気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの感想と誤字報告ありがとうございます。ここから凱旋門賞、長かったぜ…
ちなみに今回の外国語セリフもエキサイト翻訳なのでなんちゃってです、すまんな。





第43話

 

 

駆ける、駆ける、駆ける、ただひたすらに駆ける。夕暮れに差し掛かった曲がりくねった山道を、土道を蹴り上げながらディープインパクトは駆け下る。

目の前にはいつもの栗毛の馬体、自分の最大のライバルであるシマカゼタービンがいつもの親父を乗せて前を走っている。

いつもの練習だ、今では自分の住処の練習場である『リットウ』よりもよっぽど慣れたように感じる群馬の練習場の山を丸々使ったレース場。

シマカゼタービンが走る『トウゲ』を模した曲がりくねっていて視界も足場も悪い山道をレース形式で上り下りする練習試合だ。

もう半日この練習を続けていて相棒の大竹も自分も息が上がりやすくなっていたが、前を走るシマカゼタービンはまだ余裕と言わんばかりに前を走る。

 

(まだ、まだだ、まだ…)

 

右に左にブレる肉体を何とか制御し、自分よりもはるかに滑らかに左右に曲がりながらコーナーを抜けていくシマカゼタービンに追いすがりながら彼を追い抜く隙を探る。

自分の相棒よりも恰幅のいい『オヤジさん』は、自分の相棒のように自分に合わせた最高の乗り方をしているようには見えないのにまるでシマカゼタービンは堪えない。

 

(ここならどうだ!!)

 

登りの右コーナーから急激に左に下りながらこのコースで一番短くかつ急激に曲がるS字コーナーが見えた瞬間、ディープインパクトはすぐさま加速してシマカゼタービンに攻めかかる。

シマカゼタービンが右コーナーの登りをコーススレスレの攻め込む後ろにピタリとついて登り、下りの左コーナーに入った瞬間に加速をかけて体に遠心力をかけてインからアウトに体を持っていく。

鞍上の相棒が重心をインに寄せ、その重心で体幹を維持しながら前足を大きく突き刺し、流れる下半身をタッピングするように地面を蹴散らしながら制御して流す。

尻が流れ過ぎないように制御して、倒れないように姿勢を正しつつ、体が持っていかれる推力を止めることなく横に駆ける。

やる事が多い、一つ間違えれば大惨事な走法をしり目に、インベタでがっちり固めて加速するシマカゼタービンの馬体が自分を置いていくのが見える。

 

(足りないか!!)

 

短いコーナーはあっという間に終わる、体が滑りすぎないよう姿勢を立て直しながらディープインパクトは悪態をついた。

想定ならばインベタで加速する前に、自分は遠心力を使って速くアウトを抜けて前に滑り込む算段だった。

だが足りない、まったく速力が足りていない、むしろアウトラインに出て距離が伸びた分だけ不利になってしまっている。

しかし彼に勝つにはこれしかないとも思うのだ、彼はこれで簡単に自分を何度も追い抜いているのだから。

 

(くそッ…また俺の負けだ)

 

林を抜けると坂道が終わり、広い放牧地の中に出来た踏み固められた土コースに出る。

その先には無造作に置かれた赤色コーンと言う△の置物があり、そこに向けてシマカゼタービンは駈けながらチラリと自分の向けて視線を送ってきたのをディープインパクトは感じた。

いつもながら呆れるしかない冷静な視線、余りにも現実離れしたクソ体力、そんな風にみられて自分が負けを認めるなんて当然彼らも思ってはいない。

 

(まだだ!まだやるぞ!!)

 

ディープインパクトはシマカゼタービンに向けて大きく嘶いた、体はとうに疲れ果てていた、相棒も疲労困憊のようだった。

それでも俺は負けてない、相棒も負けてない。ほら相棒も笑っている、笑って手綱を握って尻を叩いてくる。

もう一勝負だ、この勝負はどちらかが負けを認めるまで延々とやるのが流儀なのだと教えてくれたのはお前なんだ。

自分よりも早く赤色コーンのそばに着いたシマカゼタービンは速度を緩めることなくコーンの横を走り、そのままさらに加速を掛けながらその場でコーンを軸にぐるりと回る。

前足を地面に突き刺し、遠心力で尻を前に流しながら体を反転、コーンの周りを走りながらにして滑って180度ターン。

 

『ついて来れるか?』

 

『上等だ!!』

 

見事なターンで戻ってきたシマカゼタービンとすれ違いながら啖呵を切る。

赤色コーンに差し掛かる、ディープインパクトはシマカゼタービンのやったように尻を大きく振り回すようなターンを決めようとして、前足を強く踏み込み後ろ足を大きく蹴り上げた。

硬い金属質な地面を蹴り、気持ちのいい乾いた金属音が耳朶を叩いた。

 

『ヌゥッ!?』

 

スカーンッ!という金属のいい音が鳴り、ディープインパクトはその音で眠たい目をばっちりと開いた。

白いシーツを敷いた寝藁に横たえた姿のまま首を上げて天井を見上げれば、最近は見慣れてきた見慣れない天井。

音のしたほうを見れば、足元に置きっぱなしだった空のバケツがカラカラ音を立てて転がっている。

何のことはない、寝ぼけて足元に置きっぱなしだったバケツを蹴ってしまっただけだ。

 

(夢か…ここ最近、群馬に行けてないからな…)

 

というかここは日本ですらない。眠い目をシバシバ瞬かせ、寝転がったまま大きく伸びをして残った眠気を取りながら起き上がる。

ここはフランス、シマカゼタービンの話では日本という国から大きく離れたヨーロッパという地域の国だという。

ホクリクダイオーが行くらしいドイツやハーツクライが行ったイギリスと近く、ツバキプリンセスやノルンファングが行くというオーストラリアやアメリカとは遠い。

黒鹿毛の人間ではなく葦毛や尾花栗毛の彫りの深い人間の多い地域だ。人間の鳴き声も日本のそれとは大きく違う、おかげでコミュニケーションが取りづらくてこの国のお世話係にいつも変な顔をされてしまう。

一緒に日本から来たお世話係が用意してくれた、壁に掛けられた人間が時間を見る『時計』という機械を見ると『短い針が6で長い針が12』だ。

この時計の読み方もシマカゼタービンから教わった、おかげで時間配分も上手にできるようになって苦労しない。

 

(6時か、俺も良く寝れるようになったな。やはりぐっすり眠ると疲れが取れる)

 

昨日寝たのが夜の9時、一度催して起きたのが12時、そこからまたぐっすりだ。長く寝るおかげで昨日も厳しい練習をしたのにすっかり元気いっぱいだ。

昔は何かあると起きてうろうろするような生活だった、それが普通だった、周りの同族も大体そうだった、今一緒にいる馬たちもそうだ。

だが今はこんな生活サイクルが自分には普通だ、シマカゼタービン曰く『アスリートなら健康第一、良く食ってよく動いてよく寝るのが一番』だという、その通りだ。

すっかり疲れの取れた体を持ち上げ、立ち上がってから何度か伸びをしてから、部屋の隅にある水桶に足を運ぶ。

頭が丸々浸かる大きい水桶にはたっぷり水が張られているが、日本ではないここではディープインパクトはこれを飲む気にはならなかった。

 

「ブルル…スゥ…フン!」

 

フランスの水は口に合わない、しかし顔を洗うなら特に問題ない。ディープインパクトは水桶に頭を突っ込んで何度かザブザブ潜らせて顔を洗う。

朝一番に顔を洗うと気持ちがいいのだ、残った眠気も取れるし気分が良くなる。昔はお世話係の人間がいないとできなかったが、これは群馬で覚えた。

何かの拍子に顔が汚れたとき、我慢できなくて水桶に顔を突っ込んで洗ったら不思議と気持ちがよかったのだ。のちにシマカゼタービンに聞けば、人間も同じことをやるらしい。

ならば自分たちがそれをやっても問題はない、日本では別の桶を用意してもらっていたがここでは飲み水は別だからこれでよいのだ。

気が済むまで顔を洗ったディープインパクトは水桶に向かって軽く首を振って水気を取ると、お世話係が壁に備え付けてくれたタオルに顔を擦り付けて残った水を拭う。

 

『ふぅ…さっぱりした』

 

『相変わらず変わったことしてんな』

 

『気持ちいいぞ、お前もどうだ?』

 

『濡れるのヤダ』

 

向かいの部屋からこちらを除いていたフランスの馬が少し変なものを見る目で見ていたが、ディープインパクトは特に気にしなかった。そんな目で見られても良い物は良いのだ。

さっぱりしたら喉が渇きを訴え始めたので、ディープインパクトは顔を拭うのもそこそこに部屋の隅に置かれたボックスの前に足を運ぶ。

四角い木のボックスには開けやすい取っ手が付いており、それを咥えて蓋を開けると中には透明な一リットルペットボトルに入った水がたっぷりと入っていた。

これもフランスの水だが人間の店で売られている『ミネラルウォーター』なので味は日本の物とそう変わらないから飲みやすい。

昨日は半分ほど飲んでしまっていたはずだから、お世話係の人が夜のうちに追加してくれたのだろう。

 

「ヴム」

 

ペットボトルを一本咥えて取り出し、前足で取っ手を引っかけて蓋を閉めてその上に置く。

そして散々彼と練習したように前歯で蓋をしっかり咥え、両前足でペットボトルを軽く押さえながら首をひねった。

パキッと心地の良い音を立てて開いた蓋を上あごと下あごでくるくる回して蓋を外し、箱の横にあるごみ箱に入れてペットボトルの口を咥えて大きく呷る。

まるで幼駒が人間から乳をもらっているようにも見えるが考えるとこれはなかなか楽だ、いちいち吸わなくても水がごくごく喉を通っていく。

相棒や人間たちがやるのと同じようにやってすっかり気に入った、これなら人間たちが水桶を使わないのも当然だ。

 

「ふぃ~…」『やはり朝の洗顔の後の一気飲みは格別だな』

 

飲み終わったペットボトルを潰して平べったくしてからゴミ箱に入れて、すっかり目が覚めたディープインパクトは部屋の隅に体を預けて座りながらふと思った。

 

『今日は何日目だ、いつレースがある。大竹の感じだと、大分近いはずだが…』

 

このフランスの地に立ち、フランスの練習場で練習を始めてから一週間くらいだろうか。

退屈ではないがやはり異国の地と言うのはやりづらい、見慣れた人間がいないのと同じように同族たちもまるで違う。

あまり大きな声では言えないが、ここの同族と人間は日本に比べて結構に刺激的な臭いを纏わせている節があって困る。

ツバキプリンセスが言っていたようなお国柄であり、シマカゼタービンが言っていた『オーデコロン』なる香水なのだろう。

余り騒ぎ立てるようなものではないし我慢できる物なのだが、やはり気になるときは気になるのだ。

 

(外国と言うのはやはり日本とは違うんだな、知らなかったら余計に気になって仕方なかった。やっぱりあいつはすごいな)

 

もし彼が教えてくれなければこのフランスで万全な態勢を整えておくなんてできなかっただろう。

やろうと思っても雑念が混じってしっかりとした練習が積めなかったはずだ、ただでさえ練習時間が取れないらしい外国遠征のレースなのだから致命的である。

しかもこのフランスのコースは日本と違って芝が深く地面も柔らかい、その上で日本ほど徹底的にならしておらず自然のままにしているそうなのだ。

練習で走ってみて特性はある程度理解したが、なるほどあの足場では歴代の先輩たちが苦労するのも頷けるというモノだ。ましてや自分たちは遠征と言うペナルティを背負っているのだから。

飛行機による輸送、時差ボケによる睡眠障害、日本とは違う空気感によるストレス、何より前情報など何もない外国レースと来ている。

シマカゼタービンと言う助っ人がいて人間のあれやこれやから情報を引き出せている今の自分ほど恵まれた状況ではなかっただろうから不利も不利である。

だからこそ、ここでは勝たなければならない。前走ではハルウララに一発かまされて負けた、次でも負けたら恥も恥だ。

凱旋門賞にはドイツから転戦してきたホクリクダイオーも走るのだ。彼女の強さはよくわかっている、油断はできない。

 

(自主練習がしたいところだ…ここがフランスじゃなけりゃなぁ…)

 

柵で仕切られた馬房の入り口に目を見やる。ただ閂が掛けられただけの柵だ、閂を抜いて開けて閉めて閂を戻す、それだけですぐに出られる。

練習場までの道も分かっているし、いっそひとっ走りして戻ってこようかと考えたが初日の事を思い出すとあまりよろしくないだろう。

フランスに来てうすうす気づいてきたがそれをやって自由にできるのは群馬か栗東だけで、他の所でやったらすぐに大騒ぎになってしまう。

日本よりも競馬先進国らしいフランスなら自分のやり方程度普通だと思ってやった初日はそれで大騒ぎになってしまった。

暇な時間に部屋から出て誰もいない練習場を軽い準備運動で一周走り、馬房近くの水道で軽く汚れを落として帰ってきただけで体に負荷も何も掛けていないのにフランスの人間が変に騒いで大変であった。

やればまた無駄に騒がれてフランスの人間が相棒たちに迷惑をかけるだろう、日本とは違う鳴き声であーだこーだ鳴く連中に相棒たちも対応に困っていた。

アレはきっと相棒たちもフランスの人間の鳴き声が分からなかったのだろう、人間の鳴き声が全く分からない同族も同じ表情をしていたからわかる。

そういえばホクリクダイオーも同じようなことができるはずだが、あちらもこのくらい騒ぎになってるのだろうか?

 

『難しい顔してるね、ディープ。何してんの?』

 

『うん?ダイオーか』

 

噂をすればなんとやら、入口の方からのそっと首を突っ込んできたのはホクリクダイオー。

どうしてこんなところにいるのだろうか、彼女の部屋は別の厩舎であってここではないはずだ。

 

『お前こそ何してるんだ?勝手に部屋を出たらダメだろ』

 

『だって朝早く起きちゃったから暇なんだヨ、だからお散歩と自主練に行くの。ディープも行く?』

 

『馬鹿、人間に見つからないうちに戻れ。ここは日本じゃないんだぞ、お前の相棒が迷惑する』

 

『ダイジョーブ!もうドイツの時とは違うからネ!ちゃんと説明したって頼信も言ってたし!!』

 

それは大丈夫なんだろうか?日本とフランスは言葉が違うとシマカゼタービンは言っていたしそれは自分で感じた。

いくら彼女の相棒が言葉の限りを尽くしていてもそうそううまくいくわけがない。

 

『それにそんなボケッとしちゃってていいの?凱旋門賞、明後日だよ?』

 

『だから?』

 

明後日なのはいい、それがどうしたというのか。準備は万全だ、心も体も完璧だ、いつでも最高の走りをしてやれる。

特別に気負う必要なんてない、気負っていては勝てる所でミスをしたりするものだ、自分達の先輩の姿がそうだったからディープインパクトは良く知っていた。

 

『ふぅん?そっか、でもさぁ―――』

 

ホクリクダイオーの声色に何かが混じる、その猛烈な闘志の塊にディープインパクトは即座に立ち上がり彼女を睨んだ。

 

『それで勝てるほど海外は甘くないよ』

 

『それはお前がドイツで走ったからか?』

 

『ご明察、ドイツのレースもすごかったよ。日本と全然、雰囲気も仕様も何もかも全然違う、聞いてた通りタフでラフなところが多いんだ』

 

『だろうな、お前が走ったレースも一番強い奴が出るレースって聞いた。ドイツの強いヤツから勝ちを奪ったってな』

 

『みんな強かった、一瞬でも気を抜いてたら僕も危なかったよ…』

 

感心したように、それで懐かしむようにホクリクダイオーは硬い表情で見たこともない真面目な表情をした。

 

『勝てる自信あるの?海外初めてでしょ』

 

なるほど、こいつは心配してくれているのか。ディープインパクトはホクリクダイオーの表情に隠しきれない優しさを感じて合点がいった。

同じレースを走るライバルだというのに、同じウマに勝ちたいと競うライバルだというのに、それ以上に自分を仲間だと思ってくれている。

 

『人間みんな最初は初心者だ。ま、初心者らしくうまくやるさ』

 

『あ、タービンの真似?馬でしょうが』

 

『あいつは時々変なこと言うからな。ま、そういうところもいい所ではあるんだが』

 

何しろアホっぽくて肩の力が抜けるんだ、そういうとディープインパクトとホクリクダイオーはそろってくすくすと笑った。

 

『心配無用。宝塚でしくじったんだ、ここではしくじらん』

 

『それならいいけど。ディープ、君とやり合えるのも楽しみだったんだから情けない走りしないでよ?』

 

『変わった奴だな、2位になるのが楽しみなのか?皇帝の孫と言われるお前が情けねぇ』

 

『はっはっは!!…言うね、海外初挑戦のビギナーが良く吠える』

 

それはこっちのセリフだ、ディープインパクトはニマニマ笑うホクリクダイオーに睨み返した。

 

『たかが一戦、俺より早く走っただけでいい気になるなよ。フランスとドイツは別の国だろ?また芝が違うはずだ、お前も俺と同じ初心者だ』

 

『おっと、こりゃ一本取られた。良く知ってるね』

 

『教えてもらった』

 

正確には調べさせようとしたらあっさり答えてくれたが正しいが同じようなモノだろう。相変わらず変な知識ばかり身に着けている親友である。

 

『ま、ならのんびりするのもありだね。じゃね、アディオース!ひとっ走りしてくるねー!!』

 

『…騒ぎにならなきゃいいなぁ』

 

たぶんそんな願いは届かないんだろうな、ふとそんな予感がしてディープインパクトは黄昏た。

タービン、こいつらに振り回されてるお前が感じていたのはこんな気持ちなんだな。

味わいたくなかった、ついでにこのお転婆は本当に牝馬なのか疑問に思う。本当は牡なのではないだろうか?

 

『柔軟体操だけでもしとくか』

 

もう少ししたら大竹たちも顔を出してくるだろう、その後は軽い練習をするだろうからそのために体を解しておけば練習に時間をさける。

ディープインパクトはその場で前足をグイッと伸ばして曲げる屈伸運動をしながら今日のメニューに思いを馳せた。

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 

 

 

フランス、カルロス・ラフォンパリアス厩舎、エーグル調教場。

まだ朝で人気のない調教場の練習用コースにもぐりこんだホクリクダイオーは軽いランニング程度に抑えて自分の身にもコースの芝にも配慮しながら走っていた。

自分の足でしっかりとフランスの芝を踏みしめて感じるのは、やはり日本の芝とはまるで違う上にドイツの芝とも微妙に違うという事。

今日は朝から晴れていていい天気であるにもかかわらず、芝はどこか湿っているように絡んできて踏み込むたびに足を取られる感触がある。

この感触はなかなか慣れない、もし練習もそこそこにレースに放り込まれたらこの僅かな違和感が足を引っ張ることになるだろう。

 

(ふーん?)

 

だがホクリクダイオーは少し考え、足の踏み込みに少し力を入れて踏み込みを変えながら再び走る。

日本の芝のようにしっくりは来ていない、しかし最初の時と比べると雲泥の差ともいえる走りやすさになった。

 

(うん、こんな感じかな?あとは頼信たちが来たらすり合わせて――――)

 

「Quelle chose... Vraiment les chevaux pratiquent leurs propres courses...!!」

 

「Qu’est-ce que tu fais !!」

 

「Et puis le leader !! Son jockey dit que c’est normal de les laisser libres...」

 

「Ne faites pas trop de bruit là-bas. Je n’arrive pas à obtenir de données.」

 

「Wow, c’est comme ce cheval à Dubaï!」

 

「Est-ce que ce que Rubell disait était vrai !!」

 

(またやってる…)

 

周囲に集まってきた人間たちがコースの外でワイワイとやり始めているが、練習の邪魔をしないというのなら特に気にはしない。

いつも自分を助けてくれる敏則やお世話係の人間たちが丁寧にフランスの人間に説明していたし、ドイツでも同じように過ごしてきたのだ。

ドイツでも同じように騒がれたが…と、ふと思い出して変に気を回されるよりも自分がちゃんと考えて練習しているのを伝えてようと思いついた。

人間からしてみれば変に運動をして自分たちが怪我をするのがたまらなく心配なのだ、心配してくれるのはうれしいし悪いと思う、だから安心してもらったほうが早い。

 

「Mais encore et encore... Hmm?」

 

「Oh, hé, je suis là」

 

「Êtes-vous satisfait? Non, mais...」

 

「Ne pas fuir ne signifie pas fuir. S’agit-il vraiment d’autoformation?」

 

ホクリクダイオーはおろおろするフランス人の前まで行くと、小さく鼻を鳴らした後に前足で外ラチ下の前ですっかり身に馴染んだステップを踏んで体を見せつけた。

 

(見ろ!僕は大丈夫だ!!)

 

「Quelle cheville molle」

 

「Une étape pour maîtriser pleinement votre cheville à votre disposition... Il faut être moi pour le comprendre.」

 

「Tei-o-step, tei-o-step! Je n’ai jamais vu la vraie chose !!」

 

フランス人の前を小刻みにステップを踏みながら歩いて見せて、体が万全であることを見せつける。

これで彼らも自分が体の事を考えて軽い運動をしているだけなのは理解してくれただろう。

 

(絶対に勝つんだもん。勝って強くなって、高崎で今度こそタービンに勝つんだもんね!!)

 

だから練習はやめない、ホクリクダイオーは騒ぐフランス人たちへの対応はそこそこに再びコースを走りだした。

自分はここまで来た、こんな外国にまで来て多くのレースに出るまで強くなった。なのに、どうしてもあの栗毛の牡馬に勝てない。

自分よりもはるかにマイルや短距離は苦手なのに勝てない。だから、今度こそ、ここで勝って力を付けて、ホームコースである高崎で勝ってみせるのだ。

 

「ヒヒィーン!!」(頑張るぞー!!見てろよタービン、フランスがなんぼのもんじゃーい!)

 

彼のことだ、人間の便利な機械でフランスのレースを見ているかもしれない。

フランスのレースで一番になって、このホクリクダイオー様がどれだけ強くなったかを見せつけてやるのだ。

そう思うと俄然気合いが入るホクリクダイオーだった。

 

 

 

 






あとがき
フランス凱旋門賞、開幕の一幕でした。この世界のディープ君は半分UMAになってるので、この世界では凱旋門に2頭UMAがいます。
UMAの生態系は群馬地方競馬と中央競馬からあらかじめ通達があったので特に問題はありません、ないったらない。
まぁ先にドバイとかでやらかしてるのもあるし、ルベルっていう生の声も聴けるんだからまぁ大丈夫でしょう。
なお現場の心労はプライスレス、まぁ普通に言えばわかってくれるからね。フランス語が通じるかはわかんないけど。
ちなみに水などについてはシマカゼタービンが入れ知恵して飲めるように訓練しました、故に問題はない。お金はかかるが。



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