気儘に生きた転生馬物語   作:イナダ大根

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いつも多くの誤字報告と感想ありがとうございます。
今回はスカウト騒動がひと段落着いたので日常会です。ちょっとしたコラボはありますが特に作品に関わってくることはないです。





第二十五話

 

 

 

バムバムバム、と右手でバスケットボールを弾ませながら機を伺う。

自軍ゴールポスト側のコートの片隅に追いやられ孤立無援、クラスメートはガタイのいい相手チームの男子に阻まれ向こう側。

向こうは4人、こっちは1人、おまけに今日も糞暑い。

夏、正確には7月、ついにこの季節が来ましたファッキンジャパニーズサマー。ウマ娘にはなかなか辛い季節です事よ。

もしトレセン学園生なら夏合宿みたいな感じで海とかいろいろ行くらしいが、こちらは普通の高校生活3年生、勝手知ったる学校で夏休み前の気の抜けたラストスパート真っ最中。

 

期末試験も終わったからいろいろ気楽なんだが…やっぱり体育の授業だけはどうやってもきついのですわ!!

体育館内とはいえこの炎天下、窓全開で扇風機がん回しにしてもこの蒸し風呂状態。

しかもでクラス対抗バスケットボール2時限ぶっ続けときたらもうね…地獄!!しかもホント、こいつら容赦ないし!

 

「ちっ…少しくらい手加減しやがれ、3組バスケ部ひとまとめとか大人げねぇぞ」

 

「悪いが容赦はしない、俺たちにもプライドがあるんでな」

 

「バスケ部が帰宅部にバスケで負けてちゃ恥ってもんよ」

 

「舐めてかかってちゃそれこそ赤っ恥なんでな、授業でも本気で狩らせてもらう」

 

威勢は良いけど普通に弱い者いじめだかんね。特にリーダーのデカブツ、お前はエースのスタメンで全国クラスのバケモンだろがい!!

くっそー、こいつらプロになるためにガチでやってる連中だから本当に強いんだぞ。

いくらウマ娘スペックとはいえさすがに分が悪い、まぁそれで諦めるほど俺も往生際がいいわけじゃねぇけどな。

じりじりとすり足で立ち位置を調整しつつ、踏み込みのフェイントを作って隙を伺いながら周囲を一瞥する。

ブロックはいまだに分厚い、バスケ部の後ろも3組の運動部連中が固めて味方の行動を逐一けん制してやがる。

加減してやれよ、このチーム俺以外みんなスポーツはあまりやってないインドア系、吹奏楽とかそういうのだぞ。

 

「!」

 

「くっ!?」

 

様子を伺いながら立ち位置を変えてたら突然デカブツが低姿勢で突っ込んできやがった。んなろぅ!こいつ、俺の下準備に感づきやがった。

もう少し立ち位置変えてそれとなく相手の配置を誘導しようと思ったのによぉ!

 

「手加減しやがれマジでよぉ!!」

 

「俺たちすら誤魔化しかける奴に手加減できるか!」

 

咄嗟にそれを躱して、デカブツの間をすり抜けて前に出る。すると俺の前に二人バスケ部がブロックに出てきた。

1人は一瞬ブレーキングしてタイミングを外して躱し、修正してきたもう1人はワンステップ入れて体を回転させてスピンしつつ避けて躱す。

これで3人、しかし3組のバスケ部はもう1人…ん、見つからないだと!?見失った、ならばこのまま行くが良し。

このまま突っ込んで一気に前線を押し上げてチームを再編して立て直―――気配!胸の下だと!?

 

「しまった!!」

 

咄嗟にボールを掴もうとするが、その手が空を切る。いつの間にかボールは奪われていて、俺の胸の下にある死角から小柄な男子が俊敏な動きで俺の脇をすり抜けた。

こいつ、俺の視界の死角の中に隠れてやがった…なんて空間把握能力だ、しかも音も紛れさせてがやったな!? 忍者は小町とダイオーで十分だぞ!!

 

「下への視界の狭さが命取りだぜ、タービン!!」

 

「やれ!園原!!」

 

「させるかよ!!」

 

踵を返してゴールに向かう園原の後ろを負う、追いかけないわけがないのは向こうも承知の上なわけで…邪魔だぞデカブツ!!

 

「どけやゴリラ!!」

 

「させん!桝、小面原!!仕掛けるぞ!!」

 

「合点!!」「おうさ!!」

 

「ジェットストリームアタックだと!?」

 

この場面でまさか、ブロックしつつ反則ギリギリを攻めに掛かって来るなんてグレーゾーンを!?

 

「ぬぅ!!」

 

でかい体を広げたゴリラを躱し、その後ろの桝をよけ、その影を利用して死角からブロックをかけてきた小面原をギリギリ抜ける。

それを見てゴリラが、黒星が不敵に笑った。

 

「勝ったぞ」

 

ズンッ!!とゴールポストのほうから重苦しいボールの跳ねる音。そして金属が上げる悲鳴。

見ると、ゴールポストに俺からボールを奪った園原がぶら下がっていて足元でバスケットボールがバンバン勢いよく跳ねていた。

おいおいおいおいダンクかよ、ナイスシュート。

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

「暑い」

 

「そうね…」

 

結局試合はそのあと膠着、2-0で俺たちの負けになりました。まぁそれで何がどうってわけじゃないけど、やっぱ悔しいよね。

今はチーム交替でコマツのチームが2組の連中相手にやっているのを見学中。コマツの野郎、ちょこまかちょこまかしてて動き出すとなかなか捕まらない。

 

「ぬぅ…こりゃコマツに何言われるか分かんねぇな、負けたし」

 

「いや、むしろバスケ部相手に2点しか取られてないとか奇跡でしょ。うちはお前以外運動神経いいのいないし」

 

「みんなBチームに集まっちまったとはいえお前だってそれなりに動けんだろうが、散々先生に絞られてんだろ?」

 

「バスケ部とゲーム制作部を一緒にしないでくださいません?あんなガチムチ類人猿どもと張り合える方がおかしいっすよ」

 

「お前らダンスで鍛え上げてんじゃん、知ってんだぞ」

 

「なんのことやら」

 

「プールで晒しといて誤魔化せると思うなぽっちゃりマッチョ」

 

そっぽを向く丸顔眼鏡な男子クラスメートに呆れた視線を送りながら体操服の胸元をパタパタさせながらため息。

いやね、本当もうね、暑いのよ。さっきまで滅茶苦茶走り回ってたからもう余計にさ。

女になって幾星霜、何度経験してもこの蒸し暑さには辟易する。ただでさえ汗っかきになってるというのに、おかげで体操服がぴっちりしてるみたいに張り付くんだ。

信じられるか?これ、胸のせいでワンサイズデカいのなんだぜ?それなのにむしろ小さく見えるくらいなんよ。

おかげで谷間が蒸れる、それはもう恐ろしいレベルで汗が溜まる。エロいとかそんなもん飛び越すレベルでな。

 

「ま、暑いけど平和になったからいいんじゃね?」

 

「お前までそれ言うか、せっかくのチャンスだったじゃん。お前らしいけど」

 

ま、平和になったっていうより平和に戻ったというほうが正しいかね。トレセン学園からのスカウトは正式に断って、全てが収まるまでひと月くらいかかったもんな。

断ったら断ったでまた変な連中が生き生きしだしたんで学校は殺気立つし、生徒が追っかけ回されるしで大変だったぜ。

ま、最後はブチ切れた群馬県が本気出して一番やらかした週刊誌の出版社を見せしめにぶっ潰して収まったけどね。

確か前世でもぼろ糞にされてなかったっけ?いやぁ叩いたら出るわ出るわ黒い埃…最後は群馬県警スペツナズまで突っ込んで大手柄だ。

雅孝さんとオニカゲさんが呆れてたよ、どんだけやればこうなるんだとかなんとか、もう出るわ出るわ。

でしかもそれ見つかるたんびに発狂してもう同じ人類とは思えない暴れっぷりしてたらしい。

さすがに大手週刊誌と言えど地方自治体が共倒れ覚悟で突っ込んできたら轢き殺されるしかないわな、お得意の言論のなんちゃらも先に手を出したのがあっちなのは周知の事実だから呆れられただけだったし。

 

「俺はトレセンなんかよりここのほうが好きだね。だってあそこ女子校だぜ?俺には向かんわ」

 

トレセン学園の進路外してた理由にはそれもあんだよな。なんというか、いくら今は女でもあの女子校特有の空気感が合わなかった。

ウマ娘のレース専門校とはいえねぇ…俺としては女子校って空気がいささか違和感強いわけで、少し滞在とかならまだしもしばらくそこに住むとかたぶん無理。

慣れ云々じゃなくて根本的にダメっぽいんだよなこれが、ストレスに強い自信はあんだけど特定の条件が重なると途端にダメになるっぽいんだわ。

長期海外旅行とか紛争地帯とかなら余裕なんだけど…不思議なもんよね。

 

「それにトレセン学園って学歴的にはあんまりメリットがない」

 

「あー…就職率的にはトップ層だけどどえらい偏りしてるってこの前テレビで言ってたな」

 

あ、それ俺も見た。学校教育に関する討論会でトレセン学園が例になって話題になったんだよな。

学校が生徒を使ってお金儲けしてるのも現代社会的にどうなのか?とか伝統は否定しないしあるのが当たり前だけど現代教育的にちょっと考えるべきでは?とか。

まぁ中学の頃からレースの世界に飛び込んですごい時は世界にも飛び出していろいろやるのがトレセン学園なわけで、もうあそこは完全な別世界。

そこにばっちり順応して堪能して浸ってりゃ、いきなり娑婆に放り出されたら悲惨なことになるわな…というかそうなりかけてた奴二人知ってるし。

就職率に関する中央の印象は学校教育者の中では専門学校の括りになってて、そこらへんは地方トレセンのほうが格上だって言ってたな。

就職率は良いけど業界がレース系か舞台系とか、あるいは専門職に偏りまくってて一般業種とか別業種になると途端にランクが落ちるとかなんとか。

一般企業だとむしろトレセン学園卒業生って厳しめ判定するらしいし、6年間か下手すりゃそれ以上学園生活だから一般常識がやばい奴もいるそうな。

対する地方トレセンはコンスタントな高進学率、高就職率を維持してて一般企業からの受けもいい。

運営のNAUがそこらへんは軽視しないで学園として教育と生徒指導にきっちりテコ入れして重視してたからな。

 

「会社を継ぐとしたらちょっと方向性違うってか」

 

「いや、それは関係ないな。そもそも跡継ぎは兄貴だ、俺はその下で職人やるんだもん」

 

社長なんて柄じゃありませんことよ、私は前世から一端の酒の匠、せいぜい部長程度がお似合いですわ。

部下の面倒を見るのは別にいいけど社長になんてなったら社員全員の面倒見なきゃならんじゃん、そんなに懐は大きくありません。

 

「おしいよなぁ、中央なら東京じゃん。大都会だぜ」

 

「大都会なんてそれこそお断りじゃねぇか。東京は遊ぶとかならいいけど、生活するには騒がしすぎるんだよ。忙しないというかなんというか…」

 

大都会だけあって良い物はいっぱい売ってるし集まってるから、理由があって少し行くならむしろ好きなんだけどね。用事済ませて買うだけ買ったら即帰りますが。

 

「田舎者には田舎が一番ってか、お前が言うと説得力あんな」

 

「なにより峠がない場所なんて住む気はない」

 

「結局そこかよ、ところでお前女嫌いってわけじゃねぇのよな?」

 

「女が嫌いで女ができると思うか?ほれ」

 

これ見よがしに胸を強調するポーズ、我ながらエロイと思う。なのに隣のあいつは白い視線、容赦ない!

 

「やめーや、誤解される」

 

「なんだよもー、つれないな。一緒に18禁コーナーで悩んだ仲じゃねーか、もうちょっといい反応しろよ」

 

「エロ本コーナーでガチ悩みする姿を見たらそんな気などおきんわ、見つけたこっちの気にもなってみろ」

 

「え、同志発見」

 

「ニヤッと笑って手招きするお前に聞いた俺がバカだった」

 

ほっほっほ、伊達に人生2度目…いやウマ娘だし前世馬だし、まぁいろいろ3周目か。伊達に経験豊富ってわけじゃねぇことよ。

いやはや、本屋の18禁コーナーの暖簾前で迷ってるこいつ見たときはもう初々しくてねぇ。ついついかっこつけちゃったわけよ。

あんなの堂々と入っちまえばどうってことないって、入っちまえばこっちのもんだしな。

 

「そういやこの前の新作、もう読んだのか?お前が好きなヤツの2作目だろ」

 

「まだ途中だよ…芦名高校の美少女ランク1がこれって…ほかの学校の奴が知ったらどうなる事か」

 

「もう3だよ、こうだから3位なんだろうがよ」

 

どこにでもある校内の美少女ランキング、男子学生が勝手にランク付けてる奴だが俺もそれはよく聞いてた。

ちなみに現在の順位1位はテューダーガーデン、2位クイーンベレー。こいつらが入ってくる前は俺がなぜか1位だった、理由は知らん。

この世界の顔面偏差値、ウマ娘っていう美少女因子が仕事してるせいか無駄に良くて前世並みにひどいブスとかまず見ないのにおかしな話だ。

多少丸っこかったり、特徴があっても普通に可愛いレベルだったりするのに。

確か去年なんか美人生徒会長がいいとかいう理由で生徒会に推薦されたっけ。俺なんかが無理なんで辞退したが。

 

「真実ってのはつらいな、巷で評判の走り屋姉御の中身はこんなオヤジか」

 

「別に気取ったり繕ってるわけじゃねぇんだけどな…なんでそんな評判なんだか俺も不思議」

 

「…走ってるときはかっこいいのにな」

 

「なんか言ったか?」

 

「走り屋は最近どうなんだよ、走り屋連中が最近よくやりあってるってほかの学校の奴らが言ってたぞ?」

 

あ、それね。

 

「レッドサンズが方々に喧嘩売ってる、群馬内のコース、全部レッドサンズで塗り替えるってよ」

 

「なんだそりゃ、随分デカく出たじゃねぇの。レッドサンズって赤城のガチじゃん」

 

「この前は秋名にちょっかい出してきたらしいぞ」

 

「お隣かよ、予行演習か」

 

だろうな、もしくはちょっとした威嚇って所か。芦名と秋名は近い分、互いに仲がいい。池谷先輩たちがこっちに来る事もあれば俺もたまにあっちで走ることもある。

秋名の連中は俺たちと一緒で基本的にエンジョイ勢だから実力もほどほどだ、正直レッドサンズ相手には手も足も出ないだろうな。

面白いことにそこに樹と拓海が居合わせたってんだからなかなか持ってる奴らだ、羨ましい。

 

「池谷さんたちじゃ手も足も出ないんじゃねぇか?」

 

「だろうけど逃げたりはしないだろ、先輩たちも走り屋だからプライドも意地もある」

 

きっと負けるとわかっていても最後まで意地だけは通すだろうな、と考えつつ大きく背伸び。

背中を後ろにそらせながらん~っとな、こうやってずっと座ってると背中が固まっちゃっていかんね。

 

「ん?」

 

おや、気付けば横から控えめな視線。ほぅほぅほぅ?

 

「いいんだぜ?男ってのはそんなもんだ。ほれ、特別サービス」

 

少し笑いながら胸元をチラリ、サービスだぜ親友。でもそれを見てそいつはげんなり、さすがだぜ親友。

そうね、そうなるよね、現実はつらいもんだよ。だって俺の谷間汗だくで見るからにひでー状況だもの、見て分かるくらい汗が溜まってるしな。

あっちーぜー、胸元パタパタしてると熱気がどんどん噴出してきやがる…マジで暑いんだよ、手が止まらん。

 

「幻滅させんなや、相変わらず大汗だなお前、その恰好でそれは正直エロくねーわ」

 

「うむ、俺もそう思う」

 

今更ながら、北半球やら南半球やらどう見ても必要ないけど突っ込むために必要な穴とかなんであんなエロい服が生まれたのかわかったわ。

そういや前にテレビで派手に胸開けてるウマ娘がいたな、マカフシギだったっけ?最初はそれってどうなのって思ったけど今は納得。

あの穴って通気のためだったのね、そりゃこんだけ蒸れれば開けたくもなる。蒸れて痛い目見るより多少エロイほうがマシってこった。

今なら恥を忍んで着れそう…着れるか?いやしかし暑いんだし…うーん…似合うんだろうか?そもそも。

 

「それとすまんが、俺の推しはゴールドシップなんだ」

 

そういやそうだった、こいつあのトンデモが好きなヤツだったわ。確かどっかのレースで相方のでかいヤツと組んでライブを漫才にしたとかテレビでやってた気がする。

中央トレセンの中でもトップクラスの奇行と目に余る行動力を持つ問題児って言ってたな、ツバキ曰くレースやってたらこいつらのトンデモエピソードは耳にしないことはないとか。

 

「好きなのはいいけど、距離感は徹底しとけよ」

 

「…うん、それは分かる。見てるだけで十分楽しいもんな」

 

「素直でよろしい」

 

ファンだけあって良くわかってらっしゃるようで、そのままの君でいるといい。

ターボから聞くだけでも相当行動力がヤベーらしいし、仲間も含めてぶっ飛んでるそうな…ってかいろいろやらかしてるらしいな?

ゴールドシップさんの武勇伝はともかく、相方のあのデカいヤツ…何て名前だったっけ? 傾奇者みたいな俺よりでかくて胸のでかいウマ娘も相当な傑物だとかなんとか。

あの前田家の傾奇者、方々に顔が広いから色々聞こえてくるんだが…正直命がいくつあっても足りんぞ、ニコさんが可愛く見えら。

金も地位も名誉もある生ハジケリストとは恐れ入る。まさかジャスタウェイが美少女になるとはあの人も思わなかっただろうが。

傍から見てりゃ面白い連中なんだろうが巻き込まれたらたまったもんじゃねぇだろありゃ、本人スペックがすごいから何とかなってる分シャレにならん。

有名な米軍の爆竜大佐と仲いいんだろ?ギブス捜査官とラング部長にガチマークされてる人物だ、前にちょっと聞いたことがある。

優秀だし職務に忠実で信頼はされてるけど行動力とその方法がやばいという意味だから悪い扱いじゃない、ハジケリスト枠だなあれも。

他も米軍内でも指折りのトンデモ人員といろいろ知り合いらしいとか、国内外のご同類とよくつるんでるとか、ギリギリライン攻めすぎるかアウトでも理由が理由だとか。

まぁターボが一切嫌がらず普通に懐いてて写メ送ってくるくらいだからゴールドシップさんたちは悪い奴らじゃないんだろうけどねぇ…うん、あのペースは付き合いきれん。

 

「そういや、前雑誌でゴールドシップさんが中央トレセンの体操服は結構涼しいとか言ってたっけな。やっぱ素材から違うんかね?」

 

「トレセンの?まぁ違うんじゃねーの、あそこ走りまくるんだしそりゃ汗だくだろうさ」

 

手触りはスゲー良かったの覚えてるぞ、いいもん使ってるよなぁホント。

 

「お前それ使ったら?ターボちゃんに頼めば向こうの購買で買えるんじゃね?うちは先生にあらかじめお願いすりゃ一発だし」

 

「はっはっはー…却下、走れば稼げる天下のトレセン学生と一般高校生のお財布を一緒にするんじゃないよ」

 

言っとくけどお財布の厚さもターボたちは破格だぞ、伊達に重賞を走る実力者やってねーわ。レースだけじゃなくて雑誌取材とか公演やらでめっちゃ稼いでるんだよあいつら。

伊達に現代社会の疑問の種になってるだけあって稼ぐ奴はとことん稼げるからなぁあの業界。

そんな奴らが日常的に使う体操服も素材と作りからすべて違う、普通の体操服とは比べ物にならん高級品だわ。

そりゃ着心地も使い勝手もお値段並みに良いんだろうけどさ、一般人にはまず手が届きません。

 

「買い物と言えば、帰りにコマツと供養衆に行くんだけどお前もくるか?レッドが連絡してきた、良い物が入ったらしい」

 

「また供養衆か、東京のショップ行っといて結局そこじゃねぇか。そんなもんに金使ってっから買えねぇんだろ」

 

「供養衆は安いし品ぞろえがいいからな、他のショップの半額くらいで実物装備買えるなんて日本じゃ滅多にねぇわ」

 

いやはや、前世では見つけらんなかったけどいいショップ見つけたもんだよねぇ。まさか芦名にあんなショップがあるとは思わなんだ。

おかげで俺のサバゲ用装備はBDUからアーマーに至るまで全て実物、普通に買ったら目が飛び出る金額になるところを高いけど納得できる値段で手に入ってウハウハだぜ。

全部中古品だからがっつり使い込むのに抵抗もあまり感じないしな、むしろ増える傷がさらに味な感じになるし。前前世じゃ高くて手に入れても使い辛かったもんよ。

まぁちょっと曰く付きなところはあるけど本業は特殊清掃業だからね、仕方ない。芦名の店のビルも、前のオーナーが自殺したのを後始末して引き取ったっていう話だし。

 

「まともな奴なら怖くて近寄らんだろ、あの幽霊ビルで長続きしてんのが奇跡だぞあの店」

 

まぁ、あのビルは入る店が次々不幸になったり経営者が不審死したりする曰く付きだったもんな。

供養衆はそういうの慣れっこだから問題ないらしいが。

 

「それよりジャージだろジャージ、あれならジャージのジッパー、つっかえないんじゃね?」

 

「ぬっ…」

 

悩ましいこと言ってくれやがる。確かに胸のせいで適正サイズのジャージだと胸でジッパーが閉まらんから常に一つ大きめ着てるからな。

一年の時なんかサイズ間違えられて一時期は胸が収まんない状態で体育させられた。でも前開けっぱなしじゃ寒いし、中途半端にでも胸の下まで閉めなきゃやってられんのよ。

だから否応なく乗っかるし目立つしで視線がね、男も女も見てきやがるときたもんだ…まぁ支えがある分楽だったから替えが来たときつい悩んだのは誤算だったが。

 

「なら買ってくれるかい?ほれ、今なら大サービスだぞ♡」

 

それとなくすり寄って体を密着させる、そしてできる限り猫なで声。

 

「エロさもへったくれもねぇな、近づいてくんな暑苦しい」

 

「いいのかいそんなんで?男なら好きだろ、本物がさ」

 

「本物ならなおさら嫌だわ、離れろや汗くせー」

 

だよね、汚いもんな。良い匂いとかそんなの言ってられんぞ、ガチで汗だくだからな今の俺。

ついでに体温もまだ高いウマ娘火力発電所だぁ…うん、実に迷惑だよねぇ!!

 

「ちょっとそこの男子、シマちゃんに何エロイことしてんのよー?」

 

「そんなことしてねーっつーの、こいつが許すようなタマかよ」

 

「ほんとかなー?」

 

そういいつつ親友の方を見て首を傾げる。

 

「いやなんでお前が首傾げんねん」

 

「なんとなく」

 

「さいでっか」

 

「ま、そーだよねー、シマちゃんも変なことすんなよー…おい顔背けんな」

 

シランナ。

 

 

 

 






あとがき
というわけで7月突入、何気ない日常の話。主人公以外全部モブだぜ?Dのほうは原作に突入、序盤も序盤。
ちなみにジャージが閉まり切らなかったときは珍しく赤面していた模様。

今回少しだけコラボとして名前は伏せつつもハーメルン屈指のハジケリストウマ娘を出演させていただきました。
ちょっと変わった形になってしまいましたが、あくまで向こうとこっちでは違う世界という事で。
『ハジケリスト世代だろ!!』の作者・零課さん、この度は本当にありがとうございました。
そして申し訳ない、やはり作中のこいつだとこんな感想になっちまうんです。こいつも大概だけど方向性が違うので。

ちなみにこの世界だと『トレセン学園があるのは当たり前だしレースも当たり前だけど学園が生徒を使って金稼ぎしてるのって現代社会的にどうなの?』と関係者内で話になってる段階だったりします。
伝統を否定する気もないし需要はあるのだけど、この形態はちょっと時代にそぐわないのでは?と穏便に話題が上がってる感じですね。


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