「ホント、一時はどうなるかと思ったが……何事もないようでよかった」
「ありがとう。かなり激しかったが、ミウラの方は大丈夫なのか?」
「まあな。ガッツリ飯を食って休めば明日にゃもう全快だ。……お前んとこも、家に帰ったらうまい飯と甘いものでも食わせてやれよ」
「そうさせてもらうさ。……本当によく頑張った」
ウチのミウラとヴィヴィオの試合は辛うじてミウラが勝った。あんまり激しかったんでヴィヴィオが一時意識不明になっちまったが、それももう無事に起きた。これならもう大丈夫だろう。
隣であからさまに安堵している奴の顔を見る。こいつとの付き合いも、飛び飛びではあったがそれなりになる。一年戦争で殺し合って以来だが、なんやかんやで今は仲間だ。
……一年戦争の時はシグナムを殺されて、その後あたし自身もこいつに殺された。あんまし覚えてないけど、たぶんその時の主もこいつに殺られたと思う。
坊やなだけで別に悪人じゃなかったが、一族の方は本当にロクな奴らじゃなかったのはなんとか覚えてる。
「聖王連合の白いヤツ」……あの赤い彗星が取り逃したってんでどんな凄腕かと思ったが、蓋を開けてみりゃガキもガキ。度胸が一丁前だったんでシグナムに気に入られたが、そうでなきゃあたしがドタマかち割ってたかもな。
「ところでお前、ヴィヴィオに何仕込んでんだよ。完成度は全然だったがあの戦い方、お前の影がチラついてたぞ」
「悪いが、俺は何もしてないぞ。あれはヴィヴィオの才能だ」
「嘘だろ?あの情け無用の天パ殺法はお前以外に仕込める奴なんぞいねーだろ?……まあ、確かに完全再現されてたらミウラじゃ勝てなかったろうな」
まあ、見たとこ完成度は一割未満っぽいし、気付いたヤツの方が少なそうだけどな。
「俺についてどう思ってるのかあとで小一時間話し合いたいところだが……本当に何もしていない。教えたのはせいぜい、『目』の使い方ぐらいさ」
「マジかよ。そんなとこまで親父に似なくていいだろ。……それとも、ニュータイプって連中はだいたいそうなりがちなのか?」
ジト目で目の前の奴を見つめる。あたしの目を誤魔化せると思うなよ。イマイチ歯車が噛み合わないヴィヴィオの動き、そのくせ動きのひとつひとつがミウラの挙動に敏感に反応していたよな。アムロならあそこで攻撃を置いてるだろうし、見た感じ成ってから時間は殆ど経ってない。
そういう意味ではミウラは助けられたな。最後に決着をつけたのは二人の身体的資質の差だったが、逆に言えばそこ以外でミウラが勝ってたところは殆ど無い。最初から最後まで押されまくってたのが最後の一瞬で全部ひっくり返しての勝ち。昔を思い出して興奮しちまったよ。一年戦争でお前にやられたことをあたし達の弟子がお前の娘にやり返したんだ、最高の気分だぜ。
「……気付いてたのか。ああそうだ、兆候もあった。アインハルトと試合をした時からそんな感じがした。だからこそ、経過はよく見ていたんだが……まさか、ああも急激なスピードで進むとは思っていなかった。俺の見立てが甘すぎたんだ」
「その結果、デバイスがあいつの反応速度に着いていけなくなった……」
しっかしホント、信じられねえ話だよ。人間の反応速度がデバイスの処理能力を超えちまうなんてよ。けど、現実にそれが起こってる上にこいつも経験者だってんだから納得するしかねえ。
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あたしがあいつに初めて会ったのは一年戦争の時だ。
そん時の主は一族の中でもまだまだケツの青い坊やなのを気にしてか、「あの」赤い彗星が仕損じた白いヤツを仕留めることにご執心だった……気がする。
「シャアは私の顔を立てて奴を仕留める機会を整えてくれたのさ。なら、成し遂げなければ男ではないよ」
はっきり言って、知ったコトじゃなかった。
正直、あの戦争には心底うんざりしていた。あたし達の誇りをあの戦争は奪っていった。騎士甲冑を工業製品化したモビルスーツ、そして持ち出された禁忌兵器。ジオンの名は悪名として轟き、属する者に軽蔑の目が向けられることもあった。それでも、騎士として主に尽くそうとした。
白いヤツを討伐する部隊の休憩のために入った酒場。荒んだ心が、目の前のガキに苛立ちを覚えさせた。
ガキがたった一人でカチカチのパンを水でふやけさせて食っている。それを見たシグナムが戯れに奢ろうとした時、そのガキはこう言った。
「もらえません。僕、乞食じゃありませんから」
そりゃもう一発でブチギレたよな。
「あんだとぉ……てめえ誰に向かって口利いてんだ!?あぁ!?」
「やめろヴィータ。……しかし随分と真っ直ぐに物を言う。その勇気、時に無謀とも取られかねんが?」
「……本当のことを言って、何が悪いんですか」
「ふふ……ははははは!気に入ったぞ少年。私はシグナム。今はジオンの騎士だ。名はなんと言う?」
「アムロです。……アムロ・レイ」
「そうか、アムロと言うのか。……いい目をした小僧だ。おまけに度胸もある。ますます気に入ったぞ」
今まで見たことないくらいに上機嫌になったシグナム。
その視線が鋭くなった時、捲った外套の中から出てきたのは一丁の拳銃。
「オイオイオイオイこいつ始末しちまっていいよな?こんなモン隠してやがってさあ!」
「そう熱り立つなヴィータ。離してやれ」
「んな悠長言ってる場合かよ!銃まで持ってやがって、どーせ連合の兵なんだろうが!」
「だとしても撃てるものではない、この状況ではな。私一人を殺した所で、囲まれてはどうにもなるまい。それにここの店主にも迷惑がかかる。ここで騒ぎを起こすのはやめておけ」
「……チッ!おいガキ、シグナムの情けに感謝しろよな。……さっさと行け!」
あの時は、その判断を死ぬほど後悔した。
シグナムは還ってこなかった。あたしたち守護騎士に本当の意味で「死」は訪れない。それでも守護騎士が一度死ねば、しばらくは闇の書からは出てこれなくなる。守護騎士に欠けが生まれるなんざ、闇の書の歴史の中で見てもまずあり得ないことだった。
「てめぇ、シグナムを殺った分の借りは利子つけて返してやるよッ!」
「僕だって、殺したくて殺したんじゃないッ!」
「臓物ごとぺしゃんこになりやがれぇッ!」
「やられる!?うわあああっ!」
情けない声とは裏腹に、戦い方は我流なりに洗練されていた。上回られたのはほんの一瞬の反応の差。あたしの鉄槌を紙一重で避けると同時に、両腕をビームサーベルで切り裂く神業。鉄球の使い方、追い詰め方、そしてフィニッシュに至るまであたしは奴を上回り続けていた。なのにその一瞬で、あたしは敗北した。
「……あーあ。これであたしも終わりか。案外あっけねーや」
「おいおい何泣いてんだよ。敵なんだから、さっさとぶっ殺せばいいだけだろ?お前にはその義務があんだよ」
「別にいいだろ?もともとこんなクソみたいな戦争、あたしはやる気なかったんだ。けど、主がやる気だからあたしら騎士もそれに従った。それだけの話だ」
「シグナムのことはお前が気に病むことはねーよ。どうせあたしらは本当の意味で死にゃしねーんだ。生きてたらいつかまた会おうぜ」
最期は今までになく穏やかな気分だった。シグナムを殺られた怒りは忘れていた。そこにあったのは絶技への感嘆と、勝者への賞賛。そしてこの戦争から抜けられることへの安堵だった。その後のことはあたしも知らない。ただ、転生のたびにその噂は聞こえてくる。
曰く、白き流星。曰く、白い悪魔。
結局あいつがいなくなるまで会うことはなかったが、その強さだけはよく耳にした。その度にシグナムが嬉しそうだったのは微かに覚えてる。
だからこそ、現代で会った時は驚きもしたし、落胆もした。
はやてにサプライズ紹介された時は本気で目ん玉ひん剥いたし、あっちもあたしのこと覚えてたんで叫ぶのを我慢するんで精一杯。かと思ったら初めは殺した負い目で避けられてたし、よく分からん理由で腑抜けてるしでなんかもう色々めんどくせえって気持ちでいっぱいだった。
「言っとくが、あたしを殺したことに負い目を持つのは筋違いだかんな。あたしはあの結果に納得した。納得したから死を受け入れた。カスみてーなやつにくれてやるほどあたしの命は安くねぇんだ、お前だからくれてやったんだ。忘れんなよ」
なんて言ってやったこともあったっけな。
まあ、ぶっちゃけシグナムの方が積極的に絡みに行ってたからほっといてたのは否定しねーな。あいつ、シグナムとやり合ってから随分男を上げてたし、戦士として受けた影響が一番大きいのもシグナムだろうし。赤い彗星はどうなのかって?知らねーな。つかあたしあいつのこと好きじゃねーし。
ああでも、あいつ関連だと一番のやらかしがあったな。
今でも語り草になってる、六課教育事件。あれは言い出しっぺがあたしなだけにあんま強いこと言えないっていうか……。まあ、アムロの良くないところがはっきり出たよな。あいつらには悪いことしたと思ってる。
アムロに殺られた次の転生の時、聖王家とシュトゥラの友好の証に王女と「白き流星」がシュトゥラに滞在していることが喧伝されていた。王女の側に侍る一年戦争の英雄という構図は分かりやすい威圧だ。その内実がどうあれ、周辺国はその事実を無視できない。オマケにそこの部隊を鍛えてるとまで来りゃあ、それだけでも手強いと見るのが常。
じゃあウチでも同じことやってみねーか?と思ったのが運の尽き。
蓋を開けてみりゃ地獄も地獄。なのはは段々表情が無くなっていくわ、シャマルとはやても頭を抱えだすわ、事件の後で良かったって心の底から思ったね。絶対あいつには二度とやらせねー。
あまつさえ終わって開口一番、「やはり俺も衰えたな」だぜ?お前あれだけ一方的にボコしといて満足してねえのかよ。お前ホントそういうトコだぞ。
けどまあ、心強いのは事実なんだよな。
戦いの専門家にして技術屋。それでいてどっちの腕も一級品。
敵にするには恐ろしいが、味方にするならこれほど心強いヤツはそうはいない。
聞いたぜ。レイジングハート、改修するんだって?
現代のデバイスと過去のモビルスーツの技術の融合。ベルカの時代からざっと数百年ぶりになる、新型のモビルスーツ。なのはとレイジングハートの想いとアムロの意志。それらが合わさった時に何が生まれるのか、今からでも楽しみでしょうがない。
————あたしはモビルスーツが嫌いだ。いや、嫌いだった。
モビルスーツだけじゃない、色んなものが嫌いだった。
記憶に微かに残っただけでも、誇りもクソもねー荒っぽいだけの兵隊ヤクザどもにいちいちが気に食わねえ赤い彗星。騎士の誇りを奪ったジオンも、ジオンが作ったモビルスーツも。
あたしにとっちゃ騎士の役目以外は全部がどうでもいいって思えるくらいに嫌いだった。
でもお前は、そんなあたしをたった一時でも解き放ってくれた。一対一の尋常の勝負。それもシグナムを破った手練れとの勝負となりゃ、燃えねーわけにはいかねーよ。
だから、嫌なことなんか全部忘れていられた。この時間が、永遠に続けばいいのにって思った。
そしてこいつになら殺されてもいい。心の底から、そう思えた。
だからこそあたしは心に一つ、区切りをつけられたのかもしれない。
時の流れとともにデバイスの役目も変わっていった。誇りの体現たる騎士の剣から、魔法を扱う触媒へ。その根底にはモビルスーツの、ガンダムの血が流れてるって、シャーリーが言ってたっけな。
それを聞いてもあたしは何も思わなかった。あんなに嫌いだったはずのに。
———あたしも、ずいぶん変わったもんだ。
今なら思う。きっと、あの頃のあたしは余裕がなかったんだろうなって。
はやてに救われて、こうして安らぎを得たからこそ分かる。今のあたしの心の広さは歴代でもイチバンだろうよ。
———なあアムロ。気付いてるかは知らねーけどさ、お前も変わったよ。ただガキが大人になったってだけじゃない。いっぱい苦しい思いをして、いっぱいいい思い出を作って、色んなものを積み上げてきたんだよな。あの時の生意気なクソガキが今じゃ一端の戦士で、父親だ。
時間が、時代が、人を変える。
ニュータイプが人の革新だって話はあの戦争で耳にタコが出来るぐらい聞かされた。そのニュータイプである自分たちこそ優生人種だって話も。
でもそうじゃない。人が変わるのにニュータイプである必要なんかない。時間が人を変える。時代が人を変える。人との出会いが、人を変える。赤い彗星のバカ野郎はそれを信じられなくて、アイツはそれを信じた。
今この世界があるのは……たったそれだけの違いなのかもな。
ところでヴィヴィオがニュータイプになっちまってる件なんだが、これ大丈夫なのか?なんだか厄ネタのニオイがしてきたんだが……