気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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第3話

 

 

「なんだ、あの馬は…」

 

とある雑誌記者である彼が見たのは、競走馬というには妙な体つきをした馬だった。全体的にがっしりとしているが、それ以外は何の特徴もないように見える栗毛の牡馬。

小さくもなく、大きくもない、鬣を短く切りそろえて清潔感を出しているが競走馬と呼ぶには体つきは野暮ったい。

乗っている騎手、いや馬の持ち主だろう男性は騎手ではなく酒造会社の社長。体つきも中年にしては引き締まっているとはいえ騎手の体つきではない。

そんな重荷を背負って走る馬が模擬レースの相手だ、そう考えると無謀すぎてむしろ真剣に相手に同情してしまうほどだった。

事実、この時の彼はあの馬と社長に同情を感じていた。中堅どころの雑誌記者とはいえこれまでディープインパクトについて回って取材をしてきた彼には、今のディープインパクトがまさに波に乗っているのを知っていた。

阪神競馬場での2歳新馬戦では初戦から2着に4馬身差で勝利。

次に出場した京都競馬場での『若駒ステークス』では最後尾からのレースを行い最終直線で一気に追い抜き2着とは5馬身差で勝利。

そして皐月賞トライアルである弥生賞では2歳王者『マイネルレコルト』と京成杯を制した『アドマイヤジャパン』を相手に接戦の末、勝利。

今季中央競馬クラシックでも最有力候補のスターホース、それがディープインパクトなのだ。

 

「シマカゼタービン、地方競馬でも聞いたことないな。強いのか?」

 

「解らん、今本社でデータを洗ってるけどなぜか酒でヒットしてるって連絡があった。難航してるよ」

 

近くで一緒に見物していた他社記者の言う通りそれに比べて群馬トレセンから推された『シマカゼタービン』は全くの無名だ。

自分の持っている群馬地方競馬の有力馬は直近では『ホクリクダイオー』と『ノルンファング』の2頭、シマカゼタービンの名前はない。

ホクリクダイオーは父にトウカイテイオーを持つ良血牝馬で群馬地方競馬の芝コース中距離路線、先行型で足運びがうまく前をふさがれても隙間を縫うように抜け出してトップを取る競馬をする。

ノルンファングは中距離芝を走れるダート牝馬で差しか追い込み型、馬群にわざと潜む変わった走りで終盤にどこからともなく強烈な末脚で加速して襲い掛かってくる戦法に意表を突かれる馬や騎手が多い。

この二頭ならばいい練習相手になったかもしれないが、出てきたのはまるきり情報がない謎の馬で乗っているのも地方競馬の正式な騎手じゃないのだから意味が解らない。

一体なんでこんな馬が相手に推薦されたのか訳が分からない、群馬トレセン職員の謎の信頼に満ちた視線も気にかかる。

記者は何とかこの疑問を払しょくしようとシマカゼタービンに注目して、目が合った。

 

「え…」

 

馬と目が合った、そう思った瞬間記者の背筋に何とも言えない違和感が走り金縛りにあったような感覚に陥った。見られている、馬に見られているのだ。

ただ見られているのではない、目が合っている、見定められている、観察されている、馬とは思えない理性の輝きが感じられる。

それが理解できた瞬間、記者の背筋に怖気が走った。馬から興味が薄れて視線が外れる、その瞬間に金縛りにあったような感覚は消え去った。

 

「深淵を覗き見る時、深淵もまたこちらを覗き込んでいる、だったか?」

 

昔読んだ雑誌に載っていた一説を思い出す、今の感覚はまさにそれに思えた。

 

「あれがうちのディープの相手になるんですかね?」

 

「なると思うか?あんなの相手にならんだろ」

 

ディープインパクトに帯同していた若手の厩務員たちがシマカゼタービンの競走馬とは思えない体つきに優越感に浸っているのを聞いて気を持ち直した。

今のは気のせいだ、ディープインパクトが負けるわけがない。そう思いつつも、なぜか不思議と記録用のビデオカメラに力が入っていた。

これは記録しておく必要がある、なぜかそうせかされているように思えた。模擬レースはすぐに始まる。

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

足が少し滑ったけど俺は一気に駆け出す、立ち上がりはディープインパクトのほうが早い。徐々に前に出てすぐに頭を押さえられた、さすがは中央のサラブレッド。

俺の足は逃げだ、頭を取られるのは苦手。これは俺にも言える、自分のペースで走れないとどうも疲れやすい感じがするからな。

けどな、それじゃ峠の走り屋はやってけないんだ。そのまま押さえ込めると思ったら大間違いだ、抜かし抜かされなんていつものことだ。

まずは追走で煽ってみよう、様子を見て最初の勝負をかける。場所は最初のカーブだ。

群馬トレセンの芝コースはカプセル型の平坦な2000メートル、今回は右回りだが右でも左でも大きな差が出ない。

 

『何!?なんだお前!!』

 

まずは加速してぴったりくっつく、俺が抜こうとしてるんじゃなくてわざと張り付いたのは奴らに理解できないはずがない。

これだけで動揺を少し誘えたのはラッキーだ。馬の脚で走れば最初のカーブなんてすぐだ、それまでに煽ってやる。

ぴったりと後ろにくっつく逃げ馬なんて珍しいだろ?抜けないならまだしも、わざと張り付くなんてのは逃げ馬のやり方じゃないからな。

少し加速してみせたりちょっと間隔を開けたりと妨害行為にならない範囲で煽ってみせる。動揺したのかディープが加速するようなそぶりを見せたが…ふむ、持ち直したか、走りの乱れが消えた。

なるほど騎手か、よく見るとしっかり馬を落ち着かせてる。互いの信頼関係は最高って感じだな、だが練習とはいえ手は抜かん。

俺は寸前に一度牽制に一瞬加速してからディープインパクトに続いてカーブに入る。親父さんが手綱を握ってしっかり体に張り付くのを感じてから加速、遠心力を利用して一気に外に膨らんでディープをかわしつつ進路妨害にならない距離をもって直角カーブ、そのまま内側一直線!!

 

『その加速で急カーブだと!?』

 

うまくいったが後ろ足が滑って少し膨らんでるな、いきなり芝でまだ踏み込みが足りないか。ま、いいや、十分抜けるし対応できる。

後ろ足が流れそうになるのを歩数を増やして滑りつつ抑え込んで、曲がりながら体重を前に出して加速を促しながらディープの前に割って入る。

急カーブからの立ち上がりは登りも下りも峠でもっと急なヤツをいやほどやってきたんだ、隙は作らん。

 

『今のは一体何なんだ!?体が横に!!』

 

『喋ってる余裕があるのか?お前、もう後ろだぞ?』

 

逃げ馬は先頭で走らなきゃ本来の力は出ない、それくらいは俺だって覚えたさ。だからこいつは俺の頭を押さえに来たんだろ?でも抜いたぞ。

 

『抜き返す!!』

 

『やってみな』

 

カーブが終わって二本目の直線に出る。もう一度加速を入れてスピードを上げるとディープインパクトからの威圧が強くなった感じがした。

ここはスタートと違って一本すべてを使える、ここでもう一度抜き返したいってところか、カーブで動けるのは見せたからな。

でもだめだ、解りやすすぎる。

直線に入った途端、アウトから抜きに掛かってきたディープインパクトに俺は後ろを見ていた親父さんの首を平手で叩く合図で少し尻を振ってフェイントをかけてやる。

外に重心がブレかけたフェイント、それで体がヨレると思ったディープインパクトがすぐに切り返してインコースに行こうとしたがそれも駄目だ、だって俺は動いてない。無理に割り込めば走行妨害だ。

すると面白いようにディープの行き足と騎手の綱引きに陰りが出た、俺が進路妨害してるって?あっちが勘違いしただけだよ、曲がってすらいないし。

またディープが外を抜こうとする、次も外に体がブレかける振りをする。行き足が止まった。今度は大外、戸惑ったにしても加速がいいな。距離の余裕も持ってる。

良い判断だ、多少被っても問題ない大外に狙いを変えたか。おそらく騎手の指示、馬との連携ができている上に判断も早く的確か。

これは天才ってやつか?こんな騎手はなかなかいないだろ。俺たちは背負うのと引っ付くのでいっぱいいっぱいだもんな。

 

『お前!』

 

『ナンノコトカナ?』

 

『しらばっくれやがって!!』

 

悪いな、レースじゃこんなの日常茶飯事だぜ?って前世で見たどこかのレーサーが言ってた。

距離を置いて併走状態になったディープインパクトが文句を言ってくる、鼻息が荒くなってるのが見える。けどな、これくらい対処できなくてどうするよ。

中央の競馬となりゃ、当然かかる金も面子も段違いだ、ルール違反はダメだが、ルールの中なら何でもするのは当たり前だろうよ。

追い付いてきたディープインパクトを少し剥がすようにもうちょっと加速する。やっぱりこいつ速いな、一緒に速度を上げてきた。

最初は手を抜いてやがったか?だがまだだ、まだ足は回るぞ。もうすぐ最後のカーブ、速度はまだ上がる、まだ速く走れる。体感時速60㎞過ぎってところかな?

 

『まだ上がる!?だが!!』

 

もう少しで最後のカーブ、そこで加速をやめると思ってるのか?それとも最後の直線で一気に抜いてやればいいと? まだわからん。

直線が終わる、2本目のラストカーブ、ただのコースだとデカいカーブがこれしかないから面白みがない。でも今回はそうでもなさそうだ。

俺はここでも内を攻める、内ギリギリ、ガードレールに体を擦るか擦らないかまで寄せていく。ディープインパクトも外から寄せてきたが加速する俺が邪魔で抜ききれない。

なら前に行こうとディープの足がさらに速くなるのがわかる、さすが中央のサラブレッドだ、ぴったりついてきやがって。

このままだと置いてかれるな、最後の直線勝負だと危なそうだ。体感時速65㎞、上がきつくなってきやがったがここから仕掛けよう。

 

『その姿勢でさらに加速だと!?お前、どこまで伸びるんだ!!』

 

体を前傾姿勢に、内側の柵ぎりぎりに、今回はカーブ中盤のここからラストスパートだ。気合を入れなおす、もっと足が伸びる、加速していくのがわかる。

良いぞ、この感じだ、峠の坂道とは比べるべくもないがその分周りがよりよく見える。ディープインパクトと距離が広がる。

スタミナはまだ十分、足も残ってる、蹄鉄の食いつきも完璧になった、何より周りが良く見える、ゴールまでは一直線で走りやすい。

ディープインパクトの足にさらに力が入る音が聞こえる、なるほどお前もスパートか。この感じ、スタイルは差しか追い込みか?

足音が違う、踏み込みの力がさっきよりも強い、この足の踏み込みは本気だ。お前は今自信に満ちている、これで決めてやるって息巻いてるな?どんどん近づいてきてる、差が縮まっている、背中にびりびり来てるぜ。

馬も騎手も、俺を睨んで追い抜かしてやるって睨みつけてんだろ。ただの練習相手だと思って甘く見てたのがすっかり吹っ飛んだか?わかる、俺も今熱くなってる。

不思議と思考がクリアだ、真っ白なんじゃない、自然ととらえてどうするか考えられる。加速しなきゃ負ける、もっと早く、でもただのじゃだめだ。

まだだ、足と息がそろわない、まだだ、鼓動と息があってこない、もう一つ先のスピードに入れる最高のタイミングを逃したら負ける。

もっと速く、もっと先へ、もう少し…今!!

 

「ヒヒッ…スゥ…ブゥンッ!!」

 

息を入れる、頭の中でシフトレバーを切り替える、息を吸って後ろ足を踏ん張って、アクセルべた踏みラストスパート!一馬力エンジンフル稼働!!

体が一気に加速する、前足で飛び出す体を支えて、後ろ足が地面に付いたら思いっきり蹴り上げてさらに前へ。

前へ、前へ! 前へ!! いつか峠を走る走り屋にだって追いついてみせる、そのために鍛えまくった足だ。

ゴール板が近づいてくる、景色が遅く感じる。だからもっと踏み込みを正確に、確実に芝を踏みしめて推力にする思考に割ける。

後ろからの圧力は収まらない、近づいてくる。車に追っかけられてるみたいだ、もうすぐ抜かれそう。体感時速72㎞、まだ持つか、73、持つか、74。

直線に入った、来いよ、俺の加速についてこれるか?

 

「詰めてきた、ムチが入った」

 

75、親父さんの言う通りじりじり追い詰められてる。踏み込む、これで76!息を吸い込む、足を踏ん張る、気合を入れて地面を蹴る!!

筋肉、呼吸、鼓動、血流、思考、諸々すべてをただ走る為だけに向ける。少しでも踏み込むタイミングを外せば一瞬で失速、即クラッシュなんだ。

 

「飛んでる、あいつッ…」

 

だからなんだ、回せ、進め、足を回せ、進め、前だけ見てぶん回せ!親父さんの前には行かせねぇ!!

 

「ブゥンッッ!!!」

 

これで77! もう一息、78!79!!

 

「ダメか…!」

 

80、カウントと同時に聞き覚えのない呻きが後ろから聞こえてゴール板手前で後ろからの追走圧が弱まった、おそらくこの声はディープインパクトの騎手だ。足を使い切ったか。

俺はそのまま一気に駆け抜ける。うん、最後はギリギリ80いったか、喉からから、水飲みてー…

 

「よくやった」

 

親父さんの声に世界が戻ってくる感じがした。80か、平地じゃこれが限界か、まだまだ走りには改善の余地あり。これじゃまだまだ足りない、先は長いな。

でもあいつは千切った、5メートルは確実に開いただろう。クールダウンしながらゆっくり速度を落としながら後ろを見ると、少し離れてディープインパクトも追走してきていた。

訂正、たぶん1メートルくらい、本業ってやっぱ怖い、ギリギリだよ。足取りはやや重いが怪我とかはなさそうだ、全速力を走り切ったって感じだ。

ギリギリ、ほんとギリギリか、勝ちは勝ちだけども…まぁ、精いっぱい強がってやる。

 

『なかなかやるな、今日の練習相手で最後まで喰いついてきたのはお前が初めてだ』

 

なんだか騎手がすごい目をしている、そりゃ地方の聞いたこともない馬と親父に負けたんだものな。

現役のサラブレッドが酒屋の道楽親父の趣味に負けた、そう口の悪い週刊誌なら書きそうなスクープだ。帰ったら絞られるな。

 

『負けた、俺が…』

 

あかん、こっちは落ち込みかけている。騎手がすぐに宥めに掛かるけどなんかうまくいってる感じがしない、少し目をやると親父さんが手ぶりで行けと言ってくれた。

はいはい、じゃ失礼しますよ。鼻で騎手さんを避けて親父さんに押し付けてディープインパクトと正対する。騎手さん少し失礼、お話させてね。

 

『そう落ち込むなよ。これは練習だ、黒星になんてなりゃしねぇよ』

 

『負けは負けだ、最後は本気だったんだ!!どうしてだ?俺は弥生賞で勝ったんだぞ!!訓練だってお前なんかよりずっとしてきたはずなんだ、頑張ってきたんだ!!』

 

『そりゃそうだ。だがな、それは負けねぇ理由にゃならねぇよ』

 

ふぅー…と一息ついて自分の気を落ち着かせながら、アドバイスしつつ元気づけるためになんていえば考える。

どんだけ努力しようが負ける時は負けるもんだ、しかもあっさりと。それをどう言いくるめるかだな。

こいつは良い奴だ、競走馬としても真面目で努力家で筋がいい、ちゃんと負けを認めた上でもがいてるからな。

周りの記者どもを見ろ、今日は調子が悪かったとか、移動で疲れてたかとか、言い訳並べてるんだぞ。

負けはつらい、つらくてもこいつは呑み込もうと必死だ…なんか騎手のほうは逆に興奮してるみたいだけどそこは親父さんに任せる。

喋ってんのかって?喋ってんだよ。

 

『俺は最初から本気でお前に勝つつもりだったよ』

 

『それは!アッ…』

 

反論しようとしてディープは口が回らなくなる、どこかでこいつも感じたのか。自分の気付かなかった、無意識の驕りってやつだ。

こいつとは今日が初対面だけど、本気で勝負するならこいつはいきなり頭を押さえるなんてことしなかったと思う。

一緒に走ったから感じた直感ってやつかな。たぶん後ろからがっつりマークして疲れさせてくんだろ。そのほうがスタミナも温存できただろうに。

 

『さっきも言ったがこいつは練習だ、黒星にゃならんさ。それにお前すげぇよ、初見で俺の加速にビビらずついてこれるなんてな。

これでも走りの速さには自信あったんだ、芦名峠じゃ俺の加速にビビるようじゃ一人前とは言えねぇって言われるくらいには。やるじゃねぇか』

 

少なくとも芦名峠で走り屋を名乗るなら下りの俺を抜けなきゃ半人前以下だ、車どころか馬だもの。こそばゆい話だけど。

 

『…もう一度だ』

 

『そ、時間はまだあるんだしもう一度挑戦すりゃ…なんだってぇ?』

 

『もう一度勝負だ!!』

 

項垂れていたディープインパクトの顔が上がり、やる気に満ちた目で俺を射抜いてきた。

すぐに気付いたよ、これ天才ってやつだ。自分でなんか自己完結して調子取り戻しやがったし、きっとほかにもなんか閃いてそうだぞ。

 

『勝負しろシマカゼタービン!今度こそ本気の勝負だ!!』

 

『待て待て、まだ走ったばかりだろディープインパクト。少し休もう、な?』

 

『ディープでいい、情けねぇまま終われるか。休んだらもう一回だ』

 

そういうとディープインパクトはその場でどっしり座り込んで体を休める姿勢になった。こいつの担当調教師が故障かと顔を青くして駆け寄ってきたが、ディープインパクトの目が俺に向いてるのを見てすぐに怪訝そうになる。

しかたないなぁ、俺もその横に座り込んで親父さんに向けて視線を送る。やるよ、とりあえずこいつの気が済むまで。

 

「どうやらこいつはまだやるつもりみてぇだな、どうだい大竹さんよ?」

 

「えぇ、私も負けていられませんね。次は勝ってみせましょう」

 

そんなわけで、一時間休みを入れてもう一戦。

 

『届かない!?』

 

『加速が遅かったな』

 

2戦目、ディープが本気の追い込みをかけてきたけど俺の加速を見違えて差し切れず一馬身負け。今度は最初から最後まで加速しまくりましたが何か?

 

『そこを走るか普通!?』

 

『邪魔するなら邪魔されないとこ走るもんね』

 

3戦目、また前に出てきて邪魔してきたので外側ガードレールギリギリ走り。大外枠の時にたまにやる。距離が長いならその分速く走ればいいんだよ。

ディープが深追いしなかったので邪魔されないから加速し放題、好きな走りし放題で悠々爆走でぶっちぎり。

 

『なんで…お前…疲れてないんだ…』

 

『スタミナには自信あるからな、峠育ちを嘗めちゃいかん』

 

4戦目、外側ガードレール走りにディープがくっついてきちゃったのであっちが先にバテてスタミナ勝ち。

 

「ディープ!これはやりすぎだ!」

 

『すみません、大竹さん…』

 

5戦目、何か閃いたのかフェイントを吹っ掛けようとしてミスってタックルしてきた、進路妨害反則負け。騎手さん大激怒、搦手にはまだ弱いと見た。

別にそこまで怒んなくてもいいけどね、アホにダッジ・ステルスで擦られた時と比べれば屁でもないから。

 

「抜けない!?動きが全く読めないなんて!」

 

「走りのテクじゃ負けないよ大竹さん。タービン、やれ」

 

『お尻フリフリーおっとカーブだ体が外にー』

 

『そこだ!』

 

『オゥッ…俺のトンネルになんか用?』

 

『ウワァァァァ!!?』

 

6戦目、親父さん提案のハンデ戦。俺が先行でコース一周中にどこかでディープが大外以外で抜いたら勝ちの走り屋スタイル。

俺は親父さんお墨付きのフェイントテクニック(競馬用)でがっちりガード。

こいつは親父さんが培った峠走りのテクの応用だから騎手さんもびっくり、そりゃ公道レースのテクなんて知らんわな。

当然ながら勝ち、走り屋ルールで負けるわけにはいかんよ。

 

「大竹さん!!もうダメ、ダメです!!これ以上は皐月賞に響きます!!」

 

結局、これ以上はまずいと調教師がドクターストップを掛けるまで連戦は続いた。

ディープインパクト、思った通りやばいヤツだった。綺麗だった芝のコースはすっかり耕されて、最後はほぼダートだ。恐ろしい執念だよ。

 

『まだだ!もう一周!!放せ!押すな!!』

 

『いや帰れ、もう遅いだろが』

 

『嫌だ!』

 

「あぁくそ!座り込んだぞ!!大竹さん!!」

 

「ディープ、今日はもう帰ろう!また来れるからさ!!」

 

ドクターストップかかっても全然聞こうとしないから俺まで駆り出されてる、疲れてんのになんでコイツの手綱引いてやらにゃならんのだ!

時はすでに午後10時、もはや耕され切った芝コースの上でディープインパクトVSその他全員の力比べ大会開幕中である。

ちなみにその他大勢ってのはディープの騎手さんとか関係者と居合わせた群馬トレセン職員たちと俺と親父さんである。

この四面楚歌でなお梃子でも動かないディープ、かといってこいつを無理に引っ張り回すわけにもいかない。

しょうがないので意地でも動かんと座り込むディープを親父さんたちが総出で持ち上げ、その下に俺がもぐりこみ無理矢理レッカーする羽目になった。

 

『くっ!下ろせ!!』

 

『手間かけさせんなよ、今日はもう終わりだ』

 

「踏ん張れタービン!車回せ!!馬運車の方から寄せろ!!ゆっくりだ!!」

 

自分もディープを持ち上げながら全体の指示してるのは親父さん、社長なだけあってこういう指示とかリーダーシップは凄いんだよ。なんだか自然とそこに収まるって感じで。

馬運車がゆっくりとやってきて後ろの乗り込み口を開ける、俺はその中に入って怪我をさせないようにゆっくりと下ろしてディープを荷台に乗せた。

荷台の奥にディープ、出入り口を俺がふさぐ形なのでもう出られない。出たければ俺を倒してみせろ、なんてな。

で、なんで君は俺の手綱を咥えているのかね?

 

『お前もうちの厩舎で走らないか?』

 

『いやです』

 

クソめんどくせぇ。

 

『ぐっ!?即答か…』

 

マジな声が出た、いやマジでそう思ってたけども。ディープも本気にはしてなかったんだろう、すぐに手綱を放してくれた。

 

『はぁ…俺がこんなに勝てなかったのは、お前が初めてだ』

 

『ここまで駆けずり回ったのはお前が初めてだよ…』

 

『なんだか清々しいんだ、今日は気持ちよく寝られそうだ』

 

『こっちはクタクタだ…どうしてくれる、おかげで予定が丸つぶれだ』

 

『それは…すまない』

 

『悪いと思ってんなら素直に乗れよ』

 

まぁ、俺としても悪い気はしないがな。予定といっても誰かと約束があるわけじゃないし。

 

『ま、いいよ。仕事優先だ、峠はまた別の機会を待つさ』

 

『俺も行ってみたいな、アシナトウゲとやらに。お前のような奴らがたくさんいるんだろう?走ってみたい』

 

『俺よりも強い連中はそこら中にいるぞ。芦名だけじゃねぇ、赤城や榛名にもいる。東京にだって探せばいるさ。

 湾岸辺りの連中なんか、きっと俺なんか全く歯が立たないだろうなぁ…』

 

首都高を法定速度ガン無視で思いっきり飛ばすなんて前世じゃ考えもしなかったが、今となっては一回はやっとけばよかったと常々思うよ。

まったくもったいないことをした、馬になってから走る面白さを覚えたんだからどうしようもないんだがな。

 

『ワンガン?聞いたことないな…』

 

『機会があったら探してみるといいさ、まず手も足も出ないがね。また機会があれば会おう、ディープ』

 

『違うだろタービン、皐月賞でまた会おう。決着はその時だ』

 

だから行かねぇよそんな大会…そう否定してやりたかったけど、この時は俺も疲れてこれ以上返事する気は起きなかった。

 

 

 

 






あとがき
主人公がディープ君に絡まれる原因でありディープ君強化の回、変な知識をディープは覚えた。
タービンは最初から最後まで加速し続けるスタミナお化けで失速し辛い、ほっとくとどこまでも走る破滅逃げが得意技。
峠道で登りも下りも酒を背負って上り下り、ついでに走って上り下り、車と競り合い上り下りした結果、手に入れたこのアホなスタミナと回復力を得ました。
ヒューマンソウル搭載だが競争相手の基準が馬ではなく走り屋のスポーツカーなので基準自体もバグってる。
そろそろディープ君ちゃんとかが書きたい衝動に駆られる。





おまけ・この世界のディープインパクト出遅れ事件

時は皐月賞当日、出走直前のゲート内部。

ディープ『なぜだ、なぜ居ない。タービン、もうすぐ始まるぞ』(シマカゼタービンが出走してると思い込んでる)
大竹騎手「落ち着けディープ、何にそんなキョロキョロしてる?」(まさかお目当ての馬がいないから焦ってるとは思わない)

≪ダンスインザモア、ゆっくりゲートに入ります≫

ディープ『どうした、なぜだ!?欠場なんて言ってない、ならいるはずだろ、あんなに強いんだから!!』(そもそもいないので呼ばれるわけがないがわかってない)
大竹騎手「あわてるな、まだだ、まだ堪えろ、お前なら大丈夫だ」(出走間近で気が急いてると思って周囲に気が回らなくなった)

≪各馬ゲートに入りました…≫

ディープ『どこだ、タービン!どうしたんだ!!』(そもそも出走しないことに気付いてない)
大竹騎手「堪えろ、お前ならできる、ディープ、堪えるんだ」(ディープがスタートを焦ってると思い込んで自分も焦った)

ガッチャン!!

『「ア゛ッ!?」』

≪スタート、ディープインパクトが出遅れた!≫


なおこの後思いっきり大外から捲り上げるロングスパートで勝った。


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