気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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ディープちゃんの背後から蒼い奴が迫る!!ちなみにイカレ馬のほうはバリバリ前世を覚えてます。
多くの誤字報告と感想、ありがとうございます。




第三話

まさか本当にお前が来るとは思わなかったよ。この世界に生まれ変わっちまって十何年、馬がいなくてウマ娘とかいうのが居る世界で俺は生きてきた。

まさかツバキたちと幼馴染だったり爺さんのはずのツインターボが従妹になってたりして、ここは本当に別世界なんだと実感したもんだ。

もしかしたらお前もとは思ったが、まぁさすがにそこまでご都合主義じゃなかった。

前の生まれはこの世界でも作用するらしかったし、結局俺は酒屋の娘になってるからもしやご近所さんかもとか期待してたがそう都合よくはいかねぇな。

この世界はいろいろと可笑しい、けど面白い。親父さんも敏則の兄貴もいつも通りだったし、俺はここでも酒を仕込んで走ってるよ。

車だって買ったんだぞ、酒造りは結構金になった。おかげで毎日楽しいんだ。お前がいないのは寂しかったけど、いないのはしょうがないってあきらめてもいたよ。

不思議だよな、前もこんな出会い方だったよな。お前は俺の事なんて知らないんだろうけど、俺はうれしいよ。

前はあんな事になったけどそれはいいんだ。

なぁディープ、お前はあの時みたいに舐めてかかるのか?それとも最初から本気なのか?見せてくれ、俺は全力でお前にぶつかるからよ。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

シマカゼタービンの足は逃げ、それはギャラリーが叫んでいた言葉から分かった。だから私はスタートと同時に、シマカゼタービンの前を取ることにした。

逃げタイプはまず出だしをつぶすのが一番手っ取り早いし確実、好きに走らせたらどんなふうに走るかなんて予測できないのが嫌なところだからだ。

サイレンススズカ先輩みたいな差す逃げ足だったり、パーマーさんみたいなスタミナ任せだったりしても、先輩たちほどじゃないだろうけどそれでも警戒するに越したことはない。

仮に好きに走らせて巻き返せなくなるくらい滅茶苦茶にされてそのままゴールなんてされたらやばいからね。

逃げタイプはそれだけやばい。だから前には行かせない、私も全力でまずはこのまま潰す。

そう思ってまずは徹底的にブロックし始めた瞬間、怖気が走った。

 

「やるじゃないか」

 

いつの間に!?気が付けばシマカゼタービンが本当に真後ろに張り付くようにして走っていた。そのオッドアイの両目には、赤い何かがたぎっているようで、私を一直線に見据えている。

怒ってる?違う、喜んでる?なんで?意味わかんない。思わず私はペースを速めてしまった、怖い、こいつが何をするのかわからない!離れておかないと後が怖い!!

 

「待てよ、のんびり行こうぜ」

 

なんでいるの!!?足音が聞こえないのに声だけははっきりとわかる。気配が消える、何とか安全圏まで抜けたのかと思ってちらりと後ろを見てしまった。

 

「よっ、さっきは悪い。ビビらせちゃったかな?」

 

「な、なんで!?」

 

そこにはさっきまでの恐ろしい雰囲気が霧散していたずら小僧のようににやりと微笑むシマカゼタービン。

凄い変わりようもさることながら、気配は全くなかった、足音も感じなかった、なのに真後ろにぴったりくっついてきて離れない。

私の戦法は基本的に追い込み型、最初はそれほどスピードを出さないから後ろにつくくらいは普通のウマ娘でもできるかもしれない。

でもこれはあり得ない、相手を乱すために仕掛けを込めて走ってた私のペースにぴったりとくっついて離れないなんてどんな技術だ!!?

 

「離れろ!!」

 

「つれないねぇ」

 

「ディープさん頑張って!煽られてるわよ!!」

 

「やれタービン!煽っちゃえ煽っちゃえ!!」

 

周囲がわめいてるけど気を割く余裕がない、こいつ邪魔すぎる!気にしないでいれば走れるのかもしれないけど、一度こいつが後ろにいるのがわかったらどうしても足並みが乱れる。

しかも気付かれたとわかったら今度は後ろでわちゃわちゃ動き回ってうざい!抜こうとしてフェイントしてきたり変にゆらゆら気配が揺れたり、すごく気になってしょうがない!

苦しい、私の走りができない、無駄に体力を持っていかれていく感じがする。落ち着け、足を整えろ、気持ちを整えて、いつも通りに戻せばいい。

もうコーナーの目の前、気にしすぎるな、気にしすぎるな―――

 

「お先に」

 

「しまった!?」

 

気を落ち着けようと考えこみ過ぎた、その隙にシマカゼタービンが私を躱して前に飛び出していく。でも速い、加速が速すぎる。それじゃ遠心力で外にブレちゃう。

私を追い越してどんどん加速していくシマカゼの体はやっぱりどんどん外にズレていく、彼女のコースがラインとして目に見える。それでもまるで気にしないで彼女は踏み込む。

最短距離を捨ててとにかく早く前に進むことだけを考えてるみたいな走り、速くても体力のロスが大きいし距離も伸びるまったくもって不合理な走りだ。

普通のウマ娘なら、ましてやトレセン学園で走り方を学ぶウマ娘ならやらない失敗。やっぱり所詮は…

 

「え!?」

 

ただの一般人、そう思ってた。シマカゼタービンの体が横向きに見えるまで。一瞬だった、どんな足運びをしたのかわからなかった。

目の前でまるでもっと踏み込む、バカみたいに加速する、そして次の一歩でタービンの体が右回頭して、横向きに。

私の目の前を走っていくシマカゼタービンの体が明らかにおかしい角度で見えている、そう理解するのに時間がかかった。

横向きに走っているように見えた、走る速度をそのままにしてまるで芝の上を滑るみたいに、流れる力に身を任せて流しているみたいに。

でもそうじゃないのはすぐに分かった、彼女の足がそれを変えていく、踏み込む、走ってるようには見えない軽い踏み込みの度のその力がすべて前に行っている。

そのラインは今までのコースも何もかも全く無視で急カーブを描いていて、普通のウマ娘ならあり得ない急角度をもってして作られた最短ラインの内ラチギリギリ復帰コース!

 

「マズッ!!」

 

分かったときには遅かった、私が加速しようとする前に、シマカゼタービンがドリフト走行から一気に立ち上がって加速して前を取る。

その姿はあまりにもきれいすぎた、こんなふざけた走りの後から魅せる加速がきれいに、それも強烈な加速力が付いていて一気に引き離される。

1バ身や2バ身どころじゃない、10メートル近く一気に突き放されるっておかしすぎるし今もどんどん置いてかれてる。

何が起こった、何をした、だれが考えるこんなこと。どう思えば二本足でドリフトするなんて考えになる!?

しかも何その加速力、カーブに入ったときから何をすればそんなふざけた加速になるっていうの!?

 

「うわ、いつ見ても強烈!」

 

「完璧な荷重制御と推力制御、ドリキン特集見てなきゃ見逃しちゃうね」

 

「ゾワッとするくらい綺麗な立ち上がりと加速、これやられると怖いのよね」

 

コーナーでここの生徒がたむろしていたのはそれか!!これいっつもやってんのか!!何だコイツらイカレてるの!?ドリキンって何!?

待って、落ち着け、まずはこいつに追い付かなきゃ話にならない。今のを見て分かった、絶対この人スズカ先輩と同類。

好き勝手に走らせてたらどこまでも前を突っ走るタイプ、しかも好き勝手にペースを荒らしてくる。前を押さえなきゃ話になんない!!

もうこれはいつものやり方とか言ってらんない、とにかくもう一度前を押さえなきゃ絶対に逃げられる。

この直線で何とかしなきゃ、次のコーナーでまたあんな加速されちゃどうしようもない。

コーナーが終わる頃にはだいぶ距離ができてしまってる、でもこの直線で何とかするしかない。

一気に加速してあいつの背中めがけて突っ込む。しめた、さっきの加速であいつまだ体の軸が少しブレてる。

今なら内側から最短距離で抜けられる、よし、このまま一気にもう一度前に!!

 

「くっ!」

 

あいつの体が大きく横にブレる、たぶん軸の調節のためだ。そこが隙、抜けられる確信をもって内側に体を差し込もうとして、私の目の前にはあいつの背中があった。

思わず体がつんのめりそうになるのを何とか堪える、見誤った?いや、まだあいつの体はブレてる、差し込みに気付かれたんだ。

でもしくじったね、無理してでも防ぎに来たのは良いけど足元おぼついてないしさっきよりもブレブレで内側に寄ってる。

これなら、外側から最短距離に一気に抜けられる。体を持ち直して、最小限のコースで一気に外に!!

 

「なんでぇ!?」

 

行ける、そう思ったコースにまた背中、ぶつかりかけて思わず体がつんのめって速度が落ちる。

まさか進路妨害!?いや、でもこいつそんな風に走ってない。まっすぐ走ってる、私が誘導された?うそでしょ?

思わず足がもつれかけて進路が外に…いや、これなら邪魔されない。もつれる足を持ち直して一気に大外ラインに、そして加速してシマカゼタービンから距離を取って併走する。

もしかしたら、そう思ってあいつの顔を見てみる。やっぱり、ニヤニヤしてる!こっち見てるし!

 

「騙したな!!」

 

「ナンノコトヤラ?」

 

しかもわざとらしいカタコト!?くそ、まずい、これはまずい、ハメられた。もう直線を使い切ってる、最後のコーナーが近い。

シマカゼタービンの体がさらに加速するのが見える、ここでもどんどん加速していくっていうの?くそ、このままいかせたらまたドリフトされる。

そうはさせない、私はシマカゼタービンのそこにくっついてあいつが内側から出られないように併走する。

何てこと、今気づいた、こいつどれだけ内ラチに沿って走ってるの?5センチくらいしか離れてないんだけど!?

私の併走に気付いたのかシマカゼタービンが顔を引き締めてまた加速する、私もそれについていく、まずい、足が持っていかれてる。

そもそもそのギリギリの状態でもっと加速ってどんな考えだ、腕が引っかかったら大けがで済めば御の字、最悪ちぎれちゃうって。

また速度が上がる、ついていくしかない。なんだか風景が流れる速度が怖い、いつもの走りができてない証拠だ。

怖い、ナニコレ、私はシマカゼを挟んで走ってるはずなのに、こいつは全く怖がってないのに私が怖い。足がすくみそう。

完全にあいつのペースなんだ、でもここで負けてたら話にならない。もうこれが最後のチャンス。

私だってトレセン学園の生徒なんだ、チーム・リギルのメンバーなんだ、一般校のウマ娘なんかに負けるなんて絶対嫌だ!!

ラストの直線、ここだ、ここで勝つしかない、いつもみたいに抜いてやる!!

 

「やぁぁぁぁぁぁアアアッ!!」

 

この頭のおかしい速度で、最後の末脚を切る。今までやったことのないタイミングで本気で踏み込む、あいつの背中めがけて、あいつの向こう側を目指して突き進む。

もっと速く!もっと速く!!シマカゼタービンの背中が近づいてくる、ゆっくりと近づいてくる、その遅さがもどかしい。

一瞬加速のために踏み込んだだけで差がまた開いた、それも取り戻さなきゃ絶対に抜ききれない。

あと3バ身、それだけあいつは速く走ってる。あと2バ身、あのカルストンライトオ先輩のレコード超えてるって思えるくらい速い。

あと1バ身、追い付ける、もうこれで差し切って前に―――行けなかった。

嫌な音が聞こえた。シマカゼタービンの足がより一層踏み込まれる音、整った深呼吸、そして全身の筋肉がまるですべて切り替わるみたいな小さなカチリと嵌る音。

シマカゼタービンの足が踏み込まれる、瞬間、私の目の前でシマカゼタービンの背中が遠ざかりだす。私はもう限界なのに、もうこれ以上速く走れないのに、あいつはまだ加速する。

あり得ないと思った、あのサイレンススズカ先輩だって、逃げて差すなら足を溜めてる走りをするのにそんな風に走っているようには見えなかった。

逃げ方はスタミナに任せた大逃げ、パーマーさんやヘリオスさんみたいな感じだと思ってたのに、どんなスタミナしてるんだ!?

ここまで来たのに行かせてたまるか。もう一度、使い切った足に力を入れて踏み込む。少し縮んだ、けど、それだけ。

追い付けない、もうゴール板は目の前、時間も距離も足もない、シマカゼタービンの背中が遠のく、巻き返せない。

私の前を進むシマカゼタービンがゴール板の前を駆け抜けていく、そのあとに続いて私はゴール板を駆け抜けて、ヘロヘロになりながら速度を落としてから地面に身を投げ出した。

息が苦しかった、思い返せばこんな風に全力で走り切ったなんてレース以外ではなかった気がする。もう全然動けない、大の字に体を投げ出して空を見上げると、もう憎らしい青空。

 

「あ、あはは…」

 

笑うしかなかった、これはもう完敗だ。どこをどう見ても私の負け、なのに、私は全然落ち込んでない、むしろ清々しい。

これなんだ、私が欲しかったのはこれなんだ。この完璧な負け、ルドルフ先輩たちみたいに強いとわかってる先輩たちに負けるんじゃなくてこれが欲しかった。

胸のつっかえが取れたような気分、こんなすっきりした負けは初めてだ。

 

「負けた、私の負け」

 

「そうだな、ま、でも練習だから黒星にゃならんでしょ」

 

いつの間にかシマカゼタービンが私を覗き込んできた。少し息を切らしているだけでピンピンしてる、私はもうへとへとなのに。

私が上半身を起こすと、計測係をしてくれていたウマ娘の子が水のボトルを差し出してくれた。よく見ると、少し前に負かしたモータースポーツ部とかいうチームのウマ娘だった。

計測係のウマ娘が持ってきてくれた水を一口飲むと、冷たい水がおなかの中に入ってスーッと疲れが癒えるような感じがする。

シマカゼタービンも同じように水を一口飲むと。ポケットから藍色の紙箱を取り出して煙草を出すみたいに手首をポンポンたたいて中身の細い棒菓子を出すと口に咥えた。なんか親父臭い。

 

「うん、そうだね」

 

「…なんだよ、随分素直じゃねぇか」

 

なによ、その気持ち悪いもの見たような眼は。事実なんだからしっかり受け止めて次に活かす、それだけでしょ。

 

「負けは負け、本気で勝ちに行ったのにこれだもん。シマカゼタービン、あなたは強いね」

 

「…そうかい、俺のことはタービンでいいさ。お前だって強すぎらぁ、これでも走りじゃ強いほうだと思ってたんだぜ?初っ端は負けてたし、自信無くすわ」

 

「なにそれ、私は一応トレセン学園のチーム・リギル所属よ。弥生でも勝ってきた、GⅡよGⅡ。それぶち抜いておいてそんなこと言う?」

 

「知るか」

 

「うわひど。ねね、もう一回勝負できる?負けっぱなしは趣味じゃないし、一回は勝たなきゃ胸張って帰れないよ」

 

「休み入れたらな、一服入れさせてくれ。そういやタイムは?」

 

タービンが思い出したように計測係のほうに問い返す。私も聞きたい、負けたけど結局どれだけ差がついてたんだろ?

 

「0.8秒です、0.8秒差!!」

 

「0.8秒!?うわ…」

 

おいタービン、なんでそんな頭のオカシイ奴を見るような眼で私を見る。

 

 

 

 




あとがき
次回『シャドーロール、怪鳥、怪物2世』

馬編のディープ側っぽくに仕上げてみた、ウマ娘ワールドではガチで潰しに行ったけど軽く回避されてしまい逃げ切られてます。
なおそれでもここまで食いつくあたり天才、経験値でちょっとズルしてるイカレ馬には十分化け物に見えちゃうの。
ちなみにここには馬時代にはいなかった連中が帯同してるのでまだまだ続くぞ、タービンの受難。中央は魔境やで…

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