、後手後手に回る始末だった。
更にモンスターやクエスト難易度の高まりも相まって、攻略速度は目に見えて鈍化した。それでもなんとか上へと上へと進んでいくあたりは流石だが、初期の頃にあった生還への情熱が薄らいでいるのは誰の目から見ても明らかだった。
黒騎士ことガイがあの事件を機に最前線から姿を消したことも速度の鈍化を後押しした。
思えばこれまではガイに守られるボス戦。【神聖剣】を獲得したヒースクリフが居たとしてもその穴は埋まらず、かと言ってもはや公式に頼れなくなった存在を当てにもできない。
アインクラッド中が暗い空気に包まれ始めていた。まだ表面には出ていないが、少しずつ生き残った者たちの心を蝕んでいく。
「あーおもしれぇおもしれぇ!! ぎゃははははは!!!」
最前線のプレイヤーを一人殺すだけでこの惨状。
《粛清者》たる黒騎士を仕留めきれなかったのは残念だが結果オーライだ。ラフコフメンバーでも名のあるジョニー・ブラックは誰も知らない森の中でほくそ笑んでいた。
「今度はボスも連れて殺りたいな〜。あんな面白い場面を見せられなくて残念だ」
もっともっと殺戮を。もっともっと恐怖される愉悦感を。愚者を愚弄する優越感を。
そんな欲望が心の中で渦巻く。それが致命傷になるとも知らずに、悪意に魅入られた少年はただひたすらに夢想する。
「黒騎士を殺せたら……。いや、あの女を黒騎士の前で殺す方が効くかな? 見てみたいなぁ!」
そんな叶わぬ夢を追い求めても望んだもの手に入らない。
今日もそうして沸いてきた殺意を、欲望を満たすため、彼は殺人に向かう。その誘惑の先が彼にとって終点だと言うことをこの時はまだ知らない。
アインクラッドも60層にさしかかろうという頃、事態は更に大きく動く。
◆◆◆
それは本当に唐突だった。
俺はその日とある事件を追っていた。
たまたま血盟騎士団副団長のアスナと食事を共にすることになった俺は、そこで起こった殺人事件の現場に居合わせることになった。
《圏内》……街の中で起こったそれは本来ならあり得ないことだった。
ゲームの使用上、街や村などの所謂《圏内》といわれる場所ではPLにダメージを与えることはできないはずだった。例外的に《デュエル》でのみPLを傷つけることができたが、今回は《デュエル》が行われた痕跡もなく……。
攻略組である俺とアスナはこの事態を重く見た。なんせ《圏内》での殺人が可能ということになれば、現在活発化しているオレンジプレイヤーの犯罪をさらに助長させる恐れがあったからだ。
そうして関係者から話を聞き、これが最初に殺されたカインズさんとその友人のヨルコさんの自作自演だったということを突き詰めた俺は、馬を駆ってその二人がいるであろう第19層にある《十字の丘》へと向かったんだが……。
「ふざけんなあああああ!!! なんでだ!? どぉしてボスが動けねぇんだ!! 何をしやがった《粛清者》ァ!」
「何を、だと? お前がそれを言うか、ジョニー・ブラック」
そこではなんと犯罪ギルド《ラフィン・コフィン》のメンバー三人と《黒騎士》ことガイが戦っていたのだ。しかも不思議なことに、既にラフコフ側の二人が地に倒れ伏している。
犯罪ギルドの登場はあり得るかもしれないとは思っていた。カインズさんを殺したように見せた時に使われた、プレイヤーメイドの槍。グリムロックというプレイヤーによって作られたソレからたどり着いた《黄金林檎》というギルドの過去の話。裏に何かあるとは薄々感づいてはいた。
だがまさか、ガイがこの事件に関わってくるとは!
「お前たちが散々使ってきた手だろう」
「んなこと分かってんだよ! 俺が聞きてぇのはなぁ、どうして麻痺耐性のある俺らが《麻痺》なってるかってことだァ!!!」
振るわれる鉈をガイは余裕しゃくしゃくと言わんばかりに盾で受け止め、剣を振るう。
なんとかジョニー・ブラックは身を引き、かすり傷程度で済ませたそれは、想像以上にジョニーの体力を削る。奴のゲージを凝視すれば《毒》の状態異常も付与されている。
「それをお前に言うとでも? これまでお前が殺してきた者たちと同じように、苦しみながら死ね」
「ふざけんなふざけんなふざけんなああああああ!!! ボス!! ザザ!! 動いてコイツ殺してくれよォ!!」
縋るように彼は言う。だがしかし倒れた二人は動かない。動けない。
ジョニーはこの状況を打破できない。《毒》になった奴にガイは踏み込まず、逃がさないようにだけ動いている。狙いは奴を焦らせ隙を見せたところに一太刀を入れるためだろう。いや、もしかしたら《毒》で殺すつもりなのかもしれない。
「フゥーッ! フゥーッ! ……ッ、クソォ!」
そんな時、ジョニーと目が合った。直後顔を歪める。奴にとって俺はガイの増援に見えたに違いない。状況は奴にとってさらに悪い方に推移していく。
「……ァ?」
奴の視線が横に動く。そこには麻痺毒で倒れたシュミットと、これまでの戦いを最初から見ていたであろう、恐怖に染まったヨルコさんとカインズさんがいた。
「ニヒッ!」
「ひっ……!」
しまった。
そう思った時にはもう遅かった。
三人を認識したジョニーはガイとの剣劇の中、懐から短剣を取り出し、ヨルコさんに向かって投げつけたのだ!
「……」
すぐさまガイがそれを止めようと間に入る。そのおかげでヨルコさんに飛んで行った短剣を防ぐことができたが、ジョニーから離れてしまった。
「お優しい《粛清者》様だなぁ! これで形勢逆転だ──」
生まれた隙を奴が見逃すわけがなかった。すぐさま懐から回復結晶を取り出し、倒れた二人へと駆ける。
「!?」
がしかし、それもガイに防がれる。右手に握っていた漆黒の剣を投げ飛ばし、ジョニーの手ごと切り裂いたのだ。そしてすぐさまフードを被った男、《PoH》に近づいて盾で抑えに入る。
「ぐあああああああ!! 殺す! 殺す! コロスコロス! 殺してやるゥ゛ゥ゛ウ゛!!」
「……」
叫びにガイは応えず、ただ静かに倒れた二人を抑えていた。
今の切断でジョニーのHPはイエローゾーンに達した。しかし同時にガイも武器を失っている。
とはいえ、ジョニーは未だに《毒》状態。時間は常にガイの味方だ。ガイは攻撃せずとも、その盾で守りに徹すれば粛清を完遂する。
「クソがあぁぁ……!」
しかしそのかわりガイ側は追撃ができなかった。もう片方の手に持っていた《転移結晶》をジョニーは使用し、ポリゴンとなってこの場から消えた。本来なら回復した二人と逃げるためのものだったんだろうが。
「キリト。しばらくこいつ等を頼む」
ジョニーが姿を消したのを見るとガイはそう俺に言った。
二人を逃がすわけにはいかないと思った俺はこれから何が起こるのかを考えもせずにその言葉に従った。
そして、ガイが投げ飛ばした剣を拾った時に後悔する。どうしてこの場で黒鉄宮にこの二人を転送しなかったのだろうと。
「やめろ、ガイ! こいつらは「こいつらはこうして人を殺した」──!」
「今更、慈悲を与える必要もないだろう。殺した奴は殺される覚悟があるべきなんだ。そうだろうザザ、PoH」
呼ばれた二人はギロリッとガイを睨む。ザザは「コロス……ッ!」と呻きながらその赤い眼光でガイを貫くが、PoHは観念したかのように笑うと、ガイに語り始める。
「それはテメェも同じだろうが。殺人を楽しめねぇ粛清者。もったいないねぇ、リアルに戻ればお前も死ぬ」
「……」
「お前は絶対報われねぇ。あの世でお前が踊り狂う様を見ていてやるよ。イッツ・ショー───」
タイム。
ガイの一太刀で飛んだ二つの首。片方は憎しみを、もう片方はただ嘲りの笑みだけを浮かべ、ポリゴンとなって消えた。
虚しい。
アインクラッド中を騒がせた犯罪ギルドの長を倒したというのに、辺りには沈黙が残るのみ。それはまるでガイの行く末を示すかのように。
彼にはこんな虚しさと孤独しか待ち受けていないというのか。それではこれまでのガイの行動は、覚悟は何だったというのか。
本人の顔を伺っても、彼はただ虚空を見つめるばかりだ。
「絶対に死なせナイ。帰ってもオイラと一緒に報いるんダ」
それでもまだ。彼には彼女がいる。
霧の向こうから現れたアルゴはガイの服を掴んで離そうとしない。
そんな彼女の手は震えていた。それは彼が人の倫理から離れていく恐怖によるものなのか。絶対にそうはさせないという怒りにも似た決意が生み出した震えなのか。
◆◆◆
計画通り……!
ようやく、ようやくPoHの野郎を殺してやりました。
さまぁみろー! フーハッハーン!!
このイベントを逃すと本当にもうアインクラッドに出てこなくなるから嫌だわコイツ。
所謂《圏内事件》はPoH、ザザ、ジョニー・ブラックの3人が確定で出現するという超うまあじイベントです。しかもこの時は本当にこの3人でしか行動していません。走者としては狙わざるを得ない。
アルゴとの協力関係もこれを逃さないために続けているつもりでした。キリトから彼女を経由して事件が発生したことを知れるので、あとは十九層で待ち伏せしてれば簡単に介入できるようになるのです。
だから好感度は必要なくても信用度は必要だったんですね。今回は好感度も何故か高いですけど。
ここでPoHを殺すのは100層クリアRTAや最速クリアRTAのキリトチャートなんかでも有用です。この頃はもう既にクラディールが彼らの術中にハマりかけているので、アスナとの結婚フラグが折れないのもいいですね。
でもジョニー・ブラックを取り逃しちゃったじゃんとお思いのそこの貴方! それは想定のうちなんですね。
今回のガイくん妙に饒舌だと思いませんでしたか? それはジョニーくんを煽ってラフコフのアジトにガイくんを誘い出してもらうようにするためなんですね。
PoHが逝ったことでラフコフアジト壊滅事件のフラグが1つ折れてしまいました。密告したの彼ですからね。当然です。
だから代わりを用意する必要があったんですね。そうジョニーくんです。
彼をこの六十層付近に来るまでに煽りに煽り倒していると、単独の時に挑戦状を叩きつけてくれます。それまでにラフコフメンバーを殺していると警戒度が上がり、プレイヤーを囲んで叩くためにアジトに誘引してくれるんですよね。
しかもPoHがいないと完全に焦りだしてなりふり構わなくなります。よって攻略組に情報を売り付けてもなんの問題もないわけですね〜〜。しませんけど。
というわけでそのアプローチが来るまではこれまで通り攻略を進めていきましょう。アルゴにPoHの死亡報告をすればアインクラッドの犯罪行為は収まりますし、攻略メンバーの至宝要員の殆ども消え去ります。本当に死んでいいやつだなPoH。
ここからはアインクラッド初期並みの攻略スピードで駆け上がれるでしょう。キリトとアスナの新婚生活時間を短縮する作業が今始まります。
あ、そうそう。アルゴはもう用済みなので好感度とか気にしなくていいです。下手にキャライベントを踏むとロスになるだけなので、メールだけのやり取りに戻します。ようやくRTAらしくなってきたな! (激遅)
◆◆◆
もうどうすればいいのか分からない。
いままさに目の前で猛威を振るうガイの姿を見てそう思う。
例の《圏内事件》以後、オレンジの被害は激減した。あの時被害にあった攻略組メンバーの一人であるシュミットが、自身の所属する《聖竜連合》のメンバーを説得し、オレンジの摘発に力を入れ始めたためだといわれてはいるが事実は違う。ガイがPoHを葬ったからだ。
ラフコフやそれに連なる犯罪ギルドは軒並み瓦解。ガイという恐怖に屈した彼らは自らの意思で投降し、その大半が黒鉄宮に捕らえられた。
もうこれでガイの戦いは終わったのだと私は思っていた。あとはこのゲームをクリアするだけでいいのだと。
でも──。
「あいつらは殺人を犯していない。軽い犯罪などで
ガイはそう言って戦うのをやめなかった。そいつらを解放してやるのが役目だと言わんばかりに。
事実、PKは続いた。凶悪な彼らすべてが言葉に応じず、彼らすべてがガイの剣によって切り裂かれた。
そして今も、彼は私の目の前で無表情に剣を振るう。
飛び掛かる無数の黒フードを被ったプレイヤーたち。彼らは皆、《ラフィン・コフィン》の残党だった。
あの時取り逃がしたジョニー・ブラックが率いる数十人の集団。それが現在のアインクラッドにおいて最凶を誇る極悪プレイヤーの集まりだった。
奴らに呼び出されたガイは迷うことなくその巣窟へと飛び込んだ。誰にも告げずに。そう、誰にも。
PoHが消えてからガイは単独行動が増えた。今までもそうであったが、その傾向がさらに増したのだ。もはや彼は私のメールにすら反応しなくなった。まるで突き放したいかのように。
彼はただひたすらに粛清と攻略に没頭した。私と彼を繋ぎとめるのは彼が手に入れた情報を伝えるだけのメール。昔のような私個人に対するメールは消え去った。彼にとって今の私は本当にただそれだけの道具なのだろう。
でも、それでもいいと思っていた。ここで手を離せば彼は本当に独りになってしまうから、どんな方法を使っても、どんな関係であっても、私は彼の傍に居ようとそう決めていたのに。ずっとその行いを見ていようと思っていたのに。つけてみればこの惨状。今日のは特に最悪だ。
「ギャ──」
「っがぁ──」
「ひでぶぅ──」
「……!」
また三人が死んだ。ポリゴンとなって消えた。こんなにもあっさりと。
まだこの殺戮劇は続く。ガイは剣で、盾で、腕で、足で彼らの五体を引き裂き、貫き、散らしていく。
その猛攻はどこか狂気を孕んでいるように見えてならない。どこか遠くへ行ってしまうかのような危うさもあって。
不安が私の心を襲う。
「くそがぁ! なんで死なねぇ!? なんで殺せねぇ!! このチート野郎がああああぁぁぁぁ!!!!!」
とうとう痺れを切らしてジョニー・ブラックが動く。傍らには七人の下部たち。ガイを全周囲から囲む彼らの目にもまた殺人衝動が疼いている。だが、それを見てもガイが負ける姿は思い浮かばない。
「フ──ッ!!」
なぜならガイの目のほうがドス黒いからだ。全てを飲み込む深淵のようなその瞳は迫りくる敵一人一人を瞬時に捉えた直後、それを効率的に屠らんと体が動く。
まずは盾で最接近した眼前の一人を受け止め、そのまま左前方の二人に向かい投げた。
左へと降りぬいた盾はその勢いにのって後ろへと放り出された。これで前方と左側にいた四人の動作が一瞬遅れる。その隙さえあれば彼は残りの半分を葬り去れる。
瞬時に逆手へと持ち替えた漆黒の剣が紫色の光を纏う。これから放たれるのは【暗黒剣】でも最大級の
「ぎっ」
「がぁ」
「ぶっ」
「ごぅ」
あの技は即時発動の状態異常をランダムな種類与える斬撃を五回放つ技だ。その性質ゆえに攻撃力こそないものの、状態異常が豊富ではないこのSAOにおいてはトップクラスに凶悪なスキルだ。
しかも使い手は百戦錬磨のガイ。このような密集状態で全員に一撃づつお見舞いすることなど造作もない。
事実、ジョニー・ブラックを含めた四人のプレイヤー全員が麻痺毒によって動けなくなっている。もはや勝負は決した。
残りの四人なんぞ一捻りだ。《スキルコネクト》というシステム外スキルによって発動された裏拳が、今まさに襲い掛かろうとした敵の顔面に刺さる。一度拳でソードスキルを発動すればまた剣のソードスキルが襲い掛かる。
「ひう」
《バインド・ホリゾンタル・スクエア》。
一撃一撃に麻痺毒効果のある四回攻撃の剣技。一人に四回すべてを確実に叩き込みながら、器用に周囲へと散らす。蓄積するそれは、ガイが硬直した瞬間に威力を発揮し残る三人から自由を奪った。
もう彼に攻撃できる者はいない。数十人いた敵のすべてが消えたか地に倒れた。
ここからはただの作業。順番に首をはねていくだけの作業──。
「──ガイ……!」
恐怖とともに涙が零れていくのを止められない。目に焼き付けて一緒に償うと決めたのに見ていられない。見たくない。
「……っ、ぅぅぅ……! っ……!」
声も抑えきれない。思わずふさぎ込んでしまう。でも聞こえてくる。嘲りと罵倒とポリゴンが散っていく音が。
ガイをつつむ暗闇がさらに深まる姿を幻視する。もっと、もっと深いところへ。
その姿に傷はない。その鎧は漆黒を保ったままだ。だがしかし。
(ガイ、アンタの心は大丈夫なのカヨ!!)
ガイは殺戮を覚えると戻れなくなると言った。
では、この世界で最も殺人を犯しその罪を背負い続けるガイは、果たして戻ってこれるのだろうか。
ナチュラルにストーキングしてるアルゴさん。ガイ君の対応がクズだから仕方ないね。
次回はとうとうRTApart最終回です。ヒースクリフとの決着の時は近い……かもしれません。