気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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前世の影響でシマちゃんはスぺちゃんと似たような境遇。ただし瀬名家とツインターボとはちゃんと血縁である。

多くのご感想と誤字報告、ありがとうございます。





第五話

 

俺は誰かに抱かれている、古い記憶だ、よく覚えていない、誰かが俺を憎々しげに見つめている、見慣れない男だ、なんか懐かしい。

空は晴天、無駄に青い、誰かが俺をどこかに置く、よく聞こえない捨て台詞を置いて去っていく。懐かしい匂いがする場所だ。

お酒の匂いだ、さっきの誰かから匂っていた不快なのじゃない、嗅ぎなれた懐かしいあの香。

誰かの足音がする、足音はすぐそばまで来て、抱き上げられ…鯉のぼりをバックに目覚まし時計になった誰かさんの顔が眼前に飛び込んできた。

 

「…かんどーのシーンがだいなしだぜ」

 

おのれ目覚まし、うつ伏せで寝たままの体勢で電子アラーム音のするほうに腕を伸ばしてアラームを停める。時計を持ち上げてみれば午前4時、仕事の時間だ。

眠い、夜更かししたわけじゃねぇけど朝は昔からそこまで強いわけじゃねぇんだよ。

ん、背中が重い。この感じはコマツだな、いつの間に上りやがった。

 

「んんッ…ふひ~ん…おっといかん」

 

ベッドの上でついつい猫みたいな四足の背伸びをしてしまった、つい四足歩行だった頃の癖が。コマツをとりあえず下ろす。

 

「ぷぎゅ…」

 

「悪い、降りてくれ」

 

背中に手を回して首筋を掴んで下ろすとコマツが眠そうに俺を見上げてくるが、謝るとすぐそっぽ向いて俺のベッドにまた潜り込む。

前と違ってちょっと淡白な感じするなコイツ、今の俺にはちょうどいいんだろうけど。

ベッドから降りて背伸びをしながら何となく見回す。どこにでもある男子高校生の一人部屋って感じ、整理整頓はしてるけどな。

車の雑誌に漫画にエロ本…こいつは隠す。本棚にはお酒の書籍に教科書、机の上には作りかけのカスタムエアガンとミリタリー雑誌、まるきり人間時代が再現されてる。

ちょいと違うのは部屋の隅、化粧台と姿見があって女性ものの雑誌やらコスメやらが唯一存在を許される空間だ。

お袋が気にするから一応あるけどここだけ異空間。なんとなく姿見の前に立って、今の俺の姿を再確認してみた。

普通じゃありえない青い髪、右青左赤のオッドアイ、きりっとした目つきの美少女な顔立ち、そして頭にくっついた馬耳と尻の部分にふさふさ尻尾。

緑チェック模様のパジャマ姿のケモミミ美少女がそこにいる、俺である。馬の次はケモミミ美少女、ウマ娘ときたか、狂ってやがる。

しかも性別まで女でボンキュッボンのいい体、馬の時だってオスだったのに女だぞ、どーしろってんだ。

 

「うむむ…やっぱりでかいほうなのか」

 

ウマ娘ってのは顔も体も美人で美形なことがほとんどだから極力意識しないでおきたかったが、ディープに言われて再認識しちまった。

確か90くらいだったはず、服着てると目立たないけどやっぱでかいほうなのか…ウマ娘だと俺よりでかいやつ見るんだけど。

でも確かに馴染みの中じゃデカいほうだし…ぐぬぬ、昔は憧れたものだが我がモノとなるとやっぱり何も感慨が浮かばん。

デカくていいことはあんまないしな、服は選ばにゃならんし下見えんし男どもの視線も…俺ホモじゃないから尻が寒くなるねん。

 

「う~む、改めてみるとやはり不思議…」

 

パジャマを脱いで薄緑の下着だけになる、うん、ブラもショーツもさすがに慣れたわ…着実に男が死んでるのは考えんでおこう。

鍛えているのにすらっとしたスポーティーモデルボディ、腹筋少し割れてるかなくらいで女性的なまんま、がっつりした感じじゃない。

軍人みたいなマッスルボディには到底思えんのに、これでも体の出力はやばいんだよな。足なんか簡単に人殺せるし。

力加減を覚えるのが苦手なウマ娘もいるらしい、俺はそういうとこ完璧だけど。俺自身は特別なことしてる感じしないけどなんか褒められる。

っと、考え込んでちゃだめだな。朝の仕事があるんだ、早く着替えないと。パジャマは洗濯籠に押し込んで、学校の制服に着替える。

縁に白いラインの入った藍色の襟の白地の上着、赤スカーフ、藍色の膝丈スカート、形式はスタンダードなセーラー服だ。

一通り着たら、スカートの下にはスパッツを履く。スカートダメなんだよ俺、制服だから仕方ないけど。

 

「あ、カギカギ」

 

勉強机の横に掛けてあるキーケースから真っ二つの『emperor』のステッカーを封入した透明なプラ板アクセサリーを付けた車のカギを手に取ってポケットに突っ込む。

その時、勉強机においてある写真立ての写真が目に入った。中学時代の写真だ、ツインターボは入学したてだったが。昨日置きっぱなしにしてたか。

見慣れた無人パーキングエリアをバックに『emperor』のステッカーが貼られたボロボロのリアウィングをトロフィーのように掲げるツインターボ、その右に俺とホクリクダイオー、左にツバキプリンセスとノルンファング。

全員手足に包帯を巻いて体中に湿布張りまくりと痛々しいが、その顔はとても自信満面の笑み。

この時はみんな筋肉痛で死にかけてたんだよなこれ、でもこれだけは撮りたくてみんなで死にそうになりながら集まった。

子供のころから暇を見つけては芦名山を駆け巡った5人の最高の思い出、今までの下りで一番の戦果だな。

 

「確かこれもってくとか向こうでごねてたんだっけか?府中の部屋に飾ってたりしねぇだろーな?」

 

まさかな、いくらツインターボでもランエボのリアウィングを持ち込んだりはしないだろ。あっちのミスでもげたとか見た目じゃわかんないし。

とりあえず写真は定位置に戻して、これで良し。部屋を出ると静かに家の中を抜けて玄関を出る。さすがに兄貴と姉貴、お袋はまだ寝てるからな。

外を出れば昔懐かしの瀬名家の庭。さすがにまだ3月だから少し寒い、足早にそのすぐ横に見える車庫に足を運ぶ。

暗証番号式の車庫の勝手口を開けて中に入って電気を入れると、いつもながら壮観な光景が明かりの下に照らし出された。

手前から親父のスプリンタートレノAE86GT-APEX、兄貴のスプリンタートレノAE101GT-Z、姉貴のアルテッツァRS200、お袋のパッソTRDスポーツM、俺のリアウィング無しWRX-STIがずらりだ。

ダークブルーのWRX-STIは何というか場違い感があるよな、俺もトレノかレビンにすりゃよかったってたまに思う。

状態の良い中古のインプレッサが見つかんなくて、常用することも考えたら実用的で維持が楽なヤツって考えになったから奮発して新品のWRX-STIにしたのは後悔してないけど俺だけゴツイ。

ま、今更考えても仕方ないけどね。俺もこいつは気に入ってるしな、しばらく四足歩行してたせいか4WDが馴染むこと馴染むこと。

ガレージのシャッターを開けてから運転席に乗り込んで、クラッチを踏み込んでキーを回しエンジンをかける。

EJ20は今日も良い音だ、力強くエンジンの回る振動が前から尻からびりびり来る。

バケットシートの座り心地もいい、最近新しいのに変えたから硬かったがやっと馴染んできたみたいだ。

WRXを外に出して、シャッターを閉め直してから車を会社の倉庫のほうに回す。家と会社は繋がってるから楽なんだよな。

途中、前の世界で俺の馬房があった場所の前を通る。今は何もない空き地だ、なんか寂しいな。ここも思い出がたくさんあるから。

そんなことを考えてるともう倉庫の前だ。もう親父が、瀬名茂三がうちの主力製品『ウマ練り』の入ったケースを準備してる。

この世界でもウマ練りは健在、いや俺の馬生で培った技術でより改良されたこいつは進化してるぜ。つまりもっとうまいのだ。

 

「おはよう親父、今日の配達は?」

 

「おはよう、いつも通り芦名プリンセスホテルな。ほら」

 

「さんきゅー」

 

運転席のスイッチを押してトランクを開けると同時に親父がプラスチックコップを差し出してくる、中は水だ。それを受け取って少し待つ。

後ろのトランクにウマ練りの入ったケースが入る振動がして、トランクが閉じられるのを見てからドリンクホルダーに置いた。

シートベルトを締め直して胸の位置を調整してると、後ろから戻ってきた親父がまた運転席を覗き込んできた。

 

「しかしお前も一端の走り屋になってきたじゃねぇか。免許取り立ての頃とは大違いだ、芦名じゃもう敵なしだろ?」

 

「親父や兄貴にはまだかなわねぇよ、ダイオー達が居たら解らねぇしな。俺は隙間にうまく嵌っただけだ」

 

芦名の山を5人で駆け回ってた時はもっと騒がしくて面白かったもんだ、昔は無邪気だったこともあるがな。

それに外を見りゃ有力者はごろごろいる、妙義山ナイトキッズとか赤城レッドサンズの連中とか強いし。

親父の友達だってヤバイじゃんよ、あのハチロクに勝てる気しねーわ。

 

「何言ってやがる、伊達にその足で暴れてたわけじゃねぇだろ。どうしたんだ?今日はテンション低いな」

 

「そうか?この前トレセンで暴れすぎちゃってさ。知ってるだろ?やりすぎたと思ってさ」

 

思い返せば少し熱が入りすぎたかもしれん、こっちのディープと会って少しテンション上がってたな。

あのくそランエボ2軍どもをみんなでボコボコにした時はこうはなんなかったんだけどな。ま、キレてたし。

 

「中央の連中を撫で斬りにしたんだろ?いいじゃねぇか。どうだ、面白い奴はいたか?」

 

「撫で斬りって…そりゃ勝ったけど言い方悪くないか?」

 

「いいんだよ、で?」

 

「ディープインパクトってやつ。アレは天才だよ、間違いなくな」

 

あっちのあいつとは違うがやっぱり普通に強い、ほかの連中も強かったがあいつは初見で俺を自分の土俵に上げてきやがった。

あとが少しお粗末だったが、やっぱどんな姿だろうがあいつはあいつだわ。怖いぜ、ゾクゾクしてくる。

 

「そうか。じゃ、行ってこい」

 

「いってきます」

 

親父が窓から離れるのを待って、アクセルを踏んで発進させる。家から配達先の芦名プリンセスホテルまではそう遠くない。

通い慣れた芦名の峠道をあがっていけばすぐ、普通に行けば市街地10分で峠が20分の片道30分程度だ。俺は20分で行くけど。

やっぱりこいつに乗ると気分がいい、アクセルを踏み込むたびに感じるエンジンの振動が『走らせてる』って感じがする。

自分の足で走るのも気持ちいいが車を走らせるのはまた別の意味で気持ちがいい。

 

「さて…」

 

朝の市街地を抜ければ見慣れた芦名峠の入り口だ。朝っぱらのこの時間に走ってるのは俺くらいなもんで一般車はめったにいない、走り屋も帰る時間だから大体9キロから10キロのコースを独り占めだ。その先の道は車増えるからダメだけどな。

気合入れていこう、シートベルトを確認してもう一度周りを確認しながら登りに入ってすぐに、アクセルを踏み込んだ。

体を押し付ける軽いG、生身の時は到底できない速度で上がる上り坂だ。

最初のコーナーがすぐに見える、シフトレバーを操作しながらアクセル踏みっぱなしでハンドルを切る。

頑丈なだけで質は普通のタイヤを気遣いながら、インベタに限りなく寄りつつグリップ走行でコーナーを曲がり切る。

コップにも目をやるが水はこぼれてない、うまく車を制御できてる証拠だ。良い感じだ、荷重移動もスムーズだしちゃんとタイヤが地面を掴んでる。

次のコーナーも、その次も難なく抜ける。ここまではまだいける、だが上に行けば行くほど難しくなる。

ついにL字カーブ、この芦名の特徴的な道だ。行きも帰りも下りと登りが一度に来るから感覚がブレやすい。

長さも非対称で上は短くゆるい、下は急勾配で長いから実は上より高く上る。エンジンからコーナリングまで塩梅がめちゃくちゃむずい場所だ。今日はいけるかな?

アクセルを緩めて減速、坂道を下りながら速度を調節、不用意に体を振らないように、丁寧に曲がって登りでアクセルを開けて急な減速を打ち消して上りに入る。

 

「ぁー…また失敗だ、うまくいかねぇなぁ」

 

コーナーを抜けて上り坂に入る瞬間車体がブレたような感じがした。コップを見れば縁に水が一筋、わずかに垂れてる。派手に零してるわけじゃないけどだから悔しい。

下りから登りに入る直前、どうしてもアクセルを踏み込んで運転が荒くなっちまうんだよな。

足でならもっと細かい調整できるんだが、まだまだ先は長いぜ。親父や兄貴ならここじゃ零さねぇ、まったく俺はまだまだ下手だ。

結局、目的地の芦名プリンセスホテルの周辺まで付くのに3滴も水が溢れちまった。昔みたいにびしょびしょにならない分考えさせられて悔しすぎる…

ままならんもんだ、芦名山の頂上にある芦名城周辺の観光街の静かな街並みをコップの水を飲み干しながら流し、気を取り直しつつ目的地の芦名プリンセスホテルの裏門まで車を転がす。

 

「瀬名酒造です、お酒の搬入に上がりました」

 

裏門の守衛所の前で顔を出して、発行されている搬入許可証のカードを見せる。ホテルの人たちとは顔見知りだけど仕事だからね。

守衛の警備員さんも見知った人だけど搬入許可証をカードリーダーにしっかり当てて確認してから中に入れてくれる。

そのまま搬入口まで直行し、そこで車を停めてトランクからウマ練りが入った金属ケースを2往復に分けて運んで搬入。

ウマ娘パワーはすげえよな、一気に運べてすぐ終わるもの。

 

「あ、いたいた。今日はあなただったのね」

 

搬入が終わって一息ついていると、聞き慣れた声がして搬入口のほうを振り返る。そこには群馬トレセン学園の制服姿で少し大荷物のツバキプリンセスが。あれ?なんでここにいるんだよ。

 

「ツバキ、なんでこんなところに」

 

「なんでこんなところにって、実家にいるのが変なこと?」

 

そりゃここはお前の実家だろうがね、こんな朝っぱらにいるのはおかしいしそもそも自宅は近くに別にあってホテルじゃないでしょうが。

そもそも今日は週末じゃない、平日である。お前は群馬トレセン学園の学生寮にいるはずだろうに。

 

「お前は寮に入ってただろ、今日いるのはおかしい」

 

「今日は府中に行く用があってね、お土産とアドバイス貰いに来たのよ。芦名駅まで送ってくれない?」

 

「構わんよ、乗りな」

 

ちょっと駅まで足を延ばすくらいなら問題ない。ツバキを助手席に乗せて、WRXのエンジンを再び始動する。

助手席もバケットシートだけどツバキも慣れてるから全く戸惑わない。来た道を引き返して観光街を抜けて山を下りながら何となく気になって問いかけた。

 

「で、なんで府中に?」

 

「中央からのスカウトよ、うちに来ないかって」

 

「ほー、この前ので目を付けられたか。演技がバレたな」

 

今のこいつが楽にディープに千切られたなんて、目を付けられないように演技してた以外考えられんもんな。

伊達に一緒に走ってない、初戦じゃ負けでも次とかなら互角には渡り合えたはずだぞ。

 

「行くのか?」

 

「断るからお土産とアドバイスを貰いに来たのよ、じゃなきゃこんな朝早く行くもんですか」

 

あ、こいつ始業と同時に突撃してさっさとお断りしたら東京見物するつもりだな。長々と施設見学とかできない時間を狙ってるんだろ。

ま、普通に行くなら自分の車で行くだろうしな。となるとツインターボにも会えねぇな。下手に知らせたらあいつは絶対隠せない。

 

「さすがプリンセスクラウン。連中、面食らうだろうな」

 

「あなたにも手を伸ばしてくると思うけど?」

 

「行かねぇよ、俺はそういうのに興味はない」

 

レースはともかくあのウイニングライブとかいうの、あれ絶対やりたくないし。滅茶苦茶走った後に踊らされるってなんの拷問?

普通に表彰式して終わりでいいんじゃねぇの?そもそもなんで踊るの?これがわからない。

レースも勝負服とかなんか妙な服あったりするし結構意味わかんないけど、ライブが一番意味不明だわ。

 

「そうよね…ねぇ、どうしてトレセンに来なかったの?」

 

「そんなの進路が違っただけの話だろ」

 

中学進学の時から俺たちは別々だ、ツバキたち3人は群馬トレセン学園に、ツインターボも少し後に府中のトレセン学園に、俺は地元の中学から高校へ。

仲のいい友達や従妹が別々の進路に行くなんてよくあることだ、それで疎遠になるならまだしも俺たち結構遊んでるだろうになんでそんな寂しそうな眼をする。

 

「私はあなたもトレセン学園に入ってレースを目指すものだと思ってた。あなたは私たちの中じゃ一番速くて強かった、何より走るのが大好きだった、当然トレセン学園を目指すと思ってたのよ?」

 

「走るのは大好きだよ、足でも車でもな。お前らとだってよく勝負してるじゃないか」

 

「私はレースで走りたかった、競い合いたかったわ。みんなそう、今だってあなたがこっちに入ってくるのを待ってる。

ローカルでもトゥインクルでもどこでもいい、どこかであなたと戦える日が来るって、あなたとライブを踊れる日を待ってるの」

 

踊りたくねぇ、歌が音痴とかそういうんじゃねぇけどああいうのはやりたくねぇ。知ってるはずなのにこの無茶ぶりですよ、あははは。

 

「走るのは趣味だ、俺の生きがいだ。だから仕事にはしたくない、知ってるだろ?」

 

俺は酒造の道に入るつもりで勉強してる、その進路にトレセン学園は入らない。ローカルシリーズもトゥインクルシリーズも意味がない。

俺は走るのが大好きだ、車で走るのも、足で走るのも、どっちも捨てられない。けどそいつは趣味なんだ、仕事じゃない。

酒を仕事にしたいのは本心だ。親戚に子供を押し付けて蒸発しやがった実の両親の代わりに俺を育ててくれた親父たちへの恩返しもあるが、前世の知識をもっと生かしたいしな。

 

「そうよね、あなたは昔から変わらない。町内大会でもライブは絶対拒否だったものね」

 

ウマ娘のレースと名の付くものには公式は大体ライブが付きものっていうのがそもそもおかしいだろうよ。

まぁ町内大会とか小さなやつはやりたくないなら拒否れるからいいけども、デカいのだとそうはいかねぇ。

 

「そういうことだ、心配しなくても俺はここにいるさ。ところでツバキ?お前、この前に言ったこと覚えてる?」

 

「え?」

 

「前に言ったろ、足回り変えたから付き合えってよ」

 

この前は結局、夜まで走りまくらされたからな。全員千切ってダウンさせたけど俺もダウンで車中泊、おかげで夜の予定は台無し。

そして次の日は筋肉痛で運転して帰るのもやっと、前よりひどい。当然お前を連れていけなかったからね…だから付き合えよ、試運転。

 

「そろそろコースに入るから、そこから攻めてくぞ」

 

「ちょ!?こんな朝っぱらから!?待て待て待て!」

 

ツバキのヤツ、相変わらず助手席だとこのザマ…いや、それ言ったら大体そんな反応なんだよな、なんで?

自分で運転するときはキリッとしてんのにな。シートベルトがっつり締め直して、バケットシートに引っ付いて固定してるし。

 

「お土産なら心配すんなって、潰したりしねぇから。さ、行くぞ」

 

「解ってるけど!うげぇ!!?」

 

パーキングエリアの横を抜けてコースに入ると同時にアクセルを一気に踏み込んで加速、一気に速度を上げると速度超過チャイムが2回だけ鳴る。

ポン付けした中古のキンコンチャイムだけど、やっぱり音ですぐにどれだけ出したかわかるってのはなかなかいい。

 

「ひぃ…」

 

さてまず右コーナー、ここはフットブレーキを一瞬軽く入れてタイヤを滑らせてから流してからアクセル全開でドリフトに入る。

うん、良い感じで滑ってる。タイヤが食いつきすぎてない、音もいい感じで不用意に削れてない感じだ。

次は左、うん、ブレがない。ハンドルも前よりいい感じ、ちゃんと思った通りのステアリングが切れるしラインを作ってくれてるな。

さて次の右コーナーも同じように…ってなんだよ、ツバキの奴なんでこんなところで目をひん剥いてやがる。悪戯してやろか?

 

「Gが…またななめからきょーれつにぃ…ヴェ!?」

 

次の右コーナー、勢いよく入りながらハンドルを切ってドリフトに入りつつ、安定させてからハンドルから両手放してスカートのポケットに入れてるココアシガレットの箱を探る。

大丈夫、このコースならステアリングはブレないからコーナー終わりで自然と立ち上がれる。そういう簡単なライン取ったから。

4WDのドリフトは難しいっていうけどやっぱ俺には合うわ、なんか楽、FRとかFFだとこうはいかねぇし。

ほら外の景色が絶景だぜ、目の前を流れる雑木林に助手席側は迫るガードレール、その向こうは空中で街が見える、いい景色だ。

 

「ちょ、バカ!何やってんのぉ!?」

 

「チョットクチガサミシクテ」

 

「ワザとすんなぁ!!」

 

情けない悲鳴を上げるツバキ。やれやれ、これが芦名の走り屋で上位ランクに入るプリンセスクラウンだといっても誰も信じねぇだろうなぁ。

ココアシガレットの箱から棒菓子を一本口に咥えると同時にコーナーが終わって車が自然と立ち上がる、それと同時にハンドルを握るとツバキがまた情けない声を出す。

自分で運転するとキレのいいハンドルさばきでえぐい攻めをバカスカする癖になんだその声、鈍ってんのか?

 

「うん、完璧。さて、もうちょっと本気で行くか」

 

「も、もぅやめぇ…」

 

「だーめ♪」

 

なんか面白くなってきた。次はインベタグリップ、アクセル踏んでぐいぐい行こうか…やっぱやめた、今日はドリフトやっていこう。さーて、ふりまわすぞー。

 

 

 

 




あとがき
この後、ツバキプリンセスの絶叫が峠に木霊したという…一話じゃ終わらなかったぜ。
謎の被害者その一は某ランエボ軍団の2軍、向こうの原作でのある出来事に付随したイベントで遭遇し追い返されました。
何が起きたかはまた今度、とりあえず全員キレて勝負を挑んだ結果がこれです。
ちなみに現在のツバキプリンセスはカワカミプリンセスの葦毛2Pカラーが作者の頭の中ではなってる。
似てるけど全然違うってよくね?

次回『シマカゼタービンの一日・2』




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