気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの誤字報告、ご感想ありがとうございます。
悪い癖のごった煮、今回は前話のおまけみたいなもんでトレセンが騒がしい裏でのUMAは何してたのかです。
前の話の後半部分だったけど長くなったんで分割しましてね、そこからバカ話混ぜて膨らませたのがこれ。
ぶっちゃけなんもしてないし普通に高校最後の夏休みを満喫中、これが騒動を起こしてる原因の姿か?






第三十九話 ☆

 

 

 

 

宇宙、それはこの世界で無限に広がるフロンティア。しかしその無限のフロンティアに足を踏み入れても人類は悪癖を止められなかった。

 

≪くそッ!なんなんだ、なんでこんなに速いんだ!!≫

 

≪相手は寄せ集めじゃねーのか!!?ザクの挙動じゃねーぞ!!≫

 

ガラクタだらけになったソロモン宙域、愛用のモビルスーツを駆る彼は周囲を飛び回るバーニアの光の帯に振り回されながら仲間の悲鳴と歓声を聞く。

同じチームを組むF91ガンダム、ガンダム・バルバトスを操る友人たちは完全に翻弄され、自分もまたその動きに全くついていけていなかった。

 

≪なんてエネルギー管理してやがんだ!?≫

 

≪よく見ろ、あいつ慣性で飛んでやがる。バーニアをずっとふかしてるわけじゃねぇ!!≫

 

≪それだけでああなるか!?バグってても驚かねぇぞ!!≫

 

(落ち着け、相手はザクだぞ!!しかも一機なんだぞ!!!)

 

対して自分達を翻弄するのは一機の緑色をした一つ目のモビルスーツ、識別名は『ザクⅡFZ』とあり見た目はごく普通のザクⅡ最終生産型だ。

武装もこれといった特異なものは見受けられず、特徴的な装備も携行していない。しかし130ミリ対艦ライフルとヒートホークを手にバーニアを全開にして飛び回るその速度は圧巻といえるだろう。

まるで減速している節が見えないのに、幾度となく曲芸じみた急旋回やドリフトじみた挙動を繰り返し、接敵するたびにプレイヤーやモブNPC機体を瞬く間に狩って離脱する。

よく見ればバーニアを吹かしているのはごく一部のみ、旋回やドリフトじみた挙動は瓦礫や破片を一瞬掴んだり蹴り飛ばし、オブジェクトに乗りわずかにホバー移動するなどしているのがわかる。

一撃離脱戦法といえばわかりやすいが、問題はそれを同一機体が同一集団に延々と繰り返しながら削り取っている状況だ。

個別に展開していては不利と判断したチームが集まり、リスポーン地点を中心に大きな塊になりながら迎撃を繰り返しているにもかかわらず形勢は変わらない。

明らかに自分たちが狩られる側になっている、圧倒的多数で戦局も優位で、別のフラッグを拠点にしていた味方も集まっているのにもかかわらずだ。

 

≪畜生、撤退する、仕切り直すしかねぇ!≫

 

「てめぇら、下手に動くな!数はこっちが優位なんだ。チケットだってこっちが優勢、時間を稼げば勝ちだ!!」

 

≪無理だ、勝てっこない!出直させてもらう!!≫

 

デナンゾンを操る味方プレイヤーの声色はまさに切羽詰まっていた、信じられない何かを見るような恐慌の片鱗をも見せていた。

それをシャイニングガンダムを率いたジム・スナイパーⅡを操る女性プレイヤーが止める。

 

≪待ってください、今引いては相手の思う壺です≫

 

≪あいつは素早く、でかくて、硬い!小さいデナンゾンでは無理だ!!≫

 

≪動きを止めるな!来たぞ!!≫

 

≪ちバッ!!?≫

 

仲間の返答は途中で途切れ、ついで視界の端で爆発が発生する。見ればチームメンバーの、F91ガンダムに乗っていた友人が復活待ち表記になっていた。

 

≪やられた、やられた!!≫

 

≪ザクのくせにぃ!!≫

 

また始まった、一直線に弱い部分を貫いて食えるだけ食っていく一撃離脱、機体そのものを弾丸とした徹甲弾みたいな一撃だ。

既にヒートホークによる一撃、130ミリ対艦ライフルの0距離射撃で瞬く間に友軍が削られていく。

食らえば一撃で落とされる、反撃する余地すらない撃破にプレイヤーたちを大いに震えさせ、そして興奮を沸き立たせる。

即座にガンダム・バルバトスがマシンガンを、自分も一緒になってビームライフルを、そして周囲にいた別チームの友軍が一斉に応射を開始する。

だがザクⅡFZはまるで恐れない、進路上にばら撒かれるビームと実弾の雨霰の中をまるで縫うかのように飛び回る。

 

「照準が狂ってんのか!?なんでロックオンしてんのに当たんねぇんだよ!!」

 

≪弾幕で押しつぶせ!悠長に狙う暇があるなら撃ちまくれ!!≫

 

≪撃て撃て!撃たなきゃ当たらないでしょ!!≫

 

まるで映画の中にいるような気分だ、誰もかれもが何かに浸って笑いながら戦っているのがわかる。

楽しい、楽しすぎる、一方的なボーナスステージで終わると思っていたのだが全く以ってわからないもんだ!!

 

≪この弾幕、これなら!!≫

 

≪足りません!お任せを、ここは私が!!≫

 

≪待って、迂闊よ!!≫

 

プレイヤーネーム『SONON』が操るシャイニングガンダムが僚機の『ウッドグス』が操るジム・スナイパーⅡの制止を振り切って飛び出す、味方の誤射も恐れずにガンダムファイター特有の超接近戦を仕掛けに食らいつく。

 

≪シャイニング・フィンガー!!≫

 

今まで溜めていた必殺技ゲージを使い切ったであろう大技を展開し、ザクⅡFZに肉薄しそのHPを削り切らんとする。

それに気づいたザクⅡFZは弾幕の中で慣性すらも制御した予測不能な挙動でSONONの攻撃を誘導し、空ぶった右拳と伸びきった右腕をヒートホークで叩ききったうえで突っ込んできた方向へ蹴り返した。

 

≪やーらーれーたー!…なんちゃって♪≫

 

≪そこッ!!≫

 

しかしSONONの動きは囮、その挙動で隠した背面で攻撃直後の隙を狙っていたジム・スナイパーⅡのビーム・ライフルがザクⅡFZに放たれる。

ビームは避けられないタイミングを的確にとらえてザクⅡFZに着弾し、派手な着弾エフェクトと効果音が響き渡った。

 

≪命中!≫

 

「やったか!」

 

≪ダメです!!逃げ―――≫

 

着弾エフェクトを振り払って飛び出したのは無傷のザクⅡFZ、その手にはヒートホークはあるが130ミリ対艦ライフルが見えない。

ザクⅡFZはまっすぐにシャイニングガンダムへ向かって飛び、コックピットにヒートホークを振り下ろして破壊、そして残骸を蹴飛ばしてジム・スナイパーⅡに向けて突貫する。

離脱するついでとばかりにヒートホークで止めを刺されたシャイニングガンダムの残骸のほうを見れば、その周囲に赤熱した大型火器の残骸が舞っているのが見えた。

武器を盾にされてギリギリの所で防がれた、そこまで追い詰めることができたということだが、一歩足りなかったのだ。

 

≪SONON…すみません、逃しました≫

 

その一撃はまさに一閃、ザクⅡFZはすれ違いざまにジム・スナイパーⅡの胴体のコックピット部分をヒートホークで切り裂いた。

爆散するジム・スナイパーⅡの爆風を背中で受けてさらに加速、その先にいたジンを踏み台にして軌道を変えて去っていく。

敵は武器を失った、そして今も追い詰めている、まだ勝機はある。マップ内にようやく現れた友軍の機体名を見て、彼は心の底から勝機を見た。

 

≪ミサイルカーニバルです、派手に行きましょう。巻き込まれないでくださいね?≫

 

≪全門フルオープン、ターゲットマーク!≫

 

≪全弾もってけ!!≫

 

友軍のジェガン、ズサ、ドーベンウルフ、ウィンダムなどが次々と到着する。撃破された仲間たちが機体変更と装備換装を終えて戻ってきたのだ。

満載したミサイルポッドを開放してこれでもかとばかりにミサイルをばら撒き、それに感化されたミサイルやロケットを装備した友軍がついでとばかりに狙い撃つ。

しかしそれでもザクⅡFZを捉えるには至らない、爆風に機体を焼かれて焦げ目をつけながらも致命的な損傷を回避して戦闘を続ける。

そしてその軌道は着実に、自分の方へと突貫してくるのが見えた。機体の反応が遅い、そもそも体の反応が遅い、そこで彼は気が付いた。

ザクⅡFZが自分に向けてかっとびながら不用意に前に出たゲルルグを片手間に撃墜し、ゲルルグの装備していた90ミリマシンガンを予備弾倉も含めて一式を奪う瞬間まで見えた。

何もかもが遅い世界にいる、これが一種のゾーンというものか。

 

(ここまでか…!)

 

眼前にザクⅡFZのヒートホークが迫り、自機のジムⅡ・エンデ機のガンダム頭を刈り取らんと熱を帯びる。

この楽しい狂乱は自分の復活までまだ続いているだろうか?できれば続いていてほしいな。

そんな願望が芽生えたその時、ヒートホークと自分の間に黒鉄の刃が割り込んでヒートホークをはじき返した。

自分を救ったのはガンダム・バルバトスルプスレクス、ハンドルネームは『ノースキング』とあり、見た目は何も変化はないデフォルトの機体のようだが雰囲気はまるで違った。

それを見たザクⅡFZは即座に反転し離脱を図る、それをノースキングは即座に追いかける。そしてその後ろの2機が続いた。

あのザクⅡFZを追いかけ、その軌道を読んで先回りしたノースキングが即座に両腕内蔵の滑腔砲を発砲しその動きを阻害。

そこに追いついて限界まで積載した武装で激しい射撃による追撃を行っているのはハンドルネーム『タンクラブ』のサイコ・ザクタンク。

サイコ・ザク(ダリル機)の下半身をザクタンクに換装した異形の機体だ。

デフォルトの装備でも重装備であるのにさらにカスタムして重装備に仕上げており、下半身にも過積載とすらいえる武装をした上で惜しげもなくばら撒く姿はまさに火力の権化。

隙を見ては逃げだそうとするザクⅡFZをビームマグナムで支援射撃して逃げ道を潰すのはハンドルネーム『カミナリソード』のユニコーンガンダム。

見た目はデフォルトだが、よく見るとハードポイントにはビームマグナムの予備弾倉をこれでもかと持ってきていて継戦能力特化のようだ。

突然現れた3体のMSのコンビネーション攻撃にザクⅡFZはなすすべなくやられるかと思われたが、そうは問屋が卸さない。

ザクⅡFZの機動力は衰えない、これまで不必要に吹いていなかったバーニアを全開にして両手足を振り回すように軌道を自在に曲げ回避して逃げに徹する。

的確かつ激しい弾幕の合間を縫い、その合間を埋めるビームマグナムの狙撃をよけ、その隙をついて突貫する刀の一戦のヒートホークで弾いていなす。

いなしたついでとばかりに90ミリマシンガンを発砲してユニコーンガンダムを牽制し、隙を作ってサイコ・ザクの弾幕をすり抜けて逃げ続ける。

一見先ほどと変わらないように見えたが違う、あのザクⅡFZが逃げに徹している。あの3機が互角に渡り合っていて、攻めに転じる暇がないのだ。

今までいい様にやられていたところにこの増援、Aチームプレイヤーの興奮はうなぎのぼりであった。

 

≪強ぇぇぇ!!なんだよヤベーぞ最高じゃん!!≫

 

≪ヒーローユニット到着ってか?行くぞお前ら!≫

 

≪返り討ちのお時間だぜぇ!!≫

 

この好機を逃すすべはない、あの3機が押さえつけている今こそ好機、あの面白いやつにお返ししてやろうじゃないか。

守勢から攻勢に転じたAチームが大移動と大火力を向け始めたその光景を、ひっそりとみていたBチームプレイヤーは嘆息していた。

 

「相変わらず馬鹿みたいに強いしうまく焚きつけてんな、俺全然ついていけねーよ」

 

ガラクタの影に隠したシナンジュでモブNPC機体を狙撃しているイツキは何とも情けないことをつぶやいた。

自分でも情けないとは自覚しているのだが、いくら男でもやれないことはやれないし彼女ならそれも仕方ないという達観にも似た感覚があった。

あのザクⅡFZを駆るシマカゼタービンとイツキの関係は長い、拓海とのつながりで幼少のころから遊び相手であるから幼馴染ともいえる。

だからこそ彼女の無茶苦茶ぶりは知っているし、それは中高に上がってからも健在であるからもう何も言うことはないという思いだった。

 

≪アハハ、たー…ummスティ変わってない、ネ?≫

 

イツキと通信越しに聞こえる片言の日本語を話している外国人、ハンドルネーム『BENIKO』も何とも言えない声色だ。

彼女も使用機体であるクシャトリアを瓦礫に紛れ込ませて、フィンファンネルを小出しにしモブNPC機体を狩っている。

回線の国籍表示からフランスのサーバーから接続しているらしいのでおそらくフランス人なのだろう。

彼女とチームを組んでいるのはただの偶然だ。ゲームにログインした際、偶然にもシマカゼタービンのフレンド検索に引っかかっただけである。

時折シマカゼタービンのハンドルネームである『スティ』ではなく本名で呼びかけるのだが、ゲームはしていてもこの手の大規模マルチプレイはあまり経験がないかららしい。

言葉もこちらに合わせてくれているから文句は言わないが、完全なカタコト日本語であり聞き取りづらい。

時折言葉が途切れるのは辞書を使っているからだろうとイツキは考えていた。

 

「ところでBENIKOちゃんはスティとはなに友達なの?」

 

≪スティ、ト、あー…レースです≫

 

なるほど公道レースだな、イツキはシマカゼタービンの生態を踏まえて極めて単純にそう考えた。

彼女は根っからの走り屋である、出先でも当然ながら公道レースを見れば突っ込んでいくに決まっているのだ。

 

「へー、走り屋なんだ」

 

≪hasiriya…ハイ、ソーデスネ!≫

 

それはそれとしてあの女、フランスの走り屋とも面識あるんかい。相変わらず同年代とは思えない交友関係の広さである。

下手すれば本当に世界中に知り合いがいてもおかしくない、いないのは別の世界とか別の星だけだったりするのだろうか?

 

≪そーいえば、イッキ、は、走り屋、ですか?≫

 

「俺?実はそう…じゃなくて、その予定なんだ!秋名スピードスターズっている地元チームに!仲良くてさ!!」

 

俺、情けねー!この時イツキは心の中で叫ぶしかなかった。

 

≪…すごーい!≫

 

「いやいや、すごくないって。予定だし、まだ車だってまだ持ってないし、素人だし」

 

≪そーなんですね、がんばってください!≫

 

「うん…で、どうする?」

 

目の前の楽しそうだが目まぐるしい乱戦模様を見ながら、話を逸らすように問いかける。

作戦ではシマカゼタービンが相手を撃滅するか陽動でフラッグから引きはがして防御を薄くした後好きに自分たちが奪還して点数を稼ぐ算段だった。

しかしBチームが予想以上に弱くあっという間に相手の独壇場になってしまい、今も目の前の状況は想定とは裏腹にフラッグ周辺の敵は厚い。

 

「というか、どんどんフラッグから復活してきてねぇ?」

 

≪…復活の呪文?≫

 

「リスポーンしてどんどん出てきてんのか、どんだけ倒してんだあいつ…あ、負けた」

 

≪マケタネー≫

 

とはいえこれは多対多のコンクエスト戦、先に相手の復活チケットを削り切った方が勝ちとなるゲームだ。

イツキたちが属するBチームは、最初から最後まで劣勢に立たされており、終始押し込まれてカモにされている状態だった。

それでも自分たちは一度も復活を経験しないまま撃破多数で生き延びたことでスコアがだいぶ加算されており、全体ランキングでも上位に食い込んでいる。

Bチーム所属全般がランク外に押しやられている中で、勝利チームのメンバーを押しのけてランクインしているイツキたち3人は明らかに異様だった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

スマホをポチポチ、コーラを一飲み。騒がしいゲーセンの一角にあるドリンクコーナーでの他愛ないひと時。

うむ、うまい、これぞ学生の休日である。ついでに夏休み初頭の何事もない休日である、これぞ学生、学生万歳!

 

「ほら、送ったぞ。お前のメルアドもあっちに送った、返信あるだろうから登録忘れんなよ」

 

「サンキュー。ちなみにBENIKOの本名なんてーの?」

 

「ベニ子の本名?ヴェニュスパークだ」

 

「だからBENIKOか、フランスの走り屋とかどうやって知り合ったんだよお前」

 

走り屋?何言ってんだこいつ。

 

「あいつ走り屋じゃねーぞ、競争ウマ娘だ。確かフランスのトレセン学園に今はいるはずだ」

 

「あれ?走り屋じゃねぇの?あの子肯定してたけど?」

 

なんだそりゃ?そんな嘘つくような奴じゃないんだが…あー…

 

「多分なんか勘違いしてんな、それか辞書を引き間違えたのか…」

 

あのゲーム、辞書持ったままやるなんてこともできるんだからスゲーよな。小物がしっかり機能してるんだ。

この世界のゲームはどういうわけかかなり進化してて、いろいろやばいのがあるし一部は本当にいろいろ凌駕してるってのがマジでやばい。

中央で導入されてるVR機材なんか、バーチャルの中で鍛えた分が現実の体にも反映されるなんてトンデモ機能があるという話だ。

実際に体を動かしているタイプなら鍛えられるってのも納得なんだが、ツインターボがいうにはそうじゃなくてVRの中に意識が入るフルダイブタイプらしい。

要約すると、VRで訓練しまくって現実の体はベッドに寝てるだけ、それで体がムキムキになっているというわけだ。

なにその夢のVR機材、いろんな世界でめっちゃ喜ばれる夢の装置じゃないか。VR技術に関しちゃやっぱここが頭一つ抜けておるわ。

どういう理屈なんだそれ? 前々世にも欲しかったよそれ。

 

「相変わらずだなお前も、レースで思い出したけどおめーの次は大丈夫なのかよ?」

 

「二次予選?どうだろうねぇ」

 

次の予選、全国の一次予選通過者を集めてのレースになる。そうなると今度はもっと個性豊かになりそうだかんな。

そうなると次の対戦相手はどんな手を打ってくるやら…まぁまだ出走表も出てないから対策なんざできっこないから考えるだけ無駄よ。

 

「ま、どうなろうが俺は大逃げしかやれねーしな。逃げるだけだ」

 

「それでいいんかお前…」

 

「それくらいでいいんだよ。その方が面白いだろ?」

 

俺の手札は見せた、あとは相手がどう出てくるかだ。それに対して俺は迎え撃つ、それだけさ。

本当にヤベーのはGⅢに特別出走するときくらいだしな、誰がどこにいようがそん時はほんとに俺が不利だ。

ダイオーたちがいたら目も当てられない、あいつらは俺の事を知り尽くしてる上にトレーナーもいてプロの訓練も受けてるんだぜ?

こんなの面白いに決まってんだろ、血が沸く血が沸く♪走り屋としてこれで滾らん訳があるかっての。

 

「URAファイナルズは祭りだぜ?楽しむもんだろ。ついでにダイオーたちの実力も見れて、賞金も入れば一石二鳥よ」

 

群馬トレセンからしてみれば秘蔵っ子で中央に殴りこむこれからって時に邪魔はしてほしくないかもしれんがね。

俺だってあいつらの親友なんだ、少しばかりお節介はさせてもらうし実力に興味はあるんだ。

試させてもらおうか、できる限りという注釈は付くけども…って、なんだよその生暖かい眼は。

 

「なんだよ、言いたいことあるのか?」

 

「別に、お前は相変わらずお前だな、楽しそうだ」

 

「んだよ…それよかお前、拓海とレースゲーやるんじゃなかったか?待ち列あいつに任せてたんじゃ?」

 

「あ、やべ、忘れてた。ちょっと行ってくる!」

 

「行ってら」

 

さて、俺はコーラのお替りでも買おうかな。久しぶりにザクで暴れたからちょっと疲れたぜ。

コーラと後は、ポテチでいいか。自販機にまだ残ってるかな?

 

「タービン、ここにいたか。少し良いか?」

 

聞きたくねぇ言葉が聞こえた、顔を上げるとそこにはこのゲーセンには似つかわしくないレディーススーツをびしっと決めた女性。

わざわざ探してくるあたり絶対厄介ごとだっていう確信が俺にはある、じゃなけりゃ電話でいいからな。

 

「ド」

 

「彼女ではない、あんまり摺ると姉さんみたいに殴るぞ」

 

ちッ…先手を打たれたか。風見刑事と小暮刑事と当時の一課長という男刑事三人でも抑え込めずに姉を前が見えねぇ状態にした姉妹喧嘩は伝説だ。

あの姉が全力で迎撃したうえでぼろ負けしてんだからさもありなん。

 

「どうしたんです?犬童警部」

 

ドーベルマン先生、もとい犬童凛子警部。群馬県警芦名署にある群馬県警歴史編纂部所属の刑事さんでいい意味で顔見知り。

たまに仕事を手伝ったり引っ張り出されたり頼られたりしてる、というかなんか外部顧問扱いされてんだよねいつのまにか。

顔が利くのはうれしいんだけども、なんというか…なぜか増えるIDカード、なーぜなーぜ?

 

「…もしかしてまた警察にご厄介が?」

 

嫌だなぁ…最近俺の知らないところで俺絡みの厄介ごとが起きてるんだよ、さすがにどうにもできませんって顔も知らん記者云々とか。

トレーナーなんざ地方中央問わず、顔見知りんところは抑えてくれてるけどそうじゃない一匹狼とか超外様までは手が回んねぇらしい。

しかもそういうのに限ってとびっきりのバカなんだ、いつの世もこういうのはほんと変わらんのよな。

 

「いや別件だ。ややこしい時期に突然すまんな」

 

「いったいなんすか?運転手やれってんならまぁいいですけど」

 

警察に協力するのは善良な市民の義務ですからね。どんな難関も突破してみせましょう、まともな車を用意してくれればだけどな。

そもそもここ最近いろいろ警察の方にはご厄介になってるしご迷惑かけてるからやってくれって言われたら是非にってレベルなんだけどね。

まぁちょっと荒っぽくて悪酔いしちゃうかもしれないけど、やるってんならぜひとも力を貸しますよ。

 

「迷子だよ、身元確認を頼む。昼前に葦名の底で天狗さんが一人保護してきてな」

 

迷子、葦名の底、天狗様…うわぁ…しかも俺に直通って辺り心当たりがないのにいろいろ浮かぶんですが。

それにしても葦名の天狗、校長またやってんのか、お歳なのによーやるわ。この前もゴールドシップさんに会ったとか言ってたよな。

そんで俺の方に話を持ってくるってことは十中八九この世の人ではないしなんかあったと…ここまで想像できちゃって納得する俺、まともじゃねーわ。

ゲーセンはこういう時気が楽だよ、この手の話しててもみんなゲームかなんかの話だと思ってくれて聞き流しておるわ。

 

「関わりたくねーっす」

 

なんか加減解ってないマスコミか何も知らない突っ走りトレーナーよかクソ厄介駄々こねマンのほうがマシに思えてくるぞぅ

言語は同じでも一切会話が成り立たない連中が出てきたんだとしたら厄介極まりないけれど?そうなるとこっちもいろいろ持ってくることになるけど?

端的に言えば言葉云々理解云々じゃなくて有無言わせずぶっ潰すことになっちゃうね。奴らに交渉する能力はねぇからな。

でもこの世の者であるからはるかにマシなのはちげーねぇ。

 

「そういうな、レースとも別件だ」

 

「それもそれで厄介ごとには変わんねーっすよ…」

 

「こっちも困ってるんだ。どうも話を聞くとどこかの治安組織か何かに属している公務員らしくてな。

ご丁寧に身分証とか諸々も持ってた、まぁ文字は読めんかったがいろいろ物理的に証明されたら信じるしかないわけでな」

 

前例もあるっちゃあるしねぇ…あの時は随分ご厄介になりましたよ。その後もちょくちょくと・・すんませんねぇ。

しかしまぁなんだ、ファインのぼくの夏休み事件に始まりいろいろ見てきたけど鍛えられすぎとりゃしませんかね芦名署。

基本的にもう何が来ても動じない体制出来てんじゃん、そら犬童姉も誇らしげにするし頼るでしょうよ。

 

「当ててみましょう、その諸々に俺が写ってたと?」

 

「そうだ、彼女のスマホの写真にばっちりお前が写っていたし、お前の顔写真を見せたら一発だ…随分やんちゃしてたんだな」

 

誰だよ、マジで誰だよ。うららの次は実物飛び出してきやがった、凛子姉ちゃんに何バラしやがった…黒歴史とかだと笑えねー。

 

「この人だ」

 

犬童警部が見せてきたのは一枚の写真。見たくない、けど見ないと始まらん。

意を決して見る…うん、見たことあるしそら困るわ。葦名の鬼伝説に引っ張られでもしたか?怨嗟の鬼は有名だけども。

 

「知り合いっす、でっかい得物持ってたでしょ?」

 

「隠すのに苦労したよ、運搬にも。この前のほうがだいぶましだったな」

 

さすがに青肌に角じゃね…ケモ耳なら生まれつきとかで通りますもんね、芦名じゃドクターのおかげでそういう人そこそこいるから。

ウマ娘だって人間と同じ、生まれつきでかいとかちっちゃいとか毛深いとかある訳よ。事故で後天的にそうなったとかももちろんね。

そういうので奇異な目で見られたり差別されたりで転々としてた人が国内外からやってきて、ドクターの治療を受けてそのまんま定住したりする。

例えばウマ娘だけど事故で耳やっちゃったから整形して猫耳っぽくしてるとかね、いるのよ。

というか目の前の犬童警部がそれ。事故で耳やっちゃったから整形してて犬耳だ、尻尾と毛並みはウマ娘だから一発で分かるが。

 

「すまんな、帰りでいいから引き取ってくれ。これは署内だと目立ちすぎる、留置所を使ってもらうのも気が引けるしな。

知り合いのお前のところならおとなしくしてくれるだろ?幸いこのコスプレはメジャーだ、費用は後でこっちに請求してくれ」

 

「城周りならともかくこっちじゃコスプレでも目立つのは変わりないんですがねぇ…あと家族に説明するっていう爆弾があるのですが?」

 

「あの人たちはそれで右往左往するタマじゃない。そもそも筋金入りだろお前ら」

 

なんも言えないねぇ…うちの家族全員芦名署に迷惑かけてるのよ、というか先祖代々なこれ。

先々代、というか爺様はソ連軍と追いかけっこしたとかいう伝説がある、祖母ちゃん狙いだったけど当然勝った。

祖母ちゃんはハイランダー病で若々しかったのよ、それが葦名の金剛山にある逸話に絡まっちゃって…時代だったんだろうね。

親父はとりあえず知り合い全員みんなタフ、なりたくてなったわけじゃないっていうけどとにかくタフ。

例えばガチで通用する死んだふりする人とかいる、猛獣を欺くあの技は真似できねぇ。実は熊に出会ったら死んだふりは自殺なんだぜ?止めをきっちり刺されるから。

兄貴も知り合いが来ると大体モンスニー姉貴とにらみ合いになる。シェフィのそっくりさんがいるんだよ、驚いたわ。

母ちゃんも知り合いが物騒な付喪神のハーレムしてる。手遅れだねあれ、幸せならいいんだろうけど。

俺の知り合いにもだいぶヤベーのいるからわかる、返信しない相手に10年間ずっとメール送りまくるヤツとか。良い奴なんだけど…うん。

 

「はっはっは…ちなみに経緯とか聞けます?」

 

「事故らしいぞ、現場調査中に落っこちたと言っていたな。落ちた先が空中でその下がまた入り口でまた空中という感じでそれを繰り返したそうだ。

運がいいな、ずっとそれだと空中で塵になっていたかここじゃない遥か彼方だ」

 

わーい、別件は別件でもまだましな別件だ。最悪の場合は超がつく厄介ごとになるけども、大体ただの観光で終わるから。

でもできれば一晩で済んでくれるといいな、ヤベーからあそこ。いろいろ大騒ぎだし下手すりゃ藪蛇してヤベーことになるわ。

でもここ最近手を煩わせてくれるレース関連に比べたらきっちり終わってくれるだろうから楽よね。

 

「犬童さんじゃないっすか?タービン、なんかあったんか?」

 

おっと拓海か、対戦終わったんか。まぁ馬鹿正直に話すわけにはいかんな、こいつにゃ関係ないし知らんもの。

 

「知り合いが警察にパクられた」

 

「いつものか」

 

「いつものだ、勝ったんか?」

 

「引き分け、あいつ今日つえーわ」

 

「意地見せたな、イツキの野郎」

 

嘘は言ってない、走り屋じゃないけど知り合いだよ。ちなみにいつものってのもマジよ、走り屋やってりゃ仲間が警察にご厄介なんて話は日常茶飯だ。

夜に限らず昼間だってあり得る、うっかり夜用装備のまんま昼間も運転して警察のご厄介になったりとかさ。

そういう時だって助け合い、違反金とか法的な面はどうにもできないけどまぁ帰りの足とかうまいもんおごるとかそういうのくらいはやるさ。

もちろん俺たちの知らん余所者がやらかした時も連絡が来るときがある、お前のところのか?ってな具合で。知らん奴は知らんで突っぱねる。

ペットショップに入り浸ってドクターが連行された時もあったな。地元出身じゃない新人お巡りさんと新しい店だったのが運の尽きよ。

もっとこうフォーマルに…は無理か、ハミルトン先生達みたいな物腰とか求めちゃいけねーな。

 

「邪魔してすまんな、藤原。すぐ済ます」

 

「いいっすよ、どうせ反省文とかでしょ?」

 

「学校じゃないんだぞ、違反切符からの罰金、減点、免停だ。お前も気を付けろ、ああいうのは不意にやるぞ」

 

「へーい…って、俺走り屋じゃないんですけど?」

 

お前の話は芦名にも届いてるってこったよ、秋名のハチロクは有名だからな。

 

「というわけだ、帰りに署に寄ってくれ」

 

「了解です。というわけだ拓海、帰りに店行く。うまいもん食わせにゃならん」

 

「へいへい、残りもんでよければ持ってきな、安くしておくよ」

 

ちなみに今回は一泊二日の突発的なお泊り会で何とかなった。夢枕にゴドルフィンバルブさんたちが出てきてくれたし。

三日目の朝になったら土産とか諸々と一緒に消えてたんで、お土産諸々も持ってったから何とかなるだろう。

突っ込めるだけ突っ込んだしみんな喜んでくれるといいな。いやぁ癒されたわ、あの無邪気さ。

軍曹たちも帰ってきたから久しぶりに盛り上がってた、二日目は土産選びと観光で車を出すことになったが楽しかったからよし。

芦名はともかく葦名城辺りは夏祭りで稼ぎ時、昼夜問わずほぼフル回転してるから土産にゃ事欠かないし観光スポットならよく知ってる。

話の流れで峠にも連れていくことになったけど、こんな時に限って行儀の悪い余所者がいるんだからな。教育に悪いから千切ってやったわ。

こんな平穏が続いてくれりゃいいんだけどね…そう思っていた数日後、耳を疑うような情報が入ってきた。

 

「妙義の中里がハチロクに勝負を仕掛けたぁ?」

 

いつも通り夜のランニングで峠に行ったら偶然走っていた34のおっちゃんが教えてくれた。同じR乗りとして注目してたらしい。

妙義のGT―R32と秋名のハチロクがバトルをする、普通にありえんと思うんだが妙義の連中は肯定しているそうだ。

お陰で秋名とは縁が薄い走り屋は大盛り上がりだが…あの拓海が理由もなくそんなもんやるとは思えねぇ。

前に走ったのだって要は女だ、また車を借りるためか?いやさすがに二度目はねぇだろ…なんかあったな?

 

 

 

 

 

 







あとがき
何にも知らないシマカゼタービン、レースはともかく普通?な夏休み、大体こんなやつだよ。
しかしおかしいな、真っ当に絡んでるウマ娘キャラがヴェニュスパークだけだぞ。
シマカゼタービン側が無駄に知り合いの層が厚い件、国内外の公権力もがっつり味方に引き込んでるからほんとにやばい。
これを分かってる名家とかは手出し控えてるんですけどそれを知らない一部が野放しなんで迷惑掛かってるんですよね。
ちなみに葦名県警が手慣れすぎてるのは瀬名家が代々迷惑をかけてるから、ここのタービンができない要素が先祖代々に振り分けられてる感じ。
幼少期のファインモーションが瀬名家に『ぼくの夏休み』しに来ても平気で対応してるもはや筋金入りですここの警察。
あと夏休みの姿も付けときますね。髪飾りとかは気にしない方向で、今回どうしても出ちゃいましてね。
この世界の拓海達、見た目は勝ち組だよ。知り合いがこれだもの、女っ気がないとか説得力がない。
なので何気に拓海のハートを今のところ射止めているあの女は偉業を成している。幼馴染こいつらなのにね、一応勝ってる。


シマカゼタービン
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ホクリクダイオー
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ツバキプリンセス
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ノルンファング
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犬童凛子警部
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おまけ・異世界体験した女の子
異世界に飛ばされたら一泊二日の小旅行になって、二日目の夜に寝たら自宅の部屋に普通に帰ってきていてびっくりした女の子。
初日の夢に出てきた赤い髪のウマ娘の言う通りになり、夢かと思ったが浴衣姿でお土産もあったので現実だとすぐに理解した。
職場ではかなり大騒ぎになっていたが、そうとは知らず言い訳のために異世界のお土産を抱えて悠々とタクシーで職場に乗りつけていた。
なお同居人は徹夜で捜索活動に参加していたため自宅は完全に眼中になかった、誰が予想するものかこんなこと。




おまけ2・世界観における作者の戯言
ウマ娘の世界はメタ視点から見ても原作からして他世界とのつながりが強く、ウマ娘世界単体での存在はあり得ないユニークな世界観である。
それはウマ娘というファクターにおいて『他世界からの名前や魂などの流入』が最初から設定されており、現実→ウマ娘世界とのつながりが明確にされているためだ。
そのためウマ娘世界では何かしらによる手段か慣例による言葉遊びかは不明だが『別世界』の存在は一般的に信じられている。
それはウマ娘自体が別世界で名を馳せた『ナニカ』の生まれ変わり、あるいは名を継いでいる者というのは常識だからである。
故に『別世界は確実に存在する、見たことも行ったこともないけれど』というのが潜在的な世間一般常識であると思われる。
本来はそのつながりは競走馬関連とあるいは運営であるサ●ゲの徹底した管理で極めて限定的かつ管理されたものであり、必要な情報以外は流れてくるものではない。
しかし本世界線においては群馬地方競馬や瀬名酒造、新坂、西竹一、椿ホテルといった特大の雑音とバグ枠が存在し、そこから競馬以外の情報やシステムが合法的に流れ込んでしまうこととなる。
シマカゼタービンが修羅場に巻き込まれたり、時折知り合いが転がり込んだり、群馬が群馬であったりするのもそれが原因の一つである。


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