気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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トレセン学園はごたごたしてるけど群馬の芦名はいつも通りだった件。


第十一話

芦名展望台新道、芦名市の走り屋ウマ娘のホームコースとなっているここの特徴はスタートとゴールがわかりやすいことだ。

展望台は下層展望台、上層展望台と二つあり下層は街から新道を使って僅か500メートルのところにある。

その下層展望台と上層展望台はロープウェイでつながっており上り下りは楽、コースはその下層展望台と上層展望台とをつなぐ山道だ。

下層展望台から上層展望台までおよそ2.4キロ、2400メートル。

ダービー坂と呼ぶ者もいるが、道路はアスファルトだし路面状態は良好とは呼べないので少数だ。

常に枯葉や小枝、ゴミが散らばっているし砂も多くて滑るときは滑る。電灯も普通の峠道に比べれば多いが暗闇が少ないわけではない。

ウマ娘用に短縮化された峠というのが妥当だろう、それでもウマ娘にとっては十分スリル満点の怖ろしい道である。

小塚小町はその上層展望台の駐車場側のところでストップウォッチ片手にベンチに座っていた。

上層展望台は週末の夜間ということもあり、走ることが好きな芦名のウマ娘とその関係者たちでそれなりに賑わっている。

 

(けっ…こんなところで盛ってんじゃねーよ!)

 

当然そういう関係のカップルもいる、というよりウマ娘とのカップルのデートスポットでもあるのだここは。

夜間はガチな連中ばかりが集まるので昼間ほど多くないとはいえそれでも甘い関係のコンビはいる。

思いっきり走っていい笑顔の彼女を迎える彼氏の健全な二人組が目に映るたびに、彼氏いない暦=年齢の小町は嫉妬の炎に包まれる。

ああ憎らしや裏飯屋、今日の晩飯はイタ飯だ。

視界の端々に見えては居心地悪そうにしている芦毛のもさもさはできる限り気にしないようにしつつ臍を噛む。

 

(いいもんね、免許を取ったらいい男をナンパしてドライブデートするんだもんね!!)

 

そんな風に内心啖呵を切っていると、ポケットの中に入れていたスマートフォンに着信が入る。

画面を見ればメールが来ており、迎えを頼んでいた兄が下層展望台についたと知らせてきていた。

 

(…ワンビア、いやシルビアかなぁ。やっぱりデートカーなら、かっこいいし安いし)

 

まだ運転免許を取得していないが、それでも取ったときのためにどんな車を買うかは常に考えては迷走している。

この時代はスポーツカーが多く復刻して街を賑わせている、そうなると車選びはどんな人間も難航する。

どんな車種が自分に一番似合っていて魅力を引き出せるか、それを見極めて自分に合う車を選ぶのが重要だ。

それができなければ高い高級車に乗っていても、世間的には評価の高い外国産車を乗り回していてもカッコよさは得られない。

似合わない外車を乗り回す金持ちボンボンより軽トラのキャリィを堂々と乗りこなすそこら辺の爺様のほうがかっこよく見えたりするのを小町は知っていた。

 

(でもS13はちょっとしっくりこなかった、180もそうだったし。WRXも違和感あったし…ハチロクは、ダメ。想像できねぇ)

 

なお知り合いの車まで試した限り、ピンと来たのは瀬名家のパッソだった。可愛いがしっくりは来た。

しかしコンパクトカーである、ちっちゃい体躯がいささかコンプレックスな自分がさらに小型でかわいいコンパクトカーを乗り回したら余計にちっちゃく見える。

良い車もあるのは知っているが親友がゴツイのを乗り回しているのを知っているとちょっと悩みどころだ。

 

(というか知り合いに小さめの乗り回してる奴少ない…爺様のキャリイとおばさんのパッソのほかに思いつかねぇ)

 

ちなみに瀬名酒造の軽トラは論外だ、アレは社用車で会社の車である。どうしたもんか、免許を取る前に車屋に行くのもなんか気が進まない。

あーでもないこうでもないと悩む小町。

 

「次が来たわ、誰かしら?」

 

臍を噛んでいると同じように仲間を待っているだろうウマ娘の声に意識が現実に帰る。

駐車場入り口のほうに目をやると、暗い峠道の奥から二人の人影が大きく肩で息をしながら走り抜けて駐車場に走ってくるのが見えた。

芦名高校のジャージに身を包んだクイーンベレーとテューダーガーデンだ。クイーンベレーが一バ身差をつけており、テューダーガーデンがその後を追ってきている。

その瞬間に居合わせた者たちから応援の声が上がると同時に、ゴールということになっている駐車場と展望台の境を抜けて二人とも一気に体を投げ出した。

 

「うっしゃぁ!あたしの勝ちだ!!」

 

寝転がったまま右腕を突き上げるクイーンベレーだったがすぐにその手は頽れる。

隣で寝転がるテューダーガーデンはしゃべる余裕すらなさそうでひぃひぃ息をしたまま首を横に振る。

その様子をストップウォッチ片手にベンチに座って待っていた小町は、タイムを見てやや不満を覚えながらも納得はしていた。

 

(2分35秒01、40、登りじゃまぁまぁ形になってきたか)

 

登りのタイムとしてはこの展望台ルートでは間違いなくトップクラスの速さと言えるだろう。

上には上がいるとはいえ、展望台コースを走り始めて一年も経っていないのにより長い経験を持つ地元ウマ娘にすでに並ぶこの成長速度である。

さすがは元中央シリーズ経験者であり元トレセン学園生徒というだけある凄まじい才能だ。

 

「二人とも、喜んでるところ悪いけど一回だけでぶっ倒れてるようならまだまだ体力が足りないよ」

 

とはいえ、まだまだスタミナ面では不安しかない。シマカゼタービンなら2400程度の登りで息を乱しはしないし、すぐに往復で降りに突っ込むのが普通だ。

シマカゼは極端な例であるが峠の走り屋と共存するウマ娘たちならば少なくとも一本で倒れるほど消耗はしない。

なによりコースによっては勝負がつかない限り、登りと降りを延々と繰り返すこともあるのだ。

 

「この分じゃ、やっぱりあいつらもシマカゼが相手かな?」

 

「姐さんは高橋兄弟に集中させてくださいよ。レッドサンズが動くなら、赤城の擬音もセット。そいつらはあたしたちが千切ります」

 

「その、とおり、です、ま、まけて、られません」

 

「テューダー、あんたはまだ喋んな」

 

走り屋にウマ娘がいるというケースは多いが生身で走る場合は別だ、元々車が主体で人間主体の走り屋と生身で走るウマ娘では走るステージが違う故の差別化と言えよう。

また小回りが利いて使える道が多い生身のウマ娘は走る道を選ばない側面がある、彼女たちは走ろうと思えば街中の裏路地もコースにできるのだ。

だが別チームとして交流が深い場合があるし、中には面白がってメンバーに加えているところもあるにはある。結局匙加減ということだ。

 

「赤城の知り合いからすれば陣容は変わらず、十中八九登りでトコトコ、降りでドカドカ。どっちもあんたたちより経験は上、歴も長い。正直、力不足だよ?」

 

トコトコ、ドカドカとはシマカゼタービンも何度もやりあったことがある赤城の走り屋ウマ娘の姉妹だ。

元々は水沢トレセン学園の生徒だったが、一身上の都合でやめざるを得ずレースの世界を諦めるしかなかった。

けど走ることはやめられず、引っ越して新天地となった群馬の赤城山で赤城レッドサンズと出会って今に至る。

赤城の擬音姉妹と呼ばれ、赤城の走り屋ウマ娘の中では頂点だ。

赤城レッドサンズのナンバー3に頼み込んで車と並走してもらうくらい気合いが入った練習をしていて、時折別のコースにも遠征してくるほど向上心が強い。

この芦名でも何度か顔を合わせてはシマカゼタービンに千切られており、その縁もあって友人である。

その二人に比べたら彼女たちはやはり格下だ、彼女たちには走り屋と並走訓練をする技量すらまだないのだ。

 

「解ってますよ。でも先輩、それだと姐さんの二足草鞋が続きっぱなしになります。高橋兄弟相手にそれはまずいですって」

 

それも含めてあのバカは楽しんでるんだけどね。車で足でとどこまでも突っ走って、疲れ果てながら勝ちきって心底楽しそうな顔で笑うシマカゼを小町は思い出す。困った親友である。

 

「ま、あの兄弟相手じゃ絶対二足草鞋なんかさせらんねぇってのも事実か。でもこれじゃまず、あんたたちには無理」

 

「だから、こうして、はしってます…」

 

「走れるだけじゃダメなの。まず体力をつけること、一回走るたんびに倒れてちゃ話になんない」

 

タイムは悪くはないのだ、普通のレースを目指すウマ娘ならば合格だ。中央に戻れば周囲をあっと言わせる脚力になっているだろう。

だが峠を走るウマ娘としては不合格、登りも降りも平地競争での走りをする傾向がクイーンもテューダーも強い。

そのせいで余計に体力を使ってしまっている、こればかりは数をこなして体にしみ込ませないとどうしようもないのだ。

 

「シマカゼ並みに、とは言わないからそうやってぶっ倒れないくらい余裕つけなきゃ勝てやしないよ。

そんなバテバテになるんじゃ、途中から頭回んないでしょ?」

 

「そ、その通り…」

 

「最後まで頭が回んなきゃ危なっかしくて走らせらんないって、死ぬぞ」

 

これには何の比喩もない、文字通りだ。ウマ娘が走るコースとみられているとはいえ、走るのがまぎれもない公道だ。

一般車や一般通過ウマ娘が上がってくる乱入は日常茶飯事、そうでなくてもこの道にはレース場にあるようなセーフティーはない。

そんな場所で全力疾走するウマ娘がミスをしてクラッシュしたら大惨事だ。

コーナーを曲がり切れずに壁に激突、よしんばぎりぎり持ちこたえても生身の体を擦る。

ガードレールにぶつかって引っかかれる、あるいはそのまま向こう側へ真っ逆さま。

降りのレースでコケてアスファルトに四点倒置、最悪そのまま摩り下ろされて新鮮な挽肉の完成である。

車の走り屋よりもこういう面では生身のウマ娘のリスクは極めて高いのだ。

 

「登りならまだしも、降りでこけたらうまくこけなきゃ摩り下ろされるからね。ここらで死人は出したくないよ」

 

走り屋はどこまで突き詰めてもはみ出し者、何が起きても自己責任だ。それこそ走ってミスって死んだとしても、責任を問われるのは死んだ自分でなければならない。

そうして死んでいったウマ娘が何人になるか、だれも知らない。小町自身、そういった身内は見たことはない。だが、いるのは確かだ。

ある日を境に急にコースに現れなくなった常連は何人もいる、そしてそうした日の翌日にこの坂の交通事故の知らせがネットに上がる。

そんなことは理解してる、とテューダーガーデンは頷きながら顔を上げた。その目は真剣そのものだ。

 

「ここはレース場みたいに事故っても助けてくれるスタッフはいない、解ってます。でも、走りたいですから」

 

所詮は公道レース、違法なただの暴走行為、それを理解したうえで走り屋は走る。ウマ娘も人間も、どんな理由であれ走りたいから走るのだ。

 

「だったらもっと努力しなきゃね。もし事故ったらまたブン屋が戻ってくるよ」

 

「それはメンドクサイ」

 

でしょ、小町は頷く。最近は芦名高校周辺にゴシップ記者やら有名ウマ娘雑誌の記者がうろついて迷惑していたのだ。

最終的には一心校長以下教師陣の無言の圧力と鋭い視線、平平凡凡な断り文句から感じる殺気の前に退散していったのだがまだうろちょろはしている。

そういうしつこい記者は大概二つだ、ただ仕事熱心で諦めきれないだけのまともな記者か、あるいは腐り切ったゴミか。

 

「ああいうの見るとトレセン辞めてよかったって思っちゃいますよ、ああいうの苦手だ…」

 

無遠慮な2流雑誌記者に元トレセン生ということがばれて質問攻めを食らったクイーンベレーは顔を渋くして頭を振る。

彼女もトレセン学園ではレースに出ていた以上マスコミ対応には慣れているつもりだったが、その経験を超える無礼な質問には辟易していた。

それを他の生徒にもしている記者が複数いた、あの連中にとってはいつものことなのだろうがやられる側からすればたまったものではない。

 

「あー…あの佐瀬教頭が杖もって巡回するくらいだしね」

 

「エマ先生も怒ってましたね、生徒の精神に悪いって」

 

芦名高校の佐瀬甚助教頭が瀟洒なちょっと長い杖をつきながら校区周辺をパトロールしている姿は、知る人が見ればまず逃げる。

どこにでもいる教頭先生に見えるが、彼も芦名高校の例にもれず芦名流剣術・居合の使い手でれっきとした武闘派なのだ。

きっと素行の悪い記者を探して街を練り歩いていたに違いない。おかげで記者たちの暗躍はだいぶ収まった。

 

「やめやめ、いったん引いたんだからもうやめよ。そういや、最近は秋名で亡霊が出るって聞いたっけねぇ?真っ白な車の亡霊がさ」

 

いら立つ話題から話を変えるために小町はここ最近噂になっている幽霊の事を口にした。秋名山に出没する幽霊の走り屋という噂だ。

曰く、秋名の山では事故で死んでしまった走り屋の亡霊が自分が死んだのも気が付かないまま走り回っており、まだ生きている走り屋たちを見つけると勝負を仕掛けてくるらしい。

夜に走っているといつの間にか白黒でぼんやりとした車が真後ろにいて、いくら突き放そうとしても離れずあり得ない速さとスピードで追い抜いていく。

古い車という以外見分けられないまま追い抜かされ、次のコーナーを曲がる頃には前に何もいない。

そんな経験をした走り屋が何人もいるのだが、ほとんどが遠征者でなぜか地元の走り屋には経験者がいない。

良くある話だ、群馬じゃ走り屋やウマ娘が死んでもずっと走り回ってるなんて噂がごまんとあるのだから。

ちなみに芦名にもそういう話はあるが、正体は親友のシマカゼタービン筆頭の五人組である。

 

「ここにも出るかもね」

 

「怖いこと言わないでくださいよ、温泉行きづらくなるじゃないですか」

 

このままじゃあんたらがそれになる言うとるんじゃ、そもそもこのコースだってもう何人の血を吸ってるかわかったもんじゃないってのに。

 

「だったらまずは体力付けな、死んだら温泉になんていけやしないんだから。最後まで考えが回るくらいになったら走ってもらってもいい」

 

「さきはながい…」

 

その通り、先は長い。この世界に年齢制限はない、好きな時に走り好きな時にやめる、そういう世界だ。

 

「ほら、少し休んだら行くよ?あいつの走りを見逃したくないでしょ、そろそろいい時間だしね」

 

「あ、ほんとだ」

 

小町がスマホの時計画面を見せるとクイーンベレーとテューダーガーデンは目を丸くする。

午後9時を回ったころだ、そろそろ芦名の峠には町の走り屋たちが集合し始める。

しかも今日は群馬トレセンのモータースポーツ部一行の遠征が行われており、群馬トレセン一行とのバトルも予定されているのだ。

今日はシマカゼタービンもバトルに参加する、相手は群馬トレセンモータースポーツ部の部員で車の運転はそこそこうまい。

下層展望台の駐車場にはもう兄の小塚良助が、愛車のワンビアカスタムで迎えに来てくれている。

このまま降りて、兄の車で芦名の峠コースに直行だ。クイーンベレーとテューダーガーデンも歩けるくらいには回復してのそのそと立ち上がる。

小町は二人と駄弁りながらロープウェイの乗り場のほうに足を向けて、ふとうろちょろしていた芦毛の髪がもさもさしたウマ娘を思い出した。

 

(…ま、いっか)

 

振り返るとやはり展望台をこそこそ歩き回っては顔を真っ赤にしたり居心地悪そうにしている芦毛もさもさ。

何を考えてあんな有名人がうろちょろしているのかなんて知らないが、触らぬ神に祟りなしだ。

小町は特に彼女に声をかけることもなく、面識があるかもしれない二人にも特に教える必要も感じなかった。

 

 

 




あとがき
芦名のちょっとした日々、そろそろウマ娘でも一度走る予定。
実は芦名と秋名はほどほどに近いので、温泉に日帰りで行くウマ娘は結構多い。
例の姉は休養ついでの偵察、妹が熱を上げるウマ娘が気になっただけで何かするつもりはない。


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