いつも多くの誤字報告、感想をありがとうございます。
この物語は本編やその他の世界線には何も関係がないIF、並行世界における出来事です。それではどうぞ。
IF1・オグリキャップの災難 ☆
オグリキャップ、それは中央レースにおける伝説。地方レースからやってきた芦毛のシンデレラ。
これまで多くのレースを走り、多くの名誉と伝説を作り上げてきた彼女は…担当トレーナーである六平のトレーナールームの片隅で見事に燃え尽きた抜け殻と化していた。
文字通りの抜け殻だ、部屋の隅で体育座りして一歩も動かず、親友のベルノライトの声掛けにすらわずかな返事しか返さない。
一体何が起きたのだろうか?知らない者が見たら不思議に思い、そして一つの違和感に気付くだろう。
オグリキャップから感じる奇妙な違和感、それは彼女の頭部がさみしいという事。最終防衛ラインが後退したとかいう話ではない。
彼女がいつも身に着けている髪飾り、五つのひし形を連ねたようなデザインのそれが今はない。
簡単な話だ、髪飾りは壊れてしまったのだ。少し前の練習終わり、レース場の出入り口で段差を踏み外した拍子にオグリキャップの頭から擦り落ちたそれは簡単に壊れた。
髪に固定する櫛の基部部分からひし形の飾りの内側が二つ、ぽきりと折れてはじけ飛んだ。
その光景にあのオグリキャップがこの世の終わりのような、ガラにもない絶望の悲鳴を上げたのは言うまでもなく、その事件は知り合いに瞬く間に広がった。
落とした際に塗装も剥げ、赤く変色した破損個所をのぞかせた髪飾りは部屋のデスクの上に安置されている。
「おーいオグリ、生きてるか?」
「あ、北原さん」
それこそ、カサマツトレセンに勤める前トレーナーである北原まで駆けつけてしまうというくらいには。
北原は相も変わらず燃え尽きているオグリキャップを見て小さく嘆息する。こんな姿は自分が担当していた時も見たことがない。
それだけこの髪飾りは大切なものだったのだ。
オグリキャップ曰く、それは母が現役時代に走っていた時からつけていたものをカサマツトレセンで走っていた時にプレゼントしてくれたものだという。
以来、肌身離さず持ち歩いてきたかけがえのない思い出の品である。
そこには今までオグリキャップがレースの中で築き上げてきた思い出も、その先代の母が走ってきた思い出も詰まっている。
まさに酸いも甘いも美味しいも、オグリキャップの全てがそれには詰まっていたといっても過言ではない。
それが壊れたのだ、いや、壊れただけならばまだよかった。実のところ、壊れた当初は慄いたオグリキャップも少ししたら落ち着いていたのだ。
元々古いものであるし壊れる時は壊れる、壊れたのならば直せばいい。飾りが折れてしまうのは落としてしまったからしょうがない。
自分の不手際だし、しばらく無しで頑張るよ、と。一週間前のオグリキャップは少し寂し気に笑っていた。
ベルノライトと北原の頭を悩ませるのは、この髪飾りの修理が考えていたよりもはるかに難航してしまっていたことだ。
「どうでした?」
「いや…言いにくいんだが、俺のほうはダメだった。知り合いの工場とかかたっぱしから頼んでみたんだが…」
厄介なのがこの髪飾り、修理しようにもできないのだ。いくら髪飾りの専門家や、この手の小物修理に長けた場所をあたっても断られてしまう。
最初、オグリキャップは自ら校内で勝負服などの修理を担当している部門に赴いて修理を依頼しようとしていた。
レースで激しく酷使する勝負服に破損は付きものでオグリキャップも面識がある職員が多くいた、そこならば多少専門外でもなんとかなると思っていたのだ。
しかし無理であった、顔見知りの修理担当は髪飾りを見て少し調べた後、とても難しそうな顔をして首を横に振った。そこから雲行きが怪しくなった。
理由はこの髪飾りそのものの造りであった。元々そこまで値打ちのある造りはしていないし宝石などもない、作りも簡素で手の込んだ代物でもない。
直そうと思えば簡単に直せるだろう、そこまで金もかからないだろう、そう素人考えで即決するくらいにはちゃちな代物。
ちゃちな代物過ぎて修理を仕事とする根っからの職人の手には逆に余る、経年劣化も起き、さらに酷使されていて疲労による負荷も激しく、修理すると言ってもどこから手を付けるべきか分からない代物だったのだ。
元よりレース用ではない普通の髪飾りだ、オグリキャップが思っていた以上に髪飾りは酷使されて消耗していた。
本番どころか練習でも使われ、日常的に使っていたというこの状態で下手な手を打てば逆に破損を悪化させ修理不能になりかねない。
さらに言えばこの髪飾りは『オグリキャップの髪飾り』である。オグリキャップの伝説を一緒に駆け抜けた伝説の品ともいえるそれを下手な修理で壊すわけにもいかない。
それが一週間前、髪飾りの破損から二日後の出来事である。
「できると思ったんだがな…」
「仕方ありませんよ」
北原は学生時代のツテも使い、この手のリーズナブルな代物を扱う工場に就職した知り合いに尋ねていたのだがそこでも首を横に振られていた。
出来ないことはない、けれど部品がまるでないし絶版なら代替可能な品を調べる所からやらなければならない。
はっきり言ってしまえばこれを直すのに必要な労力と資金がまるで釣り合っていない、と彼は言っていた。
それでも直せと言うなら直すのが仕事であるが、それにかかりきりになると他の仕事が回らないのだとも。
何よりこれは『オグリキャップの髪飾り』なのだ、失敗したときのリスクも極めて高いとなればなおさら慎重になる。
一応上司には相談してくれたが、彼の上司もオグリキャップの品となればと悩み、やがて心苦しそうに首を横に振った。
「メーカーだけでもわかりゃぁなぁ…」
「さすがに昔のことですし」
メーカーに直接あたろうと思っても、年代物の髪飾りにはそれらしい刻印はなかった。プリントされていたのならきっと経年劣化ではがれたのだろう。
ならば母親はどうかと思って連絡したが、これを付けていた母親でさえメーカーを知らない。
ただ街の片隅にあった老夫婦が営む雑貨店で一目ぼれして買っただけで、メーカーも何も考えておらずただこの形が好きなだけで買ったそうだ。
その雑貨店に探りを入れようとも月日の中ですでに店を閉めていて、店主の行き先は不明。
地元に住むベルノライトの両親に聞いても、高齢化で店を閉めて息子夫婦の家に引っ越しすると聞いて以降は知らない。
一応その住所も調べたが住宅地はすでに無く更地となっていた。
「おーぅ、戻ったぞー」
「あ、ロッペイさん、お邪魔してます」
「六平だ。そっちはどうだった?」
「ダメです。費用と時間が見合わないし、他の仕事に支障が出るからって断られました」
「こっちも同じようなもんだ。知り合いの連中に声を掛けたが、みんな簡単なようで難しいって突っぱねやがった。
リスクもたけぇし、直すならいっそ特注して新造しちまった方が安いし頑丈にできるってよ」
「特注ですか…」
「おう、勝負服の部品となればそんなの当たり前だからな。だが完全再現となればサンプルが必要になるし、バラさにゃならん」
わかるだろ?と六平銀次郎は言葉を切った。その先のことは北原とベルノライトには想像がついた。
完全な複製品を製造するなら、しっかり採寸して形状を調べ上げるのはむしろ当然のことだ。
サンプルとして提出した髪飾りは構造を調べるために修復不可能になるまでバラバラにされてしまうだろう。
修理不能だけどこれじゃないとだめだから、という事ならば言い訳にもなる。制作側も気合いを入れて仕事をやりやすいというわけだ。
むしろオグリキャップの髪飾りを作り直したとなれば箔が付く、気合いを入れて素晴らしい物を作ればより多く。
そうして出来上がった髪飾りはレースの酷使にも耐える素晴らしい逸品に仕上がるだろうが、それはあくまで複製品だ。
「そんなのダメだ…」
小さくか細い否定が部屋の隅から飛んでくる、見るとオグリキャップが明らかに憔悴しきった顔を上げて首を横に振っていた。
「分かってるよ、あれはあれじゃねぇとダメなんだろ?」
「すまない、トレーナー」
「いいんだよ、気にすんな」
しかしどうしたもんか、六平は頭をひねる。現状、自分たちにできる手段は出尽くしていたといってもいい。
廃棄して別物にするならば、それこそ同じ型の品を見つけ出すほうがまだ受け入れやすいだろう。
同型品があるかどうかはベルノライトがすでに両親に尋ねたが不発に終わっている、ウマ娘用スポーツ用品店を営む傍らこういった装飾品も多少仕入れてはいたがそう都合よくはいかなかった。
もとより古い品物であるし知り合いの店や持ち主が使わなくなった古い商品倉庫にあるかもと考え、両親の協力のもとカサマツトレセンの友人たちに依頼して捜索もしたが不発。
自分自身も、実は倉庫の奥に埃をかぶっていたなんて展開を期待して実家の倉庫を片っ端から調べたりもしたがそううまくはいかない。
「いっそジャンクでも見つかれば…」
「ニコイチか?」
「えぇ、カサマツでたまにやってましたから」
保存が悪くて破損した同型ジャンク品でも見つかったなら、それから部品取りをしてニコイチにするなど話は変わっていたのだがそういったモノも見つからない。
八方ふさがりだ、ここまでくるといっそまったく新しいものに付け替えて代替わりさせたほうがオグリキャップの精神的にもいい。
一時はつらいかもしれないが、オグリキャップも壊れること自体は理解している。受け入れるのに時間がかかるだけだ。
「おぅ、オグリ!いるかぁ?」
「タマ…」
「おうゎ、なんやますますひどい顔になっとるなぁ。朗報やで、髪飾りを直せそうなヤツ見つけたんや」
「タマ…また断られたりしないか?」
「一応写真見せたらできそうって言ってたで。ツバキの知り合いなんやけどまたえらいかわ―――」
「それは本当か!?どこにいるんだ!!」
電光石火、即座に再起動したオグリキャップがタマモクロスの体に飛びつく。
「どこだ!どこにいるんだ!!」
「すごい食いつきっぷりやな…何かあったんか?」
「実は…」
せっかく骨を折ってもらって悪いのだが、事態はそう簡単な話ではない。ベルノライトは北原や六平が四方八方を回って起きたことを掻い摘んで説明した。
それを聞くとタマモクロスは納得したようにうなずく。
「そうか、オグリは有名になったからなぁ…尻込みすんのも分かるわ。ま、あいつは大丈夫やろ」
「どういうことです?」
「さっき言うたやろ?変わり者やって。実際、相当変な奴やからなぁ。
放課後にガレージで待っとる言うてたから、行ってみるとええで?」
「…危ない奴じゃないだろうな?」
北原の脳裏には学内で偶然見かけたゴールドシップ、アグネスタキオンの破天荒な姿が過る。
このトレセン学園に通うウマ娘は良くも悪くも濃ゆいのだ。
「北原はん、あんたが想像した連中のことはよーくわかった。そっちじゃないから安心しとき」
「それはそれで大丈夫か?」
「王女様でも皇帝様でもあらへんがな!変わり者なんやが、悪い奴やないで…まぁ、口で言うより会ったほうが早いねん」
説明し辛いやっちゃで、と苦笑いするタマモクロスに少し不安感を覚えながらも、ベルノライトとオグリキャップは放課後にタマモクロスの教えてくれたガレージに行ってみることにした。
◆◆◆◆
日本ウマ娘トレーニングセンター学園、通称トレセン学園は全校生徒ウマ娘2000人を擁するマンモス校である。
故に出入りする人間も多く、関係者の人数もそれに比例してすさまじい人数になる。
それに対応するため、学内には複数個所に大きめの駐車場を配置し利用者の利便性に配慮して運用されている。
しかし歴史が長いこのトレセン学園の中で、その運用に統廃合と方向性の変化により人気の消えた区画ができるのは当たり前だった。
トレセン学園内にある古いガレージ式駐車場の複数固まった区画、名前もなく駐車場ガレージ区画とだけ呼ばれる其処もその一つ。
かつてまだ車の価値が高く性能もまちまちであった時代、シンボリ家、メジロ家など大御所のウマ娘を送り迎えする高級車を収容し、車の簡単な整備や運転手の常駐のために作られた一両収容の2階建てガレージを複数建ててあった場所だ。
現代は車の進化、運用の変化、学内施設の変遷で使用されなくなり、清掃員が定期的に巡回する以外は人気があまりない場所だ。
当然ながらガレージは内も外も荒れ放題であり、興味本位で忍び込むウマ娘達のせいで半開きになった壊れたシャッターなど廃墟じみた個所もある。
それはオグリキャップとベルノライトも知っていた、入学初期に散歩がてらこの区域に入ったことがあり、一度だけ見た後すっかり忘れていた。
「驚いたな、ここに住んでるのか?」
そんな場所に再び足を向けたオグリキャップは、まずその変化に驚いた。
ガレージ区画の出入り口周辺のみであるが、確かに人の手が入っており日常生活の雰囲気が漂っていたのだ。
荒れ放題になっていたガレージの外観は、古びた状態ではあるもののきっちりと整備し直されて小綺麗になっており放置されていた工具箱や空のドラム缶などは消えている。
タマモクロス曰く、この区画に彼女の知り合いを含めた数名が入学と同時に入居して暮らしているようだ。
トレセン学園にはちゃんとした寮が二つあり、普通はそこのどちらかに入寮する決まりとなっているが、入学してきた生徒は煩雑な手続きをして許可をもらったマルゼンスキーやミスターシービーのようなタイプらしい。
そのガレージのうちの一つ、表札に『瀬名』と札が掛けられたガレージ。そのシャッターの横扉をオグリはノックした。
「はーい、ちょっと待っててくれー」
間延びした返事が返ってきて、少し待つとドアが開く。
「どちらさんで…あぁ、あんたがオグリキャップさんとベルノライトさんか?ツバキから聞いてるぜ」
「あぁ、君がシマカゼタービン?」
「そうだ、こんな所まで来てもらって悪いな。入ってくれ、立ち話もなんだ」
ドアを開けてくれたのは蒼い短髪のどこか大人びた表情のウマ娘、右目が青く、左目が赤いオッドアイが特徴的でどことなくツインターボを思わせる。
彼女も帰って来たばかりなのかトレセン学園の制服姿のままで、口には棒菓子のようなものを咥えていた。
彼女は大人びた仕草で踵を返すと、二人をガレージの中に招き入れた。
ガレージ内はきれいに整理整頓されており、中央部にはダークブルーのスポーツカーが駐車されていた。
トレセン学園ではあまり見ないその車種に思わず目が行く、一番有名なマルゼンスキーのカウンタック以外は目にすることはない。
「おぉ、すごい車だな」
「俺の愛車だよ、実家におきっぱだと整備し辛いから持ってきた」
「だから寮じゃなくてここに住んでるんですねぇ…」
「俺の自慢でね。さ、こっちだ」
シマカゼタービンは心なしか誇らしげにスポーツカーを見てから、ガレージ奥の作業場に二人を案内した。
作業場はオグリキャップとベルノライトには何に使うかわからない機材や部品、オイルなどが所狭しと置かれていて見るからに作業場である。
シマカゼタービンは部屋の隅に片づけてあったパイプ椅子を二つ持ってくると、それを広げて座るよう促し。
その奥にある作業用デスクの椅子にシマカゼタービンは腰かけると、デスクのライトをつけてから足を組んで二人に向き直った。
「さ、まずはモノを見せてくれ。話はそれからだ」
「解った、これなんだが…」
「どれどれ?」
オグリキャップは通学鞄に入れていたプラスチックケースを取り出し、ふたを開けてシマカゼタービンに渡す。
その中に安置されていた髪飾りを一瞥し、一言断って彼女はケースごと髪飾りを受け取るとデスクの上でその一部を手に取り上げた。
心なしか引き締まった顔つきでじっくりと飾りの取れた髪飾りを見分する彼女は、先ほどの緩い表情とはうって変わった鋭い視線をしており真剣に見ているのがうかがえる。
「こりゃひどいな、経年劣化と赤錆でボロボロじゃないか。ちゃんと手入れしてなかったな?」
「いや、ちゃんと汚れは拭いたり水で洗ったりはしていたぞ」
「オイルかグリスで仕上げはしてたか?」
「なんだそれは?」
「やっぱり…話にゃ聞いてたが、こいつはそもそもレース向けの装飾じゃない、予め謝っとくがこれは安物だ。
基部はステンレスじゃねぇし、各種ネジや部品も防錆加工はいまいち、売れるまでそのまんまならそれでいいってパターンだなこりゃ。
一旦バラすぞ、やって良いか?」
「直るのか?」
「できる、時間は少し貰うが大丈夫だ」
シマカゼタービンがオグリキャップに向き直る。その自信ありげな表情と真剣な眼差しに、オグリキャップは何故かぞくりとした。
彼女は確信している。間違いなく、これは直せると。その自信に、自分はどうこたえるべきか?
「頼む」
あいよ、と彼女は軽く答え。迷うことなく工具箱を開き、中を見ることなくドライバーを手に取ると淀みない手つきでネジを外しだす。
ドライバーでネジを回し、動きが悪ければオイルを吹き、丁寧にされど迷いなく。
その手慣れた手つきに、実家に出入りしていた業者を思い出して思わずベルノライトは感嘆の声を上げた。
「すごい…」
「別に普通だぜ、車弄ってりゃこれくらいできるさ。ほら、見ろよこのネジ」
シマカゼタービンが無事な髪飾りと装飾部位を固定していたネジを取り出して見せる。
そのネジの姿は赤茶けた汚い汚れがまとわりついており、素人目から見ても異常なことが分かる有様だった。
「こいつなんか赤さびでネジじゃなくなってら、もう使えんから別のヤツを使うぞ」
「部品があるのか?」
「類似品になるがな。無事なのを見た限りこれならイギリス製の小ネジが使える。輸入品だったのかもしれんな、日本製っぽくない造りだ」
「そこまでわかるんですか?」
「お国柄ってのは案外消せないもんさ、外車弄るとよくわかるぜ」
見ている間にどんどん解体され、残っていた飾りはすべて外されてほとんどバラバラにされた髪飾りを見てオグリキャップは不思議と納得してしまった。
「これはひどい」
「うわぁ…」
「だろ?」
見た目は今まで問題はなかった、だが見た目ではわからない部分のパーツの隙間や可動部の奥まった場所など赤錆や白錆を身にまとった無残な個所が白日の下に晒されていた。
はっきり言えば赤錆と白錆、さらに汗や髪の毛などが固まったよくわからない汚れなどの塊が隠れた場所に付着しまくっていた。
この姿を見るとお気に入りの髪飾りと言えど、こんなものを付けていたのかと一瞬考えてしまう。
あぁ、そういえばこの前髪を洗ったときに赤土っぽいものがじゃりじゃりしてたな。それ、これからはがれた錆だったのか。
「こりゃ無事な塗装の下も錆が進行してるかもしれんな、一度剥いて金属部品は錆落とししてから黒染めしたほうがいいかも」
「黒染めとは何だ?」
「黒錆で部品を黒く染めるんだ。酸化被膜って言われるな」
「錆させるのか?わざと?」
「黒錆はこの赤さびと違って他の部位に浸食しないんだ。人類の知恵ってやつさ、どうせ錆びるなら都合のいい錆で先に覆っちゃおうってな」
「あ、それ確か私も聞いたことがあります。たしかスポーツ用品の部品でもやってるのがあるって」
「あれは選手が汗をかいた手でべたべた触るからだな、塗装で覆っても対策としてやっておいて損はねぇ。金属に塩気と水気は天敵だかんな。
さてと…うん、造りは単純、部品もほぼほぼ再生できそうだがネジは変えなきゃダメだな…ふむ」
完全にバラバラにされた髪飾りの部品を一つ一つ見分し、シマカゼタービンは小さくうなずく。
「少し時間をくれ、三日くらいしたら連絡する。任せな、がっかりはさせねーよ」
◆◆◆◆
三日後…
「で、この状態か」
六平のトレーナールーム、以前はそこで屍のようになっていたオグリキャップが待ちきれないとばかりに、まるでクマのようにうろうろしている姿を見て呆れたように嘆息した。
それを一緒に見ていたベルノライトは、打って変わってどこか懐かしむように遠い目をする。
「ホントに直せるのか?俺の知り合いだって一流だったぞ、言っちゃぁ悪いがただの学生にそんなこと」
「普通に考えたらそうなんですけど…シマカゼさん、断言したんですよ。ほかの人が無理だっていうのに」
「安請け合いじゃねぇのか?」
「そんな風には見えませんでしたよ、作業少しだけ見せてもらったんですけど確かに修理してましたし」
なんだそりゃ?六平は思わず眉を吊り上げた。この際、髪飾りを本気でばらされたのは良しとしよう。オグリキャップも認めたうえでやったことだ。
しかし、いくらトレセン学園の生徒とはいえただの一生徒ができる修復作業程度で、本職の人間が匙を投げたそれを何とか出来るわけがない。
「カサマツでもおんなじでした、懐かしいですね」
「ほーぅ?」
「な!?それは言わない約束!!」
思いもよらぬ方向からやってきた裏切りの一撃に赤面したオグリキャップがわたわたし始める、
いつもより騒がしいが、いつもの日常に戻ってきたように思えて思わずほっとする六平の耳にやや控えめなノックの音が響いてきた。
「どうぞ、開いてるぜ」
「失礼します、お届け物に来ました」
「シマカゼ!!」
「おぅ!?いきなりだな、落ち着け落ち着け。ほれ、開けてみ?」
シマカゼと呼ばれた彼女は落ち着け落ち着けと笑いながら今にも突進しそうなオグリキャップを諫めて部屋の中に入って来る。
どうやら同じトレセン学園の生徒らしいが、六平はそこで違和感を覚えた。
(こんな奴、いたか?)
トレーナーだからこそわかる、完成された競争ウマ娘として鍛え上げられた身体は制服では隠しようがない。
見れば見るほど見惚れんばかりに鍛え上げられ、今走っても楽々勝利を掲げられそうなほどに磨かれた立ち振る舞い。
そんな彼女を、六平は今までレース場どころか練習場ですら見たことがなかった。
まだデビューしていない新人ならばそれもありそうだが、彼女の体つきはデビュー前のそれとは比較にならない完成度を誇っている。
何モノだこいつ?そんな怪訝に感じていた六平をよそに、オグリに案内されて来客用のソファーに座った彼女がバッグから取り出したケースをオグリはそわそわしながら受け取っていた。
それを一瞬の緊張とともにごくりと唾を飲みこみ、蓋を開いて、中に安置されたそれを手に取り思わず目を見開いた。
「直ってる!!」
「すごいきれい!」
「驚いたなこりゃ…」
塗装はきれいに塗られた上に慣らされ、塗りむらもなく綺麗に光を反射し、稼働部位も今までの動きがなんだったのか疑問に思うくらいにスムーズ。
破損していた髪飾り部分も狂いなく整備され、よく見るとプラスチックの宝石風装飾の輝きも前と違うものに見える。
「お前さん、どうやって直した?ほかの連中が匙投げてたんだぞ」
「別に特別なことはしてませんよ。ダメな部品はうちにあったのと取り換えて、部品全てを黒染めしてから再塗装しただけです。
まぁ塗装は耐久性と修復性を考えて、よく似た色のウレタン塗装に変えたんで手触りが違うかもしれませんが―――」
「す、すごいぞベルノ!この髪飾り、前よりきっちりくっつくぞ!まるで吸い付くみたいだ!付けてみろ、みればわかる!」
「わ、ほんとだ!滑らない!!」
「…問題ねぇみたいだな」
「そのようで。では、自分はこれで」
「待ちな」
何にもなかったかのように出ていこうとする彼女を六平は止める。
「名前を聞いてなかった、俺は六平だ。今回は助かった」
「シマカゼタービンです、いえいえ、お役に立てて何よりです、では」
「シマカゼ、本当にありがとう!!」
「気にすんなよ、同じ学校の生徒なんだ、困ったときはお互い様だ」
じゃな、と軽く言って彼女は部屋を出ていく。その背中を見送って六平は小さく息をついた。
理由は分かった、彼女はオグリキャップをまるで意識していない。ただ同じ学校の生徒として手を貸したとしか考えていない。
思えば断られたとき、大体はオグリキャップの持つネームバリューもかなり邪魔だった気がする。
(それを気にもせずに手を貸してくれる豪胆な奴か…シマカゼタービン、覚えておくぜ。その名前)
あとがき
なんとなくちまちま書いていたIFルートの一幕。もしシマカゼ達がトレセン学園いたら、です。
今回はオグリキャップの髪飾りにちょっと骨を折ってもらってストーリーになっていただきました。
まぁここでも走ってねぇんですけどね、というかこいつ怪しさしかない。
しかもトレセン学園の中でも僻地みたいな場所に住んでる、まぁこれは群馬組がそうなんですが。
ちなみにオグリの髪飾りを直した理由は『ツバキに頼まれたから』なので、それ以外に理由は特にありません。
なんならオグリキャップの事を毛ほども知らない、たぶんえらい良く食う奴くらいにしか考えてない。
所で…実は『AIのべりすと』ってのでたまに遊んでるんですが、お絵かき機能、あれってすごいですね。
文章はあまりやってないんですけど、イラストは細かいとこはともかく一応まともなのいろいろ書いてくれますし。
変なのも出てくるけどそれはそれで笑えるんで、有料ですけど安いほうだしたまにガチャ気分でぶん回してます。
それでシマカゼタービンっぽくなりそうなレシピ作って遊んでたんですが、偶然ポンと出てきちゃったのが滅茶苦茶想像に近かったのでおまけで置いときます。
オッドアイって呪文で指定しないと滅多に出ないんですがこれは呪文無しでポンと出てきてびっくりしましたよ、指定してもほぼほぼ出てこないから半ばあきらめてたのに。
もうちょい髪色が明るめならもっとよかったんですが、それよりもやっぱり目がびっくり。
ちなみに絵に加工したりはできないのでそのまんまです、AI画像なんで細部は許して。
おまけ・遊んでたら偶然できちゃったアナザー衣装のシマカゼタービン
☆☆☆走るレースクイーン『シマカゼタービン』
【挿絵表示】
ターボ「ねぇねぇ!小町からこんなの来たけどどうしたのこれ?」
タービン「ゲッ…あー…この前サーキットのアルバイトの時にちょっとな、ほらいつものあそこ。イベントたまにやってんじゃん」
ターボ「なるほど、でも珍しいね?タービンがこんなアルバイトするなんて。お金なかったの?」
タービン「メカニックのはずだったんだよ…でも途中で嬢ちゃんが一人足やっちまって穴が開いてな。それで頼まれて仕方なく…」
ターボ「だからサイズ全然合ってないんだ(にやにや)他に写真ないか聞いてみよっと♪」
タービン「やめーや、見せもんじゃねぇぞ」
ターボ「えー?でも似合ってんじゃん」
タービン「めっちゃ恥ずかしかったんだかんな!みんなしてニヤニヤ写真撮りやがって!!」
ターボ「あ、イツキからきた」
タービン「あ・い・つ・も・居たかぁ!!」