気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの誤字報告と感想をありがとうございます。
ここからドバイワールドカップに場面が移るので、主人公たちは少しお休みです。





第23話

 

 

2006年3月25日、ドバイ、ナド・アルシバ競馬場には前年の喧騒に負けないほど人にあふれていた。

世界各国から集まった歴戦の競走馬たち、選りすぐりの猛者たちが走り抜けてきたドバイミーティング。

そのオオトリである第11レース・国際G1『ドバイワールドカップ』が出走するまであと30分というところなのだ。

ドバイミーティング最後のレースにして最高峰のダートレース、これを一目見ようと世界各国の競馬ファンがこぞって乗り込んできており、ナド・アルシバ競馬場内外の熱気は留まるところを知らない。

まさに青天井というべき盛り上がりを見せている、世界中から集まった世界各国の競走馬たちの鎬の削りあいを今か今かと待ち望んでいる。

そして祖国を背負って走った自国の勇者が、このレースの冠を被る瞬間を待ち望んでいた。

そこに彼はいた、北川勝昭は一人観客席に座り、予想くじを握り締めながら一人で静かに出走の時を待っていた。

仕事先の好意で有休を貰い、一人異国の地へ飛んだ彼の瞳の先にいる馬はただ一頭。父の面影が重なる芦毛の牝馬、ツバキプリンセス。

2005年の有馬記念での実績を理由に、群馬地方競馬から招待されてこのレースに出走した変わり種だ。

 

(あれがツバキプリンセス、良い仕上がりだ)

 

背格好は父であるタマモクロスよりも大柄で肉付きが良い、ダート競走馬らしく筋肉が発達し、一歩一歩歩く姿がそれだけで芯の強さを見せつけてくる。

周りを見慣れない競走馬に囲まれ、異国の言葉と人々に囲まれ、見たことのない競馬場に降り立ってなおその姿は全く乱れがない。

恐ろしくいつも通りに、マイペースに歩を進めて周囲を見渡しながら意気揚々としている。

群馬という地方の田舎からドバイという異国の地に飛んでも乱れぬ精神力、何とも豪胆な肝っ玉お嬢様だ。

タマモクロスから受け継いだ父そっくりの芦毛がなければ、自分でも外観から血縁を思い浮かべる事はなかっただろう。

 

「おぉ、今日もツバキは仕上がってんじゃん」

 

不意に前方から聞こえた日本語が耳に入って意識がそちらを向く、ちょうど自分の前列右斜め前、そこには4人の日本人が座っていた、

一人は50代に見える中年男性で、その隣に20代前後に見える3人の男性グループ、偶然となりあってから話が合ったようで仲良くしゃべっていた。

よくある競馬ファンのグループに見えるがよく見ると4人とも持っているものが妙に田舎っぽい。

中年男性は昭和染みた古臭いファッションで、3人組のツバキプリンセスのグッズと思しき人形やキーホルダーも古びていて、手作り感あふれるものだ。

現在、群馬地方競馬が公式販売しているものや中央競馬が親馬グッズと抱き合わせで特別販売したモノともデザインが違う。

 

「いやまさかあのツバキがドバイとはねぇ、おじさんびっくりだよ。笠松にいた時から結構強かったけどねぇ…あいつに絡んでたからさぁ」

 

「見てた見てた、うちらもツバキが群馬に移ってからちょくちょく見てたんだけど…最初は不安だったよねぇ、初戦であいつだったし」

 

「まさかここまでくるなんて思いもしなかったよ!初戦があいつだったからさぁ…」

 

どうやら彼らはいわゆる古参のファンというモノらしい。それならば身に着けているツバキプリンセスのグッズが少し年季が入っているのも納得だ。

 

「だが今日の勝ちはもらったな、何せ群馬最強のツバキプリンセスが走るんだからな!シーマクラシックでハーツクライが勝ったんだ、流れは日本に来てる!」

 

「ばーか、群馬最強はホクリクダイオーだろが」

 

「いえ、ノルンファングでは?努力と根性はすべて解決するのです」

 

「…シマカゼ」

 

「「「おい馬鹿やめろ、そいつは反則だ」」」

 

口々に推しを自慢する若者。そこから一糸乱れぬ突っ込みに、最後にボソッとつぶやいた中年男はわざとらしく頭をかく。

よくしゃべる親父だなぁ、と彼は思った。自分は最近の連中のノリというモノにはついていけないタイプの親父なのだ。

競馬という物は、いつも真剣に最初から最後まで黙ってみる、熱くなってもぐっとこぶしを握り締めて見守る。

今もなお、自分の中には競走馬たちへの熱情は燃えている。

彼女は強い、ツバキプリンセスの中には確かにタマモクロスの血が流れていてその能力は疑うべくもない。

それを群馬競馬はダートと芝の両方で通用する仕上がりにして中央競馬に我が物顔で送り込んできた、それを知ったときの自分は思いっきり荒れた。

チャンスはあったのだ、彼女の素質を知っていれば知り合いの馬主に直談判でもして我が厩舎にお迎えしていたというのに。

北川勝昭、かつてツバキプリンセスの父であるタマモクロスと共に中央競馬の激戦を潜り抜けた元騎手、そして今は未来の名馬たちの運命を預かる調教師だった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「なんだかずいぶん遠くに来ちまったもんだな」

 

思わず口を出てくる言葉はここ最近いつもそれだった。事実、ツバキプリンセスの主戦騎手である桂井の頭はこの1年の躍進がどこか夢の中みたいに感じていた。

もちろん努力はした、やることはなんだってやった、それは確かだ、だがそれがすべて思った通りに実ったとしてもこんな風になるなんて夢にも思わない。

桂井は群馬地方競馬三強を駆る主戦騎手であり、れっきとしたGⅠジョッキーでありながら、まだ精神はただの地方騎手のままであった。

当然であろう、ほんの一昨年辺りまで笠松競馬場で走るどこにでもいる普通の地方騎手であった30過ぎのしがないおっさんだったのだ。

馬とは縁のないただの乳牛牧場出身の三男坊、ただ競馬が好きで騎手になりたくて単身でこの世界に乗り込んで、ほどほどにそれ相応な立場にいた普通の騎手。

ただの地方騎手、ただ競馬とタマモクロスが好きで騎手になって、偶然タマモクロス産駒のツバキプリンセスを任されただけの男だ。それが桂井という男だ。

愛馬のツバキプリンセスも笠松での成績は可もなく不可もなく、笠松ではステイヤーとしての資質も宝の持ち腐れになっていて勝ちからは遠かった。

それでも最高の時間であった、ツバキプリンセスは最高の愛馬であって鞍上は他には絶対に譲りたくないと思うほどに愛着があった。

自分は彼女が強いと確信していたし、勝率は低かったが勝つときは勝っていた。当時の笠松競馬場でも一応は勝つときには勝つ馬として認知されていた。

だが乗り始めてしばらくもしないうちに所属厩舎が経営不振で潰れ、馬主もそれを機に引退してしまいツバキプリンセスは宙に浮いた存在になった。

騎手である自分は別の馬に乗ればいいが、放置されれば廃用の可能性が高い彼女を見捨てることは絶対にできない。

元馬主も引き取り手を探すのに手を尽くしてくれたが結果は惨敗、地方競馬の馬主は経済的に余裕がなく無い袖は振れず、中央競馬の方もそれほど強くなく血統も古い当時のツバキプリンセスには見向きもしない。

さてどうするか、いっそ自分が買い取って故郷の牧場に連れて帰ろうかと悩んでいたら、救いの手を伸ばしてくれた群馬競馬の理事長。

その理事長の手を取って、笠松から群馬の高崎に一緒に移り住んで、彼に出会った。

シマカゼタービン、そして瀬名酒造の面々。隠れ銘酒の老舗酒造と未確認生物ども。彼らと実戦で走り、模擬レースで競い、そして延々と負け続けた。

趣味で競走馬をしているというあの馬の、技術もへったくれもないただの大逃げに千切られ続けて、わずかにあったプライドは自分もツバキもぼろ糞にされた。

それが悔しくてシマカゼタービンの尻を追って自分も彼女も必死になって走っていた。走って走って、あの尻を追いかけて一年で、気が付けばここにいた。

笠松の頃から目指していた東海ダービーを取り、中央競争で腕試しにGⅢを走ればあれよあれよと勝って、ちょっと欲を出して手ごろなGⅠレースへのステップレースに出てみればそれも勝って、馬主と一緒に記念受験気分でエリザベス女王杯に出てみれば冠を頂いた。

続いて挑んだ2005年の有馬記念ではぎりぎり5着となった、地方競走馬としてみれば上等どころの話ではないが悔しかった。

でもふと我に返れば思うのだ、どうしてこんなところにいるんだろう? なんで自分はアラブのナド・アルシバ競馬場にいるんだろう? と。

この成績ならば普通なら群馬地方競馬のSPⅠレースに出ているのが地方騎手と地方競走馬だ、まじめに馬と向き合いながらしっかりレースに挑んで夜は我が家でゆっくり眠るのだ。

アラブ首長国連邦のドバイで国際GⅠのレースに出て覇権を競ってホテルに泊まるなんてのは、中央競馬所属の文字通り競馬と馬に狂った連中のお役目である。

自分はあそこまで狂いきれない、競馬も馬も大好きだがそこまで命をかけようとは思えない。

桂井は周囲の喧騒も我関せずとばかりにリラックスしたツバキプリンセスの鞍上に乗ったまま、ぼやっとしながら競馬場を見回す。

どこを見ても高崎競馬場の年季の入ったコースではない。最新式の設備、見慣れない言語、時々聞こえる厩務員や係員たちの言葉も様々な異国の言語である。

あぁ俺はいま海外にいるんだな、今更そう思うがやっぱりどこか現実味がない。これも世界中の競馬狂いの集まった熱意に乗っていないが故か。

 

(おんなじこと、田島と新坂も言ってたなぁ)

 

ノルンファングの騎手である田島、ホクリクダイオーの騎手である新坂、彼らもまた自分と同じ普通の地方騎手でしかなかった。

競馬と競走馬が好きでこの世界に入った点は同じ、二人は代々競馬に縁がある家柄ではあったが中央の猛者や伝説たちと比べれば普通に一般家庭。

そんな彼らも今や立派なGⅠジョッキー、三人で顔を突き合わせて現実味がないとボヤキながらレースの研究をしたのは数知れずである。

それが今や国際GⅠレースに出てきてしまっている。笠松の頃から着続けた深緑の胴に稲妻をイメージした黄色の山形襷柄の騎手姿の自分が場違いに思えた。

そもそも、この海外遠征自体が金銭的にギリギリラインなのである。騎手が騎手なら馬主も馬主、今の馬主は群馬の一流観光ホテルの経営者である。

金持ちではあるが中央競馬で軒を連ねるような大馬主ほどではないし所有馬もツバキプリンセス一頭のみ、趣味でロマンを楽しむタイプで己の進退に影響がない範囲でしか金は動かさない。

その分どこまでも純粋に勝敗を楽しんでくれるいい馬主さんではあるが、群馬競馬のバックアップがなければ海外遠征なんてする金はないと普通に無理だと首を横に振っていただろう。

自分だってそうする、同じ立場だろうが騎手であろうがそうする、喧嘩など起こるはずもなく満場一致で否決、あまりに無茶が過ぎるというものだ。

 

(事実、俺、ここに来てから完全にお上りさんだしな)

 

初めての海外遠征である、文字通り人生初の海外がこのドバイである。

田舎の牧場育ちでそれで満足していた田舎坊主から、地方騎手になってでそつなくやっていた桂井に海外旅行などというおしゃれな経験などない。

現地に着いてからというもの、言葉も右も左も分からないから大人しくしつつ身振り手振りも交えて意思表示だけははっきりするのが精いっぱいである。

それを言えば群馬競馬から派遣された人員は通訳を除いてみんなそうなのであるが。

せめて馬でも見れば何か変わるかなと思って見回すが…

 

(ウィルコ、ブラスハット、スーパープロリックに…あれはエレクトロキューショニスト!?なんてキレた体してやがる)

 

エレクトロキューショニスト、ゴドルフィンが誇る競走馬のうちの一頭、芝もダートも力強く走り抜ける強さは一級品だ。

日本中央競馬でも2005年のイギリスG1レース『インターナショナルステークス』で、大竹が乗るゼンノロブロイを破り一着を取っている。

普通に考えればこんな自分たちが一緒に走れるような存在ではないのだ。

でもこれから、自分たちはここで一緒に走り、ドバイミーティングの大トリであるドバイワールドカップの冠をめぐって競い合うのである。

 

(これ世界だねぇ…わー、なんかもう、ゲームみてぇ)

 

どこを見ても見慣れた馬がいない、いつもの連中がいない、中央競馬のレースに出走したときも感じた寂しさではあるがここはドバイ、より一層寂しい気分だ。

何しろ、そもそもここにいる日本人関係者自体ほぼ僅かである。さらに言えば群馬住まいの田舎者となれば身内以外皆無、寂しいにもほどがある。

観客はほどほどに来ているがそれはまた別計算だ、たぶんほとんどは中央競馬から出走している馬のファンでこちらのファンはちらほら見える平成初期ファッションのおっさんどもであろう。

ツバキプリンセスの父であるタマモクロスファンだった連中が、当時の一張羅を着込んで応援してやろうとでも意気込んでいるのだろうか?ただのコスプレ(本物)である。

 

「ヒヒン!」

 

「ふぬぁ!?」

 

不意に背中を揺られて桂井はツバキプリンセスのほうに目をやる。そこには少しむすっとした雰囲気のツバキプリンセスが桂井をじっと見ていた。

情けない顔するな、気合い入れろ、とばかりに鼻を鳴らす12番のゼッケンをつけたツバキプリンセスに、桂井は後頭部を掻きながら謝った。

 

「あー…悪い、なんかいろいろありすぎて考えすぎてたわ」

 

「ブルルッ!!ヒヒン!」

 

「お前はほんと、元気だよな」

 

「フィー!」

 

前走が高崎のSPⅡダート2000、その後に走った当日に輸送され、検疫を終えてナド・アルシバ競馬場近くの厩舎に入ったのが僅か一週間前。

普通に考えたらずいぶんな強行軍であるが、日ごろから訓練で輸送慣れしたツバキプリンセスからしたらなんてことはないのだ。

この馬、飛行機が高度を上げるのに合わせてわざとらしく唾を飲んで耳抜きできるし、ジェット機のエンジン音にも全く動じず暇を持て余して昼寝をするくらい余裕なのである。

輸送は瀬名酒造に倣って日常的に馬運車に乗せて走り回ったり、道路を散歩させる事で慣らしたが耳抜きまで教えた覚えはない。

せいぜい検疫期間中が暇で暇で暇すぎて、四つ足バーピーテストもどきをやり始めたりひっくり返った亀のようにわざと空中に足を向けて走ってたりと自主練という名の奇行に走っていたくらいだ。

どう考えてもあの未確認生物の入れ知恵であろう。群馬周辺にしか行ったことがないはずなのに、なぜか不思議な知識をどこからか仕入れてきては仲のいい馬に伝授してどんどん仲間を癖馬に仕上げてくる。

 

(これで扱いづらくなるどころか強くなるんだからなぁ…)

 

馬が人間を理解するのか、はたまた人間が馬を理解しやすくなるのか、とにかくその効果は大体良い方向に向いてくるからある意味厄介なのである。

この海外遠征でもツバキプリンセスは全く動じることがない、ここが日本ではないことに怯えるどころか興味津々なくらいだ。

 

「やるか、なるようにしかならんもんな」

 

「ブフブフ…カーッペッ!」

 

「汚いからやめなさい」

 

まぁ、来ちゃったならいっか、考えたってもうしょうがない。この際だからツバキプリンセスの強さを世界に知らしめてやろう。

負けたところでなんだというのか、負けるつもりはないがこんなでたらめな状況なのだ、負けてもそれほどとやかくは言われまい。

鞍上はしがないおっさんだがこれだけは言える、俺がツバキプリンセスに一番うまく乗れる、最高の相棒なんだ。

 

「桂井さん」

 

観客席前に行きたがるツバキプリンセスの好きなように歩かせていると、後ろからもはや聞き慣れた中央競馬の大物騎手の声が聞こえた。

現地到着から一週間、ツバキプリンセスの慣らしと自分たちの慣らしでいっぱいいっぱいだったためにドバイミーティングに出走しているほかの日本グループとは顔を合わせる機会があまりなかったのだ。

振り向くとそこには日本では砂のディープインパクトと言われる中央競馬のダート競走馬カネヒキリに騎乗した見慣れた大竹騎手が朗らかに手を振っていた。

 

(うわ、カネヒキリもすっげ…)

 

大竹が騎乗する中央競馬きってのダート競走馬、カネヒキリの筋肉質ですっかり出来上がった体を見て思わず息を呑む。

ツバキプリンセスも負けないくらいに仕上げてきたのは事実だが、やはり日本中央競馬に所属して中央ダートのトップと言えるカネヒキリはどこまでも別次元の馬に見えた。

まず毛艶からして違う、キラキラしている。一体どんな高いシャンプー使ってるんですか?うち?スーパーの安物ですが何か?そんなレベルである。

さすがは日本中央競馬の競走馬、有力競走馬を何頭も持つ大馬主が所属する巨大グループのバックアップでどこまでも仕上げてきたに違いない。

 

「おや、大竹さん。今日はよろしくお願いします」

 

「こちらこそ、ツバキプリンセスの調子は良いみたいだね」

 

「えぇ、昨日も無駄にグースカ寝てましたよ」

 

厩舎到着初日の夜、自分が緊張で寝不足になりそうな時に、こいつは検疫と長距離輸送の疲れなど全く見せずに馬房で気持ちよさそうにすやすや寝ているのだから逆に腹が立ったのは内緒である。

しかもそのおかげで同じ厩舎にいた別の騎手や厩務員から変にまくしたてられて訳も分からず、ずっと日本語しかわからんと身振り手振りで説明し続けて逆に疲れたものだ。

群馬競馬が地元で雇った通訳担当もその勢いにすっかり混乱してまともな話にならなかった、彼女も語学が達者なだけで競馬には興味がない雇われただけの日本人であるゆえに。

ずっと眠っているので不審に感じた現地厩務員が相談したのが話の分かる通訳で、競馬には知識がない彼女がそのまんま別に病気ではないと説明したのが引き金だった、それで安心かと思ったら相手が急にヒートアップして大騒ぎである。

そうは言われても、群馬競馬では新世代の馬がこうなのは大体常識である。理由はあの未確認生物だとしか言えない。

 

「ははは、厩舎で大騒ぎになったって?私の方の厩舎にも話が回ってきたよ、日本じゃこれが普通なのか!?って」

 

「中央さんのディープインパクトも良く寝るじゃないですか、カネヒキリだってそうでしょ?」

 

「ははは…それ本気で言ってる?」

 

「さすがに冗談ですよ」

 

とはいえ、群馬競馬では一部の競走馬と新世代の競走馬はほとんどが夜はぐっすり眠るようになっているので今更ながら狂っていると思わされた桂井である。

同じ馬房で仲良く隣り合って眠る姿が愛らしいと評判のアルト姉妹は群馬競馬の厩務員の間では人気だ。

他にも彼が教育に関わっているブニーキャップ達も夜はぐっすりであるし、リハビリ中のハルウララも最近は起きてもすぐに寝る習慣がついてきているという。

おかげで厩務員たちの苦労はだいぶ軽減されているらしい、綺麗好きも移っているせいで催すとトイレに連れ出されるのが少し手間になるが。

 

「ほら、みんな君たちのこと見てるよ」

 

「…せっかく忘れてたのに」

 

大竹め、余計なことを。桂井は内心この恨み晴らさでおくべきかと唱えながら大竹を睨む。

ツバキプリンセス爆睡の大騒ぎがほかの陣営、騎手達の耳に入らないわけではない。なんなら検疫の時から爆睡の様子は見られていて検疫官が目を丸くしていた。

おかげで日に日に白衣の連中が見学に来る日が増えていたが、向こうもマナーは守っていたのでいろいろ図太くなったツバキプリンセスからしたらむしろいい遊び相手であったのが幸運であった。

こちらに移ってからは巨大やら中央競馬の重鎮やら、海外ならゴドルフィンなどの連中からも見られる始末。じっとり睨みつけてくるようなことはしてこないが、それでもチラチラ見られて針の筵である。

話しかけてこないのは、自分が日本語しかできないただの地方騎手だという必死の説明が効いてくれたからだと思いたい。

大逃げしたい、こんな時にあの未確認生命体に乗って大逃げしたら絶対気持ちいいだろうなー、とそんなことを考える桂井であった。

 

 

 





あとがき
時間は少し飛んでドバイワールドカップ、ツバキプリンセス爆睡事件は思いついたら番外編とかでやろうかなと。
それまでのあれこれで群馬競馬、実力とは別な意味でロックオンされております。
桂井の騎手服は深緑に右肩から左わきにかけて斜めに黄色の山形襷を付けたもの、黄色の稲妻が走ってるように見えるシンプルなやつ。
モチーフは旧日本海軍局地戦闘機『雷電』の静態保存機に使われているカラーリングです。父のあだ名が稲妻だからね。
え?主人公?たぶん飯食って寝てるよ、ラジオ放送やってる局とか知らないし。



ツバキプリンセスの気持ち・緊張なんてくだらない、やることはどこでも一緒でしょ?そんなのこの唾みたいに捨てちゃいなさい!(唾を吐き捨てる音)


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