気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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最近時間が取れないので区切りの良いところ(当社比)投稿でお送りします。
いつも多くの誤字報告と感想、ありがとうございます。





第16話

 

 

ぴしゃりぴしゃりと音を立てる水音、水滴を浴びて青々と茂る芝、そして水を吸いまくって膨張する土。

踏み込むたびに蹄が芝と土にめり込んで、水がにじみ出る。うーん、実に走りにくそうだ。

俺の背中に乗る親父さんもこれには少し苦笑い、ここまでびしょ濡れの芝コースなんてめったに走ったことないからなぁ…

 

『今日は快晴群馬晴れ、しかし大変な重馬場となりました群馬トレセン芝コース、解説はシマカゼタービンでお送りします。

本日のメインレース、なんと先方からの依頼で模擬ドバイシーマクラシックというわけで、左回り、距離2410メートル6頭立てとなっております。

レース直前でありながら盛大に水撒きをしているコースですが…ご覧ください、もうびしょびしょです』

 

『何言ってんだお前?』

 

『いや、なんか言わんとならん気がして』

 

一緒にコースを確かめるディープのツッコミが入るくらい思わず解説みたいな独り言が飛び出す始末、それだけひどいコースなのよ。

ディープに乗ってる大竹さんも顔をしかめてるし。というか、なにこれ? こんな水気あるコースで走るの? 海外のレース場って整備性悪いんかね。

ジャスタウェイが勝ったやつもドバイだったからコイツなんか?こんなので走ったジャスタウェイのイメージが崩れる。

あのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲のご立派なヤツ付けたり起爆したりする憎めない変なヤツってイメージだったのに。

爺さんが良く言うミスターシービーとかそんなレベルのヤベー奴になってんぞ。

 

『ディープ、お前の経験からしてどうだ?これ再現になってんの?』

 

『どうだろうな、俺も最近たまに走る芝がこんなだけど似てる感じはする。普通の芝と違って足に絡む感じで走りにくいんだ』

 

『ふーん、いつものに慣れてるとつらいな』

 

『どうせお前はたいして違いが分からんとか言うんだろ?』

 

『失敬な、それ程鈍感じゃねーわ』

 

普通の芝に比べて随分と沈むしまとわりつくしで走りにくいったらねぇよ。この場合、芝が邪魔だ。

これがなければ雨降ったばかりの畑とかあぜ道に似てる、あれもねっとり絡みついて走りにくいったらない。

あっちは土だから思いっきり蹴散らしゃいいけど、芝コースだと芝が絡みついて邪魔してくるぞ。

 

『この手の沈むタイプは慣れてっけど芝コースがこうなると厄介だ、絡みついてきて足を引っ張りやがる』

 

『なんだと?お前がそんなこと言うなんて…明日は大雨か?』

 

『お前、俺のことなんだと思ってたんだよ』

 

これはあれだ、近所の小学校の行事に参加して田んぼを耕すの手伝ったときそっくりだ。あの時は耕すために踏み込みまくってたから気になんなかった。

そもそも耕すためにかき回すことが主体なのと走るのが主体なのじゃ勝手が違うってことだ、今度ダートラリーコース走るときの参考にしよう。

 

『とはいえ、硬いところもあるにはあるか…ふーん、滑りやすそうだな』

 

『俺もそこは厄介だと思う、深い所じゃ邪魔なのに、硬い所だとツルツルだ、うまくつかめん』

 

『厄介?これなら少しずらすだけで滑るし足の負担も軽くできそうだけどな』

 

使いやすいドリフト起点になりそうじゃないかね?車みたく荷重移動だけで足を滑らせられそう、コーナーにあればだが。

海外芝って上にうまく乗ればツルツル滑るのか?滑りやすい芝ならドリフトし放題だな。

 

『なるほど、滑るんなら滑ればいいってことか。確かに、無理に掴むより足も楽そうだな』

 

『工夫は必要だがな、これでアンダーだしたら確実にコケる。間違ってもあんなスローペースで仕掛けたりなんかするなよ?』

 

『解ってるって』

 

ホントかなぁ?お前、有馬でやったじゃねぇか。あっちはカッチカチだけどこっちは滑るとはいえもこもこだからそこは工夫が必要だし、言うほど簡単じゃねぇぞ。

いつか海外に行ったときぶっつけ本番でやったりしねぇだろうなコイツ。

いやそれを言ったらこれから海外行くって話を聞くダイオー達も言えるか、俺は芝コースにすでに設置されているゲートの前に目をやった。

そこにはホクリクダイオー達がいて、足踏みしながら今日の芝の踏み込みを確認している。

 

『うわ、ぬっとぬとだ、ぬっとぬとだよこれ』

 

『思ったより沈みますね、それでいて乾いた砂よりも引き抜きづらいと…ふむ』

 

『懐かしい、こんなダートもたまにあったねー』

 

『芝が張ってる分、盛大に蹴散らす走りができませんから注意しなければいけないですね』

 

あの2頭は問題なさそうだな、ダイオーもノルンも芝を踏みしめながら足場の特性を掴んでる。多少手間取っても走りだしたらすぐに修正してくるに違いない。

 

『でもこれ走りやすいかも、ダートに似てるし』

 

ツバキプリンセスも意外と合うらしい、地方じゃ普段からダートで暴れてるからな。

ダートは乾いてると結構沈むからこれと似てるっちゃ似てるか、絡みつきっぷりが半端じゃないけど。

 

『あいつらは問題ないみたいだな』

 

『あいつらはダートも走るからな、力のいるコースは慣れてんだよ。最近は裏山コースで鍛え上げてるぜ』

 

『散歩道の裏山でやってた工事が終わったんだって?曲がりくねった坂路だってダイオーから聞いたぞ』

 

『おうよ、桜葉理事長肝煎りの群馬スペシャルだ。あとで案内するよ』

 

前は散歩道しかなかった裏山を改造した坂路コースで開設したのは今年だ、前々から作っちゃいたがだいぶ規模がでかくなったからな。

天然の坂路がそこら中にあるんだから使わない手はない、っていうのが群馬競馬の考えらしい。群馬は山ばっかだからな。

車のダートラリーコースを参考にしたコースとか、普通の坂路、てっぺん辺りの開けた場所のアップダウンコースとかいろいろある。

峠道を再現したコースもあるけど、あくまで競走馬の訓練用だから俺としては勾配もコーナーもゆるいし短いからいまいち。

バトルできるほどでもないし本当に練習用、だけどミソは裏山のコースは全部が砂でも芝でもなく土って所だ。

整備車両用の一部道路を除けば全部土道だから、水気吸うとこれに近くなるっちゃなるんだよな。

 

『そりゃ楽しみだ、しかしダートか。俺もダートレースを経験してみたほうがいいかな?実戦は走ったことがない』

 

『いいんじゃねぇの?経験ってのは大事だ。なんなら群馬でやってくか?中央でやるより目立たないしいい練習になんだろ』

 

中央から飛び入りとか驚かれるが嫌がられることはないだろうし、確か出れない制限もなかったはず。

なんだディープ?なんか変な間抜け面しやがって、ダイオー達が中央で走れんだからその逆だって普通にあるぞ。

 

『ディープインパクト!』

 

今度はなんだ?後ろから小走りで近づいてくる足音が一つ、振り返ると群馬じゃ見かけない有名なあの馬が騎手さんを乗せたまんま俺たちに追い付いてきているのが見えた。

 

『ディープインパクト、有馬以来だな。まさかここでお前に会うとは思わなかったぞ』

 

ハーツクライに騎手のルベルさん。ルベルさんが軽く会釈すると、大竹さんと親父さんも軽く会釈して何か喋り出す。

ふむふむ、ルベルさん、なんでディープインパクトを群馬に寄越すのか気になっていると?

 

『俺もだよ、なんだって群馬くんだりに来てるんだ?』

 

『さてな、ルベルさんやテキには何か考えがあるらしいが俺にはわからん。でも、お前に会えたのは幸運だ』

 

うるせぇな、聞こえづらい。ハーツクライは好戦的ににやりと笑ってる、そんな気がする。その目に映っているのはディープインパクトただ一頭のみだ。

ま、やるならどうぞご勝手にってな。そこんところは俺部外者なもんで。んで、親父さんなんで意味深な含み笑い?遊んでんなぁ。

 

『ホクリクダイオーにリベンジのつもりだったが…気が変わった。お前にも有馬の借りがある、今日は勝たせてもらうぞ』

 

『俺とダイオーだけかい?俺よりやばい奴がここにいるぞ』

 

おいディープ、巻き込むな。これ見よがしに視線向けるな親父さんたちの会話に集中できねーじゃん。

 

『君は?』

 

『シマカゼタービンです、群馬で副業競走馬やってます』

 

『こいつは俺よりずっと速いぞ、有馬の前も全然勝てなかったんだ。俺は、こいつに勝つためにここに来てんのさ』

 

『ほぅ?君、戦績は?』

 

『群馬で12戦12勝、白蛇特別あたりが最大ですかね』

 

『…地方じゃまずまずといったところか』

 

俺はダイオー達と違う田舎もんだからね、いうほどでかい記録なんざ持ってねーよ。

 

『ディープ、友を持ち上げるのは良いがああいう根も葉もないうわさを利用するのは良くないと思うぞ?』

 

『ア゛?』

 

値踏みするように俺を見てすぐ興味を失ってディープを諭すハーツクライ。それにディープの目つきが鋭くなった。

なんだなんだ?根も葉もない噂って。ディープが噂を流して遊ぶようなやつとは思えんが。

 

『お前、厩舎のみんなに自慢してるそうだな。群馬には俺より速い馬がいるって』

 

『え、お前そんなこと言ってたの?』

 

初耳、世間じゃもうアングラな噂だから気にも留めてなかったぞ…でも言うななんて一言も言ってねぇな。

 

『本当のことだ、俺が嘘をついているとでもいうのか?こいつだぞ、弥生の後に負けてから勝てたためしがないんだ』

 

『最初は負けたのかもしれないが、ずっと負け続けなんて信じる奴はいない。そんな顔しないでくれ、お前の友達をバカにするつもりはない。

だが地方と俺たちの勝負は別物で、お前は無敗の4冠馬なんだ。そういう噂はお前だけじゃなく彼や群馬競馬にも迷惑になるぞ』

 

『嘘じゃない、こいつは俺よりずっと速くて強い、お前よりもずっとだ』

 

『やめろよ、それ以上はお前のことを見損なうぞ。みんな心配してるんだ、お前がまた昔の悪い噂を気にしてるんじゃないかって』

 

『それは関係ない!!』

 

悪い噂?ディープも有名になったし、いろいろあんだろうな。なんも言わんほうがよさそうだ、こいつはこいつだし。

ハーツクライも悪気があって言ってるわけじゃなさそうだしな、どっちかっていうと先輩として心配してる感じか。

そういう噂が立って困るのも事実だ、変に騒がれるのもメンドクサイから。

 

『シマカゼ、世間じゃ変なうわさがあるみたいだが君は君のレースをしろ。慣れてない芝で無理して友達を悲しませるなよ』

 

『ご忠告どうも、俺は俺の走りでやらせてもらいますわ』

 

『それでいい。ディープ、今度こそ勝つぞ』

 

それだけ言うとハーツクライは速度を速めて俺たちを追い抜いていく。見事なベテランの風格、ああいうよくできた先輩に俺はなりたかったぜ。

世間ではディープの群馬連敗記録は根も葉もない悪い噂か、下手に騒がれるよりもずっといいからそのまんまのほうがいいな。

どういわれようが何ともないっちゃないし、油断してくれるなら大いに結構。

 

『あの野郎…タービン、あいつに目にもの見せてやれ』

 

でも、親友に点火したままいなくならないでほしかったなぁ。お前も一緒に走るってこと忘れてないかね?

 

『落ち着けよ、ここは俺のホームコースなんだぜ?』

 

俺にも地元の意地ってのがある。群馬の走り屋を舐めてもらっちゃ困るぜ、ハーツクライ。

ホクリクダイオー達とずっと併せ馬してきたのは誰か、あいつらを鍛え上げたのは誰か、それを教えてやる。

 

『でもいいのか?お前ごとぶっちぎることになるぞ』

 

『…訂正だ、俺が1着でお前が2着だ。今日こそ俺が勝つ』

 

『言ってろ、セーフティーリードで千切ってやるよ』

 

今日のレースも面白くなりそうだ。距離2410、ハーツクライは未知数だが走り切れないでバテるなんてことはないだろ。

中距離だからみんな怖い、いや長距離でもクッソ怖いくらい強いのは知ってるんだが特に中距離だと怖い。

ダイオーは張り付いてくるだろうし、ノルンはどこで仕掛けてくるかわからんし、ツバキは正攻法を極めてくるから隙がない。

それにディープ、お前は一番別格だ、本当に何してくるかわからんお前はいつも怖い。追い込みしてくるか、それとも出鼻を挫いてくるか?

でもそれでいて面白い、こいつらとやりあえるだけで競走馬でいてよかったと思うよ。さて、今日はどうやって逃げてやるかな?

 

 






あとがき
ハーツクライを含めての本格的模擬レース開催のつなぎなので短め。
ちなみにハーツクライはシマカゼタービンをバカにしてるわけじゃありません。
普通に専門外のコースを走ると思ってるので心配してますし、普通にあり得ない嘘を吹聴していると思ってるディープインパクトを諫めてます。


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