気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの感想と誤字報告ありがとうございます。今回は短めでお送りします、ほんわかまいりましょう。

シマカゼタービンは言わずもがなだが、それに鍛え上げられてた3人もローカルシリーズで実はかなり暴れていた。
ちなみに地方はローカルシリーズで一括りみたいな感じだったので、条件を満たせば他地方からの遠征出走も可能という設定。
大雑把な時系列ではオグリキャップブームはこの世界では2年前、群馬陣営は高校一年生の16歳。
そのあとにスピカ大躍進、スぺちゃん日本総大将、テイオー奇跡の復活なので…うん、中央は春の季節です。





第九話

 

早朝の生徒会室、シンボリルドルフは一人、これまで集められた『シマカゼタービン』の資料を眺めながら考えていた。

 

(どうしたものか。これほどの逸材だ、私も一度話してみたいものだが…)

 

日本トレセン学園の生徒会長として、鎬を削るライバルとして、そして共に走る仲間として当然だろう。

しかし連絡先を知らない、東条トレーナーやディープインパクトたちはそれとなく連絡先を交換しようとしたがすげなく断られたそうだ。

同じくスカウトに動いてくれているトレセン学園情報部、秋川理事長や駿川たづな秘書ならば知っているだろうが、まだ不確定な要素が多いという理由で共有してもらえていない。

何よりそれを含めても彼女の情報がまるでない。東条トレーナーとディープインパクトたちが持って帰ってきたデータ以外、まともなデータがどこにもないのだ。

群馬トレセン学園に問い合わせても『シマカゼタービン』が在籍しているわけではないので取り付く島がない、生徒でないウマ娘のデータを残しているわけがないという建前で逃げられる。

かといって芦名高等学校は一般校なのでツテがなくトレセン学園としての要請も出しにくい、やり取り自体はできているが手に入ったのは表面的な差し障りのないプロフィール程度だ。

尤も、そこからさらに突っ込んでも手に入るのは普遍的な成績などでありレースに有用なデータなどではないのだろうが。

そして群馬内各地で行われている一般参加の短距離レースでも姿ははっきりしない。出ているレースは気まぐれそのもの、だが出走すれば確実に勝つ。

分かったことは彼女が走ると大会は早く終わる、賞金を貰ったらすぐに帰るくらいそっけないので地元にアイドルがいるとヒール役になるというくらい。

彼女の脚質は『逃げ』で規格外のスタミナを持っているということ、それだけでなく機転が利いて動きが読めないこと。

実家の『瀬名酒造』にて仕込みのアルバイトとして活躍していて、看板娘のような立ち位置にいることだ。

 

(確かスポーツカーに乗って配達をしているという記事があったな…マルゼンスキーが居ればな)

 

生徒会の一人であるマルゼンスキーは別件で学園を離れている、もしいれば車好きな彼女ならなにかヒントが得られたかもしれない。

そうでなくても同じ車を趣味にしている者同士だ、シンボリルドルフにはわからないシンパシー的なモノを感じてくれると話も弾んだだろう。

シンボリルドルフもマルゼンスキーとは長い付き合いだが、車となると全くわからないから話にはならないのだ。

しかし、こうも何も情報がないとなると話を作ることもできない。どうしたものか?

 

「さしずめ名前のない怪物か…」

 

オグリキャップがローカルシリーズで名を馳せた『地方の怪物』ならば、シマカゼタービンは在野で誰も知らない『名前のない怪物』。

その実力は折り紙付きだ、期待の新人であるディープインパクトのみならず3冠ウマ娘であるナリタブライアンでさえ本人が本気で挑んだと豪語したうえで負けたというのだから。

帯同していたグラスワンダー、エルコンドルパサーもまた昨今の中央シリーズを語るには欠かせない強豪選手、彼女たちもまた負けを認めて今も練習に熱を上げている。

 

(何よりも、彼女はディープを縛っていた何かを拭った)

 

脳裏に思い出されるのは最近のディープインパクトの明るい笑顔だ。

練習中や試合では一切封じられていた本来の無邪気さ、それが練習の中でも垣間見えるようになった。

どこか焦っていたような、何かを追っているような焦燥感も無くなって、より一層練習に励む姿はまさに自分たちが見たかった彼女の姿だった。

やり方は何の変哲もなく、ただ圧倒的な実力でディープインパクトを打ち負かすこと。それはシンボリルドルフもすでにやっていた。

自分だけではなく、リギルの先輩全員が一度はディープインパクトを負かして揉みに揉んだといってもいい。

それでも拭えず、晴らすことができなかった何かを彼女は自らの走りで消し飛ばしたのだ。

 

(やはり、この目で見てみたいな、シマカゼタービンの逃げとやらを)

 

ナリタブライアンやディープインパクトたちからの証言や記録映像だけではない、生の走りを体験してみたい。

おそらくウマ娘と密接な関係を持つ酒造会社の家柄的に簡易的な指導は受けているのだとしても、やっていることはアマチュア程度の自主練だろう。それでここまで強くなったということは、秘めている才能は計り知れないはずだ。

この才能がトレセン学園のトレーナーの手で磨かれる、そうなれば何が起きるのか予想がつかない。

 

「会長、エアグルーヴです。ツバキプリンセスをお連れしました」

 

「入りたまえ」

 

生徒会室のドアが叩かれ、聞きなれたエアグルーヴの声に返答しながら資料を机の引き出しにしまって本日最初のお客を出迎える。

ツバキプリンセス、群馬トレセン学園高等部。群馬トレセンにおいてトップクラスのウマ娘の一人、群馬を拠点とするローカルシリーズでもホクリクダイオーとノルンファングを相手に常に首位を争っている。

群馬トレセン学園にて、車両競技を主体とするモータースポーツ部を創立した3名の一人であり部長。部活動は主にジムカーナ、ダートラリーで活躍している。

過去に日本ウマ娘トレーニングセンター学園を受験したものの不合格、そのまま群馬トレーニングセンター学園に入学している。

群馬トレセンから収集したあらゆるデータを脳裏に過らせ、目の前の彼女の佇まいから感じる実力を比較する。

 

(大金星は2年前の東海ダービー優勝、なるほど、見逃していたのは痛いな)

 

その東海ダービーはまさに異例と異様の連続だったと言われている。

ダート、距離1900メートル、右回り、バ場は良好、出走ウマ娘たちにとってはまさに絶好と言える条件がそろっていた。

結果は一着『ツバキプリンセス』二着『ホクリクダイオー』三着『ノルンファング』四着『フジマサマーチ』五着『サウスヒロイン』。

1位、ハナ差で2位、さらにハナ差3位、そこから2秒差をつけて4位、クビで5位、そのあと2バ身差で6位。タイムは1:57.9。

同じローカルシリーズとはいえ、群馬という僻地からの遠征出場者がいきなり上位を独占、東海地区の猛者たちを置き去りにした圧勝。

遠征者のみでウイニングライブのセンターをすべて奪った大混乱だ。もし中央のオグリキャップブームからなる日本ダービー騒動で注目が逸れていなければ世間を揺るがしていただろう。

その後は大きな大会に出場していないものの、ホクリクダイオーやノルンファングと同じように多くの大会で安定した成績を残している。

 

(葦毛か、地方の葦毛は強いという法則でもあるのかな?)

 

ツバキプリンセスの髪を見て、なんとなくそんなこと思っちゃったりもする。

 

「この度は、早くに時間をいただき感謝いたします。どうぞ、粗品ですが」

 

「こちらこそ、遠路はるばる来ていただいてうれしいよ」

 

ツバキプリンセスが差し出してきた『菓子・平田屋』の達筆なプリントがされた菓子箱を受け取る。

かすかに香る甘いあんこの香り、どうやらおはぎのようだ。

 

「それで、返答を聞こうかな?」

 

「恐縮ながら、辞退させていただきたく思います」

 

即答、つまり答えは前もって準備していたようだ。稀にいるのだ、こういうウマ娘が。しかしこちらもスカウトを試みた以上、逃がすには惜しいと考えているウマ娘なのだ。

 

「理由を聞かせてもらってもいいかな?」

 

「ここに私の求めるモノはなく、群馬にはそれがある、それが理由です」

 

「シマカゼタービンかな?」

 

ルドルフが口にした名前にツバキプリンセスがわずかに反応して呼吸が途切れる。

芦名高校に通う彼女の幼馴染でありライバル、そして群馬トレセンでナリタブライアンたちに一勝も許さなかった猛者。

それは彼女たちも同じ、群馬トレセン学園で整った環境下で適切なトレーニングを重ねてきた彼女たちに一般校で自己研鑽に励むシマカゼタービンは勝つ。

それがどれだけ驚異的で、それでいてプライドを揺さぶられるかは想像に難くはない。

 

「それもありますが、それだけではありません」

 

「ふむ…聞いてもいいかな?今後のためにぜひ参考にしたい」

 

この日本ウマ娘トレーニングセンター学園には、トゥインクルシリーズをはじめとする中央のレースや海外での活動を主にするウマ娘たちのために様々な設備を揃えている。

最新式のトレーニング機材、熟達したトレーニング方式、各種バックアップ、そして才能豊かなトレーナーとライバルとなる生徒たち。

それこそウマ娘たちのために必要なモノがすべてあると豪語して、だれもが納得する充足ぶりと言えるだろう。

ここでの成長は群馬トレセン学園でのそれとは比較にならないはずだ、それこそツバキプリンセスのようなウマ娘ならば。

だが彼女は『足りない』という。それが本心であるなら構わないが、かといって間違った認識ならば正さなければならない。

それに何より、彼女と同じ学園にいるほかの二人にも声をかけるのならば、その不満は共通するかもしれないのだ。

過去に目指したこの場所に、無いと断言するものとはいったいなんだ?

 

「参考にはならないかと、これは個人の問題でこの学校に対する不満ではありません」

 

「なおさらだね、無理を言っているようですまないが頼むよ」

 

「では、質問で返すようで悪いのですが…ここで走れば、私はハチロクに勝てますか?」

 

おそらくは『ライバル』の名前だろうか。ハチロク、ルドルフは一瞬だけ考えて該当する名前のウマ娘を思い出そうとするがトレセン学園内には該当者はいない。

となればおそらく群馬トレセン内にいる誰かの愛称か、在野のウマ娘なのだろう。彼女が勝ちたいと思っているウマ娘、興味深い。

ツバキプリンセスの様子は悔し気で、それでいて憧れのようなものが見える。まるで手の届かない何かを見ているようで羨ましい。

 

「断言はできない、勝てるかどうかは君次第だ」

 

しかし、と心の中で言葉を溜めておく。この学園にはウマ娘を育成するために必要なモノがすべてそろっている。

最新のトレーニング機材、最新の育成理論、最高のトレーナーたち、そして最高のライバルたちがいるのだから。

彼女ならば楽にとは言えないが勝てるポテンシャルはあるはずだ。

 

「嘘ですね」

 

ツバキプリンセスの目つきが変わる。その瞳にある『憐みの色』にルドルフは虚を突かれた、その目つきはあまりにも場違い過ぎたのだ。

 

「私には勝ちたい相手が山ほどいる。エフシー、エフディー、シルエイティ、サンニー、ワンビア、トイチ、そしてハチロク。

これだけじゃない、もっとたくさん群馬には勝たなければならない相手がいる」

 

「ならばこちらで鍛え、自由な時間を使って群馬で勝負するといいのではないかな?

公式なレースへの出場は制約が付くが、ただ単に走りを競うならばいくらでもやれる」

 

調べ上げてきた群馬トレセンや地方トレセンの強豪たちの顔と名前に合致するウマ娘はいない。

では彼女が上げた名前は全て在野のウマ娘ということか?群馬にはそれ程の逸材たちが今も切磋琢磨し続けているというのか。

エアグルーヴは少し怪訝そうに眉をひそめているが、シンボリルドルフは俄然興味が湧いてきていた。

シマカゼタービンという実例がそこにいるのだ、あり得ない話ではない。

 

「解っていない…当然か」

 

「貴様…その口の利き方はなんだ?」

 

エアグルーヴが眉間にしわを寄せて怒気を発する。だがツバキプリンセスは涼し気に睨み返し、踵を返した。

 

「エアグルーヴさん、あなたにも質問するわ。私の部長の椅子、どんな椅子かしら?」

 

「どういう意味だ?」

 

「解らなければそれでいいですよ。話は終わり、ここに私が求めるものはありません。失礼します」

 

目つきを一変させてにらみつけるエアグルーヴ、それをツバキは怯みもせずに鼻を鳴らして答えてドアの前に歩を進めた。

 

「待ちたまえ、話はまだ終わっていない」

 

「終わりです、シンボリルドルフ生徒会長。私は私の道を行く、邪魔はしないでいただきたい。

それともう一つ、ダイオーとノルン、そして私が立ち上げたのはモータースポーツ部。何をしていると思います?」

 

「…まさか、貴様!!」

 

エアグルーヴが何か思い当たったのか、声を荒らげる。それを一瞥することなく、ツバキプリンセスは扉を開けた。

 

「さらばです、次はレースにて」

 

 

 

 

 





あとがき
なお感づいたエアグルーヴの考察、ツインターボのネタバラシにより生徒会長室の空気は荒れに荒れた模様。
まぁ素人にわかるわけがねぇのよね、ツバキの挙げている車種のほとんどが年代物ばかりだし。
こんなことされたからシマカゼへの勧誘の時は『こいつも変なこと言うんじゃなかろうな?』とかいう感情が漏れ出た設定。
なおツバキプリンセスが中央に喧嘩腰なのは八つ当たりの面もあるが意図的でもある。じゃなきゃこんなことしない。

ちなみにシマカゼタービンの情報は学園情報部からカットされてるのでルドルフにはほぼ回ってこない。もともと少ないけども。
そのため何もわからないのは当然だったりします、なんでって?オグリの時やらかしてるからこーなってんの。
だからリサーチとかそういうの云々がほとんどできてない状態、何事もなければもう少し時間を稼げて学園主体で穏便なスカウトに持ち込めたはずだった。
そこにツバキ強襲からのツインターボ確保ですべて台無しになるのである。





おまけ
実は最後のセリフは『芦名の国盗り、とくとご覧あれ』と続く予定だった。さすがに挑発的すぎるので没。

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