「うっ……ここは?」
目を覚ますと、教室の倍くらいの広さの部屋にいた。
壁も床も真っ白。巨大なスクリーン以外は何もない。
あたりを見渡せば、さっきの僕と同じように床に横たわっているクラスメイトたちがいる。
全員が目を覚ますと、スクリーンに変な仮面をつけた男が映った。
頭から真っ黒な二本のツノが生えている。
上半身しか見えないが、服も真っ黒。マントも真っ黒。
全身が黒い。厨二病だろうか。
『君たちにはデスゲームに参加してもらう』
仮面の男が重々しく告げた。
とたん、次々と声があがる。
「な、なんだって⁉︎」
「嘘!」
「今日推しがメインのイベントの最終日だから早く家帰らないといけないのに!」
一瞬で恐怖に包まれた室内。
僕も不安になって、隣に立っている友人に話しかける。
「
「大丈夫だ。俺がなんとかする」
頼もしい答えが返ってきた。
俺TUEEEを地で行く彼が言うのなら安心だ。
ほっと胸を撫で下ろせば、一気に肩の力が抜けた。
僕たちの会話を聞いていたらしいクラスメイトも緊張が解けたらしく、ワイワイと談笑し始める。
僕もそれにならうことにした。
「そういや勇、異世界召喚されたせいでずっと行方不明だったから、学校休んで事情聴取受けてたはずだよね。教室にいなかったのに、なんでここに連れてこられたんだ?」
「魔法が使われた形跡があった。俺たちのクラス全員をここに転移させるものだったんだろう」
「ってことは異世界絡みか。事情聴取中にいきなり消えたわけだけど、大丈夫そう? 説明しようがないでしょ」
「いや、警察の中に前世悪役令嬢の人がいたから大丈夫だ。異世界召喚のこともすんなり話が通ったし、なんなら向こうの話で盛り上がった」
「世界って意外と狭いんだね」
『おい、無視をするな』
仮面の人が声をあげる。彼の存在を忘れていた。
『フハハハ、まあいい。そうやってられるのも今のうちだ。貴様らが行うデスゲームは恐怖そのもの! すぐに泣いて赦しを乞うだろうさ。まあ、どんなに頼まれても開放なんてしてやらないがな。貴様らにはセックスしないと出られない部屋作成のためのデータになってもらう』
「ん? その動機は魔王か!」
『なに!? なぜ勇者がここに!?』
「ちょっと待ってろ。すぐにそっちに行く」
『何を馬鹿な。その部屋の壁はドラゴンの炎でもやぶれない──』
仮面男の声は轟音にかき消された。
勇が壁をぶん殴って穴を開けたのだ。
「ゲームのイベントと卵のタイムセールのために行ってくる」
「さっすが勇者!」
数秒後、スクリーン越しに「おま、ちょ、やめ」という仮面男の断末魔が聞こえてきた。
* * *
「結局、あのデスゲームはなんだったの?」
魔王が倒されるとデスゲーム会場は消えていて、僕らは街中に放り出されていた。
勇が前世悪役令嬢の警察官に連絡を取ってくれたおかげで、すぐに迎えにきてくれたバスの中で問いかける。
「長くなるぞ」
「むしろ楽しみだよ」
「魔王を倒してほしいとかで、俺は異世界召喚された。なんでも異世界には人間族と魔族がいて、ずっと戦争状態なんだと」
「おお、テンプレ」
「とはいえ、同じような人種だからなんて理由だけで人間族の味方をするわけにもいかない。俺からしたらただの誘拐犯だしな」
「だよねー」
「調べてみたら王国は悪事に手を染めまくっていたから王を始めとした政治の中心人物たちの根性を叩き直した」
「叩き直した(物理)だね」
「一方、魔王は『セックスしないと出られない部屋』を作るための力を手に入れるため、自分の体を改造した元人間だとわかった」
「雲行きが怪しくなってきた」
「で、魔族は魔王が『セックスしないと出られない部屋』を作るための不思議パワーを研究するために作り出した生物だった」
「わざわざ正式名称言わなくていいよ」
「魔王は男女二人組のさまざまなペアを完成した部屋に閉じ込めて、どのペアが一番初めに出てくるのか、どのような経緯を辿るのかを観察したかったらしい」
「なんてねじ曲がった性癖」
「しかも魔王は転生者だった。セックスしないと出られない部屋脱出レースを開催する場所は日本だと決めていたらしい」
「はた迷惑な。というか転生者多くない? もしかして前世の記憶がない人って少数?」
「目的のレースは新鮮な気持ちで楽しみたい。しかしリハーサルをしっかりしないと不測の事態が起こって失敗するのは目に見えている。そこで目をつけたのが、色々と似ているデスゲーム」
「似てる……似てるか?」
「王国を建て直した俺は魔王討伐に向かった。しかし、魔王からすればタイミングよく、俺にとっては悪いことに、魔王がリハーサルができる段階まで研究を進め、日本へ行く方法を見つけてしまっていた。魔王は俺に倒されたふりをして日本に転移することができたんだ」
「なるほど、そんな経緯が」
「その時点では魔王が日本へ行っただなんて知らない俺は、今度こそ魔王を倒すために頑張ろうとしていた。が、国王たちから『魔王はいなくなったみたいだし、頼むから帰ってくれ』と泣きつかれてな。もうそろそろ中間テストがあることも思い出したし、ずっと異世界にいると出席日数とかもヤバそうだから帰ることにしたんだ」
「トラウマ植え付けたんだろうなぁ」
話しているうちにバスが停車した。
高校に到着したのだ。
僕たちがバスを降りると、勇に笑顔で近づいてくる中年の男性がいた。
鋭い眼。体は引き締まっている。ただ者ではないオーラがひしひしと感じられる。
「ねえ、あの人って……」
「ああ、前世悪役令嬢の刑事さんだ」
勇は刑事に、かい摘んで今までの出来事を説明した。
「そうか、魔王はそんなことを考えていたのか。詳しいことは日を改めて聞かせてくれ」
「はい。そういえば、魔王が目をつけていたとある二人組は、前世悪役令嬢の中年刑事と、前世では庶民から王子の恋人にまでのし上がった女性との、精神的百合だそうですよ」
「いや、魔王の趣味、結構アレだな!?」
僕は思わず声をあげた。