気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くのご感想と誤字報告、ありがとうございます。
公式の二次創作ガイドライン、ついに出ましたね。ただの趣味人として戦々恐々としています。
やりすぎないようにというがどこまでがセーフなのか…そもそも尊重するようにとはいえ話の展開としてはどこまでありなのか。
もともとエロいの書いてるわけじゃないからそっち方面は良いとしても…がっつり頭文字Dだから公道レースがやばそうな感じする。
それに今話のようにこういう歴史改変も抵触するんだろうか? ストーリー上、良い人、悪い人、変態、SAN値0といろいろ味付けがあります。
時代背景から考えてこいつがここにいたらこうなるだろうなって書いてるのもやばいのでしょうか?
この後の展開にだって波乱とやらかしがある、そういうストーリーを作ってますから結構悩まされるお話でした。




第20話

 

 

鼻腔をわずかに酒の匂いが混じった甘く優しい香りがくすぐる、眼下にはじっくりコトコト人肌に温められた真っ白な液体。

言わずもがな、甘酒だ。年明けの風物詩と言ったらやっぱこれだろ、うちじゃ結構な頻度で出されるし、群馬トレセンにもちょくちょく出してるけど年明けはやっぱ格別なんだわ。

前世も正月はこれを一杯は飲まなきゃ正月って気分はしなかったもんだ。正月賑わいの寺や神社の出店で飲む甘酒って格別なのよ。

今生になったらそんなことできなくなるかと思ったが、なんと運のいいことに生産者側に回ってしまったわけで、今年もいい甘酒を仕込んでおりますわ。

模擬レースの後、シャワーで泥を落としてからトレセン職員に引かれて向かったのは、群馬トレーニングセンターの施設内にいくつかある芝の休憩スペース。

厩務員や騎手が担当馬との絆を育んだり同僚と遊んだり遊ばれたりするいわば遊び場、担当のほかに常に係の人がいるから牡牝一緒に使ってるのは普通だ。

そこでいつものようにミニサイズの仮設テントを立ててテーブルを置いて、その上に業務用のカセットコンロを置いた敏則がでかい大鍋を弱火でじっくり温めながら中身をかき回してる隣でじっと補佐をしております。

なんでって?周りでお行儀よく待ってる群馬の競走馬たちのお目付け役よ、みんな担当厩務員の人と一緒におやつボウルを咥えて待ってるけど中にはまだ慣れてないやつもいるからな。

 

「…こんなもんかな?ほれ」

 

味見をした敏則が差し出してきた小皿の端を咥えて少し傾けて吸い取り、口を窄めてしっかり味わう。

 

「ヒヒン」『うまい』

 

バッチグーだぜ、熱すぎず温すぎずでいい感じ。首を縦に振ってニッコリ笑う。これならあいつらも喜ぶだろう…遅いな、シャワー長くね?

 

「ほらおいで」

 

「みんなゆっくりな」

 

まぁ配ってるうちにくるだろ、みんなの分はちゃんとあるんだし。

休憩スペースにいた馬たちを厩務員の人が手綱を…というか厩務員の人を引き摺る勢いで鍋の前に列を作る。うむ、ちゃんと理解してるな。

前は大変だったぜ、みんな一斉に来るから苦労したよ…あ、二頭無視ってくる。さては新入りじゃな?

 

「「のわぁぁぁ…」」

 

おい担当、そんなやる気のない悲鳴上げてわざと引きずられてんじゃねぇよ。目が笑ってんだよ、怪我しないように引き摺られてんの丸わかりだぞおい、仕方ねぇなぁ…

 

「ヒン!」『並べや!』

 

「ヒヒン!」『知るかボケェ!』

 

「ヒヒッ!!」『何々ー?やっちゃう?やっちゃうー?』

 

テントの前に出て進路を塞いでから一喝するも聞かず…そんなことして良いのかな?ちらりと並んでるみんなのほうを見る、これで大体わかってくれるぜ。

ほら、気付けばじっと二頭を見つめるお歴々の目、目、目、目、列にならんだざっと十頭と十人が全員お前ら見つめてるわけよ。

無表情、無感情、ただただモノを見る目、出荷される養豚場の豚を見る目のほうがまだ温かみがあるってもんだぜぇ!!

ほら見ろ、さっきまで我儘やってた二頭が気づいて真っ青になってブルってやがる。わかる、わざとやってるのは知ってるけど俺も怖いもん。

 

『おら、並べよ新米』

 

『『ハイ…』』

 

すっかりわからされた2頭が大人しくなって、わざと引きずられてた厩務員にやさしく怒られながら列の最後尾に連れていかれる。

それをみんなは最後まで無感情なままお見送り…というか厩務員の方々までやらんでいいわ、そこまでやらんでもいいわ。

そう視線を送るがなぜか否定のアイコンタクト、マジかよ。結局しっかり並ぶまで視線が切られることはなかった、これが教育か。

可愛そうに、しばらく悪夢を見るだろうな。自業自得とはいえ。

 

『なかなかいいボス馬っぷりじゃないか』

 

『爺さん、見てたなら手伝ってくれよ』

 

『悪いな、儂はこいつらの世話で手いっぱいでなぁ』

 

休憩スペースの片隅から出てきたモンスニー爺さんが後ろに引き連れた二頭の仔馬のほうを見る。

 

『見ない子たちだな、新入りか?』

 

『あぁ、今年から群馬競馬で世話をすることになったそうだ』

 

なるほど、新世代ってやつね。また増やしたんか…まぁうちもシャッタードスカイとメジロジョンソンが来たからと同じようなもんか。

 

『ハルナイナリっす!よろしくっす!!』

 

『ポケットクリーク、よろしく』

 

おーおー元気な仔馬だこと、両方牡か…ってさらに後ろにもう一頭、いや二頭…片方でかくね?

普通に大人だろコイツ。なんで小さい奴と一緒にいるんだ?

 

『なんかいい匂い!何何?』

 

『えっと、君は?』

 

『私?ハルウララ!』

 

…おい待て、なんでお前がここにいんねん。俺でも知ってる有名馬じゃァないかい!高知だろ!!

 

『へぇ…爺さん、ちょいと』

 

『気付くか。みんな、ちょっと待っててな?』

 

『『『はーい』』』

 

敏則にアイコンタクトしつつモンスニー爺さんを連れて少し離れる。

 

『おい爺さん、あいつ新入りじゃないだろ。どう見てもどっかで走ってた雰囲気あるが?』

 

『聞いた話じゃ高知の有名馬らしい』

 

そうね、俺も名前だけは前世で聞いたわ。高知のハルウララ、生涯全戦全敗だけど頑張って走る姿でアイドルになったやつ。

でもなんでそんな高知のアイドルがこんなところにいんだよ、ニュースにもなるくらいだったんだから高知競馬でVIP扱いされてるだろ普通。

 

『有名ならなんで群馬なんぞに?』

 

『有名だからだよ、昔っからいるんだよ人間には。お前も働いてんだから見たことあるだろ?』

 

『…なーる、いつぞやに親父にブチ切れられた自称大手通販商社の糞野郎みたいな感じ?』

 

『そんな感じだな』

 

爺さん曰く、有名になったハルウララの権利を買い取って荒稼ぎしようとした馬主初心者のボンボン野郎がめちゃくちゃやって高知から栃木に移送、そのまましっちゃかめっちゃかにしやがってるのを新年早々に仔馬探しに出た桜葉理事長が発見したらしい。

関係者から話を聞いた理事長がプッツン、高知競馬に連絡したらガチ泣き寝入り寸前状態でさらにヒートアップ、親父さんにも協力してもらうために話が行って当然プッツン。

高知競馬、群馬競馬、瀬名酒造のトップが弁護士を連れてボンボン野郎を強襲、ガチで実弾(札束トランク×3)を叩きつけて買い取ってきたそうな。

金の話ならうちらの独壇場だわな、高知も稼いでただろうが群馬競馬も去年荒稼ぎしたし、競馬ブームでうちの酒も飛ぶように売れてて珍しく少し増産体制に入ってるくらいだし。

群馬競馬の客入りも去年から半端じゃないって話だから売上が凄い、俺らの年収も右肩上がりってわけよ。

もちろん限度はあるが、金ってやつは使うときは使ってこそだ。金は使い方で最高のトラブル解決アイテムに早変わりだからな。

 

『親父さん、こりゃ完全にキレてたな』

 

『あぁ、あんなふうになったのはお前の生まれ故郷が潰れたとき以来だよ』

 

そういわれてもあそこにはなんも思い入れないけどね。まぁそれは置いといてだ。

俺、そんな大金が動いた話一切聞いたことない。下手やったならお袋さんがブチ切れて俺を召還するはずだからな、お袋さんもグルで即決即断即行動で終わらせてきたんだろ。

バレてないわけないのに会社でも話題になってない辺り、会社ぐるみで全部承諾済みだわ。みんな馬大好きだし。終わったことだからみんな流してやがるな。

で、なんで爺さんが知ってるかっていえば輸送の時の帯同馬について行ったからだそう…爺さん、口にできんくらい怒ってる親父さんにビビってたらしい。

 

『しばらく群馬で預かってここで復帰戦、その後高知だそうだ。お前、こいつを鍛えてやれ』

 

『えぇ?爺さんじゃねぇの?』

 

『チビ共で手いっぱいだよ。エースやスズカ達のガキ、リンドホーユーの孫もいるんだぞ』

 

『ポルンガ先輩は?』

 

瀬名酒造で先輩のトミシノポルンガ、ポルンガ先輩もこっちじゃ教導役よくやる馬だ。今日は来てないけど。

 

『あいつは息子で手いっぱい、酒造りまで仕込んでやがる』

 

『そういやポルンガ先輩の息子さんも見つかったんだっけ』

 

『でっかくなって感無量って感じだったな』

 

そういうことなら任せんしゃい。面白い練習なら俺のほうがネタあるし。

 

『悪い悪い、戻ったぞ。ハルウララだっけ、これからよろしくな』

 

『よろしく!で、あれ何?』

 

『群馬競馬の名物だよ。あの列に並んで順番が来れば貰えるぞ』

 

『解った!』

 

『よろしい…で、じっと見てる君は誰かな?』

 

元気にブンブン尻尾を振りながら甘酒の列に行ったハルウララの後ろからじっと俺を見つめる葦毛の仔馬。

なんだろう、こいつだけ他の奴となんか違うな。

 

『…ディープインパクトに勝ってた、すごい』

 

『見てたの?そりゃどうも、お名前は?』

 

『ブニーキャップ、父さんはオグリキャップ。笠松の鷲峰から来た』

 

ブニーキャップね、可愛いけど見たところ牡だな、年の割に立派なのあるわ。でも体がちょっと小さめで細いか…うん、それしかわからん!

 

『笠松っていうとツバキが前に走ってたところか。小さいのに大変だな、家族は?』

 

『兄さんがいる、会えないのは寂しいけど…テキに会えたからいい』

 

ん?なんで俺をじっと見るのかね?

 

『あなたの事をお爺さんに聞いた、一緒に走ってた牝の先輩に走りを教えてるんでしょ?教えて』

 

『気に入られたみたいだな?』

 

『毎日来るわけじゃないんだがねぇ…ま、暇があったらな』

 

『よろしく、テキ』

 

『シマカゼでいいよ、テキは別にいるでしょ』

 

というかテキって何だっけ?いかん、忘れてるわ。うちだとそういう呼び方しねぇもん。

 

『人間は私たちに仕事を教えてくれる人で一番すごい人間をテキって呼ぶ。私はあなたから学びたい、私のテキはあなた』

 

『ほーん…ま、いいか。好きに呼びな』

 

『うん。ところでテキ、おなかすいた』

 

『甘酒、貰いに行きなさい』

 

列が大分捌けたテントの前を顎でしゃくって示す。みんなお気に入りの場所で飲みたがるから、一部の馬は厩務員の人と一緒に馬房に戻っちまったらしい。

 

『解った』

 

『じゃ、儂らも行こうか』

 

ブニーキャップの後を追うようにモンスニー爺さんたちも仔馬たちを連れ立って敏則のほうに。ま、モンスニー爺さんがいるんだから問題ねーだろ。

 

『なんだこれ、良い香りだな』

 

『嗅いだことのない…いや、どこかで?』

 

お、やっと来たか。担当の厩務員に連れられてのそのそと休憩スペースに入ってきたのはハーツクライとディープインパクト。

どこかで嗅いだことあるって、そりゃ酒の匂いは甘酒だからするわ。アルコール成分1%未満とは言え、酒粕使ってるし。

 

『…シマカゼ、さっきはすまなかったな』

 

『なんのこっちゃ?』

 

『君を侮っていた。君の言う通り、舐めてかかってしまった』

 

『別に普通でしょうや、それが』

 

『いや、違う。活躍の場が違おうと私と君は同じサラブレッドだ。私はホクリクダイオーに負けて、実力のある馬は確かにいると知っていたはずなのに言い訳をしていたんだよ。

君はダートの短距離、重賞もとっていない、だから負けるはずがない。馬鹿な話だ、君は彼女たちと共に走ってきた馬だというのに』

 

別に気にせんでもいいんだがね、そう舐められんのは慣れてんだ。

 

『あんたの心配はもっともなことだ、気にしてねぇよ』

 

『そうか…ところで少し聞きたいんだが、君はどうして振り向かずに後ろの様子が分かったんだい?』

 

おや、足使いとか聞いてくるかと思ったらなぜそんなことを?

 

『逃げる馬はどれだけ経験があっても必ず振り向きたがる癖があるものだ。君にはそれがなかった。

まるで見なくても分かるみたいな感じだったな、なぜだ?上に乗っていた人間の鳴き声がわかるのか?』

 

そりゃ言葉も文字も理解しとりますがな、だがまぁそういうこと聞きたいんじゃないだろうな。

 

『言葉は分かるが、一番は音だよ。相手の足音とか息遣いとかをよく聞くんだ、それで大体のことは分かる』

 

足音、息遣い、振動、踏み込み、その他もろもろの雑音、走ってりゃ抑えようがない部分だ。

それを聞き分けて当てはめれば、後ろの位置関係、距離感、各馬の速力と状況、仕掛け具合などいろいろとわかる。

せっかく人間よりも感度がいい馬の耳なんだ、活用しなきゃ損ってやつだ。

例えるなら対潜水艦用音響ソナーみたいな感じかな、まぁこの程度じゃ海自の本業の方々に笑われそうだけど。

親父さんか敏則のナビゲートが一番なんだが、峠じゃそうもいかんからな。

ダウンヒルじゃ振り向くなんてありゃしない、バックミラーなんて便利なもんもないからやってるうちにいろいろ聞き分けできるようになったのさ。

 

『驚いたな、よくそんなことができるものだ』

 

『やろうと思えば案外できるもんだぜ。まずは――――あ、どうも』

 

俺たちが一緒になって遊んでると思ったのか、ディープの厩務員さんが気を利かせて俺たちの分の甘酒を持ってきてくれた。

大きめのおやつボウルに注がれた甘酒にディープとハーツクライの視線が興味津々に注がれる。

馬からすれば舐める程度の量だけどこれくらいが一番いい、飲み過ぎはいかんからな。あくまでおやつだし。

 

『これが甘酒?ミルクじゃないのか?』

 

『乳成分ゼロだよ、元は米だ』

 

『米!?あの粒粒がこうなるのか!?』

 

『おうよ、俺が仕込んだ』

 

驚くディープに、俺はふんすと鼻を鳴らす。うちの甘酒は自家製の酒粕と米麴を使ったスペシャルブレンド、大人にも子供にも大人気の一品よ。

酒米で作った麹と同じ酒米からできてる酒粕を混ぜて、焦げ付かないようにとろみがつくまでじっくり煮込むのさ。

酒粕主体で酒の風味が強い辛口と米麹主体で酒粕は風味付けの口当たりがいい甘口って感じで売り出してる。

敏則が大鍋で温めてくれてるのは甘口、米粒が残ってて粒粒感がいい感じだぜ。

 

『大変だったぜ、酒粕と米麹はうまくできるんだが配合割合と馴染ませる漬け置き、仕上げの時間とかいろいろな』

 

ただ酒粕が強いだけじゃダメ、ただ甘いだけじゃダメ、どっちも同じように馬練りの味がするウマい甘酒にするのは骨が折れたぜ。

酒粕と米麹も時期によって出来が変わるから、暮れなんてずっと試作と試飲の連続よ。合わせて煮て詰めて背負って走って試飲して、いやぁ悩んだ悩んだ。

杜氏さんたちと一緒に試作品の没の山を作っては頭をひねりまくってやっと満足できるのができたのさ。

甘酒のアルコール成分は飛んでるとはいえ、酒粕の匂いプンプンさせてるから酔っ払い扱いされたっけな。

 

『あの粒粒がこんな風に…確かに粒粒が残ってるな。腐ってないか?』

 

『あ、バカそれは―――』

 

『腐ってない、発酵させてるんだ』

 

ハーツクライをまっすぐ見つめて唇を結ぶ。よく考えろハーツクライ、俺はいま冷静さを欠こうとしているぞ。

腐敗と発酵を同列化するのはたとえ馬でもやってはいけない、特に生産者の前ではな。

この甘酒は俺たちが試行錯誤して仕込んだ今年の一級品だ、配合から出来上がりに至るまで夢の中でも試作と試飲を続けてたんだ。

それを腐っているだと?おまえを馬刺しにして甘酒のおつまみとして食ってやろうか?

 

『そんな目で睨まないでくれ、悪かったよ』

 

『よろしい。ま、飲んでみればわかるって。こいつの酒精は飛んでるから気にすんな』

 

『う、うむ…ディープインパクト、シマカゼって…』

 

『酒と車のことになるとな』

 

聞こえてるぞディープ君、ニッコリ笑ってやるとディープはそっぽを見てぺろぺろとボールに注がれた甘酒に舌を伸ばす。

それにつられてそっぽ向きながらハーツクライも甘酒に舌を伸ばす。別に本気で怒ってるわけじゃねぇよ、でも腐ってるって言われちゃうと反応しちゃうからね。

あとよく舌で飲めるよな、俺それできないんだよ。ブチたちも完全に匙投げてきたし。

 

『敏則、ストロープリーズ』

 

「わーってるよ、ちょっと待ってな」

 

口を窄めて吸うジェスチャーをすると、敏則が俺のボウルにタピオカジュース用の太いストローをさらに一回り太くしたようなのを差してくれる、そうそうこれこれ。

 

『甘い…初めて感じる甘い味だ、砂糖?いや、それだけじゃない』

 

『なんだろうな、優しい甘みだ。でもこの感じ…そうか、たまに競馬場で嗅ぐ匂いだ』

 

こいつの味は酒粕と米麹から出るうまみだ、この味を最大限に引き出すために何度も配合と仕込み、熟成させて走りこんだことか。

そのままでも十分うまいが、やはり最後の仕上げにお好みで砂糖を少しとわずかに塩を投入して味を調えることも重要!基本中の基本だがそれが甘酒の黄金比よ。

もちろん牛乳で割る、フルーツを混ぜるなんてのもありだ。でも最初は必ずこの黄金比で飲んでもらいたい!店売りの箱にもちゃんと宣伝してあるからな。

 

『そういえばそんな感じがするが…違くないか?あれ嫌なきつさあるし』

 

『あれはきつい香りがするが、おそらく同じだ。出来が違うんだろう』

 

出来が違うんだよ、大量生産大量販売の安酒とはな。うちは丹精込めた手作り酒造、技術は進化させても基本は大昔から変わらん。

甘酒だって全部最高の出来になるように努力してる、材料もうちの酒造で扱う純正品、作りから違うわ。

手作業が一番なら手作業、機械を入れて味がよくなればそこは機械で、手順ごとに一番いいやり方を常に模索してるんだ。

清潔さと精密さが必要な手順なんかは人の手よりも機械のほうが格段に良かったりするし、かといって機械にゃできんところは腐るほどある。

ベテランの杜氏だけが持ってる匙加減、舌の正確さ、時期によって手順や仕込みを変えるスキルなんかは人間にだって覚えにくいんだぜ?

だから機械を使っても頼ることはあっても機械だけに任せるなんてことは絶対にしない。互いに補い合ってこそ至高、それが瀬名酒造のやり方だ。

俺たち輓馬が今なお現役で仕込んでるのもそれが理由よ、馬練りは馬でなきゃ仕込めねぇのさ。

 

『確かにこれは気持ちのいい感じがする香りだ。こういうのなら気分も悪くならないんだけどな』

 

『えッ…ハーツクライって酒ダメなのか?早く言ってくれ、別の用意してもらってくる』

 

『いや、そういうわけじゃない。ただあのきつい匂いが好きじゃなかっただけだ、体が受け付けないとかじゃないよ』

 

『そうか、そりゃよかった』

 

危ない所だった、甘酒とはいえ酒が匂いだけでダメな奴はいるもんだしアレルギーとかあったらやばかった。

食品を扱う会社に勤めてるとそういうところは敏感になるんだよ、ミスったら取り返しつかねぇから。っと、どたどた向こうから足音が…

 

『甘々!甘々の香り!!』

 

『甘々ですか!』

 

『甘々やぁ!!』

 

甘酒な。何度も教えてるのにこいつらの中じゃずっとこれだぜ。こらこら、厩務員さんほっぽって来るんじゃないよ全く。

 

『ほらほら慌てなさんな、量はあるから並べ並べ』

 

自分の取り分け用のボウルを軽く小突くと、ダイオー達も敏則からボウルを貰って行儀よく受け取る。

それを器用に咥えて俺たちの近くまで寄ってくると、目の色を輝かせながらがぶがぶ口に含んで嘶いた。

 

『オイシー!!』

 

『品質の向上を検知、去年よりさらにおいしくなっています』

 

『これこれ!有馬じゃ変なのしか飲めなかったのよ!』

 

なんだ、ツバキの奴向こうで別の甘酒飲んでたのか。そりゃどこでも売ってるようなのとは比べものにならんわな。

年末年始はよく売れるから大目に仕込むが基本的に地元の酒屋と契約先にだけ卸してるから、群馬の観光案内所と高崎競馬場以外だと芦名市内にしか売り出さん。

県外じゃうちの甘酒はまず見ないだろうよ、酒の方は少し出回ってるだろうがよ。

 

『味わって飲んでくれよ、たっぷりあるけど。そういや次は海外だっけか、ツバキ』

 

『そうよ、ドバイっていうところのダートレース。甘々美味ぁ…』

 

確か招待されたんだよな、ドバイの運営から。ドバイのGⅡに申請してたらGⅠにお呼びがかかったって、桜葉理事長がうちにきて自慢してたぞ。

有馬記念で実力を示した地方競走馬、しかもダート主戦って所が認められたらしいね。かなり異例らしいけど。

ドバイって芝しかないもんだと思ってたが砂もあるって初耳だったが…よく考えりゃそりゃあるわな。

中央じゃ芝ばっかだがダートやってるし、地方はほぼダートだけど芝もあるっちゃある。

去年の東海ダービーでダイオーとツバキ相手に競り勝って一着だからな、なかなかいい線行けるんじゃねぇか?

向こうに行ったらの甘酒の差し入れ送ってやるか、ドーピング検査通すのってどうやるんだっけ?

 

『まさか私が世界なんてびっくりよ。ねぇタービン?ドバイのGⅠダートってどんなレースするのかしら?』

 

『俺に聞くなよ。ディープ?』

 

『俺も知らないぞ。ハーツクライ?』

 

『さすがにドバイは知らないな…』

 

そりゃそうか、ディープもハーツクライも芝が主なレースだからな。知ってるわけないわ。

うちの連中も地方はダートで中央は芝の走り分けに現状なってるから実は中央ダートは知らんというし。

 

『なら備えるしかないわね。次はダート2000、そのあと3200、頼むわね。あ、あと山道もよ!』

 

『へいへい』

 

どうせお前らが次に走るレースの模擬戦、全部を走るんだから言われんでもわかってるって。

新コースだって明日みんなで回る手はずになってるからそん時に相手してやるよ。

 

『いいな、GⅠ。僕も走りたいよー』

 

『まずはGⅡで様子見てからのはずでしたよね?』

 

『そのはずだったんだけどね、いや有馬で頑張った結果ってヤツ?』

 

『『ちっくしょう、有馬出たかった!』』

 

スケジュールの関係だからしょうがない、高崎の方に出てすごい盛り上がってただろうが。

いつもの連中と思いっきり競り合ってくそ楽しそうにしてたくせによく言うよ。ひやひやした場面何回あったことやら…

ダイオーは大阪杯で様子見して海外、ノルンは日経賞でうまくいけば天皇の春を狙ってから海外だっけか。

 

『ま、頑張ってこいや。でもちゃんと帰って来いよ?生きてりゃどうにでもなる』

 

これは前にも教えたよな?ツバキ。お気に入りのゲームのひねりだし、大したことじゃないが大切なことだ。

 

『三つだ。死ぬな、やばそうになったら一度抑えろ、そんで周り見ろ、もし隙があったらかまわずぶっちぎれ』

 

『解ってるわよ、お土産に期待してなさい。有馬の代わりにドバイのトロフィーを持ってくるわ』

 

『というか、それじゃ4つじゃないか?』

 

それも含めてネタなのだよ、ハーツクライ。気分和らぐし自然と印象に残るでしょ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに模擬レースは全部逃げて千切ってやりました、勝ちたきゃまたおいでってな。

 

 

 





あとがき
せっかくお酒扱ってるんだから当然甘酒も超スペシャルなんだよ、というお話でした。
瀬名酒造の甘酒は酒粕と米麹を両方使ったタイプ、天然植物由来100%です。
辛口は酒粕主体なので若干アルコールが強めですが、甘口はアルコール分1%未満なのでソフトドリンク、問題ない…はず。
一応調べてはいますがもしダメならばそこは…群馬だからな!(思考放棄)

ツバキの次走はドバイのGⅠダート、これだけで分かる人にはわかるでしょう。大竹さんガチハッスル案件です。
実は前年のドバイに地方競走馬が居たりするからあり得ない話じゃないし、ダートのはずなのにエリザベス女王杯獲った上に有馬に出てディープとバチバチやって入着って普通にやばい。
それにしても調べるとここ一番って時にはこの時代、大体のところで大竹さんの元ネタの人の名前が出てくるあたりほんとやばいお人ですわ。
今回の話に砂のディープもからめるか迷いましたが接点がほぼないのでお蔵入りです。

次世代の連中はどこの誰の仔かわかる人には分かる名前、せっかく理事長がいい意味でやらかす人だから暴れた。
まずはオグリ世代コンプを目指す。06年は青い散弾銃が活躍するらしいので、一頭だけ青くて散弾銃を使う強い奴が出てくる名作から捩りました。クリーク違いはわざとです。
シービー世代、ルドルフ世代産駒も順調に発掘、とりあえず有名どころを確保。ここらでいったん引き締め直して鍛え直すのでデビューはやや後になる模様。
メジロ系列も瀬名酒造がおこぼれ貰えやすいのでちょこちょこ増えそう、メジロモンスニーがいる関係でツテがあり売れそうになかったり走らない産駒だとお安くしていただけます。
あとはその過程で偶然見つけた連中も確保。この時期、実はウララって栃木辺りにいたらしいので見つかった結果がこれでございます。…原作と同じルートにしつつ中身は似ても似つかない架空にしたから大丈夫やろ。
本気です、群馬競馬。

なおこの世界では笠松がまたアップを始めてます、ブニーキャップの兄貴で群馬と同じルートを目指す。
ツバキプリンセスは群馬所属だが初登場直前までは笠松、理由があって移籍した。逃した魚は大きかったのが効いた模様。




おまけ
群馬地方競馬の秘密・実は中央競馬からレースにくる馬が最近弱いので少し物足りない。


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