気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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少し時間が戻ってトレセン学園、ツバキ強襲当日。
ナリタブライアンがインベタの練習をしてる+運の悪いツインターボ+ツインターボは峠仕様=こうなる





第八話

 

 

 

 

故郷の群馬は不思議な所だった、なんとなくだがツインターボは東京に来てからそう思っていた。

昔からウマ娘がたくさんいた土地だから『群れ』という文字と、ウマ娘がたくさんいた事を造語にした4本足の『馬』で群馬。

東京と比べたらやっぱり群馬はすこし変わっていたが、一緒に遊ぶ従妹や仲間たちもかなり変わっていた。

レース場にいつでもいけるわけじゃないからと、人気の少ない峠道で彼女たちは遊んでいた。

一緒に山で遊んで、峠道を駆けずり回って、時には走り屋の車も追っかけて、それに自分も混ざって自分も一番後ろにいた。

いつもずっと後ろにいて、いつも一番槍で、いつも最初にバテて大笑い、そしていつも楽しかった。

 

〈いいか、お前は向こうでレースを走るんだ。だからまずレースの走り方を学べ、ここでのやり方は少しの間封印な。

まずは平地のレースに慣れて、体の動かし方を学んでからバトルの知識を応用すること。じゃないと、体がもたねぇからな〉

 

それに自信が付いたらやってみろ、トレセン学園に入学する時、最後にシマカゼタービンがしてくれたアドバイスはずっとやってきた。

芦名の峠でやってきた走りはそのままでは平地の競技には通用しない、専門家の視点から考えられた無駄のない走りは自分たちにはないものだ。

最初は気に食わないところもあった、好きに走らせてくれれば自分は速い、シマカゼタービンたちと培ってきた強さで一気にのし上がってみせると。

でもトレセン学園に来て平地の競技と峠の走りの違いで洗礼を受けた。

得意のスタートダッシュがうまくいかなかった、芝もダートもうまく走れない、ラストスパートでは足が痛む、何より息が続かない、ほかの新入生もどっこいどっこいとはいえショックだった。

彼女の言ったことは事実だった、峠の走りはそのままでは通用しない、だから最初からすべて覚え直してきた。

フォームの角度や足の差し方まで全部理論で証明された最新技術の走り方と最新のトレーニングは圧巻だった。

どれだけ最初は合わなくて成績が振るわなくても、南坂トレーナーや仲間たちの走りを知っていくにつれてどんどんと強くなっていくのが分かった。

平地では大好きな大逃げがうまい具合に嵌らないで何度逆噴射と言われようが、そのたびに手ごたえがあった。

ライバルもできた、憧れもできた、いろいろなことがあった。

 

午前5時、ツインターボは一人、ジャージ姿で練習場に忍び込んでいた。

 

いつもならまだ寝ている時間だが、ツインターボはどうしても走りたかった。なぜなら、このトレセンでも懐かしいあの名前が聞こえてきたから。

群馬トレセン学園に遠征に行ったチームリギルが全敗、たった一人で全員を千切って捨てた一般校のウマ娘。

群馬トレセンで暴れているウマ娘なら知り合いに3人いるが、そこに出入りしている一般校のウマ娘の話となれば彼女しかいないから。

自分の従姉、走りを教えてくれた先生、どこまでも我が道を行く自分の走りを持つウマ娘、シマカゼタービン。

シマカゼが本当に勝ったことを聞いたら、自分の中で我慢していたものがもうこらえきれないところまで来てしまった。

 

(できるかな、今のターボに)

 

誰もいないのを確認してからダートの練習コースに立つ。脳裏には新入生当時の無様な自分が過る。

誰も笑わなかった、むしろ応援してくれたし筋がいいとさえ言われた、でもやっぱり心にあったちっぽけなプライドはズタズタだった。

芦名山で知られた5人のウマ娘の中でも、一番末席とはいえ名が通った自分がこんな様で情けなくて、仲間たちに申し訳なかったから。

だから基本は全て押さえた、身にしみ込ませてきた、隠れてすり合わせもした、どれだけ苦しくても諦めないでずっとやってきた。

結果は出した、七夕賞を取ったし、オールカマーでも一位だった。今度はそこから応用に入る番、今ならそれでいいはずだ。

シマカゼタービンから教え込まれたテクニックを試してみたい、故郷で培ってきた自分の実力をここでも発揮したいのだ。

前よりもっと強くなっている従妹に負けてなんていられないから、自分も強くなったと胸を張りたいから。

 

(何事も基本から、それができて初めて応用。今日から応用、いいよね?タービン)

 

やれるはずだ、だからこうして抜け出してきた。本当ならカノープスのみんながいる前でやってみるのがいいんだろうが、失敗するかもと思うと恥ずかしくてやっぱり一人でまずは試したかった。

 

(距離2000、ダート、左回りで…よし!)

 

ゴール板の前で大きく息を吸ってから、体の重心を落とす。左足に思い切り力を籠める、息を整えて、体の力を左足に集中させる。

 

(GO!)

 

出だしは思い切り前傾姿勢で、エンジンについたターボが一気にドカンと来るイメージでダートの砂を思い切り蹴り飛ばした。その手ごたえは十分すぎるほどあった。

 

(できてる!ドッカンができた!!)

 

チームカノープスで教えられてきた基本、それと芦名山の峠で鍛えられたテクニックの応用の複合。

その二つが今、完璧に合致した。峠のテクニックは身に沁みついていた、レースの走りは前のオールカマーですべて嵌った。

初めのスタートダッシュ、体力のない自分にある長所の一つであるスタートのキレ。ランエボの立ち上がりを上回って頭を抑えるために究めた超加速。

唐突に加速を始める姿にドッカンスタートと言われた自分の切り札の一つ、スポーツカーにも張り合える自分の技。

急激すぎる加速でブレるラインを調節しつつ、一気に稼いだ推力を体に乗せて一気に大逃げ体勢にもっていく。

ここでは今までついぞうまくいかなかった、芝ではスリップしダートでは不発、だが今日は成功した。

 

(足、軽い!走りやすくなってる!!)

 

加速で推力を手に入れたことで得た背筋がゾクゾクするような走りやすさ、トレーナーの指導の下で繰り返してきた走法が体を効率よく走らせてくれる。

そこに峠を走ってきた経験がアドバイスして補助をする、体が軽い、まるで坂道を駆け下っている時のように足が軽く回る。

コースを走るのが面白い、入学した時よりももっと早く、もっと深く攻められる。

もうすぐ左コーナー、ツインターボは臆することなく内側に体を寄せて思いっきり飛ばしながらコーナーに入る。

コーナー際まで10センチ、少し様子見の攻め込みでコーナーを一気に駆け抜ける。

 

(ここ!)

 

コーナーを抜ける直前、直線に入る寸前で踏み込んだ右足を力強く踏み込んで、車のように加速を立ち上げる。

峠では幾度となく行ったコーナーからの立ち上がり、ウマ娘のレースではやらない踏み込みだがそれもうまくいった。

芝ではいつも滑りまくっていた、ダートでは力が砂に取られて不発ばかりだったのが、ここにきてカチリと嵌る。

それに何より、二本目の直線に入ったのに少しも息がつらくなっていない。まだまだ走れる、昔みたいに走れるようになっている。

二本目のコーナー、5センチまで攻める本気の攻め、全速力でそのまま一気に内ラチ沿いを突き抜ける。

 

(行ける!)

 

コーナーが終わる、その直前に大きく踏み込んでラストスパート。鼓動と息を合わせ、意識を前に、体の全てをこの一歩に。

今出せる最大出力で、右足を思いっきり踏み込んでさらにドッカンと加速し体力を使い切るまで走る、一気にゴール板の前を駆け抜けた。

 

「やった…やった。できる、これなら走れる!待ってろテイオー、ニューツインターボ誕生だー!」

 

「あぁ、完璧なインベタグリップだったな」

 

「そうでしょ!インベタはターボ得意なんだから!!」

 

「うん、それにすごい加速だったね、タービンみたいだった」

 

「ふふん、タービンはターボの従姉だからな!ドッカンターボを混ぜて応用してみたぞ!!」

 

「「ほほぅ?」」

 

ドスの利いたうれしそうな声にやっと気づいた。ここにいるはずがない、ましてや声をかけてくるはずがない有名人たちの声にツインターボは疑問に思って声のするほうを見た。

そこには随分と腕の部分がほつれたジャージを着たナリタブライアンとディープインパクトが、コースの外で見物していた。

なぜこの二人がここにいる、なぜリギルの二人がここにいる?オカシイ、さっきまで誰もいなかったのに。

だが一つ分かったことがある、早く逃げないとまずいということだ。

 

「あ、練習?ターボもう終わったから、じゃね!」

 

「まぁ待て、少し話をしないか」

 

「うんうん、ちょっとお話しよ?ね?」

 

ツインターボは逃げ出した、だがナリタブライアンに回り込まれてしまった、ディープインパクトが後ろから羽交い絞めにしてきた。

ツインターボは逃げられない!!

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

シマカゼタービンに対するスカウトは行われる方針で決まった、シンボリルドルフからその言葉を聞いたときナリタブライアンの心には熱いものがたぎった。

もし彼女がそれを受けたなら、彼女がここへ来てまた私たちの前であの走りを見せるのだ。

ここで優秀なトレーナーの下で技を磨いて同じレースに出てくるのだ、そう考えるとウマ娘としての本能が刺激されてたまらない。

だが逆に、それに応えなければ夢物語だ。だからできる限りの手を打って、彼女をこちらに呼び込みたいところであった。

その一手を考えるナリタブライアン達の前に、シマカゼタービンの従妹であるツインターボという決め手が現れたのだから逃さない手はなかった。

登校するウマ娘が増えてきた時間帯の練習場横にある小さな休憩場で、すっかり観念したツインターボから聞けた話にナリタブライアンは確かな手ごたえを感じていた。

彼女が本物の従妹であることに疑いはもうなかった、所持品であるスマホには彼女の連絡先や一緒に撮った写真。送られてきた芦名高校の学園祭の写真などといった証拠が山ほど残っていたのだ。

 

「シマカゼは走るのには人一倍努力をするタイプなんだな、でなければそんなトレーニングはしないだろう」

 

ツインターボから聞いた片道約9キロの峠道を往復でするランニング、口で言うのは簡単だがトレセン学園でもそこまでする生徒はなかなかいない。

坂路の申し子と言われたミホノブルボンがそれに似たことをやっていたが、それでも異常の一言に尽きた。

だからこそだ、それ程の執念を燃やす彼女がこの話を無視するとは思えない。

走ることに、競うことにここまで執念を燃やしているのだからレースに対する執念も人一倍のはずだ。

 

「ツインターボ、相談なんだがシマカゼをスカウトするのを手伝ってくれないか?」

 

「え、スカウト?」

 

「あぁ、会長はすでに乗り気だし理事長も動いている。今日にでもうちの学校から話が行くはずだ」

 

だが、とナリタブライアンは言葉を区切る。群馬トレセンでは全員がそれとなく連絡先の交換は断られていて誰も知らない。

幸い、公的な連絡手段は簡単に手に入った。瀬名酒造のホームページで得た会社への電話番号から学園がアプローチをかけていて、直に返事があるはずだ。

あれほどの実力者が一般の高校で燻っているのはもったいない。事情があって中央にも地方にも入れなかったのであれば、これがチャンスだ。

しかし突然そんなことを言われても不信感を持たれて話は進まない、何か一つ手を打って話をスムーズに進められるようにしたかった。

 

「会長も興味を示しててね、ぜひ話したいって」

 

ディープインパクトがナリタブライアンの言葉をつなげる。ツインターボを通じてのシンボリルドルフからの直接勧誘、かの7冠ウマ娘からの誘いならば心が揺れないウマ娘はいないはずだ。

シンボリルドルフを知らないウマ娘はまずいないと言っていいだろう、それ程の有名人からの直接オファー、少々ずるいが無下にするのは憚られるはずだ。

もし彼女がトレセン学園に入学し、トゥインクルシリーズに乗り込めばレースはより刺激に満ちたものとなる。

もしかしたら今年のクラシックは、この前の物よりも白熱したものになるかもしれない。

何より彼女の走りが、実戦の場で現れる。限度を知らない加速と破滅逃げ、それを最後まで持たせる規格外のスタミナと頑丈な足、そしてインベタグリップ走法などのテクニック。

それが次のクラシックを沸かせるだろう、そしてシニアクラスも出場できる有マ記念や宝塚記念などでは自分と当たるかもしれない。

実戦であの狂ったように加速しコースを攻め抜く彼女と競い合えるとなれば、今から闘志が湧き出てくる。

それは彼女と模擬レースを走った全員が考えることでもあった、それだけあの実力と走りには魅力があったのだ。

 

「スカウトは無理だと思う」

 

だがツインターボの真っ向からの否定に、ナリタブライアンの脳裏に過ったシマカゼタービンの姿が掻き消えた。

 

「どういう意味だ?」

 

「昔からタービンはそうなんだよ。走るのも競い合うのも大好きなんだけど、大きなレースとかはすぐに嫌がるんだ。踊りたくないって」

 

走るのも競い合うのも好きで大会を嫌う、にわかには信じられないことだ。確かにウイニングライブに手間取るウマ娘は多いがそこはそれ、付きものである。

ウマ娘とは『走る為』に生まれてきたと言われるように、走ることに執念を燃やす者が多い。

その先にあるのはレースであり、国内では中央のトゥインクルシリーズやドリームシリーズ、あるいはローカルシリーズであろう。

確かに彼女はそういった学歴を持っていない異端児であった。ブライアンは下調べの際に見た彼女の資料を思い出したが、それでは不可解だ。

走らない者もいるが何かしら理由があるのが大半だ。元からそういう性質なのもいるが数少ないし、そういうウマ娘はまずこんな練習はしない。普通の人間と同じように過ごすのだ。

 

「信じられんな、あれほどの実力者がレースを嫌うだと?ならなぜ群馬トレセンに入り浸る?」

 

「それはダイオーとノルン、ツバキに呼ばれてるからで普段からいるわけじゃないんだ。あの3人が強すぎるんだって。

だから本気で調整とかする時に呼ばれてるの。それにタービンは走り屋だから、芦名からここに来たいと思わないよ」

 

「走り屋って、あの車の?」

 

ディープインパクトの言葉にツインターボは頷く。

走り屋といえばいわば暴走族だ、府中からほど近い首都高でも夜中に騒音を鳴らして爆走するスポーツカーが走る時期がある。

それの対策やらどうこう言う特集をナリタブライアンは見た覚えがあった。

地方の峠や山奥の道路を拠点とする走り屋は、それ自体は違法であるがどの地方自治体や警察からも必要悪として黙認されている状態だ。

特集番組の専門家曰く、理由としては多々あるが首都の動脈である首都高と違い山奥の旧道などを主体とする走り屋は事故が起きても経済活動に大きな負担にならない。

動かすだけでそれなりの騒音を出すスポーツカーが自ら山奥に行くので自然と被害が減る、首都圏から地方への人の流れができる。

居場所ができてガス抜きになり大人しくなる、昼間や市街地ではおとなしいのでかっこいい車を乗り回しているだけの連中になる。

人気のない山に車が走り回ることで自然と人間の目が増えて、走りよりも陰湿なことを企む輩も減る。

古い走り屋からの伝統でルールに硬く、プライドを持っている。一般車には手は出さないし、自らがはみ出し者であることも理解している。

またすでに主要な走り屋のいる場所には、多くの企業やレーシングチームが原石を求めて目を光らせているということだ。

そこから生まれる経済効果も計り知れない、だから強く規制するよりも静観している状態だ。

 

「夜の芦名じゃナンバー2だよ、とっても速いし強い。ここじゃ走る場所ないし、車も扱いづらいよ」

 

「まだ17でしょ?計算が合わないような…」

 

「免許は持ってるよ、マルゼンスキーさんと同じの。ターボも持ってる、ほら」

 

ツインターボはジャージに突っ込んでいた二つ折りの財布を取り出すと、カード入れのところから一枚のプラスチックカードを見せる。

それはウマ娘の訓練用限定運転免許証だった。だがそれでは公道は走れないはずである、それでも走っていたのなら犯罪だ。

 

「タービンも前にとって、今は普通の免許になってるよ。それまでのは時効だっておじさんが言ってた」

 

「なんだその理論は…だがそうなると厄介だな」

 

ツインターボの言葉が本当であれば、シマカゼタービンは地元の有名人で表面化していないだけの立派な犯罪者である。

日本トレーニングセンター学園は国内最大のエンターテイメントレースであるトゥインクルシリーズやドリームシリーズに強豪選手を輩出する中高大学一貫のエリート学園なのだ。

当然ながら入学するウマ娘たちにはそれ相応の身分や実績、学歴などが求められていて常に入学前から努力してきている。

それを飛び越える逸材やある種の例外はあるが、往々にしてここのウマ娘はエリート揃いであると言っていい。

そんな中に暴走族まがいの走り屋がスカウトされるとなれば…絶対に面倒臭いことが起きる。

こういう政治めいたことには疎いし関わりたくないナリタブライアンですらすぐに思いつくのだから相当だ。

 

「それを考えても、やっぱりタービンはスカウトするべきだよ!あんなに強いのにもったいない!!」

 

「それはターボも思うけど、嫌がってるなら無理強いなんてしたくないよ。そんなのターボだって嫌だもん」

 

食いつくディープインパクトに、渋るツインターボ。

 

「無理強いなんてそんなこと私もする気ないけど…でも…」

 

「そりゃ強いよ、ターボだってここで走ったらめっちゃ強いってわかるもん。でも―――」

 

ツインターボが言葉を続けようとしたとき、ナリタブライアンの耳に聞きなれない何かが割れる音が聞こえた。なんだ、この音は?

何かを握って割るような音、聞くと自然と心が静まり返るような不思議な音だ。ディープやターボにもそれが聞こえたのか二人も耳を傾けている。

ディープインパクトは不思議そうに、ツインターボはすぐに心当たりがあったのか音のするほうに駆け出した。

 

「この音、種鳴らしだ!」

 

「なにそれ?」

 

「芦名の遊び!」

 

どうやら通学路近くのベンチの方から聞こえてくるようだ、一気に加速するツインターボの背中を追って二人も走る。

 

「ツバキ!」

 

「あ、来た」

 

音を鳴らしている主は正門近くの通学路にあるベンチにゆったりと座っていた。

群馬トレセン学園の制服を着たツバキプリンセス、袋に入れた何かの種のようなものを持っており、それを潰して音を鳴らしていた。

 

「残り一つ、これで来なかったら帰ろうって思ってた」

 

「なんでここにいるの?来るなら来るって言ってよ」

 

「ごめんね、あんたに教えたらいろいろ伝わっちゃうしさ」

 

「そんなにターボは口軽くないぞ!」

 

「ほんとに?」

 

ツバキプリンセスの視線がナリタブライアンとディープインパクトのほうに向くと、ツインターボはぐっと唇をかみしめて面白い顔をした。

それを見て何か理解したツバキプリンセスはけらけら笑うとツインターボの頭をポンポンと叩く。

 

「むー…何やってんの、種鳴らしなんかしてさ。電話すりゃよかったじゃん」

 

「寝てたら悪いし、起きてたらこれで釣れるのあんただけでしょ。学校の後、暇なら東京案内してもらおうかとね。これから暇だから」

 

「えー、ならなおさら前に言ってほしかったな。今日は練習あるから無理」

 

おい待て、今何と言った。

 

「お前、今日は朝に会長とスカウトの件で面談のはずだ。なぜここにいる?」

 

「えーー!ツバキもスカウトされたのか!すごいな!」

 

「あ、あれ断った」

 

「えーーーー!?断ったのか!?」

 

平然と、あっけらかんと中央からの誘いを蹴ったと返すツバキにナリタブライアンは自分の耳を疑った。

ツバキプリンセスへのスカウトは、シマカゼタービンとは全く関係のない純粋な実力を加味してのスカウトだ。

決しておまけやついでのようなものではない、それは彼女も理解しているはずなのに、それを断ったとはどういうことだ。

 

「理由は?」

 

「理由か、答えるのは簡単だけど…よし、シンボリルドルフ会長にしたのと同じ質問を二人にする、その答えが理由だよ。

ターボは答えちゃだめ、せめて私が帰ってからね?」

 

「えーなんでー?」

 

「あんたは答えを知ってるからよ」

 

ツバキプリンセスはツインターボには優しく微笑み、そのあとでナリタブライアンとディープインパクトに向けて真面目な表情を作って静かに問いかけた。

 

「ここで走れば、私はハチロクに勝てますか?」

 

ツインターボが呆れた声を出すが、何も答えない。ナリタブライアンは首を傾げるしかなかった、そもそもハチロクとは誰だ?どこのウマ娘だ?

ツバキプリンセスが意識しているということは群馬トレセンか、ローカルシリーズか、それともシマカゼタービンと同じか、だが答えは決まってる。

 

「勝てる」

 

「勝てます」

 

「それが理由よ」

 

どういう意味だ、ナリタブライアンはそう問いかけたかったがそれよりも早くツバキプリンセスは一度学校に鋭い視線を向けてから踵を返して背を向けた。もう話は終わりだ、そういうかのように。

 

「もし気になったら暇なときにでも芦名に来るといいわ。この先、きっと面白くなるから。じゃぁね、電車の時間がきちゃった」

 

ツバキプリンセスはそれだけ言うと、休憩所から去っていく。その後ろ姿が見えなくなると、ツインターボはやれやれとため息をついた。

 

「意地悪だなぁ、ツバキ。勝てるわけないじゃん」

 

 

 

 

 






あとがき
スカウト当日のトレセン学園ルート、ツインターボ&ナリタブライアン+ディープ編。ちょっと駆け足気味だけど許して。
次はシンボリルドルフ&エアグルーヴ編を予定、ルドルフがなぜちょいと威圧気味だった理由がここになるはず。
ぶっちゃけルドルフがこの質問にどう答えたが肝、まぁ予想はできちゃうかも。なおマルゼンさんは同席しない予定。
ちなみにハチロクは茂三の方、瀬名の親父もAE86乗りだからね。


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