気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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書いちゃったw




Pretty Derby
第一話


 

 

いつもの夢だ、私はいつものようにアスファルトの上を必死で走る私を空中から見ている光景で我に返って自覚する。

黒髪のストレート、浅黒い褐色系の肌、整ったお嬢様然とした顔立ち、右耳に着けたお気に入りの赤色リボン、白いフリル付きスカートの青色の袖の黒を基調としたドレス型勝負服に黄色のミニマントを羽織った姿。

この夢の私はいつも走っている、なぜか山道、それも峠の坂道を、焦燥と、憧れを持って走っている。

小さなころからずっと見ている変な夢、毎日ではないけれどふとした拍子に夢に見る。

 

(居た!)

 

前のカーブ、自分の進行方向を見るとほんの一瞬だけそこに見えた後ろ姿に胸が高鳴った。こいつだ、こいつを抜きたい、こいつに勝ちたい。

その一心だけが私の中を駆け巡る、狂おしいほどに胸の奥が熱くなる。

私の前を走る青い短髪のウマ娘はこれまで走ってきたどんなレースにいたウマ娘とも違う走りをしていた。

まるで車だ、そう思ってしまう。レース場の平地よりも速度が乗る坂道を恐れなく飛ばしていく背中はあまりにも遠い。

コーナーへの突っ込みも異常だ、ガードレールに体を擦るくらいのインコースを攻めて攻めて攻め抜いて抜けていく。

それに私は追いつけない、必死に追いかけているのに速度もコーナーも負けてる。

真っ暗な峠道を、走行用のライト一本で照らしているだけでどこまでも遠い。

見たことのない走り、噂に聞くウマ娘の公道レースなのか。見たことがないのに、やったことがないのに、どうしてこんなに胸が高鳴るのか!!

 

(誰なの、あなたはいったい誰!)

 

こんなにも強いと思ったウマ娘は見たことがない、シンボリルドルフの再来と期待された私の胸を高鳴らせるウマ娘、私の渇きを癒してくれるライバル。

トレセン学園に強いウマ娘がいないわけじゃない、憧れる先輩がいないわけじゃない、負けたことがないわけじゃない、対抗心を感じたことがないわけじゃない。

それでもどこか冷めた気持ちのあった私をここまで高鳴らせるウマ娘はいなかった、ライバルと言えるウマ娘がいなかった。

ナリタブライアン先輩でさえそうだ、先輩の渇きを私が癒せないように私も癒されなかった。

でも彼女は違う、求めていたライバルだってわかるんだ。でも誰なの?彼女はただの私の妄想なのか?

欲しくても欲しくても見つからない勝ちたいと思えるライバル、私の前を走り、何が何でも抜きたいと思うライバルは…こんな儚いものなのか。

それでもいい、夢の中だけでも、そんな何もかも忘れて『走りたい』と思わせる存在が、私は欲しい!

私はふと振り返る、後ろには誰もいない、前を見る、いつの間にか私自身が走っていた。

それがどこか懐かしい、まるで前もここを走ったような気がする。はるか昔、遠い昔に。

 

「今度こそ!!」

 

足に力を入れる、ターフとも、ダートとも違う、アスファルトの硬い路面に足が跳ねそうになる。

とても蹄鉄を付けた靴で走る道じゃない、なのに、同じ条件のはずなのに彼女は迷いなく坂を下っていく。

夜の道が怖い、街灯が少ない峠道を走る怖さは普通のウマ娘じゃわからない、私も走ったことがないはずなのに、私はなぜかわかる。

前が見えない闇に自ら突き進む恐怖に足がすくむ、怖い、怖いのに、あいつは全く怖がりもせずに抜けていくんだ。

下る速度が怖い、ターフやダートよりはるかに硬いアスファルトの地面を、平地ではなく坂を全速力で下るから当然速度がもっと出る。

まるで車にでもなったかのような感じだ。でも私は勝負服一つ、転べばケガなんかじゃすまない、確実に死ぬ。なのにあいつは怖がらない。

 

「このぉ!!」

 

弱気を振り切る、いや、押さえつけて走る。怖い、いつ足がもつれるかわからない、坂道で足が軽く感じて怖い。

もし足がもつれたら?滑ったら?アスファルトの上で転倒するだろう、骨折するくらいならいい、下手をしたらガードレールの下に真っ逆さまだ。

怖い、もしかしたらアスファルトですり下ろされるかも、怖い、もう走れなくなるかも、怖い、死ぬかもしれない、怖い、でも怖がっちゃ追いつけない。

カーブに消えていくあいつを追って私もひた走る、何度も曲がる、加速する、前へ!前へ!!もっと速く!!もっと鋭く!!!

もっと内側へ寄せて曲がれ、減速なんてするな、鋭くカーブを突っ切れ、グリップを効かせて走りぬくんだ!!

直線で足を稼げ、転ぶことなんて気にするな、私は今何をしてる?それだけを考えて、必要なことだけ考えろ!!

またコーナーが見えてきた、あいつの背中が近づいてきた。ここはS字カーブ、ここでこいつはいつもあれをやる!!

 

「曲がれぇぇぇぇ!!」

 

私はレースと同じように曲がろうとしてしまう体を押さえつけて、あいつの真似をして体を傾ける。普通なら追える、普通の走りをあいつがするのなら。

あいつは体を倒れるぎりぎりまで前に体を傾けて、内側ガードレールぎりぎりまで体を寄せた状態で、速度を保ったまま、不思議なくらい綺麗なドリフトで抜けていく。

二つの足でわずかに跳ねるようにステップを踏んで、蹄鉄で面白いように滑っている、一つ目のカーブでこれなのに二つ目もまるで流れているみたいにきれいに抜けていく!

その時の体の動かし方がまるで違う、足の動かし方がまるで違う。まるで体の重さすらも移動に使っているように見える。

それに私はついていけない、無理な曲がり方でバランスを崩した一つ目のカーブから立ち直り切れない私はどうしても速度が落ちる。そこで突き放されてしまう、そのバカみたいな走りに置いて行かれてしまうんだ。

いつもはそこで終わってしまう、離れていく背中にいくら走っても追いつけない、だけど、今日は違った。

 

『嫌だ!』

 

誰かが叫ぶ、遠くなる彼女に向かって誰かが叫ぶ、気が付けばその背中は見たことのない生物になっていた。

ウマ娘のような耳と尻尾を持つがっしりとした細身の牛のような後姿、4足歩行の彼はどこまでも駆けていく。

 

『嫌だ!!』

 

峠道を、ダートを、そしてターフを、私は追いつけない。わかる、このままでは追い付けない、まるで経験したことみたいに胸の中を悔しさが駆け抜ける。

追いつけていない、俺はあいつをずっと追いかけてきた、今度こそ、今度こそって!!

 

『まだ終わってない!』

 

追い付きたい、追い越したい、お前に負けっぱなしなんて絶対に認めたくない!!

 

『お前を倒すのはこの私だ!!」

 

どんどん加速するその後ろ姿に私は手を伸ばした。体が加速する、カーブを曲がろうとするそいつの尻尾に手がかかる。

尻尾を掴んだ、気が付けば犬のリードのようなものだった、かまうもんか、思いっきり私は引っ張ってそいつの、彼女の顔を私に向けた。

 

「こっちにこい!勝負しろ!!シマカゼタービン!!!」

 

 

 

 






あとがき
ウマ娘編初回、ディープ君ちゃんです。がっつりというかしっとりというか、なんかあったような感じでうまく書けてるか不安。
ディープインパクトって小さな頃は可愛い顔してて牝馬に見えたらしいエピソードからうちでの見かけは褐色肌系お嬢様。
才能と強さに乾いた彼女が癒してくれる存在に出会っちゃうどたばたがやりたい感じ。
当然のように巻き込まれるのはうちの子『シマカゼタービン』姿にはもちろんあの子が混ざってる。
ちなみに2足走行でドリフトって無理があると考えたそこのあなた、そう見えてるだけってことで一つ。


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