気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの誤字報告、ご感想ありがとうございます。
群馬トレセン襲撃事件もいよいよ終盤、相変わらず競馬要素がどっか行くけど許してちょ。





第35話

 

 

 

「おいおい、マジかよ!?」

 

眼下の国道で戦闘を繰り広げているのはまさにハリウッド映画染みた逃走劇であった。

もし自分たちが仕事で慣れ親しんだ警察ヘリに乗っていなければ、群馬県警を揺るがす大事件の只中でなければ、きっと思考停止してただの映画の撮影だと思っただろう。

群馬競走馬トレーニングセンターから少し離れた山際の曲がりくねった国道の只中で行われているカーチェイスは、日本のそれとは似ても似つかない過激なモノであった。

それを群馬県警察本部より派遣された警察ヘリを操る操縦士と副操縦士は目の当たりにして、思わずこの大事件の事を忘れて現実逃避したくなった。

 

≪GK02、こちら群馬県警本部、現状を知らせよ≫

 

だが現実は非情である、まじめに事態を収拾しようと必死になっている県警本部からの催促がさっそく飛び込んできた。

 

「こちらGK02、現在群馬競走馬トレーニングセンターより南下、高度100メートル付近、芦名市方面へ向け飛行中…」

 

こんなものなんて言ったらいい、ふと副操縦士は逡巡して言葉を切った。

どうすれば信じてもらえる、そもそもどう表現すればわかりやすい?こんなのこれまでの実戦でも警察学校でも習わなかったぞ。

 

「県警本部、逃走車両及び追跡警察車…いや、追跡騎馬警官を確認。逃走車両より銃撃を受けつつも追跡を続行中」

 

≪…こちら県警本部、電波が悪い、再度報告せよ≫

 

「GK02より県警本部、当該逃走車両および追跡中の騎馬警官を確認!現在、群馬トレーニングセンターより南下、芦名市方面に逃走中!!

逃走車両から多数の銃撃を確認、騎馬警官はその銃撃を受けながら追跡中!!」

 

≪こちら本部!通信状態が悪い、繰り返せ≫

 

「だぁら!!テロリストの逃走車両を制服警官が競走馬に乗って追跡してて、絶賛銃撃有りのカーチェイス中なんだよ、通信障害じゃねぇ!!」

 

≪嘘だろ…≫

 

俺だってそう思いたいよ!副操縦士は内心で叫んだ。しかし現実はそうなのだ、護衛に派遣されていたらしい制服警官が群馬地方競馬所属と思われる競走馬に乗り、マクターム殿下を襲ったテロリストたちを追跡しているのだ。

それも曲がりくねった山道を逃走車両のワンボックスカーの中から盛んに撃ち込まれる銃撃を掻い潜りながら、じりじりと距離を詰めて追い詰めている。

その姿はさながらバイクだ、二つの車輪ではなく4本足で道路を蹴っているのでなければ、鋼鉄の体であればそれで通じただろう。

その背中に乗る警官は、テロリストから放たれる短機関銃と思しき激しい銃撃を右に左にと体を揺らしながら避ける競走馬の背中で手綱を握り、慣れた手つきで鉄製と思しき物干し竿を携え、時に振り回しながら乗りこなしている。

いくら競走馬が俊足とはいえかなり無理をさせているはずだ、そう長くは持たないだろう。

 

≪了解、至急近隣の車両を急行させる。安全を維持しつつ、引き続き該当車両を追跡せよ≫

 

「GK02、了解、当該座標を送信…完了。引き続き…あれはなんだ?」

 

県警本部からの命令を復唱しようとしたとき、副操縦士はバンの後部座席から大きな筒状の何かを抱えた男性が上半身を乗り出すのが見えた。

その円筒形のモノを肩に背負い、筒先を自分たちに向けて構えるそれ。日本国内ではまず見ない、映画の中でしか見た覚えのない兵器に、副操縦士の脳裏は一瞬思考停止した。

 

≪GK02、変化があったのか?状況を知らせよ≫

 

「あ…」

 

なんていえばいい、どう警告すればいい、あれはなんていうんだ?思考が全く定まらない。

そして本能的に、地上から突き付けられた筒先から白煙が噴き出すと同時に映画のセリフが口から飛び出した。

 

「RPG、RPG!!」

 

「何!?」

 

≪何?≫

 

操縦士は副操縦士の切羽詰まった警告に咄嗟に操縦桿を左に捻り左急旋回の緊急回避行動に移る。

瞬間、後方から強烈な炸裂音と衝撃がコックピット全体に走り、二人の意識は消滅した。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「なん…だと…」

 

『おま…おま…』

 

目の前で起きた余りにも頭のオカシイ光景に俺と雅孝さんの思考は停止寸前だった。

目の前のワンボックスからにょっきり伸びた細長い筒状の兵器、目の前で撃墜された群馬県警のヘリコプター。

いやいや、いやいやいやいや!いくら何でもそんなもんどうやったら日本に持ち込めるんだよ!!

 

「ロケット砲だと!?」

 

『9K38だぁ!?』

 

驚いている俺たちに向かって容赦なくPP―19を撃って来る連中の射線を避けながら思わず嘶く。

9K38携帯式地対空ミサイル・イグラ、NATOコード『SA-18・グロース』旧ソ連製携帯地対空ミサイル。

2006年代において東側対空兵器の中では現役の携帯式対空ミサイル発射機、なんてもん持ってきやがった!?

っていうかはじめっからそれ使えよ!!地対空ミサイルで吹っ飛ばないくらい殿下の車は硬かったとでもいうのかこいつら!?

 

「なんてこった、ヘリが!!」

 

『あれじゃもう助からない…』

 

思い出したくはないがあれは完全に直撃だった。ヘリの後部から熱源目掛けて突進、そのまま機体に突き刺さってやがる。

警察ヘリは回避行動をとったように見えたけど相手は2波長光波誘導ミサイル、ただの回避運動なんて意味がない。

そもそもただの警察ヘリが、こんな状況でフレアも無しに回避するのは至難の業、撃てば当たるって所か。

まぁ、こんなところで9K38なんて現用の携帯地対空ミサイルなんかぶっ放されること自体異常なんだけども。

 

『なんてこった、あんなもんまで持ち込んでるなんて!こんなの、次に何が出てくるかわかったもんじゃねぇぞ!!』

 

見た限り連中の装備は充実してやがる、何しろ短機関銃が増えてやがる。9K38をぶっ放した奴が撃つPP―19に加えて、見る限りPPS―43とステアーTMPが増えてやがる!!

車に乗ってた連中が持ってやがったんだろうな、ふざけやがって!しかもそれを盛大にバラまいてきやがるときたもんだ。

今の速度は時速85kmほど、こんな速度で振り回されてんだからあっちも狙ってる余裕ないんだろうけども。

それに対してこっちの武器はニューナンブM60と物干し竿、しかもニューナンブの弾は5発だけでさすがに俺の上からじゃまともに狙えないから実質物干し竿だけときた。

 

『くそッ、これ以上近づけねぇぜ!』

 

山道特有の鋭いカーブでドリフト気味に曲がるワンボックスに追従しながら俺もドリフトしつつ追従、体を揺らしてフェイントをかけて射線を躱しながらなんとか曲がり切る。

それでも危ない射線がいくつもあって生きた心地が全然しない、耳元でビュンビュン風を切っていくのは本当に肝が冷える。

次は3連ヘアピン、ドリフトからのインベタ、カーブで切れる射線を利用して何とか直撃弾だけは避ける。

 

「タービン、連中の狙いが良くなってきたぞ!!」

 

『分かってんよ!』

 

でもこれ以上どうしろってんだ!!フェイントはまだまだあるが、これ以上武器が出てきたら対処のしようがない。

フルオートショットガンでも持ち出してきやがったらもう避けようがねぇぞ、それか手榴弾とかな。

このままじゃ千日手だ、しかも俺たちがすこぶる不利な、どうする…どうする…!!?

 

「ん!?あれはシゲとナオか!」

 

悩んでいたら何かに気付いた雅孝さんが声を荒げた。この先は別の道が山のふもとから合流していて、少し坂になった別の道路が俺から見て右に並行している。

そこから一台、赤色灯とサイレンを鳴らさないまま勢いよくパトカーが飛び出してきて俺たちに合流しようとしてきていた。

あの車は山内さんと河原田さんのだ。雅孝さんの同期で所属は確か妙義方面、俺も何度かあったことがある。

きっと急いで駆けつけてきてくれたんだ、それはうれしいけどあまりにも無防備だ。

パトカーは一般的な白黒セダン、普通のパトカー、装甲のないソフトスキンじゃ荷が重すぎる。

しかも連中は人と殺すことに何の躊躇もないスペシャリストだ、それをあの人たち分かってない!

 

『そこの白いワンボックス!すぐに止まりなさい!!さもなくば発砲する!!』

 

≪マサ、タービン!遅れちまったな!!あとは俺たちに任せろ!!≫

 

「シゲ!ダメだ!下がれ!!!」

 

雅孝さんが叫ぶ、遅かった。俺たちの少し前に飛び込んできたパトカーに気付いた、車内の銃口の一部がパトカーのほうを向く。

止める事はできなかった、できることはなかった。俺たちに向いていた銃口の内二つ、PP―19とステアーTMPが放ったフルオートの銃撃が山内さんと河原田さんが乗ったパトカーを蜂の巣にするのに5秒もかからなかった。

 

「シゲ!!マサ!!」

 

『くそったれぇ!!』

 

ボンネットからフロントガラスまで一瞬でハチの巣になって制御不能になったパトカーが横滑りして俺たちのほうに流れてくる。

横には避けられない、ならば上だ!!

それをとっさに跳躍して飛び越え、着地で崩れかけた姿勢をパワースライドで体を左に流しつつ立て直しながら俺は吐きたいだけ悪態をつきまくった。

そんなに顔を合わせたわけじゃない、けど確かに顔見知りだったあの人たちはもう死んだ、こんなことさえなけりゃ死ぬはずなかったのに!!

性懲りもなく撃ってくる銃撃を何とか躱しながらワンボックスに向かって加速する。時速86km、もう許さない、絶対にとっ捕まえて後悔させてやる!!

 

『加速すんぞ!歯ぁ食いしばれ!!』

 

「行け!!」

 

息を吐く、体を弛緩させる、そしてもう一度大きく息を吸い込んで一気にシフトチェンジ、ギアを上げて加速!!時速88!!一気に詰めるぞ!!

 

「なぬ!?」

 

『ふざけんな!!?』

 

PP―19の銃撃を何とか避けた先にばらまかれたキラキラ光る円筒形の金属、大小さまざまな空薬莢。そりゃあんだけ車内でぶっぱなしてりゃぁ溜まるよな。

連中、やっぱり手練れじゃねぇか!!撃ってダメなら面制圧、そりゃ道理だろうがまさか空薬莢をばらまいてマキビシ代わりってか?

今の俺にはマキビシなんてちゃちなもんじゃねぇ空中散布地雷のミニバージョンに見えてんだけどね!!

 

「避けきれんか…!」

 

『まったく!これだから鉄火場ってのはキライだ!!』

 

つまりさっきの激しい銃撃は途中から囮、本命は路面にばらまいた空薬莢、いっつもこういう連中は素っ頓狂なことやってきやがる!!

進路上にバラまきゃそんなもん理解できん普通の馬なら確実に踏んでお陀仏、仮に理解できてもタイミングが最高過ぎて避けられん。

変な悪知恵働かせやがって、大正解だ、ここからじゃ避けられねぇよ。どう動こうが、どう走ろうが避けようがない上に余計に危険だ。

避けるには距離がない、飛び越えるには範囲が広い、何より慣性でまだ散らばりながら動いてるから捌ききれない。踏んじまうのは当然だ。

いくつかは蹄鉄と体重で潰れる、けど耐えたヤツにうまく乗っちまって足が滑って姿勢が崩れる。コケるな、うん、普通ならな。

 

『しっかり掴まってろよ!』

 

「避けない!?ええいままよ!!」

 

バラまかれたから薬莢の中に自分から速度を上げて突っ込む、当然ながら空薬莢を踏みつぶしてバランスが崩れて姿勢が崩れた。

コケる寸前に足を踏ん張って一瞬ブレーキ、姿勢がぐらついて後ろ足が左回りに回って姿勢が崩れる。

後ろ脚が前に出始めたらステップを踏んで後ろを前に、前を後ろにしながらさらに後ろ走りにステップ、からの前足で左回りに連続ステップ。

推力を消さない連続タップで姿勢が崩れるのを先延ばししつつ荷重移動で体を滑らせて回しつつ360度ターン!

 

『おっしゃぁ、抜けたぁ!雅孝さん!!』

 

「いざ!!」

 

ワンボックスから撃ち込まれる銃撃を、理想的なスピン軌道を描きながら避け、ばらまかれた空薬莢の残りを避けて姿勢を立て直す。

峠の走り屋をなめんじゃねぇぞ、スピンからの立て直しなんざ何度も経験してんだ!!

一気に立て直して加速、時速92キロ、ワンボックス左側からじりじりと寄せる。さぁ追いついたぞこの野郎、雅孝さんの物干し竿を食らうがいい!!

今頃目をひん剥いているはずの逃げるテロリスト共のほうに意識を戻した瞬間、さっと背筋が凍るのが分かった。

 

『あんのかよ、二発目』

 

ワンボックスから身を乗り出して9K38を構えるテロリストと目が合った。油断一つしてない、俺たちを確実に狩るつもりで見定めている冷たい目だ。

なるほど、全部か、さっきのやたらしつこい銃撃も、絶妙なタイミングの空薬莢も、ここに誘い込むためか。

舐めてたのは俺の方だったかもしれん、こいつら本気で俺たちを狩る気だ。

 

「まずい!」

 

雅孝さんが手綱を引いて進路を変えようとする。それを無視して、雅孝さんを一瞬だけ睨みつけた。

 

『堪えろ、こいつは逃げたら負けなヤツだ!』

 

「タービン!?」

 

『まだだ、まだ!俺を信じろ、まだだ!!』

 

とっくに俺たちは9A38の射程内、しかも運悪く直線、下手な動きをすれば撃たれて終わる。今から距離を取ろうとしたって後ろから撃たれて終わりだ。

まだだ、チャンスは一瞬しかない、一瞬だけだ。まだだ、堪えろ、テロリストとにらみ合う。

一歩間違えれば爆死確定、糞怖い、逃げたい、けどここで逃げたら絶対死ぬ。直撃して死ぬ、爆風で死ぬ、破片食らって死ぬ、とにかく終わる。

これしかない、向かってくるミサイルと確実に向き合えるここしかない。

さぁこい、俺たちに向けて行ってこい。俺はここだ、狙いやすいだろ!さぁ来い!撃って来いよ!!

 

「南無参!!」『今だ!!』

 

テロリストが引き金を引く。9K38の筒先からミサイルが飛び出してくるのがスローモーションのように見えた。

発射剤がミサイルを発射筒からはじき出し、一瞬の空白の後にミサイルの推進剤が点火。急加速と共に飛翔し、弾頭の誘導装置が標的へ向けて進路をつける。

瞬間、もう一度ブレーキをかけて一瞬だけつんのめるように速度を落とし、バンの後ろにもぐりこむように右にスライドして進路を一気に切り替える。

スローモーションだった視界が一気に元の速度を取り戻して、ミサイルは俺たちのすぐ左横を突き抜けて僅かな誘導の痕跡を残して後方の道路に突き刺さった。

背中を爆風の生暖かい風が撫でる、だが爆風の加害範囲は真後ろ、俺たちに危害を加える可能性は低い。

確かに生きた心地がしない、前足がくそ痛い、蹄鉄から嫌なにおいがした、でも生きてる!!ケツも背中も破片一つ当たってない。

3秒やったんだ、俺たちをしっかり狙うために3秒くれてやったんだ、しっかり狙ったのが敗因だテロリスト共。

この距離と相対速度なら直撃を避けさえすれば意外と何とかなる、誘導性能にも限度があるからな。親父さんの知り合いは、これを戦車相手にやったって聞いたぜ!!

 

「What!?」

 

真後ろで起爆したミサイルの爆風を尻に感じながら加速、目を見開くテロリスト共のワンボックスに思いっきり寄せて並走する。

さぁ、追い付いたぞテロリスト共。鞍上の雅孝さんが物干し竿を思いっきり振り上げるのを感じながら、運転席の兄ちゃんに笑ってやる。

 

「フリーズ!!」

 

物干し竿が振り下ろされてフロントガラスが皹だらけになる。瞬間、ワンボックスの挙動が一気に乱れて車内が阿鼻叫喚の声で満たされた。

咄嗟にフロントガラスをたたき割って視界を確保する運転手のテロリスト、だがまだだ、まだ終わらんよ!!

さらに車間を寄せて、一気に加速。一気にそば付けして併走!!

 

「シット!モンスター!!!」

 

『いただき!!』

 

「もらい受ける!!」

 

ぐらつく車体にしがみつくので精一杯なテロリストの9K38に、雅孝さんは物干し竿を叩きつけて道路に弾き落す。

グラついたその隙を突いて俺もそいつが無防備にスリングで体に掛けていたPP―19ビゾンに噛み付いて思いっきり引っ張った。

咄嗟の短い抵抗を感じたが、馬に人間が勝てるわけないだろう?思いっきり首をひねってやれば、ほら、落ちちゃうぞ?

テロリストが取り返そうと腕を伸ばしてくる。ダメじゃないか、そんなの隙だらけだ!

 

『ビゾンも寄越せい!!』

 

テロリストが袈裟懸けにしていたPP―19もスリングから奪い取り、軽く放り投げてスリングに首を通してPP―19を首に掛ける。

ふむ、うまい具合に通ったな。こんなあぶないものはいけないなァ、仕舞っちゃおうねぇ。そんな場所無いけど。

 

「ぬぅん!!」

 

ビゾンを奪って隙ができたところに雅孝さんが再び物押し竿を叩きつける、強烈な遠心力を伴って叩きつけられた物干し竿はワンボックスの車体を面白いようにへこませる。

そのたびにとんでもなく車体が揺れるので中にいたテロリストたちは翻弄されてまともに反撃できない、反撃しようとしても無理だけどな。

その兆候があるたんびに、そいつを狙って物干し竿を車内に突っ込んで突き上げて黙らせるんだこの人。

それを狙って掴もうとしても無駄だよ、アーウェン撃ってた兄ちゃん。掴んだら皮膚ごと持ってかれっから。

普段は優しい雅孝さんを怒らせちゃったらこうなる、昔は原付のひったくり相手にこれをやった。

酷かったぜ、あの時は。なんせ、原付に真正面から警棒叩きつけてつんのめらせて止めたんだよ。

 

「終わりだ」

 

雅孝さんがひと際は大きく物干し竿を振り上げて構えを取るのを背中から感じた、それに合わせて加速してちょうどいい前寄りの位置につける。

時速90ちょい、ワンボックスから左前方ちょっと前、いい位置だろ?

瞬間、大きな風切り音と風圧をもって横なぎに薙ぎ払われた物干し竿が、ワンボックスの正面下部を直撃して、車体前部を一気に押し沈めて前につんのめらせた。

車体が前につんのめり、回転しながら宙に浮いて縦のまま何回か転がって、やがて横転して火花を散らしながら滑走、近くの電柱が支えになるようにして止まる。

うわ、元々速度がやばかったからつんのめったら勝手に吹っ飛んだよ。

 

「ふぅ…タービン」

 

『おうよ』

 

だがこれで終わったとは思わない、軽い残身の後に構えを取り直した雅孝さんが合図するのと同時に横転したワンボックスに向けてできる限り警戒しながら駆ける。

これで死んだかもしれないが、こういう奴らは得てしてしぶとい、どういうわけかしぶとい、だから確実にとっ捕まえる。

案の定、派手にクラッシュしたにもかかわらずせいぜい擦り傷くらいしかおってないテロリスト共が二人、ワンボックスから転げ落ちるように出てきた。

咄嗟に俺たちに向けてマカロフとトカレフを向けてくるが、馬の足で一気に近づいた俺たちには反応が遅すぎる。

俺が何かする必要もない、雅孝さんが素早く二人を無力化して、器用にマカロフとトカレフを空中に弾き上げた。

雅孝さんがマカロフを掴んだのを見て、俺もトカレフをキャッチ。手っ取り早く無力化するためにマガジンを抜いて、薬室内の弾もスライドを引いて排莢。

初弾とマガジンはとりあえず道路の端に蹴っ飛ばして、鞍上の雅孝さんが取りやすいように軽く空中に放る。ナイスキャッチ。

おや、マカロフを持ってたのはアーウェンぶっ放してた奴か…よくもまぁ派手にやってくれたもんだなぁおい。

 

「フリーズ!」

 

アーウェンの奴にもうちょっと痛い目を見てもらおうかと思ってたところで雅孝さんが叫ぶ。

二人から遅れて車から転がり出てきた見覚えのないテロリストの女、おそらく逃走用の車両担当だったって所か。

手にはステア―TMP、マガジンは底部が砕けて破損してるが銃自体に破損がないから初弾は残ってるな。

破れかぶれで撃って来るかもしれないからゆっくりと警戒しながら近づく。

他に運転手もいるはずだが…あぁ、運転席で伸びてやがる。

 

「ドントムーヴ!!マイネームイズマサタカオニワ!!アイアムポリスマン!!」

 

目の前まで近づいて雅孝さんが物干し竿を彼女の首に向けて突き付けた瞬間、女は一瞬だけ達観した笑みを浮かべて物干し竿を払いのけ、俺に向けてTMPを投げつけてきた。

咄嗟にTMPを銜えて受け止め、隠しホルスターに持っていたらしい小型リボルバー、おそらくスミス&ウェッソンM40を抜いた女性の右手に目掛けて右前足で軽くアッパーを食らわせた。

俺の蹴りでリボルバーが真上に吹っ飛ぶのと同時に雅孝さんが弾かれた物干し竿を切り返して勢いよく側頭部をぶん殴って、テロリストの女を気絶させた。

 

「危なかったな」

 

『まったくだ、まだやる気だったのかよ』

 

TMPを排莢してから雅孝さんの放ってから落ちてきたM40を口でキャッチ、弾倉が出てくる左側を下にして、グリップ部分を噛んで下あごを前後させてラッチを操作しスイングアウト。

弾倉が出てきたら、エジェクターロッドを左足で押して弾倉から残弾を抜いて、雅孝さんのほうに放る。

 

「これで終わりかな? まったく、この年になってこれは堪える」

 

『そう思いたいぜ』

 

こんなの普通の馬の仕事じゃねーや、前世も同じこと思ったな。まったく…

 

 

 






あとがき
はい、これにて群馬競走馬トレーニングセンター襲撃事件は終わりです。
テロリストは全員捕縛、群馬トレセンは施設損傷に負傷者多数、群馬県警は死傷者多数の大損害。
え?対空ミサイルはやりすぎだって?確かリアルでもRPG―7が押収された事例があったはずなので、まぁ、ありかなと。
普通に国際問題ですがまぁそこは関係ない話なので、あとは少し軽い後始末してついに宝塚だ…なげぇ。



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