『高町なのは』は鉄面皮少年だけを名前で呼べない   作:世嗣

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『魔導師』って、なに?

 

 

 

 

 空が青い。

 いつだって空は青くはあるのだが、なんだか今日は特に青い気もする。

 

「おいこら空見ー、先生の授業がいくら退屈だからって外ばっか見るなー。昨日昼休みの外出許可やった恩を忘れたかー」

 

「え、あ、すみません」

 

「今思い出したような顔しやがって……」

 

 ため息をつかれてしまった。申し訳ない。

 

 駄目だ。どうにも集中ができない。

 

 それもこれも昨日の夢みたいな出来事のせいなのだが。

 

 空から降ってきたモンスターに襲われて死にかけて、無我夢中で抗ったらなにか不思議な光が俺の手から出て、そして──。

 

「じゃあ今日の授業はここまで、日直号令」

 

「きりーつ、れい」

 

 ありがとうございましたと声が揃い、先生が出ていく。すると教室のあちこちがざわざわと騒がしくなる。

 

 ……そうか、もう昼休みか。

 

 昼ごはん、買いに行くか。

 

「お、空見今から購買行く?」

 

「ん、ああ」

 

 とんとん、と後ろの席から肩を叩かれ振り返ると、人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた男が一人。

 この教室にいる俺の数少ない友人であるやつだった。

 俺とは違っていつもニコニコ笑っていてよくモテる。

 

「じゃあ俺も一緒に行く。付き合うぜ」

 

「お前も? お前は弁当だったろう」

 

「いやすこーしお前に聞きたいことがあってさー、男水入らずで話そうや」

 

「聞きたいこと……まさかお前」

 

「ふっふっふ。聞いたぞ〜、お前昨日高町なのはと一緒に帰ってたらしいな〜」

 

「……」

 

「はは、黙ったな。不器用男め」

 

「残念ながらまったくもって存じ上げないことだなああまったく本当に心当たりがないじゃあ俺は購買に行くからお前はここで待ってろ教室にはちゃんと戻るからなああそうは信頼してくれて良い」

 

「てめー隠そうとするなっての。俺とお前の仲だ、大人しく吐いてもらおうか!」

 

「痛い。首を絞めるな、首を」

 

 降参降参と軽くタップするが腕の拘束は解かれない。

 こいつは俺の数少ない友人で、顔良し性格良しと欠点らしい欠点がないやつではあるのだが、どうにも耳ざとい。

 俺とは違って友人もそれなりにいるやつだからそっちの方向で自然と噂を聞くのかもしれない。

 

 というか、昨日高町と一緒に帰ってたの誰かに見られてたのか。

 

「別にわざわざ騒ぎ立てるほどのことでもないだろう」

 

「いやいや何言ってんだ!」

 

 大袈裟にやれやれと肩をすくめられた。

 

「あの高町なのはだぞ。あの」

 

「連呼しなくて良いから」

 

「ウチの学年でも特に有名で美人のアリサのグループの、超人気者。まあ純粋に告白された回数ではフェイト・テスタロッサには劣るって話だが……それでも超人気所だ」

 

「下世話な話に詳しい奴だな」

 

 告白の回数などどこで聞きつけてるんだ。

 

「だとしてもお前がそれほど気にすることではないだろう。高町さんの友人なんてそれこそ山ほどいるんだからな」

 

「いやいやいやお前の友人としてはお前の気持ちが実かどうかは気になるとこなわけだよ」

 

「俺の気持ち?」

 

「とぼけるのもそこまでにしとこうぜ。いくらお前が鉄面皮で普段何考えてるかわかんないとはいえ、俺ともなれば流石に、な?」

 

「……?」

 

「あ、これマジでわかってない顔だ。うっそだろ。

 まあいいや、そこら辺もじっくり話そう。確か屋上の鍵もらってたよな、そこで飯でも食おうぜ」

 

「そういうことのために預かってるわけではないんだが……」

 

 まあ作業の傍ら話すのなら悪くはないだろう。

 

 じゃあ行こうか。

 ええと、財布は確かカバンのどっかに……ん、なんか首が絞まって。

 

「ぐえ、おい、締まってる絞まってる、グエッ」

 

「おい、ほら、あれ」

 

 なんだそんな間抜けな顔で指差して。

 教室の後ろのドアの方に誰かいるのか。

 

「あのー、こ、こんにちはー……」

 

「あれ、なのはちゃん? どしたんこっちに来るなんて珍しいね」

 

「へ? あー、あははーそうかな……ここってそらー、空見……くんのクラスだよね」

 

「そ、空見くん? いるには、いるけど」

 

 高町なのはが、そこにいた。

 クラス全員の目線が一気にこっちに集まった。

 

「じゃあ呼んでもらったりとか……あ、いた」

 

 しかもおーい、と呑気に手を振られた。

 

「……おい、腕」

 

「あ、ワリ」

 

「昼は別だ。いいな」

 

「後で詳細は聞かせろよー?」

 

「考えとく」

 

 いつもの人当たりのいい笑顔で手をひらひらと振られて送り出されると、教室の前で待つ高町さんのもとへ。

 

 あーあー、クラスの奴らがめちゃくちゃ見ている。

 

「こんにちは、えとー、空見くんだよね? 昨日ぶりになるのかな」

 

「……なぜ俺のクラスに来てるんだ」

 

「だって昨日はほとんど話せないまま別れちゃったし、『私』としては君にはもう少しいろいろ聞きたいことがあるというか……」

 

 そこまで言うと、彼女は視界の端でちらちらとこちらを見ているクラスメイトたちに聞こえない声量を落とす。

 

「この世界、『私』の知ってるものと違いすぎて、私だけじゃどうにもできないんだ」

 

「だからって」

 

「それに、きみだって、『私』に聞きたいこと、あるんじゃないかな」

 

「……」

 

「おねがい、いま私が頼れるのはきみだけなんだ」

 

 ……これは俺の負けだな。

 

「わかった。少し話をしよう。ただし、人に聞かれない場所でだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「屋上、出れるんだね」

 

「本当は生徒には解放されてない。だが俺は所用で入れるんだ」

 

 錆びついたドアを半ば蹴り押すように開けて外に出る。

 人気もなければ、特にベンチなどもない面白みのないいつもの屋上。

 教室よりも空に近いせいか、吹く風の強さだけがほんのすこし、非日常。

 

 そして、その屋上の入り口の近くに並べられているプランター。

 ジョウロは……いつも通り蛇口の近くにあるな。水を入れて、と。

 

「花の水やり毎日してるの」

 

「俺は美化委員だからな。屋上にあるプランターの花の世話も俺の仕事になる」

 

「まだつぼみなんだ。むむ……これ、コスモス、かな?」

 

「……ほお、見ただけでわかるんだな」

 

「そういうきみは美化委員なのにわからないの?」

 

「他の人がやりたがらない仕事だから引き受けただけだ。

 この花も文化祭の時に並べるために育てるよう言われただけで俺が選んだわけじゃないしな」

 

「やりたがらない……屋上だから?」

 

「ああ。ウチの美化委員の人気のなさは筋金入りだ。持ち回る人員もいないから教頭先生に屋上の鍵を取りに来なくていいと預けられるようになった」

 

「それは、ちょっと大変そうだね」

 

「慣れればそうでもない。花が咲いた時のことを考えると楽しいしな」

 

「ど、どうしたの急に顔を歪めて。あの、私何かした……?」

 

「……気にするな」

 

 笑顔のつもりだったんだが……。

 

「というか、昼飯食べないのか。そこに持ってきてるの弁当だろう?」

 

「だってきみはまだ食べないんでしょう? 

 先になんて悪いよ」

 

「俺は気にしない」

 

「私が気になるってば。まだちゃんと自己紹介もしてないのに1人でむしゃむしゃご飯食べるなんて私のふぁーすと……いん……」

 

「ファーストインプレッション?」

 

「うんそれ、最悪だよ」

 

「俺としてはこれ以上ないほどもう印象深い出会いはしたけどな」

 

 まあいい。取り敢えず水やりは切り上げて隣に……いや少し離れたギリギリ日陰のところにでも腰掛けよう。

 

「いいの?」

 

「このままじゃどちらも座りが悪い。……飯でも食べつつ先に話すべきことを話してしまおう」

 

「うん。じゃあそれで」

 

 彼女は頷きつつ自分のお弁当に入っていた卵焼きを口に入れた。

 

「あ、美味しい。こっちのお母さんも料理は上手なんだなぁ」

 

 そういって表情を綻ばせる彼女の姿は俺の知る『高町なのは』のもの。

 だけど、違うんだ。

 

 そう、彼女自身が言ったのだから。

 

「……改めて教えてくれ、『きみ』は誰なんだ」

 

「私は……」

 

 花の笑みが、星の瞳へと変わる。

 彼女は動かしていた箸を置いて居住まいを正した。

 

「私は『高町なのは』。

 でも、この世界の高町なのはじゃない。この身体の持ち主の『高町なのは(わたし)』とは()()()()の高町なのはなの」

 

「別の、世界?」

 

 何言ってんだ? 

 

「む、何言ってんだこいつって思ってるでしょ」

 

「……わかるのか?」

 

「なんとなく、だけどね」

 

 ふうン。

 友だちやアリサにはわかりにくいわかりにくい言われるんだがな。

 お前の顔から感情読み取るなら九官鳥にンジャメナ語覚えさせるほうが楽だと言われた。なんだよンジャメナ語。

 

「あのね、『世界』っていうのは一つじゃないの」

 

 彼女が、高町なのはが俺を見る。

 瞳の中には、星の光が宿ってる。

 

「例えば私たちのいる地球のある世界。

 その横に何個も隣り合うように無数の世界があって、それぞれに人が暮らしてる。

 多次元世界理論って言うんだってユーノくん……私の先生とか、上司は言ってたかな」

 

「なるほど」

 

「そして、私はこことはまた別の『地球』で暮らしてた高町なのはだったの」

 

「別の地球か。……そんなに違うものか?」

 

「うん。正直、全然違う」

 

 おんなじ地球ならそんなに違いもないんじゃ無いだろうか。

 

「だってこの世界、()()()()()()()()()

 

「まどう……何?」

 

「魔導師。魔法の『魔』に『導』くに師匠の『師』で魔導師。わかりやすくいうと魔法使い、かな」

 

「高町さんが、魔法使い……?」

 

「元の世界の私はね」

 

 箒を使って空を飛んだり、呪文を唱えてシンデレラを助けたりする、アレ?

 

「ていうか、私だけじゃなくてフェイトちゃんもはやてちゃんもそうなんだけどね」

 

「テスタロッサさんと八神さんも? じゃあもしかしてアリサや月村さんもそうなのか?」

 

「あ、いやその二人は違うよ。魔法の才能があるのは私たちだけだったから」

 

「そうなのか。小学一年生の頃からの仲良し5人組だって話だからついそうだと思ったが、割とシビアなんだな、魔法」

 

「そうそう生まれつき魔力量とかも決まってて……って待って、私たち5人が一年生の頃からの付き合い?」

 

 何を当たり前のことにびっくりしてるんだろう。

 アリサを中心としたきみたち5人はずっと同じ学校同じクラスで有名だったはずだ。

 

「うわー、魔導師のことに気を取られてそこら辺の確認が頭から抜けちゃってたなー。……ねえ一応聞くけど私の家って、翠屋、やってるよね?」

 

「うん? そうだが」

 

「あ、だよね、良かった。そこは同じなんだ。ちょっと安心しちゃった」

 

「そうかきみの元いた世界でも翠屋はあるんだな。テスタロッサさんの実家のホビーショップT&Hにケーキ出してるくらい有名店だもんな」

 

「とか言ってたら知らない単語が出てきた! え? フェイトちゃんの家こっちだとおもちゃ屋さんなの?」

 

「ああ。お母さんとお姉さんで仲良くやってると聞いている」

 

「……じゃあ、この学校の名前ももしかして」

 

「? 『()()大学附属中学』だが?」

 

「やっぱり、聖祥附属じゃない……。

 うわー、色々違うなーとは思ってたけどこんな地味なところも違うんだー……」

 

「違うって、じゃあ高町さんじゃない高町さんのいた世界はどんなところだったんだ」

 

「どんな世界ってそれは……」

 

 突然黙り込んでしまった。

 瞳の中の光がゆらゆら振り子のように揺れている。

 

「どうかしたのか?」

 

「いや、その……()()()()()()()

 

「思い出せない?」

 

 それは、少し変じゃないか? 

 さっきまで目の前の彼女は自分と『高町なのは』の違いを指摘していた。

 それに自分は別の世界の高町なのはだ、とも。

 

「いや、なんというか『私の世界』の知識はちゃんとある。魔法のことも。でも、肝心の私の記憶の部分が曖昧なの」

 

 具体的にはどんなことなのか、と聞いたら、彼女はポツポツと語り始める。

 

 自分が時空管理局という組織に所属する魔導師であること。

 そこにはフェイト・テスタロッサや八神はやても一緒にいたこと。

 そのほか魔法の使い方、魔法世界の危険物であるロストロギアとかいうもののことや、元の世界で親しかった人々のこと。

 

 でも、そう言った物事から自分のことへと繋げようとした途端に靄がかかったようになるのだという。

 

 自分が何歳かわからない。

 フェイトたちと仲良くなったきっかけが思い出せない。

 意識がこちらに来る前に何をしてたか思い出せない。

 家族と最後なんと会話したか覚えてない。

 

 彼女が頭を押さえつつ目を伏せる。

 

「もしかしたら、こっちの世界の私と記憶が混ざってるのかも」

 

「混ざってる?」

 

「こっちの世界は私の知ってる世界と違う。

 けど全然違うわけじゃなくて、住んでる人はすごく似てるのに、細かいところが少しずつ変わってる。

 それは『高町なのは(わたし)』も同じで、だからこそ、私の記憶がうまく引き出しきれてない……のかも」

 

 ええと、つまり。

 

「二人同時に筆箱の中身をぶちまけたからどれが自分の持ち物か分からなくなってる、というようなことか?」

 

「たぶん、それが近い、と思う」

 

「じゃあ、だ」

 

 なんとなくズボンの裾を握りしめて、すぐ隣にいる彼女から目線を外す。

 顔を直接聞くには、あまりにも勇気が足りなかった。

 

「俺の知ってる高町さんは、いまどうなってるんだ」

 

 なんだって屋上ってのはこんな汚れてるんだろう。

 人も来ないから汚れる理由なんてなさそうなのに、雨か、雨が悪いのか。

 ああクソ汚れが気になって、落ち着かないじゃないか。

 

 高町さんがどうなってるかの話を、続けなきゃいけないのに。

 

「……わからない。でも、たぶん眠ってる」

 

 ぽつぽつと慎重に散らばった記憶を拾い集めるように言葉が続く。

 

「この世界の私と『私』の記憶は混ざってはいるけど、意識は違う。感覚的にずっと私はこれが自分の体じゃないと感じてる。

 それは私の意識だけがこの身体に入り込んだって言う事実があるから。だと思う」

 

「そもそも、だ。別の世界の意識が入り込むことなんであるのか? 俺には想像もできないことなんだが」

 

「普通はない、かな。

 でもロストロギアや、高位の魔法ならそういう記憶の転写に近いことができてもおかしくはないと思う」

 

「ロストロギア?」

 

「簡単に言うとすごく不思議な力があるアイテムだよ。魔法でもできないことを叶える力があったりするけど、それと同時にすごく危険なもの」

 

「う、む……?」

 

「さっき話した時空管理局はこうしたロストロギア被害を未然に防ぐことを目的にもしてるの。それぞれでその能力も変わるものだけど、危険物なのには変わらないしね。時折管理外世界に流れたりするものもあるからそこら辺も含めてすごく気を使うんだ」

 

「…………??」

 

「流石に一気に話しすぎたかな。あはは、ごめんね」

 

「こちらこそすまない。昨日から少し色々あったせいで混乱してるんだ」

 

 違う世界を受け入れるのも四苦八苦してるのにジクーカンリキョクだとかロストロギアだとかカンリガイセカイとか言われるとチンプンカンプンだ。

 こんなこと警察や先生に話してもバカにするなと笑われてしまうだろう。

 

 気を紛らわすためにサンドイッチを一口。

 すると、横でも同じように高町さんじゃない高町さんは弁当をぱくついてる。脇に置かれたのはカフェオレのボトル。

 

「カフェオレ、好きなのか?」

 

「んー、嫌いではない、かな。なんとなく選んじゃったけど」

 

「そうか」

 

「……」

 

「───」

 

「え、それだけ?」

 

「あ、ああ、すまん。昨日高町さんとカフェオレのことを話したからつい聞いてしまった」

 

「そうだったんだ。もう一人の私と……。

 ってあれ、そう言えばなんでもう一人の私ときみがあそこで倒れてたのか知らないかも。聞いてもいい?」

 

「構わないが、俺もよくわかってないぞ」

 

 成り行きで高町さんと一緒に帰ることになった。

 二人でジュースを飲みながら公園で中身のない雑談をして。

 最後に高町なのはが自己紹介しようと手を伸ばしてくれて、そして。

 

「突然空からモンスターが降ってきた」

 

「モンスター?」

 

「ああ。真っ黒の……夏の日の足元にいるような影を固めたようなやつだった。そいつが高町さんを襲ってきた」

 

「私……じゃない方の高町さんか」

 

「だな。まだこの時は俺の知ってる高町さんだったな。

 それで、俺たちはあいつに吹き飛ばされて、高町さんは気を失ってしまった」

 

「じゃあ考えられるのはそのモンスターが私を呼んだって可能性だけど……うーん」

 

「心当たりはないだろうか」

 

「それだけだとなんとも……。他にその黒いやつで覚えてることとかないかな」

 

「他にか」

 

 なにか、他に覚えていること。

 確か空から落ちてくる時は星のように思った。言葉はなんだか話していたようないなかったような……そこらへんの記憶は少し曖昧なんだ。あとは口から何かすごい光線のようなものを出していた。

 ううん、あと覚えてることなんて……あ。

 

「そういえばなんかあいつが消えた時中から石が出てきた」

 

「石?」

 

「うん。不思議な透明感があって、正確には宝石の方が近いのかもしれない。面白いことに中に数字が書いてあってな」

 

「へえ〜、面白いね。中に数字のある宝石、なん、て……」

 

 ん? なんか突然黙り込んで震え始めた。

 

「それってどう考えても……いや、でもほとんどは管理局の保管庫に……ああだめ記憶がハッキリしない……あれ、というかアレって超危険なロストロギア……」

 

「あのー、どうかし──」

 

「ねえ! その落ちてたって石今どこにある?! それすごく危険なやつかもしれないの!」

 

「え、確か昨日拾ってとりあえず制服のポケットに入れたからたぶん今も……あ、ほらあった」

 

「やっぱりジュエルシード! じゃあ、落ちてきたって言うのはジュエルシードモンスター……!」

 

宝石の種(ジュエルシード)? ずいぶん可愛い名前だなあ。これ本当に危険なのか?」

 

「わ、わあああっ! 雑に扱わないで! 本当に危険だから!」

 

 危険と言われても、ただの宝石に見えるけど。

 こんな小さいやつのどこが危険だと言うのだろう。削って舐めたりしたら毒性があったりするのだろうか。

 

「それ一つでこの世界が滅びるくらいのエネルギーあるから!」

 

 え。

 

「ええええええっ?!」

 

「わ、わあああっ、落としかけてる落としかけてる! ちゃんと持って! ちゃんと! 危ないから!」

 

「そ、そうだな……し、慎重に持っとかなきゃな……」

 

「震えてる震えてる」

 

 いや世界を滅ぼしかねない宝石をいきなり持たされたら誰でも震えるだろう。

 なんて恐ろしい石なんだ、これ。

 

「中からジュエルシードが出てきたってことはその影みたいなのはジュエルシードモンスター? なら……」

 

 恐る恐る俺と彼女の間にジュエルシードを置くと、彼女はそれを見てまた少しだけ考え込む。

 

「ジュエルシードを倒すには『魔法』の力が必要なんだけど……ねえ、どうやって倒したの?」

 

 倒した。どうやって。

 言われて自分の手を見つめる。昨日、俺を助けてくれた手。

 

「俺の手から、よくわからない光が出た」

 

「光」

 

「なんであんなことが起きたかはよくわからないし、というかまたやろうとしても同じことはできそうにないというか」

 

 どうしたんだろう、なんかじっと見られている。

 手……じゃないな。俺の胸あたりを見ているのか? 

 

「ねえ、もしかしてその光が出た時って、こー、なんか身体に変な感じがなかった?」

 

「変な感じ」

 

「うん。例えば、胸の奥の方が、すごく熱くなったりとか」

 

「胸の奥」

 

 言われてみればあの時は何故か無性に胸の奥が熱かったような気がする。

 俺に戦うための勇気が出たからだと勝手に思ってたが……。

 

「俺のあの胸の熱さに何か理由があるのか?」

 

「うん。きみはね、『リンカーコア』を持ってるんだと思う」

 

「リンガーコア? ちゃんぽんでも食べるのか?」

 

「うん、それはリンガーハットだね。リンカーコアだよ。俗に言う『魔導師の心臓』」

 

 彼女はそう言いつつ、離れた場所に座る俺の方へと手を伸ばしてとんとん、と人差し指で胸をついてくる。

 

「ここあたりにある器官で魔法使うために必要なエネルギー……魔力を作る器官なの。使える魔法とかはこのリンカーコアの適正で決まることが多くて、魔力を蓄えられる性能も人によって違うんだ。きみがそのモンスターを倒した時ってどんなのが出た?」

 

「光線、に近かったと記憶している」

 

「てことは、射撃……ううん、砲撃に適性があるタイプなのかな。そっか、この世界にもリンカーコアを持ってる人がいたんだ」

 

「珍しいのか?」

 

「うん。地球だとかなりね」

 

 と言われてもピンとは来ない。

 なにせそのリンカーコアとやらは昨日からうんともすんとも言わないし、そもそもいきなりあなたは魔法使いになれます、なんて言われてもどうしていいかわからないのは普通だろう。

 

 しかし、魔法か。どんなのがあるんだろう。

 ドラえもんのひみつ道具みたいなことができたりするのだろうか。

 ああ、ご飯なんかを無から作り出せたりしたら素敵だな。

 

「なあ、魔法って──」

 

 話しかけようとして、固まる。

 

 いま高町なのはは俺の胸をつつくために膝をついて半ば半身を倒すように手を伸ばしていた。

 そうすると、こう……角度的に、制服の胸元が、見えてしまうわけで。

 日に当たらないから他より白い肌が艶かしいとか、なんだか柔らかそうとか、思ってしまうわけで。

 

 ──いいか、空見。

 ──バニングスたち五人の中でスタイルがいいのは月村やテスタロッサと言われるが……高町も相当なモノを持っているんだぜ。

 ──お前もいつかわかるだろう……。

 

 なんか人当たりのいい笑顔と共にめちゃくちゃ下世話な話がリフレインしてきた。

 あ、なんか制服の下に青い布地が見え──。

 

「ふんっ!!」

 

「え、えええっ?! と、突然自分の顔を殴りつけてどうしたの?!」

 

「何もない。あと高町さんじゃない高町さん胸元のリボンが少し緩んでいるから結び直したらいいと思う」

 

「あ、ほんとだ。ありがとう」

 

「ああ。ごめんなさい。俺は最低だ。今後は求愛アブラゼミ野郎と呼んでくれ」

 

「この一瞬できみになにが起きたの?!」

 

 しばらく彼女は俺を不審がっていたが、気にしないでくれと言うと渋々納得してくれた。

 すみません。本当にすみません。もう二度と性欲に囚われたりしません。

 

「でも、ジュエルシードかぁ。なら私がここに連れてこられた原因も少しわかってきたかも」

 

「! 本当か?」

 

 うん、と彼女が頷き、こちらに目線を流した。

 

「ジュエルシードって、どんな力があるアイテムか、わかる?」

 

「力? 世界を滅ぼすっていうのじゃないのか」

 

「それはあくまでも副産物。世界の崩壊はジュエルシードに込められてるすごーくたくさんのエネルギーが暴走した時に起こる影響の一つであって、その能力ではないんだよ」

 

「ふむ」

 

 世界を滅ぼすとか軽く言われても正直実感がないのが正直な感想なんだが、魔法がある世界らしいしな。そんなアイテムがあっても不思議じゃないのかもしれない。

 

 じゃあ、そのエネルギーで何をするのかと聞かれると。

 

「さっぱりだ。俺にはスケールが大きすぎて想像もつかない」

 

 手を挙げて、ため息をつくしかなくなる。

 彼女は苦く笑いつつ、まあそうだよねとこぼす。

 

「正解は『持ち主の願いをなんでも叶える』」

 

「え、そんなの夢のアイテムじゃないか。じゃあ今俺がこの石っころに願えば目の前に山ほどのいちごのショートケーキが出てきたりするのか?」

 

「願い事かわいいね……」

 

「でも美味しいだろう、ショートケーキ」

 

「美味しいけどさー。でも残念だけどきみのそのお願いは叶わないかもね」

 

「どうしてだ? 願いを叶える石なんだろう?」

 

「ただし、持ち主の願いを歪んだ形で、ね」

 

「歪んだ形?」

 

 彼女が頷いて、俺と自分との間に置かれたジュエルシードをつんつんと触る。

 

「ジュエルシードは『歪んだ願望器』なの。

 例えば早く大きくなりたいーって思ったら、ジュエルシードはその願いを持った人を10mくらい物理的に巨大にしちゃうし、他にも恋人同士の一緒にいたいって気持ちを曲解して二人を木の中に閉じ込めたり?」

 

「びっくりするほどクソアイテムだな」

 

「手のひら返し早いね。でも同意」

 

 世界を滅ぼすエネルギーがあるくせにやることが願いを歪んで叶えるって……製作者はどんなつもりで作ったんだ。

 

「待て、ということはだ」

 

 ふと、気づく。

 この俺の拾ったこの宝石。これもジュエルシードだという。なら歪んだ形で願いを叶える力があるということで。

 

 それは、つまり。

 

「もしかして、ジュエルシードは俺の願いを、叶えたのか?」

 

 隣にいる彼女は、何も言わない。

 ただ、間を持たせるように弁当箱に手を伸ばした。だがすぐに中身がないことに気づくと蓋を閉じ、サイドポニーの髪先をくるくると指で弄ぶ。

 

「この石を、ジュエルシードを拾ったのは俺で、ずっと持ってたのも俺だ」

 

 俺はあの時目を開かない高町さんを見て、思わず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その願いが曲解されて、俺の知る『高町なのは』の代わりに、目の前の彼女が呼び出されたのだとしたら。

 

「高町さんが目覚めてないのも、きみがこの世界に呼び出されたのも全部俺が──」

 

「違うよ」

 

 ぱちん、と頬を手で挟まれた。

 俺よりも小さな二つの手に無理矢理視線を動かされる。

 

 星の瞳が、俺を見つめてた。

 

「そうじゃないよ。きみは悪くない。悪いのはジュエルシード。そうでしょ?」

 

「でも、ジュエルシードが本当にそういう力を持ってるなら俺が、俺なんかが……」

 

「そうじゃないよ。そもそもこっちの世界の私はきみが戦わなきゃ大変なことになってただろうし、呼び出された私もきみのことは恨んでないの」

 

「でも……」

 

「えい。余計なことばっか言っちゃうならこうだ」

 

「もにゃ」

 

 頬を挟む力が強くなった。むんにゅりと俺の顔が歪み上手く喋れなくなる。

 

「ぷっ、へんなかお」

 

「……ひどいな。きみのせいじゃないか」

 

「でも、すごくつらそうに謝ってるよりは、いい顔だと思うよ」

 

 ……。

 ああ、本当に彼女はなんで的確に俺の気持ちを当ててくるんだろう。

 友だちに何度わかりにくいって言われたかわからないのに。

 

 これは目の前にいる『高町なのは』だからなのか、それとも、俺の知ってる高町さんも、同じように人の感情に聡かったんだろうか。

 

「きみはただこっちの世界の私を助けたかっただけ。

 だから、これ以上自分を責めないで欲しい。助けようとしなければよかったなんて思わないで欲しい」

 

 彼女はにっこりと笑って、目を細める。

 どこかそれは昨日俺に向けられていた春の花と似ている気がした。

 

「だって、誰かを大切に思う気持ちが間違いなはずがないんだから」

 

 ああくそ、なんだこれ。

 彼女の励ましの言葉が胸に刺さる。

 俺の行動が間違いじゃないって言ってもらえることが、嬉しい。

 

 顔を挟んでいた手が解かれても、目の前の笑顔から目が離せない。

 

 だから、つい熱に浮かされるように、ずっと気になってた言葉がこぼれてしまう。

 

「……その、戻るだろうか。俺の知る高町さんの意識は」

 

 言ってしまってから後悔した。

 それくらいわかりやすく彼女の表情が陰ったから。

 

「……ごめん、それはわからない。だって、『私』がいるから」

 

 彼女は自分の胸に手を置いて、ほんの少しだけ口角を上げて笑みを作って見せた。

 

「この世界の『私』が目覚めなかったのはきっと体にダメージがあったから。

 でも今この身体に怪我はないのに、意識は目覚めようとしてない。それはたぶん、私がいるから。

 身体という器に、別の中身が入ってるから。

 きっと肉体に入る意識は一つだけなんだ。

 だから、私がいる限り、あの子の意識は戻らないかもしれない」

 

 「それか、もしかしたら」と、彼女が言葉をつなぐ。

 

「あの子が目覚めたら、私は消える、のかも」

 

 ああ、なんでだ。

 

「あはは、そんな深刻な顔しないでよ。私は魔法使いだからね。こういうピンチも初めてじゃないから。

 ほら、案外この体の私の意識が戻ったら私も自動的に帰れたりするのかもしれないし。む、言ってたらなんかそうじゃないかなーって気がし始めちゃったな」

 

 なんで、そんな顔をするんだよ。

 

「だから、気にしないで」

 

 なんでそんな辛そうなのに笑ってるんだよ。

 手はずっとスカートを握りしめてるし、今のことを話す時もたびたび唇を噛んでた言葉を絞り出していた。

 

 不安なはずだ。怖いはずだ。弱音だって吐きたいはずだ。

 

 でも、ずっと笑顔なんだ。ずっと、笑顔のままなんだ。

 

 ……ああ、わかる。きっと彼女もすごく『いい人』。

 俺の知ってる高町さんは学校きってのお人好しだった。

 困ってる人を見捨てられず、そのやさしさで多くの人を助け、助けた以上の人に好かれてる、そういう根っからの善人。

 

 そして、それは彼女もそう。

 

 彼女も世界は違っても『高町なのは』なんだ。

 

 目の前にいる俺に迷惑をかけないように、俺が必要以上に重荷を背負わないように、笑ってる。

 

 

 そんなの、そんなの、ないだろ。

 

 

「バカなことを言うな」

 

「え?」

 

「きみが俺にそう言ってくれたように、きみだって、何も悪くないだろう」

 

 じっと彼女を見つめる。今度は目を伏せず、最後まで言うべきことを言う。

 

「きみは巻き込まれたんだ。消えていいわけはない。犠牲になっていいわけもない。きみにも、いるべき世界があるんだから」

 

「──」

 

「帰る方法を探すんだ。来れたなら、同じように帰れるはずだ」

 

 一瞬、彼女の目が丸くなった。

 だがそれも束の間のこと、すぐに目尻が下がりほにゃりと笑んだ。

 

「私、きみの知ってる『高町なのは』じゃないんだよ」

 

「関係ない。きみだって『高町なのは』だろう」

 

 この世界の彼女とは同じじゃないのはわかってる。

 でも、こうして面と向かって話して、俺を励ましてくれた彼女はもう俺にとってもう一人の『高町なのは』だ。

 

「……ありがとう」

 

「? まだ俺は何もしてないが」

 

「それでも。今言いたくなったの」

 

 彼女はこほん、と小さく咳払い。

 スカートを押さえつつ立ち上がると、まだ座ったままの俺を見下ろした。

 

「それでー? きみは具体的にはどうやって私を返してくれるつもりなのかな?」

 

「……」

 

「あ、そこは考えてないんだ……」

 

 ジュエルシードを使えば……いやナシだな。歪んだ方法でしか願いを叶えられないなら彼女がちゃんと帰れるかもわからないし。

 いやもしかしたら歪み方の法則とかがわかればちゃんと返してくれるんだろうか。

 

 もしくは魔法か? 

 高町さんの体では魔法は使えないらしいが、俺にはリン…….なんとかがあるらしいし、俺なら彼女を元の世界に返せる魔法を使えたりしないだろうか。

 

 どちらにしよ、俺一人ではどうにもできないことだ。

 

「俺はきみに手を貸す。きみが、無事に元の世界に帰れるように」

 

「……それは、もう一人の『私』にまた会いたいから?」

 

「…………」

 

「あはは、表情は変わらないけどわかりやすいね。やっぱり」

 

 声を出して笑う彼女の背中の向こうで、一本の飛行機雲が伸びていく。

 どこまでも高い空を背にしても、星の瞳の少女の笑みは、色褪せない。

 

「そういえば、まだ自己紹介ちゃんとしてなかったね、私たち」

 

「そういえば……」

 

 昨日も今日も互いの話ばかりで名前は教えてなかった。

 いや彼女の名前は知っているんだが、俺の名前はまだ教えていない。

 

「私、高町なのは。時空管理局の高町なのはです。きみの知ってる私ではないけど、よろしくね」

 

「俺は……空見──」

 

 

 ──きみのなまえ、教えてほしいって言ったら、おしえてくれる? 

 

 

 ーーー。

 

「おーい、どうかした?」

 

 うわっ、顔覗き込まれてる。しまった、不自然に黙り込んでたみたいだ。

 

「いや、実は俺高町さん……あ、こっちの世界の高町さん、の方と自己紹介してる途中で、名前伝えられてなかったなと思い出して。

 大したことじゃないんだが……あの、なんでじっと俺を見てるんだ」

 

「ううん、なーんでも」

 

 俺に背を向けた彼女が、ふるふると首を振る。

 

「ただ、きみのことは空見くんって呼ぶことにしようかなって」

 

「え、名前は……」

 

「私には教えなくていいよ。

 本当に大事な自己紹介は、また会えた『私』のために取っておいてあげて」

 

 ……この人は本当に聡いな。この人の前で隠し事はできなさそうだ。

 

「そうなると名前呼びもやめておいた方がいいよね。うん、『私』が大切なはじめてを取っちゃうのなんかアレだし」

 

 よし、と彼女が大きく頷いた。

 

「じゃあこれから私のことは『なのはさん』って呼んで」

 

「構わないが……さん?」

 

「だって空見くんなんとなく年下っぽいし」

 

「いや俺たちは一応同い年なんだが……」

 

「それはもう一人の私でしょう? 私、管理局教導隊所属だよ? 世界のために働いてた魔導師だよ?」

 

「いやそう言われても俺にはよくわからないんだが……」

 

 しかし、働いてたのなら確かに俺よりは年上なんだろう。

 イマイチ釈然としないが。

 

「じゃあ、わかった。なのはさんで」

 

「うんうん、それでよしっ。あ、せっかくだし敬語とか使っちゃう?」

 

「……使えと言うのなら、使うが」

 

「ふふ、じょーだんです。普通に話してよ、これから一緒にいろいろすることになるんだし」

 

 彼女……なのはさんが、こちらに手を差し出す。

 

「改めて、よろしくね。空見くん」

 

「ああ、よろしくなのはさん」

 

 すらりとした、白魚のような手だった。

 あの日、助けようとして届かなかった手だった。

 

 その手を握り返そうとして、気づく。

 

「……ん?」

 

 なんか屋上の扉ちょっぴり開いてないか? 

 おかしいなこのあたりには美化委員の俺しか来ないはずなんだけど。

 

 なんとなく、声が聞こえるような。

 

 

「うーん、よく聞こえへんなぁ」

「ちょすずか押すのやめなさいよ。胸が顔に当たってるのよ。ほんとあんた胸大きいわね」

「も、もうそう言うことは言わないでよっ。それに私も別に押したくないけどフェイトちゃんが……」

「きゃー、なのはが男の子と二人でいる……わー、そういうことなのかな……」

 

 

 ……ふむ。

 

「えいや」

 

「え、扉が開いて──わっ」

 

「ふにゃっ」

 

「きゃっ」

 

「うわあっ」

 

 扉を開けると、ギリギリまで体重をかけていたらしき野次馬たちがごろごろと屋上に出てきた。

 金髪二人に紫髪に茶髪が一人ずつの四人組。

 

 うん。言うまでもなく、アリサ・バニングスと月村すずか、八神はやて、フェイト・テスタロッサの四人だなこれ。

 

「えと、何してるのみんな」

 

 なのはさんが顔を引きつらせつつ問いかける。

 すると、四人の中で一番上に乗っかってたテスタロッサさんが顔を赤らめつつ興奮したようになのはさんに詰め寄った。

 

「あ、あのC組の子がなのはが男の子とご飯食べに行ったって言ってて、わー、もしかして告白かなーとか思っちゃって、その……」

 

「しかも相手がコイツだっていうじゃない。そりゃ、ねえ?」

 

「や、私は止めたんやけどな。いや〜フェイトちゃんがどーしてもって聞かへんくてなぁ〜」

 

「でも最初に野次馬しに行こうって言ったのははやてちゃんだったけどね」

 

「あ、すずかちゃんそれ内緒やって」

 

「もー、ちょっと知り合いと会うだけって言ったのに……」

 

 なんというか、わちゃわちゃしてる。

 こうして近くでこの五人が一緒にいるのを見るのは初めてだが、思ったよりも子どもっぽいし、それにかなり仲が良さそうだ。

 

 ……まあ、一人違う世界の人が混ざってるが。

 

 そうこうしていると予鈴の音が聞こえてくる。

 どうやら昼休みはもう終わるらしかった。

 

「残念。そろそろ教室に戻らなきゃいけないわね。すずかー、そこでホワホワしてるフェイトに声かけてー」

 

「フェイトちゃんほら、帰ろう?」

 

「くん呼びしてる……ねえはやてやっぱりそういうことなのかなぁ……こ、こくはく、とかっ」

 

「ふっふっふ、さあなぁ。どうやろなぁ」

 

「もー、そういうんじゃないってば」

 

 赤い顔でしきりに問い詰めてくるテスタロッサさんをなだめつつ、なのはさんがこちらを見る。

 

「また、空見くん」

 

「……ああ、また」

 

 小さく手を振る彼女に頷いて返す。

 

 ……む、アリサも手を振っている。こちらにも頷いておこう。

 

 遠ざかっていく話し声を聞きつつ、脇に置いてあったジュエルシードを手に取った。

 

 そして、透明感のある宝石を太陽と重ね、目を細める。

 

「……なんで、名前を教えられなかったんだろう」

 

 高町さんにも、なのはさんにも。

 

 俺の中で答えが出る日は、夏の雲のように遠そうだ。

 

 見上げた青いキャンバスには、まだ長い飛行機雲の跡が残っていた。

 




 

・ジュエルシード
願いを歪んだ形で叶えるロストロギア。
全部で21個あるが原作一期でそのうち9個はフェイトの母、プレシア・テスタロッサと虚数空間に消えた。
残りは全て管理局が保管中。
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