これと次で無駄に長いごたごたを終わらせたいところ、いやはや前世みたく有能なURAにしたかったのにこの様だぜ。
不思議なドライブになった物だ、メジロモンスニーは瀬名家の居間の縁側に腰かけながら見慣れた庭を漠然と眺めていた。
「お前は反対すると思ったけどな」
「…本当はそうしたいわよ、あの世界は厳しいからね」
後ろの居間から聞こえてくる瀬名敏則の言葉に、モンスニーは自分の太ももに手を這わせながら答える。
この足は自分の自慢だった、メジロ家の自慢の足になるはずだった。
メジロの大願の成就を断固として曲げない先代当主の方針さえなければきっとスプリンターやマイラーでもっと活躍できたはずだった。
「不思議ね、スカウトが来たって聞いたとき、あいつが有マを取るのが目に見えたのよ」
「有マ記念を?トレセンにすら通ってないあの車キチガイのあいつが?」
「あの酒キチガイのあいつがよ」
酒と車となると目の色を変える義妹のシマカゼタービン、言葉にすれば最悪だがただ仕事と趣味に真剣なだけのかわいい出来た妹だ。
走ることにとてつもない才能を持ちながら全く公式レースには脇目も振らず、家業の酒造と峠の走り屋に没頭する彼女はどこまでも公式のウマ娘レースにはそぐわないウマ娘だった。
そんな彼女がスカウトされたとき、自分が思ったのはシマカゼタービンが暮れの中山レース場でレースの先頭を突っ走って勝利する光景だった。
ふざけるなとか、彼女は行かせないとかではなく、彼女がレースで勝つ光景だった。それがとてつもなく嫌だった。
自分はどういう風に生きようが、やはりメジロのウマ娘なのだと理解させられた。自己嫌悪しか浮かばなかった。
「全部断ち切りたかった、断ち切ったはずなのに…反対すべきなのよ、あんな世界に、行かせたくなんかない」
自分を認めてくれなかったメジロが憎かった、どこまでも痛めつけてきたメジロが憎かった、そう思わないと言えば嘘になる。
そう思ってもなおレースは大好きで、メジロ家も愛していた。頑張り続ければきっと認めてくれると信じていた。
だから何より自分の無力さが憎かった。期待に応えられない自分が一番憎かった、あの時までは。
最初はあんなに好きだったウマ娘レースも、今ではそんな純粋な目で見ることはできない。
現当主からはいつでも帰ってきていいと言われている、帰ってきてほしいと親しかった執事や主治医たちからも言われている。
でも分かるのだ、今メジロ家に帰ったところできっと自分は心の底から笑うことなどできはしない。上辺の笑みすら作れない。
(私は弱い、本当に何もできなかった)
自分の足を奪ったメジロ家を思い出してしまうから?いや違う、自分の足などどうでもいい。
自分を認めなかったメジロ家が憎いから?いや、それももはやどうでもいい。それ以前の問題だから。
大願のために、メジロという家のために、子供たちの未来を消費していくあの名誉に狂ったメジロ家を思い出してしまうからだ。
メジロ家は日本ウマ娘レースにおける名門、その家に生まれたウマ娘はレースの世界を最初から逃げることは敵わない。
なんであれメジロ家の基準はレースが基本であり、それが中心であった。
例え不慮の事故で有望なメジロのウマ娘が生死の境をさ迷っても、奇跡的に回復しても、走ることをあきらめていなくても。
〈彼女はダメだ、候補から外すように〉
〈よろしいのですか?〉
脳裏に先代当主の心底残念そうな、されど無情な声が蘇る。今も思い出せる瀟洒で掃除の行き届いた屋敷の廊下、そこから子供たちの遊び場やレースの練習場によく使われるだだっ広い芝の広場が見渡せる。
自分はその廊下が大好きだった、大好きな姉たちの練習の全景を邪魔せず見学できる絶好の場所であり、可愛い妹たちの成長を見守れる場所であったから。
その言葉を聞いた日、自分がそこにいたのは偶然だった。きっと前当主は今も自分があの廊下にいた事には気づいていない、自分は偶然廊下の隅っこに落としたヘアピンを取るためにかがんでいて、隠れた形になっていたから。
先代当主のことは嫌いではなかった。だれよりもメジロ家の事を考えていて、分家や本家といった形式にはとらわれない実力主義の彼女は厳しかったが差別はしなかった。
だから信頼はしていた、メジロ家の大願に命を懸けることを疑ってもいなかった、あの時までは。
〈足の関節がバタついている、走ることに向いていない足だ。それとあの子もだ、筋肉の成長が他より遅れている、このペースでは間に合わん、候補のサポートに回せ。
それからパーマー…あの子も障害コースに入れろ、平地競争ではついていけまい〉
〈承知しました…それから…〉
〈くどい、何度も言わせるな。いくら望もうとも彼女はもうダメだ〉
声が出なかった、怖かったのだ、マックイーンたちを無機質に見下ろして選別する先代当主と側近のやり取りが。
そこでまだ幼いメジロマックイーン達と戯れる分家のウマ娘を、可愛がっているあの子たちを無機質に駒としてみる先代当主の瞳が怖かった。
分家や本家といった家柄に囚われない実力重視の先代当主が見ているのは希望的観測ではなく現実的な見解。だからこそいまでも耳に残る。
実力を重視しているからこそ、切り捨てられるときの理由も単純である。彼女は育てても期待に応えられない、走らせる意味がない。
だから役立ててる方面に回す、より有力な候補のサポートに、はたまた家を切り盛りする側近や経営する会社に、憧れて望んだレースを走る事すらできずに。
〈傷が深すぎる、回復しても後遺症が残る可能性がある。そのような者を走らせるなど、言語道断、結果以前の問題だ。
早急に進学コースを見直し、この世界そのものからは手を引かせよ〉
〈しかし…!〉
〈メジロとてできぬことはできぬ、失ってからでは遅いという事が分からんか〉
事故で両親を失って、自分も生死をさ迷っていた彼女のボロボロの姿を知っていて、それでもなおレースを走ると夢を見てリハビリに励む姿を知りながらそれを言えるのか。
マックイーンたちのような才能を持たないとわかっていても、それでもと諦めないで食らいつこうとする彼女たちに諦めろと促すのか。
当主は家を預かる身だ、時には非情な判断も迫られる。そこは理解していた、だがその立場に自分が座わる可能性があることをモンスニーは理解していなかった。
もしかして自分も未来はあそこにいるかもしれないのか?それを理解した瞬間、モンスニーは吐き気を催してトイレに駆け込んだのを今でも覚えている。
嫌だった、あんなふうに無機質に選別するような人間にはなりたくない、これがメジロのやってきたことならば自分はどうなんだ?
自分はこの家でいろいろなレースをしてきた、時には家族と競争をして勝って勝って勝ってきた…あれ?あの時の従妹は今どこにいる?
ふと思い出してしまう、姉が、妹が、従妹たちが最初は一緒に走っていた愛する彼女たちは今どこにいる?
そう考えた瞬間、すべてが崩れ落ちていくように感じた。自分が走ってきた輝かしいレースの裏にある、芝の裏に見える、赤い血が自分を狂わせた。
練習に身が入らなくなった、レースに身が入らなくなった、あの世界に憧れが持てなくなった、もう誤魔化せなかった。
だからどうにかしようとして、失敗して、せめて同じようにはなりたくなくて足を洗ったのだ。
もう昔の話であるのだろう。大願を成したメジロ家、生まれ変わったメジロ家、確かに素晴らしい我が家に戻ったのかもしれない。
先代当主が失脚し、今代当主が全権を担い、以前とは違う輝きが戻ってきたとみんなは言う。
でも、でもだ、メジロのウマ娘たちの血と献身の果てに得たその名誉、それに何の意味がある?
メジロ家を出てから、自分はより厳しい世間の中に飛び込んで生きることの厳しさを知った。
高松宮杯を制して手に入れたGⅠウマ娘としての称号はメジロ家での自分の発言力の足しにはならなかった。
レースの世界から世間に出てみればなおの事だ、称号も名誉も認められたが、それだけでは金にはならない。
レースの世界に関わったままならば十分なネームバリューがあっただろう、仕事も引く手数多だっただろう。
だがレースの世界から身を引き、距離を置きたかった自分はそれを利用することは叶わない。メジロ家という名家の箱入り娘が、得意な技を放棄してできる仕事なんてたかが知れていた。
それだってうまくいかない、話が合わない、勝手に妬まれて嫌がらせ、仕事が長く続かない。
本当に、運よく瀬名酒造が社員募集しているチラシを見つけていなければ今頃どうなっていたことか…
「…まだ夜は冷える、中に入れよ。冷やすと体に良くない」
「頭を冷やしたいの」
「3度目だ、風邪引くぞ」
「ホント、嫌になっちゃいそうよ。いつかこの子にも、私は何か―――」
「そうはならない、お前はそんな女じゃないだろ」
断固とした否定の声にモンスニーの震えた声がかき消され、その声の力強さにモンスニーは咄嗟に振り返った。
瞬間、顔面に液体が投げつけられるように降りかかってきてむせ返った。水だ、それも冷蔵庫で徹底的に冷やした氷水。
「頭冷えたか?なら風呂行ってこい、お前が悩んだところであいつのことはあいつが決めることだ」
冷たくて染みる両目から水を拭って顔を上げると、そこにいるのは空のショットグラスを手にした瀬名敏則だ。じっとこちらを見据えているのは見慣れた夫であった。
ただそこにいるのは瀬名酒造の跡取り息子としての彼ではなく芦名の走り屋、自分が惚れた男の顔だった。
「何を思い出したのかは聞かねぇが、考えすぎだって言わせてもらうぜ」
「でも…」
「俺が惚れたお前はそんな女じゃない、お前はそんな風にはならない。もし間違えそうならぶっ叩いて、ボコボコにしてでも止めてやる。
言っとくが、俺はやると言ったら本気でやるぜ?」
拳を握り締めてにやりと笑う彼には、今の時代には不釣り合いな頑固さと頼りがいがあった。その力強さにモンスニーは惚れたのだ。
◆◆◆◆◆◆
群馬県立芦名高校の放課後は前前世と全く変わらない。帰る奴は帰る、部活する奴は部活、暇な奴らは校内で遊んだり宿題したりと代わり映えもしない。
入学当初はあまりに懐かしくも思っていたが、今となってはただ噛み締めるように毎日を過ごして心に刻むだけ。
前前世で学校生活が何たるか、どれだけ幸福か身をもって知ったからな。退屈な日々だって十分いい思い出になるって。
いつもなら帰宅部の俺はさっさと小町達と帰るのが日課だ、いつもならな。だが今日に限っては、帰る奴はいやしない。
「何黄昏てんのよ、相変わらず老けた面しちゃってさ」
「こう見えてお爺さんなもんでな」
同じクラスの小町とのこんなやり取りもいつもの事、実際精神年齢的にはもう爺なんだよな、馬を挟んで人生二回目にしてやっとだけど。
「タービン…ま、いつも通りならそれでいっか。あんたどうすんの?」
「何がだよ?」
まるで学園祭みたいな喧騒に包まれている教室の一角、通学鞄に荷物を押し込む俺に小町が話しかけてくる。
俺としてはさっさと終わらせて帰りたい、今日はターボが友達連れて家に泊まりに来てるんだ。
「明日の夜、こんな騒ぎになっちゃってるしやめる?」
「レッドサンズが動き始めてんだぞ、気は抜けねぇ」
最近、赤城レッドサンズがついに動き出した。まだ本格的にやってきちゃいないが、そこそこなチームがいるコースにちょっかい出してはレコードを塗りつぶしてる。
まずは小手調べってわけだ、軽く暴れて話が広まったところで有名どころに仕掛ける算段だろうよ。
「碓井か、妙義か、芦名か、どこが最初に狙われても不思議じゃない」
「秋名でしくじったりして?」
「芦名の前哨戦としてか、ありうるな。でも目を付けられたとして池谷先輩たちに勝ち目があると思うか?」
「ないね」
秋名の峠で実力があると言えば、池谷先輩の秋名スピードスターズ。でも赤城レッドサンズ相手じゃまるで歯が立たないだろうな。
スピードスターズはレッドサンズみたいなガチじゃない、俺と同じで車で峠を攻めるのが好きなエンジョイ勢が集まってるグループだから根本的に違う。
赤城レッドサンズの本気ぶりは、いわばトレセン学園生徒がレースに挑むのと同じレベルのガチだ。グループ全体を統括して、サポートチームまで作って挑む徹底ぶり、そもそもどこにそんな金があるんだってレベルで組織化されてやがる。
それこそ文太さんあたりの古株が出張らないと地元にゃ勝ち目ないだろう。文太さんなら高橋兄弟のどっちが出てきてもぶっちぎるだろうが…あの人はそうそう動かないからな。
前に芦名でやってもらったときだって、親父が頼んでくれたから一回だけやってくれたってだけだし。
まったく、これからって時にどーして彼女たちはこんな群馬のド田舎に足伸ばしてくるんだか…
「週末もきっちりやるぞ、ターボにもそう言ってあるしな」
「ターボちゃんも久々だねぇ、中央GⅡクラスの実力をどこまで発揮できるか楽しみだ」
「かっちり迎撃して負けんなら納得いくが、サボって負けましたなんてターボに怒られちまうよ。詰められるならきっちり詰めて挑む。
あいつ等だってそれは同じだろうに…皐月の次はダービーなんだからそっちに集中しろっての、負けても知らんぞ」
「珍し、あんたの口からダービーなんて単語が出てくるなんてね」
「そりゃ毎年この時期だとテレビで特集組むじゃん、覚えるわ」
この世界、ほんと競馬…もといウマ娘レースがお茶の間に浸透してっからな。とりま、厄介ごとはさっさと始末するに限る。
通学バックに荷物を詰めて、向かう場所は職員室、その奥にある応接間、この大騒ぎの元凶がいる部屋だ。
職員室前の廊下の端で酷く不機嫌にしている見慣れた一行を見つけた。芦名高校の猫渕生徒会長率いる生徒会とテューダー達。
ちなみに生徒会長は普通に男である…誰に説明してんだ俺?
「どうしたんだよ、生徒会長。あいつ等なんかしでかしたか?まさかブチさん襲撃?」
「お前、親父の事なんだと思ってんだ…」
ちなみに生徒会長の家は、瀬名家もお得意様の機械修理屋『猫渕機械修理工場』で車の修理と改良だけでなく文字通りできることは何でもやる修理屋さんだ。
ブチさんはその社長で工場長、昔ながらの親父さん、普段は厳しいけど優しい人なだけに怒らせると一転して喧嘩っ早くなる。
昔は親父と肩を並べる走り屋だったが、その性格で一度火が付くととにかく車を破損させるからゾンビシルビアなんて呼ばれてたらしい。
勝つには勝つが走ってるのが不思議なくらい車はベッコベコ、どう見ても廃車確定なのに本人無傷。なぜか道路も損傷は軽微。
で、工場に持ち込めばボロボロなのは外装のみで車のシャーシ自体も無傷だからボディを付け替えてすぐ復帰、呆れた復活ぶりだったそうだ。
「動くだけで事をでかくする天才だな、世間の評価と現実はなかなか皮肉なもんだ。トレセン学園ってのは物騒なもんだな」
「えらくイラついてるな」
「あれを見ろ、葦名古武術を修めてるお前達ならわかるだろ」
生徒会長が顎で示す先、廊下の向こうの応接間の前。覗き込むとそこにはまるで映画見たいなゴリゴリのマッチョな黒服が二人、職員室に入るドアを手前で塞いでいる。
うん、見るからに普通の警備員じゃない。体つきがサバゲの知り合いにそっくりでいかめしいのにすごい自然体で威圧感を抑え込んでる。
アメリカ旅行に行ったとき無駄に鍛えた観察眼がビンビン反応してやがるぜ…懐中電灯は効きそうにねぇな。
「着ぶくれしてる上に丸腰じゃねぇってか?随分と気合入ってんな」
「うわぁ、厳重な警備…あれSPじゃん、しかも見るからに経験者。芦名高校なんだと思ってんのよ?」
同じように小町ものぞき込んですぐに見破る、さすが葦名戦忍術・狼の型の使い手だ。
サバゲでよく相手してもらう陸自レンジャーやアメリカ海兵隊の連中が見たら感心する完成度。
じっとしてるだけで身のこなしが素人目でも半端じゃないし、グラサン越しに感じる視線にも隙がねぇ、ガードマンのプロだ。
「まったくもってその通りだ、ここはただの学び舎だぞ。それをあんな物騒な連中を引き連れて…理由は分かるが、少し考えてもらいたい」
「一応お忍びって聞いてたんだが…」
「全部ひっくるめてお忍びってことか」
小町もうまいこと言いやがる、なるほどそれならお忍びだな。確かに学校の周りにマスコミはいねぇし。
今回のことに限れば全校生徒に他言無用のお触れが学校放送から出てる、少なくとも2~3日は漏れない。
あの連中を騒ぎも起こさず送り込む辺り相当やり手なんだろうなぁ…いや目玉がシンボリルドルフ達だから比較的隙をつきやすいんだろうけども。
「トレセン学園ってやつは何でもかんでも大騒ぎにしちまう性質でもあんのかね?群馬トレセンでも大騒ぎしてたぜ?」
「さすが世界を股にかけた競争ウマ娘の国立教育機関、いろいろぶっ飛んでやがる。
あのシンボリルドルフの発言も納得だな、デカい学園の中で純粋培養じゃああもなるか」
「なんだ、生徒会長も聞いてたのか?屋上にいたのは見かけなかったが?」
「あの話を校内で知らない奴はいない。だが納得ができたよ」
「なんの?」
「中央トレセンからの転校生が有名私立か地方トレセンでしかうまくいかない理由、NAUが躍起になるわけだ」
なるほど、生徒の事を考えてる生徒会長らしい疑問だ。うちに来たあの二人に俺を誘導したのも会長だったもんな。
確かに中央トレセン学園生と比べて、地方トレセンをやめた生徒が一般校に馴染めないってのはあまり聞かねぇ。
詳しく知ってるわけじゃないし考えたこともあんまりないが…まぁ、やっぱ俗世との距離感と環境がまるで違うんだろうな。
群馬トレセンを例に挙げればうちと距離が近いし馴染みがあるって所か、俺が群馬トレセンに行くのと同じように向こうのウマ娘が授業を受けに来るときもある。
そういう時は大体俺に仕事振ってくるのが目の前のこの生徒会長…ぐぬぬ…ウマ娘の相手はウマ娘ってのは理解できるが、なんというか、納得いかん。
中央シリーズを運営する日本の代表的なウマ娘レース専門組織である特殊法人『URA』直轄の日本ウマ娘トレーニングセンター学園。
ローカルシリーズを手掛ける特殊法人『NAU(地方ウマ娘全国協会)』の運営する地方トレセン学園。
一体どこにどこで差ができるんだか…やってることの規模は違えどたいして違いないはずなんだがな?
というか、前世と同じく地方と中央は別組織の運営だからつながりはあっても立場は対等なんだよね。 売り上げと人気はあっちが上だが。
「お前、スカウトを受ける気か?」
「あいつらは謝りに来てるだけのはずじゃ?」
「建前に決まってるだろ、だれも信じてない」
だろうな、そもそも謝罪なら前にあのちっこい理事長が方々回ってたからそれで手打ちでいいはずだ。
わざわざ話がでかくなるようなことする必要がねぇ、つまりほかの目的があってしかるべきってわけだ。
話がこんがらがりそうだがその価値はあるって思われてるわけか?まったく、買いかぶりも良いところだ。
「お前の足なら十分やれると思うがね、活躍すれば将来安泰だぞ?」
「俺がそういうの好みじゃないのは知ってるだろ、アイドルみたいなのは向かん」
そもそも俺は趣味だから走ってるだけだ、ツインターボたちとはスタンスがまるで違う。
好きだから走る、楽しいから走る、やりたいことを好きな時にやる、俺のはただ本気で遊んでるだけだ。
仕事として走るあいつ等とは違う、余計なの背負わされたくねーわ。ファンの期待なんて勝手に背負わされても困るわ。
「だろうな、お前のような隠れ不良にああいう洒落たところは似合わん。行ってこい、さっさと追っ払ってくれ」
「言われんでもやるさ、俺の蒔いた種でもある」
「うまく断ってくれよ、うちもお得意さんを取られるのは御免だ」
こんな大ごとになっちまうとはな、こんなことならディープのことは遠目で見て終わりにすべきだったかもしれねぇ。
いや、前世と同じようなことをツバキにやられちまったから運命みたいなもんなのか?だとしたらせめてそのあとのことも同じにしてほしかったもんだぜ。
前はこんな風になる前に中央競馬は全部ひっくるめて隠蔽してくれたってのにURAは何やってやがる?
大事なディープインパクトが振り回されちゃってんぞ、もっとしっかりバックアップしてくれ。
そうすりゃ俺だって後腐れなく千切りまくれるのに。
「失礼、ここから先はお通しできません」
「ボスから聞いてないのか?俺だよ、シマカゼタービン」
あえて少し強気に出る、そうでもしないとつり合いが取れない。こっちは何も悪いことしてないのにこうされちゃうとな。
「身分証を拝見します」
「学生証で?」
「構いません」
「あいよ」
通学バックの中のパスケースから学生証を出して渡す。目の前で見るとやっぱりこいつら只者じゃねぇ、鍛え方が半端じゃない上に中に防弾チョッキ着こんでやがる。
しかも防弾チョッキは巷の警備員が使ってるようなちゃちな奴じゃない、ちらりと胸元のロゴが見えたが軍用ライフル弾も受け止める最新型だ。7.62ミリクラスまでなら止められるって聞いたぞ。
外さないサングラスもおそらく戦闘用のコンバットグラスを兼ねた代物、銃社会のアメリカの警察も目を見開く恐ろしく金のかかったセキュリティだ。
少なくとも前にお世話になった保安官事務所が羨む重装備、URAもなかなか敵が多いと見た。
腰の僅かな膨らみもおそらく警棒か何かとみた…訂正、これたぶんテーザー銃、マジかよ。
ホルスターをちらっと見せてきやがった。お前らホントに何に警戒してきてやがんだよ?ドバイの王族でも来てるってのか?
「ありがとうございます、少々お待ちください」
「こちらガード02、VIPが到着しました…了解」
「どうぞ中へ…失礼、関係者以外お通しできません」
俺の後ろに続いて小町が入ろうとしたら止められる、当然か。
「そいつは俺の連れだ、通してやってくれ」
「関係者以外はお通しできません」
「そういうなよ、ここはただの高校だぜ?こいつは俺のダチでただの生徒、付き添いくらい別にいいだろ?」
「お通しすることはできません」
おぉ、なんとも取り付く島もない真面目な仕事ぶり。感心しちゃうぜ。これぞガードマンだな。
セキュリティは完璧ってことね、まったく住む世界が違うってやっぱスゲーわ。
「なによ、このビビりの唐変木。タービン、待ってるからちゃっちゃと済ませてきな」
そういいなさんなコマツちゃん、まじめにやってるだけなんだから。
「わーった、さっさと済ませてくる…悪いな無理言っちゃって、連れが変なこと言ってすまん」
「お気になさらず」
後ろのドアが閉められる、今は無人の職員室を抜けて、応接間に続くもう一人黒服がいるドアに足早に向かう。
黒服が開けてくれたドアを抜けると、一瞬で空気が切り替わったのを感じだ。
全く、好きじゃない雰囲気だ。堅苦しくて息が詰まる。
「お待たせしてしまい申し訳ありません、少々ホームルームが長引きまして」
意識を切り替え、軽く謝罪を口にしながら応接間でスタンバってた連中を見た。シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクト。
そしてその3人のトレーナー、東条ハナさん。うん…なんでこんな面倒なことになっちゃったんだろ?
あとがき
それはお前が後先考えずにいらん結果を出すからである。製作者もここまで面倒事になるとは思わなんだ。次は顔つき合わせてお断り…にしたいなぁ。
ちなみに芦名高校の顔ぶれがなんか戦い慣れしてる感が出てるが仕様です、もう無理こいつら勝手に強くなりやがる。
先代メジロ当主は悪い奴と思われますが、実際は善玉ではないが別に悪玉でもない、どっちに成り切れなかった真面目なウマ娘です。
憧れが止められないロクデナシとか一本筋があればもっとガンギマリできただろうけどそうはならなかった。
メジロの悲願を達成するために全力で挑み、どんどん擦り切れて信用も失って、それでも頑張り続けた悲しい女性。
駒のように見なきゃやってられないし、それならちゃんと活躍できる世界に行かせたいし、無理させて死なれたら最悪。
自分にできる最大限の事をやってただけですね、だから今代当主とぶつかったら全部失うまで逃げずに立ち塞がって弁慶のごとく立ち往生した立派な人ではあります。
シマカゼタービンの秘密・酒とレースが目的で海外渡航経験あり。英語はそこそこ得意、やるときはやる。