気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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注意
この物語はフィクションであり、登場する地名、組織、人物などは架空の存在です。
原作、そして現実の実在存在、実在組織とは何も関係ありません。
車の運転は交通ルールに則り、安全な運転を心がけましょう。
競走馬の管理、調教、運用は法に則り、厳格な管理体制の下で行いましょう。




プロローグ

 

2002年、その馬は日本で生まれた。

深き衝撃の名を付けられ、日本競馬界の結晶と呼ばれた馬はかの世界では数々の栄光を打ち立て、あらゆる敵と難関をなぎ倒し、そして世界でその声をとどろかせた。

 

この世界もそれは同じだ、圧倒的な実力で日本を席巻し、世界でも名を広めた。だが一つだけ違った、かの衝撃の馬には勝てなかったライバルがいた。

 

公式では記録されていない挑戦と敗北は関係者にしか語られず、たった一度の大舞台で見せつけた実力はすぐに衝撃の馬の威光に歪められてかき消された馬がいた。

 

居なかったことにされた、だれも認めなかった、暴走と狂気によって奪われた。

 

まぐれで生まれたフロックか、それともかの呪いを受けた不遇の存在か。否、その馬は何にも縛られなかっただけだ。

 

嫌だから走らなかった、理由があったから走らなかった、走るときは走るだけだ、自分の都合を優先しただけだ。

 

レースで縛れたためしがない、呪いなどトロ過ぎて話にならない、世間の目なんて追えやしない。

 

逃げるからだ。逃げ馬だから逃げて逃げて逃げまくるのだ。

 

公式の世界では片鱗しか見えないライバル、その馬に衝撃の馬は何度となく挑んでは敗北していたというのは後世に語られるまではほとんど知られなかった。

 

だが衝撃の馬とともに歩んだ騎手、厩務員、調教師、関係者たちの心には深く刻まれ、今なお厩舎の中では語り継がれている。

 

かの馬の永遠のライバル、英雄を下した酒蔵の走り屋、自分勝手を極めた趣味道楽。

 

すべてを置き去りにする破滅逃げ、蘇ってきた狂気の系譜。競馬場の中で唯一エンジン音をかき鳴らす、その馬の名は――――

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

深夜の山間部、静まり返った峠の山道を1台のスポーツ車が法定速度を超えて峠を攻める。

ダークブルーのスポーツセダン『スバル・WRX-STI』がEJ207型水平対向4気筒DOHCターボエンジンを思い切りふかし、スキール音を響かせながら峠のカーブに突っ込んでいく。

街灯の少ない暗闇の峠道、一歩間違えれば大事故、下手をすれば道を飛び出して真っ逆さまに落ちる違法な峠攻め。

だがそのスリルとアグレッシブな輝きは、たとえ世界が変わろうともそう簡単に色あせやしない。

愛車にかける情熱と自分がどれだけ高みに上れるか、その中でのぶつかり合いはこの世界にいる二つの種族を対等に並び立てる。

ここでは『人間』も『ウマ娘』も対等なのだ。愛車を操り、エンジンを吹かし、だれよりも早く、だれよりも巧みに峠を抜けるのに必要な素質なんて種族の違いなど些細なものでしかない、そう少女は自信を持って言えた。

足が速い?力が強い?大食いだったりする?反射神経がいい?だからなんだ、この峠を攻めるのにそんなものは関係がない。

街灯の少ない暗闇の峠道を攻めていくのに必要なのは精神力だ、スピードと闇の恐れを知った上で制御できなければアクセルを踏むことすら躊躇してしまう。

スピードも闇も、運転席の少女にとっては慣れ親しんだものだ。エンジンをふかし、シフトレバーを即座に切り替え、ブレーキを踏み一瞬の減速と同時にハンドルを切る。

鮮やかなハンドルさばきから繰り出されるのは、右カーブの内側に限りなく迫った最短距離のドリフト走行。

車体の重さをものともせずに危なげなく曲がったカーブの先で、少女はアクセルを踏まず静かに減速した。

法定速度まで落とすと同時にこの峠道の随所にある寂れたパーキングエリアが見え、少女は迷わずその中にWRX-STIを入れて適当なスペースに停める。

 

「う~ん…ちょっと所々膨らんだな。ハンドルもちょっとピーキーすぎか、あとで調節だな」

 

運転手の少女は手帳に今後の修正を書き込み、一息つくと運転席から外に出る。

峠道の中ほどにあるパーキングに人気はない。その中で白シャツに革ジャン、ジーンズ姿の彼女は一人大きく息を吸い一時の高揚感の名残に身を浸していた。

この解放感と高揚感が少女を魅了してやまない、こうして思いっきり飛ばした後に来る弛緩した感覚は格別だと思っていた。

そんな少女のウマ耳に着信音が届く、ジーンズの後ろポケットに突っ込みっぱなしだったスマートフォンに着信が入っていた。

着信相手に表示された『ツインターボ』の文字を見て、少女は思わず顔を緩ませた。

 

「よぅ、こんな時間にどうした、ターボ?」

 

WRX-STIのドアに腰を預け、スマートフォンを人間のように右耳にあてた彼女はこんな夜更けに電話をかけてきたいとこの少し眠そうな声に耳を傾ける。

 

「起きちゃった?ま、あとで寝なおせ。いつこっちに来るかって?バカ言え、俺はお前みたいに頭良くないからな。うん、その気はねぇよ」

 

趣味をするのも難儀そうだしな、と心の中で付け加える。ウマ娘の多くが好む『レース』にほとんど興味がない自分にとって、この愛車と峠から引き離されるほうが拷問に等しい。

煌びやかな府中の街にいる従妹には悪いと思うが、トレセン学園という最高学府でウマ娘の理想郷にはいささかも興味が湧かなかった。

自分がそこに入って活躍する姿が全く思い浮かばないし、それで背負わされるものが重たすぎて考えるのも億劫だ。

 

「ブライアンとディープにズバッと言えって?すまんそりゃ無理だ、もう言った」

 

親しい従妹と同じ髪色、ウマ娘でも珍しい蒼い髪を短くショートに切ったボーイッシュな髪形に恵まれた体格をした彼女はドアに腰を預けたまま足を組み愉快そうに笑う。

 

「うるさいならそっちの生徒会長にでもいうんだな。それはそうと、聞いたぞ?免許をもう取ったんだろ?あ?お前、コマツに漏らしただろーが、もう仲間はみんな知ってるよ。はっはっは!」

 

いとこによく似た勝気な空気に男性じみた性格を醸す彼女。

 

「お前が好きなの買えばいいさ、金はあんだろ?え、もう買った?エンジンびりびりでターボやばい?それはたまらんな」

 

ウマ娘としての本能に流されないマイペース、ある種の突然変異種で自己中。

 

「待て、名前は言うな、お披露目は今度の夏休みの時まで内緒にしとけ。限定でもこっち来るくらいできるだろ、乗ってきてみんなを驚かせてやれよ」

 

そのウマ娘の名は。

 

「解ってるよ、約束は約束だ。峠の走り方を教えてやるよ、シマカゼタービン先生のレクチャーはきついから覚悟しとけよ?」

 

シマカゼタービン。

 

 

 




あとがき
ツインターボはなんだかんだ言ってやっぱ頭はそれなりにいいと思うのでこの世界では免許を持ってる、異論は認める。
なおオリウマ娘とツインターボは親戚、あとは分かるな?

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