気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの感想と誤字報告ありがとうございます。
今回はソロタイムアタックの一幕、もう別な方向に振り切れちゃってるUMA娘と観客のお話。





第四十二話

 

 

 

まばらな電灯で薄暗い峠道、俺の前をハチロクが駆け下っていく。俺の憧れが今また新しい姿となって駆け下っていく。

トヨタ・AE86GT-APEX、スプリンタートレノ、またの名をハチロク。

俺の憧れだ、今なお色褪せない、世間がいくら高性能な車で溢れようとも決して陰ることのない永久不滅の名車。

ハチロクは俺の走り屋としての生き方の原点だ。親父さんの見せてくれた峠の走りに魅了され、その世界に魅入られて俺は走り続けた。

その姿に並びたかった、追い越してみせたかった、その高みに上り詰めたいと、その姿に背中を見せてやりたいと、何度夢に見たことか。

前は届かなかった、いくら走っても満足できなかった、例え早死にする有様になったとしても諦めることはできなかった。

前世に後悔はない、終わり方に後悔はない、俺は俺のまま全力で峠に生きた。ありのままに俺は生きて、自分の道を貫いたんだから。

今だってそれは変わらない、親父のハチロクは俺の憧れであり目標、そしてこの群馬に名高いハチロク乗り達もまた俺の憧れだ。

現役の親父や文太さんたちと競ってみたいとどれほど願ったことか、叶わぬ願いだとしても走り屋としてそう思わずにはいられない。

年老いてなお研鑽を積み衰えを知らぬと言えど現役を退いた先代達の、現役時代の熱く苛烈な精神を持った素晴らしい時代に挑戦したいと思うのはおかしいだろうか?

俺の足がその時代の親父達にどこまで通じるのか試してみたいと思うのは間違っているのか?いや、そんなことはないはずだ。叶わぬ願いだとしても。

その憧れの次世代というにふさわしいハチロクがここを走った、この秋名峠でその実力を示した。俺の求めたハチロクの走りがそこにはあった。

親父さんや文太さんのような玄人たちの持つベテランの走りではない。粗削りで、青臭くて、だがどこまでも純粋でどこまでも限界が見えない若いハチロクの走りがそこにあった。

俺の世代にハチロク乗りが現れたんだ、それも願ってやまなかった本当にハチロクに愛された若き世代がここにいるんだ。

俺の目にはそれが焼き付いている、俺の目の前を走るハチロクはその幻影だ。

なんてことだ、ここまで心に響く走りだとは夢にも思わなかったよ。拓海の奴、ここまでできて走り屋ではないとよくも言えたものだ。

 

「ふはッ」

 

右コーナー、時速98キロ、ハチロクはロスなく突っ込んで内側をギリギリまで攻め込みながらドリフトで曲がっていく。

俺も同じように思い切り突っ込む。ギリギリまで攻め込んで、体を摺りに行く気持ちでガードレールに寄る。

違うのは走り方、ハチロクはドリフトだが俺はインベタグリップ、ここのコーナーはドリフトをするよりこっちのほうが足の場合は速く抜けられる。

目算にしておよそ4センチあたりまで攻め込んだが…それでもハチロクのほうが速い。

パワーが足りない、速さが足りない、突っ込みの良さも、立ち上がりの速さもまるで足りていない。

インベタグリップによるコーナーはウマ娘に適した走りだというのに、その程度のアドバンテージではまるで追いつける気がしないから面白い!!

頭が回る、走れば走るほどどんどん頭に走り方が浮かんでくる。次はどうしたら早く走れるか、踏み込みの強さを変えるか、ドリフトとインベタの使い分けを変えてみるか。

どんどん思考が冴えていく、考えが止まらない、どうすればもっと速く走れるのか、もっとうまく駆けられるのかが浮かんでは消えていく、たまらなく楽しい。

それだけじゃない、体もそうだ。力が漲っていくようだ、まるで疲れを感じない、どんどん走りが冴えていくのを感じる。

あいつのようにやってみるか?彼女のようなステップも使ってみるか?思考と技術だけではない、思い出や培ってきたモノ全てが峠の走りに組み替えられていく。

まるで気づいていなかった体の錆がどんどん落ちていくようだ。

関節にオイルが差されたように滑らかに、筋肉が新品同然に伸縮し、骨まで徹底的に研ぎ澄まされたようにピタリとハマる。

心臓の鼓動が血液を循環させ、走るたびに欠乏する酸素を全身に、脳内に運び続けていく血管の鼓動までも。

走っている、俺は全身全霊でこの峠を走っている。そうだ、この感じだ、たまらないんだ。この感覚があぁ全く以ってたまらない。

少しでも制御しきれなければ全身に走るこの痛み、一瞬でも気を許せば体を凍らせるこの恐怖、その先でいつ起きてもおかしくはない終焉。

そしてそれを越えてなおも憧れへと届かぬ悲しみ、未熟で遅くて弱い自分への怒り、まだ上がある事の再確認とより己を高められる事への喜び。

全てがないまぜになって俺を作り、俺の走りをさらに昇華してくれる。ウマ娘としての俺を、走り屋としての俺にさらなる力をくれる。

もっと速く、もっと強く、もっと巧く、もっと鋭く、もっと滑らかに、もっともっともっとだ。

 

「ドリフト入った!はぇぇ!!」

 

「全く以ってブレがない素晴らしい制御、美しい…」

 

「相変わらず鋼の肉体だな」

 

「あの激しい超機動の中の柔らかな躍動、これだからウマ娘ってやつはッ」

 

短い直線を抜けて左コーナー、時速101キロ。まだ、まだ上げられる、もっとギリギリを、もっと突き詰められる。

わずかな制動をかけて体を浮かせながら横向きに、推力殺さない連続タップで姿勢を維持しつつ体をガードレールギリギリまで寄せながら最短コースを抜けていく。

そのままコーナーを抜けたら一度踏み込んで姿勢を戻しつつ立ち上がりをかけてスピードと推力を戻して速度をできる限り落とさないようにしつつさらに滑らせる。

そしてそのまま次の右コーナーに突入、尻をアウトラインに振り出して慣性を制御し、軌道をそのままに再びタップ走行で姿勢を維持しながらインベタドリフト。

一瞬でも気を抜けば即クラッシュしそうな遠心力を誤魔化して、荷重移動でギリギリを保ちつつ振動をうまく逃がしてコースを維持してそのまま抜ける。

思うようにいける、思った通りの軌道を描いている、俺は今最高の走りをしているのが分かる。

僅かな減速もできる限り無くして速度を維持しながらコーナーを抜ける、車にはできず馬の特性を持つウマ娘でこそ可能なノンストップコーナリング。

前世でも磨きに磨き上げ、スポーツカーをコーナリングで凌駕するために徹底的に極めてモノにした自慢、だからこそ、理解できる。

 

「まだ、届かんかッ!!」

 

俺の前を走るハチロクには届かない、拓海のハチロクに並ぶことすらできない。コーナリングで差が僅かに埋まったと思いきや、埋めきる前にさらにハチロクは前に行く。

俺の考えるよりも速くコーナーを抜け、エンジンを吹かして立ち上がり瞬く間にウマ娘では出せないパワーで速度を上げる。

手を伸ばしたところでテールランプすら触れることができず、短い直線で距離を離され瞬く間にコーナーに消えていく。

あまりにも俺は遅すぎる、まだまだ敵になりえない、俺の足はまだあの領域に達していない。足りていない、何もかもが足りていない。

憧れのあの美しいパンダカラーの四角い車体に、ハチロクに並び立てるなんて夢のまた夢ということだ。

素晴らしい、なんて素晴らしい!!こんなにうれしいことがあってたまるか、俺は本当にハチロクと同じ世代を走っている!!夢に見てたんだ、ずっとずっと!

こんなの感じていたら、後ろの彼女を気にしている余裕なんてあるモノか。

 

「カウンタックが遅れてるぞ!」

 

「無理もねぇ、おいて行かれないだけでもすげぇよ」

 

後ろを一瞬だけ後ろを見る、俺の抜けてきたコーナーから遅れて抜けてきた赤い色のカウンタックLP400。

ナンバープレートを外し、車体のマークに目隠しをして特徴を消した車体の運転席に座っているのはバラクラバを被った女子高生。

俺にとっては見慣れたこの世のモノではない制服を身に纏った彼女は、かろうじて俺の走りに追従している状態だ。

問題はない、彼女は勝負を仕掛けてきているわけではない。ただ特等席でタイムアタックを鑑賞したいだけの命知らずだ。

 

「ついてこれるか?」

 

その思い切りは悪くない、むしろ好ましい、大好きだと言って過言ではない。だから俺も全力で応えてあげよう。

今宵の俺は乗りに乗ってるぜ、ギア上げていくぞぉ!!

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

R32の車体が画面の中で滑っていく、その光景を映す白幕を見上げていたマルゼンスキーは胸の奥に燻ぶるナニカに火が付いたように感じた。

心の奥が熱くなるようなレースだ、こんな世界がこの世の中にはあるのかと思わず自分の目を疑いたくなった。

その世界はあまりにも苛烈で、綺麗で、自由で、そしてどこまでも純粋に、輝いているように見えた。

秋名峠の道路を余すところなく撮影できるように配置された空撮ドローンから送られてくる峠のレース。

AE86GT―Apex対スカイラインGT-R・R32VSpecⅡのダウンヒルバトル。

R32のドライバーは群馬の走り屋ならば名前を知る程度の妙義の走り屋のナンバー1、その実力は車好きならばすぐ理解できるほどに確かなモノ。

対するAE86、通称・ハチロクを巧みに操るのはどこにでもいるような少年、その姿に驚いていたビワハヤヒデ曰く『町の豆腐屋』の息子でしかなかったはずであった。

R32はその圧倒的に優位なスペックを生かし、堅実なグリップ走行でラインを維持してハチロクのドリフトを牽制しつつレースを優位に進めていた。

だがしかし、勝者はハチロクであった。

 

(なんてものを見せてくれたのかしらッ…!!)

 

自分の中にある車を愛するドライバーとして心にあるレースへの情熱に火がついてしまった。

それはまさに首都高であのブラックバードや悪魔のZと偶然遭遇してしまったときのように。

自分も走りたいと思ってしまったのだ、身の程知らずにも勝負を仕掛けたいと思ってしまったのだ。

首都高ではブラックバードどころか時折見かける白いR32にすら勝てたためしがないというのにもかかわらず。

それこそ、すべきではないとわかっているのに愛車のカウンタックの前でグダグダ悩んで百面相を晒すという状態になってしまうほどに。

やってみたいのだ、愛車と自分の実力を今試してみたくて疼いてしまっているのだ。あのウマ娘が走るのだからそこに乱入してみたいと考えてしまっているのだ。

だがしかしそれはやるべきではない。中央のウマ娘として、競争ウマ娘として、一人のウマ娘として、マルゼンスキーとして、やってはいけないのだと理性ではわかっているのだ。

ただ相手に迷惑をかけるだけだ、あのバトルの余韻を汚してしまうただの蛇足になってしまうのだ。

 

「ふむ…つまり正体がばれるのが問題、と?ならば問題ありません」

 

「うわっ!?いつの間に!?」

 

「お久しぶりです。解りますよ、あんなのを見せられちゃったら黙ってなんかいられませんよね?」

 

注意散漫だったとはいえいつの間にか背後に立ってにこりと微笑むノルンファングにマルゼンスキーは飛び上がってしまいそうになるほどに驚いた。

そんなマルゼンスキーにくすりと笑うノルンファングは、ちょいちょいと手招きをする。

 

「いい手があります、こんなこともあろうかとというやつです」

 

ついてこいということだろう、その背中についていくとそこは群馬トレセンから来た車がひとまとめにされている駐車場だ。

その中に止められている一台のオリーブドラヴ色のSUV『パジェロVR―Ⅱ』の前で止まった。

 

「私の車です」

 

「SUVなの?てっきりスポーツカーなのかと思ってた」

 

「私のハゴは普段使いに向かないので普段はこれなんです。もちろんこれでも走れますよ?パジェロ大好きなので」

 

「SUVでもできるものなの?」

 

「走り屋は好きな車を使えばいいんですよ、芦名だと軽トラのキャリィで走るお爺さんもいます。

峠にレギュレーションなんてありませんからね、そもそも車すら使わないヤベーのが生まれるわけでして」

 

ノルンファングはそういうと後ろに回り、荷台の戸を開いて中から無骨なトランクケースを引っ張り出す。

ケースには群馬トレセンの校章ではない見慣れないマークが描かれていて、妙に使い込まれているように見える。

 

「私の私見ですが、そういう時はやって後悔した方が絶対いいと思います。乱入バトルはお勧めしませんが、特等席で見るくらいは彼女も怒りませんよ」

 

「そうもいかないわ、私にだって今は立場があるの」

 

「好都合じゃないですか」

 

トランクケースを開けて中身を漁るノルンファングはあっけらかんと返す。何とも気楽に返すものだ、彼女も責任のある副部長であろうに。

 

「逆に考えればいいんですよ、責任とれるならやっちゃってもいいんです」

 

「何を言ってるのあなた?」

 

「罰金で済むなら払っちゃえってことですよ。やりました、罰金です、はいどうぞ、これだけです。それにですね?」

 

ノルンファングはトランクケースの中を漁りながら言葉を続ける。

 

「犯罪はばれなきゃ犯罪じゃないんです。これ、尊敬する先輩たちからの教えでして」

 

「絶対に参考にしちゃいけない先輩だと思うわ」

 

「今ここで踏み出すか否か、それを決めるのはマルゼンスキーさん、あなたの意志だけです」

 

ノルンファングの言葉に胸の奥で大きな鼓動が響くのを感じた。

 

「峠にあなたを縛るルールはありません、出走規則も、年齢制限も、戸籍で云々なんてのもありません。

生まれも育ちも資格も経歴も何もいらない。走るも走らないも自由、必要なのはあなたの意志、それだけです」

 

これは麻薬だ、これは悪魔のささやきだ、聞いてはいけない、それなのにどうしてこうも耳心地のいい言葉なのだろうか。

彼女は答えを待つかのように振り返り、トランクケースから出したそれを差し出す。

ノルンファングが差し出したのは額にナンバーが振られた色とりどりのバラクラバ、そして見慣れない校章をつけた学校の制服だった。

 

(本当に、無謀なことやってるわね、私!!)

 

マルゼンスキーはその話に乗った、そして自分がどれだけ無謀なことを考えていたのか身をもって実感した。

着慣れない上にサイズもあっていないどこの学校かもわからない制服を着ていて、バラクラバなんてものを被って少し窮屈な状態だとしてもそんなものは関係ない。

自分は乗った、変装をして車に細工をして、特等席で彼女の本当の実力をその眼で見る選択をした。

 

「…ッ!」

 

短い直線の後にすぐさまやってくる左コーナーに息が止まりそうになりながらなんとか車体を制御して曲がる。

グリップ走行でもドリフト走行でもない、ましてやインベタなどという高度なテクニックを使っているわけでもない。

ただ道路一杯に使って何とか速度を維持して目の前のウマ娘について行っているだけの走りだ。

しかしそれがマルゼンスキーの限界であった。

 

(現実とVRウマレーターじゃ違うというのは理解していたけれど、これほどとは!)

 

コーナーを抜けた際に落ち込んだ速度、これをアクセルを踏み込んで何とか取り戻す。このエンジンの馬力が心強い分恐ろしい。

トレセン学園ではVRウマレーターを使用し、愛車であるカウンタックのデータをコンバートして練習に使って峠に対してはある程度理解したと考えていた。

だからこそスポーツカーというアドバンテージの強さを身をもって知り、それでダウンヒルを走るという難しさも理解していた。

そしてその状態のスポーツカーに勝負を挑む彼女のとんでもない実力にもだ。

 

(一瞬でも気を抜いたら、タッちゃんがいつものタッちゃんじゃなくなる、制御しきれない)

 

もしこんな速度で制御を失えばすぐさまガードレールを突き抜けて山の下に真っ逆さまか、林の中で爆発炎上である。

それが容易に想像できる中、電灯もまばらで視界が悪い峠の坂道を全力で駆け下らなければならない。

VRウマレーターでもある程度は再現できていたがやはりデータ上の産物でしかなかった。

現実ははるかに暗く、見通しも悪く、何よりも一挙一動が心臓に悪い、一歩間違えればお陀仏だと身をもって理解できる。

そしてコーナーに限らずそこかしこにいるギャラリー、この一人一人の姿がとんでもなく精神を圧迫する。

もしひとたび制御を損なえば最悪の場合そのギャラリーたちをなぎ倒すことになりかねないのだ。

自分の1ミスが他人の命を容易く奪う凶器に愛車を変える、車好きとしてここまでの恐怖はそうそうない。

彼女たちも多少はそうなる危険を理解して見物に来ているのだとしても心理的恐怖と圧迫感は消えることなんてないのだ。

それをシマカゼタービンはしっかりと飲み込んだうえでこうして走っているのだ、生身の体と言えどありえない話ではないのに。

 

(勝負なんてできたもんじゃない、ついていけてるのが奇跡よ!)

 

これで乱入勝負なんてしかけて居ようものなら全く歯牙に掛けられずに自分はぶっちぎられていたことだろう。

それほどまでに峠レースでの技術には差が有った、シマカゼタービンの生身の走りにカウンタックに乗った自分は確実に負ける。

勝負にならずに惨敗する、最初のコーナーで千切られて延々と先をいかれて勝負にすらならないだろう。

そんなの愛車であるカウンタックに泥を塗るだけ、車好きである自分を嫌いになってしまうだけだ。

だがかといってこの特等席を保持するだけでも彼女の実力と走っている環境の恐ろしさが分かってしまう。

勝負をせずに後ろに追従するだけでも並みの実力では不可能だ、マルゼンスキー自身こうしてまだ追従できているのは奇跡に近いとすら感じていた。

多少練習していただけではどうにもならない、以前に見かけたナリタタイシンがR34を伴って同じことをしたとしても置いていかれてしまうだけだろう。

置いて行かれないだけの技量はあった、しかしそれが限界だ。ここから一歩でも無理をすれば確実に死が見える。

レースは楽しいものだ、レースは面白いものだ、ずっとそう思ってきた。厳しい事や残酷な事はあっても変わらなかった。

だがこの峠のダウンヒルはそんな理念や経験なんてものを飛び越して『死』が見える、『恐怖』が見える、面白いのにどこまでも恐ろしい。

その先にシマカゼタービンの背中が見える、この死の先を彼女は走っているのだ。

気を抜けば見惚れてしまうほどにその背中は美しい、今まで幾度となく強敵を目の当たりにしてきたはずなのにその中でもダントツだ。

競争ウマ娘だからこそわかる機能美とその実力から感じる狂気、そこに至ってなおさらに先を行くまるで限界が見えない実力。

踏み込み一つ一つが異質極まりなく、物理法則に喧嘩を売っているようなドリフトもさることながらそれを制御する異常な身体能力。

その全てを完全に発揮できるのがこの峠なのだ、一緒にレースを走ったからこそマルゼンスキーにはそれが理解できた。

悔しい話であるがトレセン学園で走ったあのレースの彼女は本当に実力を出し切れていなかった。

あくまで平地、むしろ自分達にアドバンテージがあるレースだった。それでも完敗したが。

もしただ公式レースに出ていてウマ娘レースの世界にしかいなかったらきっと知る事はできなかっただろう。

 

「撮れてる?これ、撮れてるわよね!?」

 

撮れてなかったら泣きたいどころの話じゃない、マルゼンスキーは何度目かもわからない独り言をつぶやきながら助手席側に取り付けたスマートフォンラックと起動しているスマートフォンに目をやる。

ハンズフリー会話用に取り付けていたスマートフォンラックを延長して前方をカメラで撮影できるようにしただけだが、無いよりは絶対マシだ。

きっと戻ったら滅茶苦茶怒られるのである、そしてシンボリルドルフやディープインパクトにめちゃくちゃ羨ましがられるし連れて行かなかった嫌味を言われるのである。

ここまで肝が冷える思いをしているのだ、お願いだからせめて使える分のデータは取れていてほしいと願うばかりだった。

 

 

 

 

 

 




あとがき
なおこの後マルゼンスキーはきっちり怒られてがっつり絞られて責任を取らされるが、終始いい表情で後悔の欠片もなかった模様。
マルゼンさんの変装はノルンファングのアビドス高校制服もとい覆面水着団コス。
ノルンが何で持ってるのかって?なんかあった時にうやむやにするのに便利だからです。
というわけでソロタイムアタックの一幕、うちのUMA娘がマジで公式なんぞ知ったこっちゃねぇ!!になってる有様。
これほんとにお前URAファイナルズ予選行くんかお前と思わざるを得ない…まぁやるんですけどね。

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