いつも多くのご感想と誤字報告ありがとうございます。
さーてそれじゃぁ凱旋門賞編を始めちゃいましょう…あ、また主人公出番無くなってますのでご了承ください。
そういうキャラですのでよろしくお願いします。最初は未来のシマカゼハザードから、こんな人いたらこうなるかもね。
ちなみに未来世界でかなり某国がヤベーことになってますがこの世界ではこうなっちゃったという事で…
20XX年某月、春麗らかな風の通りマンションの一室、外の天気も良く快晴で気持ちのいい空気が部屋を駆け抜け実に良いお昼寝時。
しかしその部屋の主人たる女性はまったくもって穏やかではなかった。
散らかり放題になってしまったデスクに突っ伏すように身を預け、スマホを片耳に当てて会話する彼女は終始気が気ではなかったのだ。
それはもう今後の進退窮まったかのような絶望感に打ちひしがれていたのだ。
「…プロデューサー、マジで言ってます?」
≪マジで言ってます≫
電話越しからでも感じる真面目な雰囲気、それには温厚な彼女も愛想笑いを引っ込めて普段はしちゃいけない顰め面をした。
プロデューサーさん曰く『声優さん、人気だからお仕事追加です』とラブコール。クソである。
「プロデューサー、解って言ってますよね?今期直近、私、シマカゼ役、ゲームだけで何作やってるか」
≪…3作?≫
「6作だよ!!アニメにゲームに音楽CDその他もろもろ含めたら二桁余裕だよ!!直近元ネタシマカゼのキャラで6作!!
昨日だって吹き替え、収録、音声作品その他もろもろがっつりやったじゃァないですか!!
ここで何?バイオと本家でまだ増やせと!!明日はイニDアーケードの収録あるって知ってますよね!!」
それだけでも多いのに自分の場合、作品一つに対して作品配給地域の言語の数だけ増えるのだ。
それは彼女が声優としてやっていくために磨きに磨いた特技が関係している。彼女は声優という仕事に希望と夢を以て踏み入れた普通の社会人である。
テレビ番組に芸能人のようにたびたび出演できるくらいにはビッグな声優になりたいと夢を見て頑張ると決めた夢多き若者であり、故にその夢がどれだけ甘い物かも最初から予想はしていた普通の女であった。
事実、声優としての世界は甘いものではなく苦難の連続であり、最初は自分よりはるかに才能豊かな同期や実力の確かな先輩たちに圧倒され続ける日々であった。
演技は才能豊かな同期に届かない、それでも現実に抗う執念とほどほどの実力は備わっていた。だからこそ自分には一つの特徴が必要だと最初から考えていた。
先輩にも天才にもなかなかマネはされないであろう特技、それは学生の時から自慢であった。
「しかもそれも海外に売り出すんですよ!!それがどういう意味か分かりますか!!わからないとは言わせませんよ!!」
それは語学であった、彼女は他の学科の成績に比べて英語の成績は一段上の秀才レベルであった。そしてそれが自慢で勉強にも熱が入り、その熱は他の言語にも波及して興味の赴くままに学習していた時期があった。
その昔取った杵柄ともいえる特技は声優となってから花開いたと言って良い。英語だけにとどまらずフランス語、ドイツ語、中国語、韓国語など様々な言語を会得して声優業に持ち込んだ。狙いは受け持った作品を海外に売り込む際に行う『吹き替え』と『翻訳』だった。
ハリウッド映画や海外作品を日本で放映する際に作られるのは原語に日本語字幕を付けたものと日本語声優で日本語訳で音声を差し替えた吹き替え版だ。
その吹き替え版だが音声を差し替える都合上、どうしても元の役者演技を犠牲にするのが欠点と言われている。その作業を当然だが日本製のアニメや映画にも行う。
そのアニメ部門、とりわけ自分の担当した自分のキャラクターに絞って売り込んだ。
元作品の声優が元作品の演技をそのままに別言語で吹き替える、セリフの意味やストーリーを別言語版声優に教えた時にその国にあった言い回しやジョークを提案してもらいグレードアップを計る、結果はすぐには出なかったが大成功と言えた。
声優としては並みでもこの特技のおかげで一流と胸を張れる、何より言葉のおかげで仕事は日本だけにとどまらないから仕事にあぶれることもない。
濡れ手に粟のようなウハウハ人生は望んでいないが、好きな仕事を気の向くままにやれてあぶれないで金に困らない人生を手に入れられた、そう思っていた。
「しかもその後だってアメリカの番組に出なきゃならないし、その流れで向こうの声優さんに作品のレクチャー、その次は向こうの作品で声の収録に映画の日本語吹替作業…やる事が、やる事が多い!!」
しかし彼女は失念していた、その特技が世界的に見ればどう見えるか、会社からしたらどれだけとんでもないお宝であるか。
彼女はできるのだ、その作品のシーンの意味や売り、話運びの機微、キャラの性格やストーリー、それを外国人の声優に、翻訳担当に、配給会社にきちんと説明できるのだ。
日本のアニメという独自性の塊であるそれを彼女はそのまま演じて自分を見本にできるのだ、実力で証明しできるのだ、片手間に助言できてしまうのだ。
故に、彼女の仕事は作品を一つ受け持っただけで普通の声優のそれをはるかに上回る量となった。
仮に英語、中国語、韓国語、ドイツ語、フランス語、ロシア語と六つだけに絞ったとしても7倍である。
そして現実はそんな数で終わらない、もっと広範囲に供給することになって軽く二桁を超えるのだ。
苦痛である、とにかく数の暴力が苦痛である、演技が嫌だとかそういう感覚を通り越してただシンプルに多すぎて終わりが見えず嫌になる。
≪さすがローカライズが完璧な女≫
「あぁ神よ、作品の終わりが見えれば一区切りついてやりがいと達成感に満ちながら次の仕事に邁進できたあの頃はいずこ」
≪神様なんて当の昔に休暇中でしょ、立川でルームシェアしてる。バイオは一応元からあるし。ウマ娘イベントは本家だからシマカゼカウントは―――≫
「おんなじだよぉ!!バイオは馬がいるのにコラボDLCとか正気かあいつら!!」
持ち味を生かせよ!!馬がいるだろバイオさん!!なんでこの期に及んでウマ娘を地獄のラクーンシティに放り込もうとしとるんじゃい!!
何?なんなの!!?いくら時代がゲームに追い付いたからって、やってみたら爆当たりしてから挑戦的すぎませんかねホントにここ最近!!
そりゃOB:Reの形態ならDLC方式が輝くんだろうけど、おかげでラクーンシティさんの拡張と生存者陣営の強化に歯止めかかりませんが!?
それでも死んでると言われればそりゃ死ぬよねっていう地獄がラクーンシティなわけですが!!人が増えればクリーチャーも増えるからそりゃ死ぬんでしょうよ!!
だけどいくら売れてるゲーム同士だからってこんなお遊び要素受けるわけないでしょうが!!
そもそも客層が違いすぎるのにこんなDLC買う奴がいるかぁ!!ウマ娘ちゃんたちにこんな覚悟を要求するんじゃない!!
「っていうかウマ娘もおかしいでしょ、あそこ突っ込むってことは敵キャラになるのも承諾してんでしょ?
ゾンビOKなの?エンディングもきついのあるよ?あのゲーム追加キャラにだって容赦しないしかなり作りこんでくるからガチなんだけど」
≪第一弾は群馬だよ?むしろノリノリ。ゾンビどころかリッカーとかサスペンデッドとかのラフを向こうから提案してきたし。
エンディングもペアエンドはむしろ重要事項とか言ってる、というか高知の方にも声かけちゃっててウララちゃんが…あ、OKでた≫
「もっと中央見習おうよ地方!!大切にしようよ!!みんな伝説だよ!!」
≪大切にしてるから活躍してもらいたいんだよ。根本的に思考回路が違う≫
むしろ子供の活躍を喜ぶお父さんお母さんの思考回路だよあそこの馬主さんたち、というプロデューサーに彼女は頭を抱えた。
事実である、馬に命を懸けている中央シリーズの馬主は当然ながら馬の稼ぎが生活や生業に直結するため色々シビアである。
しかし群馬地方競馬の強豪馬主は一様にしてそうではない。ほとんどの場合は生業を別に持っていて主力の稼ぎが馬ではないが故にいろいろと緩く、思考回路からして気安いのだ。
活躍した彼ら彼女らは家族である、社員である、当然生涯の面倒は自分で見るが無理のない範囲で仕事もしてもらう、ある意味で中央より自由で活き活きしているかもしれない。
大切だからこそもっと活躍してもらう、無理のない程度には嬉々として協力してくれる、もちろんやりすぎると食い殺されるのだが。
だからってゾンビ化ホクリクダイオーやらサスペンデッド化ノルンファングとか誰が得するんじゃい!!あ、クリムゾンヘッド出すの?え、シマカゼは直接これになるの?あーもうめちゃくちゃだよ。
≪ちなみにだけどこれがうまくいったら中央組も仕事増えるよ、そろそろなんか出ないと偏りすぎるから≫
「よしやろう」
≪相変わらず即答だね≫
「ふへへ、何言ってるんですかプロデューサーさん…みんなで幸せになりましょうよ」
燃えろ、みんな燃えちまえ…みんな仕事と言う煉獄の中でホットなチャチャチャを踊るがいい!!
お金が入ってもそれを使う機会がなくて膨らむ銭袋ってのはなぁ、なんだかすごく空しい気分にもなるんだよ。
寡黙で不愛想な人間だって大金みると思わず笑みがこぼれるのはそいつの使い道があるからなんだ。
≪予想はしてたでしょ?ただでさえ群馬は明太子方式でウェルカムだし≫
「ちっくしょー…そりゃ一回やるかもとは思ってましたし、いつかやるだろうなってのは分かってましたよ。
えぇその時は自分の出番だってのもまぁ期待はしてましたよ、これで別の人に振られてたらまぁ制作の頭疑いますよ」
というか自分にしかできないのだ、同じ声で、同じ演技を、同じように別言語でやれる声優は所属事務所にはいない。
ついでに演技も本家に似せるように多言語版声優に教えられるのも自分しかいない。
このレクチャー代金もほどほどの値段設定なのだが意外といい稼ぎになるのだ、分母が多すぎて。
≪ならもう一つもいいよね?ブルアカの追加オファー―――≫
「良くねーよ!?忍術研究部ってシマカゼじゃなくてダイオー担当だったでしょ、テイオーかダイオーでやるもんじゃないの普通?
なんでシマカゼが主軸やってんの?そもそも担当は三女神SOSできちっと決めてましたよね!?増やさないって言ってましたよね!!」
≪アニメのせいだねぇ。パヴァーヌ編後半からすっかり板についちゃってるでしょ?あれであっちとのつながりもシマカゼって括りになっちゃってるみたい≫
あの透き通る世界観は今も人気であり彼女も好きなのだが、なぜかその最新アニメに自分の持ちキャラが作品の枠を超えて出演しているのである。
理由は単純、アニメ化故にだ。元ストーリーを時系列から含めて再構成し、これまでの行われたイベントストーリーも含めててんこ盛りな豪華ゴールデンバージョンなのが件のアニメなのだが、その過程で当然ながら進行過程で問題が出たのである。
元々ゲーム用のシナリオであり、またその形態上仕方のない部分や当時はそれでよかったか無理を通せた部分、運営も正直テコ入れしたい部分などがより顕著に立ち塞がってきたのだ。
しかしだからと言って下手な取り繕いやアニメオリジナル展開やキャラクターを安易に作りその場を凌ぐというのも考え物だ。
その場しのぎの変更は時に取り返しのつかない矛盾になりやすく、アニメオリジナルキャラクターの追加はよく考えなければたやすく炎上するか嫌われ者となる。
それは日本アニメで散々取り上げられやらかされてきた負の遺産が証明している、故に舵取りには細心の注意が必要であった。
固有のキャラの出番を増やして体裁を整えるのも難しい。これは既存のキャラの多さと作中の勢力図、すでにその手のフォローにキャラを動かしている点、そしてアニメ化初代制作時の経験を鑑みての結論だ。
一定のキャラクターを贔屓すればそのキャラクターの所属する勢力を多用することになり、現実世界のファンからのリスペクトにも影響を及ぼす。その気はなくとも変に優遇しているように見えたら面白くないだろう。
全て平等に、とはどうやってもできないのだが露骨にスポットを当ててしまうのは良くない。
主人公を固有ファンの多くいるキャラクターや勢力に大きな肩入れをすることなく無理がある部分を補佐する役割ができて、それでいて下手に既存ファン層を刺激しないくらいには認知もあり、必要な時に引っ張り出せる裏方として納得できるような主要勢力ではない第三者な人気キャラ。
そんな都合のいいキャラクターなど都合よく…居たのである。原作において何気ない人気を誇っていたコラボキャラの彼女であった。
恒常化されたイベントをクリアすればすぐに手に入る新規プレイヤーにも優しい入手性の良さ、癖はあるが使い勝手の良いキャラステータス、異世界出身という既存キャラとは違う視点と能力を持った特異性、何よりイベントキャラなのでいろいろ気合いが入った演出を見られるので何かと使用率の高いキャラであったのだ。
その人気に目を付けた運営が会社間協議と権利者にも許可を取り、さすがに無理なので省いていたコラボイベントをストーリーに突っ込んでみれば意外としっくり来てしまう始末。
既存キャラにはない思考や言動、趣味の酒と車があの世界ではめったにない特技が光り、ビジュアルと性格もなんだかんだと人気を帯び、それでいて目標が別設定されてるから変に自己主張せず既存キャラの出番を侵さない。
今ではすっかり馴染みのアニメ版キャラと化した異世界ウマ娘の誕生である。
≪これと一緒にコラボ勝負服もお披露目ってことでさ。良いんじゃない?シマカゼ、勝負服無いし≫
「だからってあっちの制服かい、それ着て走るなんてそれこそ想像つかないんだけど…
まったく、どうしてこうなった。異世界出身だから敵解説のテコ入れに利用されたあとはただの背景の予定でしょ?」
≪お願い蹴ってボロクソに言ったよね?あの啖呵、アドリブってバラしてから余計に評判よかったよ≫
「それはアドリブでいいからなんかやってって言われたからで、声が付いたら余計にそう感じちゃってつい…ってそれは関係ないでしょ。
あれだってなくていい出番増えただけの横やりなのに…なんでセリフ増えてんですかね?」
≪それが意外と印象良かったみたい≫
「私としては演技に難儀してるんですけどね!」
ウマ娘を収録してるときにミスると別作品の演技が出そうになって冷や汗が凄いのである、この手の同時期制作の辛い所だ。
≪そうかな?あのキャラ、ウマ娘でもナチュラルに物騒なセリフを吐いてると思うけど?腕っぷしなら最強だし≫
「言ってるだけなのとそこからガチで刀を振り回すのじゃ含ませる意味が違うんだっつの…とりあえずイベントのほうは了承しました、できればスケジュールを配慮して頂ければ幸いです」
≪あはは…了解、収録タイミングはこっちで何とかするからこれ以上過密スケジュールにならないように釘刺しとく≫
「お願いしますね、ほんとに」
≪解った、そこは任せて。収録、気を付けてね?次あの国でしょ?例の連中、そろそろ金がなくなってきて危機感募らせてるらしいんだ。引き金軽いんだからさ、あの国≫
「ありゃただのガキよ、生憎見知らぬガキの癇癪に付き合ってる暇は私にはない。まぁ自分の意見が通らなくて癇癪起こして銃ぶっ放す厄介なガキが権力握れるとかスゲーけど。
嫌なら見んなってのよ、それが自由って言っただけで言葉詰まるとか荒らし以下だよ、もう少し煽り耐性と会話身に付けろっての」
あのなんだかんだ言ってヤベーけど夢のあった国が今やあんな様って世知辛い世の中だ。
積み重ねてきたものと言うのは、積み重ねるのには気が狂うほど時間がかかるのに崩壊する時は一瞬である。
それを知っていると有名大学を出ていて頭がいいはずなのに積み重ねなどをしないであほに生きる人間がいるというのは納得の話だ。
≪うちの新人まで調べ上げてネタにしてきた努力は凄いと思うんだけどね、まぁ一応賛同してくれたあの王国にまで牙剥いてボコボコにされておいてよくやるよって話だけど≫
「相変わらず不思議な人種だよああいうの、あたしゃノーマルな日本人でよかったですわ。フレッドとメリッサにゃ気にすんなって言っといて」
≪お強いことで≫
「チョッキ着てたからノーカンノーカン、45口径のボディブローは次の収録に生かさせてもらいましたよ」
まったくもって不思議な話だ、自分に都合の良い世論に作り替えて国すらも自分好みにしたというのに、結果的に敵がいなくなったから自分が生きられない環境になって四苦八苦だ。
第2の禁酒法時代とも言われるクリエイター暗黒時代となり数多くの巨匠や原石たちは国を出て、残ったのはイエスマンと事なかれ主義、今や寛容と自由という名のディストピア。
平等に名のもとにあらゆる面で性差別や人種差別に極端に配慮しなければならなくなり、かと思えば自分勝手な理論をまき散らしてダブルスタンダードを繰り返し、一挙一動でどんな難癖を付けれるかわからなくなったあの国は良さであった自由な色彩を失った。
平等ではない、人種差別的である、性差別的であるなどの正義の名のもとに様々な恣意的解釈や拡大解釈が行われ自由を失い差別が横行し、自由な発言も何もかもが自主規制する羽目になってしまった抑圧社会である。
毒は国家の中枢や司法関連にまで浸食し、人権を侵害し公序良俗を乱す表現を規制する法が可決され、新たに発足した委員会が行う法を恣意的に拡大解釈した検閲が常に国民の平穏を苛むのだ。
かの国の誇る自浄作用もキャパシティーオーバー、今回の禁酒法時代は長く続きそうである。
アニメーションではアジアに負け、実写映画ではヨーロッパに負け、ハイテンションではインドに負け、火薬量ではかつての自分に負けている。
栄華を極めたハリウッドやテーマパークなども本家本元はかつての輝きを失い各国の支部が必死に盛り立てて延命し、日本語吹き替え版コマンドーやダイハードなど吹き替えの帝王が逆上陸して大ブレイクする現状を自分で作っておいて何を言わんや。
その有様にまともな国は『こうなっては叶わない』と防備を固める根拠になってくれたのはある意味で怪我の功名か。
≪ま、対策はしているけど一応ね?やばくなったら図書館か警察に逃げてね≫
「解ってますって」
現実は醜いものだ、自分達がやる手口を相手にやられないなんてそれこそアニメの世界でしかありえない。目には目を、歯には歯を、古来からの言葉通りだ。
ましてや第二の禁酒法時代となったあの国の様相は時代が遡っている。ジャズと酒がゲームやアニメなどに、トンプソンマシンガンがM4カービンとAKに。
煌びやかで、下品で、面白くて、色とりどりだった夢の街の看板は無味乾燥な文字や絵ばかり。
シックなスーツの宣伝はモデルがボンレスハムで粘っこい笑み、ゆったりサイズのダボダボ部屋着にスマートマッチョが真っ白い歯でスマートな笑み。
隠れ酒場が無修正モノショップや隠れシアターに変わり、輸入監査をすり抜けさせた物品を割高で販売し見せて稼ぐ。
それを規制しようとすればそこはあの国だ、銃火器が一般的であるがゆえに引き金が軽くすぐに銃撃戦になり流血沙汰になる。
当然ながら規制する側は重武装化に走り、権力的にも強化されてより過激な取り締まりに走り出す。
そんな姿と強権的な態度に図書館が危機感を持った末に表現の自由を守るために武装化、委員会の検閲部隊と激しく衝突するという小説が現実化する事態にまでなり世間を震撼させた。
死人が少ない以外は焼き増しどころか悪化しているのである、死人が少ないのは銃と同じく防弾装備も流通が増えてありふれているのと同時にファン根性ゆえにという変な噂もあるが、あの国は小説の舞台であった日本よりも武器にあふれかえっているのだから奇跡だ。
この時代、真っ当な警察をやろうとするのも大変なのがあの国である。いやそこは別によくね?と言うところまでうるさい奴らがいるのだ。
(どーしようかな、いやマジでどーすりゃいいのよこれ、結局また増えちゃったよお仕事ぉ…)
なかなか考えが纏まらない、悩み続ける思考にさらに頭を悩ませながら電話を切る。
ため息が止まらない彼女は何度となく見直した資料を取り出そうとして、別作品の資料ともごっちゃになった机を見てため息をついた。
「…まずは片づけるか、こんなんじゃ演技もごっちゃになっちゃうよ、もぅっ」
何はともあれ今は直近の作品であるウマ娘に集中しよう、彼女はそう切り替えて『R6S・The Animation』や『ブルーアーカイブ+P.Vol3』と題された台本を丁寧に手に取って分別して元々入れていた足元のボックスに戻す。
それを何度か繰り返し、机の上には必要な資料しかない綺麗な状態になったのを確認してから探していた資料を手にしてページを開いた。
表紙に『ウマ娘プリティーダービー・ウマ娘キャラクター資料』と書かれたそれには、これまで発表されてきた多くの擬人化された競走馬たちの姿がある。
自分の先輩たちが描いてくれた先代の英雄たち、皇帝、タブー破り、影を乗り越えし者、黄金世代。中央が誇る伝説であり精鋭。
皇帝の血を引き不屈皇女と呼ばれたトウカイテイオーの生き写し、古より継がれてきた奇跡と叫ばれた金髪碧眼のウマ娘、砂の巴御前と世界で叫ばれた葦毛のウマ娘。
鋼鉄のソリのようなものを担ぎ場違いな筋肉を持ったウマ娘、ばんえいという他業種からやってきて中央を驚愕させた群馬の暴走機関車。
軍用パトロールキャップを被る顔に傷を持つ色黒なウマ娘、不幸続きな生い立ちをものともせずに走り抜き名を馳せた最後のメジロ。
片耳に青と白のリボンを飾りフライトジャケットを手にした小柄で猫のような栗毛のウマ娘、見た目は凡庸、中身は猫、されど実力は猛禽類(Ace)。
今や中央に負けぬ一大勢力となった日本地方競馬界、その先駆けとなり牽引してきた群馬地方競馬から放たれた第2世代たちが、世界を舞台に駆けた次世代たちが後に続く。
それは競走馬の世界だけの話ではない、軍民問わず様々な分野であの怪物から薫陶を受けた新世代たちがその実力をもって証明し続けたのだ。
そんな彼女らの原点であり育て上げた先駆者、青い短髪にオッドアイの一人だけ明らかに場違いな一般的なセーラー服を着こんだウマ娘。
あの世界でさえ唯一『スポーツカーに足で勝つことができるウマ娘』として生み出された公式公認の野生ボス。
自分が魂を吹き込む相手であり、それでいて今の自分を苦しめる要因である彼女。さてどう演じるべきか、どう演じ分けるべきか…
(うーん、もうちょっと資料を見直そうかな)
彼女の演技に必要な資料は数少ないが、彼女の周囲を知るための援護はごまんとある。
幸いにも彼が活躍した時代はメディアが発達した2005年周辺からだ、集めようと思えば意外なところからもボロボロ出てくる。
(次の話から06年になるんだよねぇ…2006年かぁ、あれはやばかったなぁ…)
2006年は日本競馬の世界進出に大手を掛けた年であり、世界の競馬が日本に強襲されて涙を呑んだ一年だ。
あの年、日本は競馬ブーム真っただ中であった。それこそ普段は競馬に興味のない自分でさえ、ある意味オリンピックを見るような気持ちでテレビを見ていたのを覚えている。
それだけに衝撃的な一年であった、衝撃ばかりの一年であった。この国はこの年、競馬では異常なまでに強かった。
『逃げた逃げた!逃げ切った!!去年に続いてまさかの群馬!!群馬が中央2連勝、群馬のアルトレーネがもぎ取ったぁ!!』
2006年10月29日、日本・東京競馬場、第136回天皇賞(秋)
一着・3枠6番・アルトレーネ・半馬身
『アルトアイネス!アルトアイネスが取った!!粘って粘った大逃げ勝負、姉妹揃って逃げ切った!!逃げの双子座、ここにあり!!』
2006年11月19日、日本京都競馬場、第23回マイルチャンピオンシップ
一着・7枠13番・アルトアイネス・ハナ
『ブルームブルームを躱してコスモバルク先頭に変わった!!内からボーバンズ、外からキングアンドキングが上がるが縮まらない!!コスモバルク堂々の先頭だ!
鞭が一つ二つ入って先頭コスモバルクさらに加速!!1馬身2馬身、いや3馬身開いてガッツポーズだ五辻!!シンガポールでついに念願のG1制覇!!』
2006年5月14日、シンガポール・クランジ競馬場、シンガポール航空インターナショナルカップ
一着・1枠2番・コスモバルク・3馬身
『ハルウララ!ハルウララ!!1着1番ハルウララ!!ハルウララ1着!!2着ディープインパクト、3着コスモバルク!!
初夏の京都に春一番!!春の嵐が後方からすべてを薙ぎ払いました!!!』
2006年6月25日、日本・京都競馬場、第47回宝塚記念
一着・2枠2番・ハルウララ・クビ
『ハリケーンランが迫る!ハリケーンランが来る!!ハーツクライ粘るか!?粘れるか!!行けるのか!!逃げ切るか!!逃げ切ってくれ!!そのまま行けハーツクライッ!!』
2006年7月29日、イギリス・アスコット競馬場、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス
一着・3枠4番・ハーツクライ・半馬身
『内からツバキプリンセスが躍り出て先頭、ぐんぐん伸びて止まらない!!フィールドオブオマーも粘るが届かないか!!
ツバキプリンセス先頭、ツバキプリンセス先頭!!そのままゴールイン!砂の巴御前はやっぱり芝でも強かった!!』
2006年10月28日、オーストラリア・ムーニーヴァレー競馬場、コックスプレート
一着・5枠8番・ツバキプリンセス・3馬身
『ノルンファングに届かない!!ノルンファング!!ザティンマンを引き離して前に伸びる!!
止まらない止まらないどんどん差が開いて余裕の走りでゴール!!親譲りの逃げは本物だ、父の努力は娘に宿っている!!
アメリカよ!ウラヌスと西が帰ってきたぞ、孫と弟子を連れて帰ってきたぞ。これがバロンの育てた新世代だ!!』
2006年8月12日、アメリカ・アーリントンパーク競馬場、第23回アーリントンミリオンステークス
一着・2枠2番・ノルンファング・大差
『第4コーナーを回ってホクリクダイオーが来た!!後方からホクリクダイオーが大外から回る、ものすごい加速で前を狙って上がってきた。
プリンス粘るか!ホクリク躱すか!プリンスか!ホクリクか!!ホクリクダイオーだ!!最後に一気に突き放したぁ!!
ホクリクダイオー!ホクリクダイオー一気に差し切った!シリウスよ!ルドルフよ!!彼女がついにやったぞ!!』
2006年9月3日、ドイツ・バーデンバーデン競馬場、第134回バーデン大賞
一着・3枠3番・ホクリクダイオー・1馬身
2006年の日本は異常なまでに強かった、文字通り世界を相手に蹂躙して見せた、出走すればしただけ勝つような状態であった。
それだけ強く、たくましく、そして日本の競走馬たちは世界から見ても美しかったのだ。
彼女たちには物語があった、一頭一頭に知れば知るほど惹き込まれる歴史があった。それが世界の競馬ファンをも魅了した。
「日本競馬界の頂上決戦、ねぇ?今思えば、この流れがいけなかったのかもしれないわね」
凱旋門賞、ディープインパクトとホクリクダイオーが鎬を削り、世界に日本の競馬を知らしめた大転換点。
そしてのちに起きる惨劇の最後の一手、彼女は今まで作品の中で感じ取ってきた時勢を鑑みてそう思った。
自分の演じるキャラクターはその時代の流れの主流にいるが、それを制御する立場にはいないしする気もなければ興味もない特異点だ。
徹頭徹尾自分らしく走り屋であって、どこまで行ってもただ強いだけの馬であり、何にも縛られる事がない故に守られない、ただの第三者。その身が朽ち果てるまで良き隣人であり続けたただのお人好しだった。
その決定的瞬間がこの凱旋門賞だ、皮肉が利いている話だろう。物語の主人公でありながら、物語の盛り上がる部分にことごとく自分の声は存在しない、なかなかに滑稽―――
(いや滑稽とかそんな感情すらわかないな、だって興味すらないんだもん。初手で知らない、知って驚く、すごいなって褒めてうまいもん食おうかとか何の気なしに誘う…見事にただの友達、それがこいつだ。
考えて見りゃそうだよね、こういう何の変哲もない普通な感じがこいつっぽい。そっかそっか、何にも知らない感じでやればいいんだ)
主役級の役どころなのに徹底的に物語の転換期とかにはほぼ関わらない一般人のフリした裏のラスボス、とはいえ当の本人は特に何か思惑なんてあるわけもない。
何もないから自然体なのだ、こいつはそこまで考えてないから勘ぐったって無駄なのだ。空の袋は逆さにしたってなにも出て来やしない。
物語でこれならば現実であんなことになるのも納得はできないが理解はできる。
この戦いを先輩たちはどう魂を吹き込むのだろう?
主役でありながら主人公ではないその戦いをどう迫真の演技で描いてくれるのだろう?
それを見てどう自分は彼女を演じてやろう、どう忌憚なく演じて見せるべきか、そしてその先に繋がる有馬記念にどう私は魂を吹き込むべきだろう?
考える、ただ考える、それでいて自分の心に従って、自分が演じるべき、自分がこれだと思う彼女の姿を。
「…こいつの性格だと絶対一切見てないな」
いらなかったなこの工程、そんな無慈悲な結論に至ったがやらなければ思いつかなそうなので問題はない。
公式レース?何それ知らん、へー、そんなことあったんだ凄いなお前。そんないかにも別世界の偉業を聞いて素直に驚く一般人みたいな演技のほうがちょうど良い。
(実際、あの馬も当時の競馬を見る暇はなかったって言ってたし)
存命中に取材したときは驚いたものだ、芦名は猿が異常に賢い地域と有名なのは昔から知っていたが他の動物も相当なもので特に彼は頭一つ抜けていた。
きれいに掃除された馬房で如何にも懐かしそうにフリップボードに書いて答えてくれた彼は当時普通に会社の仕事をしていたと答えてくれた。
むしろ競馬本番になると会社の社長を含めた主力が一気にサボりだすのでそのフォローをしなければならず、酒造から事務に他社との契約まで様々な仕事を片付けなければならなかったらしい。
群馬地方競馬永世ボス馬と言うにふさわしい人生2回目と言わんばかりに無駄に人間味のある知的な彼は、穏やかな顔で仕事に疲れた中年男性のような悲哀を背負っていた。
同じような苦労話がこの当時は様々な業種と企業からも出ているので瀬名酒造も多分に漏れず競馬ブームに社員が乗っかっていたというわけだ。同じような苦労をした会社員はこの世代には多くいて、その共通点から世代の特徴と言われている。
その競馬の主役が競馬の事なぞ知らぬ存ぜぬで会社を回す素っ頓狂な状況だったのは後にも先にも瀬名酒造だけであろうが。
契約をまとめる商談に女性社員を部下として連れて乗り込んで真っ当にやり切って見せた馬は後にも先にも彼しかいない。
まさか特注スーツでビシッと決めた競走馬に真っ当な商談とプレゼンをやられたとなれば、当事者は開いた口が塞がらなかったことだろう。
その商談とプレゼンが非常によくできていて、先の先を読んで様々な事態に対する対応も組み込んだ堅実な一流企業並みの仕事でいちゃもんを付ける隙も無く首を縦に振る以外なかったというのだから。
(…リアルでこれならウマ娘でもハチャメチャなのはありなのか)
元からなんか別の世界からやってきたような彼だったのだ、これくらいやらねば再現にならないのかもしれない。
好きなだけ好きなように生きた変わり馬、競走馬でありながら競走馬ではなかった酒蔵の輓馬。
称賛されるべき築いてきたモノ全てを置いて、世代を彩ったライバルたちの中で唯一、そして一番最初にこの世から去っていった大馬鹿野郎だ。
ストーリー的に本編までどれだけ経験を積んでも原作再現には足りないと太鼓判を押されただけのことはある。
そりゃスピンオフやノベライズでもゴールドシップに並ぶ異色な話になるわけだわ、妙に納得してしまった彼女であった。
あとがき
というわけで凱旋門賞の出だしはまず未来のお話からという事で、やっぱりシマカゼに悩まされる声優さんの一幕でした。無論ネタです、やりすぎあほらし全開で突っ切るぜ!
ちなみに某ゲームをよく話題に出しますが、それは設定的にウマ娘でも許容しやすい群馬勢のミリタリーや葦名要素を生かせる世界観をしているためです。あと趣味。
設定的に死に辛い相手かロボとかが敵だからグロ描写少ないし、向こうのキャラも基本的に軒並み頑丈で馴染ませやすいのよね。
お空の世界は中央組でやってるので差別化ともいえますね。許可取りにくいほうは自社にして制御したやすくって感じ、群馬組はむしろ馬主がノリノリなので緩い。
某生物災害は完全なる趣味と願望。カプコンさんお願いだからリメイクして、今の時代なら滅茶苦茶光るって。DLC方式とかめっちゃ活かせるし、発展性がずば抜けてると思うのよ。
この世界の某国は作者の被害妄想(笑)な状態ですが、今後もアレがエスカレートしたらマジで図書館戦争の世界になっちまうんじゃないかとも思います。あれより救いがなさそうですがね。
個人としては今のアレな風潮はやりすぎだと思うのですが、それ以前に既視感があってなんか気に食わなかったんです。
それが最近になって『図書館戦争じゃん』ってやっと腑に落ちたんですよ、アニメをなんとなく見返して気付きました。
大事が議会で変な歌なのか応援なのか分からないことぶち上げた議員がいたってのも見ましたし…あれはある意味我が国の号泣議員のほうがマシですよ、うちはネタになるけどあっちはならん。
人間はそこまで愚かではないと信じたいところなのですが…実績十分なのも人間ですから。一過性で終わってほしいねぇ…
それからごめんねダイワメジャー、君この世代めっちゃ強いからなぜかこうなっちゃった。
おまけ1・メディアミックスにおけるシマカゼタービンの形態
ゲーム・アニメなどにおけるシマカゼタービンは大まかに分けて三つの形態が存在する。
競馬シミュレーター、カーレース、サバイバルホラーなどが主体の一番目立つナチュラルな姿である『馬の姿』
ウマ娘プリティーダービーが発端となった擬人化され美少女化したアニメや漫画向けの『ウマ娘の姿』
R6Sが発端となり自然とそう呼ばれるようになったリアル系特殊部隊であるどちらにも属さない『北米版』
この三つの中でも作品形態によって細分化されたおり、『首都高の姿』『キヴォトスの姿』『CODの姿』など亜種も存在する。
おまけ2・コラボイベント『ウマ娘は蹄跡を刻む・三女神SOS』
ソーシャルゲーム『ブルーアーカイブ』において開催された『ウマ娘プリティーダービー』とのコラボイベント。
ウマ娘世界で発生した神隠し事件とキヴォトスに現れた記憶喪失の出身不明生徒4人を軸にある二つの事件が動き出すというモノ。
主人公である先生はなぜウマ娘達がキヴォトスに出現したのか?神隠しの原因は?なぜ彼女は『アレ』を持たないのか?様々な謎と事件の解明を目指し、方々の騒ぎを解決しながらウマ娘達の元世界への帰還方法を探っていくというストーリー。
このストーリーはウマ娘においても採用されており、ウマ娘側コラボイベントと同時に実装された☆3コラボ勝負服キャラのストーリーにて触れられていて思い出話が語られる。
なおシマカゼタービンとほか四人では思い出の語り方が正反対である。
おまけ3・なんかできたコラボ用キャラ(わかる人用)
所属・部活 役割 /ポジション/クラス 攻撃 / 防御 銃種
イベントクリア報酬
『☆1シマカゼタービン』 その他・無し STRIKER/FRONT/アタッカー ノーマル/軽装備 HG
期間限定ガチャ
『☆2ホクリクダイオー』百鬼夜行・忍術研究部 STRIKER/MIDDLE/アタッカー 貫通 /特殊装甲 SMG
『☆2ツバキプリンセス』 ゲヘナ・給食部 STRIKER/BACK/アタッカー 神秘 /特殊装甲 AR
『☆2ノルンファング』 アビドス・対策委員会 SPECIAL/FRONT/T.サポート 爆発 /重装甲 SR
『☆2ハルウララ』トリニティ・放課後スイーツ部 SPECIAL/BACK/サポート 神秘 /特殊装甲 GL