気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの感想、誤字報告ありがとうございます。
今回は番外編、ちょっと未来のある出来事。実はこの世界普通にボンボルドクター居るんですよ。
でも未来ではああなる、それはどうしてもやった無理が祟っちまったから
つまりはですね…普通にこのUMAは元気です、心配させて申し訳ない。





馬 IF・番外編
シマカゼタービン、タルコフ遭難記録


 

 

 

走る走る走る、傷が引きつる体に鞭を打って、訛り切った体に檄を飛ばして、俺はただひたすらに走る。

前を走る装甲列車、周りは銃声轟く市街地、四方八方から撃ち込まれる銃弾、列車から撃ち返される銃弾、荒れ狂う跳弾と火花。

俺は背中で必死に体を丸めてる親父さんに弾が当たらないようにと祈りながら列車を追いかけて走り続ける。

もう少し、もう少しで追いつく。もうすでに息切れしかけてて、正直今までにないほどに本気で平地を走ってる。

けど限界が来てるのは分かっていた、どんどん加速する列車に俺の足は追いつけない、いずれどう加速しても置いて行かれる。

だから装甲列車が完全に加速する前に追い付かなきゃならない、列車に乗ってる人たちも俺たちに気付いてくれて最後部のドアの前で護衛の軍人が待ってくれている。

親父さんが追い付いたらすぐに乗り込めるように、速く来いって急かしてる。

 

「タービン!無茶するな!止まれ!!止まれ!!!あぁクソ!!」

 

悪いがその願いは聞けねぇよ親父さん、俺が術後で無理してるのは親父さんも分かってくれてる。

けどな親父さん、あんたはここに居ちゃいけねぇんだよ。瀬名酒造には親父さんが居なきゃダメでしょうがよ。

もう少し、もう少し、足が重い、息が苦しい、昔のようにいかない、老いてるし怪我もした。

加速を続けてる列車に何とか食らい付いてるが時期に追い付けなくなる、これでは間に合わない。

もっと速く、もっと強く、足を深く、力強く地面を蹴って加速する。

加速するたびに体中が痛む、バラバラになりそうな痛みが走る、頭が割れそうに痛い、心臓が破裂しそうで痛い。

 

だからどうした?

 

限界なんてとっくの昔に超えている、自重なんてとっくの昔にやめている、今やるべきことは走る事。

走れ、もっと早く走れ、走れ、進め、前へ、前へ前へ前へ!!俺の命が燃え尽きる?それのどこに問題があるってんだ!!

くれてやるよ、この命は親父さんがくれたもんだ、親父さんが拾ってくれて、俺に今をくれたんだ。

親父さんに返すってんなら本望なんだよ、ここで命を張らないでどこで張るってんだ。

 

「Jestem tutaj!!(来たぞ!!)」

 

「Co za koń! Zakryj się!!(なんて馬だ!援護しろ!!)」

 

加速を続ける列車の最後尾に何とか追いついて併走する、それに呼応して列車の中に居た軍人たちが飛び出してきた。

ポーランド語、青いボディーアーマーとヘルメット、白い『UN』の文字、国連治安維持部隊のポーランド陸軍だ。

列車後部の僅かな軒先からアサルトライフルの銃口を突き出して、後ろから狙ってくるどこぞの傭兵や暴徒たちに牽制射撃。

その援護の中で数人の軍人たちが親父さんのほうに手を伸ばしてくる、親父さんはそんなの目もくれない。

俺は軍人たちの手のほうに体を寄せて、親父さんの体を彼らの手に掴ませた。

 

「Mam to!(掴んだぞ!)」

 

「Podciągnij to, pospiesz się!!(引っ張り上げろ、急げ!!)」

 

「なんだテメェら!?」

 

いくら親父さんとは言え屈強な軍人に捕まればなすすべなく列車の上に引っ張り上げられた。これでいい。

これで少し荷が下りたか…なんで手綱が突っ張ってんだ。

 

「待てタービン!早く、早く乗るんだ!!」

 

どうして手綱を離さなかったんだ、親父さん。前の俺ならやれただろうな、でも悪い、ここまでだ。

もう走ってるだけで精一杯だ、足を使い切っちまってる。

 

「引っ張れ、引っ張ってくれ!!こいつも一緒に!!飛べ、飛んでくれタービン!!お前ならできる、やれるだろ!!」

 

親父さんが叫ぶ、けど周りの人は分かってない。そりゃそうだ、全員ポーランド人だ。日本語が分かってない。

それどころか親父さんの持ってる手綱を手放させようとした、そりゃ俺がこけたらあぶないもんな。助かるぜ。

軍人の手に妨害されて親父さんお手が緩む瞬間、俺は無理矢理親父さんの手から手綱を引っ張ってもぎ取った。

その様子に全員の目が丸くなった、何驚いてやがる、当たり前だろうが。速度が上がる列車が離れていく、もう追いつけない。

後は頼んだぜ、軍人さん。俺は親父さんを助けてくれた軍人さん達を見つめる、それに一人が頷いた。俺も頷いた。

 

「何やってんだ!やめろ!!行くな!!」

 

しばらく休暇を貰うよ、有給を消化しなくちゃならないからな。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

『…またこの夢だよ』

 

目が覚めるとそこは見慣れた天井、たぶん第2次大戦の頃に作られただろう防空壕のボロボロの天井。

マットを固めた粗末な寝床から身を起こせばそこは粗末な我が隠れ家、とはいえ一通りの設備は集めたぜ。

粗末ながら最低限の器具を揃えた簡易作業台、苦労して集めた素材を押し込んだ空輸コンテナ。

苦労して設置した非常用燃料発電機とそれに繋いだバッテリー、そしてそのバッテリーに繋いだノートパソコンとアウトドア用冷蔵ボックス。

同じく苦労して再稼働した換気扇、その下にはドラム缶で作った簡易コンロ兼ストーブなどなど、生活には困らない程度に整った室内。

 

「ヒヒーン!」

 

両足を踏ん張って、思いっきり両手を上げて背伸び!馬の体とはいえ、背伸びすると少ししゃんとするよね。

今日の朝飯は…MREにするか、栄養は大切。イスクラは昨日食ったし、三つくらい喰おう。

まずはストーブに火をつけて、鍋を持ってきて水入れて沸騰させる。意外とすぐ火は入るし湧くのよ、コツさえわかれば。

前世でも中東では寒さ対策は死活問題だったから覚えておったわ。

しかし馬の欠点はこの食事量の多さよねぇ、単独行動してると嫌でも感じちゃうわ。やっぱ、日本は恵まれてたのね。

 

『お、ピザ』

 

分厚い茶色の袋をガバって開ければ、なんと珍しいペパロニピザ。日本人からしたらどっちかっていうとピザパン系だけど。

とりあえずほかに二つ袋を開けてメインを出して、付属のコーヒーはまとめていつものボウルに開けて鍋からお玉でお湯を投入。

馬サイズインスタントコーヒーの出来上がり、湯気が立ってていい香りだぜ。

その後でピザとマカロニとミートボールを鍋に投入、ぐつぐつするぜ。

最近のMREはよくできてるよな、昔はあんなゲロまずって言われてたのに一応食える味だもの。

まぁ食えるだけでうまいかって言われると絶対にそうは言えんけどね、日本人の舌にはどうしても合わないのあるし。

でもFRH、ヒートパックお前はダメだ。同梱されてるのに温まらん外ればっかとかどうなっとるねん。

 

『パンうまぁ』

 

メインを温めてる間に火がいらないスナックパンやクラッカー食う、食いながら待つって感じ。

そこらの草とかタンポポ食ってるよりはずっといい、あれは飼い葉よりずっとまずくて気が滅入る。

最初はそこらに逃げてた牛とか馬の真似で喰ってたけど、オートミール見つけたときにもう絶対やらんと心に決めたわ。

ほんとにそれしかないとき以外は遠慮したいねあんな食生活、オートミールそのまま食ってるほうがよっぽどうまいねん。

だからこうやってパンにジャム付けて食えるってのはありがたいもんなんだよな。

クラッカーにピーナッツバター付けてバリバリやるのだってそうだよ、そもそも食えるだけありがたいって話だ。

そうおもうと紛争真っただ中故に色々漁り放題なタルコフは多少俺向けなのか?いや好んで来たいとは思わんが。

常温放置されてた紙パックの牛乳を喜んで飲んでるPMCの奴らを初めて見た時なんかビビったぞ。

ここのPMCは大概が鉄の胃袋とはいえ限度がある。

パッキングが日本のとは違うから飲めるってこと俺は知らんかったからな、あとで知って後悔したわ。

 

『戦闘糧食が食いたいな、たくあんとか』

 

一緒に作っておいたコーヒーをボウルからストローで啜る。うーん、このわざとらしいインスタント感、パンとクラッカーによく合う。でもやっぱり日本食が恋しい。

ここでも陸自の戦闘糧食が投下されたらいいのにな。難民支援用ってことでそれくらいできないもんかね…いや無理か、合わんか。

空中投下の難民支援物資、なぜか武器弾薬ごっそり入ってたりするもんな。思わず写真撮って送っちまったぜ。

温まったメインのピザを食い始めながら昨日開けた支援物資の中身を思い出す、どうも誰かさん宛ての補給だったみたいで西側系武器弾薬詰め合わせだったのよね。

M4やらM14やら各種アタッチメントやら、ピカピカの弾倉に弾薬、おまけに整備用品とオイル類などほんとに銃に関するもんががっつりでしたわ。

俺としては外れ、回収はしたけども整備用具くらいしか使い道がないから暇があったら闇市のトレーダーに流そう。金か情報、物資に化けてくれた方が役に立つ。

だからどうせならみっちりMREが詰まっててくれた方が嬉しいんだよな、食料は死活問題だもの。

 

『おっとそうだそうだ、報告報告』

 

準備の前に一仕事、ノートパソコンを開けて蹄でカタカタ一本指打法。メール開いて朝一番のメールで瀬名酒造に報告だ。

このインターネット時代、紛争地帯だって多少苦労はするけどグローバルにつながってるんだぜ!!おかげて助かった。

今日も元気です、これからちょっと探索に行きます。近況報告と現地情報、写真、最後にパソコン備え付けのカメラで自撮り写真を撮影して添付、ヨシ!

え?馬がこんなことしてていいのかって?こんな非常時に四の五の言ってられるか、そんなことより親父さん達の心労軽減よ。

あと大竹さんの所にもメールだな。今日も元気に生きてます、ディープに見せてやってください、と同じような感じで。

添付に親父さんに送ったのと同じ食糧確保に行ったモールで知り合ったご兄弟と一緒に撮った写真を添付。

現地情報と近況報告、タギラさんを乗せてモール内をパトロールする俺、キラさんを乗せて駐車場を走る俺、添付、ヨシ!

他にもその他もろもろ書き加えて、写真付けて…作成ヨシ、電波良し、送信ヨシ!うーん良し!!

ネット環境が多少なりとも生きてるってホントいいよね、信号増幅器は必要だけどこの手の機械は何故かよく一緒に投下されてる。

いやーなんでだろーなー?だれむけなんだろーなー?おいちゃんおうまさんなんでわっかんないよー?

ま、とはいえ豊富だからよし。おかげでネットワークの維持が楽で助かる。

しかし近況報告は良いとして現地の情報っているのかね、親父さんが群馬県警からそれとなく言われたらしいから両方送ってるけど。

 

『これでよし、あとは何か…ないな』

 

じゃぁ、そろそろ行きますか。早くここから出るには、今のところとあるケースが必要らしいからな。

脱出する手段はずっと考えていたし情報収集は欠かしてない、馬だからって無条件で逃げられるほど軍の封鎖は甘くない、むしろ厳しい。

犬猫とかならまだしも、馬とか牛はロシア軍や国連軍の封鎖線に近づくと問答無用で撃たれる。しかも威嚇射撃無し、辛い。

そうなると正規の手段が必要だけど、調べた結果現状は港を占拠してるロシア軍経由が今のところ有力。

何度かPMCの連中が設置してある有線電話で取引してるのを見た、専用のカードとボックスがあれば少なくとも基地内に入れるのは確認してる。

トレーダーの副業やっとるロシア軍のプラパーおじじにも渡りが付いたから鍵になるアイテムさえ揃えば問題ない。

やはり友の力は偉大だ、群馬警察の伝手で軍に渡りつけたら一発でロシア軍の士官に話しがついたぞ。

でもそれで無条件脱出と行かんのはそううまくはいかないってわけよな、あくまで理由を付けて脱出しないとならん。

そうじゃないと政治的云々の前に言葉だけデカいあーだこーだうるさい連中がうざいらしいのよ。

わかるわ、大変だよねぇ色々と、ああいう連中変に無敵だったりするから手が出せないし。

必要なアイテムの一つであるカードは偶然手に入れた、道端で死んでたTERAの研究員が隠し持ってたのよ。

近くに闇医者のハゲがいたから多分そういう事、あいつ見つけらんなかったのな。それでつながるのも確認済み、ラボでも使える凄いやつ。

あとはケースだがこのケースがなかなか見つからない、まぁそれは分かってた。

けど形状が似てるTERAのセキュリティーケースくらい見つかると思ってたんだけどね、それも全然だめよ。

何度ラボに忍び込んでもそれっぽいのすら見つからん、書類とか試薬とかはかっぱらってるけど使える場所が遠すぎて現状お土産だ。

俺は馬なのだ、ケースに何が入ってるかなんて知らん。最悪似てるケース持ってきた賢い馬アピールで乗り切るしかないと思ってたのにそれもできない。

これが物欲センサーっていうヤツか、発動するのはゲームだけにしてほしいもんだよ全く。

 

「フン!」

 

まずは装備、上半身はロシア軍の6SH112、限界まで広げたヤツを3着繋げただけのタクティカルベストだ。共通の留め具でつなげるだけで改造もしてない。

ポーチは軽機関銃用を4つ付けてボックス弾倉を携行、他は取りやすい位置に発煙筒やら信号弾を入れたポーチ類。

L型軍用ライトに単眼タイプのナイトビジョン、ケミカルライト、暗所対策も完璧。

回収した物資を入れるプットパックも4つ、デカいユーティリティポーチを複数付けてある、バックパックは背負えないから数で勝負だ。

こいつは着るだけ、防弾チョッキ?馬用の防弾チョッキなんかあるわけないだろ。

ポールハンガーにかけてたのをマントを羽織るみたいにバサッをやって、腹の下で留め具を固定し装着。

人間の肩辺りになる部分が非常に不格好になるけど仕方ない、無理矢理着込んでるんだもの。

下半身にはこれまた限界まで延長したのを3つ繋げたモールベルト、オリーブグリーンのTV-106。これも留め具でつなげただけ。

実物装備はやっぱり具合がいい、お値段相応の価値はあるってもんよ。前世じゃオスプレイMK4一択でよくネタにされたっけ。

いいじゃん、安いし本物だしいい年季も入っててさ。臭いとかいう奴はまず一言、洗濯をしろ、話はそれからだ。

ここでも俺は洗濯を欠かさないぞ、基本は部屋干しだけどな。112も昨日しっかり洗濯したぜ。

 

『防弾装備が欲しい…』

 

防弾性能のあるなんかが欲しい、オスプレイで思い出しちまった。ここでも見つけたけど着れなかったんよ。

タクティカルベストって大体防弾性能0だから、映画みたいにはいかんよ。着てるPMCやスカブが羨ましい。

まぁ…なんか思いつかない限り保留かな。さて次はヘッドセット改造イヤホン、改造SOLDINを気合いで耳に嵌める。

有線イヤホンみたいな感じ、ちょっと圧迫感あるけど便利。良く聞こえるし音も明瞭になって気づきやすい、改造するのは手間だったけどその甲斐はあったってやつだ。

コードは頭の後ろに垂れる感じ、鬣に挟まる感じになればグッド。短くしてるのがいい感じに刺さる。

 

『そろそろ髪を切るべきだな』

 

コードを垂らしてたら気になった、少し長くなってる。帰ってきたら切るというか剃る、馬だと気軽に散髪はできんから気合い入れなきゃな。

配管にバリカンを添えて擦り付けるように気合でゆっくりやるんだ、失敗するとその部分がハゲるから注意。

次の予定が決まったところで後は自衛用の武器だ、馬の身である以上どうしても制限がかかるが偶然にもいいやつを見つけた。

 

「ひょっほいせ」

 

簡易作業台横のガンラックにかけておいた愛銃のPKPペチェネグ軽機関銃。

でかい図体、重い重量、でもその図体に似合った高火力、弾薬も大口径だから火力こそ正義って感じ。

構造的に使いやすいんだ、馬の体だと弾帯式のこいつがリロードを少なくできていい、どっちみち時間食うからな。

トリガーに適当な金属部品を付けて蹄を引っかけやすいようにしてやれば撃ちやすくできたし、デカくて重い分反動もマイルドでちゃんと構えなくてもある程度撃てる。

銃も弾倉もデカくて重いせいで不人気なので程度が良いものが拾いやすい、部品や弾倉も同じで維持しやすいんだよ。

でかい図体も細かい作業が苦手なこの体には有利に働いてる、ロシア製らしい頑丈さのおかげで整備も楽だし。

弾薬の競合も少ないから手に入れやすい、7.62×54Rライフル弾を使うのは主にモシン・ナガンとドラグノフとかの狙撃銃だから使うやつが限られてる上に、狙撃銃だから狙撃向けの高級品が人気だ。

俺は機関銃だから普通のFMJとか民間向けでも十分なのよ、肝心なのは必要な時に撃てればいいわけでさ。

取り合いにならないのはいいことだ、他の奴らが漁った後でも残ってるんだよねコイツ。

大量に確保しようとするのはせいぜいモシン教の人たちくらいだ、俺もモシン・ナガンは使うから喧嘩にはならん。

ハレルヤハレルヤうるさいが宗教の押し売りはしないし、ある意味精神的に強いから話が通じるだけマシだ。

モシン・ナガンを崇めるのは勝手だしタルコフにはもっと質の悪いカルトがいる、あっちは話が通じないから嫌いだ。

 

『弾薬は…うん、大丈夫だな』

 

大体450くらいか。目一杯持ってくが基本的に銃撃戦に付き合う気はない、逃げるために撃つだけだ。掃射を仕掛けりゃ大体ビビるよ。

機銃掃射を当たらないとタカを括って飛び出すのは映画の中でやる事だ、実際ここでは何人も蜂の巣になってるの見たよ。

装填はまず100連発ベルトリンク弾帯を入れたオリーブグリーンの金属製ボックス弾倉を簡易作業台に用意。

簡易作業台の上にPKPのスリングを口で食んで持ち上げ、そのまま金属製ボックス弾倉の上に、そしてクレーンのようにゆっくりと降ろしてはめ込み部分にうまく入るようにして自重ではめ込みます。

ボックス弾倉を装着したらそれを支えにしてゆっくりスリングを下ろすとストック部分が尻を落としてそのまま立つので、倒れないよう支えつつストックと機関部の付け根辺りにあるスイッチを押してカバーを開ける。

丈夫カバーを開くと給弾口が出てくるからボックス弾倉からちょこっと出しておいた弾を付けてないベルトリンクを口で掴んで引き出し給弾口に乗せてカバーを閉める。

後はスリングを首に通して持ち上げて保持、右前足でスライドレバーを引いて初弾を装填し、安全装置を掛けて準備良し。

 

『さてと…今日は見つかるかね』

 

いざゆかん、地下研究所。今日こそケースを見つけてここからおさらばしてやるぞ…そう思って気合い入れていたのが今朝である。

 

『うわぁ、こわ、近寄らんとこ』

 

通ろうと思っていた工場地帯でPMC同士がド派手に撃ち合いをやり始めたので遠巻きにして偵察する自分、まあ当然よな。

戦災難民のスカベンジャー、略してスカブが狙撃されてたからもしやと思って偵察に徹してよかったよ。

欧米系PMC『USEC』とロシア系PMC『BEAR』の小競り合いはこのタルコフじゃ日常茶飯事、迷惑千万極まりない。

何がしたいんだか何を探してるんだか知らないがそこかしこで派手にドンパチしてるし地元民ともいざこざ起こしてやがる。

しかも見た感じ連中の装備が良かった、今更投入された部類かね。潜り込むの遅くなりそうだけど命には代えられない、しかたないね。

でもそうなると、施設内の連中が殺気立ってること多いんだよなぁ…なんか他の連中も潜り込んでるみたいでさ。

 

「うへぇ…」

 

木陰に隠れてお座りスタイルで遮蔽に隠れつつ双眼鏡で銃撃戦を眺める、前足で挟んでるだけだからスコープみたいになってるけどよく見える。

AR15系アサルトライフルのUSECとAK系列アサルトライフルのBEAR、典型的な感じよな。

嫌だ嫌だ、なんかあるんだろうけど皆様こんな地獄で元気なことで。迷惑千万極まりない。

しょうがない、遠回りだ。不幸中の幸いだが、この手の大規模戦闘の時はPMC以外は大体逃げに徹するから安全になる。

アレに突っかかったり漁夫の利狙おうとする連中は相当のアホか筋金入りだ、普通のスカブは逃げるんだよ。

ほら、今もヤベー空気察知したスカブの男二人が警戒しながら道路を通って外の林の中に逃げ込もうとしとる。

うーむ、甘い、そこ激戦区からスナイパーの射線が通る。狙われてるから撃たれて終わる、ってか今まさに撃たれたぞ。

 

「ヴヒンヴヒン!」『こっちこっち、そっちスナイパーの射線通るぜ』

 

「Извините! Товарищ!!(すまない!同士!!)」

 

「Выжил!(助かった!)」

 

咄嗟に物陰に隠れた男二人にあっちあっちと身振り手振りでスナイパーの存在と道を教えてやればそこは地元民、すぐに危険を察知してくれる。

普段は狙ってくる連中も居るけどこうして顔が知れてれば意外と役立つ、見つかっても撃たないでくれるとかね。

 

「Товарищ. Заметьте, ребята из ЧВК новички в технике. Я новичок, что-то есть(同士。注意しろ、PMCの奴ら装備が新しかった。新参だ、何かあるぞ)」

 

「Я собираюсь сделать это. Я не милый человек(これやるよ。俺、甘いのダメなんだ)」

 

ほらね、さっきのPMCのちょっとした情報は実に嬉しい。こいつらから見てもそうってことは俺の予想は当たりだ、新参ってことはどっかが派遣したってこと。

確定情報じゃないにしても一考に値する、あの連中には絶対近寄らんとこ。

もう一人はお礼に角砂糖、貴重な食糧だろうにすまねぇなぁ。足早に逃げて地下通路に入る二人を見送り俺も移動する。

 

『あのUSECども、もしかして手当たり次第にしてきたんか?』

 

途中も路上で何人かスカブが転がってる、残った足跡の数と進路からしてさっきBEARとやり合ってたUSECに違いない。

とはいえ無傷ってわけじゃなかったんやろな、スカブの中にキレイなPMCの仏さんもいらっしゃる。

確かに装備がいいなこのUSEC、ここに取り残された連中は大なり小なり草臥れてるんだがこいつは服も肌もピンシャンしておる。

右見て、左見て、ぐるっと周囲を確認してスナイパーに注意、激戦区は未だドンパチに夢中…よし、今ならいけるな。

下手な隠蔽はいらん、速攻だ。素早く遺体の所まで行って両前足で抱えられるだけ抱えておさらばよ。

二足歩行は不格好だしちょいと無茶をするが仕方ない、鍛え直した甲斐があるってもんだ。

 

『南無阿弥陀仏、すまんがこれで勘弁してくれ』

 

さすがに放っておくのは惜しいけどそれでハイさよならは夢見も悪い、やれるときは自己満でもやるさ。

とりあえず近場のスカブの死体と一緒に近場の建物に引っ張り込んでできるだけきれいに仰向けで寝かせて並べてやる。

装備や物資類を回収したら眼と顔をできる限り眠るようにしてやり、両手を腹の上に組ませて顔に布切れを掛けてやった。

最初は銃器でバトルクロスにしてたけど銃は資材としてもトレード品としても有用だから、布切れを常備しといて出来る限りこうやってやる。

せめてもの供養よ。こいつらにだって親も居れば家族も居たんだろうさ、だがこんな所でくたばったら骨一つ帰らんし墓の場所も分からんのだ。

墓穴があるだけマシな世界ってわけさ、棺桶用のザクは存在しないがね。

 

『まったく、世の中思い通りにならない事ばかりだよな』

 

こんなんだから俺は遊びは全力で遊びでやりてぇんだ、現実は厳しいんだから遊びは遊びなのだよ。

撃ち合いなんざサバゲで十分なんだ、ったく。USECの装備だってこんなかっこいいのに…まったくもぅ。

そもそもこんなことが起きなけりゃこいつらはここで死なんかったかもな、俺も病院で食っちゃ寝出来てたのに。

とりあえず使えそうなやつは貰ってプットバックやポーチに手早く押し込んで、銃は…USECはベクターSMGでスカブはハンターと…MDRゥ?

 

『随分良いもの持ってるなおい』

 

.308口径タイプ、USECからの鹵獲品か?…ふむ、状態は良くないな。コッキングがじゃりじゃり言っとるし中身も真っ黒、碌な整備してないんだろう。

USECのベクターとはえらい違いだ、こいつはしっかり整備されてる。まだ新しいガンオイルの香りがするな。

まぁスカブにそんな知識なんてないから仕方ない、元々普通の一般人が整備できる代物じゃないからな。

しかし手入れされてないだけで酷使されたって感じでもないな、少し手入れしてやれば十分使える。

しかしMDR、変な所で縁があったもんだ。弟子にもいるぞ、エムディーアール、ツバキが目を付けて連れてきやがった牝馬。

馬主が海外勤めの時この銃を愛用してたとかなんとか、確か有馬の後のGⅠダートレースで最近勝ったはずだ。

とりあえず持ってくのはベクターとMDRだけでいい、ベクターは短く畳んでスリングで首に掛けとけば邪魔にはならんし、MDRは弾倉抜いてプットバックの蓋で挟んでおこう。

MDRはあれだ、次のメールの時写真送ってやろ。お前の元ネタ見つけたって教えたやったらびっくりすんぞ絶対。

荷物をまとめたらさっさと出発、激しい銃声を背中に聞きながら俺も脱出。スナイパーに注意しつつ林の中にもぐりこんでおさらばだ。

 

『荷物増えたな、いったん隠してから行くか。日本までは遠いねぇ…』

 

いっそボックスだけでも買い取らせてくれないかな、話が通じるならだけど。通じねぇよなぁ…

いつになったら抜け出せるのかな、先行きの見えない現実ってのはつらいね。

 

 

 

 






あとがき
というわけで番外編、馬旅inタルコフ。ね、元気でしょ?
やってることはタルコフ風に言えばPスカ、あるいはMGS4のスネーク。
なのでこいつ的にはスカブとPMC両方と基本的に敵対してない、ただし襲ってきたら蹴り返すくらいはする。
でもゴリゴリの激戦区に突っ込むような連中や物欲中毒やPMCには何かと狙われるので応戦はする。
ボスとは一部敵対していない、紛争になる前からやばい犯罪者とか闇医者とは普通に敵対してる。
現状は脱出手段を見定めて必要なものを探してるところです、中がなんなのかとかそんなのは知ったこっちゃない。

MREのヒートパック、FRHに関しては実体験です、そこそこ新しいMREでも自分が使うと大体死んでて使えない。
良い感じに熱くなるFRHは何度かありますが、それ以上に不発ばっかなので大体お湯で温めてますよ。
さすがに現役の方々に回ってくるのは新しい奴で使えるのだと思いたいけれど…状態が良くても死んでる。
でも味が良くなったのは確か、最近のは食える、そこそこうまい。でも期待して食うものではない。
最近はそれよりやばい中華製があるというので時代は変わりましたな。

ちなみにガンダムネタはいつも通り外伝、いろいろ言われても自分はああいうの大好き。わかる人はわかるかも。






おまけ・シマカゼタービンの秘密
実は軍艦の名前ではなく銃器やその他兵器類の名前を冠した弟子も数多い。
軍艦がメジャーじゃない国だったり、あまり縁のない馬主だと兵器繋がりの発想でそうなるようだ。



おまけ2・タルコフの秘密
タルコフ紛争終結後、市内でそこかしこに雑ながら供養された死体が多く発見され、世間を賑わせ多くの憶測を呼んだ。


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