気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの感想、誤字報告ありがとうございます。
ちょっと長くなってきた殿下襲撃事件ですが、もう少しお付き合いください。




第34話

 

 

正直に言えばただの反射的な行動だった。突然銃声が鳴って、お付きの人が背中から撃たれて、一度とはいえ乗っけてた人に変な輩がグロックなんて物騒なもんを向けてりゃそりゃそうだろ。

こんな所でいきなり拳銃をぶっ放してくる輩がいるとは思ってなかったし、そもそも日本でそんなもん見る機会はそうそうない。

けどまぁあれだ、一度は背中に乗せた人が殺されそうになってたらさ、助けるじゃん?

 

「What!?」

 

もうね、ほんと咄嗟だったね。殿下を背中の後ろに押し出して、今にも次弾ぶち込みそうな厩務員もどきのグロックに噛み付いて組み付いた。

あっぶね、あと一寸スライドを押し込むの遅かったら撃鉄落ちてたじゃねーの。っていうかグロックなんかどこから手に入れてきたこの姉ちゃん!

なんで新入りの姉ちゃんが殿下を殺そうとすんのかは知らんがね、とりあえずここはそういうことする場じゃねぇんだよ。

思いっきり銃をひねって奪い取りながら振り回して、体勢が崩れた新入りの足を自分の右足で後ろから引っかけてーの!

 

「ヒーフーヒー!!!」『CQC!!!』

 

見様見真似のCQC、馬アレンジ!!

 

「あぎゃぁ!?」

 

フン!他愛なし。前世のイラクではこれでいろいろ乗り切ったかんな、さすがビッグボスだぜ。見様見真似だけど。

ここが休憩スペースでよかったな、背中から思いっきりいったから痛いだろうが許せ。まぁ手加減したし、本物の馬に殺しにかかられたらこんなんじゃ済まねぇからな。

っていうか、もぎ取ったの改造銃とかじゃないマジもんのグロックじゃん。これ26か?初めて見たぜ。こんなトレセンに似合わんもん持ち込みやがって、何したかったんだ?

とりあえず無力化しとくか。口の中で嚙む位置を直してグロックのスライド後部のセレーション部分を噛んでグリップが右にくるようにして、そしたらグリップ後部を右足で何度も押して銃弾を排出。

あとでなんかあると嫌だからね、弾拾いの面倒は増えるけどそこはしょうがない。

全弾出たらスライドストップがかかるから、マグキャッチを右膝で押してマガジン抜き、もう一度グリップを押してスライドストップを解除。

撃鉄も落としておきたいところだけど、さすがにグロックは馬のこれじゃ操作しにくいわ。グロックはトリガーセーフティー付きだし。

 

「確保!!」

 

「県警本部!県警本部!!緊急連絡!!」

 

「Fuck!Police!」

 

オーオー吠えとる、でもさすがに日本警察相手に近接格闘は分が悪いだろ。がっつり組み付かれてるし。

お巡りさん一人が背中から抑え込んで、もう一人が県警に通報で雅孝さんは…あ、別のところの警備してた人に連絡ね。

さすが警察の格闘術、えぐい位完璧に犯人を無力化してんねぇ。

撃たれた殿下のお付きの人は…あぁ、無事みたいだな。防弾チョッキ着てたのね。殿下に介抱されてる。

…ん?待てよ、どうしてこんなところで銃撃?一人で?

 

「ヒヒン!」『師匠!すごい音したけど一体何!!?』

 

『なんなのです!?花火みたいな音がしたのです!!殿下が来たから花火の日ですか?見たいのです!!』

 

近くの休憩スペースにいたアイネスとレーネが来た。待て、待て待て待て、そもそも狙われたのって殿下だよな?殿下ってドバイの首長やってなかったっけ?

そんな人狙うのが単独犯?しかもこんなお粗末な鉄砲玉戦法?イヤイヤそんなわけがねぇ、そんなの今のヤクザ映画だってやらないだろ。

嫌な予感がする、これは嫌な予感がするぞ。そもそも殿下を狙うならそれ相応の奴がやるよな?当然、腕前も相応の奴だすよね?それでこんな鉄砲玉やらないよな。

周りを見る、この周囲にはほかに不審な人影は見当たらない。じゃぁ、ちょっと遠くの、トレセンの事務所とかが入っている建物の方は?

 

「ふぁー…」『やっべぇ…』

 

見つけた、見つけちまった。建物からダート練習場を見渡せる練習用放送室、その中に見覚えのある光がキラキラ、どう見ても狙撃用スコープの反射光。

それに施設の倉庫から練習場に機材を出す為の搬入路にもう一人、真っ黒のBDUに同じく真っ黒のタクティカルベストでバラクラバのテロリスト。手には…冗談じゃねぇ、どこからそんなもん持ってきやがった!!

 

「ファァァァァ!!?」『アーウェン37だとぉ!!?』

 

「ヒヒ!?」『何それ!?』

 

「フヒーン!!」『グレネードランチャーだ!全員伏せるか隠れろぉ!!』

 

冗談じゃねぇ、ふざけんな!!狙撃に煙幕の支援付きだと!?なんでそれを最初に使わんのだアホんだらぁ!!しかもあのグレネード野郎、短機関銃まで抱えてやがったぞ!

あの特徴的なヘリカルマガジン式のダットサイト付き短機関銃、PP―19ビゾンとかなんであんのさ!!

咄嗟に近くにいた殿下と護衛の人の首根っこを咥えてダートコース脇のでかい金属製物置の裏に押し込んで俺とアイネス達もゴミ箱裏の地面に伏せる。

瞬間、気の抜けるような音が2回したと同時に何かが打ち出されてシュルシュル音を立てて飛んでくる音が聞こえて、耳をつんざく炸裂音が響き、閃光が周囲を一瞬だけ照らし出した。

 

「ヒィィィン!!」

 

「ブルァァァァ!!?」

 

うるせぇ!耳がおかしくなりそうだ!!フラッシュバン?いやグレネード用の閃光弾か。なんでそんなマイナーなヤツ撃ってくるんだよ、グレネード撃つ前の事前射撃とでも言いたいのかこらぁ!!

 

『し、師匠ぉぉぉ!!これなんなのさぁぁ!!』

 

『怖いのです痛いのですうるさいのです嫌なのですぅぅぅ!!』

 

『頭を上げるな!グレネードで吹っ飛ばされるぞ。そのまま伏せてろ!!』

 

アイネスとレーネは完全にパニックになってる、このままだと暴れて立ち上がりそうだったんで前足で無理矢理頭を下げさせて伏せさせる。

遠くからパンパン音が聞こえてきた、狙撃手も撃ち始めやがった。ますます頭上げられねぇぞ。

 

「ヒヒン!」『アイネス、レーネ、お前たちは絶対に立つなよ、頭も上げるな』

 

「ヒヒ!?」『師匠!?』

 

「ヒヒィン」『言う通りにしろ!!狙撃されるぞ。収まるまでここでじっとしてろ、殿下たちもここから動かすな。頭上げそうだったら抑え込んで伏せさせろ』

 

言うが早いか恐る恐る顔を上げようとしたお付きの人の頭を左足で優しく下げさせる。あんたが目立ったら殿下がここにいるってバレバレでしょうが!

くそぅ、人間の体なら匍匐なりなんなりでそれなりに自由が利いたのに、馬の体じゃ匍匐前進でも目立つから動けねぇ!!

あ、だから殿下も顔出すな!!ほらじっとしてて、アイネスとレーネみたいに頭抱えて伏せとくんだよ!!

 

『ひょぇぇ!?』

 

『あっぶねぇ!!』

 

ぬわぁぁ!ゴミ箱がカンカンいっとるぅ!!この野郎馬が寄り添ってるだけなんだから撃って来るんじゃねぇ!!

前世のイラクに比べりゃ密度は薄いけど撃たれるってのはやっぱり怖い!クソが!!

 

「ヒヒィン!!」『くそッ、弾がへなちょこじゃなきゃぶち抜かれてたぜ。ブチ!まだ生きてるかぁ!!』

 

「うにゃッ!にゃにゃ!!」『運良くな!まったく、厄介なお客さんが来たもんだ!!』

 

「ヒヒン!!」『まったくだ!どこにいる!!』

 

「ニャーッ!!」『コースの端っこだ。頭から突っ込んで砂塗れだぜ!ウララちゃんたちはこっちで回収した、こっちは任せろ!!』

 

了解了解!そのまま砂に隠れてろ、そうすりゃそうそう狙うやつはいねぇだろ!

 

「غلوك!!」

 

あ、何だって護衛の人?え?グロック!?あ、引っ張んなよ放すからあわてんな。でも悪いな、弾切れだ。

そういえば咥えたまんまだったグロック26を護衛の人に渡すとびっくりしたように目を見開く。

そうね、マガジンないもんね。そんなにチャンバー見たって一発も残ってねーよ。

 

「هل فعلت ذلك؟」

 

なんて言ってんだかわからんが…まぁいいや、どうせお前何やってんの?とかそういうのだから頷いて知らん顔しちゃれ。

しょうがないだろ、こんな風になるって分かってたら弾を入れっぱなしにしてたよ!

 

「ぬわ!?」

 

「いっでぇ!!」

 

「GOOD!」

 

ん?今悲鳴聞こえなかった?しかもなんか見覚えある感じの。

 

「今野、島岡!!」

 

雅孝さんの声からして、新人厩務員を抑え込んでた警官と本部に連絡してたが撃たれたのか?放送室にいたあの狙撃手か。

あっちも隠れただろうにいい腕してやがる。まさかこれ、仲間を守るための援護射撃か?随分と心優しい暗殺者仲間だなぁおい!!

何が起きてるのか確かめるために、ゆっくりと顔を上げて物置の陰から顔半分だけ出して様子をうかがう。

 

「止まれ、止まらんと撃つぞ!!」

 

やっぱりだ!新人の姉ちゃんを押さえていたほうの警察官と県警に連絡を入れていたほうの警官が撃たれていた。

あのグレネード野郎が次に撃ってきたのは煙幕弾だったらしく、ちょうどこっちと逃げる新人の間を遮るように白い煙が出始めていた。

県警に連絡を入れていたほうは左足を撃たれただけだったみたいで、ニューナンブを撃ちまくったけど…ダメか、あの煙幕じゃ当たらん。

 

「畜生!」

 

「逃がすか!タービン!!」

 

『おうよ!』

 

雅孝さんの呼ぶ声に応じて俺はすぐに雅孝さんのそばに駆け寄って体をかがませて乗りやすくする。

思った通り雅孝さんが俺の上に跨って手綱を握った、追いかけるつもりなんだろ?お供するぜ、昔みたいにな!

 

「ヒヒーン!!」『ブチ!!連中を追いかける。まだどっかに仲間が潜んでるかもしれんから、他の連中に怪しいヤツを見かけても手を出させんな!』

 

「うにゃぁ!?」『マジかよ!!そんなんどう抑えろってんだ!!?食って掛かるに決まってんぞ!』

 

「ヒン!」『任せる!絶対に殺すなって言っとけ!!』

 

「先回りするぞ!進路は任せた!!」

 

「ヒヒーン!!」『了解!ブチ、任せたぞ!!』

 

「ギャース!!」『絶対もう手遅れなパターンじゃねーか!!』

 

逃がさんぞテロリストども、こんなことやらかした罪は刑務所でたっぷり支払ってもらうぞ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

襲撃は失敗した、そう即座に理解した瞬間、襲撃のバックアップを担っていた彼はすぐに撤退する態勢を整えていた。

こんな仕事だが命あってこそ、失敗したらそれを呑み込んで生き延びて、恥を呑み込んで次の仕事で挽回する、それが自分たちのチームのやり方だ。

 

「くそッ!くそッ!!痛てぇ、痛てぇぞチクショー!!」

 

「そうだそうだ!思う存分喚け、口が動くうちは生きてる証拠だ!!」

 

とはいえ、ロジーが足を撃たれたのは想定外だった。狙撃されていると理解させれば日本警察の警官は及び腰になると思っていたのだ。しかし肝が据わった警官もいたらしく、煙幕で見えないにもかかわらず撃ってきたのだ。

その内の一発が、本当に運悪く全力で逃走していたロジーの右太ももを貫いた。

弾切れのアーウェン37を捨てて、厩務員服のロジーを左肩で抱きかかえるファイヤーマンズキャリーで抱えて小走りで逃げながら先ほどの戦闘を反芻する。

何とかカバーして室内に引っ張り込んだはいいものの、右太ももの銃創からにじみ出る血痕が廊下に明確な痕跡を残している。

きっと持ち直した警官たちが自分たちを追いかけてくるに違いない、血痕は十分な痕跡だ。

だからといって、自分たちは敵の懐に飛び込んでいるのだから気にするまでもない事なのだが。

日本警察の主装備は38口径のリボルバー式拳銃が主だ、予備弾薬を持ち合わせていないはずだから火力は自分たちよりはるかに乏しい、抵抗はたやすいはずだ。

そんな風に勘案していると、予定していた合流ポイントの廊下で先ほどまで援護用の狙撃ポイントにいた仲間のチームメイトが慌てた様子で駆け込んできた。

 

「ロジー!なんてこった、傷の具合は?」

 

「足に一発、38口径だ。大丈夫、血管は傷ついてない、しばらくは大丈夫だ」

 

「何が大丈夫だ!!マッケイ!もっとちゃんと撃てっての!!」

 

「無茶言うなって、お前も納得してただろ?こんなボロライフルでまともに当たるか」

 

マッケイは抱えていた狙撃仕様M1ガーランド半自動小銃で通路の向こうに射撃しながら怒鳴った。

丁寧に手入れはしてあるが金属部位に所々錆が残り、木製のストック部分もボロボロなところが目立つ銃はこの日本で何とか調達できた唯一の狙撃銃だ。

当然ながら射撃精度は良くない、長年酷使されたせいで部品にガタが来ており銃身のライフリングも薄くなっている代物だ。

国外からの密輸が難しいなら国内で流れている物から調達する、というリーダーの発案は名案ではあったが、思いのほか警察は有能で裏で流通している銃は少なくえり好みはできなかった。

そのせいでほぼジャンクなM1ガーランドだけでなく、閃光弾と煙幕弾しか在庫がなく非殺傷弾しか調達できなかったアーウェン37もなんとか活用できないか考えるしかなかった。

まともな狙撃銃やグレネードランチャーが入手できなかったこの一件から、今回の仕事では遠距離狙撃や圧倒的火力による力押しなどによる依頼達成は候補から外されていたのだ。

 

「こっちだ、ここなら時間が稼げる」

 

「くそったれ!!あの馬、なんなんだ!!あたしの銃を、あたしの銃を!!くそっ!!あとでぶっ殺してやる!!」

 

「そんな暇があったらな」

 

マッケイが蹴り開けた窓の付いた両開きの金属扉の先は倉庫のようだった、中には古い機材や飼料の入った袋などが置いてあり動物の匂いが染みついている。

出入り口は三つ、うち一つはロジーの偵察で決められていた退却ルートにつながるものだ。もう一つはロジーが事前工作で壊したカギがかかっており、修理しなければ開かないようになっている。

その先の部屋には別の出入り口もあるが、そこも事前工作で経年劣化による破損に見せかけて封鎖済みだ。

もう一つの扉の先は使われていない厩舎で、その先に搬入通路があり撤退用の車が来れば無線に連絡が来る手はずになっている。

この施設内にはロジーが細心の注意を払って施した破壊工作でいくつもルートや死角が作られており、潜入ルートや仲間の潜伏先に使われていた。

彼がロジーを運び込むとマッケイは入ってきた扉を乱暴に閉じて、近くにあったコンテナを乱雑に引き倒して扉をせき止める。

扉の向こう側から日本語の喚き声とどたどたとかけてくる足音が聞こえてきた。すぐに扉の近くにいたマッケイが、金属扉上面についた窓から応戦する。

しかし、すぐにマッケイの使っていた狙撃仕様M1ガーランドは嫌な金属音を立てた。

 

「クソッ、ボロめ」

 

「使え!!」

 

咄嗟に自分が持っていたPP―19ビゾン短機関銃を投げ渡す、マッケイがそれを受け取ると同時に放り捨てた狙撃仕様M1ガーランドはスライド部分が中途半端に停止して固着しているようだった。

マッケイの足元に予備弾倉を滑らせて渡し、彼はロジーを撤退路ではない扉近くの手ごろな物陰に降ろして、メディカルポーチからメディカルキットを取り出した。

まだ撤退用の車が来る連絡はない、自分たちを見捨てるはずがないからおそらくほかの要員を回収しているのだろう。

この位置ならばマッケイの姿は見えないが、マッケイ側からの射線は流れ弾も来ない位置だ。

 

「くそ、あぁくそ!悪い、しくじった」

 

「しょうがないよ、あんなの予想できるわけがない」

 

手早くロジーの右太ももの銃創を止血して、包帯を巻きながら彼女の言葉に返答する。

そうだ、こんなこと予想できるはずがない。まさか初動で一番速かったのが馬だったなんて、その馬が銃を怖がらないどころか熟知していただなんて。

援護のために観察していたからこそ自分には理解できた、そして怖気が走った。

あの馬がロジーのグロック26を奪った後、明らかにそれが銃だと認識したうえで的確に無力化してみせたのだ。

 

「悪いと思ってるなら、帰ったらあのレストランで飯おごれよ、全員にな」

 

「おま!金ねーよ!!」

 

「失敗しなきゃ入ったんだよ、ね!」

 

「あだぁ!!わかったわかった!!じゃぁ―――」

 

ロジーの言葉は最後まで紡がれることはなかった、何故なら彼の後ろで唐突に大きな音を立てて何かが開いた音がしたからだ。

ロジーの視線はなぜか自分の後ろに向けられて、その瞳孔はまるで恐ろしいものを見たかのように収縮した。自分の首筋を生暖かい息が撫でた。

自分には後ろに何がいるのかわからなかった、何故なら自分の後ろには壊れたカギがかかった扉しかないはずだから。なら、今の音はなんだ?

警察ならとっくに拘束されている。なのにそれがない。まるで撫でまわすように自分を見て、息を吹きかけている。恐ろしい。

 

「アダム!!」

 

自分が振り返るよりも早く、アダムは何かに横に突き飛ばされた。乱暴に壁に叩きつけられて息が詰まり、視界が明滅する。

マッケイが扉の向こうに応戦するのが一瞬見えて、ロジーに目を向けると、そこには血だまりと何かに引きずられたような跡しかなかった。

 

「アダム!!マッケイ!!」

 

咄嗟に空いていなかったはずの扉に目を向ける、そこにロジーがいた。必死の形相で扉の縁にしがみつき、今にも引きずりこまれそうな彼女の上半身の姿が。

咄嗟に彼女にしがみつき、引っ張り出そうとした。だがロジーを引っ張ろうとする何かの力はあまりにも強く、咄嗟に右わきの下に抱え込むようにして自分を取っ掛かりにして何とか固定する。

それでも引っ張り込もうとする何かの力は強い。自分一人では長く抑えていられないのが彼にはすぐに分かった。

レッグホルスターに収めてあるマカロフPMを抜く暇もない、両腕でしっかりと持たないとロジーはすぐに連れていかれてしまう。

一人では無理だ、そう直感してアダムはマッケイに向かって叫んだ。

 

「マッケイ!マッケイ!!」

 

「今忙しい!!」

 

「助けてくれ!早く!」

 

咄嗟にマッケイに助けを請うが、マッケイにはこちらが見えておらず警察への応戦で手いっぱいだ。

おそらく警察が来たと考えているのだろう、そんなものではない、得体のしれない何かにロジーが連れ去られかけているなんて思いもしないはずだ。

 

「マッケイ!!ロジーが連れてかれる!!」

 

「何ぃ!?」

 

「アダム!アダム!!」

 

マッケイの声が愕然とした瞬間、今まで以上に大きな唸り声と同時にロジーの体が揺さぶられ、アダムの右脇の下からロジーの腕が引き抜かれた。

ロジーの腕が抜けたことでアダムはその場で尻もちをつく、すぐにロジーを捕まえ直そうとして、廊下の先を見てしまった。

暗闇の中の大きな何かに、細長い管のようなものをはやした黒い影に服の首根っこを咥えられて喚きながら暗闇の中に引き摺りこまれていくロジーの姿。

ロジーの助けを請う声が響く、咄嗟にマカロフPMを抜いて暗闇の向こうに発砲したが、遅かった。

巨体の影はまるで何もなかったように消えて、ロジーも暗闇の中に消えた。

 

「アダム!なんで一人で…ロジーは!!?」

 

「連れてかれちまった…」

 

「何?」

 

「連れてかれちまったんだ!!訳が分からねぇ!!警察じゃないぞ!!追いかけねぇと!!」

 

「馬鹿やめろ、もうここは持たない」

 

「でもロジーが!!」

 

追いかけなければ、そう言いかけたがその声はマッケイが守っていた大扉が大きくたたかれる音に遮られた。

見れば、扉の前に警官と警備員達が押し寄せてきており扉に体当たりして無理矢理こじ開けようとしている。

 

「もう間に合わん、来い!!」

 

「畜生!」

 

マッケイが撤退路の厩舎に繋がる扉に駆けるのを、アダムもマカロフで大扉に向けて牽制射撃しながら追いかける。

アダムが厩舎内通路に飛び込んだ途端、真後ろで盛大な破壊音と同時に扉が乱暴に蹴り開けられる音が響いた。

 

「嘘だろ!?無理矢理突破してきやがった!なんつーバカ力だ!!」

 

「足を止めんな!ほら!アイリスたちだ!!」

 

後ろからどたどたと追いかけてくる警察官たちの足音に冷や汗が噴き出るが、アダムは厩舎の先の搬入通路に白いワンボックスが荒っぽく停車したのを見て何とか息を整えた。

撤退支援のために後方支援を担当していた我らがチームリーダーは、最高のタイミングで助けに来てくれた。これだから彼女はとても信頼できる。

 

「早く乗れ!」

 

「言われなくても!」

 

マッケイが開いたドアに飛び込み、自分が体半分まで身を車内に飛び込ませたところでワンボックスが急発進して、アダムは近くの座席に転がるように倒れた。

何とかなった、そう思うがすぐに車内の異常に気付いた。静かすぎるのだ、自分たちより前に撤収した潜伏部隊の雇われ傭兵たちなども居なければならないはずなのに人影がない。

よくよく不思議に思って後ろを見れば、後続の車もいない。万全を期すために車2台に分かれて、目立たないように潜入したとはいえいざというときの撤退プランは全員と共有していた。

今回雇った傭兵たちは顔見知りの連中ばかりで腕前は信頼のおける連中だった、それが誰一人残っていないというのはあまりにもおかしすぎる。

 

「リーダー、他の連中は?」

 

「やられた」

 

「マジか?」

 

「お前達こそ、ロジーはどうしたの?」

 

「…やられた」

 

正確には連れ去られたというほうが正しいが、そういったところでもう迎えに行くことはできない。

こんな仕事だ、生き残るために最善は尽くすがそれでもだめならば割り切るしかない。ロジーは運が悪かった、それも強烈に。

 

「日本の警察にか?」

 

「…何が言いたいんだアイリス?」

 

「ロジーをやったのは警察か?ほかの連中は馬にやられた」

 

「何の冗談だ?」

 

「冗談ならどれだけよかっただろうね…」

 

もう笑うしかないとばかりに乾いた笑いを漏らすアイリスが言うには、撤退のための下準備に取り掛かっていた傭兵たちはみんなロジーがしくじった後すぐに行動を起こして返り討ちにあったらしい。

潜伏のために厩舎を利用したのがまずかった、中にいた馬たちを警戒しなかったのもいけなかった。

 

「あっという間よ、みんな後ろががら空きでそこを馬に抑え込まれてね。私は運よく逃げられた、壁際にいたから」

 

「なんてこった…じゃぁ下準備も中途半端か?」

 

「そんなミスはしない」

 

後ろからけたたましいサイレンの音が鳴り響き、赤い赤色灯を煌々と光らせたパトカーが猛然と追いかけてくる。

それを見たアイリスは、ダッシュボードを開けて中から無線機のような端末を取り出してアンテナを引っ張り出す。

その間に、加速力に勝るパトカーがどんどんと近づいてくる。車内には警官が二人、助手席の若い男性警官がリボルバーを抜いているのが見える。

今にも撃ってきそうな姿を見ながら、アイリスは電源が入っている端末のスイッチカバーを押し上げると慌てずに躊躇なく押し込んだ。

瞬間、施設のそこかしこで爆発音と噴煙が巻き上がり、背後のパトカーがまるで何かに地面から押し上げられるように真上へ宙を舞い、空中で発火し火だるまになりながらそのまま施設の外に落ちた。

 

「施設の車とパトカーには全部に確実に壊れるくらいの量のTNTを仕込んどいたわ、もう私たちを追ってこれる車はないはず。ダニエル、このまま一気に逃げるわよ」

 

「壊れるだけか?吹っ飛んだぞ」

 

「後輪が吹っ飛ぶ程度のはずだった、運が悪かったわね」

 

運転席で今の今まで黙ってハンドルを握っていたダニエルがアクセルをさらに踏んでワンボックスを加速させる。

いくつもの乗用車が黒煙と火災に包まれている駐車場の脇を潜り抜け、爆破されたパトカーが突っ込んだトレセン施設の真横を通り過ぎる。

そこを通り過ぎた先はちょうど正面出入り口の目の前だ、昼間は開いている鉄扉が閉められている。周囲に人影はない。

開けに行くか?アダムはふと考えたが、ダニエルが一瞬だけバックミラーを見て目を見開き何も言わずにさらにアクセルを踏み込むのを見て異変を感じ取った。

ダニエルが自分から強行突破するのは普通だが、後ろを見て一瞬嫌な顔をしたのが見逃せなかった。後ろに何かいる、アダムはそう思って振り返って、思わず目を疑った。

 

「まさか持ち直してくる連中がいるとはね、無謀なことを」

 

黒煙を上げる廃車をよけ、火災に包まれる施設を背景に、まるで騎士のように物干し竿を構えて鬣の短い栗毛の競走馬を駆る初老の警察官があったのだ。

アイリスの言う通り無謀な光景だった、いくら自分たちの車がワンボックスカーとはいえ、乗っているのが競走馬とはいえ、馬が車に勝てるはずがないのだ。

すでに馬で車と戦える時代ではない、軍の騎兵隊も、警察の騎馬警官も、今や戦力的価値はないただの儀礼種目でしかない。

それでもその心意気は本気なのだろう、警官と馬からは本気で自分たちを捕まえようとしているからこそ感じる覇気というモノが感じられる。

恐れを知らぬとばかりに加速してくるその警察官と競走馬の姿はアダムに何か嫌なものを感じさせた。

 

 

 






あとがき
架空競馬とは言え、競馬物なのに一気にハリウッドめいたことにしちゃいましたが後悔はしていない。
やるならとことん、相手は殺さない理由がないのでガチで殺しに来てます。今は逃げの一手ですけど。
ちなみにここに送り込まれた連中の内、逃げ出した四人以外はみんな群馬トレセン内で捕縛されました。
例とするなら、恐竜パークのラプトルかマグロ喰ってる方のゴジラ(ヒナ)に襲われた感じ。
今頃、思いっきり睨みつけられてます。まぁ死なないだけましだよね。
プリティ&D時空に入ったらできる限り自制しなきゃなんないし酷くやるつもりもないからね、しょうがないね。




おまけ
実はドクターも巻き込まれ食らったので普通にキレてろくでなしモード。亜美ちゃんはうさ耳が生えてるかもしれない。
彼に捕縛されたらアビスあるいはロドスにようこそ(意訳)されます。SANチェックのお時間です。


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