気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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実は大波乱だった05年中央競馬の軽いお話、ぶっちゃけ話の軸がこいつだと事後報告にしかならん。
そしてそこをやろうとするとこいつが主人公できなくなるからしょうがない。
あと糞ローテとか無理があるとかは軽く流してくださいな、あと馬の健康診断なんてわからんので捏造。
それと明かされる衝撃(今更)な真実、とはいえ主人公にはなんも響かない。




第12話

 

新年気分も抜け始めた2006年、今日も今日とて群馬トレセン。俺はアルバイトに…ではなくて健康診断に来ております。

俺こう見えても競走馬、ドーピングとかしてないかの検査は定期的にあるのよね。

とはいえまだトレセンの中には入ってない、まだ社用の古い一頭用馬運車の中でボケっとしてる。

なんか妙に車が多いのよね、いつもならするっと入れる受付の正門に先客が2台いるし。

 

『すげぇな、駐車場が埋まってやがる』

 

古くなって壊れたところを補強した窓から外を見れば、群馬トレセンの正面口にある一般用駐車場に車がずらり。

普通の乗用車ばかりだけどこうやって並んでる光景。うわ、一列ハイエースで埋まってやがるところあるぞ。

 

「やっぱあの2頭目当てか?」

 

「ブルルッ」『じゃね?』

 

ダイオー達もだいぶ今年は暴れたって聞く、ダイオーはジャパンカップ、ノルンは秋の天皇賞を取ってるし。

今日はいないツバキも有馬じゃ5着だったが、その前にエリザベス女王杯とかいうので一着だ。

G1のでかい大会ってことしか知らんが、そこら中強い奴らばっかりだったろうによくやるぜ。

この前の有馬だってディープの走りもすごかったが、そのディープにずっと張り付いてるツバキもすごかったそうだ。

最後の最後で引き剥がされた上に割り込まれて5着になってたが、最初から最後まで徹底マークでへばりついてるのがすごいらしい。

俺にはいつものことだったけどな、模擬レースだとダイオーとノルンも同じことしてたし。

特集されて知ったがディープの応援もそうなんだけどツバキへの声援もすげーのなんの、白い稲妻とかなんのことかわからんが愛されてんのは理解できたぜ。

 

「よぅ、今日は盛況だな。あれか、やっぱあの2頭か?」

 

「えぇ、こっちに調整に来てるのはもう周知の事実でしょうからね。あの2頭で来年も中央と張り合う気満々発言の後に海外路線ほのめかしてましたし」

 

順番が回ってきた、親父さんが守衛さんに問いかけると肯定が返ってくる。そういやそんなことも言ってたな、海外遠征するとかなんとか。

 

「中央で暴れた地方馬で次は海外か…マスコミ、中まで入れてねぇだろうな?」

 

「もちろん、前の時に嫌ってくらい思い知りましたからね。今日のマスコミはみんな騎手と調教師たちのインタビューだけですよ」

 

あぁ、俺がディープと最初にやったときか。あの時はマスコミうざかったもんな、さすがに会社までくる奴はいなかったが。

馬運車が馬の搬入口近くの駐車場に止まると、親父さんがドアを開けてくれたので暇つぶし用の雑誌と小物が入ったクーラーボックスを咥えて外に出る。

係員の指示に従って親父さんの後ろにカポカポついていくと、見慣れた馬房に案内された。どうやらここで順番待ちらしい。

親父さんが話を聞いてくるので俺はそこで自分の番が来るまで待つ、これがまた暇だからいつも暇つぶし用にいろいろ持ってくるのサ。

綺麗に掃除された馬房の日当たりがいい場所で横になってのんびり車雑誌を読んでると再び馬房のドアが開けられる。

親父さんが帰ってくるには少し早い、目をやるとそこには見慣れた流星がまぶしいあいつがいた。今話題のホクリクダイオーである。

 

『ダイオーじゃねーか、脱走すんなよお前』

 

『ニシシ、今更たかが閂一つで僕が閉じ込められるわけないよ』

 

たぶんここの連中は分かってやってると思うがな、開けたところでお前はこうしてちょっかい掛けに来るだけで逃げるとかしないし。

 

『で?本音は?』

 

『最近僕の部屋の鍵が変えられちゃったから…カードでピッとするのは反則だよ』

 

どうせいたずらしたんだろ、それもしょうもないことを。カードキーとは奮発したな、こいつにナンバー式は効かんから大当たりだが。

 

『んで?何の用?』

 

『僕ね、次は大阪杯に出るんだって!ディープとおんなじレースだよ!』

 

『するとまた中央か?すごいな』

 

地方競馬の場合、中央レースに出るには踏む手順が多いと聞くがそれをやるあたり本気か。

 

『でしょ!ツバキの仇は僕が取る!!』

 

おお、やる気十分って感じだな、気負ってる様子もないし良きかな良きかな。

 

『やる気があるのは結構、だが怪我だけはするんじゃねぇぞ?』

 

『ダイジョーブ!毎日快眠!ぐっすり眠ると気持ちいいよね!』

 

『ならよし、健康診断は?』

 

『終わった!』

 

『なら…これ飲むか?』

 

駄弁るんなら飲み物あったほうがいいだろ、絶対顔合わすと思ったから用意してあるんだよ。

持ち込んだクーラーボックスを開けて、中から2リットルペットボトルに入ったジュース『はちみつレモネード』を咥えてダイオーに向けて差し出してやる。

大好物だろ?これ。おうおう、尻尾フリフリしてやがるぜ。

 

『アリガト。でさ、タービンは?どんなレースに出るの?』

 

器用に受け取ったダイオーが、はちみつレモネードの蓋を器用に開けて飲みながら聞いてくる。

 

『俺は高崎のオープンと榛名特別、そこから白蛇記念』

 

高崎オープンはダート1000、榛名特別はダート1200、白蛇記念がダート1600。ま、いつものコースだな。

これの賞金で半年分の登録料は賄える、うちが地方競馬に払ってるの登録料と保険料だけだから安いんだわ。

教えるとダイオーの顔色が渋くなる、というかすごいつまんなそうだ。ま、そうだろう。

 

『いつものじゃん…そのあとは?』

 

『特にないな』

 

『そんなのじゃなくてもっと先!白蛇から高崎記念とか、選抜でステップ踏んで大阪とか!春の天皇とか!』

 

『無いな、公式は。あとは…あ、そういや赤城の若いのがFDで最近来てるからまたやるかも』

 

かなり前に赤城遠征したときにやりあった若いヤツ、前は180だったが今はRX-7・FD3Sに乗り換えてやがった。

RX-7とはいえ不慣れな道で乗ってる奴もまだ馴染み切ってないから楽勝ですわ。

あれなら車を乗り換えたイケメン弟のほうが断然強い、延々と煽り散らしてぶっちぎってやったわ。

 

『また車…強いの?』

 

『車は強い、運転手はまだまだだ。でもロータリーエンジンが良い音してたな、次はどうなるか楽しみだぜ』

 

あの気持ちのいいくらい詰まりがないエンジン音、あれは気合い入れて整備してなきゃ出ない音だ。

親父さんのハチロクや敏則のトイチのエンジンに負けないくらい愛されてるってのがよくわかるよ。

それを俺がコーナーでインから追い抜く。あのエンジン音が一瞬真横にきて一気に後ろに抜けていくあの感じ、あの達成感…いかんな、うずうずしてきた。

でも平日だしな…週末が待ち遠しい。

 

『むぅ…良い顔してるし、レースだって面白いんだぞ!いっぱい応援してくれるのうれしいんだぞ!』

 

『んなこた知ってるよ、でも仕事もあるからそこらが限界だ』

 

それ以上行くとレース主体になっちまうからな、それじゃ酒造りをやめなきゃならんし峠を走る暇もなくなりそうだ。

走るのは趣味だかんな、仕事はあくまで酒造りなんだよ。そういう血筋ってだけだ。

何の因果か地方競馬に繋がったから金になってるだけ。お前らみたいなのとつるめるのは面白いからいいけどさ。

 

『そろそろ戻らんと騎手さん迎えに来るんじゃねぇの?見つかったらカードキー式どころじゃなくなるかもな』

 

『うげげ!?そりゃマズいヨー!じゃね、また今度走ろうね!』

 

『いつでも相手にしてやるよ』

 

慌てた様子で馬房から飛び出すダイオー。やれやれ、馬房のカギ閉めずに飛び出しやがった。

開いてたら開いてたで厩務員さんに迷惑になるから閉め直さにゃならん、まったくあいつは。

馬房のドアを閉めて、閂を差してしっかり固定しなおして…おや、さっきまで向かいの馬房は空だったはずだが?

 

『タービン?お久しぶりですね』

 

なんとなくドアの上から首を馬房の廊下に出してまじまじ見ると向かいの馬房に馴染みの顔がいるのが見えた、ノルンファングだ。

どうやらダイオーと駄弁ってる間に来ていたらしい。群馬トレセンの厩務員、やっぱわかっててやってんな。

俺とダイオーが駄弁ってんの見てたのに何も言わずに仕事だけしていきやがった。こりゃダイオー、向こうで怒られるな。

 

『おぅ、久しぶり。随分暴れたらしいじゃねぇの?ますます強くなってんじゃん、ダイオーといいツバキといいどうなってやがる』

 

『そういうあなたはますます速くなってませんか?聞きましたよ、最近はまたシビックと張り合ってるとかなんとか』

 

『勝ってるがな、今のところ』

 

俺だって負けてらんないぜ、最近はイケメン弟とがっつりドッグファイトしてるからな。

あいつもEJ1からタイプRに乗り換えてますます強くなってきてるぞ、前のEJ1が限界になるまで振り回してたしな。

最近はコーナーの際の際までべったり張り付けるインベタやるようになったから外から抜くしかなくて苦労するぜ。

やりがいあるけどな、おかげでだいぶ足が速くなったし。

 

『そういうお前も強くなっただろ、中央のG1を取っちまうんだからな』

 

『負けられませんから、ここまで来てしまったのであれば』

 

なんか顔つき違うなぁ、なんというか気負い過ぎてる感じがするな。なんか昔に戻ったみたいだ、最初にあったころはもっと思い詰めて機械みたいになってた。

まぁしょうがないか、去年の競馬は大波乱だったとかテレビの特集で言ってたもんな。

ダイオーはジャパンカップ、ツバキはエリザベス女王杯、こいつが天皇賞・秋、全員次に狙うは中央G1からの海外重賞だっけか?

確かディープ達もそうだとか言ってたが…よく知らんから何とも言えんがすごいことなんだろう。

海外遠征といえば前世で誰だったかな…あ、ジャスタウェイだ。漫画読んでたから覚えてる、ニュースでやってたな。

 

『気合い入れるのは良いが、気負いすぎんなよ?』

 

『大丈夫ですよ』

 

『そうは見えねぇな、寝れてないんじゃないか?』

 

目の下にうっすらクマが…とかわからんけど疲れた顔してるぞ。お前はだいぶ前から夜はぐっすりタイプになってたはずだがな?

 

『よく見てますね、最近は少し昔に戻ったみたいで…』

 

『寝れてないじゃないか。アス…じゃなくて競走馬は体が資本だぜ?』

 

俺の健康のコツは『よく食ってよく走ってよく眠る』だ。

俺は人間と同じように夜はぐっすり、馬になってからは超健康的な早寝早起きができるからな。

馬の睡眠って結構頻繁に起きるタイプらしいね、最初は親父さんも変な顔してたっけ。

まぁ体が慣れれば普通に寝れる、瀬名酒造のみんなも俺がちょいちょい教えてやったら寝れるようになったしな。

こいつとダイオーも同じ、ツバキも最近教えてやってからすこぶる体の調子がいいらしい。

ディープ?教えたら一発で寝てたらしいぞあの天才、大竹さんがガチでビビって電話してきたとか親父さんが笑ってたわ。

 

『みんな期待してくれてるんですよ、父の背中を超える私を。そう思うと寝てられなくて…つい自主トレを』

 

『何やってんだお前?』

 

『空気椅子を少々』

 

『何やってんだお前』

 

馬の体でできる自主トレで足を軽く鍛えるならってことで相談には乗ったけどよ…この分だとやっぱ入れ込み過ぎてんな。

確かミホノブルボンだっけ?こいつの親父、昔の中央競馬でクソ強い競走馬だったとか。

でもいくら親父が強くてもこいつはこいつだしな。

こりゃ、ツバキもおんなじことになってそうだな。たしかあいつらもいいとこの血筋だったはず。

誰だっけ、た、たま…タマモキャット?タマモナイン?タマモノマエ…いやトモエクロスだったかな?稲妻だし。

 

『バカやってんじゃねぇよ、ただでさえ昼間はギリギリまでやってんだろうにそれじゃオーバーワークじゃねぇか』

 

『わかってはいるんですけどね。でも最近はちょっと足りない気がして』

 

馬鹿野郎が。俺は思わず右前足を強く打ち付けた。その使命感は美徳だが、行き過ぎりゃただの毒だ。

そういう風にやる気を出して仕事に向かった人間の新社会人がどれだけぶっ潰れてると思ってる。

前世の俺の仕事場にだっていたぞ、純情で気のいい努力家だがちょっとおっちょこちょいな好青年がな。

でもその努力が認められてもっと重要な職場に転属してから、連日連夜の仕事三昧に潰されてそのまま病院送りだ。

そいつは死んじまったよ、酒におぼれてギャンブルに嵌って最後はぼろくそになって自殺しちまった。

俺はそいつと顔見知りで、ただの仕事仲間でしかなかった。相談に乗ってやってるつもりになって、結局何もしてやれなかった。

そいつは馬だって同じなんだ、人間の期待に応えようと無茶してケガする馬はどこにだっている。

走れない馬の行き先なんて決まってる、そんな風になるお前を見たくない。

 

『自惚れんな、たかだかG1一つ勝っただけでそんなこと言うなんて百年はえーわ』

 

『あなたは向こうの競走馬がどれだけすごいか知らないでしょう。こっちの馬だって知らない、だからそう言えるんですよ。

それに今年はうまくいけば海外に行く予定になるっていうんです。もっと強い馬がうじゃうじゃいるっていうじゃないですか、いくら練習しても足りませんよ。あなたにはわからない』

 

『そうだな、俺はそんなもん知らん。ここで走った連中しか知らん、で?』

 

俺の相手はなんだよ?お前は分かってんだろ、ミリオタお姫様。

 

『…あなたは強いじゃないですか』

 

『だからだよ、俺みたいな競走馬もどきの輓馬になんぞ負けてる馬がそんな風に気負うなんざはえーって言ってんだ』

 

俺は所詮『酒屋の輓馬』だ、それを越せなくて何が偉大な父だ。

お前たちはこれからどんどん上に行くんだぜ?それなのにこんなところで気負い過ぎてちゃ話になんねぇよ。

そんなんじゃお前は潰れちまうだろうが、知り合いの葬式に二度も顔出させんな。

 

『お前、俺に勝ったことここ最近あったっけか?』

 

無いだろ、お前も、ダイオーも、ツバキもディープも、この一年は俺に勝てたことないだろうが。

 

『無いです…』

 

『だろーよ…今度の模擬レース、疲れ残してたら承知しねぇぞ。弱っちいお前がもっと弱っちいとか話にならんわ。

 まずその親父の前にここにいる俺に勝ってみせろ。じゃなきゃ中央で勝とうが海外で勝とうが、偉大な父を背負う権利なんてサラサラねぇ、覚えとけ』

 

だからちゃんと自愛して休みやがれ、この馬鹿もん。

 

 

 

 




あとがき
06年、新年早々に入ってからのちょっとした動き。05年は波乱だったけど主人公はノータッチ。
05年はディープインパクト大活躍だったが、地方から出てきた伝説の末裔が並みいる強豪ぶっちぎってた模様。
現実にこんなことあったらどうなってただろ?ディープ世代はSS血統の集大成みたいな感じだったはずだし(素人考え)



おまけ・簡易血統

           『父』          『母』
ホクリクダイオー=トウカイテイオー(現実)×ホクリクメイヴ(架空)

ノルンファング =ミホノブルボン(現実) ×ノルンエース(架空・逆輸入)

ツバキプリンセス=タマモクロス(現実)  ×プリンセスクラウン(架空)

シマカゼタービン=ウミノフブキ(架空)  ×ツインロック(現実)

注・地方UMAの4頭は流行りのSSの血が入っていない旧来の血統である。


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